転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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#5 偉大なる歴史

 

 ワタシ達のプロジェクトは盤石だ。

 

 日本のトレセン学園の、日本のウマ娘の力は、存分に発揮できる。

 

 意欲と才能に溢れた生徒達…

 

 支持の高い生徒会…

 

 優秀な指導官達…

 

 経験豊富なOG…

 

 熱狂的なファン…

 

 必要なものは揃ってる。

 

 やり遂げられるかどうかは、ワタシ達の頑張りにかかっている。

 

 白黒の破壊者のような、イレギュラーはいないし、出させない。

 

 今度こそ、ワタシ達皆の夢を、掴んでみせる。

 

 

 

 

 

 ──エルコンドルパサーの手記より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 濃尾トレセン学園が誕生し、はや数カ月。

 

 夏も近づきつつある日、カサマツトレセン学園の会議室は、重苦しい空気に包まれていた。

 

「……では、これより、春の学園の魅力創出、戦跡を振り返っての会議を行いますわ、よろしくお願いいたします」

 

 アサヒクリークの号令で、会議が始まる。

 

 会議室には、名古屋、カサマツ両校舎から出席してきた職員が集っている。

 

「……まずは学園の魅力創出から、それぞれ、資料をまとめて下さった代表の方々に報告して頂きますわ」

「………我が濃尾トレセン学園は、5月に共同で、天持学園とも連携した合唱を披露、これは大成功を収めました。名古屋、カサマツでの同時披露となったため、不安もありましたが、結果はどちらも会場に十分なファンを呼び込むことができました。これによって、両校者の生徒の仲も深まり、地域の人々にも、学園とのつながりを感じて頂きました……合唱後に取ったアンケートの結果は、2つ目の資料の5ページにあり、生徒、地域の人々ともに、反応は良好です」

 

 濃尾トレセン学園は、統合後の魅力創出活動の1つ目として、両校者の生徒が協力しあうイベントを企画し、実行していった。

 

「また、庄内緑地の清掃活動、稲葉や……いえ、岐阜城の森林保全清掃など、両校の存在する地域で行われている各種ボランティア活動に、有志を募って参加することにより、我が校の目標の一つである“これからの市民社会を担う人材を育てる”の周知を図り、本学園が、スポーツのための人材だけでなく、今後の社会を支え、地域を明るくする人材を育成している事もアピールしています」

 

 両校者の生徒は、イベントだけでなく、ボランティア活動にも、精力的に参加した。これらのイベントにより、生徒は社会に貢献するということは、どういう事か、普段自分達を応援している人々は、どのような存在なのかということを深く認識し、その期待に応えるべく、士気を高めた。

 

「学習面では、両校の教師同士で、教育について話し合う場を作り、教科ごとに指導方針の共有を行っています。これまで全く違う学園だったこともあり、互いの至らない点が受け入れやすく、教育の密度が高まり、それによって授業の進度も高まっています、特に数学と英語では、効果が顕著です」

 

 また、トレセン学園は教育機関でもあるため、教師の意識改革も忘れずに行われた。学園の魅力は、行うイベントやレースでの戦績だけではなく、進学実績も含まれているからである。

 

「…福祉面では、まず、食堂のメニューについて、追加を検討中です。味、栄養面などの研究は進めているのですが、期間限定のものにするのか、常設のメニューにするのか、こちらの方針も決めなければなりません、もう少し時間が必要です、そして、生徒の心のケアについては、現在新しいプランの準備を行っています」

 

 ウマ娘の食事量は、通常の人間を大きく上回る。そのため、食堂のメニューの選定には、慎重な決定が必要であった。

 

「技術面ではVRシミュレーターの改良を進めています。現在は過去のウマ娘達のデータの精度を高めており…より自然に、より激しく、より強く……を合言葉に、日夜力を注いでいます」

 

 技術開発も、継続されている。VRシミュレーターは、中央にも存在しているが、あちらのほうがゲームなど多用途に使える分、性能は上である。しかし、名古屋のそれは、レースとトレーニングに目的を絞り込むことで、開発にかかる費用を抑えていた。

 

「……ありがとうございます、各部門、日夜努力を続けてくださり、感謝申し上げますわ…では、魅力創出について、何らかの意見がある方々は、どうぞ、ここでおっしゃって下さい」

 

 会議は進んでいき、話題は別のもの…レースへと移る。

 

