曾祖母は、多くの人にとって、憧れの女性でした。
もちろん私もそうでした。
小さいの頃は曾祖母とばば様の暮らす家に、よく遊びに行ったものです。
忙しくてもちゃんと会いに来てくれるお父さん。そして、曾祖母とばば様、この3人が、私の親です。
曾祖母は私に様々なことを教えてくれましたが、子供時代の事については、曖昧な話が殆どでした。苦い思い出があったのか、秘密があるのか、それともつまらない時間だったのかは、今となってはわかりません。
えっ…曾祖母の好きなもの?そうですね、食べ物なら…子供の頃に楽しんだレモネードと、冷やしキュウリが一番美味しかったと言っていました……多分、友達と誘い合わせて、夏祭りにでも行ったのかと……いつ、どこでのことか、結局、聞き出せずじまいだったのですが…
でも、そんな、時折見せるミステリアスな所も、曾祖母の魅力の一つでした。それを含めて、私は曾祖母が大好きでした。
大好きな曾祖母に対して、思う事……ですか?もちろん、感謝はしてます。
でも、もう一つあるんです。
…もし…仮に…よしんば…曾祖母がレースをしていたのなら、きっと、もっと尊敬されるすごいウマ娘になっていた事でしょう。
ふふっ…考えるだけで、ウズウズします。
──あるGⅠウマ娘への独占インタビューより。
「……気分はどうですか?」
「不思議と…悪くないね」
今、ここに、死期の迫った一人のウマ娘がいる。
「……人払いはしていますから、好きな事を話して構いませんわ」
死期の迫ったウマ娘──“彼女”は、家族相手には、伝える事を全て伝え終え……
最後の、その長くない時間を共に過ごす相手として、アサヒクリークを選んだ。夫は既に、この世を去っていたからである。
アサヒクリークは、現役時代は敵として戦ったものの、レースを通じてシンパシーを抱き、“彼女”が破壊を終えた後は、共に中央に戦いを挑み、それを圧倒的強者から一勢力に叩き落とした。
そのため、アサヒクリークは“彼女”がこれまで過ごしてきた中で、一番長く、共に過ごした人物であり、“彼女”の本当の姿も知っていることから、何でも話せる人物でもあった。
とどのつまり、一番の親友である。
“彼女”の家族も、その付き合いの長さを理解しており、二人きりになることに、異論を挟むことはなかった。
「…私といて、楽しかった?」
「楽しくないわけ、無いではないですか……覚えていますか?出会ったその日…貴女が、尻尾で視界を一瞬遮る私の技を、無理やり突き抜けて来た時から、私は楽しかったですわよ?」
「……」
「……貴女は多くのものを、私にもたらしてくれましたわ、子供時代は、好敵手として、大人になってからは、私の右腕…いや、親友として、そして、中央に大打撃を与えた後は、家族として……」
「それなら…よかった」
アサヒクリークは“彼女”に、大いなる恩を感じていた。一人では見ることのできない景色を、多く見ることができたからである。
「……では、私から質問を……貴女は、悔いのないよう、生きることができましたか?」
「…………もちろん、自由にやらせてもらったからね………しかし、いろいろあったねぇ……吐いちゃったり、中央のプロジェクトの面目を潰したり、人材を掻っ攫ったり……若手にも響くようなスローガン考えて、有名なレースにこっちのウマ娘が乗り込むようにしたり……教え子が政界に飛び込んだり…楽しかったよ……まあ、一緒にレースを見に行った新人が吐いちゃったり、上の方がヘンな頼みをしてきたり、せっかく増えた学園の戦力が激減したりもあったけど…それも含めて……ね」
“彼女”とアサヒクリークは、名古屋トレセン学園を成長させ、多くの事を成し遂げた。楽しいことも、苦労することもあったが、濃い思い出として、記憶に残っていたのである。
「それに、私に…破壊の他にも、色々させてくれたし」
