転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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 遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い致します。


#9 意欲

 

 

 

 私とトレーナーさんは、一緒に悩んで、ここまでやってきました。

 

 壁に直面しても、押しつぶされず、ここまでやってこれたのは、多くの人が助言をくれたり、手助けしてくれたからです。

 

 トレーナーさんの先輩は、私達の事を常に気にかけてくれましたし、今の友人たちだって、ライバルとして、仲間として、私と競い合ってくれています。

 

 今後も、変わらず、苫小牧も、レースも盛り上げていきますので、応援をよろしくお願いします!

 

 

 

 

 ─新型旅客フェリー“パシフィック しゃちほこ” “パシフィック うとない” 就航式特別ゲスト 苫小牧公認観光大使 ホッコータルマエの言葉より。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2着はケイピーシーナリー!』

 

 合同トレーニングを終え、ケイピーシーナリーは調整を重ね、みやこステークスへと出走した。

 

 結果は2着、激しい戦いの中、よくやってくれたと思っている。金沢のトレーナーが教えてくれた、精神のリフレッシュを兼ねる登山が、足腰に良いものをもたらしてくれたのだろう。

 

 まあ、ただ歩くだけでなく、自由自在に駆け回り、自然の一部として振る舞うことができれば…と、思ったりしない訳でもないが………………それを求めるのは酷だろう。

 

「惜しかったな、ケイ」

「悔しいです………でも、競り合いには強くなっていることを、身をもって感じることができました」

「ああ、僕にも良くわかった。抜け出す際に、バランスをもっとうまく取れるよう、トレーニングのメニューを見直そう、帰って休んで、反省会だ」

「分かりました」

 

 この調子なら、うまく支え合って行けそうだろう。

 

 さて、だが問題は勝ったウマ娘である。

 

 名前はホッコータルマエ……コパノリッキーの同期である。コパノリッキーほど圧倒的ではないが、彼女は強い。

 

 今の中央は、凱旋門賞挑戦に沸いているが、そういうときこそダートウマ娘の意地の見せどころなのかもしれない。

 

 その意地に負けないよう、こちらも進化したトレーニングを考える必要があるだろう。ホバーワイズにも協力してもらう必要がある。

 

 なので、私はライブは見ず、別々で来ていた事を利用して、一足先に、カサマツに車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギアをニュートラルに入れ、サイドブレーキをギュイっと上げ、サービスエリアへと車を停める。

 

 別に疲れたとかではない。電話が入ったのだ、この車にハンズフリー通話はついておらず、運転中の電話などご法度である。

 

 “基本的に”

 

 “法律は”

 

 守らなければ。

 

 何も買わないでは失礼なので、自販機で水を買って、後部座席に乗って電話をかけた。

 

 呼び出し音が鳴る…

 

 やはり、2コールで取りやがった。

 

 ちゃんと安全圏に居るのか疑いたくなる。

 

 

『私だ』

「もしもし、久しぶり………どうしたの?そっちからかけてくるなんて」

『私の教え子達の活躍を、君はどう思ったのか気になってな』

「教え子?みやこステークスにいたの?」

『君はライブを見ていないのか?センターのウマ娘……ホッコータルマエ君と、そのトレーナー桜田君、あの2人が私の教え子だ』

「……私を驚かせようとした?」

『……いや……と言えば、嘘になる……だが、君をもっと驚かせる情報もあるのだよ』

 

 おい、ニヤニヤしてるのがわかるぞ。

 

「私を?」

『…今日は東京(こちら)で中継を見ていたが、今日のタルマエ君の勝利には、元濃尾トレセンの生徒、キングダムシー君も、貢献しているのだよ』

「…!」

『彼女は地元のために頑張っているウマ娘と引き合わせて欲しいと、生徒会に頼んだそうだ。そして、今に至る』

「じゃあ、ホッコータルマエも地元愛があるってこと?」

『そうだ、彼女はロコドルとして地元である苫小牧を盛り上げるべく、活動している』

 

 キングダムシーを一言で表すのなら、とことん、名古屋に忠節を尽くす人物である。今回の転入も、自分が将来、名古屋に戻ることを想定しての判断だった。

 

