転生者は破壊したい   作:ヒブナ

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#11 野戦築城

 

 本日午後11時、濃尾、金沢、門別

 

 3学園の提携強化を図り、地方レースに新たな魅力をもたらすための協定に、三学園の生徒会長のブルーパイソン氏、オヤマアトラス氏、コタンチェフスキー氏が、アサヒクリーク理事長、長理事長、蠣崎理事長が見守る中署名、今、ここに、地方レース魅力再生機構が発足いたしました。

 

 

ニュース那古野 嶺和7年5月25日のニュースより。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…疲れましたわ」

「お疲れ様、はい、トマトジュース」

 

 アサヒクリークは、私が差し出したトマトジュースをゴクゴクと飲み干す。

 

 その姿はまるで、映画や絵画で描かれる、獲物の生き血を啜るティラノサウルスのようである。

 

 彼女が疲れている理由は、地方レース魅力再生機構を設立したことによる取材の山だった。

 

 中央と違い、大きなニュースは近年ずっとなかったので、珍しがられたのである。

 

 ただし…

 

 私はこの動きについて、少し疑問に思っていた。

 

 より深い連携を外部に表明するということは、ある程度その意思表示に周囲を従わせる……まあ、筋を通させるという面においては、有効である。

 

 その一方で、注目されて出る杭は打たれるのような状況になる可能性もあるのだ。

 

 アサヒクリークからこの事を聞かされた時、私は軍師として当然、再考するように促した。

 

 情報を友好校に提供するのは良いが、そこまで大きな動きに発展させるのは考えものだと。

 

 それに対してのアサヒクリークの返答は……

 

「やりたいことが、沢山あるのです。学園を運営する者としても、名古屋に暮らす一人としても、一人のウマ娘としても」

 

 だった。どうやら彼女は、自分と地元と学園……3つの要素を考えて、この行動へと至ったようだった。

 

 だから「無駄遣いだけはだめだよ、最初に今後のための金は取りわけておかないと」と言って、私はアサヒクリークに助言をしつつ、このアイデアが通るように尽力した。

 

 

 

「よい飲みっぷり。これなら問題はなさそうだね…………それで、魅力再生の方法……色々言ってたけど、まずは、3学園の合同エキシビションレースの開催をするんだよね」

「ええ、会場はここ名古屋です。交通の便の関係で、決定いたしましたわ、勝負服を用い、華やかなレースとする……だけでなく、各学園の考案した、レース技術をテストする場にもなりますわ」

 

 私も、概要自体は読んである。普通のレースと技術テストのレースの二段構えだ。

 

「ケイピーシーナリーもスタークラッシャーもレースが控えてるから、出なさそうだけど出れそうな選手はいるの?」

「カサマツのクラブワンに頼みました。彼女は快諾してくれましたわ」

 

 クラブワンか、なら問題ない。最近は小改良した鉢形蹄鉄を使用し始め、好調な成績が続いている。自分の勝負服の、名前が書いてある部分に、HLと付け加えた事がそれを示しているのだ。HLの意味はハイパーレッグの略らしい。

 

「そう言えばあの娘、言ってたよ。ズワイガニからタカアシガニになりましたって、タラバガニじゃないんだね」

「アレはヤドカリですわ」

「………知らなかった…それで、名古屋からは誰か出すの?」

「スタークラッシャーの一世代下のヤマトスピアーが出る予定ですわ。ただし、あくまでベテランとの対戦を通じた勉強を目的としています」

「なるほどね……じゃあ、私は今回のエキシビションマッチは…」

「ええ、特にすべきことはありませんわ、ですから、貴女には、ぜひ、アグレッサーウマ娘の方を進めて欲しいのです。キッシーから情報を手に入れましたの」

 

 アサヒクリークは、ファイルをこちらに差し出してきた。

 

「トノハタサターン、静岡出身で中央に進学したウマ娘ですわ」

「この娘………ウマッターで見たことあるよ、接触で怪我してこの間復帰したけど、復帰前までの結果とは打って変わって大惨敗……トレーナーもだけど…この娘自身も結構叩かれてたね」

「ええ、そうですわ。キッシーからの情報によると、結局調子は戻りきらず、このウマ娘は地元に帰ることになったそうですわ、嫌気が差したとのことです」

「……もう地元に?」

「いえ、今月末です」

 

 そう言うと、アサヒクリークはニヤリとした。

 