「それは良かったですわ。貴女は破壊を目的としていました。でも、私はその一方で、羽休めも大事だと思っていたのです」
「そうだね……家族を持つようになって…私も少し、変わった………“子供は親に面倒をかけるのが仕事みたいなもの”ってお母さんがよく言ってたのが理解できたから…」
「……確かに、子供が生まれてから、貴女の指導は、柔軟さを大きく増しましたわ……お陰で…私のノートも、この通り」
「…………懐かしいねぇ…」
アサヒクリークのノートには、かつて、サトノ家や、メジロ家や、高名なトレーナーの一族など、中央の主要人物が並んでいた。
今は、墨で形成されたブラックホールが並んでいるだけである。
それは、彼女の下克上と“彼女”の破壊が達成されたことを示している。ブラックホールの位置にいた人々は、そのほぼ全てが、失意のまま、レースの世界から退いたのである。
このノートを他者が見れば、恐れおののくだろう。だが、“彼女”とアサヒクリークにとっては、このノートは、自らの夢を成し遂げ、幸福を手に入れた証の一つだった。
「……でも、私はできるだけ長くレースを見せて頂きますわ、カサマツ、門別、金沢……ライバルは多いですわよ」
「まさしく…昨日の友は今日の敵………だね………っ…!!」
「クロさん!」
胸に痛みを感じ、“彼女”は俯く。
(……そろそろか…)
“彼女”は、自らの終わりを悟った。
「……クリークさん…一つ、お願い、聞いてくれる?」
「もちろんですわ」
「ひ孫、…私の代わりに、見守ってほしい…………あの娘は、レースの映像を、齧りつくように見てたから……だから、もし、レースをしたいって言ったら、見てあげて………欲しい」
“彼女”の娘は、レースの道を選ばなかった。孫は男性であったが、トレーナーにはならなかった。
そして、ひ孫は生まれてすぐに母親を亡くし、多忙な父親に代わって、同じウマ娘で曾祖母の“彼女”と、“彼女”と共に暮らしていたアサヒクリークが、よく面倒を見ていた。
そして、そのひ孫はまだまだ幼い、それ故、将来は未確定だった。
そのため、“彼女”は、最も親しいレース経験者であるアサヒクリークにひ孫のことを頼んだのだった。
「…………」
「何で、そんなに悲しそうな顔…」
「……それはそうでしょう…?最後の同い年の友人が……居なくなろうとしているのですから」
アサヒクリークは、涙声で、そう言った。2人は長く生きた。
黄金世代も、元銀翼のウマ娘も、全てこの世を去っている。中央の方針によって、往時の“彼女”を知る者も、残っていない。
「………せめて、笑ってよ、貴女は、私に勝つんだからね………」
「………?」
「…………自然の世界ではね……何がどうあれ、最後まで生き残ったものが勝ち…“アサヒクリーク”……貴女は…私に…“マヴェリッククロウ”に…勝つんだよ…………誇りに思った方が良い」
「………………そう言えば……そうでしたわね…では、約束しますわ…勝者として、多くの土産話を、貴女に聞かせてみせますわ、どうか、待っていてくださいな」
「…ふ…ふふっ…あなたらしいや……今まで、ありがとう……あなたが誘ってくれてからの時間……楽しかった…よ」
「…こちらこそです」
「……クリークさん…ありがとう………私のライバル…友達…同志………私の…大事な………家族…………」
「…!……クロさん……!クロさん………!」
「…………」
“彼女”は、老衰により、眠るように息を引き取った。
まるで、烏のように、ひっそりと、市井の人々には知られる事のない幕引きだった。
「…………………私の勝ち…ですわね、マヴェリッククロウ…」
アサヒクリークは、何とか笑顔を作って、“彼女”に微笑みかけた。
「………っ……っ……」
だが、すぐに涙を流し始めた。
アサヒクリークは、初めて、“彼女”に勝利した。
“彼女”は、初めて、アサヒクリークの心を悲しみで一杯にさせた。
“彼女”は確かに死んだ。
