転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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今回の話は最初と最後がメインの内容です。


第54話 -衰微-

 

 

2026年 3月20日

我が学園にも多大なる影響を及ぼしたウクライナでの戦争が終わった。やるべき事は、数多ッ…!

 

 

2027年 4月15日

本日、たづなとともに名古屋トレセン学園の見学に赴く。第二トレーニンググラウンドのウッドチップコースで、多数のウマ娘を確認。非常に士気は高いッ…!

 

 

2027年 11月9日

G1を制覇したウマ娘に接触、名前はプリセットゼロ。この尾花栗毛のウマ娘のスカウト計画を立案ッ!

 

 

 

2027年 12月2日

プリセットゼロ側の返答は拒否ッ…ひとまずここは引き下がり、再び機会を伺うことに……

 

 

2028年 1月1日

迎春ッ!といきたいところだが、そんな時間はない。グランドライブは……もう駄目かもしれない。

 

 

2028年 3月25日

新年度を前に、グランドライブの永久凍結が決定、ライトハロー君はとても悲しんでいた。だが、わたしは悲しんではいけない。

 

 

2029年 8月1日

中央本部における、成長を続ける地方トレセンへの対策会議に出席。地方でのスターウマ娘の出現が常態化している事を再認識した。

 

 

2036年 11月25日

今日、本部へと赴いた。

地方学園出身の衆議院議員が出た事を、学園運営部長に伝えられ、卒業生から議員が出せないのかと詰められた。そんなこと、わたしの力で出来るはずがない。地方から中央に一度移籍してきた生徒のことなので、躍起になるのはわかるが、どうしようもないことは、どうしようもないのだ。

 

 

2037年 9月5日

久しぶりに、ルドルフと食事をした。

会うごとに疲れの色が増しているのを、ひしひしと感じる。

だが、わたしがそれを指摘したところで、彼女が快方に向かうかと言うと、それは違う。

彼女は、白黒の破壊者の事を、誰よりも悔いているのだから。

 

 

2044年 5月1日

生徒の質が年々落ちてきているという、スカイからの報告が、わたしの頭を離れない。

 

 

2048年 3月20日

ルドルフ、スカイ、海老谷、西谷………数えるときりがない。

学園は修復できても、彼女たちは、もう、戻ってこない。

そして、今日、たづなが、わたしのもとを去った。「相談したいときは、いつでも連絡をくださいね」そう、わたしに伝えて……

 

 

2057年 5月2日

酷い夢を見た。白黒の破壊者が蘇り、再びレースを戦うという夢だ。 

…だが、この事を本部の人間に話しても、残念ながら、鼻で笑われるだろう。結局、直接彼女をほとんど見たことがないような者にとって…彼女は、過去の遺物なのだ。

 

 

2068年 2月26日

グラスワンダーが亡くなったとの連絡を受けた。彼女についてよく知る人物を、わたしはまた一人失った。

なぜ、わたしは彼女に、もっと関わろうとしなかった?

後悔しても、しきれない。

“彼女”は消えた。

“彼女”に関する記憶も、薄れていく。

 

 

2069年 12月31日

今年は名古屋トレセンの活躍が目立った年だった。あの学園は見事、世代交代に成功した。

 

では、わたし達は………

 

 

2070年、1月4日

三が日を使い、学園の現状を確認してみた。

生徒も、トレーナーも、優秀な人材は多い、ただ、どうも柔軟性が欠けているのだ。

柔軟性をもたらす源泉……それは一体……

 

一方地方はどうだろうか。

あちらは元々は、学園の地元愛が盛んだった。しかし、様々な地域から生徒が集まるようになると、地元愛をアピールする事と同時に、生徒の属する文化の交流の場となることが必要とされ……事実、今の地方学園はそうなった。それを形作ったのは、名古屋のアサヒクリークらだった。

 

もしかすると、白黒の破壊者の破壊を受け、その破壊の痕跡を新たな偉業をもって消し去ることを望み、傷つきながらも前に進むことを選んだわたし達は、その方向性を……

 

 

 

2070年 4月20日

5月6日はダートグレードのG1なのだが、直々に観戦しに行くことになった。

ここのところ交流レースに出てこなかった、名古屋の生徒が出走するからだ。

 

 

2070年 5月6日

レコードを出された

 

名古屋トレセンは強すぎる……

わたしの手には負えない…!