「今月末………まさか……!」

「ええ、クロさん…だから貴女をお呼びしたのですわ……このウマ娘を、なんとしても、今月末行われる、エキシビションレースに招いて下さい。そして…カサマツのアグレッサーウマ娘として手に入れるのですわ………あなたがツルマルツヨシを引き込んだ時のように」 

「なるほど………」

「やってくれますわね?」

 

 その言葉を聞き、自然とこちらも笑顔になる。

 

「私は何人にもそうしてきたし、必要なら繰り返すよ、何度でもね」

「……!」

 

 アサヒクリークは少しビクリとして耳を真上に立てた。

 

「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだ。全力で取り組ませてもらうよ」

「いえ、こちらも取り乱しかけました……頼りにしていますわよ」

 

 さて、早速準備に入るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束の場所に着いたよ」

『ええ、トノハタサターンは、“会ってほしい人がいる”とキングダムシーが呼び出してくれています。あなたはそれと接触し、勧誘する………なんだか秘密作戦みたいですわね』

 

 やれやれ、彼女にも子供っぽいところがあるのだな。少し乗ってみよう。

 

「ブロック2-6より、レックス1へ、これよりHVI(高価値個人)と接触する。…何か指示は?」

『……ふふっ……こちらレックス1、肩の力を抜きなさいと言いたかったですが……問題ありませんわね、お気をつけて、レックス1、アウト』

 

 私は電話を切って、先へと進んだ。

 

 

 

 

 少し歩くと、群青色の髪の毛が見える。

 

 彼女がトノハタサターンだろう。

 

「失礼……あなたが、トノハタサターンさんですか?」

「ええ、私がトノハタサターンです。あなたが…キッシーが是非会って欲しいと言っていた」

「黒澤由紀恵……濃尾トレセン学園の、教官です……以後、お見知りおきを…どうぞ」

 

 私が名刺を差し出すと、トノハタサターンは、少し警戒しつつも、それを受け取った。

 

「それで、今日はなぜ、地方学園の方が私なんかに?」

 

 キングダムシーを信用し、渋々といった様子である。

 

「それはもちろん、貴女をスカウトするためです」

 

 あまりごちゃごちゃ前置きを並べると嫌がるな、最初からしっかり伝えていこう。

 

「スカウト?正気ですか?私はもう、レースが嫌なんです。輝いている間は持て囃されて、少しでも調子が落ちたら、手のひらを返す。そんなレースが」

 

 向こうはこちらを向いてそう言う。まあそうだろうな。あと、神経を逆撫でするような事を言われたとしても、冷静さを捨てていない。

 

 ますます欲しくなった。

 

 もう一度レースに戻ろうなんてことを言えばアウトであるが、相手が予測しているこちらの言葉はおそらくそれである。

 

 だから、こちらはその外側から攻める。

 

「では、レースをしなければ良いんですよ」

「…!?」

「私は貴女をスカウトしたい、ですが、レースをしてもらうためではないんです」

「…では、なぜ!?」

「貴女にやってもらいたいのは、一言で言うと、女優です」

「女優……!?」

 

 物は言いよう…

 

 言い方を変え、無理やり聞かせるのだ。

 

「実戦を想定した生徒たちの訓練相手です。そこには、手のひらを返す人々も、貴女を必要としなくなる人もおらず………あなたの心にある…“走りたい”という、燻る気持ちを満たす仕事があります」

 

 今の彼女がどうと言え、一度はレースを志した身である。つまり、私やお金目的のウマ娘のような一部を除き、走るのが好きな者が殆どなのだ。

 

 彼女が嫌になったのはレースであり、それと走ることとは別に考えなければならない、いや、なんとしても分離させてもらう。

 

「レースは、人々の目とつながっています……でも、走ることはそうではないと、私は思います。私達ウマ娘は、走るために生まれてきたと言われていますが………それはいつしか、レースと言う言葉に、言い換えられてしまいました。貴女も、ご存知のはずです、レース以外にも、走って、何かを生み出す………イブニングルージュや、セントルチェアのような人々もいるのに…」

 

 テレビを持っているなら、誰もが一度は目にするであろう、ウマ娘のプロバスケットボール選手とプロサッカー選手の名前を出し、私の言葉の裏を取る。

 

 これら2人は、生徒たちの話題にもよく登っているのだ。一般学校との交流の賜物である。

 

