蘭ちゃんはいつも通りに過ごしたい!   作:鳩ポッポ

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意外な一面(後編)

 

 

 

 駅の反対側の出口近くの書店で、見事お目当ての雑誌を買うことができた蘭は、モカと一緒にその書店の少し先にあるパン屋へとやってきていた。

 

 

 

 夕方ということもあってか、もうあまりパンは残っていなかった。今度来るときは、もっと早い時間に来ようと言いながら、モカはパンを十個トレーに載せて会計に向かった。

 

 

 

「モカ、これ……夕飯前に食べるの……?」

 

 

 

「四個はおやつで~。五個は明日の朝ご飯で~。残り一つは~……蘭にあげる~」

 

 

 

「……え? あ、ありがとう」

 

 

 

 二人は店から出ると、モカはアップルパイを蘭に手渡す。蘭は、モカの付き添いだけの予定だったから、パンを買っていなかった。まさか手渡されるとは思ってもおらず、驚く。一方、モカは種類は少なかったとはいえ、パンを買えてニコニコ上機嫌のようだ。

 

 

 

「駅前のベンチで食べよ~」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 そう言って二人は駅前のベンチへ向かう。

 

 

 

 夕方といっても、帰宅ラッシュにはなっていないこの時間帯。駅前のベンチはガラガラでどこでも座ることができた。

 

 

 

 二人は、花が落ちて緑の葉が茂り始めた桜の木の近くにあるベンチに座る。

 

 

 

「いただきます」

 

 

 

 蘭はもらったアップルパイを、モカはクロワッサンを食べ始める。

 

 

 

「おいしい……」

 

 

 

 リンゴのほんのりした甘味がちょうど良い塩梅で、とてもおいしい。ここに来るまで色々波乱はあったけれど、それでも目的は果たせたし、こうやって美味しいものも食べられて良い日になったかもしれない。……蘭がそう思っていた時だった。

 

 

 

「あ、また会いましたね」

 

 

 

 波乱の元凶、現る。声のしたほうに顔を向けると、自転車を押した楓がニコニコしてこちらに近づいてきていた。はぁ。蘭は思わず溜息を吐く。

 

 

 

「ねえねえ。お姉ちゃんたち、だあれ?」

 

 

 

 ただ、さっきと違うのは、彼の足元に小さい男の子と女の子が一人ずついることだった。浅葱色の瞳に、濡羽色の髪、ただ、楓と違って目はぱっちりと開いた一重まぶたの男の子。空色の瞳に、濃い藍色の髪、楓と同じく眠たそうな二重まぶたの女の子。

 

 

 

 男の子の方が蘭とモカを交互に見ながら尋ねてくる。女の子の方は、人見知りなのか、男の子の後ろに隠れて蘭たちの様子を窺っている。

 

 

 

「このお姉ちゃんたちはね、お兄ちゃんのお友達だよ」

 

 

 

 男の子の問いに、楓が答える。蘭は、「誰が友達だ」と言いたくなったが、小さい子の手前、それをぐっとこらえた。

 

 

 

 モカは椅子から立ち上がって男の子と女の子の視線に合わせしゃがむ。

 

 

 

「お兄ちゃんのお友達のモカだよ~。よろしくね~。ほら蘭も」

 

 

 

「えぇ……。蘭だよ~よろしく~……」

 

 

 

 モカがまず自己紹介をする。蘭も促されて渋々モカに倣う。

 

 

 

 モカは自然に笑えていたけれど、蘭は、自分の顔が引きつっているのを感じていた。

 

 

 

「楓くんの弟と妹?」

 

 

 

「そそ。双子。かわいいでしょ」

 

 

 

「かわいいねぇ~」

 

 

 

 聞いてきたモカに楓は自慢げに言う。親バカ、というよりは兄バカという言葉が蘭の頭に浮かんだ。

 

 

 

「お名前はなんていうの?」

 

 

 

「僕はね、(ゆず)っていうの」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ほら、(さくら)。お名前聞かれてるぞ」

 

 

 

「……あたし、桜」

 

 

 

 モカが名前を聞くと、まず柚がハキハキと答える。桜も、楓に促されながら小さい声で答えた。しかし、すぐに顔を赤くして柚の後ろに隠れてしまう。

 

 

 

「ありがと~。お名前聞かせてくれて。……そうだ。パンいる~?」

 

 

 

「パン! 食べたい!」

 

 

 

「パン……!」

 

 

 

 この双子、どうやらパンが大好きらしく、どちらもモカの言葉に目を光らせていた。

 

 

 

「ほ~ら。どれでも一個とっていいよ~」

 

 

 

「モカちゃんありがとー。二人ともお礼しようなー」

 

 

 

「モカちゃん、ありがとう!」

 

 

 

「ありがとう……」

 

 

 

 今の楓は、きちんと兄としての役割を果たしていて、すごく頼もしく見える。いつものだらしなかったり、妙に気障だったりする楓の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 もらったパンをすぐ食べようと、双子はもらったパンのビニールを取ろうとする。そこに、楓が待ったをかけた。

 

 

 

「あー待った! 今食べたら夕飯入らなくなるだろ? 明日の朝に食べような」

 

 

 

「えー! ……はぁい」

 

 

 

 双子からそう言ってパンを没収した楓は、前かごの買い物袋にパンを二つともしまった。双子も楓にパンを没収されて非難の声を上げるも、それ以上は何も言わず、渋々従っている。

 楓は子守りにとても手慣れているようだし、双子も楓のことを信頼しきっているようだった。

 

 

 

「そろそろ帰って夕飯の準備しなきゃな……。二人ともこの子らの相手してくれて本当にありがとう! じゃ、また!」

 

 

 

「モカちゃん、蘭ちゃんバイバーイ」

 

 

 

「……バイバイ」

 

 

 

 楓はそう言って自転車をまた押し始める。柚と桜はそれぞれ満面の笑みを浮かべて蘭たちに手を振っていた。

 

 

 

 何だか、楓の意外な一面を見た気がする。蘭は双子を可愛がる楓の様子と、あの双子に毒気を抜かれていた。

 

 

 

「……うん。また」

 

 

 

 蘭とモカも、手を振って楓たちを見送る。いつも辛辣になってしまう蘭の口調も、今回ばかりは穏やかで。口元には自然な笑みも浮かんでいた。

 

 

 




10月7日0時まで待てなかった。(堪え性無し)
「読んでます」の言葉一つでこんなにうれしくなるんだなって……。圧倒的大感謝……。
評価・お気に入り・感想、ありがとうございます。励みになります。いや、泣きます。感涙です。

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