「問題は、レース……これは、責任を持って、私が報告いたします」

 

 アサヒクリークの言葉に、その場にいるほぼ全員が息を呑む。

 

 斎藤は腕を組んで真剣な面持ちをし、仁藤は資料を持ち上げ、顔の前まで持ってくる。

 

「…………我が学園のレース成績ですが、決して、良好とは言えませんわ。シニアクラスの生徒は、南関東、関西方面への遠征が多かったですが、掲示板を外す事が多かったとのこと………そして、クラシッククラス…」

 

 アサヒクリークも、資料を見ながら、顔をしかめる。

 

「………クラシッククラスでは、ケイピーシーナリー、およびスタークラッシャーが東京ダービーに出走、出走ウマ娘は16名、ケイピーシーナリーは6着、スタークラッシャーは5着、1着は中央のウマ娘、コパノリッキー…………我々の完敗ですわ」

 

 東京ダービー、クラシッククラスのウマ娘の、ダートグレード競走である。

 

 このレースにおいて、濃尾トレセン学園からはケイピーシーナリーと、適性距離を何とか伸ばしたスタークラッシャーが出走した。

 

 2名ともトレーニングに不足は無かったが、結果は最終直線での末脚勝負で競り負けというものだった。

 

「……原因としては、ケイピーシーナリーの方は、先行争いの際に、体力を予想よりも消耗したこと、スタークラッシャーの方が、激しい競り合いをした際にバランスが崩れたことです。なお、スタークラッシャーのクリーク戦法については、慌てた他のウマ娘が接触したことにより、実況にそれが伝えられ、注目が集まってしまい、失敗しています。対策については、各々のトレーナーに考えるよう通達済みですが、この会議の場でも、皆さんに何かアイデアや質問がありましたら発言して欲しいのです」

「…では、良いかしら?」

 

 斎藤が手を挙げる。

 

「はい、斎藤副理事長、お願いいたします」

「……黒澤係長から、少し役立つかもしれないものを、預かっているわ、スキャナーを借りるわね」

 

 斎藤はそう言って、スキャナーを開き、懐から取り出した小さな紙を挟んだ。

 

「これは……」

 

 スクリーンに映し出されたのは、2人のウマ娘と、トレーナーの顔写真だった。

 

「オヤマアトラスに、コタンチェフスキー…」

「それに、宇野沢トレーナーと、露田トレーナーも…」

 

 その場にいた全員が、その顔を知っていた。何を隠そう、その四名はそれぞれ、金沢トレセン学園と門別トレセン学園の生徒会長と、トレーナーの片方は今回東京ダービーに出走したウマ娘のトレーナーだったからである。

 

「今回の東京ダービーは、ネクストヒロインカップを上回る大舞台、当然、舞原トレーナーはレースに全力集中していたわ。でも、黒澤係長は担当を持たない分、精神的に余裕がある。レースの後、黒澤係長はオヤマアトラス達を探して見つけ、話しかける事によって、お互いの名刺を交換した……一か八かの賭けであったみたいだけど、コミュニケーションは成功。繋がりのきっかけを作ることに成功したわ」

「ですが、いったいそれがどういう意味を成すのです?」

 

 斎藤に対して、名古屋のベテラントレーナーからの質問が飛ぶ。

 

「……統合の翌月、競技面での基本方針として、ライバルとなる存在が、外部に必要であるという事を共有した…それは覚えているわね?」

「はい、それは…最も重要な基本方針です。ですが……それは大井や船橋などの南関東であると思っていました」

「確かに、理想を言うのならそうでしょうけど、残念ながら向こうはこちらを対等な相手とは見なして居ないでしょうね」

「………確かに」

 

 地方の中にも、当然実力のヒエラルキーというものが存在する。大井や船橋などの南関東地域のトレセン学園は、そのトップを争っていた。

 

「でも、金沢と門別なら、話は別よ、今回の着順を見ると1着と2着が中央のウマ娘、3着が船橋、4着が大井、7着に門別のレッドドーシュカ、金沢のウマ娘は今回出ていないけれど、こうして偵察を送ってきている……結果だけ見れば、門別には勝ち、金沢にも掲示板に載ったという結果を見せつけることができたわ」

