転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 情報量が多くなってしまいました。




#8 共通点

 

 

 夏合宿は無事終わり、私達はカサマツへと戻ってきた。

 

 生徒達は合宿時、福山市でのボランティア活動への参加や、学園の傍を流れる川の河川敷の清掃をやっていたので、見送りに来た地域住民から“来年も来てほしい、昔を思い出すから”と感謝の言葉を伝えられた。

 

 これで良い、こうすることによって、生徒募集につなげることもできる。

 

 生徒達も普段とは違う環境で、身体能力を高めることができた。参加しなかった生徒にも、知見を持ち帰っている。

 

 あと、蹄鉄を見つけたことにより、今後の技術開発のヒントも得ることができた。

 

 総じて、夏合宿は大成功だったと言えるだろう。

 

 それは、この結果が示している。

 

「ケイピーシーナリー、絶好調!舞原さん、良い見出し、良い写りじゃないですか!」

 

 森谷はハイテンションで、新聞をこちらに持ってくる。

 

 ケイピーシーナリーは夏合宿を終えてすぐ、園田で行なわれたレースで勝利、中央のウマ娘こそいなかったが、余裕のあるレース運びで勝利をもぎ取ってきた。

 

 スタークラッシャーも、高知まで遠征に行って現地のウマ娘に勝利したようで、元気な様子で電話をかけてきた。

 

「はい、ケイの努力が実り、僕も光栄です」

「だが、勝って兜の緒を締めよと言う、舞原、くれぐれも油断はせず、鍛錬に励むことだ」

「もちろんです!」

 

 ウマ娘達だけでなく、職員達も頑張ってくれている。

 

 そんな彼ら、彼女らには、当然、新たなサポートが提供されるべきであり、夏合宿の間、その準備は進んでいた。そして、その準備の結果は、今日の全校集会で明らかにされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から、濃尾トレセン学園、カサマツ校舎に、新たな競走生活のサポート器具が3台、追加されることになった。3台という数字が示すように、譲り合いながら使ってほしい、以上」

 

 マイクを持った斎藤は、そう言って、生徒会のメンバーに合図を送る。

 

 いつもはキングヘイローのような話し方をする彼女だが、ウマ娘に指導をするときや、集会のときなどは、指導者のスイッチが入るのだ。

 

「今日から導入される器具は……説明をするより、実演を見せたほうが早いでしょう、おいで!」

 

 そう言った生徒会の生徒に視線が集まるが、すぐに視線は別の物に移動する。

 

「ワン!ワン!ワン!」

 

 生徒会の生徒のもとに、3匹の犬が寄ってきたのだ。

 

「はいはい、おすわり、みんなの方を向いてあげて」

 

 そう言うと、3匹の犬はお座りをして、生徒達の方を向く。生徒会の生徒はそれを撫でる。犬たちは、嬉しそうな表情をする。

 

 生徒達の目線は、もうすでに3匹の犬に注がれている。

 

「紹介します、右から、緑のスカーフをつけているのがペコリーノ、青いスカーフがマスカルポーネ、赤いスカーフがモッツァレラです」

 

 犬たちの名前は、皆、チーズにあやかったものである。

 

「そして…この子たち、何と…ロボットなんです!」

「─!」

 

 その説明に対し、一気に会場はざわつく、予想通りの反応である。

 

「この子たちはドギーロイド、名古屋にてダート整備を行うという形で試験的に運用されていた災害用ロボットの技術を利用し、開発されたセラピーロボットです」

「えぇ…あのロボットだよね?」

「気持ち悪くて自衛隊に壊されてそうなあれ…が…あの可愛い犬に…」

 

 まあ、早い話が、余計なセンサーやカメラを取っ払い、犬の外装をかぶせたものである。足も2本減らした。ただ、はく製やぬいぐるみの技術や自動車にも使う騒音抑制技術が使われているため、外観は犬と遜色ない。

 

「でも、どうしてあの生物離れした災害用ロボットがこんなかわいいワンちゃんになったんです?」

 

 生徒の一人から、ストレートな質問が飛ぶ。

 

「災害がもたらすのは、街が壊れ、人が閉じ込められたり、怪我で動けなくなったりする被害だけではないからです」

 

 しかし、それも対策済み。生徒会の生徒は、答えてみせた。

 

「災害は、街や肉体だけでなく、人の心も傷つけます。被災地での捜索や救援は、あの六本脚のロボットが担い、人を癒やす役割を、このロボット達が担うんです………そして、私達は皆、競走という厳しい世界の中で戦うウマ娘……知らずのうちに、心はすり減っていくものです……何人かは、学園を去る選択をした人もいます」

 

