アリマ様が見てる   作:魔女太郎

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アリマ様が人生を見てる

 喜久川 有馬は転生者である。

 

 社会の荒波に慣れてきたと思ったらあっさりと事故で亡くなってしまった。

 まあそれは仕方がない、俺は前世から過ぎたことは考えないタイプだ。いや、ちょっとはする。今からやる。

 それで新しい人生が始まった時も「まあこんなこともあるだろう」といった具合で、幼い時期は如何に親に苦労をかけまいか苦心することに集中していたためこの世界の不思議に気づかなかった。

 

 きっかけはベタなことにニュースだ。

 両親が『有馬は手のかからない聡明な子だ』と認識するようになると早い頃から放任した育て方になった。これはあくまでこの世界での一般と比較すると、だが。

 それまでは蝶よ花よどころではなく絶滅危惧種でも相手にしてんのかというくらい守られた──俺的には縛られた生活だったのにも余裕が生まれた。

 親が見ていない隙にテレビ番組をザッピングするのもようやくできる。

 精神年齢としては成熟……というには身が詰まっていないが、いい大人だ。

 幼児番組や教育番組はそれはそれで面白いとは思うが、選択肢がそれだけというのには辟易していた。

 俺が見るには刺激的だからという理由でドラマや映画を見られなかったことは多々ある。

 飢えていた俺は久々に見れたニュース番組に感激し……そして困惑した。

 

『増加する電車内の痴女、襲われないためにはどうするべきか』

『男性の出産率が年々減少傾向にあることについて、今回開催されたサミットでは』

『天才歌舞伎役者が挑む男方とは』

 

 画面に映る男女比の歪さ、コメンテーターやキャスターの性別、お天気お兄さん……夕方のわずかなニュースだけで確信した。

 

「貞操逆転世界だ……」

 

 俺は前世でオタク・カルチャーにもちょっと詳しい男だった。

 ともかくそれ自体はすんなりと飲み込んだ。これは俺がまだ世間と交流をするような年齢ではなかったというのもある。

 両親の過保護さにも納得した。聡明な一人娘が前世でどういった扱いだったかを考えればこうもなるだろう。ましてや出生率に差があり男性が貴重なこの世界で。

 

「これからは気をつけてこの世界の常識を学んでいかないとな」

 

 幼稚園入園前の出来事である。

 

 さて、覚悟を決めて通った幼稚園はさほど問題なく過ぎた。

 いくら逆転世界とはいえまだ子供、性差がうんぬんというのは大人としての視点を持つ俺からすると認識できない程度のものだ。子供達、当事者ならともかくな。

 

 強いて事件や出来事をあげるとすれば男女問わずモテたことだろうか……比喩でもなんでもなくお遊戯レベルの事柄だったから幼稚園では何でもできるし、誰とでも遊ぶ人気者の立ち位置だった。

 鼻かんだりの世話もしたしな、先生達の負担を少しでも減らそうとしたのだ。

 

 まあ小学生くらいから貞操逆転による違いっていうのは顕著になるものだと卒園したら問題が発生した。

 

「まさか男子小学校なんてものがあるとは……」

 

 少々、幼稚園時代が完璧過ぎたというか、張り切った両親は俺をお嬢様……いや『お坊ちゃま』として育てる気らしかった。

 なんにせよ決まってしまったものは仕方ない。

 そもそもいくら転生したり貞操が逆転しているとはいえ小学生に恋する気なんてなかったしな。

 両親に手間かけさせないくらいに過ごすか。

 

「いやーやっぱ同性と遊ぶって楽しいなー!」

 

 これが小学校卒業時点の俺だ。いや、だってさあ……いくら貞操逆転して常識が変わっているとはいえ同性しかいない空間だと気を使う部分が少なくて済む。

 ましてやお坊ちゃまが通うような、教育や生活を送ってきた子供達な訳で。

 ズルしている大人としては一般的な小学生よりそういった少々大人びている子供の方が相手しやすかったのだ。

 

 交流を深めていると一段と落ち着いている──というより枯れている俺にみんなは年頃の悩みや相談を持ちかけるようになった。

 年の功でそういった質問を捌きつつこの世界の常識を学んだりもした俺の周りにはいつの間にか付き従う人間が出来る。

『お兄様』の始まりである。

 俺の人生としては大きな転機ではあるが、それよりもこの相談で問題だったのは。

 

「告白をされた?」

「はい──ですがその想いに応えていいものか不安で」

 

 恋の相談自体はよくあるものだ。大概が相談というよりも「好きになるってどういう気持ちなんでしょう」「素敵な恋ってどういうものなのかしら」「一目惚れって本当にあるんですか」という話がほとんどだが、その時は珍しく具体的なものだった。

 小学生の恋愛事情とはなんて微笑ましい、というのと同時にふと疑問に思う。『告白』というからには当然親が決めた婚約者などではない相手ということになる。

 相談相手もお坊っちゃま、というような上流階級出身なわけで俺以上の絶滅危惧種的扱いを受けた生活のはずだ。

 出会いの場の多くはこの学校になる、だから思い付いてしまった最悪のパターンを口にする。

 

「……もしかして、その方は教師の誰かですか?」

「! なぜお分かりに?」

 

 アウトだろ! 

