転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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閑話3 -白黒の破壊者-

 

 

 

 

 

 

 

 

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 文章を読む。

 

『はじめまして。あなたになら、私がこれから送るであろう、刺激的で、狂気的で、なおかつ甘美的な日々について、なにもかもお話しできそうです。どうかわたしのために、大きな心の支え、良き友人となってくださいね』

 

 ……私は、彼女が腹の中に抱えていた狂気に、気づくことはなかった。

 

 ただ、彼女を生徒の一人として扱ってきた。

 

 私は彼女を調べ、無害であると報告した。

 

 私は指示に従っただけだ。

 

 私自身、何かされたわけじゃない。

 

 でも……私は、彼女に運命を狂わされた人々について、追いかけることにした。

 

 会えなくても、足取りを掴むだけでも…

 

 そう思いながら…

 

 自己満足と言われようが構わない。自分が見過ごしたものが、どんな物だったのか…

 

 一生忘れないよう、心に刻み込むんだ。

 

 

 

 本を開く。

 

 文章を読む。

 

『今、思い返してみると、アマリイーグリーナとサトノモズレー、彼女らを手に入れたことは大きな利益でした。彼女らの助力なくして、ファン感謝祭の実行委員の仕事は果たせなかったでしょう、レースを通じて養われた彼女らのマネジメント力は、そのまま、イベント運営にも活かされたのです。そして、この仕事の成功は、彼女らにさらなる自信をもたらすことでしょう、そうなることで、私の刃は、さらに研ぎ澄まされていく……そう考えると、心が躍って、仕方がありません』

 

 

 

 

「二人はこちらにいます」

「ありがとうございます、アルダンさん」

「いえいえ、親友の頼みですから」

 

 …アルダンさんは、微笑んでいる。でも、きっと…あの本が出た当初は、大変だっただろう。

 

 アマリイーグリーナさんは、もともと、アルダンさんのサポートをしていた。それはつまり、メジロ家お抱えということだ。だけど、彼女は銀翼のウマ娘の一員となり、そして、今回の事が起こった。

 

 当然、メジロ家は彼女を追い出そうとした。だが、それを阻止したのが、アルダンさんだった。

 

 “私に責任があります、リナは被害者です”

 

 その立場を貫き続け、当主をはじめとした一族の人々を説得し、アルダンさんはアマリイーグリーナさんを守った。そして、メジロ家と親しい関係だったサトノ家から、裏切り者として爪弾きにされたサトノモズレーさんも、自らの使用人とすることで保護した。

 

 …辛かったに、違いない。

 

「…庶務長さん!」

「…お、お久しぶりです」

「お久しぶりです、アマリイーグリーナさん、サトノモズレーさん…今日は、よろしくお願いします」

 

 よし、始めよう。

 

「……では、お二人にお聞きします。本が出た当初は…どのような気持ちだったのですか?」

「……信じられ…ませんでした。私は…私は……先輩のために、尽くしてきたのに…それが、あんな…」

「私は真っ先に、トライブ先輩に連絡を入れなければと思いました。あの一件での、一番の被害者は…トライブ先輩です………私なんかよりも、ずっとずっと、苦しむ…そう、一番に思いました」

 

 …アマリイーグリーナさんの反応は、私と同じだ。私も信じられなかった。サトノモズレーさんがそう思ったのは、恐らく、オンワードトライブさんの勝負服のデザインに、絡んでいたからだろう。それに、彼女自身は、サトノ家との関係を、あまり重視していなかったから。

 

「……分かりました、続けてください」

「…私は、クロ先輩に電話して、問いただそうと思ったのです。ですが、先輩との連絡はつきませんでした。皆、皆そうでした…白子トレーナーでさえも、先輩との連絡を、取ることはできなかったのです。ですので、その時……ようやく、実感致しました。先輩は“そのつもりで動いていた”と…」

 

 日記を読むに、彼女の行動は、恐ろしいほどに計画的だった。…誰にも気づかせることが、無いように。

 

「では、オンワードトライブさんの方は?」

「…トライブ先輩は、ひどく落ち込んでいました…ただ、一つ、気になることを言っておりました。“あの娘が異教徒だったから…?”って」

 

 

 オンワードトライブさん、彼女がどうなったのかは、たづなさんに聞かせてもらった。彼女は“隠れ蓑とされた悲劇のウマ娘”として、周囲に同情され、攻撃などはされていない。でも、彼女自身のショックは大きくて、沈んだ日々を送っているそうだ。

 

 でも、異教徒とは…

 

「異教徒…ですか?」

「…はい、私も気になったので、そこを聞かせてもらったんです…どうやら、先輩、三女神を信仰するウマ娘ではなかったみたいなんです。恐らく、トライブ先輩は、認めたくなかったんです、クロ先輩が、本心からそれを望んでいたことを、そうでなくて、神の悪戯か何かで…そうなってしまったんだと」

「……」

「……私だって…そう思いたかったです。そうでなければ、先輩を信じ、己の能力を高めてきた日々が、全部、全部、否定されているように思えてきて……」

 

 サトノモズレーさんの言葉に反応して喋ったアマリイーグリーナさんが涙を流す。

 

「……」

 

 言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本を開く。

 

 文章を読む。

 

