転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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最終話 -勝者-

 

 

曾祖母は、多くの人にとって、憧れの女性でした。

 

もちろん私もそうでした。

 

小さいの頃は曾祖母とばば様の暮らす家に、よく遊びに行ったものです。

 

忙しくてもちゃんと会いに来てくれるお父さん。そして、曾祖母とばば様、この3人が、私の親です。

  

曾祖母は私に様々なことを教えてくれましたが、子供時代の事については、曖昧な話が殆どでした。苦い思い出があったのか、秘密があるのか、それともつまらない時間だったのかは、今となってはわかりません。 

 

えっ…曾祖母の好きなもの?そうですね、食べ物なら…子供の頃に楽しんだレモネードと、冷やしキュウリが一番美味しかったと言っていました……多分、友達と誘い合わせて、夏祭りにでも行ったのかと……いつ、どこでのことか、結局、聞き出せずじまいだったのですが…

 

でも、そんな、時折見せるミステリアスな所も、曾祖母の魅力の一つでした。それを含めて、私は曾祖母が大好きでした。

 

大好きな曾祖母に対して、思う事……ですか?もちろん、感謝はしてます。

 

でも、もう一つあるんです。

 

…もし…仮に…よしんば…曾祖母がレースをしていたのなら、きっと、もっと尊敬されるすごいウマ娘になっていた事でしょう。

 

ふふっ…考えるだけで、ウズウズします。

 

 

 

──あるGⅠウマ娘への独占インタビューより。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……気分はどうですか?」

「不思議と…悪くないね」  

 

 今、ここに、死期の迫った一人のウマ娘がいる。

 

「……人払いはしていますから、好きな事を話して構いませんわ」

 

 死期の迫ったウマ娘──“彼女”は、家族相手には、伝える事を全て伝え終え……

 

 最後の、その長くない時間を共に過ごす相手として、アサヒクリークを選んだ。夫は既に、この世を去っていたからである。

 

 アサヒクリークは、現役時代は敵として戦ったものの、レースを通じてシンパシーを抱き、“彼女”が破壊を終えた後は、共に中央に戦いを挑み、それを圧倒的強者から一勢力に叩き落とした。

 

 そのため、アサヒクリークは“彼女”がこれまで過ごしてきた中で、一番長く、共に過ごした人物であり、“彼女”の本当の姿も知っていることから、何でも話せる人物でもあった。

 

 とどのつまり、一番の親友である。

 

 “彼女”の家族も、その付き合いの長さを理解しており、二人きりになることに、異論を挟むことはなかった。

 

「…私といて、楽しかった?」

「楽しくないわけ、無いではないですか……覚えていますか?出会ったその日…貴女が、尻尾で視界を一瞬遮る私の技を、無理やり突き抜けて来た時から、私は楽しかったですわよ?」

「……」

「……貴女は多くのものを、私にもたらしてくれましたわ、子供時代は、好敵手として、大人になってからは、私の右腕…いや、親友として、そして、中央に大打撃を与えた後は、家族として……」

「それなら…よかった」

 

 アサヒクリークは“彼女”に、大いなる恩を感じていた。一人では見ることのできない景色を、多く見ることができたからである。

 

「……では、私から質問を……貴女は、悔いのないよう、生きることができましたか?」

「…………もちろん、自由にやらせてもらったからね………しかし、いろいろあったねぇ……吐いちゃったり、中央のプロジェクトの面目を潰したり、人材を掻っ攫ったり……若手にも響くようなスローガン考えて、有名なレースにこっちのウマ娘が乗り込むようにしたり……教え子が政界に飛び込んだり…楽しかったよ……まあ、一緒にレースを見に行った新人が吐いちゃったり、上の方がヘンな頼みをしてきたり、せっかく増えた学園の戦力が激減したりもあったけど…それも含めて……ね」

 

 “彼女”とアサヒクリークは、名古屋トレセン学園を成長させ、多くの事を成し遂げた。楽しいことも、苦労することもあったが、濃い思い出として、記憶に残っていたのである。

 