 ウマ娘レースは、栄光の舞台・エンターテインメントという側面が強いが、その裏では、心をすり減らすウマ娘もごまんといる。当然、ブン屋さんはそんな面の一部分しか映さない。

 

 銀翼のウマ娘は、もともと、心をすり減らしていく側のウマ娘達であったが、すでに歴史から消し去られようとしている。

 

「…私達には、普段の休養とは別で、心を癒やす存在が必要………それが、この子たちが導入されたきっかけです。この子たちは、犬の感情表現、行動パターンを可能な限り、プログラムされています……でも、それでは、ただのロボットです……この子たちは、学習する機能が搭載されています。ですから、私達がこの子たちに接するほど、この子たちは成長していきます。この子たちは、確かに機械ですが、学び、生きているんです」

 

 そう言って、首の周りを撫でた生徒会の生徒に対し、ペコリーノは頭を上に向けて、気持ちよさそうな顔をする。

 

 本当はモッツァレラを撫でて欲しかった。

 

 なぜかと言うと、私もこの計画に参加していたからである。というか、あの六本脚ロボットをセラピーロボットにするという案を出したのは私であるし。まあ、ケイピーシーナリーが親しみやすい見た目にしたほうが良いと言ったから、思いついたのだが。

 

 ただ、すべては思い通りにいかない。本当は特別な思い入れのあるゴールデンレトリーバーにしてほしかったが、“毛のコストがかかるので短毛のラブラドールで”と言われ、ラブラドールになってしまったのだ。なので、試作機の1つに名前をつける権利だけもらい、愛犬と同じようにチーズの名前…モッツァレラをつけさせてもらった……………が、他の試作機も、同じようなノリでチーズの名前になったのは予想外だった。

 

「この子たちは、基本的に、食堂で待機しています……まずは、実際にコミュニケーションを取って、試してみてください、以上です」

 

 最後に、生徒会の生徒は、得意げにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食堂に行ってきました〜!いやー、あの子たち、すごい人気でしたよ!」

 

 数時間後、食堂から帰ってきた森谷は、幸せそうな顔をしていた。

 

「良かったわ、生徒達も喜んでくれているようね」

「はい!犬そのものだと言っていました!」

 

 動物は、不思議な力を持っている。

 

 精神を病んで疑心暗鬼になっていた例の独裁者……彼も最期の時まで、犬を傍においていた。

 

 みさちゃんだって、愛犬相手には、何だかいろいろと愚痴を語っていたのを覚えている。彼女からすると、人の家の犬なのに…である。

 

 まあ、撫でているだけで気持ちが和らぐというのは分かる。

 

「でも、黒澤さん、ちょっと気になったんですけど…あの子たち、どうやって充電してるんですか?」

 

 そして、森谷は質問をしてきた、ちょっとからかってやろう。

 

「え?原子炉よ、あの子たち」

「ええっ!!げ、原子炉ですか!?」

「冗談よ、冗談…あの子たちが寝てたマットがあるでしょ?あれが充電装置になっているのよ。もちろんコードを差し込んで充電もできるわ」

「もぅ…びっくりしたじゃないですか」

 

 まあ、最近のスマホみたいな充電方式である。生徒が授業を受けている間、充電されるのだ。被災地だと発電機とかポータブルバッテリーとか持ってく必要があるな。

 

 原子炉とかだと多分無限に動けるが、私が生きているうちにできるかできないだろう。

 

 まあ、そんなことはいい。大事なのは、すぐ後に控えた合同トレーニングである。あくまでこれは、士気向上の手段の一つに過ぎない。だが、士気が上がっただけで良いレースができるかと言うと、それは違う。士気を結果に変換できるだけの実力と経験、それが求められている。

 

 スペシャルウィークは、ジャパンカップでの勝利により、士気を高めた。しかし、実力と経験は、当時の私に比べて劣ってはいたのだろう。私は全力で挑みかかり、彼女を破壊したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金沢トレセン学園、オヤマハンニバル以下、生徒15名、指導官7名、計22名、本日よりお世話になります!」

 

「門別トレセン代表、レッドドーシュカ、シスター16名、トレーナー9名、全員揃っていることを報告いたします。短い間ではありますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」

 

 セラピーロボットロボット導入から少し、金沢、門別トレセンの生徒が、合同トレーニングのため、濃尾トレセン学園の名古屋校舎を訪れた、トレーニング期間は2週間、最初の1週間を名古屋、次の1週間をカサマツで過ごすという予定であった。

 

