転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第51話 -噴火-

 

 

「はい、お茶、それと…さっき取ってきた卵で作ったベーコンエッグ」

「いただきますわ」

 

 私は、急な来訪者であるアサヒクリークに、簡単な食事を提供した。彼女の腹の虫が鳴ったからである。

 

「さて」

 

 自分も準備を終え、アサヒクリークに目をやる。

 

「何で、ここを知ってるの?」

「白子トレーナーから聞きましたわ」

 

 私の質問に、アサヒクリークは即答した。まあ、納得のいく答えである。私は彼以外に引っ越し先を教えていない。役所の人間なら調べられるかもしれないが、それを漏らすのはコンプライアンス的にアウトである。

 

「じゃあ、どうしてここに?復讐?」

 

 ここはレースに縁のない土地であるし、田舎であるから見つけにくい。それでも来たと言うことは、何らかの目的があるだろう。

 

 ただ、それがもし復讐なら、まあ、ぐるぐる巻きにして警察に突き出すか、森の養分にしてやるぐらいの用意はできている。   

 

 こちらは輪っかをグルグル走る先頭民族ではなく、自然の一部として振る舞ってきた戦闘民族の子孫である。

 

「……かっ…あっはははははは!」

 

 私がそんな事を考えていると…向こうはいきなり笑い出した。

 

「違います、違います、単刀直入に言いますわ、時に家臣として、時に友人として、私とともに働いて欲しいのですわ!」

「……はい?」 

「あー…やっぱり説明しなければなりませんわね、じゃあ、まずは完食いたしましょう」

 

 そう言うと、アサヒクリークは食べるペースを上げた。

 

 

 

 

 

「…さて、まずは、貴女が気になっているであろう、私が何故あんな頼みをしたのか…の前に、私の今の気持ちについて、正直に言わせてもらいますわ」 

「……」

「まず、私は貴女を恨んでいたりはしませんわ、貴女が破壊したのは、トゥインクルシリーズ……地方のウマ娘で、繰り返し貴女と闘ったのは、私ぐらいのものです」

「でも、それならそっちは私を恨む事もできるよね?」

「いえ、フェブラリーステークス……あの時の貴女の言葉があり、今の私があるのです、恨むというよりも、別の戦い方の道を示して下さった貴女には、むしろ感謝しているのですわ」

 

 ああ、思い出した。私は確か、彼女に『もし、あなたが走れなくなったら。もし、私が走るのをやめたら……その時のこと、考えてる?』

 

 と言ったはずである。

 

「じゃあ、今は何してるの?私、ウマ娘レースの情報は中央のやつを見ることがほとんどだからさ」

「……ふふ、聞いて驚かないで下さいね」

「うん」

「……私は、名古屋トレセン学園の新理事長に任命されたのですわ!」

「…!!」

 

 随分と偉くなったじゃないか。

 

「おめでとう」

「……気持ちは嬉しいですけれど、その実は、ただ、元生徒会長として、先代でもあり、強盗によって志半ばで倒れたお父様の跡継ぎを引き受けただけですわ」

「でも、あなたは引き受けてみせた」

「ええ、これからは、学園を指導する身として、レースを戦うのですわ……ですが、それは、私一人では、なし得ないこと………そこで…」

「そこで…?」

「…貴女の力を、貸していただきたいのですわ」

「…はい?」

 

 おいおい、他に頼る人いなかったのか?

 

「…他に頼む人いなかったの?」

「いない訳では無いですわよ、ですが、彼女らには彼女らの人生がありますし、私自身の野望として、名古屋を中央と闘える学園にしたいのです。ですから、そのために、中央経験者に協力を仰ぐのが一番ではないかと思ったのですわ」

「………」

「まあ、いきなり答えを出すのは、難しいでしょう……そうですわね…私の望みは言いました。ですから少し、休憩がてら話題を変えましょう、トゥインクルシリーズが、どうなったのか…簡単にですが、説明しましょう、聞きたいですか?」

「もちろん!追加のお茶と……あと、干芋、持ってくるよ」

「頂きますわ」

 