 そして、トレセンのウマ娘である以上は、レースに関わらなければならない。

 

 組む相手として、自分と似た考えを持つ人物を選びたくなるのは、自然なことである。

 

「なるほど…キングダムシーは上手くやってる?あの娘、真面目なのは良いけど、無理しすぎるところがあるから……」

『真面目なのは私も感じている、彼女は学業がすこぶる優秀なのだ、クラスメートにも、よく勉強を教えると聞いている。友人を得ているということだな』

「うんうん、良い傾向だね……じゃあ、質問変えるけど……プロジェクトラーク、どう?何か分かったことはある?」

『もちろんだ、では、言わせてもらうとしよう………ああ、場所の心配はしなくていい、今の私は車で安全地帯まで移動している』

 

 こいつ、なんで私の懸念が分かるんだよ、卓球の時もスマッシュ打ち返されまくったし。

 

『話が逸れたな、さて…まず、このプロジェクトは、理事会、OG会、生徒会、URA……これら4つによる強力な連携のもと、行われている』

「じゃあ、上の望みとかではなく、中央全体の夢ってことか」

 

 なるほど、では、黄金世代の時とは違うな、あれは世の中全体に広がりきらなかったし、URAがごり押したという側面が強い。

 

 そもそも黄金世代という言葉自体、生徒の支持を完全に得ていたかというと、首を横に振らざるをえないのだ。

 

『そうだ、名古屋城の石垣のように、それぞれが組み合わさり、成り立っている……そして、語られこそはしないが、このような事態となった理由……それが君だ』

 

 まあ、今の中央の職員やらトレーナーが首を横に振れば、代わりに剣が振られるだろうが。

 

「それで?結局、プロジェクトラークは(いやなこと)を忘れようとしたい子供じみた感情からくる、ものすごく目立つアピールってことでしょ?」

『フッ…はっきり言うのだな』

「当たり前だよ、まあ、そんなことは良いけど………今のところ、凱旋門賞にも行けそうって期待されている有望株はいるの?いたら教えて欲しい」

『ああ、キタサンブラック、サトノダイヤモンド、サトノクラウン、シュヴァルグラン……この4人を始め、あと数人ほど、期待されているウマ娘がいる』

「なるほど…最初の3人は聞いたことあるよ、強いみたいだね」

『ああ、それに、校内人気も高い。彼女らが真剣にレースに取り組み、切磋琢磨している姿は、日本のウマ娘のレベルの高まりを象徴するものとして、プロジェクトラークの正当性を高めているのだよ』

「正当性…………!ちょっと待って!」

 

 私はペンとメモを取り出し、頭の中を整理することにした。

 

「スターウマ娘……奮励努力、日本のウマ娘のレベル…………プロジェクトラーク………それで、正当性…………なるほど!」

『どうした?』

「ねえ、そっちの育成ウマ娘…いや、それ以外でも良いけど、兎に角、そっちのネットワークの中で、海外遠征を考えてるウマ娘はいる?」

『あぁ、私のチームに1人、私の後にトレーナーになった者のところに1人…あと、富士田トレーナーのところに1人いるが……フランスを目指してはいない』

「大丈夫、大事なのはそこじゃないから、大事なのは、プロジェクトラークが凱旋門賞を狙い撃ちした計画ってことと、その凱旋門賞が世界中のレース関係者にとっての夢で、世界中からウマ娘が集うレースだってことだよ」

『面白そうだな、聞かせてもらうとしよう』

 

 白子は食いついてくる。

 

「まず、その子達の海外挑戦の夢を、なるべく早く叶えてあげる。レースに出たら良い、勝っても、そうでなくても、やる事は変わらない。ひたすら言うんだよ…“海外のウマ娘は強くて、油断のならない相手であり、舞い上がってかかると、足をすくわれる”ってね」

『……ふむ…』

「それで、知ってる人やウマ娘が海外遠征に行くと、必ず影響されて挑戦するウマ娘やトレーナーもいるだろうから、そういうのに助言をしたりする……それで、海外遠征に行った者の結果の如何に問わず、厳しい戦いをしているという印象を広めていくんだよ………海外戦はアウェー、どうしても、敵を大きく見る。アグネスワールドを応援してた私達も油断しないって意味で、そうしてた。それでもって…中央の持っている資源を、海外遠征の究極、凱旋門賞……つまりはラークに集中することに誘導する……」