「では、歓迎会を開始いたします、食事は心の燃料補給であり、癒やしの時間、ここにある料理は全て、濃尾トレセン学園の生徒会や食堂職員の人たちが腕によりをかけて作った絶品のものばかり……皆様にはぜひ、それらの料理を楽しみ、親睦を深めあって欲しいのです。では、皆様、手を合わせて……頂きます」

 

 

 アサヒクリークは、そう号令する。初日は、各校の生徒が揃った歓迎会である。食事による緊張した雰囲気を緩和する力を、彼女はよく理解していた。

 

「……美味しい…これが……濃尾トレセンの味…美味しい!」

「そうそう、ウチは、こういう家庭料理には、ものすごく力を入れてるんです!」

「どれどれ、ではでは自分も……おお!これは確かに!」 

 

 

「この学園、最近デザートにとても美味しい果物、出るようになったネ!」

「それは聞きたいですなぁ」

「メロン!メロンネ!」

「メロンならば、我々北海道の夕張メロンも…」

「あぁ、失礼、この子イングランド人だから、母国語が混じっちゃうんだ、えーと、わかりやすく言うと、マクワウリっていう、さっぱりとしてみずみずしい、今のメロンの先祖で…織田信長が大好きな理事長さんが、私財で作った畑で作ってて、それを学園で出してるんだ。名古屋でも、私達のいるカサマツでも、人気の果物だよ」

 

「明日からのトレーニング、楽しみにしとるよ」

「私達金沢の特別なトレーニング、皆さん驚かれるはずですよ、宣伝だけでは分からない凄みをおみせします」

 

 数十分もすると、最初はぎこちない会話だった3つの学園の生徒の距離は、今日初めて会ったと言われても信じられないほどに縮まり、食堂は笑い声や話し声で一杯になっていた。

 

(………まずは、胃袋を利用し、信頼関係を構築する……お酒でもあれば、最も多くの情報が滑り落ちてくるというものですが…………まあ、これはこれで手間、上々ですわね)

 

 アサヒクリークは、そう思いながら、歓談する生徒達を眺め、明日以降も頑張ろうという気持ちを固めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「金沢の名誉にかけて!」

「ウーラーッ!」

 

 名古屋での最初の数日間は、基礎的なトレーニングや模擬レースを中心としていた。しかし、基礎的なトレーニングであっても、やはり各校に差異は生まれてくる。

 

「なるほど、門別トレセンは、ドローンを使うんダ…」

「ええ、こうやって上から見ることで、ウマ娘の動きの横ブレが、よーくわかるでしょう?」

「確かに……私どもの使うビデオカメラよりも、俯瞰して見ることができそうでありますね…」

 

 レッドドーシュカは、得意気に空撮する映像を見せており、スタークラッシャーとオヤマハンニバルが、タブレットをのぞき込んでいた。

 

 当のドローンは、カメラが付いているのみであり、農業やレジャーで使われる、一般的な機種と同じものである。

 

「しかしこれは、門別の機密ではないのですか、レッドドーシュカ殿?」

「出し惜しみをするなとの、シスターコタンチェフスキーからの指示だから。そのうち各学園に知られることでしょうし、公開することで、先進性に胡座をかかないで済むわ……それに、濃尾も金沢も様々なものを携えて来ているんだから、それに比肩するものを用意しないと」

「………でも…こんな事…良く思いつけたものネ…」

「北海道はね、クマが出るのよ、それも、ツキノワグマよりも一回り大きく、遥かに強い、山の化身…ヒグマがね……彼らの中には、農作物を荒らし、人里にも降りてくるものがいるわ。このドローンは、ヒグマたちの動きを事前に察知し、人との遭遇の回避や侵入妨害装置の設置に活用するためのものなのよ、それを、レース分析に転用したというわけ」

「オーウ…それは、確かに、北海道でしか出てこないアイデア!」

「確かに、我々の地域では、ドローンを使わずとも、センサーやカメラで害獣侵入を防護できてしまう面積の農地が多いですから、これは意外な発想でありますね」

 

 ウマ娘達は、お互いの学園で行われる独自のトレーニングを紹介、実践し、親睦を深めていく。

 

「み、皆さん!」

「どうしたのですか、ホッカイヴェルニーさん?」

「さっき校舎のお手洗いを借りた時…とんでもないものが!」

「……シスターヴェルニー、少し落ち着きなさい」

「しかしシスタードーシュカ、男が!それも私達と同じぐらいのが、堂々と廊下を!!」

「なんですって!?」

「アー…それ、天持学園の生徒ネ、多分、10月の演奏・ライブ会の打ち合わせだと思うネ…交流してるのは伝えてたけど、一部生徒がここに普通に入れることは伝えてなかったカモ…」

 

