「今日も一日お疲れー」
ファミリーレストランという名前なのに利用するのは友人とのことが殆どになってしまった。どうせなら未来の家族──恋人と利用したいものである。いや、デートでファミレスっていいのだろうか。購読する雑誌では男が幻滅するポイントなんて書かれていた気がする。
乾杯した後のコーラを見つめながら思考に没頭する。
「桜花どうしたのー、そんなコーラ見つめて」
「安心しなよまだ何も混ぜてないし」
笑うバカ共。
どうやら今回もファミレスドリンクバーバトルは仁義無き試合運びとなりそうだ、私の思い付いた新しい技で貴様らの口をズタズタに。
と、そんな事にかまけている暇はない。
いつものようにバカとバカやってるバカになっていては駄目なのだ。今日は、敵がいるのだから。
「それでさあルビー……どうだった?」
「え、どうって」
「決まってるでしょ、姫王子よ姫王子! ムカつくけど身体も顔もイイからね、役得だよルビーは」
「私も男子と走りたかったー」
敵──もといクラスメートであり友人のルビーこと星井 竜火である。
あろうことか彼女は有馬と二人三脚のペアに選ばれてしまったのだ、私にもう少し身長があれば……私が! 有馬と!
「ほら、桜花なんて羨ましがり過ぎてコーラに涙を注いでるよ」
「あんたはこの前まで男子と学食なんて羨ましいことしてたんだからいいでしょ、私らなんて何にもないんだから」
「えー、私この前三年生の六道先輩に話しかけられちゃったー」
「は? なにそれ裏切りじゃん、何話しかけられたの」
「『そこの君、どいてくれないかい』、これってもうほぼ告白じゃない?」
「もう駄目ね、出会いが無さすぎてまともな青春送れない脳になってるわ。ほらルビー、哀れな私たちにお裾分けしてよ」
「そうは言っても私は転んでばっかりだったし」
転んだ!? どさくさに紛れて有馬の身体触り放題だったってこと!?
私ならやる、絶対に。
「え、転んだってことはどさくさに紛れて姫王子の身体とか触り放題だったってこと!?」
ほら、
「色んなところにキスしたんでしょー」
「そんなわけないでしょ!」
ルビーは否定するが、怪しい。
「でもそれにしては何か、ガッカリ感がないよねー」
「ガッカリ感?」
「いやそうでしょ、だって男子と二人三脚の練習して何もなかったら女子は絶対ガッカリするよ、だって期待がすごいもん。身体触り放題でもキスしまくりでもなかったことを聞いた私達は当事者じゃないのにガッカリしてるんだよ? 何もなかったら落ち込んでるはずじゃん」
「いや、それは……」
もじもじとその身体をくねらせるルビーを見て確信する。何かあった。
そもそも有馬とある程度交遊を深めた私には、あの男が隙を晒さない訳がないと分かっている。
思春期の女子にあれは毒だ──だからこそ、ペアには私が立候補したかった。いや、守るためね、守るため。
「言いなさいよルビー、私たち友達だったじゃない」
「え、なんで友達じゃなくなってるの!?」
「どうせ姫王子の応援で男子達に囲まれてイチャイチャしてたんでしょ、友達だったルビーは」
「友達だったルビーはいいなー」
「ちょっとみんなやめてよ! だいたい周りに男子はずっといなかったし、むしろ目をつけられないかヒヤヒヤしてたんだから……」
まあ、確かに私もあの一本槍という後輩男子に睨まれると何も出来ないため登校時間の間ずっと話したりはできない。
ルビーの話しぶりではいなかったようだが、普段の有馬の様子を思えばどこからか男子が出てくるんじゃないかという中で、そう簡単にイチャイチャはできないか。
私は友人を疑ったことを反省し──とはいえ羨ましいのは変わらないので謝りはしない。
ともかく態度を改めて。
「なんだ、ルビーは友達なのね」
「よかったルビーが友達で」
「怖いよみんな、それに私みたいなガサツなデブがそんなこと……」
「あら、有馬くんとイチャついていた女子じゃない。奇遇ね」
ぴしり、とルビーの時が止まった。
声をかけてきたのは同じ制服の──見覚えのない女子である。ルビーより背がある女子なんて初めてみた。すらりとしているので、印象としては大きいというより高い。
「えっと、どちら様ですか?」
「私はあなた達の先輩よ。先程甘ったるいイチャつきを見せつけられてね、ステーキをやけ食いしにきたの」
「三年生なんですか、あの、ところでイチャつきって」
固まっていたルビーが慌てて再起動するが、当然ながら先輩の口の方が早い。
「そこのルビーさん? という方は有馬くんの肩を掴んで校内を練り歩いてたのよ、『へへっコイツは私の男だよ、どきなどきな』と、見せつけるようにね」
一斉にルビーの顔を見る。
水泳をやっていたせいで塩素焼けしたというルビーの髪に匹敵するくらい真っ赤な顔をしていた。
私を含めた三人は全て察する。
最早どんな言葉を重ねようと判決は変わらない、有罪だ。
「それは誤解! あれは二人三脚の練習で!」
何やらルビーは必死に否定するが、つまり肩を抱いて見せつけるように歩いたという行為自体は真実ということである。例えそれが何のためであっても男子に飢えた女子達には関係ない。
「でも足下縛ってなかったじゃない、時折肩を指で叩いて……何かのメッセージかしら……秘密のえっちな暗号なのね」
「え、ルビーさんやば」
「ルビーさん、流石ですね」
「ちょっと二人共なんで敬語になってるの!」
「ルビー
「桜花はルビで怖いこと言わないで!」
やはり私の直感は間違っていなかった、ルビーは敵。
有馬の肩を抱いているなんて……私でもしたことがないのに!
いや、ルビーがそんなこと提案できる性格じゃないというのは分かっている。おそらく有馬がいつもの調子で無自覚で無防備な提案をしたのだ。でも、それでも羨ましいという気持ちが、私以外と仲良くしているという嫉妬が押さえられない。
私たちは理屈じゃなく本能でこの恋愛競争を生きているのだ。
「だいたい私が喜久川くんを一方的に抱いてたみたいに言ってたけど、むこうだってこっちに肩を組んで……」
「ついに自慢し出したよ、向こうだって触ってくれたと」
「違う!」
そうだ、二人三脚ということはつまりルビーの肩には有馬の指が! あの指が!
「ねえ向日葵、今ルビーの肩抱いたら間接ハグみたいなものだよねー?」
「そうね宮子、私もそれを考えていた」
「ちょっと三人とも目が怖いんだけど……」
「いいでしょ減るもんじゃないし」
「ふざけないで、私の身体に残るこの感触をあんたらに上書きされたくはないわ!」
「正体現したわね!」
「かかれー!」
逃げ出そうとするルビーを三人で席の奥に押し込んでその身体をべたべたと触り、背で、胸で、尻で潰す。
奮闘する私たちを見て先輩は満足したようで奥の方へ行ってしまった。
コップを二つ持っていたし、きっと連れがいるのだろう。
少し頭を伸ばしそちらへと目をやる。遠い、後ろ姿ではあるが男子の制服が見える。
なんだ、あんなこと言っておいて先輩も彼氏がいるじゃないか。
デートでファミレスというのも、あんな綺麗な先輩がやっているのだ、ありなのだろう。
それに比べて私たちは女子でおしくら饅頭である、虚しい。
有馬と来たい、できれば恋人として──そのためには、やはり体育祭で活躍してカッコいい所を見せなければ。
背中でもがく敵に注意しつつも、私は決意を固めた。
アリマ様の夕飯はステーキだったようです。