「……」 

「私たちは3校とも、中央の強さを見せつけられた…この共通点がある。さらに、統合によって学園が混乱すると予測した意見もあったけれど、私たちはこうしてお互いに張り合うことなく意見交換出来ている上、遠征を行うウマ娘も増えたわ。伝え方によっては、外部との接触が、力をもたらすということも、アピールできるはず」

「……つまり、副理事長は、門別と金沢の2校こそ、我が濃尾トレセン学園のライバルになり得ると考えられているということですか」

「ええ、彼らとの関係は、私たちがそうであったように、お互いに足りないものを見つけたり、新たな武器を発見する一助になる……少なくとも、私は、そう思っているわ」

 

 その言葉を聞いた名古屋の職員は、納得したような顔になる。

 

「それについては私も同感です。ですので……斎藤副理事長、クリーク理事長、ここでアイデアを一つ出してもよろしいですか」

「ええ」

「もちろんですわ」

「まずは、生徒会長に電話連絡を頼みます。そして、あちら側の生徒会に持ちかけるのです。“こちらで合同トレーニングをやってみないか、費用はすべてこちらで持つ、来るか来ないかは構わない、話だけでも、どうか生徒に持ちかけて欲しい”と……それを、なるべく相手に敬意を払い、持ちかけます」

「…なるほど」

「………向こうも東京ダービーには万全の態勢で臨み、敗北し、現状の不十分さを認識したでしょうから、恐らく新しい事に飢えているはず………そして、この計画には、名古屋が大都市であるということも利用します。ウマ娘達、彼女は育ち盛りです。当然、あらゆる方面の興味があり、都会への憧れも例外ではありません。もちろん、カサマツの校舎もトレーニング先として利用いたします。」

「まとめると、低頭な姿勢で話を聞いてもらい、他の学園の改革への意識と一部のウマ娘の都会への憧れを利用することによって、門別、金沢との交流の第一歩とするということですか……」

 

 アサヒクリークが発言を要約すると、あらゆる場所で頷いたり、そのアイデアならという声が上がる。

 

「はい、成否は分かりませんが、何もやらず、何も得ずよりは遥かに良いかと」

「予算はどうするの?」

 

 斎藤は当然のことを指摘する。

 

「中部地方支部より賜った統合時の新事業支援金…あれを使おうかと」

「……確かに、あれの用途は特に決めていなかったわね、私は異存なし、クリークさんは?」

「もちろん、私も異存なしです、では、アンケートを配布いたしますわ、皆様、ご回答を」

 

 アサヒクリークの言葉を受けた進行役は、全員にアンケートのURLを配布する。これにより、職員たちは、同僚に意見を知られることなく、自分の意見を表明できるのである。

 

「……結果は、賛成の満場一致で、決定です」

「ご協力、感謝致します。…では、早速準備に取り掛かると致しましょう、門別と金沢、両者との関係構築………やり遂げましょう!」

 

 アサヒクリークがそう言うと、他の職員は返事をもってそれに答える。

 

「では、今度は私から良いかしら」

「斎藤さん、どうぞ」

「我が学園で、外部トレーニング施設を確保しておきたいの。特別な調整や、合宿で使用するためのね、もちろん、新規建設ではなく、既存の施設を利用するわ」

「レンタルと言う形ですか…」

「確かに、統合の際に行ったアンケートに、外部トレーニング施設が欲しいという声は少なくなかったですな…」

「ただ、有名どころは中央や南関東と提携していますよ」

 

 斎藤の意見に対し、様々な声が巻き起こる。

 

「では、こうしましょう、次回の会議までに大まかに絞り込みます、これは一旦持ち越しという形でよろしいかしら?」

「それは勿論です」

 

 学園のため、生徒のため、地方レースのため、会議は進んでいく、そこに踊りは、当然ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞原と森谷のやりとりを聞きつつ、私は自分の間食であるぜんざいを取る。キングダムシーの作るものには劣るが、ここのも中々である。そして、次に受け取るのは舞原と森谷だが……

 

「………」

「……舞原さん?」

「………は、はいっ!すいません、森谷さん、また考え事を…」

「いえいえ、大丈夫ですよ、落とさないようにして下さいね」

 

 舞原……彼は、東京ダービーでの敗北以降、慌てて居るのだ、今まで好調だっただけに、敗北のショックは大きいということだろう。

 

 いや、彼だけではない、ケイピーシーナリーもそうである。

 