だが、その足跡は完全に死んでいない。
「このタイム、何で出したウマ娘が記録されてないんです?」
「私に聞かれても答えようがないわよ、私が新人でここに配属された時から、そうだったもの」
それは……中山レース場の、霰の中で“彼女”が叩き出した、2500mのレコードタイムだった。
“彼女”が生きていた証は、今でも残っている。
恐竜の足跡が、化石となって今も残っているように。
そして、時は流れ、ある草レース場…
そこでは、子どものウマ娘のリレー大会が行われていた。
『きたきたきた!1番グループアンカーの娘、速い速い!ここで先頭集団をとらえた!』
「行きなさーい!!そこですわよ!」
「……オ、オイ……あの婆さん…杖持ってないぞ…元気良すぎだろ…」
『おっと…これはまさかまさかのブロック、しかしブロックを避けた!そのままゴールイン!!勝ったのは1番グループ!!』
「俺、あの人知ってるよ、実は名古屋トレセンの元理事長なんだぜ?“尾張の仙女”アサヒクリーク……日本のウマ娘レース界の生き字引だ。俺のばあちゃんの時代のウマ娘だよ」
「えぇ…有名人じゃねぇか…………なら、あの婆さん……100歳超え……キツネか何かが憑いてんじゃねえか……?」
観客の中の2人は、そう、ヒソヒソと話をしている。
「そこのお二方!」
「は、はいっ!?」
「き、聞こえ…いや、な、何でしょう?」
「どうです、あの娘の走りは?」
そして、そんな二人の声に反応して話しかけたアサヒクリーク………彼女は、まだまだ元気であった。
「クリークばば様!クリークばば様!」
表彰式が終わり、アサヒクリークは優勝グループのアンカーである芦毛のウマ娘を迎える。
その芦毛のウマ娘の持つ賞状には“フライングラーテル”という名前があった。
「よくやりましたわ、初めてのレースで…あの走り………凄いですわね」
アサヒクリークは、そう言ってフライングラーテルの頭を撫でる。
(クロさん、貴女が亡くなってから、いろいろ有りましたのよ……中央は勢いを取り戻しつつあり、名古屋もいろいろと新機材が増え、そして貴女のひ孫は……レースに興味を持ちましたわ)
このフライングラーテルというウマ娘こそ、“彼女”のひ孫であった。
彼女は、成長してレースに興味を持ち、アサヒクリークの勧めで軽いレースであるリレー大会にまず出ることにしたのである。
白に近い芦毛……“空を飛ぶ”と陸の猛獣“ラーテル”という、自然界ではありえない単語の組み合わせ。頑丈な心身…フライングラーテルは、どこか“彼女”と似ていた。
「レースは、楽しかったですか?」
「うん!あっ……はい!」
「…嬉しいですわね………では、今日はご馳走しますわ」
「ありがとうございます、クリークばば様!」
アサヒクリークは、フライングラーテルの手を取り、歩き出す。
「──!」
「───!」
「……?」
少し歩いた二人は、大きな声を聞き、思わず立ち止まる。
「ラーテル、覗いてみましょう」
「は、はい」
アサヒクリークは、後ろにフライングラーテルを歩かせながら少しずつ、声の主のところへ向かった。
「だから!そっちがヘンな動きしてなければ勝てたんだよ!!」
「何ですって?じゃああのシーンのビデオとAI分析見てみなさい!リードがなかったせいで、あんな事になったのよ!!」
声の主は、他チームのウマ娘達だった。
彼女らは喧嘩をしていたのだ。
アンカーより前の走者は、“ブロックは余計だった”とアンカーを糾弾し、逆にアンカーは前の走者に対し“アレはリードがなかったせいだ”と主張していた。
そして、言い争っていた彼女たち、双方の耳は後ろに反っていた。
「!」
アサヒクリークは、思わず、フライングラーテルの方を見る。
「………!」
フライングラーテルも、その光景を見ていた。
「……ラーテル、お暇いたしますわよ」
「は、はいっ!」