 アサヒクリークは、くすりと笑った。

 

「さて…まずは、現在の中央について、貴方はどこまで知っておられるのですか?」

「それが、ほとんど知らないんだよ、世間と私の生活が、しばらく落ち着くまで、白子と連絡取らないようにしてるからさ」

 

 私は本を出した後、どういうわけか会社を退職するよう促されてしまった。いやー何でだろう。副業禁止ではないはずだったのだが。

 

 まあ、金は持っていたから、古民家をリノベーションし、ここに移住して生活するのに問題はなかった。それに、今はネットでちょっとした小遣い稼ぎも出来る。

 

 ただ、畑を耕したり、この地域について調べたりしていたので、破壊の成果は、ネットをみるぐらいしかできていない。本の中では白子も被害者ということになっているので、しばらく連絡を絶つことにしたのだ。

 

 私の本については、初版で終わりとなってしまった。元々金を目的としておらず、初版が捌ければ増刷される計画だったのだが……向こうからお断りされてしまった。

 

「賢明な判断ですわね、では、お話ししましょう。まず、シンボリルドルフは、あの破壊の一切の責任を負って、左遷されましたわ、不確定ながら自殺しようとしたという情報もあります」

「おおっ!!それ、本当?」

「ええ、左遷先は……施設維持管理の部署ですわね」

「改革の舞台から遠のいたもんだねー」

「ただ、仮に自殺の噂が本当だとすれば、思いとどまったのです。再起の念は、持っているかと」

「なるほど…でも、難しいかもね」

 

 再起を図って居るとしても、それは相当難しいだろう。はっきりとした理由がある。

 

「…どうしてですの?」)

「私が中央を去った時、理事長からもらった特別手当の一部を、彼女とシンボリルドルフに返したんだよ“今までの活動の支援のお礼”…ってね」

「なるほど、つまり、あのお二人に汚れた銭を掴ませたということですわね、それで…言い逃れを不可能にすると…」

「そう!そういうこと、シンボリルドルフとあの理事長、どちらかは潰せると思ってやったんだけど、ピタリだったね」

「抜け目がありませんのね…………ん!?この干芋…美味しいですわ」

 

 アサヒクリークの目が丸くなる。

 

「お母さんから受け継いだ、自然と共に生きるウマ娘の保存食だよ、ホントはあまり異教徒にあげていいモノじゃないんだけど……まあ、友達だからね、質と味は保証する………じゃあ、次は、黄金世代について聞こうかな?」

「分かりましたわ、スペシャルウィークは故郷に引きこもり、グラスワンダーとエルコンドルパサーは、復讐心を抱くようになりましたわ、セイウンスカイはわかりませんが、悪夢をよく見ているという噂があります」

「破壊は人の心を荒ませるからね」

 

 復讐心はいつか人を喰い殺す、それがいつになるかは分からないが、時限爆弾をつけることが出来たので、合格点だ。

 

「荒むで思い出しました、貴女の熱心なファンであったあの花束のウマ娘は、酷く悲しんだようですわ、白子トレーナー曰く、少し荒れていただとか」

「あー…うん…あの娘には…悪いことをしたよね」

「……驚きました…そんな言葉が、貴女から出るなんて…」

「私、破壊とは別に真剣な人にはシンパシーを感じるときがあるんだよ、私だって心があるんだから」

 

 これは本当である。私はメイショウドトウを本気で育成していたし、このアサヒクリークには、少し友人としての助言をしたくなったからあの言葉をかけたのだ。

 

「なるほど…では、続けますわね、銀翼のウマ娘の皆様……彼女らは、特に罰せられることはありませんでしたわ」

「…まあ、そうだろうね。当時の価値観に基づいて行動した人間を、事後法で裁くなんてのは、非常識だよ」

 

 こうは言ったが、私の最後の作戦に関しては、事後法というよりかは、感情論で裁かれるかもしれなかった。

 

 だから、銀翼のウマ娘には、私の最後の作戦を秘密にしていた。タイムを計る以外、大した協力もさせなかった。日記でも利用したことを強調していた。

 

