再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
この前旅行で夜の渋谷行った事あるけど魔境だった記憶しかない。
「わ~部屋広い~!」
「立派なスタジオっすね~」
何故かシデロスのみんなに着いていく事になり、軽くコンビニへ寄った後やってきたのは渋谷のとあるスタジオ。
それも結構大きい部屋のだ。スターリーにあるスタジオより余裕ででかい。何ならソファとかも置いてある。
「ゆうくん……私達は何でこんなとこにいるんだろうね……」
「自業自得じゃねえかな」
俺は帰る気だったのに最初に承諾したの後藤さんだからね。ノーと言えない日本人代表格じゃん。
そして大部屋に釣られたヨヨさんは目をキラキラさせながらアンプの前で屈んでいた。使いたかったのねそのアンプ。
「で、でもゆうくんがいてくれるからまだ平気かも……」
「さいですか。つうか成り行きで一緒に来たはいいけど、俺達何しときゃいいんだ?」
「うっ……!? た、確かに……いたたまれなさすぎる……。ここはスマホのホーム画面を意味もなくスライドさせて連絡とってますよ今忙しいんですよ感を出すしかないよゆうくん……っ」
「いや普通に俺と喋っとくだけでいいじゃん」
「い、言われてみればそうだった……」
人って追い込まれるほど冷静な判断できないもんな。いや後藤さんは追い込まれなくても普段から冷静な判断できてないか。
荷物を置いて適当にシデロスの練習風景を眺めながら後藤さんと喋っとこうと思っていたら、
「ちょっと、時間もったいないから早く準備してよね」
「あっはい!」
だから何も分かってないのにはいとか言っちゃダメだって。
「あっじゃあギターから音出しワンツー……」
「なんで貴方が仕切ってるのよ!? そういうのはそこのマネージャー(仮)の役目だから貴方はギター持ってこっち来ればいいの!」
「ま、マネっ……?」
「ああ、そゆことね。後藤さん、あとでセッションするからそれにまざっていいってさ」
「えっえっ?」
まあ連れて来てもらったのは事実だし前のサポート期間の時みたいにまたマネージャー役くらいは請け負いますか。
とりあえず頭上にぼのぼのみたいな汗を吹き散らかしているぼちぼちにギターを持ってこさせた。うーん、ごとごとの方が語感良いか? どっちでもいいや。
「あっうっ……ど、どうすれば……」
「適当に音出しときゃいいよ。結束バンドの時と同じ感覚でいればいい」
「で、でも大槻さん以外よく知らないからやりづらい……ギター持ってきてるんだしせめてゆうくんも一緒に練習しようよぉ……」
「今の俺はマネージャー任命されてるから無理。それにアンタ達のレベルに着いていける自信がねえっつの」
「あうぅ……」
今人気の若手バンドと本気出せたらプロレベルのギタリストがいる中にペーペーの俺がまざったらそれこそ異物になっちまう。
スタジオを借りた目的は彼女達の練習がメインなのだから邪魔になる事だけは絶対にNGだ。
ですのでさっさと俺から離れてシデロスのとこへ行ってほしいんだけどこのピンク、一向に隣から離れる素振りが見えない。
完全に親の足元からくっついて離れようとしない人見知りの子供状態だ。
そんな後藤さんを見て思うとこがあったのか、黒マスクの長谷川さんが近寄ってきた。
「あのぉ、もしかしてぼっちさん来るの嫌でした? だとしたら無理矢理呼んで申し訳ないっす……」
「えっあっ」
「んな事ねえよ。ただ極度の……いや究極か? じゃないな……人智を超えた……うん、神レベルの人見知りってだけだから気にしないでくれ」
「逆に気になるんすけど」
だよね。
「ほれ後藤さん、そろそろ良心が痛くなってきた頃合いだろ。ちゃんと自分の口から言ってあげないと分からないぞ」
「う、うん……」
後藤さんの事だ。どうせ相手の気持ちを無下にする事はできないから自分の素直な気持ちを不器用ながらに伝えて少しは距離を縮められるだろ。
一応はシデロスのみんなともクリスマス会の時に面識くらいはあったし初対面でもないからな。
そして言葉を選ぶために悩みに悩んだ末、後藤さんは一歩前に出て長谷川さんの顎をくいっと上げた。
いわゆる顎クイだ。
「あっかわいっ……うぇへ、肌……白……ぐふっ、ロインID教えて……てかどこ住み……? にちゃぁ」
「距離の詰め方えぐいっすね……」
「おいこらクソ馬鹿野郎ちょっとこっち来い」
俺の期待返せこの野郎。何ネットの出会い厨みたいなこと言ってんだいきなり。
長谷川さん普通に引いてんじゃねえか。俺でもちょっと引いたよ今の。何をどう考えたらあの流れで出会い厨の言葉が出てくるの。
「喜多ちゃんの真似しただけなのに……」
いないところでとんでもねえ風評被害受けてるんだけど喜多さん。どんなイメージ持ってんの。
喜多さんが友達多いのは別に出会い厨だからじゃないからね。生まれ持ったコミュ強陽キャの力だよアレは。陰の俺達が真似していい領域じゃないのよ。身の程を知れ。
「やばい人連れてきちゃったかもっす」
「そんな事言ったら失礼だよ! ゆうと君の大事な幼馴染さんなんだからっ」
「ふーちゃん今は後ろに。もう少し様子見するっす」
めちゃくちゃ警戒されだすやん。いやもうほんとうちの子がすいません。
悪気はないんです。悪気ないから余計タチ悪いとか言われたらもうその通りなんですけどね!