 

 

2070年 5月7日

今までは、なぜ理事長になってから、こうも不幸が続くのかと悩んでいたのに、この間ひょいと気が付いてみたら、わたしはどうして理事長などになったのかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2070年 5月8日

一晩中考え、やっと理解できた。

 

わたし達は、地方に対して、色々なアクションを起こしてきた。

 

オグリキャップなどの多くの優秀な生徒を引き抜き、ダートグレードの交流競走を増やし、生徒間の交流も進めてきた。

 

中央に落ちた生徒が、地方に進学することもあった。うまくやれなかった生徒が、地元の学園でやり直す事もあった。

 

わたし達は地方を振り回した、そして、地方はそれに順応した。そして、じわじわとだが、それを逆に利用していったのかもしれない。

 

わたし達が自分たちの事で手一杯のなか、地方のレベルは、一部の選手が、何とかG1で戦えるようなレベルではなく、G1に出る選手は、皆わたし達中央の選手と対等に戦う事ができるレベルまでに至った。

 

すなわち、わたし達は、レースを盛り立てようとするあまり、自ら、最大の敵を育ててしまったのだ。

 

そして、その敵の勢いは、もはや、とどまることを知らず、組織も違う故、こちらから手を出して止めることなど、到底できない。

 

『トゥインクルシリーズは、強力で、限界のない、一度使われると制御不可能となるような何かを、生み出すことになる』

 

わたし達は、白黒の破壊者のこの言葉を、自ら実践してしまった。

 

わたし達が、心の何処かで軽んじてきた存在は、だんだんと大きくなり、そして今、わたし達を飲み込まんとしている。

 

私達は、あちらに、逆に利用されていたのだ。

 

……これでは、同じではないか…………

 

黄金世代と、銀翼のウマ娘の時代と…

 

歴史は繰り返されてしまった。

 

どれだけ酒を飲もうが、ノートやらペンやらを壁に叩きつけても、この事実は、変えようがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはやこれまでだ

 

 

 

 

 

 

 

──秋川やよいの手記より(一部抜粋)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠居した後のある日、愛車を磨いていると、白子から電話がきた。まさかの国際電話である。

 

『…クロウ君、久しぶりだな』

「………久しぶり、だいぶ声が年老いてるね」

『それは君もそうだろう?』

「まぁね……今、何を?」

『世界旅行だ』

「へっ?」

 

 全く…この男は……

 

『トレーナー時代に稼げるだけの金は稼いだ。理事長も変わり、慰留される心配も無くなったのでな』

「…あの理事長か…」

 

 彼女は、最後の最後で“逃げやがった”のだ。

 

『悔しいのだな?』

「もちろん………“終わりを看取る”…これは、人が最も悲しみや淋しさを感じる時なんだから」

 

 母親の時がそうだったし、グラスワンダーの時も、“してやったり”の情と同時に“もう壊すことはできないのか”と感じたのだ。

 

 さすがにこの辺りは他の人間と同じであると信じたい。

 

 まあ、あの理事長は“逃げた”のだが。

 

 それを知った時はテイエムオペラオーを見習えよと言いたくなったものである。

 

 なぜなら、彼女はまだ、怪我から復帰するウマ娘の支援団体の代表を続けているのだ。

 

 夢がメイショウドトウに掻っ攫われてズルズルと落ちていったナリタトップロード、菊花賞後に引退していつの間にか学園を去り、胃がいつの間にかいかんことになってそのまま……なアドマイヤベガの存在が、彼女をその立場に縛り付けているとも言えるだろうが。

 

 胃がいつの間にかいかんことに……シンボリルドルフは笑うんだろうか。

 

『…なるほど』

「それで、どうして世界旅行なんかに?」

『単純明快だ、これからは、この星の自然や文化を、この目に焼き付けさせてもらおうと思ったのだよ、一応、これまで、真剣にトレーナーとして働かせてもらったので、余暇はあまり使えていなかった。』

「水戸黄門みたい…………てっきり富士田トレーナーとくっつくのかと…」

『彼女はあくまでビジネスパートナーに過ぎん、想いは伝えられたが、丁重にお断りしておいた』

「即答……かわいそう…」

『仕方が無い、彼女には世話になったが、それはそれ、これはこれだ』

「……年を取ってるのに一人で大丈夫なの?」

『ああ、身体は鍛えてある……それに、私は歴史の立会人に過ぎん、自分の見る演目が終われば、一人、どこかに立ち去るのが筋というものだ』

 