『私はクラスメートと仲良くしています、破壊を望む私が、何故、そんな事をするのか、気になりますか?理由は簡単です。分担するのです。私は完璧ではありません、全ての有名なレースに出走するなど、夢のまた夢です。ですから、私の出走できないレースは、当然、誰かに出てもらう必要があります。ですから、私はクラスメートとの親睦を深め、彼女達が、私に続かんと意欲を高めることを望んでいるのです。』   

 

 

 

 

「……失礼します」

 

「………庶務長さん…ですか?」

「お…お久しぶりです」

 

 私が応接スペースに通されるなり、挨拶をしてきたのは、サクラナミキオーさんと、エアジハードさんだった。二人は現在、URAのレース復帰支援部署にいる。

 

 私は促されるままに席に座り、二人へと目を向ける。

 

「…それで、今日、お二人に会って頂いたのは…」

「想像はついてますよ」

「あの本が出てからのこと…ですよね?」

「はい、その時、どのような事があったのか、教えて頂きたいのです」

 

 私は、あの本が出た時、最先端のウマ娘のメンタルケア方法について学ぶため、フランスにいた。だからその直後、何が起きていたのか、細かいところまでは分からなかった。

 

「……まず、本が出るなり、アタシら色んな反応を受けたんです」

「…私は……職場の人から責められました、何故、あんな狂人を支持していたのか…って」

「アタシはそれとは逆で、周囲からは同情の目を向けられました」

「……なるほど、では……答えたくなければ、答えなくても大丈夫です……マヴェリッククロウ…彼女については…どんな反応を?」

「……上手く、言えません」

「…裏切られたとは…思ってます。私達は、確かにあの娘に利用されていました、でも、そうだとしても、あの娘無しでは私達は、活躍できなかった気がするんです」

「……」

 

 彼女は、自分だけ強くなれば良いというスタイルじゃなかった。基本的に周囲も巻き込んで、共存共栄を図るスタイルだった。

 

 私は二人を見る、本当に複雑な感情なのだろうと、見てとれる。

 

「……分かりました、では…私が連絡を取ることができなかった、アグネスワールドさん…彼女については、何か知っておられますか?」

「……ワールドの奴は、クロに同情的でした。あの時は、選抜クラスの連中だけが、注目の的みたいなもんでしたから」

「“あの娘が初めからそうだったとしても、あの時の世の中の潮流を変えるには、何らかの、大きな起爆剤が必要でした。あの娘は必要悪でした。ですから、私は、あの娘を恨むことはできません”って……言ってたんです。」

 

 私は海外にいたから、国内レースを取り巻く世論は直接感じていない。でも、オグリキャップさんの活躍していた時を思い出せば、世論の注目は、黄金世代のウマ娘達のみにあったと、容易に想像できる。

 

 アグネスワールドさんの出自を辿れば、彼女の価値観が“何としても、世間に自らの存在を認めさせる”というものであっても、おかしくない。

 

「……それに、ワールドの奴は、クロなんかより、アタシらが集められたあの時の言葉に、相当キレてたんだと思います。…アタシらでさえ、まだ、割り切れてない部分があるんですから」

「あの時の言葉?」

「はい、クロちゃんの本が出た後、すぐに、私達の世代で、メインで活躍していたウマ娘は、一度集められたんです。怖かったですけど……その時の私達は、罰せられることは無かったし、望めばURAの庇護下に置かれるとも言われました。でも……共通認識を持つ事を要求されたんです。」

「共通認識…?」

「アタシは一言一句覚えてますよ、その時のことを、まず、URAの人らは“君たちは同じ『白黒の破壊者』の被害者だ“って、言ったんです。」

 

 

 “白黒の破壊者”

 

 “彼女”が新たに得た、異名のことだ。

 

 誰が呼び始めたのかは、分からなかったけれど…多分…URAだ。

 

「君たちが結果を残そうと、必死で努力をし、トゥインクル・シリーズに貢献してきたことは、こちらも認識している。君たちは『清廉潔白な黄金世代』だ”…って、言われましたね」

「…なんてことを…」

 

 思わず、言葉が漏れていた。

 

 無かったことにしようとするとは……

 

 確かに、合理的ではある。

 

 でも、それはこの娘たちの頑張りを、塗り替えて、半ば否定することになる。

 

「…ワールドちゃんも、同じ気持ちだったんだと思います」

「…だから、あいつは、ハワイに帰ったんです」

 

 もっと、もっと良い方法は無かったのだろうか?URAほどの組織なら、“悪質な者に翻弄されながらも、自分なりのやり方を貫いた彼女達を責めるべきではない”という認識を示すことも、出来たはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 文章を読む。

 

『メイショウドトウは、素晴らしい才能を持っています。ですが、それを活かし切る自信がないようです。勿体ないことです。私はどうにかして、彼女の才能を開花させてみせます。……“敵となり得る者を育てるのか?”ですって?確かに、そうかもしれません。ですが、私達は元々、支え合いの共同体です。その目的は、守らねばありません。それに、がむしゃらに頑張る誰かを育て上げてみるのは、あまり悪い気がしないのです。』   

 

 

 

「庶務長さん…お久しぶりです…」

「今日はありがとうございます、メイショウドトウさん」

 

 メイショウドトウさんは、現在、子どものウマ娘のレース教室のコーチをしている。

 