『なるほど…そうなると、タルマエ君の様な、芝の海外レースから一番遠い、ダートウマ娘は、自然と不満を感じやすい土壌が出来るということか……』

 

 理解が早くて助かる。ただ、念押ししておかなければならないポイントは押さえておく。

 

「そう、最終的には、そういう土壌に着地したい。だからあくまで、海外遠征は、試験的な挑戦っていう看板を掲げるのを忘れないでね」

 

 なるべく、ダブルスタンダードは避けなければならない。全てのウマ娘の幸福を掲げながら、弱肉強食の世界を盛り上げようとしたバカイザーのようになるのは御免なのだ。

 

『承知した』

「任せ過ぎで申し訳ないね……でも、私は今やらなきゃいけないことが多いし、ちゃんと役割を果たすってアサヒクリークに約束したから、それは守らないといけない。」

『分かっている、だが、他者に全てを委ねすぎるのは、あまり良い結果を招かないことになる』

 

 ああ、これは何かあったな。

 

「……失敗とかしたの?」

『ああ、ある役目を、当時頼っていた者に任せっきりにしたのだが……私が目を離していた間に、台無しになっていた…』

 

 台無し……とすると料理かも知れない。そうだとすると、多分調理実習か何かで、焼き魚かケーキでも作って焦げたのだろう。何で明言しないのかは分からないが。

 

「もちろん、私も出来れば何らかの形で関わりたいから任せてるんだよ。余力が出てきたときに、ゼロからラークに対して何か出来るかと言えば、聞く限り、そうじゃなさそうだし……それなら、ほころびぐらい、試しに作ろうとしても良いかなってね。破壊しようと思った時、お膳立てがあるのと無いのじゃあ、全く違うから」

『……ふむ、なるほど、分かった。こちらも海外遠征についてはウマ娘達に話してみよう、だが、周囲に海外のウマ娘の強さについて話させるのは、富士田トレーナーをメインに据えた方が適しているだろう。私を警戒する者は少なくない。だが、富士田トレーナーなら、私の言葉をほぼそのまま発信してくれるだろう』

「オッケー、微調整はそっちに任せるよ」 

『分かった、こちらはきちんと進めておくので、君は君の仕事に当たってくれ、君にとって有益な情報が入手できれば、そのときは流す』

「ありがとう、それじゃあ…色々お願いしておいてだけど………くれぐれも、無理だけはしちゃあ駄目だよ」

『ああ、分かった…君も、無理をするな、それと、理外の事が起きたら、必ず連絡を寄越してくれ、その時は私も知恵を貸す』

 

 珍しいな、私が相談して対応するならまだしも、事前に言ってくるとは。

 

「……珍しいことを言うもんだね」

『……君は私の教え子…いや、友人なのだ。それに、君たちウマ娘については、まだわかりきっていないことが少なくない………“私達の知らない武器が内包されている”…というのも、有り得ない話ではないだろう?』

 

 

 

 

 

 

 白子はそう言って、電話を切った。

 

 …プロジェクトラークの基盤は、盤石なことが分かった。

 

 だから、その盤石すぎる基盤を、利用させてもらう。

 

 “その場の環境を利用する”

 

 私や母親のような、自然とともに生きるウマ娘のやり方だ。最近は、座学においても、ウマ娘達にこの事を教えている。

 

 レースとは基本的に、与えられたもので行うものである。突発的な事態はもちろん起こるが……基本的には、どのウマ娘も日頃の訓練の成果を活かして対応している。

 

 そこで私は、まず、自分がフェイントなどを食らったら、立て直しを素早く行ってすぐに、周囲を見ることを教えた。

 

 レースの対戦相手は全員敵だが。それを大きな塊とは思ってはいけない。

 