「それに、私に…破壊の他にも、色々させてくれたし」

「それは良かったですわ。貴女は破壊を目的としていました。でも、私はその一方で、羽休めも大事だと思っていたのです」

「そうだね……家族を持つようになって…私も少し、変わった………“子供は親に面倒をかけるのが仕事みたいなもの”ってお母さんがよく言ってたのが理解できたから…」

「……確かに、子供が生まれてから、貴女の指導は、柔軟さを大きく増しましたわ……お陰で…私のノートも、この通り」

「…………懐かしいねぇ…」

 

 アサヒクリークのノートには、かつて、サトノ家や、メジロ家や、高名なトレーナーの一族など、中央の主要人物が並んでいた。

 

 今は、墨で形成されたブラックホールが並んでいるだけである。

 

 それは、彼女の下克上と“彼女”の破壊が達成されたことを示している。ブラックホールの位置にいた人々は、そのほぼ全てが、失意のまま、レースの世界から退いたのである。

 

 このノートを他者が見れば、恐れおののくだろう。だが、“彼女”とアサヒクリークにとっては、このノートは、自らの夢を成し遂げ、幸福を手に入れた証の一つだった。

 

「……でも、私はできるだけ長くレースを見せて頂きますわ、カサマツ、門別、金沢……ライバルは多いですわよ」

「まさしく…昨日の友は今日の敵………だね………っ…!!」

「クロさん!」

 

 胸に痛みを感じ、“彼女”は俯く。

 

(……そろそろか…)

 

 “彼女”は、自らの終わりを悟った。

 

「……クリークさん…一つ、お願い、聞いてくれる?」

「もちろんですわ」

「ひ孫、…私の代わりに、見守ってほしい…………あの娘は、レースの映像を、齧りつくように見てたから……だから、もし、レースをしたいって言ったら、見てあげて………欲しい」

 

 “彼女”の娘は、レースの道を選ばなかった。孫は男性であったが、トレーナーにはならなかった。

 

 そして、ひ孫は生まれてすぐに母親を亡くし、多忙な父親に代わって、同じウマ娘で曾祖母の“彼女”と、“彼女”と共に暮らしていたアサヒクリークが、よく面倒を見ていた。

 

 そして、そのひ孫はまだまだ幼い、それ故、将来は未確定だった。

 

 そのため、“彼女”は、最も親しいレース経験者であるアサヒクリークにひ孫のことを頼んだのだった。

 

「…………」

「何で、そんなに悲しそうな顔…」

「……それはそうでしょう…?最後の同い年の友人が……居なくなろうとしているのですから」

 

 アサヒクリークは、涙声で、そう言った。2人は長く生きた。

 

 黄金世代も、元銀翼のウマ娘も、全てこの世を去っている。中央の方針によって、往時の“彼女”を知る者も、残っていない。 

 

「………せめて、笑ってよ、貴女は、私に勝つんだからね………」

「………?」

「…………自然の世界ではね……何がどうあれ、最後まで生き残ったものが勝ち…“アサヒクリーク”……貴女は…私に…“マヴェリッククロウ”に…勝つんだよ…………誇りに思った方が良い」

「………………そう言えば……そうでしたわね…では、約束しますわ…勝者として、多くの土産話を、貴女に聞かせてみせますわ、どうか、待っていてくださいな」

「…ふ…ふふっ…あなたらしいや……今まで、ありがとう……あなたが誘ってくれてからの時間……楽しかった…よ」

「…こちらこそです」

「……クリークさん…ありがとう………私のライバル…友達…同志………私の…大事な………家族…………」

「…!……クロさん……!クロさん………!」

「…………」

 

 “彼女”は、老衰により、眠るように息を引き取った。

 

 まるで、烏のように、ひっそりと、市井の人々には知られる事のない幕引きだった。

 

「…………………私の勝ち…ですわね、マヴェリッククロウ…」 

 

 アサヒクリークは、何とか笑顔を作って、“彼女”に微笑みかけた。

 

「………っ……っ……」 

 

 だが、すぐに涙を流し始めた。

 

 アサヒクリークは、初めて、“彼女”に勝利した。

 

 “彼女”は、初めて、アサヒクリークの心を悲しみで一杯にさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “彼女”は確かに死んだ。

