転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 今回は前回から数年後が舞台になります。
 前回から今回までの数年間の出来事を、次回作で描写していこうというのが、現在のところの予定です。


第52話 -平和-

 

 私が名古屋トレセン学園で働くようになってしばらくが経った。

 

 入ってから数年は激流のような時代だった。

 

 学園内を歩いていくと、様々な光景が見える。

 

 

『スタートダッシュ練習用意!アモンバトル、アモンジャトランド、レザーメガテリウム、ビカリアミステリー、ゲートに!』

「分かりました!」

 

 

「おにぎり8個、練習場に持っていってください!」

「後2分、いや、1分待って!」

「遅い!レース場の売り子の…実戦のつもりでやりなさい!」

「ハードワークだよ〜!!」

 

 

「あの蹄鉄は高性能なのですが、コストが……」

「まあ、あれは採算無視の試作品だったからな…」

「もう少し簡易化を図るべきかと」

 

 

「皆さん、良いですか、我が学園の校則は多いように感じられますが、これは皆さんがスポーツマンであると同時に、これからの社会を担っていく人材として必要なことで………」

「なるほど、じゃああの時はこの校則に基づいての行動………」

 

 

 生徒や職員は、グラウンドで、談話室で、教室で、盛んに会話をしている、学園に活気があるのだ。

 

 そう、つまり、私達はその激流を乗り越えたということである。今の私達は、大きなプロジェクトが終わり、その後に起きた混乱を乗り越え、後始末をしつつも“平和”な時間を過ごしていた。

 

「調査結果を報告します」

「一週間前、私どもは──」

 

 でも、仕事がなくなるわけではない。

 

「……以上が、結果です」

「分かりましたわ……桜田さん、貴方は新人ですから、今日はもう帰って良いですわよ、ご苦労さまでした。しっかりと休み、英気を養って下さい。今後もよろしくお願い致します、頼りにしていますわ」

「は、はい!」

 

 アサヒクリークが同じ部署の新人を退出させる。

 

「では、こちらに」

「うん」

 

 そして、私は隣の休憩スペースへと向かった。

 

「お疲れ様でした…さて、先程申し上げたスカウト…どんな風に行ったのですか?」

 

 ティーセットを机の上に置きながら、アサヒクリークは質問をしてくる。

 

「現状認識をさせて、意欲を引き出させたんだ。あの娘達、良い目をしてたから、熱っぽく語れば通じると思ってね」 

「なるほど…さらに詳しく教えてくださいまし」

「オッケー」

 

 さて、楽しい楽しい、思いで語りの時間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は戻り…“彼女”は、中央トレセン近くを流れる多摩川…その河川敷の高架下にいた。

 

 傍にあった適当な石の上に腰掛けた“彼女”…その周囲には、8人のウマ娘がいた。

 

「一体、我々にどうしろと言うのです?」

 

 そう問いかける一人のウマ娘の目を“彼女”はしっかりと見ていた。

 

「…それは、皆さんが一番わかっているはずです。…大変失礼な事を言うかもしれません、ですが、色々話を聞いてみて、こちらの立場から申し上げさせてもらうと…今の中央は、いくら理由があると言っても、素質があると見込んだ生徒を、あまりにも重視しすぎています。……レースに勝利する事が、ウマ娘の価値として重んじられすぎているんです。だから色々と面倒事が起きるんです」

 

 “彼女”は、淡々と現状を説明する。

 

「特に、半年前に起きた三女神像破壊事件…あの犯人も、まだ見つかっていないと聞いています」

 

 “彼女”は、面倒事の事例として、中央の学園で発生したトラブルを挙げ、8人のウマ娘の目を見た。なお、このトラブルは“彼女”が起こしたものではない。

 

 そして、この8人は、現在の中央の中では未勝利戦で勝ちきれないレースが続いており、夏合宿にも参加しない予定……という、状況であった。

 

「………このままでは、皆さんは、夢を諦めることになりかねません!…それは、皆さんもお分かりなのでは…?」

「……」

「…勝負の世界は厳しいし、私達もそれをわかっています……ですから、夢を諦める事になっても、それは当然のことです」

 

 一人のウマ娘が、半ば諦めたような表情をして、そう返答した。

 

「………でも、それは、皆さんが今の中央に、希望を抱いていないからではないのですか?先日公開されたあのプロジェクト………あれがガス抜きであったことは、明白ではないですか?」

「……」

 