「今日は…クロ先輩の……ことですね?」

「はい、もし、言いづらいことがあれば、言わなくても良いのですが…出来る限り、お気持ちを聞かせてください」

「…分かりました……まず、私は…納得が…いったんです」

「納得…?」

「クロ先輩が学園を去った年の、春のファン感謝祭の時……クロ先輩は、自分がレースの世界に飛び込んだ理由を言ってたんです…」

 

 そう言って、メイショウドトウさんは、白黒の破壊者がレースの世界へと飛び込んだ理由を話してくれた。

 

「……なるほど、つまり、“運命の相手”とは、破壊のことだったんですね…」

「はい……でも…私は、クロ先輩の事を、否定しきれないんです。確かに、トゥインクルシリーズに対しては、先輩は…ひどいことをしたと思います。でも、私に対しては……常に色々と気遣ってくれましたし、その表情は、嘘のものじゃ有りませんでした」

「………否定は、できません」

 

 突き放しすぎず、構いすぎず。必要な助言をしっかり送り、成果を出せば褒める先輩。

 

 助言をもとに、力を尽くし、必要だと思ったことは、しっかりと伝える後輩。

 

 白黒の破壊者とメイショウドトウさん、この二人の良好な先輩後輩の関係は、学園生徒のお手本だった。

 

「だから…私は、先輩から教わったことは、否定しません。それは……どんな形であっても、私の財産です」

「……」

「でも、先輩にもし会えたのなら…私は聞いてみたいです、“他の方法は…無かったんですか?”って」

 

 確かに、彼女ほどの力があれば…破壊などに走らなくとも、他の道を探せたはずだ、トゥインクル・シリーズに乗り込まずに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 文章を読む。

 

『ツルマルツヨシは、とても真面目なウマ娘ということが、日頃のやりとりからひしひしと伝わったということは、先日お話ししましたね。そして、今日、もう一つわかったことがあります、退院後の為の彼女に干芋を買ったのですが、そのお返しに、彼女は近所の有名なカフェの、ミックスベリーパフェを奢ってくれたのです。これは、何だかわかりますか?そうです。義理堅さです。義理堅い人材は、私達に是非とも欲しい存在です。今後とも、彼女の付き合いには、力を注いでいかないと……ですね!』

 

 

「………ふぅ」

 

 平日ということもあり、京都レース場は静かだった。そう、ここは、ツルマルツヨシさんが、スペシャルウィークさんと袂を分かった場所………

 

 その因縁の場所で、ツルマルツヨシさん、そして、もう一人の黄金世代、セイウンスカイさんがコース整備班の一員として働いている。

 

「庶務長さん、こっちです」

「今日はよろしくお願いします」

「…こちらこそ、お忙しい中、時間を作ってくださりありがとうございます。」

 

 2人とも、一応は元気そうだ。

 

「…それで、今日の用件は…」

「聞いてます、あの話…ですね?」

「………」

 

 ツルマルツヨシさんの表情が、少し曇った。

 

「はい、お二人の…気持ちなどを、お聞かせください。」

「……私は、どうして許されたんですか?それが、今でも分からないんです。」

「ツルちゃん…」

 

 ツルマルツヨシさんは、あの一件で、自分のしたことをひどく後悔していた。

 

「……私が、スペちゃん…セイちゃんや、皆が、白黒の破壊者に…傷つけられるきっかけを作ったんです。あの時…あの時……私が自主トレなんかしなかったらって……」

「…ツルちゃんは悪くないよ、私達皆が…掌の上で、転がされてたんだ、それに、私だって…大事な時に、何もできなかった」

「……」

 

 胸が痛い、それには、私も関わっている。

 

「庶務長さん…あの人は……何で…何で…あんな事をしても…平気でいられたんでしょうか?私は…あの人が憎いです……ツルちゃんだけじゃなく、キングまで…」

 

 セイウンスカイさんの言葉に力がこもる。

 

「キングヘイローさん……実は…彼女には、会うのを拒否されたんです。セイウンスカイさんは…何か…知っているのですか?」

「はい、キングは、私達が集められた後…私に、“全部は私から始まってた”って言って…コレを渡したんです。」

 

 セイウンスカイさんが、懐から取り出したのは、紙だった。4つに折られたそれを開くと、そこには、賞状をもって笑う、ベリーショートの子供のウマ娘が、鉛筆で描かれていた。

 

「これは……」

「はい、“白黒の破壊者”の、子供時代です。キング…実は、小さい頃に、レースをしたことがあったみたいで、それが…日記に書いていた、運命の相手に出会ったレースみたいなんです。」

 

 ……ここで、ピースが繋がった。キングヘイローさんとのレースで…彼女の心の中で、何かが目覚めたんだ。

 

「……それで…キングヘイローさんは、今……」

「キングは“白黒の破壊者”を産み出した者として、第二第三のそれを、何としても防がなければならないって…ずっと思ってるんです。」

「……キングちゃんは、相当、無理をしてます。正直…心配です。…………庶務長さん、あの人は、なんで…何でこんな事が出来たんでしょうか?自分が言える立場じゃないのはわかってます………でも、私もセイちゃんと同じです。あの人が憎いんです。多くのウマ娘の運命も、トレーナーさん達の運命も…狂わせて……のうのうと生きている…あの人が!」

 

 ツルマルツヨシさんの言葉は、“白黒の破壊者”がしたことの大きさを、如実に示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 文章を読む。

 