 

 だが、その足跡は完全に死んでいない。

 

「このタイム、何で出したウマ娘が記録されてないんです?」

「私に聞かれても答えようがないわよ、私が新人でここに配属された時から、そうだったもの」

 

 それは……中山レース場の、霰の中で“彼女”が叩き出した、2500mのレコードタイムだった。

 

 “彼女”が生きていた証は、今でも残っている。

 

 恐竜の足跡が、化石となって今も残っているように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は流れ、ある草レース場…

 

 そこでは、子どものウマ娘のリレー大会が行われていた。

 

『きたきたきた!1番グループアンカーの娘、速い速い!ここで先頭集団をとらえた!』

 

「行きなさーい!!そこですわよ!」

「……オ、オイ……あの婆さん…杖持ってないぞ…元気良すぎだろ…」

 

『おっと…これはまさかまさかのブロック、しかしブロックを避けた!そのままゴールイン!!勝ったのは1番グループ!!』

 

「俺、あの人知ってるよ、実は名古屋トレセンの元理事長なんだぜ?“尾張の仙女”アサヒクリーク……日本のウマ娘レース界の生き字引だ。俺のばあちゃんの時代のウマ娘だよ」

「えぇ…有名人じゃねぇか…………なら、あの婆さん……100歳超え……キツネか何かが憑いてんじゃねえか……?」

 

 観客の中の2人は、そう、ヒソヒソと話をしている。

 

「そこのお二方!」

「は、はいっ!?」

「き、聞こえ…いや、な、何でしょう?」

「どうです、あの娘の走りは?」

 

 そして、そんな二人の声に反応して話しかけたアサヒクリーク………彼女は、まだまだ元気であった。

 

 

 

 

 

 

 

「クリークばば様!クリークばば様!」

 

 表彰式が終わり、アサヒクリークは優勝グループのアンカーである芦毛のウマ娘を迎える。

 

 その芦毛のウマ娘の持つ賞状には“フライングラーテル”という名前があった。

 

「よくやりましたわ、初めてのレースで…あの走り………凄いですわね」

 

 アサヒクリークは、そう言ってフライングラーテルの頭を撫でる。

 

(クロさん、貴女が亡くなってから、いろいろ有りましたのよ……中央は勢いを取り戻しつつあり、名古屋もいろいろと新機材が増え、そして貴女のひ孫は……レースに興味を持ちましたわ)

 

 このフライングラーテルというウマ娘こそ、“彼女”のひ孫であった。

 

 彼女は、成長してレースに興味を持ち、アサヒクリークの勧めで軽いレースであるリレー大会にまず出ることにしたのである。

 

 白に近い芦毛……“空を飛ぶ”と陸の猛獣“ラーテル”という、自然界ではありえない単語の組み合わせ。頑丈な心身…フライングラーテルは、どこか“彼女”と似ていた。

 

「レースは、楽しかったですか?」

「うん!あっ……はい!」

「…嬉しいですわね………では、今日はご馳走しますわ」

「ありがとうございます、クリークばば様!」

 

 アサヒクリークは、フライングラーテルの手を取り、歩き出す。

 

「──!」

「───!」

 

「……?」

 

 少し歩いた二人は、大きな声を聞き、思わず立ち止まる。

 

「ラーテル、覗いてみましょう」

「は、はい」

 

 アサヒクリークは、後ろにフライングラーテルを歩かせながら少しずつ、声の主のところへ向かった。

 

 

「だから!そっちがヘンな動きしてなければ勝てたんだよ!!」

「何ですって?じゃああのシーンのビデオとAI分析見てみなさい!リードがなかったせいで、あんな事になったのよ!!」

 

 声の主は、他チームのウマ娘達だった。

 

 彼女らは喧嘩をしていたのだ。

 

 アンカーより前の走者は、“ブロックは余計だった”とアンカーを糾弾し、逆にアンカーは前の走者に対し“アレはリードがなかったせいだ”と主張していた。

 

 そして、言い争っていた彼女たち、双方の耳は後ろに反っていた。

 

「!」

 

 アサヒクリークは、思わず、フライングラーテルの方を見る。

 