 サッカー部だった大学の同期が言っていた………なんだろうか……メンバー全員が一斉に動いて、相手の選手をオフサイドに置いていくような技は、レースでは起こり得ない。あの宝塚記念のときでさえ、示し合わせたわけではなく、偶然の包囲だったし。

 

 まあ、兎に角、ほかの出走ウマ娘は、所詮、ヒトの集まりだ。

 

 サイレンススズカの時など特にそうだろう。

 

 あの時、オンワードトライブが勝ったのは、サイレンススズカの故障を見ても、集中して走り続けたからである。

 

 他のウマ娘を見てみると……動揺して動きが乱れたり、進路を塞いだりと……まあ、とんでもない状況となったのだ。

 

 つまり、何かが起きれば、その衝撃は、ドミノのように伝播していくということである。ウマ娘が理外の力を発揮するときはあれど、それは変わらない。自然だってそうなのだ、私達がイノシシを退治するのをサボったら、クマが増えて大変なことになる。

 

 私の教え子達には、影響の伝播というものを知ったうえで、レースに臨んでもらいたいと思っている。

 

 そして、プロジェクトラークに対しては、その盤石な基盤を窮屈に感じるウマ娘を、是非増やしてもらいたいと思っている。

 

 上手くいくかは分からん。

 

 だが、何もしないのと、とりあえず試すのとでは、まったく違う。

 

 色々なことを試した結果、今の私があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タルマエ、勝利おめでとう!」

「おめでとうございます、タルマエ殿」

「独立後初めてのレースで勝利か……よく頑張ったな、タルマエ君」

 

 みやこステークスが終わった翌日、トレセン学園に帰ってきたホッコータルマエのトレーナーである桜田は、サポートウマ娘のキングダムシー、そして、もともと師事していたトレーナーである白子やそのチームのウマ娘を誘い、小さな祝勝会を挙げていた。

 

「皆さんのご指導があってのことです」

「自分も、まだまだ精進しなければと思っています」

 

 ホッコータルマエも、桜田も、勝って奢ると言った様子は見せず、これからも油断せず戦っていくという姿勢を見せる。

 

「そうだ………勝っても油断しないという姿勢は、常に持っておかねばならん、素質や能力で勝っていようも、油断があれば、予想外の一撃を食らう………勝負やレースとは、そんなものだ」

「もう、トレーナー!正しいこととはいえ、重苦しいトーンで言わないの!」

「……すまないすまない、つい出てしまった……よし、今回のレース、タルマエ君と桜田君が、しっかりと成長していることが分かった。これで、私も、今後研究してみたいことが、安心して出来るというものだ…」

 

 白子はそう言い、ジュースを口にする。

 

「研究してみたいこと……先輩は、何かされるおつもりですか?」

 

 それに真っ先に食いついたのは、桜田である。

 

「…ああ、そこまで大きな動きではないが………現在の状況を利用し、ダートウマ娘の海外挑戦の可能性について、研究をしてみるつもりだ」

「それって、トレーナーがラークに協力するってことですか?」

 

 白子の育成するウマ娘は、身を乗り出してそう質問する。白子は今まで、プロジェクトL'Arcについて、何の反応も見せなかったからである。

 

「いや、そういうわけではない、もともとこれは桜田君の独り立ち前から考えていたことだ。現在の状況を見るに、上の方の目は、海外に向いている……この状況を新しい事を始めるのに使っていこうと思っているのだよ」

「……でも、それって、国内を走るレースを、疎かにする訳ではないですよね?」

 

 白子の説明に、ホッコータルマエは鋭く指摘を入れた。

 

「勿論だ、タルマエ君。あくまでこれは時局を利用した、可能性の研究に過ぎない。我々にとって一番重要なのは、国内のレース……それをもって盤石な力をつけ、君であれば、苫小牧の宣伝……そう、それぞれの夢の実現に繋げることだ………この立場は、堅持させてもらう。もし、この言葉を偽りだと思う時があれば……その時は、遠慮なく、君の考えるようにすれば良い」

「い、いえ!白子トレーナーがしっかりと考えて下さっているのは、良く分かりました!」

 

 ホッコータルマエは、自らの頭の中のわずかな疑念を振り払いにかかる。

 

