ありふれた職業と月の姫   作:ザラメシュガー

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志貴のステータスです。


遠野志貴 17歳 レベル:1
天職:神子
筋力:80
体力:90
敏捷:700
魔力:15
魔耐:15
技能:致命 敏捷倍化 殺害技巧 言語理解


tec枠があればめっちゃ高そう。


2.訓練とイジメ

 異世界に呼び出されてから2週間が経った。たった2週間だが、色々なことがあって俺は疲れ果てていた。愛ちゃん先生にアルクェイドのことを根掘り葉掘り聞かれたが曖昧な説明で納得してもらい、クラスメイト達にも何とか説明して追及を避けた。王国の人に掛け合って日の当たらない部屋を用意してもらい、アルクェイドはその部屋に寝かせている。

 

 それからハジメだ。一般人並みかそれ以下のステータス。天職は錬成師と非戦闘系で割とありふれたもの。もとより白崎さんのことでヘイトを買っていたハジメはこのことで余計に立場が悪くなり、いじめに近い扱いを受けていた。ハジメも訓練にはきちんと参加し、ほかの時間は錬成師の技能を伸ばしたり非戦闘系なりに図書館で情報を集めたりしていた。にもかかわらずハジメを訓練を真面目に受けないとか言って馬鹿にし、暴力をふるう檜山達はハジメのことが気に入らないだけなのだろう。

 表立ってハジメを庇っても天之河に止められるだけだろうから、せめてハジメの話し相手にでもなろうと図書館を訪ねて、一緒に勉強をした。

 

 初日以来ずっと、八重樫に訓練に付き合えと言われ、白崎さんにハジメと図書室で何をしているかと問い詰められ、気配が異常に薄い遠藤を見つけ、アルクェイドに近づこうとする王子をやんわりと遠ざけ、騎士団長のメルドさんに特別扱いという名の特別きつい訓練を受け、気付いたら2週間たっていた。おかげで少し、いやかなり寝不足である。

 

 だから本来なら訓練の合間の昼休憩も仮眠に充てたいのだが、何よりも優先すべき用事のため駆け回った。

 外せない用事。それはもちろんアルクェイドのことだ。2週間たっても目覚めないアイツを医者に診てもらうために空き時間は色々なところに掛け合った。今日、ようやく時間が取れて診てもらっている。

 

「それで、アルクェイドは大丈夫なんでしょうか」

 

 医者として来てくれた男と癒者として来てくれた銀髪のシスターに声をかける。聞いているのはアルクェイドがどういう状態にあるのか、どうしたら目覚めるのか、ということ。

 

「そうですな、状況としては全くわからないというほかありません。死んでいるのか生きているのかもよくわからず、呪いや魔術の影響もみられない。いやはや、このような患者は初めてですぞ」

 

「癒者の私から見ても全く不明です」

 

「そう、ですか…」

 

 薄々分かっていたことではあるが、やはりアルクェイドのことは何も分からなかった。2週間だ。それだけの期間一度も目を覚まさないというのは、きっと普通じゃない。こちらから何か働きかければあるいは、と思ったがまるで意味のないことだったようだ。

 

『暫く私は目を覚ませない』

 

 召喚の直前にアイツが言っていた言葉を思い出す。「暫く」と、確かにそう言ったのだ。もしかしたら、この異世界召喚という特異な状況を事前に見越していて、何らかの対処のために今は眠っていて、目を覚ます見込みがあったのかもしれない。ならば、今自分にできるのは信じて待つしかないのだろうか。

 

「今日はありがとうございました」

 

「いえいえ。今日はお役にたてず申し訳ございませんでした。使途様のご要望とあらば、いつでも駆けつけますので、気軽に及びください。それでは」

 

 そう言って医者とシスターは帰っていった。期待をしていなかったといえば噓になる。少し、辛いな。

 

「アルクェイド、お前はそう簡単にくたばるような奴じゃないよな」

 

 口から出た言葉は確信を持って言ったようでも、願いのようでもあった。

 

 さあ、気持ちを切り替えよう。午後も訓練があるのだし、沈んだままではいられない。遅れると天之河もうるさいし、早めに行こう。

 

 

 

 

 訓練施設に到着したが、何やら騒がしい。何だろうか。皆が集まって壁になって騒ぎの様子が伺えない。だが、聞こえてきた声で事情を察した。

 

「ほら、何寝てんだよ?焦げるぞ~。ここに焼撃を望む、〝火球"」

 

「っ、ぐう…」

 

 ハジメが暴力を振るわれているのだろう。今まではここまで過剰じゃなかったから見逃していたが、さすがに今回はやりすぎだ。持ってきた訓練用の短剣を握りしめ、駆けだす。

 

「ここに風撃を望む、〝風球"」

 

 人だかりを掻き分けると斎藤が魔法を放っていた。ハジメは痛みで動けないようで、避けるそぶりもない。俺はハジメに向かっていく風球の射線上に立ち、短剣で受け止めた。

 

「おい、大丈夫かハジメ」

 

「遠野、くん。僕は大丈夫だから、ほっといてくれよ」

 

「大丈夫なわけ無いだろ。全身傷だらけじゃないか」

 

 南雲の傷はそこまで深くはなさそうだが、ボロボロだ。こいつらに囲まれて逃げられなかったのだろう。ああ、腹が立つな。俺がもう少し早く来ていればよかった。

 

「おい、檜山。お前ら寄ってたかって弱い者いじめか。随分と楽しそうじゃないか」

 

「チッ、うるせえなあ。俺たちは実力の足りない南雲クンのために訓練してやってんの。邪魔すんじゃあねえよ、遠野」

 

