アリマ様が見てる   作:魔女太郎

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アリマ様が学食を見てる

 俺の通う私立雨晴(あまはら)高校には学食がある。

 これがメニューの種類が豊富な上にクオリティも高く、生徒からの評価が非常に高い。

 

 しかし俺が利用したことがあるのは数回だけで、ほとんど通っていなかった。

 理由は『お兄様』と慕ってくる男子達にある。

 

 俺が男子達の相談役や問題解決を行っているのは散々と連ねてきたが、彼らからは言葉だけでなく物質的なお礼を伴うことが多い。

 気にする必要はないと言っているのだが、それでは気が済まないと押しきられありがたく受け取っている。

 転生前で考えればジュース一本奢りで終わりそうなものだ。が、そこは貞操逆転世界、こちらの男子は少々結束が強い分、それが同性へのお礼の重さにも表れる。

 

 俺が受け取っているお礼の筆頭は手作りの弁当。

 

 それが一度ならばまだ構わない、しかし彼らは高確率で毎日作ってくる。

 それが一人ならばまだ構わない、しかし俺は何人もの男子に協力している。

 それが一面に広がる光景、ピクニックというよりまるでパーティーとも言えるような屋上で、俺は男子高校生の肉体──内臓系の限界を感じた。

 食いきれない以外にも問題があり、俺は時たま学校をサボる。結構な不良生徒だ。そうなると俺が登校しない日は男子達で分けて食べてたらしいのだが当然というべきか全員ノックアウト。

 

 やがて俺のいない間に男子達で協定ができたらしく、俺は所謂蓋弁当──弁当を忘れたやつが皆からおかずを貰い最終的に一番豪華になるあれ──で昼を過ごすことが多くなった。男子達はおかずを一つだけ多く作ってくることで、俺に分けても分けなくても問題ないものにしたのだ。

 

 稼いだウェイトを絞るのに苦労した一年目、そういう訳で俺は学食をあまり利用しなかった。

 

 さて、俺は今日久々に学食を利用する。弁当会のメンバーには──なぜかリーダーは一年の香なので彼にメッセージを送る──伝えたので各々好きなように過ごすだろう。

 さてどれを選ぼうか──弁当会は性質上麺類を食べることは少ない、スパゲッティくらいだ。となるとラーメンかうどん、やはり学食と言えばうどんではないだろうか、素うどんというのは些か寂しいので月見かわかめ、悩む。

 

「なんでも好きなもの頼んでよ二人共! 奢るからさ」

「いえ、大丈夫です」

「結構です」

 

 後ろで桜花さんのアタックをブロックしている二人の会話を聞きながら俺は月見のボタンを押した。

 

 なぜこうなったのか。

 男子に慣れたい、仲良くしたいという桜花さんの相談を引き受けて昼休み。それならば一緒に昼でも食べようじゃないかと誘ったのだ。

 

「ぐ、そんなことで私は屈しない! 屈しないけど……まあ食べてやってもいい」

 

 と、快い返事を貰ったので学食派だった桜花さんに付いていこうとする。しかしそれに待ったをかけたのが金汰と白銀だった。

 

「お兄様、女子と二人っきりの食事は少し……」

「そうです危険です」

「じゃあ二人も来ればいいさ、なあ?」

「え、いいの!?」

 

 そもそも桜花さんの狙いは二人と仲良くなることだったわけで、周囲の女子から「クソハーレム女」「裏切り者」「姫王子に屈するな」という温かい罵倒を受けながらもこの機会を逃すわけにはいかないと絶賛アピール中である。効果は無いようだが。

 いきなり奢りというのは性急すぎたな。

 

「そもそもお兄様を除け者にする気ですか?」

「いやだって、喜久川はライバルだし……」

「あなたがお兄様のライバルになれると?」

「うう……冷たくされてるけど今までで一番多く男子と話せてる」

 

 まあ喜んでくれているならばいいか。

 トレーに月見うどんを乗せて席を探す。食堂は広く席に余裕はあるが、男子を三人連れた女子という異常事態に周囲の視線がすごい。なるべく静かな場所を選びたいが。

 