 ウマ娘達は、黙っている。

 

「……皆さんだけではありません、少なくない数のウマ娘が、現在の中央に対して、思うところがあるのです。大人の都合で振り回されて、その結果…意欲を失う……悔しくないのですか!?」

 

 そんなウマ娘達に“彼女”は訴えかけた。

 

「……中央(ここ)で上手くやれないからと言って、レースから退く必要はありません!倫理的に間違っている事を、やる必要もありません!皆さんは、まだまだ活躍できます!……皆さんにも、走る権利が、輝く権利があるんです!」

「………!」

 

 ウマ娘達の目には、“彼女”がまるで自分の事のような表情をして訴えかけている姿が映っていた。

 

「……私達が力になります。ファンの方々に、そして、今の中央の方々に……皆さんがまだ、活躍できる事を……見せましょう」 

 

 “彼女”の話術は、年月が経とうと衰えない。

 

「……あなたの言う通りかもしれません」

「我々もまだ、大好きなレースを続けていたい」

「我々のスカウトを、お願いします!」

 

 他のウマ娘達も頷く。

 

「……皆さんのお気持ち、しっかりと聞かせてもらいました。私はもう、皆さんを中央の生徒とは思いません。我が名古屋トレセン学園の一員として、共にレースに臨む仲間として、これからよろしくお願いします………これから、共に頑張っていきましょうね」

 

 むしろ、レースを引退して普通の社会の中で暮らした事により、その力は現役時よりも高まっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じ」

「なるほど……そう言えば、その方々のお名前は?」

「あ、そうか、人数しか言ってなかったのか…ホーネットネスト、スプラッシュマリン、コンクリートソウル、プラグロマネスク、マグマボンバーズ、ギャラクシーテール、ジュエルクレイモア……合計8人、きっと、私たちとって、役立つ人材になるよ」

「そうですわね………私どもには、優秀なウマ娘が居るとはいえ、まだまだ数が少ないですから。外部からの人材は、重要ですわね」

「うん、これから楽しくなるよ?」

 

 私たちは期待に胸を躍らせ、これからのことを想像した。

 

「ええ………そして、ガス抜き目的の中央の新プロジェクト…グランドライブ…………ですか……」

「うん……中央のウマ娘の新たな目標、全校生徒がライブに参加をする事で、ファンに感謝を伝えることができるイベント………私、主催者知ってるんだよね」

「そうなのですか!?」

「うん、アグネスワールドが目をかけてた後輩に、未勝利戦で負けたウマ娘だよ、このライトハローっていうのはね」

 

 ライトハロー、アグネスワールドが目をかけていた後輩に敗北した、歯磨き粉みたいな名前のウマ娘である。

 

 パワープレーができそうな体の作りであったのに、それを出来なかった……そして、それを思いつかなかったトレーナーがいた、まあ、不運なウマ娘である。

 

「……彼女は、物事を短絡的に考えすぎですわ」

「私もそう思う、ファンに感謝を伝える方法は、ライブだけじゃない。自分の足で歩いて、話して、自主トレしてるところを観てもらって……そうやってまずファンを作る、それでもって、感謝を伝えるときは、そういう人の事を第一に考え、直接お礼を言いに行ったりする。あと、ライブするだけなら、野外ステージを借りられるはずだしね……こういうのが、ファンに感謝を伝えるってことなんだよ。それはスターであれ、勝てないウマ娘であれ、変わらない」

「…よく分かる話ですわ、私も、よくやりましたし………このやり方では、自尊心を傷つけられるウマ娘もいますわ。」

 

 私がスカウトしてきたウマ娘は、勝利を重んじすぎた現在の中央に不満を持っていたところを、グランドライブプロジェクトの開始を受け、それがさらに高まったウマ娘達である。とどのつまり、アサヒクリークの言う、自尊心を傷つけられたウマ娘なのだ。

 

「それに、何と言っても、レース以外の方法……“今さら気づいたところで遅い”ですわ……私達は、先を読むことを重要視してきたのですから」

「そうだね、こっちはもう、いろいろとやって、成果も出しちゃったし」

「ええ、ですから、この動きに対し、私どものやることは、必要最低限……されど、的確に」

 

 ライトハローには悪いが、こちらの生徒となったウマ娘達の気持ちを尊重する以上、グランドライブというものを成功させるわけにはいかない。私自身潰したいし。

 