「貴女にやっていただきたいのは、走りを通じた教育…ですから、貴女は、レースと言う、失望と掌返しがある場に、無理に戻る必要はありません」

 

 相手の言葉のキーワードを、今度は逆に聞かせてやる。

 

「貴女は、走ることの酸いも甘いも知っています。その経験を活かし、地域振興や魅力発信を担うウマ娘達をを育てる………その大役を、()ってみる気はありますか?」

「………」

 

 向こうはかなり困っている様子である。だから、尻を叩きにいく。

 

「これを、─日に名古屋レース場で、行われる、エキシビションレースです。でも、普通のレースとは違う。我々ローカルシリーズの人気が、トゥインクルシリーズと比べて劣ることは、貴女もご存知だと思います。だから生徒達は、勝つためでだけはなく、生き抜く方法を学ぶために、ここに集います。………このレースは、地域を背負ったウマ娘が、新たなレースの姿について、勉強をする場です、ぜひとも見に来てください…………お待ちしています」

「……」

 

 向こうは指先で、特等席のチケットをつかむ。

 

「ありがとうございます。貴女に、素晴らしいものを見せるべく……お待ちしています」

 

 選ぶのはそちらだ、もし来なかったとしても、その時は別の方法をとる。

 

 だから、私は、トノハタサターンと別れたあと、アサヒクリークに電話をかけた。

 

『こちら、レックス1どうでした?』

 

 あ、まだそれやるのね。

 

「ブレイブ2-6から、レックス1へ、HVIの誘導に成功。あとは当日の成果次第。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、エキシビションレースの当日、トノハタサターンは、名古屋レース場の前までやってきていた。

 

「…!来てくれたのですね!」

 

 その姿を認めると、黒澤は、名前を呼ばず、自ら歩いて、トノハタサターンのもとに向かう。

 

「……実家から近いですから、それに、キッシーには色々と助けてもらったので」

「それでも、私達は嬉しいです。レースを見てくれる方は、一人でも多いほうが良いですから、さあ、こちらへ」

 

 黒澤は、トノハタサターンを室内席へと案内し、座らせようとする。

 

(……コースが小さいから、よく見えるけど…中央と違って、モニターの画面は小さいし、掃除はされてるけど、床はちょっと年季が入ってる)

 

トノハタサターンは、中央との違いを感じつつも、与えられた席に座った。

 

(……あの内ラチ沿いのレール……あれは一体…)

 

「気付かれましたか、あれは、陸上競技で使う、レールカメラです。濃尾トレセンは名古屋の私立天持学園と友好関係でして…そこのツテでレンタルすることができました」

 

 天持学園は一般学校であり、吹奏楽以外の部活もある。そのため、濃尾トレセン学園は、外部との間接的なつながりを持つことは、比較的容易であった。

 

「では、あれでラストスパートの撮影を?」「そういうことです、あれはまだまだ、序の口ですよ……車酔いなどはされますか?」

「い…いえ…」

「分かりました、では、もうすぐ1レース目が始まります。ウマ娘達も本バ場入場を始めますから、見てあげて下さいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『押し切った!押し切った押し切ったー!勝ったのはクラブワン、蟹の鋏の様な力強いレース、その姿、まさに、クラブワン・ハイパーレッグ!!』

 

(生徒たちが実況をやったり、準備を手伝っている他は、普通のレースと変わらない……キッシーもだけど、この人は、私に一体何を…)

 

 数回、レースが終わり、走行環境が軽く整備されている間、トノハタサターンは、そう考える。

 

「どうです、あの新しい勝負服?」

「綺麗な模様ですね、ですが、驚くのは取っておくことにしますよ」

「そうですね、今回は通常レースだけではないですから」

 

(普通のレースと違う?どうして?)

 

「これを」

 

 観客達の声に耳を傾けていたトノハタサターンに、黒澤は、目を覆うパーツのついたヘッドギアを差し出した。

 

『さて、お次は、今回のエキシビションレースの第二の主役、研究レースがやって参りました!今後の新い地方レースを作るかもしれない、新しい試みを、この目に焼き付けるといたしましょう!』

 

「トノハタサターンさん、早速、かぶってみてください」

「は、はい…」

 

 トノハタサターンが、言われるままにヘッドギアをかぶると、視界は特別席からのものではなく、上空からの鳥瞰視点になった。

 

 そこには、パドックで紹介されるウマ娘達が映っている。

 