 なるほど、だから私が隠居して旅に出たのか……だが、世界旅行とはスケールが大きい。

 

「なるほど……じゃあ、今はどこに?」

『オーストラリアだ、ロイヤル国立公園を見に来ている』

「ええ…オペラハウスとかじゃあないんだ……」

『ああ、この旅では、私が今まで見れなかった物を、可能な限り、見ておきたい。特にここはそうだ。いつ、この大自然が消えるか分からないのでな』

 

 多少大げさだな。

 

「……そんな、いきなり、ミサイルやナパーム弾が撃ち込まれたりする訳でもないんだし…」

『フッ…まあ、確かにこれは私の考えすぎだと言える』

「でも、それなりに自然好きなんだね、意外だった。どっちかと言うと機械に強いイメージがあるからさ」

『ああ、優美な自然……トレセン学園(女たちのところ)よりは、リラックスできるだろう?』

 

 まあ、確かにそうだ。あんな年頃の女性だらけの場所、並みの人間ではきついものがある。身体能力的にも、ルックス的にも、鯱の群れに鮫を入れるようなものだ。

 

「……まあね、足滑らせて怪我しないようにね、その年で、そっちは普通の人間…コケたら怖いよ」

『ああ、気を付けておく……』

 

 ふと、白子が黙った。どうしたんだろうか?

 

「…どうしたの?」

『……君とは、これっきり、最後になるかもしれない。だから聞いておく、君は僥倖を信じるか?』

「……もちろん、むしろ、私の人生を表すものって言っても、過言ではないかな」

『……なるほど……その僥倖に、私は入っているか?』

 

 ……そりゃあ、そうだろう。

 

「当たり前だよ、好きにやらせてくれたんだから………あなたにとっても、私の存在が僥倖であれば、嬉しいけれど」

『ああ、君のお陰で、私は、色々なモノを見ることができた。今、こうして地球の自然を確かめる旅に出ることができているのも、君のおかげだ。……心からお礼を言わせてほしい、ありがとう』

「こちらこそ、ありがとう。旅、ゆっくり楽しんで」

 

 私がそう言うと、電話は切れた。

 

 もう会えないのかと思うと、少し寂しい。

 

 最後まで不思議な男だった。

 

 幸運を祈るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白子の電話から数年、アサヒクリークの夫が死んだ。だから、私達夫婦はアサヒクリークの家に移り住んだ。彼女の家族はもうすでに独り立ちしていたので、寂しいだろうと、夫が心配したのである。全く……私にはもったいないぐらいの、優しい男だ。

 

 アサヒクリークの家には、多くの者が訪れた、トレーナー、職員、教え子が……

 

「……なるほど、良い計画ですわ、人材捜索は、やる他ないですから」

「では……」

「……ええ、私も援助を致します」

「ありがとうございます、ご隠居様!ですがもう一件──」

 

 顔ぶれは学園にいた時代と変わらなかったが、“上様”が“御隠居様”に変わっていた。

 

 今回の相談は、ウマ娘用の新しい蹄鉄や勝負服などの装具を試すテスト役の確保だった。私が現役の頃は、この頑丈な身体を活かしてテスト役を請け負っていたのだが、私は引退、私の後任はいるにはいたが、家庭の事情で辞めてしまったため、代わりが見つからないという事だった。

 

 だが、募集にもコストがかかるため、こうして支援を仰いできたというわけである。

 

 まあ、こういう学園運営の相談がメインだが、中には生徒やトレーナーが相談に来る個人的な話題もある。

 

 “スランプ中はどうすれば良い”や“食欲と身体のバランスを取りたい”のような基本的なものや、“トレーナーが気になって仕方が無い”などの色恋の相談、“ウマ娘の教官をもっと集めるにはどうすれば良いか”等の学園運営に関するものもあった。

 

 もちろん、私達夫婦も、その場に同席していた。

 

「今日も、多くの方が来られましたわね…」

「姉上、お疲れ様です。しかし……やはり姉上は立派です。隠居の身分であれど、多くの人に慕われている」

「これも、貴方やクロさんのお陰ですわ」

 

 アサヒクリークは、お茶を飲みながら、そう答えた。

 

「───さん、先ほどの畑の話、どうしますか?後任の話も大事ですが、今後のことも考えると、畑の方を先に考えるほうが良い気がします」

 