アサヒクリークは、フライングラーテルの手を再び取り、その場を素早く後にする。
「……ラーテル、どうかしたのですか?」
そして、安全そうな場所に移動した後、素早くフライングラーテルに質問した。
「ばば様、さっきの子たちは…」
「…喧嘩ですわ」
「はい、それは…分かってるんです……でも…言っていいのかな…?」
「…ラーテル、大丈夫ですわよ、ばばは貴女の味方ですわ」
「その…喧嘩を見て………レースで勝つよりも…“やってやったぞ”っていう気持ちが…ドンッ…て…」
「……私が戦ったあるウマ娘も、そういうギスギスしたものを見て、感じて、楽しむウマ娘だったのですよ」
「その人は…どんな人だったのですか?」
「私の敵…私のライバル……私の……生きがい、ですわ」
アサヒクリークは、自分がかつて戦ったウマ娘のことについて、懐かしそうに話した。
「…なんだか、ひいおばあさまみたいです」
「…!?」
フライングラーテルは、曾祖母=マヴェリッククロウであることを、もちろん知らない。だが、その何気ない一言に、アサリクリークは驚いた。
「ラーテル、ここへ」
「は、はいっ」
家に帰った後、アサヒクリークはフライングラーテルを自らの部屋に呼び出し、人払いをして座らせた。
「先程の言葉…私と戦ったウマ娘と、貴女のひいおばあさまが似ている……あれは、なぜそのように?」
アサヒクリークは、ゆったりと、フライングラーテルに呼びかけた。
「だって、ひいおばあさまとクリークばば様、よく、一緒に将棋を指したり、畑の向こうに板を置いて竹槍投げたりして、楽しそうに競ってたから……」
「…そうですわね」
アサヒクリークは、“彼女”との思い出を振り返りつつ、フライングラーテルの目を見た。
「ラーテル」
「はい」
「…正直に言って下さい、今日のレースと、レース後の出来事……面白かったですか?」
「……はい」
「……それならば、レースの世界に飛び込めば、貴女は倍、レースを楽しめますわ、皆の前では、走って勝つことを…そして、一人でレースを振り返る時には、貴女の勝ちによって、周りに起きることを……」
「倍…!?」
倍という言葉に、フライングラーテルは目を輝かせる。
「ええ、貴女はユニーク…そんな貴女にも、レースを楽しむ権利は、もちろんありますわ…」
「じゃあ、私もレースを…!!」
「落ち着きなさい、でも、ギスギスなどを楽しむのは、あくまで秘密で……抑えるべきところでは、抑える必要が有るのですわ」
アサヒクリークは、フライングラーテルを落ち着かせて、再び座らせた。
「ラーテル…貴女のひいおばあさまが、最後に、貴女に伝えた言葉を覚えていますか?」
「……“はい、好きなことをやりたいのなら、それなりの苦労も、乗り越えていかなきゃならない”……そう…私に…」
「……そうです。ですから、レースを望んだ貴女に、私は少し、真剣な話を致します。……これからばばは、貴女にある事を教えますわ、ですが、これは貴女の父も母も知らない、私と貴女のひいおばあさましか知らない………知るためには、覚悟の必要な事ですわ……貴女に知る覚悟があるのなら、お教えしましょう」
「……私だって……“尾張の仙女”…の血を引くウマ娘です、教えて下さい」
「……では、秘密にできますか?」
「はい」
「……分かりましたわ、まず、単刀直入……つまりは簡単に言いますわ、私と戦ったウマ娘と貴女のひいおばあさま…この二人は、同一人物です」
「……ひいおばあさまと…ばば様の…」
「そのウマ娘の名前は、マヴェリッククロウ…多くのウマ娘の夢を打ち砕いた故に“白黒の破壊者”と呼ばれ、悪の権化の様に扱われたウマ娘ですわ」
アサヒクリークは、そう言うと“彼女”の中央時代を、なるべく簡単に話していった。
「………分かりました。でも、ばば様は…違うのですよね?ひいおばあさまのことを、破壊者なんて言って…恨んではいませんよね?」