『エルコンドルパサーとグラスワンダー、彼女ら二人は、同じアメリカ出身のウマ娘です。その関係性は、子どもたちが大好きなアニメに登場する、“ネズミ捕り以外何でもできるネコ”と、“穴あきチーズが大好きなネズミ”のようです。要は、ライバルであり、名コンビなのです。ただ、そのレース生活の方向性には、少し違いがあるようで、前者は強い海外志向を持っていますが、後者はそうではないようです。そして、二人は同室です。この二人について、もっともっと、調べ上げるとしましょう。ゆっくりでも良いのです。じわじわ…こつこつ……』

 

 

「ここです」

「…ありがとうございます、たづなさん」

 

 ここを訪れるのは、卒業以来となる。

 

「礼には及びませんよ、卒業しても、あなたはこのトレセン学園の、大事な生徒なのですから」

 

 見慣れた煉瓦の壁、長い長い廊下、芝とダートとウッドチップのコース。

 

 にこやかなたづなさん。

 

 ……この学園は、変わっていない。

 

 ……いや、そうであることを、求められているんだ。

 

 

「失礼します……お久しぶりです、グラスワンダーさん、エルコンドルパサーさん」

「お久しぶりです、在学時はお世話になりました」

「お久しぶりデス」

「それで…今日は私どもに、聞きたいことがあるのですよね?」

「…まあ、庶務長さんが来てくれるという事は…大方想像がついているのデスが…」

 

 グラスワンダーさんとエルコンドルパサーさんは、トレセン学園で、教官の仕事についている。表向きは、“現役時の才覚を活かすため”だけれど、本当の理由は……

 

「…まず…どうしてお二人は、ここに?日本のウマ娘達のために、尽くしてくれるというのは、嬉しいことです。でも、お二人はアメリカのウマ娘…地元で教鞭をとるという選択も、あったのではないですか?」

「……確かに、私達にはその選択肢もありました」

「…でも、それよりも、私達は第二第三のアイツを……絶対に出してはならないんデス」

「…私は、あの人を理解しようとしました、ですが……ものの見事に騙され、嵌められてしまいました。私のようなウマ娘を、二度と出してはならない……」

 

 “破壊者の再来”を防ぐため……  

 

「それは私も同感です。ですが、私は…その…しばらく海外にいたので、トレセン学園の方で、どういった取り組みを?」

「チーム制を義務化しましタ」

「……なるほど」

「お分かりかもしれませんが、一応、説明をしておきますね……まず、あのような事が起きた原因は、当時のここには個別育成のウマ娘が多く、クラスメート以外の生徒との繋がりが、今より薄かったことです。その状況が、白黒の破壊者に付け入る隙を与えたのだと……私達は分析しました」

「……デスが、チームとなれば、クラスメート以外の生徒とのつながりや、トレーナーに相談しづらいことも、チームメイトに相談出来るのデス…もちろん、自由という要素は、大切にしています」

「……確かに、その面は期待できます。ですが、1つ気になります、トレーナーさん側の負担が増加するのではないのですか?」

「もちろん、そうなります。ですが、チームを組んだことにより、必然的にトレーナーさん方は“余る”といった状況が生じましたので、負担の大きいチームはサブトレーナーを置くことができています。ですから、今のところは、健全に運営できています」

 

 

 確かに、そうすれば、頼るところの殆ど無いウマ娘を糾合しようとする動きは…見られなくなる。

 

 でも、これは良いところなんだろうか……いや、今は、判断がつかない。こういうのは、続けてみないと、分からない。

 

「なるほど…よく、理解できました。では…もう一つ、スペシャルウィークさんが今、どうしているのか、知っていますか?」

「…ハイ」

「エル、ここは私に………スズカさんが居なくなった後、スペちゃんは、暫く、スズカさんを探していました。でも…スズカさんは、見つかりませんでした……諦めかけていたスペちゃんに、トドメを刺したのが…あの本です」

「……まさか…あの日の…!」

 

 私はパラパラとページを繰る、その日は、京都大賞典のあった日だった。

 

『今日は、京都大賞典の日でした。周囲から期待されていたスペシャルウィークの走りは、とてもひどいもので、彼女をマークしていたテイエムオペラオーがそれに巻き込まれていたのを見て、少し同情してしまいました。そして、レースの後は、ツルマルツヨシの決心を聞かせて貰いました。彼女はスペシャルウィークを見限る決心をつけたのです。

 

 そんなスペシャルウィークを見て、私は“日本一”に近づきつつあると感じました。はい、貴方の予想しているとおりです。“日本一不幸なウマ娘”…です。

 

 但し、油断してはなりません。秋の天皇賞に、その勢いを盛り返すかもしれないからです。周囲の戦意高揚が、課題となりそうですね。』

 

「……はい、あの一文を見て、スペちゃんは、気づいてしまったんです。二人のお母様との約束も、レースにかける思いも、友人も、憧れのスズカさんも……白黒の破壊者が、全て利用して、自らを追い詰めたのだと」

「………」

「……その日から、スペちゃんは、諦めてしまいました。今は…故郷で……ひっそりと……」

 

 グラスワンダーさんの手から、血が、溢れ出す。

 

 その声色には、怨み、悔しさ、自責……多くのものが混じっていた。

 