 アサヒクリークの言葉を聞いて満足した夫は、続いて私に声を掛ける。

 

 この畑の話というのは、最近名古屋トレセン学園の畑に侵入している野菜泥棒のことである。

 

 もちろん、学園の畑ということもあり、暗視カメラで必要最低限の監視はしているが、見えにくい部分から入ってきているらしく、効果は薄いという。

 

 ……かといって防犯装置の増設には時間がかかりすぎる。まあ、そもそも野菜を盗むような輩が今までほとんどいなかったので、防犯にほとんどコストを掛けていなかったそうだ。

 

「……足跡は普通の靴、でも…持っていかれた量が多い、犯人は多分ウマ娘…」

「……では、何とかして捕まえる必要がありそうですね、警察はいつも人手不足ですから、現場を押さえて捕まえ、突き出すぐらいはしなければ」

「もちろん、久しぶりにあれを使おうか…」

「アレ…?まさか、オート5*1じゃないですわよね?」

「違うよ、そんなことしたら免許取り消しどころか、捕まるよ……使うのは服の方、私が現役の時に着てたトレーニングベスト、まだ取ってある、犯人がナイフとか持ってたら危ないからね」

「もしや……───さん、犯人を捕まえに行くつもりですか?」

「もちろん」

「──さん…年を考えて下さい……」

 

 夫がため息をつきつつ、そう言う。アサヒクリークの影響を受け、容姿や身体能力には気を使っているため、年齢よりもかなり下には見られる………が、心配なのだろう。

 

「あら、そうだとすれば、私も行きますわ」

「姉上もですか…!?」

「もちろん、安全には配慮しますわ」

「……何が、お二人をそこまで駆り立てるんです」

「畑の隣に、鶏小屋がありますわ…あそこの鶏は、クロさんがここに来た時連れてきた鶏の子孫です。心なき盗賊にそれが奪われるのは見過ごせませんの、それに、素早く人参や大根を盗んでいく相手です。見てみたいものですわ」

「……そういうこと……──さん。行っても…良いかな?」

 

 真面目な夫だ、申し訳ないという自覚はある。頭を下げて頼み込む。

 

「……では、僕も行きます。……ただ、畑の管理職員の方についてきてもらって、危なくなれば加勢や通報をしてもらいます」

「…ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そちらはどうです?』

「大丈夫」

『──さん、準備完了です。』

「ありがとう」

 

 パターンから予測すれば、そろそろ相手も調子に乗り始める頃…

 

 そんなタイミングで、私達は張り込みを行う事にした。

 

『………──さん!北西側の端に移動してください!カメラに影のようなものが映りました』

「了解…」

 

 通信機から入る、夫からの指示をもとに、移動をする。

 

「柵の一番上だけ壊れてるねぇ……」

 

 ウマ娘のパワーなら、柵の一部を壊すぐらい容易い。侵入経路はここだろう。

 

「よっこいせっと…」

 

 私も畑の中に入り、足跡を辿って追いかける。今回は蹄鉄シューズの跡がある。やはり舐められ始めたか。

 

『くれぐれも気をつけてください』

「もちろん…!」

 

 久しぶりの緊張感…数年ぶりの狩りである。

 

 ただ、今回は相手を生かさないといけないので、少し難しい。拾った小石とフカフカした土をうまく利用する。

 

「よし…大量…!」

「じゃあこの先のじゃがいもを…」

「いやこの間見た鶏を…」

 

 聞こえた、最低三人。

 

 数は十分だ。

 

 忍び寄る……

 

「……あなたたち、そのお野菜、どうするつもり?」

「………!」

「なっ!?」

「誰…!?」

 

 相手は驚きながらも、ライトをこちらに向けてきた。一人鉄パイプを持っている。

 

「……どうやら、おばさんの様じゃのう…」

「………何処の誰だか知らないけれど、怪我しないうちに帰った方が良いわよ」

「そうそう…痛い目見たくなければね」

 

 やれやれ、見くびられたものだ。ホントはお婆さんである。

 

「……………ふッ!!」

 

 ヒュン ガチャ!