「そうそう、ソイツ弱いから、ありがたく思ってくれよー。遠野、お前だって味方に足手まといのザコが居たら迷惑だろ」

 

 なるほど、これが訓練と、こいつらはそう言いたいのか。本当に、本当にくだらない。

 

「そうか。訓練か。それはいい。俺もさ、混ぜてくれよ、お前たちの訓練」

 

「は?お前ふざけてんのか。殺すぞ」

 

 檜山が安い言葉で応える。俺はだらりと手を下げたまま、持っていた短剣を放り投げてハジメの前に立つ。今こいつらを俺が倒してもハジメへのいじめが見えないところに行くだけだろう。それに、気に入らない相手に暴力をふるうのではやってることがこいつらと変わらない。だから、傷をつけない程度に無力化するのが望ましいな。

 

「あーうざ。冷めるわー。おい、遠野からやっちまうぞ」

 

 檜山、中野、近藤、斎藤がそれぞれ武器を持って駆け寄ってくる。先陣を切った斎藤が振り下ろした訓練用の剣を躱し、足で地面に押さえつける。斎藤にとっては想定外だったのか、剣を取り落としている。斎藤を突き飛ばし、他を見る。中野が槍を振りかぶっている。一歩下がった近藤が魔法を詠唱し、檜山が後ろに回り込んでいるのが見えた。まずは中野からだ。

 中野の槍を速度が乗り切る前に手で受け止める。衝撃はだいぶ殺したので痛みはなかった。掴んだ槍は力比べになる前に返し、体勢を崩した中野の足を払って転ばせる。たまたま槍を落としていたので拝借し、詠唱中の近藤に放り投げる。これで一旦詠唱は止まるか。

 

「くたばれや、遠野っ!」

 

 後ろから檜山が剣を振ってくる。死角からの攻撃ではあるが、大体の動きは読めている。高い敏捷値に任せて剣を避けつつ横から剣を握る手を打ち付ける。檜山は剣を落としたので足で遠くに飛ばしておく。

 

「ぐっ、おいお前ら、何やられてんだよッ」

 

「まだやる気か。随分訓練に熱心なんだな」

 

「てめえ、ふざけやがって…」

 

 4人がじりじり距離を詰めてくる。武器は落とさせたので全員素手だ。適当にいなしてメルドさんや騎士の人が来るのを待つか。と、その時、怒気を孕んだ高い声が響いた。

 

「何やってるの!?」

 

 その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。声を発したのは彼らがハジメに絡む原因であろう白崎さんだった。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってたのを遠野に邪魔されただけで…」

 

「南雲くん!」

 

 檜山の弁明を無視して、白崎さんは、傷だらけで蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

「いや、それは……」

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 八重樫、天之河、坂上に責められ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。白崎さんの治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

 苦笑いするハジメに白崎さんは泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む白崎さんを、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

 

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ。それと遠野君もありがとう。南雲君のこと、助けてくれたんでしょう」

 

 渋い表情をしている白崎さんを横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。

 

「いや、俺はいいんだ。八重樫達こそ、割り込んでくれてありがとな。おかげで助かった。アイツらを相手するのはさすがに骨が折れるよ」

 

「あっ、遠野君がハジメ君を助けてくれたんだね。ありがとう」

 

「いいんだよ。白崎さん。それより、南雲の傷は大丈夫か」

 

「ぼ、僕は大丈夫だから」

 

「だめだよ、ハジメ君。傷が治りきるまでちょっと待って」

 

 白崎さんの圧でしぶしぶ治療を受けるハジメ。また申し訳なさそうにハジメは礼を言っている。

 しかし、そこで水を差すのが天之河という男だった。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

 いったいこいつはどういう頭のつくりをしているのか。思い込みが激しいやつだとは思っていたが、ここまで歪んでいるとは。

 

「おい、天之河。ハジメは非戦闘系の天職持ちなんだ。お前とは強さの方向性が違う。それに、自分よりも弱いやつを相手に4人で囲んでリンチすることを俺は訓練だと思わないんだが」

 

「遠野、君は優しいんだな。不真面目な南雲をそうやって庇って。でも、檜山達の悪口はよくないぞ。彼らも南雲のためにわざわざ時間を取って訓練してくれたんだからな」

 

 こいつは話を聞いていないのか。そうじゃないなら頭がおかしいとしか思えない。

 

「おい、話を聞け勇者ごっこ野郎。南雲には一切非はない。お前にとっては4人でやる弱い者いじめは訓練らしいが、そういうのって普通はリンチとか言うんだぜ」

 

「僕は勇者ごっこなんかしていない。それに、檜山達の親切を無下にするのは絶対に許さないぞ」

 

「ちっ、話にならない。八重樫、こいつはいつもこうなのか」

 

「ごめんなさい、遠野君。ここは退いてくれないかしら。話があるなら今度聞くから」

 

 八重樫に助けを求めるが、謝るばかりだ。そういえば、学校にいた時も天之河関連のトラブルをこうして収めて回っていると言っていた。

 これ以上彼女の心労を増やすわけにもいかないよな。ここは俺が下がることにしよう。

 

「立てるか、ハジメ。もう訓練が始まるぞ」

 

「ああ、うん。ありがとう」

 

「おい、遠野。話はまだ終わってないぞ。それに南雲も」

 

「はいはい。ありがたいお説教をどうもありがとう」

 

 適当に天之河をいなしてハジメと訓練へ向かう。

 そうして一行は散り散りに訓練へ向かった。

 




勇者(笑)使いやすい。
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