 …ときに、予想外の驚きを交えながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日やった濃尾トレセンの着衣水泳……中々のものね、今でも感覚が残ってる気がするわ」

「もう一つ面白いトレーニングあるけど…それはカサマツ校舎でのお楽しみネ!次は、金沢の番ネ!」

「ええ!……インパクトでは劣るかもしれませんが……我々はまず、ドッジボールを皆様とやろうと思っているであります!」

「ドッジボール……そう言えば、金沢…ウマ娘部門の全国大会で優勝してたわね?」

「ええ、あれは、姉上……サポートウマ娘のオヤマサムソンが呼び掛けてチームを……いえ、話すと長くなります。兎に角!まずは実戦です!各学園で、2チームずつ作れます。早速実戦であります!」

 

 この3つの学園に共通しているのは、常識にとらわれすぎず、異なる視点でウマ娘を鍛えているということだった。オヤマハンニバルの所属校、金沢トレセン学園は、有志の生徒が集まってチームを作り、ドッジボール全国大会で優勝を果たしていた。

 

「ノーゥ……コテンパンのスターゲイジーパイにされてしまったネ」

「シスター達の団結も……まだまだのようね……流石は…大会に出場している学園…」

「いえいえ、我々は、レースで鍛えた状況判断能力を、ドッジボールをもってさらに磨き上げているだけであります!」

「ドッジボールで……?」

「はい!まず我々は、最初、相手の攻撃を防御し、相手の攻撃を利用して、相手の中心人物を見分けます」

「確かに…最初、金沢の生徒は、まったく攻撃してこなかったわね」

「そして、見分けたら、かけられるだけの球威で、その中心人物を狙い、撃ち倒し……後は段階的に崩していくだけであります。」

「Bruh…エッグいことするネ……」

 

 スタークラッシャーは少し引いた表情をした。

 

「お気持ち、お察し致します。ですが、中心人物を失い、乱れた相手は、どのような行動に出るのか、予測できない。そう言った相手を冷静に狩るということは、判断能力を鍛えることに直結するのであります」

「確かに…一理あるわね」

「そう言われれば…」

「では、これから、メンバーをシャッフルするであります!これは、我々にとっても初めての試み……共にに頑張ると致しましょう!」

 

 普段とは違う相手とトレーニングするということは、トレーニングを教えなければならないという事も意味している。そのため、合同トレーニングは、トレーニングを教わる側の生徒達だけでなく、教える側の生徒達にとっても、自らのトレーニングを理解し直す機会であり、自らのやり方を見直す良い機会だった。

 

「ワイズさん、どう思います?今回の試みは」

「まだまだ判断には早いですよ、理事長、このあとには、黒澤係長らがいるカサマツでのトレーニングも控えている。ぼく達名古屋校舎でのトレーニングはうまくいっていますが、カサマツでも新しい発見が出来なければ、意味がない」

 

 ホバーワイズは、包み隠さず、アサヒクリークに正直な気持ちを述べる。

 

「もちろん、それは予想済みです。カサマツでは、蹄鉄を紹介いたしますわ、それに、旗印のトレーニングも…」

「なるほど、分離していましたか……黒澤係長のことだ……うまく紹介してくれるでしょう。では、理事長、ぼくは戻ります。明日、他校生に体験してもらう、VRシミュレーターの調整がありますから」

「よろしくお願いしますわ……そう言えば、設定する状況は、どのようなものを?」

「コピーオグリキャップとの模擬レース、名古屋環状高速道路、別子銅山大斜坑です………過去の英雄との激突、車を回避しながら走るスリル、延々と続く上り坂が織りなす自分との戦い………どれもこれも、ぼくの自信作です」

「なるほど、それは…金沢と門別の生徒の皆さんにも、良いものをもたらしてくれるでしょう、しっかりと頼みますわ」

「良いもの……か……それは、もちろんぼくにも?」

「もちろんですわ、この合同トレーニングは、貴女のやりたいことにももちろん関わってくるのですから」

「それなら安心です、了解しました、トレーニングもその成果も、しっかりとやってみせます」

 

 生徒達は、合同トレーニングにより、大いに盛り上がっていた。だが、そのような状況に安住するアサヒクリークではない。

 

 情報の提示や体験を絶やさず、ただのトレーニングではないという印象を生徒に持ち続けさせるよう、アサヒクリークは気を払っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが…カサマツ」

「名古屋と比べると、ずいぶんと静かなところだね…」

 

 合同トレーニング期間は、あっという間にその半分が過ぎ、金沢と門別の生徒との合同トレーニングには、カサマツ校舎とその生徒達に引き継がれる。

 

(さて………こっちもこっちで、頑張らなければ…)

 