 

 睨みつけて怯ませ、小石を投げてライト()を潰す。

 

 ガシッ

 

「ああああっ!!」

 

 混乱した隙に、まだ目が暗闇に慣れない鉄パイプ持ちを狙い、服を掴んで投げ飛ばし、すかさず飛びついて尻尾を握って力を弱らせる。噛んでも良いが、多分千切れ飛んでしまう。

 

 それと、少し握るのが遅れた、身体の反応が少し遅いか。

 

「ふんっ!」

 

 奪った鉄パイプは、誰もいない闇の中に遠投する。

 

「…!!」

 

 …思ったより遠くに行かなかった、パワーが落ちたな。

 

「っ!」

 

 だが、動きは止めない、投げ飛ばした奴を拾って動揺する二人目に思い切り投げつけ、伸びさせておく。

 

「……く、来るなぁ!」

 

 最後のやつは蹴りを出してきたので、足を掴んでシューズを奪う。バランスを崩した身体は適当に押して地面に倒しておく。

 

「……………」

 

 ギジッ グヂッ…

 

 最後は蹄鉄を剥ぎ取り、少し苦労しながらも捻って引きちぎる。

 

「…あ…あ…あ…」

 

 こちらの力を見て、相手は戦意喪失をしたようである。

 

 だが……まだ終わりではない。

 

「そこの2人目さん!」

 

 何とか立ち上がった奴の方に振り返って手を掴む……

 

「…………ッ!」

「どうしたの……力比べが望みじゃあないの…?」

「いいいいっ!?」

「……!」

 

 握力でビビらせた後は、トドメに、そいつの目の前にチョキを出し、目潰しのフリをして尻餅をつかせた。

 

 終わりだ。

 

 イノシシの方がしぶとい。

 

「………すっかりパワーと反応が落ちてる…いけないなぁ…………」

『……終わりましたか?』

「あ、うん。犯人捕まえた、ただ、伸びてるから、家まで運ぶよ」

『了解ですわ!』

 

 今回は捕まえることができたから良かったものの、やはり身体能力が落ちている。

 

 …いや、まあ、現役を退いたのだ、当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうか…教えてほしい、未来ある若者である…君たちが何故、あんな盗みを働いた?」

「……」

「ワシらの気持ちなぞ、誰にも分からんわい」

「……」

 

 尋問開始から30分である。どこから来たとか名前とかを聞いてはみたが、ほとんどだんまりである。完全に警戒されてしまっている。

 

 まあ、質問している人が違うとはいえ、先程まで戦っていたおばさんが目の前にいるのだから、仕方が無い。

 

 これ以上理由を聞こうとしても、言うことはないだろう、無理矢理吐かせる方法ならいくらでもあるが、やらない。

 

「………」

 

 夫がこちらに目をやる。

 

 作戦を変えて攻めるつもりなのか。

 

「…そう、君たちの気持ちは…分からない………でも、一つだけ、わかる事がある…それは、君たちの手腕は…実に見事だったということ」

「……!」

 

 一瞬警戒が解けたか。さっそく効果が出始めている。

 

「……警備の穴をかいくぐって、素早く潜入して、撤収する………それで…ここからは…私が予測しただけだが、そこまでして、野菜を取りに来たということは、確実に持ち帰りたいということ…………君たちには、何か…その野菜を必要とする存在がいるのではないか?」

「「「……!!!」」」

 

 やれやれ、正直な耳と尻尾だ。私も話したいが、さっきああしたばっかなので、あと2人に任せる。

 

「…………別に、私たちは、をいきなり警察に突き出そうとは思っていないのです。それなりに納得できる理由を正直に示してもらえるなら、貴女方に、その野菜をあげても良いと思っていますわ………」

 

 アサヒクリークが、屈んでそう言う。

 

「……………………小さな…子供が…何人もおる…」

「…ッ!」

「……ダメだよ!」

「仕方が無いじゃろう!ここでワシらが捕まってみろ!アイツらは苦しむだけじゃ!」

 

 よし、良い子だ。

 

「……なるほど…子供……………なるほど、君たちが何度も侵入してきたのは…そういうことか………でも…君たちは一応、働ける年齢のようだが…」

「もちろん働いておったわ!じゃが、この間の台風の洪水で、ワシらの仕事場は潰れた!」

「この間の台風………か…」

「……でも、この間の台風はここではなく、東京直撃でしたわ、貴女方はつまり、東京に出稼ぎに出ていた……という訳ですか?」

 

 やれやれ、まるで江戸時代だな。まあ、前世より人口減少のペースは低いとはいえ、それでも人口がじわじわと減って首都圏に集中が進んでるから、仕方が無いのかもしれない。

 