 今まで私の破壊のお膳立てをしてくれたのだ。事後法や感情論で裁かれることは無いというせめてものお礼はさせてもらうのが筋だろう。

 

「そして、現在、銀翼のウマ娘は、URAに勤める者、故郷に帰って暮らす者……まあ、色々な道を歩んでおられるようですわね」

「……良かったよ」

 

 

 そう言った私の目を見て、アサヒクリークは「ただ」と付け加えた。

 

 

「ただ?」

「ただ、それには裏があるのですわ…………あなたの本が出てすぐ……銀翼のウマ娘と黄金世代……この両者はURAに招集されたのです」

「招集?」

「ええ、これは独自に集めた情報なのですが、どうやらURAは、貴女を探し出し、詰問しようとしていたそうです。しかし、貴女と連絡はつかない上、計画は完璧で、規則を破ったことなど一度もなかった………ですから、貴女を探し出すことは、諦めざるをえなかったようです」

 

 そりゃそうだ。私の転居先は、行政の人間しか知らん。それが漏れれば、知った側も漏らした側も罰を受けることになるからな。私は賠償金をせしめ、行政は処分を受ける。

 

「じゃあ、なんで、銀翼のウマ娘と黄金世代が招集されたの?」

「これは私の予測なのですが………体裁を整えたかったのかと」

「体裁?敵である私本人なしに?」

「ええ、貴女の現役時URAが推していたのは、黄金世代………しかし、貴女は銀翼のウマ娘という概念を打ち立て、黄金世代を倒した……ですから、活躍は認めども、銀翼のウマ娘を良く思わない者が、URAでは多数派なのですわ………そして、そこで貴女の本が出た。」

「そうだね、でも、私は銀翼のウマ娘がURAに狙われるようなことは書いてないよ。むしろ、利用したのを強調してる。銀翼のウマ娘がもし、罪悪感を感じても、客観的には被害者として認められるように」

 

 私の破壊は銀翼のウマ娘の力がなければ、成し遂げられなかった。だが、破壊は元々私個人の欲望である。だから彼女らが責められるのは筋違いなのだ。

 

 要は、URAに、ぶつけようのない負の感情を持たせることも、目的の一つであったのだ。

 

「ええ、そのため、先ほど申し上げた通り、銀翼のウマ娘は罰せられることはありませんでしたわ。被害者ですものね。ですが、“利用”と“罪悪感”……この2つの要素を、URAは上手く使ったのです」

「…どんな風に?」

「簡単なことですわ、共通認識を抱くように強いたのです………“君たちは、清廉潔白な黄金世代だ”……と…」

 

 ほう。

 

「………もしもし?」

 

 これは…

 

「……どうかいたしました?」

 

 抑えられない。

 

「ハハハッ!ハハハハハ!」 

「……!」

「なるほど!そうなったのか!」

「……」

「歴史は繰り返された、人は何も学ばない、いや、そうでないとおかしい!」

「…あの」

「これが日本のウマ娘レースを牽引してきた、トゥインクルシリーズの真の姿なんだよ!私たちがデビューする前から、長々と続いてきたんだよ!物事の表面ばかりを見て、裏側に起きたことを見ようとしない!選抜クラスの宣伝!サクラステラレクスの有記念出走!オンワードトライブの勝った秋の天皇賞!銀翼のウマ娘の活躍!その裏には何があったの?」

「………下級クラスの不平不満、サクラステラレクスの有記念のことについては存じていますわ、中央が盛り上がりを大事にしたこと、スターが一瞬にして消えたこと、そして、後釜として白羽の矢が立ったのが、あのオグリキャップであったこと……」

「……!?」

 

 オグリキャップが…?いや、計算は合う、サクラナミキオーとサクラステラレクスの年齢差からしても、嘘ではない可能性が高い。

 

「貴女は知らないようですわね、まあ、蛇の道は蛇です。続けますわ、オンワードトライブさんの勝利については、それが殆ど目立たないものになり、銀翼のウマ娘は、その活躍の裏で心を壊したり、その結果自ら命を絶とうとしたウマ娘がいる……ですわね?」