 どうやら彼女、勝ったウマ娘……コパノリッキーが、地下道で“風水の導きのおかげ”という趣旨のことを言っていたのを聞いてしまったようなのだ。

 

 風水の導き、そちら方面の興味は無いので予測にはなるが……まあ、レースの作戦とかではなく、平安時代の貴族みたいに、どの方向に進むか………レースだと、どのレースに出るかを決めた程度のものだろうが……

 

 だが、必死にトレーニングし、走ったケイピーシーナリーはどう思うだろうか。

 

 それは簡単である。トレーニング以外のことに寄り道してるウマ娘に叩きのめされたという感情が起こるのだ。  

 

 感情的に敏感になっている相手に、“風水はレース結果とは関係ない”といった理論は通用しにくい。風水どという、まあ科学的とは程遠いものであればなおさらである。 

 

 風水…プラシーボ効果に似たものをもたらすのかも知れない。私が中央にいた時にコパノリッキーがいる世界があったとすれば、何らかの妨害工作を仕掛けただろうが…………

 

 しかし、妨害工作……か…そう言えば、中央時代、エルコンドルパサーが部屋でペットかなんかを飼っているという噂を耳にした事があったな。

 

 確かその時の私はその真意を確かめ、本当であればそれを保健所に送ってエルコンドルパサーの精神を不安定にさせようとしたはずだ。もっとも、調べるのにコストがかかりすぎるので結局トレーニングの成果でねじ伏せることにしたのだが。

 

 話が大脱線したので戻す。ケイピーシーナリーは、自分が頑張ったところで無駄なんじゃないかと悩み、舞原はそれを何とかしようとして悩んでいる。トレーニングこそ中止していないものの、それは身体を動かしていれば、悩みは一時的に薄くなるという事から来る行動であり、効果は薄い。

 

 仁藤は最近忙しいので、上司となる自分や沖田が悩み過ぎを咎めたりはするのだが、あまり効果はない。

 

 とは言え、腹が減っては戦ができぬ。

 

 何か食べなければならないのは絶対なので、森谷が半ば無理やり誘い、食堂まで連れてきた。舞原は今日がコースの整備日であることをいいことに、残業しようとしていた。

 

 だが、それで体調を崩してはケイピーシーナリーのためにはならない、校則第14号の

 

『生徒は教官、トレーナー等指導者との連携を十分に行うこと』

 

 を持ち出し、“無理して熱でも出して連携できなくなっては遅いので休むように”と命令で切り上げさせた。昼食にも来ず、栄養ゼリーだけでは心身ともに持たん。体調面をみての命令なのでパワハラにもならん。

 

 

 

 

 

「空いていて良かったですね」

 

 会議はまだまだ続いているので、席は空いており、いつもなら人が多いテレビの近くに座ることができた。

 

「しかし、課長たちはいつごろ戻られるんでしょうな」

「そうね、今日はいつもより議題が多いのかもしれないわね」

 

 沖田は少し会議の内容が気になっている様子である。まあ、彼の気持ちも理解できる。彼は生徒への新たなトレーニングの稟議書を書き上げ、提出したばかりであるからだ。

 

「あ、皆さん、テレビが…」

「む?切り替わっとるな……そう言えば今日はURAの方で何か発表があると、ウマッターで告知されていたみたいだが…」

「でも、それ以外は特に無かったですよね」

「ああ、そうだが………む、誰か出てきた。誰だ、あの背の低い帽子の奴は」

 

 沖田の声に反応し、私もテレビの方を見た、反応からするに、ほとんど顔も背丈も変わらない、あの理事長ではない。

 

「……誰なのかしら」

 

 相手の容姿は、キャップをかぶり、短パンを履いている。小さいが、あの理事長とは違う。そして、その人物は、マイクを取った。机の上にある名前は……佐岳メイ?知らないな、鬼義重の佐竹ならわかるが。

 

「…今日、皆に集まって貰ったのは他でもない、我々URAの新たなプロジェクトを発表するためだ」

 

 記者……いや、それだけじゃない、私達カサマツのメンバーも、テレビに集まっていく。

 

「………今まで、トゥインクルシリーズでは、多くの夢やロマンが生まれてきた」

 

 ほう。

 

「……その夢やロマンは、度々、私達に力と結果をもたらしてきた」

 

 ほう。

 

「今回のプロジェクトは、夢やロマンの究極を追い求めるものとなる!」

 

 ほう、3夢やロマンだ。

 

「では、ここにいる皆、これを見ている皆に聞こう!」

 

 ほう。

 

「なぁ、目指したことはあるかい?」

 

 ほう。

 

「海の向こうにある熱狂を」

 

 ほう。

 

「歴史に彩られた偉大なる栄冠を」

 

 ほう。

 

「壮烈で華麗なる喧騒を」

 

 ほう。

 

「誇りを手に入れるためのレースを」

 

 ほう。

 

「そう…………凱旋門賞の…一着を!!」

 

 ……!

