転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 お久しぶりです。削除した作品の件については、ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。こちらは番外編なのですが、楽しんで頂けますと幸いです。


番外編∶策謀のふたり
#0 私が黒澤由紀恵です


 

 

 ここは、愛知県にある地方トレセン学園、名古屋トレセン学園。

 

 かつて、名古屋城と呼ばれる城があったここは、ウマ娘を育てる学び舎となっている。

 

 そして、その応接室に、ある女性の姿があった。

 

 その女性は、学園のトップである理事長をはじめとした学園の主要メンバーの前に、姿勢を正して立っている。

 

「黒澤由紀恵、来月より、理事長秘書として着任致します。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 彼女は理事長の秘書として、この学園に着任する。名古屋トレセン学園の理事長は、就任して5年も経っていない。しかし、当然ながら、抱える業務は前任者と同じ量であり、スケジュール管理も通常のトレーナーなどとは比較にならないほど大変なものだった。

 

 そのため理事長は、自らを補佐する存在を欲し、新たに秘書となる新職員を雇用したのだった。そして、今挨拶をした女性は、その秘書として採用された、転職者であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

「こちらがトレーニングコースになります。照明装置を最新式のものに置き換えましたので、夜間トレーニングも安心して行えるようになっています」

 

 黒澤は優等生のサポートウマ娘、キングダムシーに学園を案内されていた。着任前に学園内の配置を覚えさせるために、理事長が手を回していたのである。

 

 そして付けられた生徒であるキングダムシーは生徒ながら、理事長に大いなる信頼を寄せられているウマ娘である。そして、キングダムシー本人も、それを誇りに思っていた。

 

「キングダムシーさん、ここの照明なのですが…」

「どうかしましたか?」

 

 黒澤は、キングダムシーに質問をする。

 

「この電源はどちらで制御を?」

「あ、それならあの小屋で纏めて行っています」

「コース沿いには無いのですね…」

「…?今、何か…?」

「いえいえ、何でもありません、秘書なのですから、学園内の事は、しっかりと頭に叩き込んでおかないとと思いまして…」

「ここは職員も生徒も親しみやすい人が多いですから、様々な人に何でも聞いてみてください、丁寧に教えてくれるはずです」

 

 黒澤の言葉に対し、キングダムシーは笑顔で返答した。

 

 

 

 

 

 

「こちらが食堂になります」

「レトロですね」

「ええ、コンセプトとしては昭和から続く、町の食堂です………まぁ、実を言ってしまえば、スペースの問題で少し手狭なのを、雰囲気で誤魔化しているのですが」

「私は好きですよ、とても雰囲気が出ていると思います」

「そう言って頂けると、嬉しいものです…それと、ここの手作り羊羹は絶品です。一度食べてみることをオススメします。」

「分かりました、ありがとうございます………あれ…あそこの彼女は…?」

 

 キングダムシーと黒澤が会話をしていると、あるウマ娘が、二人の方に向けて手を振りはじめた。

 

「……丁度良いですね。こちらにいらしてください!」

「イェス!」

 

 キングダムシーの言葉に反応したウマ娘は、席を立って二人の前に出る。

 

「紹介します。スタークラッシャー殿、これからデビューするウマ娘の中で、一番のダンス名人です。…クラ殿、こちらの方は秘書として来月より着任される、黒澤由紀恵様です。ご挨拶を」

「Roger!Roger!キッシー先輩!黒澤サン、Nice to meet you!ミーの名前はスタークラッシャー、“クラ”ネ!よろしくお願いするネ!」

 

 スタークラッシャーは元気の良い、月毛のウマ娘である。彼女は輝く星のような笑顔を見せ、黒澤に挨拶をした。

 

「キングダムシーさん、この子は……留学生の娘ですか?」

「いえ、留学生ではなく、英国から日本に移住したウマ娘です。ただ、日本語を完璧にマスター出来ていませんので、少々礼儀が欠けているように見えるかも知れませんが、本人に悪気はありませんので、ご理解をお願いします」

「いえいえ、この子も生徒なんですから、元気すぎるぐらいが丁度良いですよ、スタークラッシャーさん、私は黒澤由紀恵です、よろしくお願いしますね」

 

 黒澤は、スタークラッシャーに向け、ペコリと頭を下げた。

 