「………そう、さっきのあなたの言葉で、よりこう感じたよ、箔をつけることにだけ執着して、成長期のウマ娘を食い潰しても気にしないのがあの組織だ!日本のウマ娘レースを代表する存在だから?それでさも当たり前のように!」

「……」

「シンボリルドルフはまともなウマ娘だった!でも、それも学園をしっかりさせただけだった!彼女はURAに対して有効な対策を打たなかったんだよ、だから、結局、彼女は破壊を見過ごした!」

「……」

「私は確かにトゥインクルシリーズを破壊した!でも、あちらさんはそれをなかったことにしようとしてる!そりゃそうだろうね、欺瞞・装飾・見栄・欲望!それが、トゥインクルシリーズを形作ってるんだからさ!栄光という箔を隠れ蓑にしてね!ハハハハハハッ…私が破壊しようとしたモノが……随分前からおかしくなってたなんて……なんだか…“バ鹿らしい”よ……」

 

 

 ナチスが滅んだ今、世間様はナチス=悪という図式が出来上がっている。

 

 それは良い、区別は良いが、差別まではすべきではない。

 

 だが、その悪役とやらは民主主義の中で現れて、紆余曲折を経ながら第一党へとのし上がった。立派な主人公ムーブである。

 

 だが、その旅路においては、その暴力性を支持していた国民がいることを忘れてはならない。

 

 戦後になれば、虐殺は批判する癖して、国民が暴力性に酔っていたことはほとんど気にしてないのである。

 

 トゥインクルシリーズの話も一緒だ。私は基本的にはビスマルクを参考にしているが、人の心をつかむことに関しては、イタリアのファシスト、ナチス・ソビエトも参考にした。

 

 私の走りに多くの者が魅了されてきた。だが、非難の目があったことは、程度は様々にしろ、私のスタイルに違和感や反感を抱くものもいたということも示している。

 

 ただ、そのような者も、表立って現役時代の私を非難することはなかった。黄金世代に目をかけていた、URAのお偉方も……である。

 

 だが、私が真実を明かせば、お偉方は被害者面のトンズラである。

 

 私自身は気にしちゃいないが、見過ごした運営側にも責任はある程度あるだろうに。

 

 要は、臭いものに蓋をしているのだ。

 

 大事なのはここからだ、それまでにもトゥインクルシリーズは過去にもそれを行ってきた。栄光や同情しか示さず、その裏にある黒いものを明かさなかった。  

 

 そう、私が破壊する前から、トゥインクルシリーズはすでにおかしくなっていたのである。シンボリルドルフの生徒会長就任で、少なくとも学園はまともになっただろうが、それ以外は、まともじゃない。まともじゃないままだった。

 

 だが私は…トゥインクルシリーズの栄光、黄金世代の名誉、シンボリルドルフの夢……そんなことに注目し、自らの破壊をとても大きな物と勘違いしていた。

 

 要は、良い意味でも、悪い意味でも、目の前の物事(はかい)に熱中していたのだ。

 

 URAが大きな存在であることを、重要な要素としすぎていたのだ。

 

 そして、結局、自分のやってきたことは、少し規模が大きいとはいえ、トゥインクルシリーズ内で定期的に起きる“おかしい”の一部でしかなかったのだ。

 

「……“莫迦らしい”…ですか……心中お察しいたしますわ、ですが、貴方の言葉を要約すると、貴方の破壊は、大いなる流れの一部……この星に例えると、火山の噴火だった…という訳ですね」

「……そうだね」

「……浅間山*1が、ベスビアス*2が噴火した時、当時の人は大変だったでしょう、ですが、それは地球においては、大きな流れの一部、農業でいえば間引きのようなものだったのですね。今回の件は、URAやトレセン学園だけでなく、トゥインクルシリーズのファンも、大きな影響を受けました。自然災害によって破壊された街が、官民手を取り合い、再生していくように……今回の件の傷は、トゥインクルシリーズに関わる誰もが、埋めにかかることでしょう。破壊者の支持者だったという経歴は、職員であろうと、生徒であろうと、ファンであろうと……葬り去りたいものですから」