「………!」

 

 フライングラーテルも、その光景を見ていた。

 

「……ラーテル、お暇いたしますわよ」

「は、はいっ!」

 

 アサヒクリークは、フライングラーテルの手を再び取り、その場を素早く後にする。

 

「……ラーテル、どうかしたのですか?」

 

 そして、安全そうな場所に移動した後、素早くフライングラーテルに質問した。

 

「ばば様、さっきの子たちは…」

「…喧嘩ですわ」

「はい、それは…分かってるんです……でも…言っていいのかな…?」

「…ラーテル、大丈夫ですわよ、ばばは貴女の味方ですわ」

「その…喧嘩を見て………レースで勝つよりも…“やってやったぞ”っていう気持ちが…ドンッ…て…」

「……私が戦ったあるウマ娘も、そういうギスギスしたものを見て、感じて、楽しむウマ娘だったのですよ」

「その人は…どんな人だったのですか?」

「私の敵…私のライバル……私の……生きがい、ですわ」

 

 アサヒクリークは、自分がかつて戦ったウマ娘のことについて、懐かしそうに話した。

 

「…なんだか、ひいおばあさまみたいです」

「…!?」

 

 フライングラーテルは、曾祖母=マヴェリッククロウであることを、もちろん知らない。だが、その何気ない一言に、アサリクリークは驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーテル、ここへ」

「は、はいっ」

 

 家に帰った後、アサヒクリークはフライングラーテルを自らの部屋に呼び出し、人払いをして座らせた。

 

「先程の言葉…私と戦ったウマ娘と、貴女のひいおばあさまが似ている……あれは、なぜそのように?」

 

 アサヒクリークは、ゆったりと、フライングラーテルに呼びかけた。

 

「だって、ひいおばあさまとクリークばば様、よく、一緒に将棋を指したり、畑の向こうに板を置いて竹槍投げたりして、楽しそうに競ってたから……」

「…そうですわね」

 

 アサヒクリークは、“彼女”との思い出を振り返りつつ、フライングラーテルの目を見た。

 

「ラーテル」

「はい」

「…正直に言って下さい、今日のレースと、レース後の出来事……面白かったですか?」

「……はい」

「……それならば、レースの世界に飛び込めば、貴女は倍、レースを楽しめますわ、皆の前では、走って勝つことを…そして、一人でレースを振り返る時には、貴女の勝ちによって、周りに起きることを……」

「倍…!?」

 

 倍という言葉に、フライングラーテルは目を輝かせる。

 

「ええ、貴女はユニーク…そんな貴女にも、レースを楽しむ権利は、もちろんありますわ…」

「じゃあ、私もレースを…!!」

「落ち着きなさい、でも、ギスギスなどを楽しむのは、あくまで秘密で……抑えるべきところでは、抑える必要が有るのですわ」

 

 アサヒクリークは、フライングラーテルを落ち着かせて、再び座らせた。

 

「ラーテル…貴女のひいおばあさまが、最後に、貴女に伝えた言葉を覚えていますか?」

「……“はい、好きなことをやりたいのなら、それなりの苦労も、乗り越えていかなきゃならない”……そう…私に…」

「……そうです。ですから、レースを望んだ貴女に、私は少し、真剣な話を致します。……これからばばは、貴女にある事を教えますわ、ですが、これは貴女の父も母も知らない、私と貴女のひいおばあさましか知らない………知るためには、覚悟の必要な事ですわ……貴女に知る覚悟があるのなら、お教えしましょう」

「……私だって……“尾張の仙女”…の血を引くウマ娘です、教えて下さい」

「……では、秘密にできますか?」

「はい」

「……分かりましたわ、まず、単刀直入……つまりは簡単に言いますわ、私と戦ったウマ娘と貴女のひいおばあさま…この二人は、同一人物です」

「……ひいおばあさまと…ばば様の…」

「そのウマ娘の名前は、マヴェリッククロウ…多くのウマ娘の夢を打ち砕いた故に“白黒の破壊者”と呼ばれ、悪の権化の様に扱われたウマ娘ですわ」

 

