転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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第5話 -姿勢-

 

 

 

『──────────!これで2勝目!』

 

 あの提案がされて少し、私は二戦目を迎えた。スタートダッシュを改良したので、前回よりも突き放してゴールすることができた。

 

「………」

 

 デビュー戦の時と同じように、忍耐の気持ちを持ち、地下通路を抜けていく。泣いている者を見ながら。

 

 良い年をして泣くなと言いたいが、ウマ娘はその闘争心により、勝負事に関して熱くなりすぎる傾向にあるのだ。勝利の際は、喜んでいることがよくわかる、いわんや敗北をや。

 

 そうだ、これから更にお世話になるこの通路に、愛称をつけてやろう。物に愛着を持つことは、モチベを引き出すことにも繋がるはずだ。

 

「ごめんね、トレーナー」

「いや、私がいけなかったわ、もっと、調整に回すべきだった」

 

 …よし、思いついた…“舐め合い通り”にしよう。

 

「……ッ」

 

 おっと、だめだだめだ、笑いが漏れそうになる。

 

 舐め合い通り、我ながら、良い名前をつけたと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろだな、降りる準備をするとしよう」

 

 白子の声が、鼓膜をつつく。リュックを背負い、私達はドアから名古屋の地へ降り立った。

レースの次の週にこれである。振り返りを素早く終わらせ、準備をする。バタバタしたのは久しぶりなので、少々骨が折れた。

 

 時刻は昼、駅は人でごった返している。私はリュックをぶつけぬよう、気を配りながら歩く。

 

「今回の目的は“何時もと違う場所でリフレッシュ”と“ネットワーク構築”っていうのだよね?」

「そうだ、君はどうも、頑張りすぎていると思うのでな。いつもと違う環境で過ごして気分転換をするのと同時に、人脈も広げ、知見を得ておいた方が良い、ホテルで荷物を軽くしたら、まずは街を楽しむとしよう」

 

 ホテルに荷物を置いた後、私達は街へ出た。大都市といえばグルメ…だけど、私はあまりそういったことに興味は無かったので、世間一般に旨いと言われている店、つまりは伝統──歴史に胡座をかいてずっと変えていない調味料の塩梅を格好つけて表したもの──のある店に入り、適当に済ませた。味はともかく、動き回るための燃料は補給できたのでそれで良い。

 

 

 

 そして、18時……私はどういうわけか、ジャージを着て、庄内川の河川敷に立っていた。ジャージ持って来いって、ホテルで自主トレをしろという意味じゃ無かったのかと思った。

 

「これから来るのが、友達?」

「いや…正確には、彼が育成しているウマ娘だな、友人は後から来る」

 

 そして、暫く待っていると、青いジャージに身を包んだウマ娘がやって来た。

 

「貴方が我がトレーナーさんのお友達ですか?」

「ああ、私が白子だ。そしてこちらが私の育成しているウマ娘、──────────だ」

「分かりました。──────────さん、よろしくお願い申しあげます、(わたくし)はアサヒクリーク、名古屋トレセン学園にて、競走ウマ娘をやらせて頂いています」

 

 アサヒクリークは、丁寧なお辞儀をする。私もこちらこその姿勢をとった。

 

「さて、このアサヒクリーク君は、自己紹介の通り、地方のウマ娘だ。そして私は、途中転入の君には、地方と中央関係なく、ウマ娘レースの知見を得てほしいと私は思っている。そこで、この場を用意した。この河川敷を、アサヒクリーク君とともに走って欲しい、要は模擬レースだな」

「了解」

「全力でお相手させていただきますわ、よろしくお願い致します」

 

 アサヒクリークがそう言った後、白子はコースの説明を彼女に任せて行ってしまった。

 

 

 

 

「では、コースの説明はここまでです。府中の川沿いとは違いますが、私、そんなことは関係なしに追わせていただきますので」

 

 スタート位置に付くと、アサヒクリークは私を見てそう言った。それは困ったと返すと、向こうは笑った。私はそれを確認すると、先に出てスタートした。

 

 

 

 スタートしてから少し、こうやって走ってみると、府中の多摩川とは全く違う、道の太さが所々変化するのだ。

 