「じゃあ………」

「ええ、本部の広報課に、来月号は、“生徒と地域”や“ウマ娘とファンの関わり方”についての特集はどうであるかと申し入れておきますわ」

「中央の近くの本屋さんに並んだ時が楽しみだね」

 

 私達は中央の人間じゃないから、決定権は当然ない。

 

 だが、自壊のお膳立てはできる。

 

「ええ…それと、今度の菊花賞………獲りにいきたいところですわ」

「うん、私が走らなかったレース……知ってる娘が獲ってくれたら、嬉しいことこの上ないからね」

「さて…こうしてはいられませんわね、行きましょう、こちらも夏以降の計画の最終調整をしなければ!」

「早い早い!まだ、紅茶蒸らせてないから、ゆっくり飲もうよ」

 

 私は、アサヒクリークの掲げる“地方の下克上”に協力している。

 

 当初、私は、戦闘狂の彼女のことだから、下克上とはレースのことのみだと思っていた。

 

 だが、現実は違った。彼女は、レースだけでなく、文化面、技術面、これから社会に出る世代を育てる学び舎としての教育……あらゆる面で、中央に勝とうとしている。

 

 つまり…日本のウマ娘レース=トゥインクルシリーズという、常識、図式を破壊(へんかく)しようとしているのだ。

 

 大変な道だが、私も楽しませてもらうとしよう。

 

 

 

 

「…ふぅ…」

「テレビでもつけよっか」

 

 アサヒクリークを落ち着かせた私は紅茶を淹れて一息つき、さらにテレビをつけた。

 

「そう言えば、貴女がよくコーヒーを頂いていたという手袋の店…どうなりましたの?確かめてみると言ってましたわよね?」

「ブティックになってたよ、話を聞いてみたんだけど、ブティックになる前の店…まぁ、手袋屋の店主は急に衰えて、そのまま………な最期だったみたい」

「貴方の本の影響……なのですか?」

「どうなんだろうね?ペンは剣よりも強いのは確かだけどさ」

「文化を創るペンで、矢のように人を射抜く………これからもその力、頼りにしてますわよ」

「もちろん」

 

 私は彼女を裏切りはしない。

 

 彼女はシンボリルドルフのように愚かではなく、スペシャルウィークのように鈍くはなく、グラスワンダーのように優しすぎない。

 

 朝倉 滴だった頃の私が学んだ、真の武士道を理解している。

 

 使えるものは何でも使い、一つの手にこだわりすぎない。できる範囲で、グレーな方針も考える。

 

 とどのつまり、ウマが合う。

 

『現在、コーヒー豆の価格相場が値上がりしています、原因としては生産地の異常気象による──』

「そういえばさ、いま出てるコーヒー以外にも、紅茶とかの輸入食材、あと金属、高くなってるってこのあいだ言ってたけど……」

「ええ、フキさんがそのことについて、週初めの議題に挙げていました。金属の方は供給の目処がつき始めています。ですので私としては、特に小麦、燃料が心配ですわね、これは食堂と寮からも上がっています」

「……確かに、食事と風呂は生命の洗濯だからね……」

「ええ」

 

 そして、名古屋トレセン学園は、下克上を支えるべく、生徒のリフレッシュに力を注いでいる。アサヒクリークの心配ごとは妥当だろう。

 

 ──フキ、最近就任したウチの生徒会長、ライムツチフキのことである。“土吹”と勝負服にでかでかとかいており、コースによく出てウマ娘達の状況を確認する事が多い、現場主義の人物だ。彼女のことであるから、実際に街に出て確かめたりしているのだろう。

 

 というか、やっぱりこの学園、漢字で名前を表記できる生徒が他の学園のそれより多いな。あ、金沢も同じか………本題から逸れてしまった。

 

「まあ、今のところ大規模災害は無いし、私のお父さんがかかったような流行り病も無いから、急にドカンと上がるようなことは無いと思うよ………まぁ、強いて言うのなら、ウクライナとバチバチのロシアがやらかさなかったら──」

『速報です、先程、ロシアのウラジーミル・イルチョフ大統領が、ウクライナ東部で“特別軍事作戦”を開始するとの声明を発表しました』

「………」

「……やらかしましたわね」

「……はぁ…」

「…クロさん、フキさんに連絡を、なんだか嫌な予感がしますわ」

 

 やれやれ、予想外のトラブルが、また舞い込んできた。

 

 だが、私のやるべきことに変わりはない。

 

 成すべきことを成す。

 