 ……そう、この世界で男の子は狙われている。時たまニュースになる程度には。

 そしてそこで俺は転生した身として男や女とか以前にそういう大人達から子供を守らなくてはいけないと、気づいたのだ。

 善は急げと事実確認と少し派手な行動をした結果、件の教師は余罪も出てきて逮捕。学校は不祥事にあっちもこっちも大騒ぎになったが子供は毒牙にかからずに済んだ。

 そんな事件もあったせいか両親の過保護は加速、結果中学校は。

 

「もう一段階上のクラスの男子中学校……」

 

 よりハイソな所に移されることに。ちなみに今世の両親は平均値より上の稼ぎではあるのだろうけれど、流石に血筋がどうとかいうレベルの所に通える程ではない。

 これは小学校でも優秀な成績といくつかの表彰、そして事件を解決したという実績があるからなのだろうか。

 と思ったら、お兄様と慕ってくれた者の中にそういう血筋の人がいたみたいで……つまりコネである。

 さてこうなってくると大変なのが勉学である。幼稚園や小学校はともかくここからはズルができない。というか実は小学校の社会とかは既にヤバかった、だって歴史が丸っと違うし。

 ただ他の教科に使う時間を全部注ぎ込んだから見かけ上パーフェクトだっただけで、その他の教科すら危うい二度目の中学生を助けたのは。

 

「いやー持つべきものは友だよね」

 

 人海戦術である。小学校から同じように進学してきた面子がいたのもあり俺のお兄様キャラクターは継続。中学でもバシバシ悩み相談や痴女撃退などを行い、見返りとして勉強会を開いてもらったのだ。

 しかし完全に俺個人の欲望だったのだが、それも周りに「僕たちのためを思って……」などと勘違いされたりすると流石にこのお兄様という肩書きが怖くなってくる。

 ともかくどうにか平穏無事に中学生活を終えた俺は両親に対して「流石に勉強もついていけないですし、普通の学校生活も送ってみたいです」と懇願し、どうにか高校生から『貞操逆転世界』の普通な青春を送れると。そんな勘違いをしていたのだ、

 

「あれ、もしかして俺めっちゃ有名じゃん」

 

 誤算だったのはあの中学校というのはそりゃ有名な所で、そこで一際有名だったのが俺ということにつきる。

 

 さて、長らく俺の内面ばかりで外面を話していなかったが。

 今の俺は驚くほど美形……らしい。

 らしい、と言うのはこの世界は俺からすると右をみても左をみても誰であろうと顔が整っており、転生前の美醜感覚しかない俺は差が分からないのだ。

 だから俺自身の顔も前世より整っていることは分かるが、それが驚くほどというレベルなのかは分からない。

 もう一つこの顔について、どうやら女ウケも男ウケもする中性的な顔というやつらしい。

 

 何が言いたいかというと、俺はモテる。男女構わず、というか小中と色々やったせいで男に特にモテる。そして数の少ない男達のネットワークは幅広く強固なのだ。

 だから心機一転と思った高校生活の俺を待っていたのは同級生の男子による『お兄様』のコールだ。

 そこに至って俺はようやく気づく。

 

「つまり俺は『王子様系女子』に相当する『お姫様系男子』になっちまったってことか」

 

 がくり、と肩を落とした。

 その後、高校一年間は共学ということで発生した同年代女子からの被害や問題、事件の相談や解決に忙しく俺自身は女子とまともに会話できない上に数少ない男子を一人占めする『姫王子』として目の敵にされることになり……今に至る。

 

「……ふう」

「どうしましたお兄様!? 何か悩み事でしょうか」

 

 通学中。

 付き従ってくれる後輩男子──一本槍 香(いっぽんやり きょう)──は髪色と同じブラウンの瞳を不安に滲ませ心配してくれる。

 

「まさか女子に何かされましたか!?」

 

 香はいい子なのだが少し女性への偏見というか攻撃的な部分がある。まあこの世界だと彼みたいな反応は過剰というほどではないのだけれど。

 

「そうじゃないよ、少し昔の失敗を思い出しちゃっただけ」

「……お兄様も失敗するんですね」

「そりゃそうだよ、というか失敗だらけだよ俺なんて。ところで、思い込みを言葉にするのはよくないよ香?」

「う……でも昨日も女性のせいで、お兄様も彼も……嫌な思いをしました」

「悪い人がたまたま女性だっただけさ」

「……ごめんなさい」

「うん、自分の過ちを認められるのは素晴らしいことだよ」

 

 転生している身としては若者のことは少々心配になってしまうのだ、言葉一つ間違えば襲われるかもしれないわけで。

 説教臭くなり過ぎていけないなとは思っているのだけれど。

 

「そうだ、素晴らしいことにはご褒美だね」

 

 先日学校をサボって遊んだ中買った瓶詰めのキャンディーである。

 歩くんも大層喜んでいたので気に入るはず。

 

「綺麗ですね……」

 

 そう透明の瓶の中の色とりどりなキャンディーに光が反射するのが綺麗なのだ。

 一つ取り出して。

 

「好きなのどうぞ」

 

 瓶を香の方へ差し出す。しかし、香の視線はもう一方、俺が先ほど取り出したキャンディーに向かっている。

 どうやら狙っていたのがこれだったらしい。

 

「どうぞ」

「! では……」

 

 これがいいならと差し出したら香はそのまま「あーん」と口を返してくる。

 ……手のひらにのせるつもりだったんだけど、まあいいか。

 

「あーん」

「──美味しいです!」

 

 眩しい笑顔を受け止めながら思う。

 もしかしてこういうことやってるから周りから男子が離れないかもしれない。

 心の中に浮かんだ疑問に、またため息をつきそうになった。




まだヒロインが出ない……?
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