「……そうよ」 

「信じておらんのなら、証拠を見せる!」

「………」

 

 ウマ娘達は、懐から写真を出す。

 

 子供のウマ娘と、野菜泥棒が写っている。

 

 私は無言でそれを受け取り……

 

「…………」

 

 ニコリとして、破り捨てる素振りをした。

 

「……止めろ!」

「…………写真は本物」

 

 私の言葉を聞いたアサヒクリークは立ち上がる。

 

「………先ほどの彼女の行動は失礼しました、私から謝らせていただきます。申し訳ありませんわ…………」

 

 まず、彼女は相手に誠意を見せた。

 

「それで、貴女方の現状は、理解できました…………私は、この方々の解放を、行っても良いと思いますわ、顔はしっかり覚えましたし………主任さんは、どうされますか?」

「……………よく、分かりません、こんな事は…初めてですから……でも…何らかの形で…弁償をしてもらわないと、他の人達は納得しないと思います」

 

 この農場主任、かなり若めである。確かに難しい質問だったかもしれない。

 

「……もちろんです。では、私に少し、考えがありますわ……貴女達、私どもの畑に入ってきたということは、この野菜は中々のものだったということですわね?」

「…………」

 

 沈黙…か……

 

 まあ、子供は味に関しては正直であるから、少なくとも悪くはなかったのだろう。

 

「…まあ、良いです……ただ、問題は、この野菜を持ち帰ったところで、あくまでこれはその場しのぎとなるだけ……根本的な解決にはなりませんわ」

 

 あ、これは展開が予測できる。

 

「……この野菜、継続的に、欲しくは有りませんか?」

「ご隠居様!?」

「………!?」

 

 農場主任だけじゃない、向こうも驚いている。

 

「………現在この学園は、新たに農場を整備することを計画しています。ただ、それにはどうしても人手が必要………ですから、貴女方を雇いたいというわけですわ……そうすることによって、貴女方は主任さん達に盗んだ野菜の弁償ができ、こちらとしても畑を素早く駆け回ることの出来る作業員を仲間に加える事が出来ます………主任さん、もし、許可を頂けるのであれば、理事長と農場のメンバーは、私が説得いたします。どうですか?」

「………分かりました。ただ、しっかりと証拠は取っておいて下さい……私はまだ、この三人を信用できません」

「それは勿論です…………さて、貴女方3人に改めて質問すると致しましょう……ここで働きませんか?」

 

 あえて“来るか、警察に送られるか”の二択としてはいないが、匂わせるものは多い、建設的な提案のようで、中々エグい質問である。

 

「………分かった…ワシらを…働かせてくれ」

「……同じく」

「……約束は、守って貰いたい……です」

 

 おやおや、利口なものだ。

 

「もちろん、約束は守りますわ、ですから、その証として貴女方の中で1名、私達の家に残って頂きたいですわ。貴女方を正式に雇うことが決定するまでは、この家の家庭菜園の世話をしてもらいます。もちろん、お裾分けもいたしますわ」

 

 一方でアサヒクリークは抜け目がない、これは体の良い人質である。

 

「……ワシが行く」

「…分かりましたわ、では、貴女方3人の名前を教えて下さい、そうすれば、そちらのお2人は、すぐに家に送り届けます」

「……セイユウアゲインじゃ」

「…アナザースズキャスよ」

「……マリンレオリターン……です」 

 

 アサヒクリークはそれら3人の名前を聞いた後、農場主任の方を向いた。

 

「…苦労をかけますが、私も責任を持ってやらせて頂きますわ……どうぞよしなに」

「分かりました、ご隠居様」

 

 こうして、名古屋トレセン学園の泥棒騒動は、穏便に解決できたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホレホレホレ!そのぐらいでへばっておっては、強いウマ娘にはなれんぞ!」

「瞬発力と判断力よ!どんな時でも、それと共にありなさい!」

「ワニが食らいつくみたいにバーッと!」

 

 あの泥棒三人組は、逃げ出すこともなく、真面目に働いてくれた。まあ、元々故郷の家族や親戚のために仕送りをする暮らしを続けていたのだから、収入源を自ら断つことなどありえない。

 