 ただ、慣れない土地での模擬レースであれど、私は負けやしない。

 

「さあさあさあ!どうしました!中央のウマ娘はそんなものなのですか?」

 

 後ろからはアサヒクリークが私を追い立てる。ああ…挑戦的だ…だけど、そういったウマ娘の方が良い、私としては…

 

「何の、まだまだ小手調べ」

 

 やりがいがある。

 

 

 

 追われながら走るというのは、こうもプレッシャーがかかるものなのか、そして、一対一の模擬レースだと、その影響は顕著なものになるということが分かる。

 

 周りに意識を回す必要がないため、「突き放したい」という意欲が高まりやすいのだ。

 

 でも、少しずつではあるが、「乗ってはいけない」と私の脳味噌が理解していることが感じられる。仕掛けられてもベストなペースが維持できるようになってきたのだ。

 

 そして、対戦相手のアサヒクリークについても、一対一のレースという名の相互理解活動を通じて、理解し始めていた。

 

 彼女は所謂、戦闘狂とやらなのだ。しかも、内で闘志を燃やすのではなく、外に向けて、気迫という形で爆発させるタイプの。

 

 

 

 

 私達はどんどんと進んでいく、ペースは上がり、そろそろゴールのはずだが、アサヒクリークの挑発が減った、脚を溜めているのか。だけど、それはこちらも同じ、最後のストレート勝負で決めていくと……「そりゃぁーっ!!」

 

 は?流石に早い。ここから先は短いとは言えない直線だ、中央のベテランでも、仕掛けはもう少し遅い。

 

 だけど、私の考えとは逆に、彼女は私の前に少しずつ出つつある。体力が持つとでも────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬レースを終え、先ず相手に対して感じた感情は「やってくれたな」というものだった。

 

 しかし、それは怨嗟ではなく、感嘆から来ていた。

 

 彼女は、私の眼前に、尻尾を出したのだ。

 

 おかしいとしか言いようがないタイミングで仕掛け、相手に末脚について冷静に考えさせる時間を与え、予想外の攻撃を繰り出した…と、解釈できるだろう。

 

 そして私は一瞬尻尾にピントが行き、末脚が遅れた。だが、私の加速能力自体は高いので、ほぼほぼ同時にゴールはできた。ただ、ゴリ押しと言われてしまえば、首を縦に振らざるを得ない。

 

「まさか、無理矢理加速してくるとは…おやりになりますわね」

「面白かったよ」

 

 息が上がっている向こうの手を取る。どうやら、基礎体力ではこちらが勝っているようだ。

 

 すると、その瞬間、暗闇の中から拍手が聞こえてきた。

 

「アサヒの技をゴリ押しで破るとは…面白い奴だなぁ!!」

 

 そして、白子とは違う、一人の男が、暗闇から姿を現したのだった。

 

 

 

「まあ、こんなところだなぁ!」

 

 飲み物を飲みながら、白子の友人のトレーナー──矢座は、豪快にそう言う。私達は模擬レースを終えた後、共に食事を取ることにしたのだ。

 

 彼がトレーナーになった理由、それは、頭脳戦が面白そうだったから、というものだった。

 

 というか、単にこちらも戦闘狂の一種なのだろう、どこかしら獣のような雰囲気も纏っていたし。となれば、ここに呼んだ理由はどうなるか、大抵の場合察しがつく、ともあれ、思い込みは失礼極まりない。聞いておく。さ

 

「あの、矢座トレーナーは、今回何故私達をここに呼んだんですか?」

白子(こいつ)が担当を持つことになったってんで、是非ともそいつがどんなウマ娘なのか観てみたくてな、それに、こいつにも中央のウマ娘との闘いを、経験させてやりたかったんだ」

 

 矢座は、アサヒクリークの頭をグシャグシャと撫でながらそう言った。

 

「矢座、君達にとって、今日はどうだった?」

「良い経験だった、負けてられん!なぁ!」「ええ、学ぶことも多かったですし、何よりも、闘っていて、とても楽しかったですわ」

 

 白子の質問に、二人はそう答える。それは良かった、私だって良い物を得られたし。そして、白子はこちらを向く。

 

