ありふれた職業と月の姫   作:ザラメシュガー

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本っ当にありがとうございます。頑張って書いていきます。


6.奈落の月

 

「…き……きて……」

 

「起きて…いい加減起きなさいよ!!」

 

 

 はっと目が覚めた。ここは、洞窟?見慣れたアルクェイドの顔と淡く光を放つ石が目に入る。よく見ればその石から水が湧き出していて、異世界ではこんな光景も普通なのか、なんて暢気なことを考えていて。

 

 ん?アルクェイド?

 

「うええええええええ!?」

 

 思わず飛び起きる。そこにいたのは紛れもなくアルクェイドであった。そういえばさっきまで頭が柔らかいものの上にあったような気がする。膝枕、されていたのか。

 

「わっ、急に大きな声出さないでよ。びっくりしちゃったじゃない」

 

「あ、ああ、ごめん。って、そうじゃなくて。お前、起きたのか!?いやそれより、俺は奈落に落ちて死んだはずじゃ…」

 

 そうだ。俺はハジメを助けて奈落に落ちたはずだ。あの状況で誰かが助けてくれたとは到底思えない。

 

「ええ、私が見つけた時には真っ逆さまに落ちていたわ。それを華麗に受け止めて安全なところまで連れてきてあげたってこと。どう?すごいでしょう」

 

 えっへん、とばかりに胸を張るアルクェイド。ほめてほめて、と顔に書いてあるのがはっきり分かった。

 ようやくはっきりしてきた頭で今の状況を飲み込んでいく。きっとハジメも助かっていて、死んだと思っていたのに命がある。そのことにどうしようもなく安堵し、会えないまま終わると思っていたアルクェイドと今こうして話せていることが嬉しくて仕方ない。

 普段なら絶対にしないのに、感極まった俺は思わずアルクェイドを抱きしめていた。

 

「ありがとう…ありがとう、アルクェイド…」

 

「うぇっ!?き、急にどうしたの?志貴、なんかヘンだよ」

 

「ごめん。少しだけ、このままいさせてくれ」

 

 気付いた時には涙が零れていた。アルクェイドの前で不甲斐ないと思ったけれど、止めようと思えばそれだけ涙が溢れてきた。

 

「ん…大変だったね。よしよし、よく頑張ったね、志貴」

 

 俺が泣いているのに気が付いたアルクェイドが抱き返してくる。何があったか知らないはずなのに暖かく受け止めてくれることがただ有難かった。

 

「俺、もうだめだって。お前に会えないまま、地球に帰れないまま死ぬんだって、そう思って…」

 

「…うん」

 

「ハジメを助けたのは後悔してないのに、死ぬ覚悟はしたのに、でもお前に会えなくなるのはやっぱり怖かったんだよ…」

 

 気付けば弱音が溢れて止まらなくなっていた。アルクェイドの前ならいつだって強がれたのに、今はどうしても無理だった。

 

「そう…でも、もう大丈夫。私はここにいるよ、志貴」

 

「ああ…ありがとう。アルクェイド」

 

 アルクェイドは暖かくて、触れるだけで安心する。その暖かさから離れるのは、暫く無理そうだった。

 

 

 

 

 

 俺が落ち着くまでアルクェイドはそのままでいてくれた。

 振り返ってみれば恥ずかしいことこの上ないのだが、心身共に弱っていたところにあの包容力は反則だろう。正直まだ離れたくなかったが、これ以上甘えるのは流石になしだ。何でもない風を装いつつ俺はアルクェイドから離れた。

 一先ず落ち着いた頭で状況を整理する。俺の身に起きたことは大体把握できたがアルクェイドのことはまだだ。二週間も眠り続けたこととか、今になって起きたこととか、ちゃんと聞いておきたい。

 少し離れたところで「もう終わり?」なんて言ってくるものだからもう一度抱き着きたくなってしまったが何とか耐えた。

 

「それより、お前起きて大丈夫なのか。二週間も寝てるなんて普通じゃなかったよな」

 

「そんなに経ってたのね。でも、私これまでにないくらい重症だったの。それこそ、志貴にバラバラにされた時よりもずっと酷かったわ」

 

「そんなにか!?一大事じゃないか。いったい何があったんだ」

 

「ええと、少し長くなるわよ」

 

 そう前置きしてアルクェイドは説明を始めた。

 