 白黒の破壊者が、シニア期の夏合宿を終えた際、彼女は、トレーニングのせいか変な癖がついてしまっていた。

 

 それは、力の入れ具合を変える…要はブレーキをかける際に、耳と尻尾が連動してピンと張ってしまうことだった。

 

 レースでもそれは起きた、やがて、その癖は発見された。

 

 当然、彼女は、その癖を何とかしようとしていた、だけど、それにリソースを割くよりも、それが問題にならないぐらい身体を強化すれば良いと言う結論に達した。

 

 そして、最後のレース…宝塚記念の際には、全ての出走ウマ娘が、その癖のことを頭に入れていた。もちろん、グラスワンダーさんも……

 

 でも、それは彼女が、用意周到に、長い時間をかけて仕組んだ罠だった。彼女は、尻尾と耳を、自由自在に動かせるウマ娘だった。*1 彼女はその特性を罠に使った。

 

 夏合宿で、特殊なトレーニングを行うと同時に、そのせいで、耳と尻尾がピンとなる癖ができたと装った。

 

 次に、レースでそれを実践した。出走数を絞り、ポジションも工夫して、その癖をひた隠しにしていると装った。

 

 でも、その癖はやがて発見される。だから、必死にトレーニングして、その癖を別のもので補おうとしていると装った。

 

 そして、最終的に…宝塚記念のラストスパートの際、彼女は最後の直線で、スパート直前に…

 

 『ブレーキサイン』

 

 を出した。

 

 彼女を倒すべく、集中していたグラスワンダーさんは、反射的に反応し、脚にブレーキをかけた。しかし、それは負荷のかかること。骨折し、よろけたグラスワンダーさん、それを見てブレーキをかけてしまったテイエムオペラオーさんとサイレンススズカさん……

 

 …だから、あの光景が…あの時の私の眼の前に広がることになった。

 

 でも、あの時の彼女は、疑われることはなかった。だって、ものすごく疲弊していたから。フォームも崩れかかっていたから。

 

 秘密裏にレース後の報告書を読ませてもらったけれど、あれは、極度の疲弊による身体の異常な動きとして、処理されていた。

 

 でも、実は、彼女はきちんと計算していた。フォームが崩れかかるほどの、全力を゙出す中でも、ブレーキサインを出す集中力と、余力を残していた。 

 

 ……グラスワンダーさんは、復帰しようとしたけど、できなかった。

 

 サイレンススズカさんは、選手生命を絶たれた。

 

 テイエムオペラオーさんは、伸びしろを失った。

 

 “白黒の破壊者”が、現役時代に行った最後の破壊……それは、“レースを破壊する”ということだった。

 

 グラスワンダーさんは、その一番の被害者だ。

 

 こうするしか…選択肢はなかったのかもしれない。

 

 多くのウマ娘が、運命を狂わされた。

 

 これが…一人のウマ娘がやれることなんだろうか?

 

 ……白黒の破壊者……彼女は…本当に血の通った存在なのか、疑いたくなる。

 

 彼女をどう、言い表すべきか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本を開く。

 

 文章を読む。

 

 

『白子は素晴らしい才能を持ったトレーナーです。そして、その才能もですが、彼は健康的なのです。なぜそんな事を、気にしているのかというと、マイペースである私の指導をする人間であるからです。トレーナーが心身共に健康でなければ、私もベストコンディションを発揮するのが難しくなってしまいますからね。』

 

 私は、とある料理店にやって来た。店の主人の人に、名前を名乗り、部屋へと通してもらう。

 

「お待たせしました」

「…庶務長君…久しぶりだな」

「あの頃はお世話になりました」

 

 部屋の中には、彼女のトレーナーだった白子トレーナー、その友人の富士田トレーナーがいる。

 

「…その、白子トレーナー、いきなりで申し訳ないのですが、最近は…どうですか?」

「富士田さんの支えもあり、何とか仕事を続ける事ができている」

「支え…」

 

 白子トレーナーは、“白黒の破壊者”の最も大きな被害者の一人だろう。彼は、才能ある新人であることを利用された。

 

 彼女が全てを明らかにした時、彼は大いなるショックを受け、しばらく休職していたそうだ。

 

「ああ、富士田さんは、私が休職していた間、私が指導していた生徒を預かってくれていたのだよ」

「……」

 

 富士田トレーナーは、私が学園にいた時から、白子トレーナーの親しい友人の一人だった。彼女が引き止めなければ、白子トレーナーは学園を辞めていたかもしれない。

 

「失礼致します」

 

 料理が運ばれてきた、少し経って、質問をしよう。

 

 

 

「…お二人は…“白黒の破壊者”については…どのように思っていますか?」

「……私は、彼女を許すことはできません。ツルさん…白子さん…多くの人を巻き込んだんですから…」

 

 富士田トレーナーの意見は、理解できる。彼女は担当との絆は深かったし、一番親しい同僚が傷つけられた……恨むには十分だ。

 

「それに…今の担当のこの娘も…」

 

 富士田トレーナーの見せてくれたウマ娘…少し、見覚えがある。

 

「…この娘は…」

「白黒の破壊者の日記では、“花束の少女”として、言及されていた娘です。この娘は、白黒の破壊者のようなウマ娘になろうと、努力し続け、私にG1制覇の景色も見せてくれました。ですが……」