 そして、そこには当然、黒澤の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……はぁ……は、旗を使うだけで、負荷というものは……こうも変化するのか……し、シスタードーシュカ、水を…」

「…はい…さすがに…私も堪えたわシスターモルドフ…」

「いや…歴史もののドラマで見るものが…こうも負荷が大きいなんて…ハンニ隊長…平気ですか?」

「……私は問題なし…と、言いたいけれど…クタクタだよ」

 

(……頃合いか…これ以上負担をかけさせるのは良くないな)

 

 旗指物のトレーニングは、門別と金沢の生徒にも、大きな疲労をもたらした。

 

 彼女たちの疲労を、黒澤は見逃さない。

 

「……皆、疲れているようね、今日はここまでにしましょう、休憩場所に移動するわよ、良いかしら?」

 

 彼女の言葉に、ウマ娘達は皆、頷いて答える。その顔には安堵の色が見えていた。

 

「ふぃーっ…」

「生き返るわ……」

「激しい訓練の後の休息は……格別の一言に尽きるであります…」 

 

 ウマ娘達の気持ちは休息によってほぐれていく。

 

「この子達、本当に可愛い〜!」

「犬と見分けがつかないや」

「この子たちはデータ蓄積で、どんどん動きが進化するんだ。最初は可愛いだけだったけど…今はもうすっかり、学園の仲間だよ」

 

 セラピーロボット達の存在も、それに貢献していた。実は、合同トレーニング前、名古屋校舎のセラピーロボットはカサマツ校舎に全て移動させられていたのである。これも、門別と金沢のウマ娘達を飽きさせないための工夫だった。

 

「はい、ここでちょっと、門別と金沢の生徒達に、紹介しておきたいことがあるのよ……これが、カサマツで使われている蹄鉄よ」

 

 ウマ娘達の疲れが抜け始めたと見て、黒澤は、ポケットの中から複数の蹄鉄を取り出す。その中には当然、鉢形蹄鉄も含まれていた。

 

「これが比較的軽くてペースを維持しやすい、クルーザー…こっちが少し重いが堅牢で、ドカンと力を込める時にも安定して踏み込めるマティルダ……そしてこれが、断面で見ると台形になる形で作ることによって、重心を内側に持っていき、ウマ娘の負担を軽減する鉢形蹄鉄よ」

 

 蹄鉄は、レースには必要不可欠なものである。ウマ娘達の注目も、自然と集まっていた。

 

「さ、3種類もあるのですか!?」

 

 そして、驚きの声を上げたのは、オヤマハンニバルだった。

 

「ええ、それぞれメーカーは違うけれど…」

「でも、その発言からすると、金沢は種類が少ないということですか?」

 

 黒澤の発言と門別トレセン学園の生徒の言葉を受け、彼女はサポートウマ娘に予備の蹄鉄を出させ、ウマ娘達の前に出す。

 

「ええ、我々の使う蹄鉄は1種類……1997年に採用された…この97型鋳蹄鉄改8のみであります!」

「97年!?」

「しかも…ちゅ…ちゅう…ってことは鋳物なの!?」

 

 その瞬間、生徒達は驚いた。

 

「ウマ娘の蹄鉄って…普通は鍛造とか削り出しとか…そういうのじゃないの?」

 

 ケイピーシーナリーは、恐る恐る、オヤマハンニバルに突っ込む。

 

「問題ありません!強度確保のため、硬化処理は行なっており、改良も続けています、そして個人に合わせた調整は…職人の皆様方の、腕の見せ所であります!」

「それで…だいたい30年選手の蹄鉄が…」

「ええ!長年作り続けてきたことによる信頼性と、腕利きの職人の皆様方が、この質実剛健な蹄鉄を作っているのであります!」

 

 金沢の蹄鉄は、同じ製法で、長い間作り続けられてきた。一般的に鋳物の蹄鉄は、鍛造や削り出しより性能的には劣るが……受け継がれてきた製法は、蹄鉄の信頼性を高め、性能もレースで問題なく使用できるレベルにはなっていたのである。

 

「すごい…」

「……濃尾と金沢が出したのならば、こちらも蹄鉄を出すべきね……シスターダイブ、蹄鉄を」

 

 レッドドーシュカは、サポートウマ娘に指示し、複数枚の蹄鉄を用意させた。

 

「はい、私達は製鉄の街である室蘭、そしてより門別に近い苫小牧から、蹄鉄を調達しています。2000番台のアルミ合金で作られた蹄鉄22号…略号、Tの22、蹄鉄26号、略号Tの26、蹄鉄28号、略号Tの28……他にもいろいろありますが、主に用いているのはこれら3種で…現在、試作型として7000番台の34号が開発され、シスタードーシュカ、シスターモルドフをはじめとする、数人のシスターがテストに協力しています」