「黒澤サン、仕草と話し方、ちょっと固いネ!もっとrelax!」

「…クラ殿、もっと大人しく…」

「良いんです、じゃあ、まずは愛称で呼んで、慣れさせて貰いますね、クラさん」

 

 黒澤の様子を見たスタークラッシャーは、更に笑顔になる。

 

「Yes!よろしくお願いシマス!でも、あと一つ、キッシー先輩のことも、愛称で呼んであげて欲しいネ!」

「分かりました。キッシーさん、もっと、私に生徒の皆さんを紹介して頂けますか?」

「喜んで」

 

 こうして、黒澤は食堂にいたウマ娘達を次々と紹介され、打ち解けていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなり時間がかかってしまいましたね、申し訳ございません」

「良いんです。皆良い子そうで、安心しました」

 

 食堂で生徒と交流すること数十分。黒澤とキングダムシーは、食堂を出て、校舎へと戻ってきていた。

 

「…ここが、競走支援室です。私達サポートウマ娘と、技師の方が……あ」

「やあやあキッシー、ぼくに何か用かな?タブレットのフリーズかい?健康データの比較かい?………おや?そこの方は…?」

 

そう言いながら部屋の奥から出てきたのは、白衣の腕をまくり、眼鏡をかけた黒髪のウマ娘だった。

 

「ワイズ様、紹介します、理事長様付きの秘書として採用された黒澤由紀恵様です」

「よろしくお願いします」

「きみが………おっと、失礼、その身体……興味深くてつい見てしまった………ぼくの名前はホバーワイズ。競走支援課の課長で、専門はコンピューター関連の技術だ。ワイズと呼んで欲しい。よろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 黒澤とホバーワイズは、固い握手を交わした。

 

「ワイズ様は、私達サポートウマ娘が使っているアプリを作ったり、AIを使ってレースの分析を補助したりしてくれています。この学園に、無くてはならない方の一人です」

「………なるほど…では、今はどのような事を?」

「レースの映像を撮影した際、特定の人物にフォーカスを当てて分析ができるプログラムを開発しているんだ。今までは映像の拡大等が必要だったが、その手間は、もう、必要なくなる」

 

 ホバーワイズはそう言って、プログラムの試作品を見せた。映像には模擬レースを行う5人のウマ娘が映っており、そのうちの一人が、赤い枠で囲まれ続けている。そして、囲まれたウマ娘は、一着でゴールした。

 

「ここをこうすると…」

 

 ホバーワイズは映像を戻し、映像の横に表示されていたタブをクリックする。すると、画面に様々な情報が表示され、ウマ娘のフォームやスタミナの残り具合が表示されていた。

 

「凄い…」

「いや、まだまださ、今のところは、5人で処理能力ギリギリ…つまりは実戦で使うにはほど遠い。だがそれも時間の問題さ。でも、レースの分析だけでは、ぼくは満足出来ない」

「では、このプログラムの完成の先には何を…?」

「VRシミュレーターの開発さ。上手く行けば、これからデビューするウマ娘達でも、誰もが恐れた皇帝や、カサマツの星や、ダートのハヤブサでもいい、それかいっその事…いや、ここまでにしておこう。まあ、とにかくウマ娘が様々な相手と、仮想空間で走ることができ、トレーニングだけでなく、客観的に自分の実力を知る助けとなる。どうだい、黒澤さん、面白そうだろう?」

「はい、ワイズさんのお顔…楽しそうでしたよ」

 

 黒澤は話す際のホバーワイズの顔をよく見ていた。そして、とにかく夢中になっていると感じたのである。

 

「ははは、それはそうだろう、自分の能力を活かして働けるんだから。それに…いや、これを話すと長くなりそうだから、やめておこう…さて、ぼくはプログラムの改良に戻るとしよう。キッシー、君たちはこれからどこへ?」

「休憩スペースでお茶を飲みながら、現状を説明するつもりです」

「…そうか、黒澤さんは転職者、確かに、大まかな説明は、必要かもしれないね、頑張ってくれ」

「はい、ワイズ様」

 

 仕事に戻ろうとするホバーワイズに送り出され、黒澤とキングダムシーは競争支援室を出た。

 

 

 

 

 

 