「あの本…ですね」

「はい、それ以来、あの娘は、深く、強く悩んでしまっているんです…すいません、これ以上は…」

「いえ…大丈夫です、こちらこそ、申し訳ありません」

 

 富士田トレーナーは、遠回しに言っているけど、きっと担当に何かが起きたということだろう。じゃないと、こんなに悲しそうな表情にならない。

 

 じゃあ、白子トレーナーは…

 

「では…白子トレーナーは?」

「…………私は、あの時、どん底に突き落とされたような気持ちになった…彼女が“悩み”として相談してきたあの癖が、恐ろしい“策略”だったからな…だが、すまないが…恨みきれないな」

 

 “悩み”と“策略”、これは、白黒の破壊者が行った、最後のレースで行われた事だ。

 

 …でも、やはり、担当トレーナーだったから、複雑な感情を持っている。

 

「確かに、彼女は私を、クラスメート達を、取り巻く人々を……私利私欲のために、全て利用していた。だが、その一方で、歪んだ目的の為とはいえ、彼女は常に努力を怠らなかった。彼女は…“目的のためなら、どんな手も使う”ウマ娘だった。その能力を、もっと他のことに……そんな事を思いつかせることも、出来たのではないかと、今でも思っている」

 

 …彼女の話術、発想、他人との接し方………あれは演技じゃない、彼女にもとから備わっていたものだった。

 

 普段の彼女は、学園の誇りで、模範生だった。

 

 …持てる能力を、調和や協調に使えていれば、生徒会長やURAの幹部にだって、なれたはずなのに…

 

「……ありがとうございます………あの、秋川理事長は、元気にしていますか?卒業すると、学園の方の事情には、疎くなってしまうので…」

「はい、しっかりと、学園を運営しておられます」

「ああ、あの時は憔悴していたが……今は、私達を気遣ってくれている。私がこうやってトレーナーを続けていられるのには、あの方も関わっているのだよ」

「それを聞いて、安心しました」

 

 それは良かった。理事長はこれからの日本のウマ娘レースを牽引する存在の一人、彼女を失えば、学園は大変なことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルダンさんの運転する車に乗り、次の目的地へと向かう。

 

「……あの…」

 

 渋滞に捕まっていた際、ふと、アルダンさんが私に話しかけた。

 

「一つ、気づいてしまったのです………あの日記の猟犬(ハウンド)……あれは、私達だったのではないでしょうか?」

「……」

「……私達は、彼女に夢中でした。でも、その裏では、確かに色々と問題も起きていました」

 

 ……思い当たる節はある。サポートウマ娘の一部のウマ娘への集中、嫉妬の感情…

 

「ですが、彼女の魅力に夢中になるあまり、彼女を応援したいという気持ちが高まるあまり、それらについて深く考える事を………私達は、知らず知らずのうちに、放棄してしまったのではないでしょうか?」

「………」

「…………こんなことを言ったとて、意味が無いのは分かっています…、もしも、言ってしまえば、社会的に、叩きのめされることでしょう………戯言です、忘れてください…もうすぐ着きます」 

 

 …私達は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本を開く。

 

 文章を読む。

 

『今日はシンボリルドルフの理想を聞かせてもらいました。そして、分かったことは、彼女と私とでは、水と油であるということです。“全ウマ娘の幸福”という彼女の理想は、自然の法則に反しています。彼女を破壊するため、私はまず、彼女の作り上げてきたトレセン学園(カイザーライヒ)を破壊させてもらうとしましょう。私のやっている事が、ひどいのか、そうでないのか、そんなものは後世の歴史家や批評家が決めることです。ただ、シンボリルドルフの理想は、私が破壊の意思を持っていようが、いまいが、いつか潰える日が来るものであるものだと、私は断言しておきます。』

 

 

「久しぶりだな」

「…こちらこそ、お久しぶりです、ルドルフ会長」

「……私はもう、会長ではない、それに…そう呼ばれる資格もない」

「いえ、私の中では、今も会長は会長です」

「……わかった」

「ありがとうございます」

 

 ルドルフ会長は、URAの幹部として、改革を進める傍ら、政治の場に出る事も考えていた。

 

 でも、今回の件で、ルドルフ会長は大打撃を受けた。理想から、遠のいてしまった。責任の一部を背負わされ、秋川理事長の分まで罪を背負い、今はレースやURAの今後を担う役割から遠ざけられ、レース場をはじめとした“施設維持管理”の部署にいる。

 

 勿論、施設維持管理は、バックアップとして重要な仕事だ。でも、ルドルフ会長は…最前線に立つことの方を好んで行う。

 

 だから…相当、辛そうに見える。

 

 

「……ルドルフ会長は、“白黒の破壊者”と接する時…どのように思って…接して居たのですか?」

「…同志だと思っていた。彼女は“理想を見届けたい”と私に言ったからね」

「……でも、それは、ともに歩むのではなく…」

「ああ、彼女は…“叶いもしない理想が、どんなふうに帰結するのか”それを見て、愉しみたかっただけだった」

「……」

「…全てを知った時、私は、もう、“終わらせたくなった”よ」

「……」

「……だが、シリウスに止められた、だから今、ここで、君と話せているというわけだ。」

「……」

「…では、私から君に聞くとしよう……彼女について…君は、どう思っている?」

「粉砕機です」

「粉砕機…?」

「はい、彼女は自分の夢のために、必要な物を、しっかりと認識していました。」

 

