講義が終わった後、蘭は大学の近くにある書店にやってきていた。今日は、好きな雑誌の発売日なのだ。
蘭は雑誌コーナーを見回す。その後ろではモカが好きな漫画の新巻を探している。
今日は、モカと蘭だけ。ひまりと巴はそれぞれ別のサークルへ見学に行って、つぐみは学生部ボランティアに話を聞きに行っている。
「あった~!」
雑誌を探す蘭の後ろでモカは嬉しそうに声をあげた。お目当てである大好きな漫画の新巻を見つけたようだ。鼻歌交じりにレジへと向かっていく。
蘭は雑誌コーナーを端から端まで見る。……無い。お目当ての雑誌が置いていない。蘭は一旦、近くで本の整理をしている店員さんに尋ねる。
「あの、この雑誌って置いてませんか?」
雑誌の表紙の画像を表示したスマホを店員さんに見せる。
「少々お待ちください」
そう言って店員さんはレジの方に歩いていく。レジカウンターの傍にあるパソコンを少しの間操作した後、再び蘭の所に戻ってきた。
「申し訳ございません。只今在庫が無いようでして……。取り寄せることもできますがどうされますか?」
「あ……。そうなんですね。取り寄せは大丈夫です。ありがとうございます……」
運悪く無くなってしまったようだ。ついてないなぁ。蘭は肩を落として、レジ横にいるモカの所に向かう。
「あれ? 蘭、買わなくていいの~?」
「無かった」
「あらら」
蘭はモカと書店を出た。また明日、家の近くの本屋にでも行くかな。蘭はそう心に決めて駅への道を歩き出す。
「あ。そういえば~。駅の反対側の出口にも本屋があったような~」
歩いていると、モカが急にそんなことを言う。蘭がモカの方を見ると、モカがニヤリとこちらを見ている。
「……モカ。ちょっと寄っていい?」
「うんうん。モカちゃんはどこへでもお供しますぞ~」
蘭がそう言うと、モカは待ってましたと言わんばかりに応える。モカの気遣いに、蘭は顔を綻ばせる。その本屋にあればいいな。蘭はモカと並んで駅方向へと歩いていく。
「それで蘭~」
「ん。どうしたのモカ」
「その書店の近くに、美味しいパン屋さんがあるらしいんだよね~」
「……そこにも寄ろう」
「やったぁ〜」
ただの気遣いというわけでも無かったらしい。一緒にパン屋に行く予定を取り付けたモカは、満面の笑みを浮かべて軽くスキップをし始める。
流石モカだ……。抜け目がない。蘭は感心とも呆れともつかない感情に小さく溜息を吐いて微笑を浮かべた。
駅までの道中、蘭とモカは本当に色々な店を見た。ファストフード店や喫茶店、カラオケやゲームセンターもある。おまけに、今から向かう駅の反対側に出て、しばらく歩いたところにショッピングモールもあるのだから驚きだ。この街の賑わいが感じられる。
前にひまりが、寄り道し放題と言ってはしゃいでいたのも納得だ。
「ん~? あれは……」
二人が駅前近くのスーパーに差し掛かった時だった。モカがそう言って目を細めて駐輪場の方を見ている。何だろうと蘭もそちらを見るも少し距離があってわからない。
「楓く~ん!」
モカが呼ぶと、手を振りながら自転車を押した人物が近づいてくる。げっ。蘭は身構えた。遂に、大学外でも出会ってしまうのか、と。
「モカさんに蘭さんだー。こんにちはー」
楓は相変わらずふわふわと呑気な様子で目の前に現れた。
いつもと違うのは、自転車を押していることと、自転車の前かご、後ろかごともに大きな買い物袋が載せられていることぐらいだろうか。
「買い物?」
「そそ」
「すごい量だね~」
「家族全員分だからねー」
モカに聞かれて、楓は前かごの袋を少し持ち上げながら答える。家族からおつかいを頼まれているのだろうか。
「二人は、今帰り?」
「ふっふっふ、蘭とモカちゃんはこれからおデートなのだよ~」
「ちょ、モカ!」
「そうなんだー」
モカの冗談に思わず突っ込んだ蘭は、楓の顔を見る。なぜか微笑ましいものを見る目をしていた。こいつ、もしやモカの言ったことを真に受けているのか。そんな可能性が頭に浮かんできた。蘭は一応訂正する。
「……あたしとモカはそんな関係じゃないから」
「え! 違うの!?」
「なんで驚いてるのさ!」
こいつ、本当にそうだと思っていたみたいだ。横のモカも少し驚いたような表情をしている。頭を抱えて深く溜息を吐いた。
「いやー。最近カップルの形って色々あるからてっきり……」
「いくら何でも信じるの早すぎでしょ……」
「楓くんは純粋ですなぁ~」
楓とモカは二人してワハハと笑っている。一方の蘭は変な誤解をされかけてヒヤヒヤしたせいもあって、少し苛立っていた。
「ほら! モカもう行くよ!」
「楓くん、バイバ~イ」
蘭はモカの手を引いて足早に歩き始めた。やはり、楓と話すと調子を狂わされる。
「蘭~。そんなにカリカリしなくても~」
「今回はモカのせいだからね……」
蘭は歩きながらモカに恨み言を吐く。モカは「ごめんごめん~」と相変わらずの軽い調子だ。はぁ。蘭はまた溜息を吐いた。
「じゃ!」
すると横から声がした。車道に出て自転車を漕いでいる楓が、蘭たちを追い越したのだ。楓は、駅方向へ颯爽と走り去っていった。