「ええ、私は確かに“彼女”……いえ、この言い方は、失礼すぎますわ…………マヴェリッククロウさんと戦い、負けました………でも、私はあの方に、夢への強い信念、どんな相手でも油断せず、全力でぶつかる真剣さ、そして、思わず応援したい、共にありたいと思える魅力を見たのです……ですから、私はあの方を仲間に迎え、家族となり、様々なことを共に行ってきたのです」
「………」
フライングラーテルは、アサヒクリークの話を、真剣に聞いている。
「そして、貴女のひいおばあさまは、スターだったのです、ギスギスしたものや…ウマ娘の悲しみと言った、レースを通じて起きる、負の現象を楽しむという変わった好み……つまり、貴女が感じたあの感情も、上手く利用して、走っていたのですわ………」
「………」
「ラーテル」
「は、はい」
「……ここまで秘密にして、申し訳ないですわ…」
「大丈夫です、クリークばば様……むしろ、ひいおばあさまの事がわかってよかったです」
「ありがとう、ラーテル。………あなたのひいおばあさまが、どの様に言われていようと、貴女は一人のウマ娘です、レースを選んでも、そうでなくても、私は貴女を応援します。でも、一つだけ事実を……今を生きる者で、あなたの、ひいおばあさまの選手としての姿を見た者は、いませんわ…………ここにいる、たったひとりを除いて」
アサヒクリークは、そう言って、自分の顔を指差した。
「ふふっ……ふふふっ……」
そうすると、フライングラーテルは、無邪気にニコリと笑った。
「ラーテル?」
「……安心したんです、思わず…」
「安心?」
「はい、ひいおばあさまの過去は…ばば様以外、知らない……でも、それは………私がひいおばあさまのように活躍しても、大好きなひいおばあさまの名を、傷つけることが無くて、誰にも文句を言われないってことだから」
「……!」
アサヒクリークは、感心した。フライングラーテルは、アサヒクリークの言った言葉を素早く理解したからである。
「…頭の回転の速い所は…本当に、似ていますわね………………ラーテル、ひいおばあさまの話を聞き、かつ貴女の個性的な性分を、心の中に秘めたうえで…なお、貴女がレースの世界に出たいのなら、私は全力で、それを応援致しますわ、それに…貴女に、レースの世界を、倍楽しむための、心身の修行もつけると致しましょう………どうですか?」
アサヒクリークは、優しい表情で、フライングラーテルに問いかけた。
「……ばば様、私…こんな気持ちになったのは…初めてなんです……だから、レースを倍、楽しみたいです!ひいおばあさまの分まで!」
フライングラーテルは、目を輝かせて、アサヒクリークにそう宣言した。
「分かりましたわ…ラーテル、貴女が中山2500のレコードを塗り替えるようなウマ娘になる事を信じ……鍛えさせてもらいますわ」
「はい!ばば様!」
「よろしいですわ」
アサヒクリークは、満足そうに頷き、窓から覗く空を見上げる。
(これがどうやら、私の最後の大仕事になりそう……でも、良い土産話を、持って行けそうですわ)
そして、微笑んだ。
(クロさん、貴女は死にませんわ、例え身体の寿命が尽き果てようとも、貴女の血と心は必ず受け継がれ、世の中と言う名の草原に、鮮やかな花を咲かせるのです)
この最後の“清廉潔白な黄金世代”の時代を知るウマ娘は、その時代…どのようなウマ娘が真の主役だったのかを、目で、耳で、体で、心で…時に戦いで知っていた。
その真の主役の姿を、彼女はフライングラーテルに見たのだった。
ウマ娘……時に数奇で、輝かしい運命を辿ると言われている存在…
そんな彼女たちのレースの結果は…
まだ、誰にも分からない。
彼女たちは走り続ける。
瞳の先にあるゴールだけを目指して。
そして、そんなウマ娘に、似ているものが一つある。
“それ”は、時に数奇で、時に輝かしいものである。