『皆様、ご覧いただけましたでしょうか?これが、今回の研究レースの1つ目の研究事項……小型ドローンによるレースの追跡撮影になります!』

 

 小型ドローンは、ヒグマなどの野生動物に備えた、農場、牧場の見張りだけではなく、スキー競技などの撮影に活用され始めていた。

 

 映像は、ヘッドギアとレース場のモニターに転送されており、臨場感に違いはあれど誰でも見ることができるようになっていた。

 

『そして、2つ目の研究事項は、大規模な勝負服改革による、心理的影響です!その心理的影響のテストを行うのは、金沢から来た金沢の鬼百合、オヤマハンニバル!!試作勝負服、プロトエアボーンを着ての登場だー!!』  

 

 実況に紹介され、パドックにオヤマハンニバルが出てくる。  

 

「スラッとしてる……」 

「あの子…和服じゃなくてあっちの方が似合うんじゃ…」

 

(今までの金沢のウマ娘の勝負服と、全く違う。今までの金沢の勝負服は、みんな緑や朽葉色で、それもぶわっとした感じの和服…でも、このウマ娘のものは、真っ白でスッキリとしている)

 

 トノハタサターンも、勝負服に興味を示していた。彼女はダートを走っていたこともあり、金沢トレセンの勝負服についても、一定の知識があったのである。

 

(それに、ハチマキじゃなくて、ヘルメットみたいなものと目出し帽みたいなをかぶってる…)

 

 オヤマハンニバルの勝負服は、金沢トレセン学園の勝負服にあった、和服の華と無骨さの調和とは打って変わり、スッキリとまとめることに重きを置いたものとなっていた。

 

「……!」

 

 パドックのほかのウマ娘は、その異様な風体に、明らかに動揺している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スタートしました!おっと、オヤマハンニバル少し出遅れたか、後方からのスタートです。前に出たのは門別のロッドアンドリュー、続いて得意のポジションを獲得した同じく門別のルカタイガ、濃尾のメトフォードシチーとライムウェブリーが続きます。さて、ここで、カメラを切り替えましょう!』

「……!」

 

 トノハタサターンは、ゴーグルの中で、目を見開いた。

 

 コースの上を駆けるウマ娘が、まるでアニメのようなアングルで、眼の前に映し出されているからである。

 

『皆さん、映像は目に入っておられますか?現在、このレースはドローンによる超近接撮影が行われています!』

 

 突然の視点の切り替わりに、その場にいる観客のなかで、興奮しない者はいなかった。

 

「凄いぞ!」

「まるでアニメみてぇだな!」

「これが早く大レースで見たいわね!」

 

(……こんなもの…見たことない)

 

 トノハタサターンも、口には出さないが、同様である。

 

 観客から放たれた熱気は、室内で反響し合い、その場は興奮に支配されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、ウマ娘達は最終コーナーを抜けました!おおっとここで、オヤマハンニバル、後方から一気に攻め上ってきた、まるで空から降ってきたかのような奇襲攻撃!他のウマ娘を薙ぎ払いにかかる!先頭を走るルカタイガと激しい競り合い!』

 

「…………!」

 

 ドローンは、激しいデッドヒートを映す。

 

 トノハタサターンは、それを見て、あることを考えていた。

 

(この子たち………ものすごく……楽しそう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴールイン!勝ったのはオヤマハンニバル、アップデートされた力を、見事に出し切っての勝利です!』

 

 周囲が興奮するなか、トノハタサターンは、ゴーグルを取り、こちらを見る。

 

「どうでしたか?」

 

 私はすぐさま、言葉を引き出しにかかる。 

 

「……私は、レースを疑っています……ですが、このレースには、人々の情熱がこもっていることだけは、はっきりと、感じられました」

 

 上出来だ。

 

「そうです。この情熱は、学園が、応援する人々と、密接に結びついているからこそ、生まれるんです。彼女たちの用いる技術は、地域の人々が作ったり、育んできたりしたものも含まれています。彼女たちの学園は、地域の食材をメインで使ったり、ボランティア活動に出る生徒も少なくありません。地方レースの、ファンとウマ娘は、勝負とその興奮だけでなく、ご縁で結びついているという面が強いんです。それが成しているのが、この興奮です」

 

 私は、本当のことを言っている。嘘はついていない。

 

 もちろん、中央でも、地域との縁はある。私も商店街の人々や、手袋の老人と仲良くやっていたし。しかし、構造的に、中央は、単一の存在なのだ。

 