「追い打ち……」

「貴方に二度も打ち負かされているのです、このぐらいの悪戯は許してくださいまし」

「…もちろん」

「………ここからは、私の独り言ですわ、嘲笑するもよし、帰らせるもよし……ですわよ?」

「独り言?」

 

 そう言って、アサヒクリークは、茶を飲み込んで、庭を走るニワトリの方を向いた。

 

「……かつて、中央にいたあるスターウマ娘は、自らの本質を隠し続け、用意周到に、じわりじわりと行動し、やがてトゥインクルシリーズを目茶苦茶にした………このことを、世間は破壊と評しましたわ。しかし、中央はそれをなかったことにしようとしていて、歴史に埋めようとしています。世間もそれに同調するでしょう、破壊の協力者という、レッテルを避けるため…」

「……」

 

 そうだ、要約が上手いじゃないか。

 

「まあ、それはそれとしてです。では、話の舞台を変えまして………かなり昔の事にはなりますが、大井のハイレイバーというウマ娘が、中央に移籍して大暴れし、世間は大いに盛り上がりを見せましたわ」

 

 ハイレイバー…名前ぐらいは知っている。“高潔な労働者”というネーミングから、親は隠れ共産主義者じゃないかと邪推したくはなるが…まあ、放っておこう。

 

 ただ、前世で父親の口から似たような名前を聞いたことがある。

 

 ただ、名前に時計メーカーみたいなワードが入っていた、ただし◯ショックやウェ◯ブセプターを作っている例のメーカーではない。

 

「その時の中央のお偉方が、どのような気持ちであったのか…今、知ることは難しいですわ、ですが、推察することはできます………悔しかったと思いますわ」

「………」

「さて、地方のウマ娘が、何らかの方法を使って中央と戦い、それによって中央の威信が揺らいだり、中央で何かが起きた………これを破壊と言い表す者は少ないでしょう。ですが、それは…“変革”……あるいは“下克上”と言い表せるのです」

「…………」

「……これを、自然と共に生きてきたウマ娘に合わせて申し上げます」

 

 そう言うと、アサヒクリークは、スッと腕を上げて、庭にいるニワトリのつがいを指差した。

 

「……(あのこたち)と、ヒト(わたくしたち)………大昔は逆の立場ではなかったのですか?」

 

 そういうことか。

 

「大昔、私達の先祖は、知らないところで、コツコツ生き続けていました。今の名古屋は、その段階です……………少なくとも、今は…」

 

 あの店主の言葉が、思い出される。

 

『あんたがどんな人生を歩むのかは、任せるけれど、これだけは覚えといてくれ』

 

『あんたはまだまだ若いんだ、レースから離れた後でも、出来ることの選択肢は沢山ある。』

 

『一つの方法で行き詰まっても、あんたは他の方法を試す事ができる。レースで養ってきた、不屈の精神でな』

 

『そんでもって、たまには人の好意に甘えたり、羽休めをして…寄り道や息抜きをすると良い……新しい発見が出来るかもしれねぇ』

 

 …懐かしいものだ。

 

「さて…私の独り言は終わりです。傾聴してくださったようですから、感想を聞かせてください」

「…………面白い話だったよ。まさか、あなたに発想の転換を促した私が、今度はあなたにそれを聞かされるなんてね…“破壊も変革という体でできる、それも殊更外部からなら”……こういうことだよね?」

「えぇ、貴女のあの言葉があるからこそ、今の私があるのです」

「……」

「それに…貴女の行ってきたこと………それは、“当たり前”でも、極めれば……才能有るウマ娘と対等に戦える可能性を示していると思っています、その経験を……他のことに活かさないのは、あまりにも惜しいと思うのです、そして、貴女は、URAの反応を聞いたのです、貴女にも、思う事があるはずです」

 

 …確かに、私のやった事は、不完全だった。アサヒクリークの言う通り、浅間山やベスビアスの噴火程度なのかもしれない。

 