「ここ! ここ席とっておいたから!」

 

 後からトレーを受け取ったはずの桜花さんがいつの間にか周囲に人の少ない四人分のテーブルを確保していた。早業だ、恋する乙女のパワーというやつは創作の世界だけではないらしいな。

 

「ありがとう、桜花さん」

 

 と俺は桜花さんの隣の席に座る。

 

「お兄様!」

「なんてこと……」

 

 固まっている桜花さんと俺を見て驚愕している二人。だけではない。

 

「あの姫王子が男以外と隣同士に!?」

「信じられない……」

「あの女刺されるんじゃないか」

 

 食堂全体がざわついてしまった。いやだって、この世界の男子である二人がいきなり女子とこの近さでストレス感じないわけないし、俺が桜花さんの対面に座ったら二人とも別のテーブルや椅子持ってきて俺の隣同士になるって付き合いで分かっているのだ。

 俺は桜花さんにも二人にも嫌な気持ちをして欲しくないし、むしろの女子の隣は望むところなので役得である。にしてもここまで驚かれるとは思わなかったが。

 

「さあ、はやく二人とも座りなよ。ご飯が冷めちゃうでしょ」

「……そうですね」

「……」

 

 金汰は納得したようだが白銀はまだ桜花さんを睨みながら立っている。

 フリーズしていた桜花さんも睨まれて滝のような脂汗を垂らしてやや食欲が削がれる光景だ。

 

「お兄様に汁一滴、欠片一つでも飛ばしてみろ──その時は」

「はい! ももも勿論です」

 

 カレーうどんのトレーを前に桜花さんは必死だ。よりにもよってなチョイス。

 

「白銀も怖いこと言わない、楽しい食事なんだから」

「申し訳ありません」

 

 その後は会話も無く、俺が話を振ったら金汰と白銀は応じるものの桜花さんはうなずくだけの機構になってしまった。想像してた雰囲気とは違い、やや粛々とした食事になってしまったが、まあ今までを考えればこんなものだろう。

 カレーうどんを啜らずに何度も箸を往復して運ぶといった桜花さんの食べ方はそれだけで話の種になるだろうといった珍妙な動きだった。本人の努力もあり白銀の『その時』は実行されず、平和に食事は終了した。

 

「ぜんぜん味がしなかった……」

「カレーでそれは相当だね」

 

 疲れた様子の桜花さんは口周りについたカレーにも気づかないようである。

 

「桜花さん、口についてる」

「え? ああ……」

 

 と、指摘すると何と桜花さんは袖で拭おうとするのだ。そんなことしたらお母さんに怒られるぞ! 貞操逆転世界故の女子のズボラさなのか桜花さん個人のものなのかは分からないが対面の二人も引き気味だ。

 仕方なくその拭おうとした手を掴んで止める。

 

「ちょっと喜久川なにを」

「じっとしてて」

 

 俺は付いてきた紙ナプキンの残りをとってやや力をいれて桜花さんの口周りを拭う。突然のことに顔を反らそうとする桜花さんの頬を追いかけゴシゴシと、幼い姪を相手にしている気分だ。

 

「ほら綺麗になった」

「……」

 

 子供扱いされたのが恥ずかしかったのか顔を赤らめてこちらを見る桜花さんに「次は自分でできるよね」と念を押す。

 

「お兄様ってその……大胆というか男女問わず、なんですね」

 

 困ったような少し興奮しているような様子で金汰に問われる、小さい頃から周りの鼻水を拭ったり涎拭ったり涙拭ったりでついやってしまうのだ。

 言われると異性にする行為としては褒められるものではない。

 

「ごめん、桜花さん。嫌だったよね」

「いや、そのぜんぜん大丈夫というかありがとうというか……こんな、私は、私はー!」

 

 と、桜花さんは勢いよく飛び出していってしまった。

 口振りからすると、どうやら許しては貰えたみたいだが。

 

「……どうすればいいかな?」

「何もしないでいいんです!」

 

 俺は白銀に怒られながら桜花さんの分のトレーを片付け始めた。




有馬は月見うどんの月を後に崩す派です
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