 最終的な、破壊のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イルチョフの行動は、様々なものの値上げという形で、ウマ娘レース界にのしかかった。特に食事は大きな課題となった。人間に比べて大食漢なウマ娘は、当然食費も桁違い。もし食費が倍になれば、財政は傾くどころか、ちゃぶ台のようにひっくり返る。

 

 なので、私達は資金調達やら、食材、燃料、資材の価格交渉やら、他の地方トレセンとの連携やらで大忙しだった。グランドライブ潰しも当然ストップである。

 

 そして、状況が安定してきたある日、私はアサヒクリークと共に、身寄りのない子供達の保護施設に向かっていた。いや、付き合わされたという方が正しいだろう。

 

 会うのはウマ娘である。

 

 すでに試験はパスしているが、そのウマ娘は孤児である……スペシャルウィークのように母親の友人が養母となって育てたわけでもない。

 

 こんな境遇のウマ娘は、アサヒクリークの代になってから初である。

 

 そのため、彼女は自らウマ娘の育った施設を見学して、きちんと“帰る場所”となっているのか確かめた上で、そのウマ娘と接触しようとしているということである。

 

 ……もっとも、なぜ私を連れて行くのかは、謎だが。

 

「今日会う娘はどんな娘なの?」

「小学3年生の時に母親を病気で、4年の時に父親を過労で失っていますわ、食費のかかるウマ娘……親類は預かることを嫌がり、この施設に預けられたそうです」

「……大変だね、他の情報は?」

「残りは会ってからのお楽しみですわ、最近貴女、退屈そうですもの」

「分かったよ」  

 

 今の私はスカウト関連の部署から離れている。だから、こうして同行することはできても、アサヒクリークが会うつもりのウマ娘の資料を、自ら見ることのできる立場にない。まあ、アサヒクリークが許可すれば見れるのだが…

 

 そして、中央についてだが最近は特に何も起きていない。グランドライブの主催者、ライトハローがおとなしくしているらしいのだ。まあ、想像はつく、イルチョフのせいで色々なものが値上がりしたのだ。こちらがグランドライブ潰しをできなかったように、向こうもそれを進めている余裕がなかったのだろう。まあ、光熱費高そうだし。

 

 …すなわち、アサヒクリークは、つまらなさそうにしている私の事を察し、この行動に出たということだ。

 

「こちらにいます」

「ありがとうございます」

 

 施設の見学を一通り終え、職員に案内をされて、応接スペースに通される。そこには、緊張した様子でウマ娘が座っていた。

 

「…こんにちは、私が名古屋トレセン学園、理事長のアサヒクリークですわ」

「私は、教官の─────です」

 

 アサヒクリークに続いて、私も挨拶をする。

 

「…プ…プリセットゼロです…よ、よろしくお願いします!」

 

 そして、目の前のウマ娘は、自らの名前を名乗った。私はその名前に懐かしいものを感じていた。

 

「そんなに緊張しなくても良いですわ、今日は面接ではないのです。貴女のありのままの気持ちを、聞かせてもらいたいだけですわ」

 

 そして、目の前のウマ娘は尾花栗毛である。

 

 もしかすると…アサヒクリークは…

 

「良い名前ですわね、ではお聞かせ下さい、貴女はどうして、我が学園に?身体能力の調査によると、貴女は中央も狙えるレベルですわ。」

「は…はい!私は、何事も堅実に取り組むよう、教わってきました。それに、私は芝よりダートの方が、走り易く感じています。あと、名古屋トレセン学園の理想とする生徒像の一つに“着実にやるべきことを進めることができる生徒”があるので…私は自分の適性と、受けてきた教え、学園の文化の3つの理由から、名古屋トレセン学園を選びました」

「ふむふむ…教え…ですか、その教えは、誰から?差し支えなければ、教えてくださいませんか?」

「お母さんからです。お母さんは、元々競走ウマ娘を目指してたんですけど、デビュー出来なくって……産まれた私には、“何事も高望みをしすぎては駄目、しっかりと計画を立てて、力をつけろ”って」

「なるほど…お母様は、名古屋でレースを?」

「いえ、中央です」

 

 ……!

 

「中央ですか………確かに、以前の中央は今よりも魔境でしたからね…デビューも難しかったのでしょう……心中、お察しいたしますわ」

「…でも、お母さんは、高望みをしすぎたこと以外は、あまり後悔していませんでした。」

「……そうだったのですね…それは一体…なぜですか?」

「……中央を去る日、どういう訳か…最後の選抜レースで走ったウマ娘が、お礼をしてくれたみたいなんです」

 

 まさか…!?