「幽々貧血なんでセッションまで休んでます~」
「ど、どうしようゆうくん、話しかけられる相手いなくなっちゃった……」
「自業自得じゃねえかな」
ほぼ100%ね。
今回に関しては俺でもフォローできねえや。被害を受けた長谷川さんと風評被害を受けた喜多さんが気の毒すぎるでしょ。
「あー……とにかく今はギター持ってヨヨさんのとこに行ってこい。ある意味一番の安全圏かもしれないから」
「う、うん……?」
まだヨヨさんの方が会話した事あるし多少はマシのはず。
さて、他のみんなは……内田さんは鉄分サプリをバリボリ食ってるけど既に準備は終えてある。長谷川さんと本城さんも後藤さんがヨヨさんのとこに行ったから警戒心を解いて準備を始めたか。
「何ニヤけてるの! まさか冷やかし!?」
「へへっへへっ……」
うん、コミュ症達のコミュニケーションも上手くいってるようだ。
あの噛み合わなさが逆に噛み合ってんだよねあの二人。……噛み合ってんのか?
程なくして準備を終えた長谷川さんが駆け寄ってきた。
「準備おっけーっす。じゃあいつものやつやりますか」
「ん、そうね」
「ぼっちさんも適当に合わせてくれたらいいんで。それじゃゆーさん、仕切りお願いするっす」
「分かった」
これもサポート期間の時にさせられていた事だ。
今更動じる事もなく俺はみんなに声をかけた。
「じゃあハチロクのカウント6でいきましょう。後藤さんも入りたいとこで入っていいからな」
「あっうん」
そして、それを合図にシデロスの練習が始まった。
マネージャー役をやっていた時も思っていたけど、やっぱりシデロスの音は圧巻だ。
本番ではなく練習だというのにこちらを吞み込んでくるような音の世界観が目の前に広がってくる。
一人一人の完成度もさることながら、それが合わさる事によって一つの完璧な世界が完成してるんだ。
というか……前回の時よりますます上手くなってないか? リーダーのヨヨさんが指導厳しめだからか、その分長谷川さん達の上達速度も上がってるって事か。やっぱすげえなこの人達……練習に妥協の一切を感じねえや。
……いや、凄いのはもう一人いるか。
二つのバンドを近くで見てきた俺だから分かる。正直シデロスの練習は結束バンドよりもキツい。一時間ぶっ通しで練習したとして、その間にかく汗の量も圧倒的にシデロスの方が多い印象だった。それだけ演奏のクオリティーを落とさずにやり遂げるのはとてもハードだという事もよく知っている。
しかし、あのレベルの高い演奏に後藤さんは食らいついていた。
いつもと違ってメンバーも違うし慣れない環境なのに、だ。
せっかくの練習時間、後藤さんがいるからといって練習のレベルを少しだけ落とすなんて心遣いも一切ないのがヨヨさんらしいが、後藤さんは後藤さんでむしろいつもより遠慮のなさが表れているように思う。
結束バンドとは違う意味でシデロスのレベルに彼女の実力が引っ張られているような、そんな感覚。何だか新鮮だ。
少し癪だがぽいずんさんの言っていた事の意味が今分かった気がする。
もっと上手い人達の下で後藤さんが慣れさえすればその実力は遺憾なく発揮できるようになると、以前ぽいずんさんはそれに似た事を言っていた。
今この光景がまさにあれを体現してるようにも見えた。
ぶっ続けで練習を始めてから一時間。
スマホのタイマーが震えた瞬間に声をかけて休憩に入る。
で。
「ぜぇ、はぁ……」
慣れない環境とメンバーで練習をしていたせいか体というより精神的な疲れが出てきていた後藤さんは見事にグロッキーになっていたのでした。
さっきのやっぱ撤回。後藤さんには結束バンド以外に継続できるとこなんてないね。メンバーが奇跡的に良い人ばかりだもの。山田は……まあ、作詞作曲組で結構気の合うとこあるらしいから及第点。
「ほれ後藤さん、水」
「あ、ありがと……」
「ヨヨさん達も、水分補給どうぞ」
「ん、気が利くじゃない。貰うわ」
「そりゃあの時も後半はほとんどパシリみたいなもんだっ……何でもないですごめんなさい」
水飲みながら睨まないでほしい。
みんなでほっとひと息つきながら、息を整えてそれぞれ休憩時間を潰す事になった。
ソファで本城さんとキャッキャしながら雑談している長谷川さん達を尻目に、ヨヨさんと後藤さんと俺の分の丸椅子を用意してそこに座る。
ちなみに内田さんはまた鉄分サプリをボリボリし始めた。どんだけ鉄分足りてないんだよ。
「あっい、いきなりなんですけど……お、大槻さんはなんでフェスに出たいんですか……?」
適当に話でも振ろうかと思っていたら、まさかの後藤さんからヨヨさんに話しかける事件が発生した。
明日は台風でも来るのかな?