「ここが休憩スペースです。名古屋市街を眺めながら休息出来ます。」

「…凄いですね…あれ、あそこのスペースは、学園の敷地内ですよね?案内はされなかった気がするのですが…」

 

 休憩スペースに案内された黒澤は、そこにかけられていた学園のマップを見て、案内されなかったスペースを指差す。

 

「あそこは三の丸広場です。30年程前、あそこにライブステージを建てようとしたらしいのですが…予算が足りなかったようで、現在は生徒用の休憩広場です。簡単な筋トレをしたり、お弁当を食べたり昼寝をする生徒もいらっしゃるにはいらっしゃるので、土地が遊んでいる訳では無いのですが…私個人としては、予備品を管理する倉庫を建てるなり、生徒が野菜などを育てる実習を行う場とするなり…兎に角何らかの形で何か活用出来ないかと思っています」

「…」

 

 名古屋トレセン学園は、名古屋城の跡地をそのまま利用している。明治時代初頭、城郭が保存されていた名古屋城は、落雷により、手入れの為に下ろされていた金鯱を除いて焼失した。その後は軍の訓練施設や敗戦時に進駐した英連邦軍の駐屯地を経て、現在へと至っているのだった*1

 

「ですが、私たちには、もっと重要なことがあります。地方レースは、人員確保のための魅力の創出に苦労しています。“理由は分かりませんが”、現在、中央トレセンは、生徒職員双方の募集に、力を注いでいるのです。そして、元生徒を指導員として採用することにより、広告効果とトレーニング効果双方の向上を図り、競走ウマ娘養成機関としての魅力を追求し続けています」

「それで…割を食っているのが、地方ということですか…」

「はい、よく…すぐにそこまで…」

「私の元居た業界も、人の確保に苦慮していた所ですから…それで、ここ名古屋は、地方学園の中ではどのような立ち位置なのですか?」

「正直、余り良い部類ではありません、地方学園の人気は、中央と特別留学制度の提携を結んでいる関東の学園に集中しています。そして、現在の地方レースの運営の上層部も、関東の学園出身の方々が多く、他の地域の事情への理解が浅いように思われます」

 

 中央と地方の格差がある事は、レースファンにとっては周知の事実である。そしてその格差は、地方学園の間でも当然あった。

 

「…ですが、地方学園の運営は、地域ごとにある程度の自主性があると聞きました」

「はい、そこなのです。他地域への理解が浅いのは…苦戦している地域があっても、ある程度は“そこの地方管轄局の自己責任”で終わってしまうからです。苦戦の原因を、共有する土壌が、出来ていないのです」

「…こちらの地方管轄局の方は、この現状をどのように認識しているのでしょうか…?」

「局長の方は現状に対して危機感を抱いているはずですが、基本的には、学園関係者の食事や寮などの福利厚生をまずは整えるといったスタンスの方でして、魅力創出という点においては、各学園に委ねているのが実情です」

「…」

 

 キングダムシーの話を聞いた黒澤は、しばらく考えこんでいた。そして、しばらくして顔を上げる。

 

「キッシーさん」

「はい」

「一応確認しておきたいのですが、レース場自体は、閑古鳥が鳴いているわけではないですよね?」

「は、はい…レースの際は市民の方々が来られますからそれなりに賑わいますし、重賞の時には遠征に来る他校の方もおられます。ですが、現状が続けば、その維持も至難の業となるでしょう」

「…分かりました。キッシーさん、少し、考えたことがあります、聞いていただけませんか?」

 

 そう言った黒澤の目は、閃きに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから少し経ったある日、新入生を迎える入学式を目前に控えた名古屋トレセン学園には、多くの人が詰めかけていた。

 

『本日は、名古屋市と、名古屋トレセン学園、そして、ここ名古屋城に、新たな歴史が生まれる日となります。長らく名古屋トレセンの一部であった三の丸広場が、この瞬間より、名古屋市民と名古屋トレセンの生徒の、ふれあいと憩いの場となるのです。予想された雨は雨雲の早めの通過によって回避され、先ほど生徒会長の挨拶と、オンライン会議により欠席した理事長メッセージの代読が無事に終了しました。』

 

 アナウンサーは、嬉しそうな様子で、今日が記念すべき日となる事を伝える。

 