「君は今回の模擬レース、どう思った?」

「二人と同じ、良い経験になったよ、ありがとう、この場をセッティングしてくれて」

「それは良かった」

 

 白子はそう言い、飲み物を口にした。だが、私には、彼が他の目的を持っている様に見えて

仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、月曜のミーティングの時、私は白子に聞いてみた。

 

「そっちは“地方と中央関係なく、ウマ娘レースの知見を得てほしい”っていう理由で、私を名古屋に連れて行ってくれたみたいだけど、何か他に理由とかあるの?」

「…その鋭さが、君の強さの原動力なのかもしれないな、そうであれば…君にモヤモヤを抱かせる事は愚…分かった、話すとしよう」

「秘密は守るよ」

「それならば助かるな、私は君に“大変革は面白い”というような事を言ったのだが、それは覚えているか?」

「もちろん」

「私としては、そのような面白い事を引き起こす事に、努力を惜しみたくは無い、それが、今回君を名古屋まで連れて行った理由だ。アサヒクリーク君は、才能に溢れたウマ娘だ。そして君も」

「それはどうも」

「大事なのはここからだ、現在話題の“黄金世代”…彼女たちは、世の中を湧かせつつある。そして、そんな黄金世代の“天敵”が出れば、更に面白くならないと思わないか?」

 

 ああ、そういう事か、彼は立会人で、傍観者だが、それはそれができて、なおかつ楽しめる状況があっての姿勢。この男は、その楽しめる状況を作り出すために、私を名古屋に連れて行ったと言うことか。

 

「楽しみたいために、私に手伝わせるなんて、面白いね、まあ、手伝わせてもらうよ、そっちの言う“天敵”私もやってみたいから」

 

 彼は私を利用している。そして、彼の言う“天敵”は、私の目指す破壊のプロセスに過ぎない。だが、彼が楽しむための道と、私が楽しむための道は、今のところは、一部で一応の一致を見ている。

 

「その答えは、素直に嬉しいものだな」

 

 白子は、私に向けて微笑んだ。

 

「では、今回の名古屋行きの振り返りと行こう、私は今回、君に知見を得てほしいと思っていた。その具体的な内容は、“使えるものはフル活用”という姿勢だ。アサヒクリーク君が尻尾のコントロール技術をレースに用いているようにな」

「なるほど」

 

 アサヒクリークの尻尾の技術、たしかにあれはうまく使えば良いものになるかもしれない、そして、私は彼女よりも、尻尾をコントロール出来る自信がある。

 

「今回、君は正攻法とは別のやり方を学ぶことが出来たはずだ、そして、それはレース中だけの物ではない。君は、才能に溢れ、それを引き出すべく色々と考えてトレーニングをしていることは、私も承知している。そこに、もうひとつまみ、工夫を入れて欲しいのだよ、学園にいるサポートウマ娘を頼ったり、先輩に指導を仰いだりなどだな」

「そこでこの前の“周囲からの印象を良くする方法”を使って、そして考えて行けば良いんだね」

「そうだ、あらゆる方向から勝ちを拾いに行く貪欲さ、これからの君には、それを他のウマ娘よりも強く、追求していって欲しい物だな」

 

 白子はそう言って、私が頷いたのを確認すると、椅子から立ち、私に先にグランドに出るよう促し、トレーニングの準備を始めた。

   

 

 

 そして、私は歩きながら思っていた。

 

 周囲の環境を徹底的に利用する。使えるものは何でも使う。

 

 白子が重んじるこれは、学生生活でも同じことが言えた。前世、自分の人気・評判を利用して生徒会役員へと立候補したり、大学受験の際数の限られた指定校枠を争う生徒たちが居たのを、私は覚えている。

 

 そして、破壊についても同じことが言えた。騎馬文化の深い土地という利点を活かして、軍団を精強なものにしただけでなく、征服が完了すればそこの技術を取り入れたモンゴル。国民感情、ローマ時代からのキリスト教徒の人種観を利用していたドイツの全体主義が良い例だろう。

 

 そして、これから導き出されたもの…それは…

 

 学生に求められている姿勢と、破壊に求められる姿勢というのは、奇しくも一致しているというものだった。




  
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 次回かその次辺りにレース回を設けたいと思っています。
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