「まずは吸血鬼のことね。この世界…じゃなくて地球の吸血鬼っていうのはね、基本的に星のバックアップを受けた存在なの。星の端末として強い力を持っているのが実態で、裏を返せばその後押しがないとあまり強くはないわ。私はその影響を特に強く受けてね、星の力を引き出すのは一番得意とも言えるんだけど、逆に星の力なしではまともに活動もできないの」

 

「なる…ほど…」

 

 難しい話ではあるが理解できなくはない。吸血鬼の特性というか、その力の種明かしのようなものだろう。

 

「普通なら星の力が無いなんて状況はまず無い。だって、私なら地球にいるだけでいいんだもの。でも、今回は例外だった。無理矢理に異世界に連れていかれるっていうのは、私にとっては致命傷よ。人間で言うなら心臓を突然抜き取られるようなもの。地球は私の力の源でもあり、同時に生命線でもあったから当然と言えば当然ね」

 

「それなら、どうやって助かったんだ。それって控えめに言っても絶望的じゃないのか」

 

「そう。その通り。少し前の私ならなすすべもなく消えていたでしょう。でも、今の私には志貴がいた。諦めの悪い人間のことを、ちゃんと知っていた。だから足掻こうって、そう思えたの。そう考えると、私は志貴に救われたとも言えるのかも」

 

 なんて言いながらアルクェイドはこっちを見て微笑む。こういうことを恥ずかしげもなく言ってのけるあたり、こいつは本当に危険だ。主に俺の心臓に対して。

 いやいや、落ち着け。今の話の趣旨はそこじゃない。続きを聞こう。

 

「それで、どうやって助かったんだ」

 

「えっと、簡単に言うならこの星も私の源にした、ってところかしら。星の魂とその無意識、それからこの世界の人類の無意識の集合体のそれぞれと契約を交わして私をこの星の端末に作り替えたわ。これで存在は安定したし、地球に居た頃よりは一歩劣る程度の力は振るえるようになったの」

 

 よくわからないが、抜き取られた心臓を新しく作り直したみたいなものか。

 

「…とにかく、お前はもう大丈夫ってことでいいのか」

 

「ええ。大体それでいいわ。ただ、幾つか問題があるの」

 

「問題?さっき言ってた契約とかの話か」

 

「そう、それが一つ目。私は星に後押しを受ける代わりにこの星を再生することを引き受けたわ」

 

「再生って…いったいどんな。見る限りこの世界は普通だぞ」

 

「表面上はね。でも中身はボロボロ。霊脈もまともに機能してないし、抑止力はまともに力を持てない。人は無意識でさえ存続を諦め、全ての生命が神を名乗る異物に逆らえないようデザインされている。はっきり言って終わってるわ。逃げ出すのが最善と言えるほどに状況は最悪よ」

 

 アルクェイドは憎々しげに語る。内容自体は全くわからないのだが、その表情から星の再生という仕事の大変さが推し量れた。

 

「全然理解できないし、俺が見たこの世界はボロボロなんて様子じゃなかったけど…この星がやばい状況で、お前がそれを何とかしなきゃいけないってことでいいか」

 

 辛うじて導き出した結論がこれだ。内容はさっぱりだったが大方間違っていないだろう。

 

「まあ、それでいいわ。星の再生が終わるまで私は帰れない契約だから、一番に何とかしないといけないことね」

 

 今さらっととんでもないことを言わなかったか。帰れないっていうのは一大事だと思うんだが…

 

「わかった。俺にできることならなんでも手伝うから遠慮なく言ってくれ」

 

 なんでも、ってのはちょっと言い過ぎか。言ってから気付いたことだがまあ仕方ない。そもそも協力を惜しむ気はないのだし、気にしないでいいか。

 

「ありがとう。でも、志貴は弱っちいから無茶はだめだよ」

 

「はいはい。それで、他の問題は何なんだ。幾つかあるって言ってたよな」

 

 弱っちいとはなんだ、と言いたくなったがぐっとこらえる。今は一々話を遮っている場合ではないだろう。

 

「大きく二つあるわ。一つ目はさっきの契約を果たした後の話。地球に帰ることは許されるけれど、その方法が無いってこと。でも、これに関しては解決法がはっきりしているの。だから、問題は次ね。志貴、天職って聞いたことあるでしょう」

 

 帰る方法がないというのはどうしようもないことのように思えるのだが、アルクェイドにとっては次の問題の方が重要らしい。天職と聞いて自分のステータスプレートの存在を思い出し、懐を探るが見つからない。途中で落としてしまったようだ。