『本日は快晴、植えられた多くの花や木々は、市民を待ち望むかのように青々と生い茂っており、風に吹かれてさらさらと音を立てています。門の前では、弁当箱や写生用のスケッチブックなどを持った市民が今か今かと、開門を待ち望んでいます。』

 

 テレビの向こうでは、リポーターのアナウンスが示すように、名古屋の市民が門が開かれるのを待っている。

 

 子連れの親子、草花や鳥目当てのカメラマン、果ては名古屋の一般学校の生徒など、様々な市民がいた。

 

 そして、所定の時間となり、生徒会長によって法螺貝が吹かれ、門が開かれる。

 

『今、門が開かれました。市民は、その一人一人が、歴史の本をめくるかのように、ゆっくりと、歩みを進めて、三の丸広場へと足を踏み入れていきます』

 

「……」

 

 そして、テレビの音を聞きながら、キングダムシーが、学園の理事長室の窓から三の丸広場を眺めていた。すると扉が開かれ、一人のウマ娘が入ってくる。

 

「………戻りましたわ、留守を預かっていただきありがとうございます……もう、始まっていましたか」

 

 彼女はキングダムシーから双眼鏡を受け取ると、三の丸広場の方角を見た。

 

「…………」

 

 そして彼女は、しばらく広場の光景を見た後、口を開く。

 

「周辺住民との信頼関係の構築は、愛される選手づくりの第一歩……それを学園敷地の開放という形で行うとは………城跡が学園で当たり前という、私達名古屋出身の職員では、考えつかない事ですわ。とても、素晴らしいアイデアです」

 

 このもう一人のウマ娘こそ、名古屋トレセン学園を率いる若き理事長(リーダー)にして元生徒会長、アサヒクリークであった。

 

 アサヒクリークは、生まれも育ちも名古屋であり、名古屋トレセン学園の卒業生でもある。そのため、城跡が学園の敷地という認識は固定化されており、一部とはいえそこを手放すとは、否定するより前に思いつくことも無かった事であった。

 

 そのため、三の丸広場の解放というアイデアの斬新さに、深く驚いたのであった。

 

「はい、黒澤様を採用された理事長様の判断は、素晴らしいです」

 

 キングダムシーは、黒澤から“レース場に地元住民が応援に来るのだから、あまり活用出来ていない三の丸広場を交流の場として転用すれば、地域との関係構築の一助となるのではないか”という趣旨の考えを聞かされた。その言葉は、彼女の心を強く打ち、共感を得たのである。

 

 キングダムシーの行動は早かった。

 

 “新参者かつ着任前の自分ではなく、生徒からの提案の方が遥かに説得力が増す”

 

 黒澤のこの言葉を受け、キングダムシーは“三の丸広場には活用の余地がある”という自分の考えを補完する形で、三の丸広場の開放案を学園を運営するアサヒクリーク、続いて理事会に提案した。元々、三の丸広場には樹木や植え込み、簡素な運動スペースとベンチがあったこともあり、その提案はすぐに可決され、黒澤の業務開始と並行する形で実現へと至った。

 

 そのため、三の丸広場の開放は”職員の発言をヒントにキングダムシーがアイデアを考えた”という。

 

「…キッシーさん」

「はい」

「黒澤さんはどちらに?」

「はい、資料室にて、追加の資料のコピーをとっています」

「では、直ぐにこちらに呼び寄せて下さいな、彼女も、愛称で呼ぶことにしますわ」

「…!分かりました、直ちに」

 

 アサヒクリークは、他の学園職員や生徒に対し、積極的なコミュニケーションを心がけていた。中央の理事長である秋川やよいのスタイルを参考にしていたのである。そして、その過程において、接する事が多いもしくは学園に対して何らかの形で大きな貢献をした職員や生徒は、相手の了承を得て愛称で呼ぶことにしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お連れしました」

「ありがとうございます。キッシーさん、広場に出て現場の確認をお願い致します」

「かしこまりました」

 

 黒澤を連れて来たキングダムシーは退出し、アサヒクリークと黒澤は、二人きりとなった。

 

「ふう……黒澤さん、資料の方は?」

「無事に終わりました」

「それは良かったですわ、それでこそ…私の秘書です。では、秘書の貴女への、個人的なお願いです」

「個人的なお願い?」

 

 アサヒクリークは外を見て、黒澤に背中を向ける。

 