「……まあ、ご覧の通り、種類が多くて選択に困ったり、コストが上がったりするから、私達としては、片手で数えられるぐらいの種類に絞りたいのよね」

 

 門別トレセン学園は、蹄鉄の選択肢を多く持っていたものの、種類が多すぎて生徒が選ぶのに迷ったり、調達コストがかかりすぎたりする事を問題としていたのであった。

 

(ほう…やっぱり、蹄鉄には特色が出るか……7000番台……金属はよく分からん。後で調べるとしよう)

 

 そして、黒澤は、賑やかにお互いの蹄鉄を見せ合ったり、紹介し合ったりする生徒達の後ろで、興味深く、蹄鉄を眺めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各学園独自のトレーニングは、カサマツ校舎においても、紹介、実践が行われる。

 

「クラブ!ランナーがそっち行った!」

「オッケー!」

「踏み込みが足りんであります!」

「避けられた!?」

「そういう時はダブルソードとロングソードのチームワークよ!」

 

 現在、ケイピーシーナリー達が行なっているのは、海外の映画が発祥となった、スポンジ製の武器と、スカルと呼ばれるボールを用い、得点を競い合う、“ジャガー”と呼ばれるスポーツである。

 

 瞬発力と判断力を必要とするこのスポーツを、門別トレセン学園はトレーニングに採用していたのである。

 

「黒澤教官!教官もウマ娘なんですから、やりましょうよ!」

「気持ちはうれしいけど…私は遠慮させてもらうわ、子どもの元気さについていける自信がないの」

 

 事故が起きないか監視していた黒澤も勧められたものの、彼女は遠慮する。

 

 いつの間にか本気になり、“彼女”の片鱗が出てきては困るからである。

 

 

 

 

 

「……なるほど、確かにこのトレーニング方法だと、トモの筋肉への効果は絶大ですね」

「ええ、ですが慣れていないウマ娘がいきなり行うと、体を壊します。ですから、このトレーニングを行うことを目標とした、トレーニングのためのトレーニングも行わなければなりません」

「となると…リフレッシュ施設との組み合わせも大事ですね…」

 

 別室では、舞原達トレーナーや教官が、学園の壁を越えて集まり、トレーニングなど、ウマ娘のために普段行っている事を交換し合っている。

 

 違う学園故、情報交換を行いにくいという懸念が無いわけではなかったが、そんな壁をぶち破ったのは、東京ダービーに挑み、敗北したという共通の経験と、その負けを受けて抱いた、より良いレースをするという、共通の意思であった。

 

「中央や南関東との施設の違いはどう補います?」

「周囲の自然環境と、常識に囚われない発想……そして、我々3学園の連携と切磋琢磨による、お互いの成長に懸けるしかありません」

「自然環境か………そう言えば、カサマツは金華山があるではありませんか、あそこを走るだけでなく、重量を担ぎ、登山くんれ……失礼しました、少しハードなハイキングを行ってみてはいかがです?」

「なるほど!確かに…それは盲点でした!私達、近くに山があるのが当たり前になっていましたから…露田トレーナー、門別は、耕作放棄地とかがあったら借りて、耕したりしてみたら良いんじゃないでしょうか?畑って、ウマ娘でも苦労するんです」

「なるほど……北海道の人口流出を逆手に取るわけですか」

「金沢も、許可さえ取れば、河北潟で手こぎボートとかができるかもしれませんね、宇野沢さんはどう思います?」

「舞原さん……なるほど!短艇ですか!そう言えばあそこは漕艇競技の会場……いやいや、我々はどうも陸上でのトレーニングに目がいってしまいがちで……確かに面白そうです!」

 

 トレーナーや教官達は、意見交換を通じ、親睦を深めていく。

 

 共通の意思を持った者たちによる協力関係……

 

 それが、うまく行けば、どんな効果がもたらされるのか……

 

 それは歴史がよく知っていることであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでお別れね」

 

 短いようで長かった合同トレーニング期間も終了し、別れの時がやって来る。

 

「生徒達を、ありがとうございました」

「シスター達の顔を見るに、相当良い経験となったようです、心から、お礼申し上げます」

 

 金沢と門別の生徒会長は、忙しい中、なんとか時間を作って、生徒の迎えと、濃尾への礼を言うため、名古屋駅の新幹線ホームまでやって来ていた。

 

「いえいえ、礼を言うのは私どもです、無理なお願いを聞いてもらっただけでなく、貴重な経験をさせて貰いましたから」

 