 それに対し、地方の学園は複数ある。要はほかにも地域に支えられている比較対象があるのだ。この構造により、このレースのように、学園をまたぎ、他の学園のウマ娘と矛を交える事があれば……地域を背負っているという思いは、自然と強まるのだ。

 

 だが、私はこの事をトノハタサターンに言わない。

 

 

 

 

 

 少し、背中を押してやるとしよう。

 

「私はこの間、レースをしなければ良いと、貴女に言いました。そして、この縁は、レースをするかしないかは、関係ありません………貴女も、この縁に加わることができるのですよ?」

 

 彼女だって、中央に籍を置く身……心の底には、栄光への望みがあるのだ。それを掻き立てなければならない。

 

『次のレース、注目のウマ娘は、名古屋校舎のブレンドローズ!左右非対称デザインの勝負服で登場だ!』

 

「凄いぞ!」

「あんな斬新なデザイン、見たことないわね!」

「………」

 

 次のレースの準備をするウマ娘の勝負服の斬新さに興奮している夫婦の方を見て、トノハタサターンの注目を、そちらに誘導する。

 

「………ウマ娘を支える役割、本当に、私にも務まりますか?」

 

 よし。

 

「……!もちろんです!では…」

「はい、濃尾トレセン学園の生徒として、ウマ娘達のお手伝いをさせて下さい」

「その言葉…待っていました」 

 

 これで、アサヒクリークは喜ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─という経緯で、あの娘は来月から来ることになったよ」

「やりましたわね、クロさん」

 

 “彼女”の報告を受け、アサヒクリークは笑顔になった。アサヒクリーク自身は、最もコースに近いエリアで、中部地方の地方レースを運営する責任者とともに観戦しており、特等席には不在だったのだ。

 

「……野戦築城、名案ですわね」

 

 アサヒクリークはそう言って、今回のレースの裏で行われた、室内席の安値販売のチラシを見る。

 

 レース場の室内席にも、グレードがあり、今回のレースでトノハタサターンを通した席は、グレードが上の方の席だった。しかし、今回のレースでは、そのグレードを含めた室内席の値段を思い切って下げ、結果的に、外での観戦でなく、室内での観戦を選択する人々を増やす結果となったのである。

 

「そう、野戦築城こそ、信長公の行った、素晴らしい作戦の一つだよ」

 

 織田信長は、長篠の戦いの際、小高い場所に柵を敷き、武田軍を迎え撃った。

 

 地形と環境を利用し、それに柵というひと手間を加え、結果を得たのである。

 

 “彼女”とアサヒクリークは、室内という環境を利用した。

 

 歓声、熱気、興奮、それは、屋外席でも、室内席でも変わらない。

 

 しかし、室内席は囲まれている。

 

 歓声、熱気が、閉鎖空間の中で反響し、内部にいる人々に、より多くの興奮をもたらすのだ。

 

 “彼女”とアサヒクリークは、これにより、トノハタサターンの脳内に、

 

 “地方トレセン学園は中央と違う”

 

 “地方トレセンと地域は深く結びついている”

 

 という情報を深く刷り込んだ上で、彼女に決断させたのである。

 

 

 

 

「……」

 

 しかし、アサヒクリークは考え込む様子を見せた。 

 

「何かあった?」

「この野戦築城作戦…なんだか既視感があるのですが…」

「それはそうだろうね、だって、中学生で習うことなんだから、SF商法って知ってる?」

「………なるほど!ピンときましたわ!」

「物は使いようだよ、私達は金をだまし取ることはしないけど、人を勝ち取る……調略のためには、ある程度練られた作戦がいる、人の心を掴むためのね」

「ええ、そうですわ。技術や知識は、使いようです」

 

 

 ある時は歴史に、ある時は悪人に…

 

 様々な方向からヒントを得て、下剋上という目的を達成する…

 

 “彼女”らのスカウトは、レースの世界の手法としては、何ら問題ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お読み頂きありがとうございます。

コメントなどありましたら、お気軽にお寄せ頂けますと嬉しいです。

この番外編は、名古屋が強くなっていった流れを説明するものなので、誰が入ったかというよりも、主人公やアサヒクリークが何をしたかに注目して見て頂けると、楽しめるかと思います。

また、ケイピーシーナリーの名前には、一応、物語に関連する意味があります。
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