「本題に戻りましょう………私とともに、働いて下さいますか?」

「でも、私は、とんでもない爆弾だよ?それにあなたはリーダー、あなたの判断ミスが、組織の命取りになる」

「そうですわね……ただ、今の地方は、中央のファンに、弱いやバ場貸しと言われる始末………ですから、口に苦いとしても、それを何とかする良薬が必要なのです。今回のことは、私なりに、これからの地方を考えてのこと、それに…大多数の人々は、貴女は海外に高飛びでもしたのかと思っているはず……まさか、レースで2回も打ち負かしたウマ娘の下に……とは、思わないでしょう。もし、バレるようなことがあれば……かつての敵を改心させるため、私が血眼になって見つけ出し、拾ったということに致します」

「…何でそこまで……」

「…貴女には、発想を変えて下さった、恩があります。そして、私は、二度、矛を交えた貴女と敵としてではなく、味方として付き合って行きたいと思っているのです。それに……そもそも私達は友人でしょう?少なくとも私は、今もそう思っていますわ」

 

 友人…か……

 

 

『そう応えてくれると思ってた、私達、いい友達になれそうだね』

『いい友達?ええ、私達、気が合いそうですわね』

 

 私が過去を思い返していると、アサヒクリークは、再び口を開く。

 

「…そして、貴女は人間の名前を使っていますし、それにその目、その髪……手を入れてますわよね?現役時代からその姿を想像することはできませんわ」

「うん、髪はまぁ、ご覧の通り……でも、目は別に何かしたわけじゃないよ、逆に、現役の時に頑張ってたんだよ」

 

 私は現役の時、目をパッチリさせるマッサージを繰り返していたし、何よりもダンスパフォーマンスで表情筋や目の周りの筋肉を使い続けてきた。

 

 なお、大学時代も、私は名前を変えなかったし、イメージを壊さないようにマッサージをしっかりと続け、髪も維持していたので、容貌は現役時代とほぼ、変わらなかった。私の信仰の成人の儀式を迎え、新しく耳のカバーをつけるようになったぐらいである。

 

 だが、名前を取得してからは、髪はいじった。さらに目のマッサージもやっていない。なので、母親の面影を少し残す、本来の目の形に戻りつつあるというわけだ。

 

 声はまあ、あまり気にする要素ではない。ウマ娘には、自分と似たような声色の奴が少しいるのだ。黄金世代のクラスだったブリッジコンプとジャラジャラとかが良い例である。まあ、前世の競走馬に該当する存在だからかもしれない。馬の嘶く声なんて、あまり気にしたことはないから、詳しくはわからないが。 

 

 さて、アサヒクリークに視線を戻す。

 

 彼女は私を見て、先ほど言ったことを確認しているようだ。

 

「なるほど…でも、お美しいのに、変わりはありませんね」

「お世辞は良いよ」

「別にお世辞では無いのですよ…………それで、私達の関係は、私達とそのトレーナー以外は、殆ど知らないですわ」

 

 ……私たちが話していた場所は、レース後の地下道である。他のウマ娘に見られて居ないのだ。

 

「強いて言うのなら、宝塚記念の時、白子トレーナーと私のトレーナーと共に、メイショウドトウが観戦していたぐらいです。しかし、それにも、“トレーナー同士が学友だったから”という、もっともな理由がありました」

 

 ああ、そういえばそうだったな。

 

「そして、そのメイショウドトウは、現在、子どものウマ娘のレース教室のコーチをしております。つまり、あなたを敵視し続けるURAからは、離れているということです」

 

 白子と矢座は学友で喋る間柄であったとしても…………私達の関係については情報がない、だから想像しづらい。

 

「事実、私は今まで、URAの方から、貴女について知っていることはあるのかといった質問を受けたことはありませんわ」

 

 ふむ…

 

「そもそも、たまに良いウマ娘が現れることはあれど、基本的には、盛り上がりも、ファン数も、技術も劣る……と考えておいでの方々のことです。私達のことなど、気にしていないのでしょうけど」

「…なるほど」

「さて、三度目の正直です………私とともに、働いて下さいますか?」

「………」

 

 私に、発想の転換を促してみせ…

 

 ここまで私を説得し……

 

