前日の雨が嘘のように快晴となった今日。蘭たちは五人で講義に向かっていた。今日は二限目から。更に、数少ない五人とも一緒になる講義。道中の話も弾んでいる。
「ねえねえつぐ。文化祭実行委員ってどんな仕事するの?」
「主に文化祭までの宣伝とか、当日の会場の設営とか見回りとかかな。他にも細かいことが色々あるみたいだよ」
「へぇ~。ね、カッコいい人いた?」
「うーん……。カッコいいかどうかは分からないけど、男女比で言ったら半々くらいだったかな……」
この間文化祭実行委員の説明会に行ったというつぐみに、ひまりが質問していた。前半の文化祭実行委員の話より、後半の話の方がより聞きたいような感じではあったけれど。目を光らせながらつぐみに質問しているひまりを見ながら、蘭はやれやれと息を吐いた。
「そういえばひまり。今日の練習ってRiNGで取ってるんだよな?」
「そうそう。ここからならRiNGの方が近いからねー」
巴に尋ねられたひまりがそう答えた。最近のAfterglowは、この大学から近いRiNGの方に行くことが多くなっている。今日も大学が終わってから、皆でRiNGに向かう予定だった。蘭とモカは、背中にギターケース。ひまりもベースケースを持っている。
教室に着いた五人は席を探す。まだ講義まで二十分ほどあるからか、席はまだガラガラだ。教室に入り中央の通路を歩いて、教室の真ん中辺りの二列に五人はまとまって座る。前の列、右奥からつぐみ、巴、ひまり。その一列後ろの席にも右奥からモカ、蘭の順で座った。
「そういえば『滅☆茶☆苦☆茶』の新巻読んだか?」
「読んだ読んだ! まさかの展開だったよね!」
「あたしも読んだ~」
座ってちょっとすれば話題も遷移する。今度は漫画の話みたいだ。巴が話を持ち出すと、ひまりとモカも食いつく。そういえばこの間、本屋に行ったときにモカが買っていたのが今話題になっている漫画だったな、と蘭は思い出す。
「アシカが葉っぱに圧殺されたところすごかったな……」
「でもそれはフェイクのフェイクのフェイクでっていうのにわくわくしたよ~」
「ズガガガガ―ンって感じだったねぇ~」
巴、ひまり、モカの順に感想を言っていく。ちなみに蘭は、三人が何を言っているかわかっていない。この三人が、かの『滅☆茶☆苦☆茶』の話をしているときは、ずっと頭の上に疑問符が浮かんでいる。漫画のタイトルのように三人の感想も滅茶苦茶で、話を聞くたび疑問が深まるばかりだった。
「アシカが、葉っぱに、圧殺……?」
蘭の前でつぐみが頭を捻りながらぶつぶつと呟く。蘭もつぐみの呟きに共感して大きく頷きながら、フェイクのフェイクのフェイクって、それはもうフェイクじゃ……と思っていた。
「つぐみと蘭にも今度貸してあげよっか?」
「そ、そうだね……いつかね」
「……そのうち」
目をキラキラさせて件の漫画を薦めてくるひまりに、苦笑いのつぐみと蘭は、それぞれ歯切れの悪い返事を返す。件の漫画、内容の滅茶苦茶さに反して結構人気が出ているらしい。そこも何だかよくわからないなぁと蘭は感じていた。
「あ、モカちゃん」
後ろの方からここ最近で聞き慣れてしまった声が聞こえてくる。
「やぁやぁ楓くんじゃありませんか~」
「皆さん、おはようございます!」
ニコニコと笑いかけている楓が、蘭の横にやって来ていた。楓は元気な声で挨拶する。
「あ、モカちゃん。この間のパン、ありがとう。柚と桜、喜んで食べてたよー」
「お~。それは良かった~。どういたしまして~」
「え、パン? 何の話何の話?」
ひまりが楓とモカのやり取りの内容に興味を示す。今度は、蘭の隣に座った楓を中心に話が広がっていく。
「この間、弟と妹がモカちゃんにパンをもらいまして……」
「モカがパンをあげるなんて珍しいね……」
「柚くんと桜ちゃんがあまりに可愛かったからね~」
楓の答えに、ひまりは意外そうにそう言ってモカの方を見た。モカは穏やかに笑いながらひまりの疑問に答える。
「楓くんって弟と妹いるんだね」
「ええ。双子で、男の子と女の子一人ずつ」
つぐみも目を丸くしてそう漏らす。楓は「よく一人っ子? って言われるんですよ~。なんでですかね?」と不思議そうに首を傾げて言う。どうやら兄弟がいることをよく意外に思われるのか、慣れたように答えていた。確かに、今までのこいつのを見ただけだと、兄弟がいるようには思えないな。口には出さないが蘭はそう思っていた。
「そういえば、何でモカだけタメなんだ?」
今度は巴が尋ねる。確かに、モカのことはこの間駅前で遭遇した時も「モカちゃん」と呼んでいたし、タメ口だった。でも、モカ以外は丁寧な口調で話している。蘭も不思議に思った。
「ふっふっふ~。それはね、この間の講義の時に頼んだのだよ~」
楓が答える前にモカがそう答える。すると、楓はモカの言葉にぶんぶんと首を縦に振っていた。
「え! いつの間に!」
「アタシたちもタメでいいんだぞ。同年代だろ?」
ひまりと巴が口々に言う。確かに同年代なのにタメ口ではないのは何だか不自然だ。蘭を含め、全員の目線が楓に注がれる。
「……タメ口でいいの?」
「いいのいいの!」
何故か蘭たちをキョロキョロ見ながら恐る恐る尋ねる楓に、ひまりが強く言う。蘭たちもうんうんと首肯する。
「じゃあ、皆タメ口でよろしく~」
楓がニヘラと笑って言う。何だか少しだけ、距離が近くなったような気がする。そのままひまりたちとおしゃべりを続ける楓を見ながら、蘭はそう思った。
何故だかタメ口に慎重な楓くん……。なぜなんでしょうね。
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