 アサヒクリークは、そう言うと“彼女”の中央時代を、なるべく簡単に話していった。

 

「………分かりました。でも、ばば様は…違うのですよね?ひいおばあさまのことを、破壊者なんて言って…恨んではいませんよね?」

「ええ、私は確かに“彼女”……いえ、この言い方は、失礼すぎますわ…………マヴェリッククロウさんと戦い、負けました………でも、私はあの方に、夢への強い信念、どんな相手でも油断せず、全力でぶつかる真剣さ、そして、思わず応援したい、共にありたいと思える魅力を見たのです……ですから、私はあの方を仲間に迎え、家族となり、様々なことを共に行ってきたのです」

「………」

 

 フライングラーテルは、アサヒクリークの話を、真剣に聞いている。

 

「そして、貴女のひいおばあさまは、スターだったのです、ギスギスしたものや…ウマ娘の悲しみと言った、レースを通じて起きる、負の現象を楽しむという変わった好み……つまり、貴女が感じたあの感情も、上手く利用して、走っていたのですわ………」

「………」

「ラーテル」

「は、はい」

「……ここまで秘密にして、申し訳ないですわ…」

「大丈夫です、クリークばば様……むしろ、ひいおばあさまの事がわかってよかったです」

「ありがとう、ラーテル。………あなたのひいおばあさまが、どの様に言われていようと、貴女は一人のウマ娘です、レースを選んでも、そうでなくても、私は貴女を応援します。でも、一つだけ事実を……今を生きる者で、あなたの、ひいおばあさまの選手としての姿を見た者は、いませんわ…………ここにいる、たったひとりを除いて」

 

 アサヒクリークは、そう言って、自分の顔を指差した。

 

「ふふっ……ふふふっ……」

 

 そうすると、フライングラーテルは、無邪気にニコリと笑った。

 

「ラーテル?」

「……安心したんです、思わず…」

「安心?」

「はい、ひいおばあさまの過去は…ばば様以外、知らない……でも、それは………私がひいおばあさまのように活躍しても、大好きなひいおばあさまの名を、傷つけることが無くて、誰にも文句を言われないってことだから」

「……!」

 

 アサヒクリークは、感心した。フライングラーテルは、アサヒクリークの言った言葉を素早く理解したからである。

 

「…頭の回転の速い所は…本当に、似ていますわね………………ラーテル、ひいおばあさまの話を聞き、かつ貴女の個性的な性分を、心の中に秘めたうえで…なお、貴女がレースの世界に出たいのなら、私は全力で、それを応援致しますわ、それに…貴女に、レースの世界を、倍楽しむための、心身の修行もつけると致しましょう………どうですか?」

 

 アサヒクリークは、優しい表情で、フライングラーテルに問いかけた。

 

「……ばば様、私…こんな気持ちになったのは…初めてなんです……だから、レースを倍、楽しみたいです!ひいおばあさまの分まで!」

 

 フライングラーテルは、目を輝かせて、アサヒクリークにそう宣言した。

 

「分かりましたわ…ラーテル、貴女が中山2500のレコードを塗り替えるようなウマ娘になる事を信じ……鍛えさせてもらいますわ」

「はい!ばば様!」

「よろしいですわ」

 

 アサヒクリークは、満足そうに頷き、窓から覗く空を見上げる。

 

(これがどうやら、私の最後の大仕事になりそう……でも、良い土産話を、持って行けそうですわ) 

 

 そして、微笑んだ。 

 

(クロさん、貴女は死にませんわ、例え身体の寿命が尽き果てようとも、貴女の血と心は必ず受け継がれ、世の中と言う名の草原に、鮮やかな花を咲かせるのです)

 

 この最後の“清廉潔白な黄金世代”の時代を知るウマ娘は、その時代…どのようなウマ娘が真の主役だったのかを、目で、耳で、体で、心で…時に戦いで知っていた。

 

 その真の主役の姿を、彼女はフライングラーテルに見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウマ娘……時に数奇で、輝かしい運命を辿ると言われている存在…

 

 そんな彼女たちのレースの結果は…

 

 まだ、誰にも分からない。

 

 彼女たちは走り続ける。

 