 三度、真剣に、誘ってみせる………か……

 

 ……拒否権なんて、無いじゃないか。

 

「…喜んで、時に家臣…時に軍師、またある時には友達として、あなたと一緒に働かせてもらうよ………“裏切らない”……明智光秀、羽柴秀吉、松永久秀になってね」

「その言葉、待っていました……流石は、私の友人ですわ」

 

 私は、アサヒクリークと固い握手を交わした。だが、一つ疑問が浮かんだ。

 

「……ちょっと待って…じゃあ…私の住処は……」

「ええ、名古屋に住んでもらいますわ、もちろん、こちらの家も残してもらって構いません。」

 

 うん、それなら良い、じゃあ、ニワトリたちはどうなる?

 

「……ニワトリ達は?」

「しっかりと鶏小屋を作るのなら、彼等ももちろん、受け入れますわ、私の家の庭は広いですから」

「……そっちの家族は?」

「…弟が一人、教育係の方が一人います、ですが、弟の方はレースに関わりを持っていませんし、教育係は、故あって、貴女の身の上を気にすることは無いですわ」

「……オッケー…でも、もう一つ条件がある。最短でも1年ぐらいは、私を学園の一員として、登用しないこと。しばらく勉強させてほしい。」

「……なぜですの?」

「貴女のお父さんは、志半ばで倒れたんだよね?それならまずは、お父さんがやり残したことを、きちんとやり遂げるのが先だと思うよ」

 

 その言葉を聞いて、アサヒクリークはしばらく考え込んでいた。

 

「確かに…今は、お父様の行っていたプロジェクトや災害対策………校舎の耐震補強や物資の備蓄倉庫の建設を行うべきですわね…」

「うん、それと、あなたの支持基盤も、しっかりさせておかないと……新参者はどう見られるか分からないからね。生徒の中から数人の希望者を募って自主性やら、集団を管理する方法やら、レースのテクニックやら……まあ、色々、役に立ちそうなことを…教えといたほうが良いよ。その娘が後々、生徒会長になるかもしれない。そうすれば、あなたと生徒間の連携はさらに強くなる、学園を率いる立場なんだから、生徒を味方につけるのは絶対必要だよ」

 

 中央の理事長は、若手で精力的である。事実、トレーナーとの交流は多かった、だが、ウマ娘に対しては……トレーナーより少なかったという印象が否めない。もっとも、私は呼びつけられたのだが。

 

 せっかく生徒と年齢が近いのに、それを無駄にしてしまうとは、もったいなさすぎる。生徒会のウマ娘だけ気にかけていれば良いというものではない。

 

 まあ、不安にさせてもいけないが。少なくとも私は、現役時代、理事長に対しては「児童労働じゃないのか?」という疑問を抱いたことが、何度もあったし。

 

「…分かりました…流石は、“石見の烏天狗”ですわね、軍師としての初仕事……素晴らしいですわ」

「ありがとう、じゃあ、都合がついたら迎えに来てよ」

「わかりましたわ、では、私からもお願いを」

「何?」

「私以外の者に接するときの喋り方を開発して下さいな、そうすれば、あなたも上手く学園に溶け込めます」

 

 そう言って、アサヒクリークは席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ、待ちくたびれたよ」

 

 数ヶ月後、私は向こうで必要な物を送り、最低限の荷物を持ってアサヒクリークの迎えを待った。

 

「お待たせしました!」

 

 彼女はやってきた、しかも真っ赤なオープンカーである。

 

 しかも相当古い、パカパカライトって……前世の親の若い頃の写真でしか見たことがないぞ。

 

「さて、乗って下さいませ」

「はーい」

「あ、身長的にキツそうですわね、幌を開けますわ」

「オッケー」

「さーて、時間に余裕はありますし、下道をえっちらおっちら行きますわよ!」

 

 アサヒクリークは、慣れた手捌きで車を発進させた。

 

 オープンカーは乗ったことがないので、少し新鮮な気持ちである。

 

「どうですか?私の愛車は」

「中々……そう言えば、そっちのトレーナーは今何してるの?」

「彼ならレースクラブのコーチをやっていますわ、書類仕事が減って、現場に熱中できる……いきいきとしていましたわよ、それに、優秀な方は私共に斡旋してくださいます」

「……なるほど、行動派そうだったから、向いてそうだね」

「ええ…………風が気持ち良いですし…音楽でもかけるといたしましょう」

 

 アサヒクリークは、CDデッキのスイッチを入れた。

 

 どんな曲が好きなんだろうか?彼女の事だし…演歌だろうか?