“それ”がどのようになっていくのかは、この世を生きる者、誰にも分からない。
“それ”は紡がれ続ける。
人々の営みが、続いていく限り。
そんな“それ”を、人々は歴史と呼んでいた。
「今日は、私、フライングラーテルの初のG1レースの応援に来ていただき、ありがとうございました!」
ウイニングライブの舞台に立ち、フライングラーテルは、観客に向かってお辞儀をする。
「今日の勝利は……花が多くの花びらで彩られるように、トレーナーを始めとした指導者の方々、ファンの皆様、クラスの皆を始めとした、応援して下さる方々の助力があってこそのものでした!」
彼女は、イベリスの花の耳飾りを触りながら、そう言う。
「私が感じているこの喜びを、ここにいる皆さんにも分かち合う事を目指して、精一杯、歌わせて頂きます!!」
そして、その言葉と同時に、ライブへと入った。
(……今日も上手くやれた、ばば様から教わったテクニック…私のものにできた…今日出てきたあのウマ娘のテクニックも、今はもう、私のもの………ふふふ……ふふふふふ……まさしく…してやったり…してやったりだ………これからも…考えて…走って…勝って…倒して…奪って、粉々に打ち砕いて…歌って…笑って…………レースも、ライブも、作戦立ても、何もかも、楽しみ尽くす!……だから…今は、真剣に、ライブを楽しんで、やり切ろう!ファンの皆が、私を見ている!)
イベリスの花が刺繍された勝負服を着て、歌い、踊り、舞う、フライングラーテル。
「──♪」
魅了され、熱狂するファン。
トレーニングからレース。
レースからライブ。
時代は進んでも変わらない流れで、ウマ娘レースの歴史は、紡がれていく。
そして、ウイニングライブは終わり、フライングラーテルはインタビューを受けた。
『フライングラーテルさんは、来年からクラシック級に入る世代であり、新たな時代を作るウマ娘の一人だと期待する声もあります。そういった声に対するフライングラーテルさんの思いを、お聞かせください』
記者が、期待の目を輝かせ、質問する。
「……」
ファンたちも、フライングラーテルを見守る。
「……私が新時代を作ることができるかと言うと……おそらくそうではないでしょう」
「……!!」
「ええ…」
「なんで……!?」
記者とファンの間には、動揺が広がる。
しかし、それを気にせず、フライングラーテルは椅子を立って、前を向いた。
「私には…足があります。トレーナーさんたちは…教えを授けてくださいます。ファンの皆様方は…いつも私を応援して下さいます。クラスの皆は、友達として、ライバルとして、私の目標になってくれます。だから…私だけじゃ、次の時代は作れない」
そうして、動揺の抜けない人々に向けて、絞り出すように言葉を紡いでいき…
突如、手を人々の方に向けて広けた。
「皆の手で一緒に作るんです!」
そして、この場にいる全員に、熱く呼びかけた。
「……!!」
ワァァァァァァァァァァッ!!!
その場にいる人々全てが、拍手をし、歓声を送る。
(…レースを2倍楽しんで、作るんだ、新しい時代を…歴史を…!!)
フライングラーテルは、心のなかで誓う。
一つの歴史が、始まろうとしている。
そして、“歴史”について、人々は、その経験則からウマ娘よりもはっきりとした認識をもっていた。
それは…
歴史は、やがて繰り返されるということである。
fin.
お読みいただきありがとうございます。
新たにお気に入り登録などをしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m
ご意見、ご感想等、お待ちしています。
あとがき、次回作については、活動報告の方に掲載しますので、ご覧下さい。
今まで拙作を読んでいただきありがとうございました。
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