「…貴女を愛称で呼んでもよろしくて?」

「無論です」

「そうですか…感謝致しますわ」

 

 そう言うと、アサヒクリークは、ゆっくりと身体を黒澤の方に向ける。彼女はどういうわけか、いたずらっぽく笑っていた。

 

(クロ)さん…あなたの愛称ですわ。水戸のご老公のお供のようでしょう?」

「…」

「…おっと…別に、感想を言っても構いませんわ、それが、お堅い形でないとしても…二人きりの時には、いつでもOKですわ」

 

 アサヒクリークは、そう言って更に口角を上げてみせる。

 

「…」

 

 黒澤はしばらくそれを見ていたが、やがて、その表情をアサヒクリークと同様のものに変化させた。そして…

 

「私にピッタリだよ、理事長…いや、クリークさん」

 

 と、返答したのだった。

 

「やっと、共に闘えますわね」

「そうだね、名古屋(ここ)に来てしばらく…アパートを借りたり、地理を覚えたり…しばらく大変だったけど、これでやっと…スタートが切れる」

「ええ、知勇兼備の、アルビノのカラスの力…頼りにしていますわよ」

「…!!」

 

 懐かしい響きを聞き、黒澤の耳が、ピクリと動く。

 

 その耳は、アサヒクリークと同じ、頭の上についていた。

 

 そう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “彼女”(マヴェリッククロウ)が、帰って来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方同じ頃、名古屋からはるか東の東京、中央トレセン学園では、予想よりも早く名古屋を通過した雨雲の影響による雨が降っていた。

 

「オーウ、雨、雨、雨デス!」

 

 そう言って落ち着かない様子を見せるのは、トレセン学園のOG教官、エルコンドルパサーであった。

 

「…これでは我がチームの外でのトレーニングは、中止にするしかないようですね」

 

 そして、エルコンドルパサーと共に窓の外を見て、チームの予定を変更せざるをえない事を悟ったのは、同じくトレセン学園のOGであるものの、エルコンドルパサーとは異なり、現役時代、自らを指導していたトレーナーが持つチームのサブトレーナーとなっているグラスワンダーであった。

 

「そうデスか…今日トレーニング予定のチームはと……オーウ…これ、体育館と室内トレーニングルームがかなり混みマス…」

「入学式を控えたタイミングで、先輩となる生徒の怪我は避けたいところです…エル、事故防止のため、体育館と室内トレーニングルームの監視員を増やすことはできますか?」

 

 雨となれば、当然トレーニング場所を移すチームも出る。当然移動先は混雑し、事故のリスクも増す。

 

 “憧れの先輩が入学式前に怪我をしていた”

 

 そのような事態を避けるため、グラスワンダーは、危険な場面を指摘でき、生徒が安全にトレーニング出来るよう、監視員を増やせそうかエルコンドルパサーに聞いたのである。

 

「ちょっと待って下サイね……うーん…今日は、生徒にも手伝って貰う必要がありそうデース…スパイダーさんに連絡をとってみマス」

「お願いします」

 

 エルコンドルパサーは、電話を掛け始める。彼女の連絡相手、スパイダー先輩は、ハンススパイダーという名前であり、主にOG職員と生徒間、そして一般の職員を繋ぐ役割を担っているウマ娘である。

 

 ハンススパイダーは、そういった多様な人々を繋ぎ、学園をより円滑に運営するべく、トレセン学園に勤務しているウマ娘の一人として、エルコンドルパサーやグラスワンダーから大いなる信頼を寄せられていた。

 

「うーん…出まセン…」

「何か作業をしているのかもしれません。とりあえずメールも送っておきましょう」

 

 グラスワンダーがそう言ってパソコンの画面を見た瞬間、雨が更に強くなった。

 

「…これは、夜まで止みそうにないですね…」

「…ハイ」

 

 エルコンドルパサーとグラスワンダー、この2人は、少し不安そうな顔をしてしばらく、厚い厚い雨雲を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

*1
本作オリジナルの歴史




 
 お読み頂きありがとうございます。

 コメントなどありましたら、お気軽にお寄せ頂けますと嬉しいです。

 この世界では名古屋城の一帯がトレセン学園の敷地となっていますので、現実世界における名古屋市科学館のあたりが庁舎などの密集地となっています。

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