 

 〜♪

 

 流れてきた曲は、ノスタルジックな感じだった。多分洋楽である。

 

「I heard you on the wireless back in '52…」

 

 アサヒクリークは、流れてきた曲を口ずさむ。あ、これは知っている。

 

「これ知ってるよ、センスあるね」

「では、サビだけで良いので、貴女も」

 

 私はコクンと頷き、タイミングを待った。

 

「Oh a Oh What did you tell them」 

 

「「Video killed the radio star」」

「「Video killed the radio star」」

 

「「Pictures came and broke your heart」」

 

 自然と手が動き、リズムを刻んでいるのがわかる。

 

 ハンドルを握るアサヒクリークも、指をトントンとやっている。

 

 これから楽しくなりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中、道の駅…

 

 私達は休息を取ることにした。

 

「何か飲まれますか?」

「同じ物を頼むよ」

「嬉しいですわね」

 

 そう言って駆け出したアサヒクリークは、1分もしないうちに戻ってきた。

 

 手にはトマトジュースが握られている。

 

「好きなんだ、トマトジュース」

「ええ、我が名古屋トレセンに来れば、もっと美味しいものが飲めると約束させて貰いますわ、ですが、これも中々……」

 

 彼女はそう言って、カシュッと缶を開けた。

 

 私も缶を開ける。

 

「じゃあ、私達のこれからに」

「乾杯ですわね」

 

 私達は乾杯をした。

 

「そう言えば、支持基盤のこと、試してみた?」

 

 向こうが一杯目を飲み終えた後、私は確かめるために、そう聞いてみた。

 

「ええ、8人の生徒に対し、まとめ役のイロハを教えましたわ」

 

 そう言うと、アサヒクリークはオープンカーと同じ真っ赤なケースのスマホを取り出し、こちらによこした。

 

「フルメタルブレード…アドミットファイア…エアロシューター…バブルリーダー…クイックカーリ…タイムデッドロック…リーフィーシールド…マイトクラッシャー……どの娘もいい目をしてるね、会うのが楽しみだよ」

「ええ、やる気十分です。そして、この娘達はレースの成績よりも、後輩指導への意欲や柔軟性を軸に選びましたから、卒業後も、何らかの形で力を貸してくれるはずですわ」

「そうそう、長期的に考えていこう」

「ええ! ならば、善は急げ、鉄は熱いうちに打て……」

 

 そう言ってトマトジュースを一気に飲むアサヒクリークの姿は、まさに…

 

 生き血をすする肉食獣に見えた。

 

 さぁ…

 

 私もこれを飲んで、次の舞台へ、行くとしよう。

 

 カラスは森を出て、ビルの銀河へと飛び立つのだ。

 

 

 

*1
日本の火山、1783年に噴火し、天明の大飢饉の要因の一つとなった。

*2
イタリアのヴェスビオス火山、79年、噴火によりポンペイを埋没させた。




 
読者の皆様、新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。
読者の皆様にとって、新年が良い年となることを祈っています。
 
お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録や評価をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

ご意見、ご感想等、お待ちしています。


追記

今回、新章突入のような様相を示してしまいましたが、詳しく書こうとすると、主人公が変わってしまいます。そのため、次回は主人公が名古屋に行ってしばらくしてからに、時間が飛びます。
 
間に起きたことは、別の主人公を使った次回作の構想を進めていますので、そこで書こうと考えています。

読者の皆様を振り回すような形となってしまい、大変申し訳ありません。

もうしばらく、マヴェリッククロウの物語を楽しんでいただけますと幸いです。 

よろしくお願い申し上げます。



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