 ただ、彼女らが、私と同じ信仰で、さらに家族や親族を含めた一族で同じ地域に住んでいる事には驚いた。後者は特に思わず『隠れキリシタン』と言いたくなった。ひょっとしたら、私に言わなかっただけで、母親はこういう暮らしを知っていたのかもしれない。

 

 そして、畑が完成した後、三人組は、名古屋トレセン学園の教官兼、装具のテスト担当となった。

 

 今の今まで続けてくれているので、これからも辞めることはないだろう。

 

 なぜ、このような事になったのか?それは農作業を見ていて、あの三人は、私や母親のような、暑さとかに強い頑丈なタイプだと気づいたからである。

 

 それ故、あの三人にトレセンでの仕事に挑戦してみないかと提案したのだ。

 

 泥棒と私の後継、この二つの問題が一挙に解決したわけである。

 

 まあ、今回はあの三人に会うのが目的ではない。生徒会長と共に学園の視察である。 

 

 

 

 

 

 

 

「食堂では、農園が増えてトマトの供給量が増加しましたので、それに合わせてメニューのバリエーションも増やしてあります」

「そうですか、それで…評価はどのような感じで?」

「おおむね好評です」

 

 私達の現役時代から、食事の内容については随分と気を使ってきた。

 

 “軍隊は胃袋で動く”

 

 ナポレオンもそう言っていた。

 

「スイーツも増やしたんです、よろしければ、すぐにでも…」

「いえいえ、今は忙しいようですし、それはまたの機会に致しますわ」

 

 生徒たちを見てみると、皆、食事を楽しんでいるようだった。

 

 このレベルになるまでも、色々とあったが……それは私の頑張りではなく、アサヒクリークの手柄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足回り関連の開発はどうなっています?」

「そちらに関してはアオバト鉄鋼から、新型のネジの技術提供がありまして、そちらを利用し、現用の“コンシューマー”の後継、“コンスタント”を開発中です。落鉄防止率が向上し、ウマ娘が万全の精神でレースに出走できる助けとなるでしょう」

 

 私達はレース関連技術も磨いていた。もう、レースは才能だけで成り立つものではない。名古屋に来てからの何年か………その期間は、蹄鉄などのレース関連技術の開発が特に活発な時代だった。

 

 ただ、その技術発展の一方、ウマ娘のトレーニング方法…要するに、新技術への適合性の確保があまり研究されていない──豪華な皿に乗る出来損ないの料理のような状態が出来てしまった──という問題が生じており、それの解決に汗水流したのは、良い思い出だった。

 

 そして、その問題が解決を見た頃だっただろう、名古屋で使う足回りの名前が“Cから始まる英単語”となったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大方視察を終え、最後は新入生の視察を残すだけとなった。

 

「今年の新入生はいかがですか?」

「豊作です!特にあの娘は素晴らしいものを持っています」

 

 生徒会長は、トレーニングを受けている、新入生達の方を見る。

 

「えーと…どなた…ですの?」

「あそこの赤いリボンで髪を結んでいる娘です、名前はリヴァイブホウリン、あの教官三人衆の方と同郷の娘です」

「なるほど…」

 

 ああ、分かった。あのウマ娘、セイユウアゲインが見せた写真にいたな。

 

 彼女ら三人は公式でレースを走った事はないが、彼女らが守り育ててきたウマ娘は、こうしてレースに出る……全く、分からないものだ。

 

「……かなりの頑張り屋のようですわね、その才能を伸ばせるよう、しっかり頼みますわ」 

 

 私も頼んでおこう、面白いものが見られるかもしれない。

 

「…私からも、お願いす………っ……」 

「──さん!?どうしました!?」

 

 生徒会長が、私の身体を支えにかかる。

 

 …身体が……

 

「……身体が……少し…重い」

「急いで帰りましょう、もし倒れでもしたら、一大事ですわ」

「………」

 

 やれやれ………ようやく…されど、一気に…衰えの波が押し寄せたのか。

 

「……」

 

 これからは…無理しないようにしなければ。

 

 

 

 

 

 

*1
猟銃。





お読みいただきありがとうございます。


新たにお気に入り登録や評価をしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

主人公やアサヒクリークは「実年齢よりかなり若く見える」といった感じです。(分かる人だけの例えにはなってしまいますがマクロスのマックスとミリアやドラゴンボールの悟空やベジータみたいなのを想定しています。)

ご意見、ご感想等、お待ちしています。

次回、最終回です。
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