 濃尾トレセン学園の生徒会長、ブルーパイソンは、アサヒクリークと共に深々と頭を下げた。

 

「この2週間、我々金沢にとって、大きな学びとなりました…どの日も深く記憶に残っていますが……それ以上に記憶に深く残るのは、やはり競走!競走場での再会を、楽しみに待っているのであります!」

「ハンニサンも、お元気デ!ミーももっと強くなるネ!」

 

「ケイさん、いえ…シスターケイ、貴女達が、とても柔軟なウマ娘であることが、よく分かったわ。シスターハンニも、その闘志を思い切りぶつけてきて欲しいわね。次にあった時は、かまくらを溶かすような、熱い戦いをしましょう」

「楽しみにしてる……だけど、負けないよ」

 

 生徒達も、それぞれ、別れを惜しみつつ、お互いのこれからを応援し合う。

 

 その光景は、名古屋とカサマツの両生徒が、お互いの校舎だけでなく、遠い遠方の学園にも、仲間を得たことを示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ!ハイ!ハイ!」

「もう少し力を入れてみようか!」

「分かりました!」

 

 

 トレーニングの時間帯、ウマ娘達は、トレーナーの指導を受けたり、友人と自主トレに励んだり、ゲートなどの整備清掃を手伝ったり、門別や金沢から輸入されたトレーニングに励んだりと、各自、思い思いに動いていた。

 

 合同トレーニングの実施により、他校生の実力を間近で見た今、その意欲はとても高まっている。

 

「………」

 

 そして、斎藤はそんなウマ娘やトレーナーたちを見つめていた。

 

「隣、失礼しちゃうよ」

 

 そんな中、仁藤が校舎から出てきて、斎藤の横に立つ。

 

「あら仁藤さん、珍しいわね、わざわざ外にまで出て、トレーニングを見るだなんて」

「そう言うしおりさんだって、珍しいことしてるじゃないか、いつもはカンヅメなのに」

 

 親しげに話す2人。副理事長と課長という立場の差はあるものの、2人は長年の仕事仲間同士であり、友人のような関係を築いていた。

 

「元理事長、現副理事長たる者、変わっていく学園を見守る責任があるわ」

「うんうん、真面目なもんだ………しおりさんは、どう思ってるの?今の学園」

 

 にこやかな返事から、すぐに真剣な顔に切り替え、仁藤が問う。

 

「うまく行っているとは思うわ……両校舎の生徒も、職員も、悔いのない学園生活を送るため、力を合わせてくれている……実際に、いくつかの計画は、成功を収めているし、新入生の振り分け方針も決定できたわ………でも」

「統合してからやってきたことが……カサマツのために結びつかないと、意味がない。そう言いたいんだろう?」

「そうね、今の私達は、魅力創出のため、統合し、一つの学園としてやってきている…でも…その目的が達成された場合、元通り2つの学園になるということも、十分に考えられるわ」

「…その時、2つの校舎の実績が同じようなものだった場合、確実に人材は名古屋に流れるだろうね」

「………」

 

 斎藤は、無言で頷く。

 

 現状、名古屋とカサマツは、一つの学園として運営を続けている。新入生を校舎に振り分けるやり方も決定し、学園の運営は順調に進んでいた。職員の間では、合同トレーニングで得られた成果を見て、実際のレースで結果を出すことを期待する声も出てきている。

 

 しかし、その一方で、学園が魅力創出という目的を達成した後……2つの学園に戻った後のことを危惧している者がいるのも事実であった。

 

「一番の方法は、距離適性で差別化できるようにしていくことかな?」

「…確かに、それならば、名古屋にも迷惑をかけずに、両校が共存共栄できるわね、でも、まだまだ要素としては弱いわ」

「でも、手の届くところから、物事進めていかないと、何もせず手をこまねいていて俺たちの危惧が現実のものとなれば、その煽りを食らうのは生徒達だからね」

「…そうね」

「俺たちには選択の余地なんて残されちゃいないのさ、濃尾トレセンとしての魅力じゃなく、カサマツとしての魅力を残さなければ、人材や生徒は流出、せっかく仲良くなった両校舎の生徒の絆も、格差が刃となって引き裂いていくかも知れない。……それなら、やるべきことは決まってるようなもの…名古屋とは異なる距離のレースで、実績を出し………ウチ独自の要素も、出していかなきゃならん。長い戦いになりそうだね」

「……まず、生徒や職員への意識改革が必要ね、統合で得られるものに頼り切らず、自分達には何が必要かということを常に認識できるような…………」

「……これから大変になりそうだね、俺も頑張んなきゃ…しおりさんも、無理だけはしちゃあだめだよ」

 