 

「確か、ステータスプレートのやつだよな。潜在的な才能が現れるとかいうのだっけ」

 

「そう、それ。一応確認したいのだけど、志貴のは何だったの」

 

「神子ってのだったはずだ。周りのやつは勇者とか暗殺者とかわかりやすかったのに、俺だけ神子なんて変な天職だと思ってたんだよな」

 

「…そう。やっぱりそうなのね。はぁ、最悪もいいところだわ」

 

 アルクェイドの顔が曇る。いったいどういうことか。俺の神子の天職に何かまずいところがあるのだろうか。

 

「その神子っていう天職はね、器の証なの」

 

「器?それ、どういう…」

 

「さっきの星がボロボロっていう話、それにはちゃんとした原因があるの。元凶が居るって言った方がいいかしら」

 

「元凶って、誰かがこの星を食い物にしているってことなのか」

 

「ええ、そうよ。この世界に君臨しているそれは千年や二千年なんてものじゃないだけの間、この星を荒らし続けた最悪の存在。この世界の人類を弄ぶ偽りの神。神子という天職はそんな奴の容器として最高の肉体を意味するわ。つまり、志貴はそんな質の悪いやつが欲して止まない存在ってわけ。最悪なの、わかってくれた?」

 

 アルクェイドが真剣な眼差しを向けてくる。偽りの神なんてものが存在していて、そいつが俺の体を欲しがっているなんて話、はっきり言って現実味に欠ける。俺を攫う時間なんていくらでもあったし、何千年も生きている奴が今更俺なんかの体を狙う必要はないだろう。

 

「それ、何かの間違いじゃないのか。もしその神なんてものがいるなら、俺は今頃無事じゃないだろ」

 

「ええ、確かにそうね。志貴が無事なのはちょっとおかしい。追手が無いのもね。でも神子の話は本当よ。神子を巡って戦争が起きたこともあるって星に記録されていたもの。だから、これからは注意して動かないとね」

 

 そこまで言ってアルクェイドは一通りの説明を終えた。信じられないことばかりで混乱しているが、全て事実なのだから仕方ない。

 

 なんとか自衛できるように強くならないと、なんて考えつつアルクェイドに今後の方針を聞くことにした。

 

「それで、これからどうするんだ。星の再生なんて言っても具体的に何をすればいいかわかってるのか」

 

「まずはここ、オルクス大迷宮をはじめとする七大迷宮の攻略と神代魔法の習得から始めましょう」

 

「神代魔法?なんだ、それ」

 

 確か七大迷宮は各地にある人類が踏破できていない魔境のことだったはずだ。このオルクスもその一つだということは知っている。しかし、神代魔法とは一体…

 

「迷宮を攻略したら覚えられる、この世界の法則に作用する七つの魔法らしいわ。地球へ帰る方法もこれに関連してくるけど、それについてはまた今度でいいでしょう」

 

「そんなものがあるのか…この迷宮の攻略ってことは下に行けばいいんだよな」

 

「そういうこと。ぱぱっとやっちゃいましょう」

 

 ぱぱっと、なんて簡単に言っているが、仮にも今まで誰も攻略できていない魔境だ。きっと大変な旅路になるだろう。

 アルクェイドは肝心なところで抜けていることが多い。俺がしっかりしないと、共倒れだ。気張っていこう。

 

 決意を胸に立ち上がる。隣にはアルクェイドがいて、少し楽しそうに笑っていた。

 

「だって、こういうの久しぶりでしょ。問題は山積みだけど、志貴がいるから楽しくやれそうって、そう思ったの」

 

 聞いてもいない笑みの理由を答えたアルクェイドは表情を変えて、いたずらっぽくこちらを見てくる。

 

「なんだよ、俺の顔に何かついてるか」

 

「べっつにぃ〜。ただ、志貴がニヤニヤしてるなーって、そう思っただけ」

 

 言われて初めて、俺も笑っていたことに気づいた。

 

 志貴ってば変なの。ち、違う。これは、その…そう。武者震い的なアレだ。何それ、やっぱり変じゃない。

 

 鈴を転がしたような笑い声につられて、思わず笑い出す。こいつはやっぱり笑っているのが似合うな、なんて思いながら暫く二人で笑い続けた。疲れたから休憩してから行こうってなったのは、何というか、俺たちらしいのかなと思って、その後も色々あって、結局出発するまで時間がかかってしまった。

 

 




二人の絡みを書くのが難しい…
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