 

「それで…その……ウマ娘は…その…あの…」

「誰だか存じ上げでいるようですね、言っても構いませんわ、中央の方の名前を出されても、怒ったりはしませんから」

「…………“白黒の破壊者”なんです…」 

「……あの…白黒の破壊者…なのですか?」

「はい、みんなは色々と悪く言ってますけど…お母さんは言ってました。“どういう形であれ、あの時の自分を一番見てくれていたのは、白黒の破壊者”だったって、それに、レースが終わった後も、再戦をしようと声をかけてくれたって……」

「……そうだったのですね」

 

 そうか、私の一冊目の本は、良いウマ娘を演じていたから、選抜レースでの一連の行為を入れていなかった。だから、私の意図は、誰にも分からないのだ。

 

 しかし…まさか……お互いに勘違いしていたとは…

 

 変わったことも、あるものだ。

 

 そして、そこからのやり取りの内容は、よく覚えていない。

 

 

 

 

「……まさかね」

「だから、お楽しみと言ったでしょう?」

 

 帰りの車内、私達は今日のことについて振り返っていた。

 

「実は私も、驚いていたのですよ?」

「………」

「……彼女を見て、どう思いました?」

「…母親の面影はあるね、姿…そして、あの目」 

「………プリセットメモリは、あなたにとって、恩人なのでしたよね?」

「…そうだね」

 

 信号が赤になり、車を止めたアサヒクリークは、こちらを向く。

 

「グランドライブのことは、しばらく置いておきましょう、私達が何かしなくても、スカウトしたウマ娘達、中央側の人々が何かしらうまくやってくれますわ。」

「……まあ、私がスカウトしてきた娘達も、随分と成長したしね」

「クロさん、少し、休憩するとしましょう」

「……」

「……私達の旅路は、まだまだ続くのです。少しぐらい、寄り道をして、息抜きをしたって問題ありませんわ。一番の恩人に、恩返しをするなら、尚更です」

「……」

「メイショウドトウさんとの日々、貴女にとっては、刺激的だったのでしょう?」

 

 アサヒクリークは、そう言うと、車を発進させた。

 

 確かに、私は、メイショウドトウの育成に関しては本気だった。というか、本気になっていた。

 

 だから、私のレース生活に関する哲学だって、少し教えたりしたのだ。

  

「………妹みたいに思ってた…可愛がってた……否定はしない………あなたは凄いね、うん」

「大名が家臣の心を知らずして務まるとお思いで?」

「いや……大名が家臣の心を知らないと、お寺ごと燃やされちゃうかもしれないからね…………しばらくは羽休めするよ」

「ええ、これからも期待していますわ」

 

 私が中央で過ごしたのは、4年間である。この名古屋トレセン学園でどれだけ過ごすのかは分からないが、今の時点で中央より長い時間を過ごしている。そして、これからもそうなのだろう。

 

 ならば…これからの事を考えれば、少しここいらで休んでおくのも良いだろう。

 

 よし、しばらくは流れに任せ、こちらはこちらで恩人の忘れ形見を育て上げることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

『……なるほど…では、羽休めをするというわけだな』

「うん、グランドライブについては、そっちの流れを見るだけにするよ、定期的に連絡してくれると嬉しいかな」

『分かった。今は変わらず、あまり進んでいない』

「はぁ……イルチョフめ…やってくれるよ、ホントに」

『私もそう思う…だが、こちらの動きが鈍くなっているということは、君もゆっくり羽休めができるという事だ、また、私に話を聞かせてほしい物だな』

「了解、それじゃあね」

 

 よし、白子にも伝え終えた。

 

 イルチョフのやらかしにより物価高が起き、地方も、中央も、対応に追われた。つまり、停滞したのだ。まあ、私が名古屋に来てから今までの状況を振り返ってみると、まあ、限りなく平和な方の状態であるとは言える。

 

 ただ、羽休めといえども、この平和な時間をムダにはしない。

 

 それはそうだろう。

 

 “平和”なぞ、戦いのための準備期間に過ぎないのだから。




お読みいただきありがとうございます。

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追記

主人公の名古屋編は、あくまでおまけのような位置づけのため、ダイジェストのような形式となっています。どうかご了承下さい。
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