 彼女は何が必要なのか、何が足りないのか、それを常に認識していた。

 

「…多くのウマ娘を惹きつけたのは、彼女が他の誰よりも他人に親切に接することの大切さを分かっていたから、多くのファンを、飽きることなく沸かせ続けたのは、彼女が他の誰よりも、スターという存在の重みを、理解していたから………自分の中にある、思いやりや、配慮の心……それらも全て、利用して…彼女は材料を集めていったんです。」

 

 学生時代の彼女は、周囲の人々には、精力的かつ、魅力的に映っていた。生徒もファンも、魅了されていた。

 

「…材料?」

「…はい、材料です。彼女は…“アイドル”になるために、努力を惜しまないウマ娘だったんです」

「……“偶像(アイドル)”」

「……多くのウマ娘が、彼女に挑みました。多くのファンが、彼女を支え、夢を見ました……でも、その姿は偶像です。そんな周囲を最も理解していたのが彼女です。偶像が浸透し、歴史として形作られていく様子を、最も知ることができたのが彼女です。」

 

 最初から、破壊を望んでいた彼女…自らの影響力の広がりには、最も気を配っていたに違いない。

 

「そして材料が全て、揃った事を確認した後……彼女はスイッチを入れたんです」

 

 私は、本を取り出した。

 

「このスイッチをきっかけに、私達が彼女に抱いてきたモノ、彼女を取り巻く人々、彼女に挑んだウマ娘達、……その全てが、彼女に抱いていた偶像……それらは全て、破壊されて、粉々になって、崩れ落ちました…だから、私は思ったんです。私達が見過ごしてきた、彼女は”粉砕機”だったと」

 

 彼女が、心から愛した、運命の相手──破壊──のためなら、どんなことでもする、地位や名誉も、関係ない。

 

 強烈な目的意識が、彼女の行動を司っていた。

 

 血の通わない一機械のように、正確で、無差別で、無慈悲だった。

 

「……確かに、そうだな」

 

 私は…彼女が鉄か何かでできているのだと、思いたくなった。だけど、当時の私は、正直なところ、彼女に魅せられていた。

 

「…そして、私達も、そんな粉砕機の油だったんです、破壊のお膳立てをしてしまったんです」

「そうだ…私達にも、罪はある、だが…私は、常々思っている……いくら、水と油だと、思われていたとしても、いくら、叶わぬ夢だと、軽蔑されていたとしても、いくら、利用されていたとしても………彼女を、他の道に、導けていれば…と…」

「会長……」

 

 ルドルフ会長は、泣いていた。

 

「……その顔…君も…彼女に対して、似たような感情を…持っているのだろう?」

 

 メイショウドトウさん、白子トレーナーと、富士田トレーナーとの会話を思い出す。

 

 

「……はい」

 

 私も、そう思ってしまう時はある。

 

 彼女が、様々な力を……他の道に使ってくれれば…

 

 と…

 

「そうか…良かった…………確か、君が生徒会に入った理由は…私の理想に、共感してくれたから…だったな?」

「そうです」

「……私は、彼女の残した、あの文章を否定したい」

「……!」

 

 私は、その文章がすぐに分かった。

 

 それは予言だ、彼女のようなウマ娘が、再び現れるという…

 

「私も、気持ちは同じです。二度と…あのようなことを、起こす訳には…いきませんから」

「……君に頼みがある」

「…私に…ですか?」

「……もう一度、私に力を貸してくれないか?」

 

 ……!

 

「…私は、自分の理想を否定された…だが、諦める訳にはいかないんだ。再びウマ娘達のこれからを考える場に、戻りたいと考えている。だが、そのためには、多くの人の協力が、必要不可欠だ。君にも…協力してもらいたい」

 

 そう言うと、ルドルフ会長は、頭を下げた。 

 

「……」

 

 自分は、白黒の破壊者の旅路を見てきた。

 

 私は、彼女が腹の中に抱えていた狂気に、気づくことはなかった。

 

 ただ、彼女を生徒の一人として扱ってきた。

 

 私は彼女を調べ、無害であると報告した。

 

 私は指示に従っただけだ。

 

 …それは破壊の手助けだった。

 

 私は見過ごした。

 

 対症療法しかしなかった。

 

 でも…でも…

 

 私が話を聞いてきた人々の中には、前に進もうとしている人がいる。

 

 だから……もう、決めている。

 

「もちろんです。トゥインクルシリーズのために、行動を起こさなければならないと思っています。私も協力します。もう一度、よろしくお願いします、ルドルフ会長」

 

 私も、この今を作り出した一人だ。

 

 災厄をもたらしたカラスの翼を形作る、蝋であり、羽だった。

 

 なら、復興と今後の学園づくりに力を注ぐのが、私の贖罪であり、責務だ。

 

「…ありがとう」

 

 ルドルフ会長は、涙を流して、私の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

「終わりました」

「お疲れ様でした、では、帰ると致しましょう」

「アルダンさん、さっきの事ですが…」

 

 アルダンさんのあの言葉は、正しいのだろう。白黒の破壊者は、翼の概念を唱えた。その翼を作っていくのは誰だったのか?