 

「世界一度は、途方もない夢だ、その夢を願い続けるには、体力、時間、費用を使う」

 

 …

 

「どれほど険しく、厳しく、狭き道か。優しく諭してくれる人は大勢いる。けれど……夢を成せるのは、夢を見た者だけだ!私は…いや、私達は、全力で夢を見る!」

 

 …

 

「日本のウマ娘が、『凱旋門賞』で勝つ夢を!!」

 

 ……

 

「それを叶えるために、立ち上げ、用意をしてきたのが、このプロジェクトL'Arc!!君たちの中にも居るんじゃないか?本気で――『凱旋門賞』で勝ちたい者が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわつく食堂の中、私はぜんざいを食べるペースをさりげなく上げた。ただ、雑に食べてお汁粉は飛ばさない。別のものを飛ばすために、ペースを上げたのだ。

 

 完食した私は、他のメンバーと別れ、帰宅する。舞原が心配ではあるが……状況が状況である。

 

 私はケータイをとり、連絡を飛ばすべく、とある電話番号を押した。

 

 これを押すのは、2度目か。

 

 ダイヤルボタンを押す。

 

 コール音が鳴る………

 

「私だ」

 

 2コールで取りやがった…

 

「久しぶり、今大丈夫?」

「問題ない、だから取らせてもらった……さて、何か用があるのだろう」

 

 こいつ…電話口の向こうでニコニコ笑っているな。すぐに分かるぞ。

 

「教え子からのお願い、ちょっと聞いてくれない?」

「…無論だ」

「ありがとう、じゃあ、単刀直入に言うね」

 

 私の今の仕事は、この濃尾トレセン学園で、下剋上をすることである。ただし、それだけにのめり込みすぎず、伸ばしすぎない程度にアンテナを張ることも、大切なのだ。

 

「プロジェクトL'Arcについて、定期的に教えて欲しい。ちょっと興味あるんだ」

「フッ……やはり君は変わらないな、クロウ君、勿論教えるとしよう、私は今でも君のトレーナーであり、歴史の立会人なのだからな」

「ふふっ、そっちも変わらないね、じゃあ、連絡を待ってる。アドレスはすぐにSMSで送るから」

「了解した、用心しつつ、情報を渡す」

「ありがとう」

 

 

 

「……」

 

 電話を切って、私はベランダへと出る。 

 

 

 東を向いて、天を仰ぐ。

 

 

 世間は、何が見たいのか。

 

 

 世間は、何を求めているのか。

 

 

 知っているのは、神か、仏か、はたまた天か……

 

 なんて、考える必要はない……答えは簡単である。

 

 偉大なる歴史が求められているのだ。

 

 何千年も生きた大樹、大地を踏みしめた恐るべき竜、氷河によって削られた深い谷のような、偉大な歴史が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、奇しくも、下剋上を狙う私たちにも、その目的は共通している。

 

 オグリキャップのような、今でも語り継がれる、輝かしい功績……それが、下剋上に、今の私達に、必要なのだ。

 

 求める物を同じくする者同士は、決して並び立たない。

 私達が大きくなればなるほど、中央とぶつかり合う事もあるはずである。

 

 今は情報を集めつつ、周囲を固めていくとしよう。しっかりした土台の上に、計画を立てていくのだ。

 

 中央ともしぶつかる事になっても、問題ないぐらいの評価、影響、環境を整える必要がある。

 

 まずは、部下である舞原を、なんとかしていかなければ……

 

 ああ、思い出した。

 

 こういうのが、基盤づくりという奴だったな。




 お読み頂きありがとうございます。

 地方レースの構図についてですが、簡単に説明すると各地方に運営の為の支部があり、東京に本部があるという形です。また、現実同様、南関東は最強クラスとなっています。

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