「桜田君、これからは、お互いに忙しくなる。私も相談に乗れる事が少なくなるだろう……だから君に言葉を残しておこう。柔軟に考え、行動に移す精神を、常に心に持っておくことだ」

「……先輩」

「これは、私が、“最初の育成ウマ娘”の行動から教わったことだ。“彼女”はこれを、間違ったことに使ってしまったが……私は君が…いや、君とタルマエ君が、正しい心のもとで、この精神を使ってくれると信じている」

「勿論です」

「白子トレーナーの期待に応えるためにも、私達、努力します」

 

 桜田とホッコータルマエは、まっすぐと、白子の目を見る。

 

「…よし、では、桜田君、タルマエ君、あらためて、君たちがどの様な形で勝利をもぎ取ったのかを、聞かせてもらうとしよう」

 

 その様子を見て安心したのか、白子は椅子へと腰掛け、話題を本来のものへと戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みやこステークスから少し経ったある日、アサヒクリークは1人、自らの執務室にいた。

 

 執務室には、彼女の好みである古代生物の模型や、織田信長の肖像画が飾られており、小さな博物館のようである。

 

 そんな空間で彼女はあるファイルを読んでいた。

 

「……金沢トレセン学園は…着衣水泳を実践し、生徒達の精神力を強化……門別トレセン学園は、ジャガイモの栽培で、生徒に農業を通じた積み重ねの大切さを教える試みをスタート………良い感じに、波及してきましたわ」

 

 彼女が見ていたファイルは、金沢と門別から送られてきた、合同トレーニング後の経過報告だった。

 

 彼女は、自分達の行なってきた事が、他の学園の意識の変化に繋がりつつある事を確認していく。

 

「……ケイピーシーナリーは、一着こそ逃しはしたものの、レースで一定の成果を出しましたわね……これは、お互いを刺激する材料に…」

 

 そして、ケイピーシーナリーの成績は、他の学園を奮励努力させる材料であると、彼女は感じていた。

 

「……こちら側の選手も、強化していきませんと………」

 

 彼女は生徒の現状を把握してはいたが、内線電話を取り、番号を押す。

 

「シャドウさん」 

『はっ、理事長、いかがいたしましたか?』

 

 電話の相手は、名古屋の元生徒会長であり、現在は濃尾の副会長として名古屋校舎の生徒達をまとめているウマ娘、シャドウブレイドである。

 

「この間、スタークラッシャーのバランス感覚に対する対策の話をしていましたわね?」

 

 現状、アサヒクリークのいる名古屋校舎で一番の有望株は、スタークラッシャーである。

 

 ケイピーシーナリーより適正距離は短めである彼女は、ネクストヒロインカップと、東京ダービーで出た、激しい競り合いでバランスが崩れやすくなる弱点の改善を、最重要課題としていた。

 

『はい、現在のところ、生徒達がトレーニングで使用する頭部保護のヘッドギア…あれを小改良し、後頭部にカウンターウエイトの役割を果たす棒を取り付け、頭部の動きの乱れを防ぐことを検討しています。金沢の方から頂いたアドバイスを参考にしました。なお、勝負服にもこれを採用します』

「首への負担は?」

『AIである程度は計算できます、後は、本人やサポートウマ娘などの協力も得ながら、実験を繰り返し、動きの乱れと重心変化による揺れを相殺出来るラインを探ります』

「……わかりましたわ、慌てず、慎重に進めて下さいな」

『御意』

 

 アサヒクリークは電話を置き、織田信長の肖像画を見つつ、思案する。

 

「……変化の兆しは、ちらほらと見えつつありますわね……でも…私は…信長公のように……上手くやれるのか…………生徒達も…」

 

 アサヒクリークは、まだまだ若い。

 

 斎藤のような経験や、“彼女”のような驚異的な実績も無い。

 

「…気にしている場合ではありませんわ………今は、兎に角、生徒達の状況を逐一確認しつつ、レースで実績を残していくことに、集中すべきですわね」

 

 しかし、彼女には、燃え上がるような意欲があった。そして、その意欲は、簡単に消えるほど、穏やかなものではない。

 

 

 

 

 




  
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