 瞳の先にあるゴールだけを目指して。

 

 

 

 

 

 そして、そんなウマ娘に、似ているものが一つある。

 

 “それ”は、時に数奇で、時に輝かしいものである。

 

 “それ”がどのようになっていくのかは、この世を生きる者、誰にも分からない。

 

 “それ”は紡がれ続ける。

 

 人々の営みが、続いていく限り。

 

 そんな“それ”を、人々は歴史と呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、私、フライングラーテルの初のG1レースの応援に来ていただき、ありがとうございました!」

 

 ウイニングライブの舞台に立ち、フライングラーテルは、観客に向かってお辞儀をする。

 

「今日の勝利は……花が多くの花びらで彩られるように、トレーナーを始めとした指導者の方々、ファンの皆様、クラスの皆を始めとした、応援して下さる方々の助力があってこそのものでした!」

 

 彼女は、イベリスの花の耳飾りを触りながら、そう言う。

 

「私が感じているこの喜びを、ここにいる皆さんにも分かち合う事を目指して、精一杯、歌わせて頂きます!!」

 

 そして、その言葉と同時に、ライブへと入った。

 

(……今日も上手くやれた、ばば様から教わったテクニック…私のものにできた…今日出てきたあのウマ娘のテクニックも、今はもう、私のもの………ふふふ……ふふふふふ……まさしく…してやったり…してやったりだ………これからも…考えて…走って…勝って…倒して…奪って、粉々に打ち砕いて…歌って…笑って…………レースも、ライブも、作戦立ても、何もかも、楽しみ尽くす!……だから…今は、真剣に、ライブを楽しんで、やり切ろう!ファンの皆が、私を見ている!)

 

 イベリスの花が刺繍された勝負服を着て、歌い、踊り、舞う、フライングラーテル。

 

「──♪」

 

 魅了され、熱狂するファン。

 

 トレーニングからレース。

 

 レースからライブ。

 

 時代は進んでも変わらない流れで、ウマ娘レースの歴史は、紡がれていく。

 

 そして、ウイニングライブは終わり、フライングラーテルはインタビューを受けた。

 

『フライングラーテルさんは、来年からクラシック級に入る世代であり、新たな時代を作るウマ娘の一人だと期待する声もあります。そういった声に対するフライングラーテルさんの思いを、お聞かせください』

 

 記者が、期待の目を輝かせ、質問する。

 

「……」

 

 ファンたちも、フライングラーテルを見守る。

 

「……私が新時代を作ることができるかと言うと……おそらくそうではないでしょう」

「……!!」

 

「ええ…」

「なんで……!?」

 

 記者とファンの間には、動揺が広がる。

 

 しかし、それを気にせず、フライングラーテルは椅子を立って、前を向いた。

 

「私には…足があります。トレーナーさんたちは…教えを授けてくださいます。ファンの皆様方は…いつも私を応援して下さいます。クラスの皆は、友達として、ライバルとして、私の目標になってくれます。だから…私だけじゃ、次の時代は作れない」

 

 そうして、動揺の抜けない人々に向けて、絞り出すように言葉を紡いでいき…

 

 突如、手を人々の方に向けて広けた。

 

「皆の手で一緒に作るんです!」

 

 そして、この場にいる全員に、熱く呼びかけた。

 

「……!!」

 

 ワァァァァァァァァァァッ!!!

 

 その場にいる人々全てが、拍手をし、歓声を送る。

 

(…レースを2倍楽しんで、作るんだ、新しい時代を…歴史を…!!)

 

 フライングラーテルは、心のなかで誓う。

 

 一つの歴史が、始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、“歴史”について、人々は、その経験則からウマ娘よりもはっきりとした認識をもっていた。

 

 それは…

 

 歴史は、やがて繰り返されるということである。

 

 

 

fin.

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 




お読みいただきありがとうございます。

新たにお気に入り登録などをしていただいた方々、ありがとうございますm(_ _)m

ご意見、ご感想等、お待ちしています。

あとがき、次回作については、活動報告の方に掲載しますので、ご覧下さい。

今まで拙作を読んでいただきありがとうございました。


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