 そう言うと、仁藤は校舎へと歩いて戻っていった。残された斎藤は一人…

 

「そうね…無理だけは…するものではないわ……絶対に…」

 

 と言い、ウマ娘や職員を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネイチャ副会長、ご協力、深く感謝致します」

「良いって良いって、そんなにおカタくならなくても、アタシ達生徒会の仕事の一つは、生徒が進む手助けをすることなんだから」

 

 中央トレセン学園のあるトレーナー室の前で、キングダムシーはナイスネイチャにお礼を言った。

 

 そして、ドアをノックし、部屋に入る。

 

「お初にお目にかかります。濃尾トレセン学園から転入してきた、キングダムシーと申します」

「ああ、自分は桜田、それでこっちがホッコータルマエ」

 

 相手のトレーナー─桜田は、キングダムシーに着席するように促す。

 

「確か…君は、地元のために頑張っているウマ娘を探していたんだったな」

「はい、ただ、転入したばかりで右も左も分かりませんので、生徒会の皆様に協力していただいたというわけです…それで、お二人のことを教えて頂きました」

 

 キングダムシーは転入して日が浅いことをうまく利用し、生徒会に所属すべきチーム探しを手伝わせていた。そして、その結果が今の状態である。

 

「…ホッコータルマエ殿は、ロコドルとなるべく、常に自己研鑽を怠らないウマ娘であることを、よく聞いています。そして、桜田トレーナーも、そんなホッコータルマエ殿の話をよく聞き、ファン増加や実力向上と地元への貢献を、バランスよく取っておられていると…」

 

 キングダムシーは、2人に、自らが入手した情報を簡単にまとめて伝えていく。

 

「…あなたは…地元では…どんな事を?」

 

 それを聞いていたホッコータルマエは、キングダムシーに質問をした。

 

「名古屋の競走ウマ娘達と、地域を結びつけるべく………試行錯誤をただ、ひたすら…一応、証拠もお見せします」

 

 キングダムシーは、自らの考えやプランをまとめたメモ帳や、名古屋で行われてきた地域こと交流プロジェクトの切り抜きを2人に見せる。

 

「……これを、全て…君たちが?」

「…凄い…」

 

 ホッコータルマエは驚きを隠せなかった。

 

 地方の学園が、存在する地域との結びつきが強いことは彼女にとっては常識ではあった。

 

 だが、敷地の開放や、地元の通常学校との、種族や性別の垣根を越えた共同プロジェクトを行うことは、今までに見たことが無かったからである。

 

「はい、濃尾トレセン学園、名古屋校舎と、天持学園の有志が共同で進めていきました」

「……」

 

 ホッコータルマエが、目を輝かせ始める。

 

 キングダムシーは選手ではなく、目指す姿も、ホッコータルマエのようなロコドルではない。どちらかと言うと政治家のように物事を考え、人を動かし、自らも動いて目標を達成していくものである。

 

 しかし、その原動力の一つに、深い郷土愛があることは、紛れもない事実であり、ホッコータルマエは、すぐにそれを理解した。

 

「……もちろん、選手の方々のサポートについても、出来る限りのことは学んでいます。レース関連だけでなく、食生活や勉学も、必要とあらば、お支えします」

「………もし、新たなメンバーを迎えるのであれば、自分とタルマエは、チームとして独立できる…だが、忙しい日々も続くだろう…転入してすぐの君が、中央のそれについて来られるか、自分としては、そこが一番の心配要素なんだ」

「トレーナーさん…」

 

 ホッコータルマエは桜田の方を見て、不安に駆られたような顔をした。

 

「……確かに、心配されているお気持ちは、理解できます。ですが、自分と同じく、郷土愛を持っておられ、常に自己研鑽を怠らぬ姿勢を崩さない方……ホッコータルマエ殿…私は、貴女をお支えしたく思います、同じく郷土愛を持つ方々との協力は、非常に忙しくも、充実しており…何より、今、私がここにいるきっかけとなりましたから」

「……!」

 

 その時、ホッコータルマエの脳内では、先ほどみたメモ帳や新聞記事の内容がフラッシュバックしていた。

 

「…トレーナーさん、私は、キングダムシーさんのサポートを受けながら、ロコドルとして、頑張りたいです……苫小牧のために!」

「タルマエ……分かった。キングダムシー…君は、それで良いってことだな?」

「はい、誠心誠意、励ませて頂きます。よろしくお願い申し上げます」

 

 こうして、トレセン学園に、一つ、新たなチームが産声を上げた。

 

 後に、このチームは、日本のウマ娘レース界を、大きく震撼させた出来事の主役の一つとなるが……

 

 それはまだ、先の話である。

 

 

 




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