 

 そう、他ならぬ私たちだった。その私達は、周囲で起きる事態に、無批判だった。

 

 スターを喪うことを恐れた。

 

 違反ではないという事実に逃げた。

 

 ルドルフ会長のためという思いに逃げた。

 

 その結果が…破壊だ。

 

「…アルダンさんの言う通りです」

「……」

「…私達も、猟犬でした……でも…」

 

 でも…

 

「でも……私達は、前に進まなければならない………今を作った、一人として…でも、それは恨みや復讐心を、原動力としてじゃありません、過ちを繰り返さないという、確固たる思いを持っての行動です」

 

 黄金世代のウマ娘達は、確かに前に進もうとしている。でも、その心の中には、恨みや憎しみの心があるように感じられた。

 

 憎しみは炎のようなものだ、モチベーションにはなるだろうけど、やがてそれは、自らの心を焼き尽くしてしまう。

 

「私も、同じ気持ちです。過去の過ちを自覚し、より良いトゥインクルシリーズを作っていくには、どうすれば良いのかを、考えていく……」

「アルダンさん…」

「……今回の事を手伝っていて、思ったのです、何もしないままでは、歴史の繰り返しになる……と…」

 

 アルダンさんの言う通りだ、何もしないのは、逃げているのと変わらない。

 

 私達は、前に進まなければならない。

 

 “白黒の破壊者”の事を、胸にとどめておきながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歓迎ッ!君がまさか、トレセン学園に戻って来てくれるとは」

 

 私は、再びトレセン学園へと戻ってきた。

 

 ルドルフ会長は、上層部の目があるから、しばらくあの部署から離れることは出来そうにない。

 

 でも、私は良くも悪くも表舞台に立つことは無かったから、こうやってトレセン学園で働く事が出来た。

 

 ここでの私の仕事は、トレセン学園に居る生徒のケア。トレーナーと生徒との間を取り持ったり、相談を受けたりする。

 

 そして、ルドルフ会長から頼まれている仕事は、学園の教師として在籍している白黒の破壊者に恨みを持つウマ娘が、何かおかしい動きをしないようにしないように、気をつけてほしいということだ。

 

 どちらも大切な役割だ。

 

「またお世話になります、理事長」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は部屋を出て、本を開く。

 

 文章を読む。

 

 ルドルフ会長が言及した、あの文章が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の旅路によって、トゥインクルシリーズから、きらめきと魔術的な美がついに失われてしまいました。

 

シンボリルドルフやマルゼンスキーやオグリキャップが、ライバルらと駆け引きをして、互いに競い合いながら、ターフの上を駆け抜け、時代を作る……

 

……そんなことはもうなくなりました。

 

これからのスターウマ娘は、清潔で静かで、写真やトロフィーが彩るトレーナー室にいて、サポートウマ娘たちに取り囲まれ、紙とペンを持たされて座るのです。

 

一方、幾人もの競走ウマ娘たちが、作戦一つで策略の力によって罠にはめられ、あるいは無謀なトレーニングや計略により選手生命を奪われます。

 

これから先のスターウマ娘は、レースや努力の才能ではなく、人脈構築やサポートウマ娘の確保、狡賢さといった、謀略の才能を持ったものになることでしょう。

 

そして、トゥインクルシリーズは、強力で、限界のない、一度使われると制御不可能となるような何かを、生み出すことになるでしょう。

 

トゥインクルシリーズは、初めて積み上げたものを、常識を、伝統を崩壊させることが出来る方法を知りました。

 

これこそが、トゥインクルシリーズに関わった者の栄光と、苦労の全てが、最後に到達した運命です。』

 

 この言葉を、現実にしてはいけない。

 

 破壊的なウマ娘を、再び生み出してはならない。

 

「終わったのですね」

「アルダンさん」

 

 そして、今の私には、アルダンさんという仲間がいる。私がここで働くことを伝えたら、彼女は「私も行きます」と言って、ついてきてくれることになった。

 

 私は、再びここに戻ってきた。

 

 あの言葉を、現実にしないため……

 

 ──そう、“彼女(マヴェリッククロウ)”のようなウマ娘を、二度と出さないために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、場所は変わり…何処かの県の、山の近くの一軒家…

 

「よし…良い感じ良い感じ」

 

 土の中から馬鈴薯を掘り出し、籠へ入れる一人のウマ娘…

 

 このウマ娘こそ、“彼女”であった。

 

「後は……ごめんね、卵、もらうね」

 

 家族と全て死に別れた“彼女”…

 

 世間は海外に高飛びしたと思っているが、事実はその逆である。“彼女”は、カラスのように森のそばでのびのびと暮らしていた。

 

 住む場所を変えたとはいえ、それは、同じである。

 

「……ふぅ」

 

 朝日の光に照らされた家を見て、一日が始まった事を実感し、彼女は深呼吸をした。

 

 

 コンコンコン!

 

(……!)

 

 その時、ノックをする音が、“彼女”の耳に入る。

 

(おかしい、今日は何も届かないはずだ。)

 

「……」

 

 “彼女”はかごを下ろし忍び足で歩き、玄関の方へと歩みを進めた。

 

「……?」

 

 (……一体、誰だ?)

 

 彼女はそう思いながら、角を曲がる。

 

「……すいません、さっきまで畑に……!」

 

 そして、相手の姿を見て、驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですわ!会いたかったですわよ!」

 

 それは、“彼女”にとっては懐しい、ティラノサウルスの声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
第1話 -気づき-

参照





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