「そんなの一番になりたいからだけど?」
「ヨヨコ先輩って何故か一番とか数字に異常にこだわるんすよね~」
急に話入ってくるじゃんハッセ。
まあ俺もその答えは予想できてたけど。確かシデロスに長谷川さん達が入ってくる前ヨヨさんから相談された時だっけか。そん時に一番にこだわる理由を聞いたはず。一番になればみんなが認めてくれて見てくれるとか、そんな感じの事を言ってた。
「かっ仮に優勝できなかったらどうしますか……?」
「絶対一番になるけど」
「いや、かっ仮に、です……」
「……」
後藤さんの意図は何となくだが分かった。
結束バンドは今行われているネット審査での順位が芳しくない。このままだと二次審査で落選となりみんなで目指したフェスへの道は潰える。ぽいずんさんを見返すという目的も達成できない。
そう、結束バンドは今間違いなく大きい壁の前に立たされている。
現状のままではどうにもできない分厚い壁。乗り越えるにはあまりにも高い壁。
もし、そんな大きな壁が立ちはだかってきた場合、自分じゃなく違う人ならどうするか、それを聞いてみたいのかもしれない。
同じギタリストとして。同じバンドを組んでいる者として。
対して、ヨヨさんはよく考える素振りすら見せなかった。
「……まあ、万が一優勝できなかったとしたら死ぬほど悔しいけど、たかが一度の挫折で一喜一憂なんてしない。一分一秒の努力の差で何もかもが変わる事だってある。くよくよしてる場合があるなら少しでも前に進むための努力をするだけよ。未確認ライオット? 10代限定のロックフェス? そんなの知ったこっちゃないわ。悪いけど私達にとっては未確認ライオットなんて今よりもバンドを大きくするための通過点にすぎないの。こんな小さな舞台で満足できるようなシデロスじゃないわよ私達は」
やっぱりすげえ人だなと、素直にそう思った。
言葉のどれもこれもが傲慢で、愚直で、いっそ大言壮語にも聞こえるような台詞の羅列だけど。
この人が言うと本当に純粋に真っ直ぐな気持ちでバンドをしているというのがよく分かる。
そして、その言葉にも嘘や偽りなど一切感じない。本気で上を狙っているのが伝わってくる。
結束バンドが一つの目標としている未確認ライオット出場ですら、ヨヨさんはただの通過点としか思っていない。
視ているものがそもそも違っていたのだ。まずは出場を目指すと捉えるか、優勝して当然と捉えるか。一つのゴール地点と見るか、ただの通過点と見るか。
これだけでも意識の差はハッキリと見えてくる。
目の前の事だけではなく、もっと先を見据えて視野を増やす事も大事なのだと言われたような気さえしてきた。
もしネット審査に落ちたとしても、そこで結束バンドの道は終わらない。途絶えない。
そんなのは全員確認せずとも分かりきっている事だ。だから不安になるくらいなら今できる事を全力でする。少しでも可能性を大きくするために。
「そう、何があっても立ち止まらない! 最後の最後に全員下して私達が一番だったらそれでいいのよ!」
「悪役かよ」
普通にツッコんじゃったわちくしょう。
良い話だったのになー!
「とか言って対バン相手の方が盛り上がってたら裏で毎回泣いてるくせに~」
「な、泣いてないわよ! 清水の前で余計なこと言わないで!」
そんなとこで泣いちゃうヨヨさんお可愛いこと。
まあ後藤さんの表情を見る限り得たものもあったようだし、結果的に迷子になって良かったかな。うん、迷子は良くないな。
「……あっ、え、えっと……あ、ありがとうございましたっ。あの、それで……わ、私達はこれでもう……あぅ……ゆ、ゆうくぅんっ」
「はいはい。ヨヨさん、これ以上練習の邪魔はしたくないので俺達はもう帰りますね。今日は色々とありがとうございました」
「え? あ、ちょっと! 私も少し聞きたいことがっ……」
「あれ、ゆーさん達もう帰っちゃうんすか? じゃあまた会いましょうね。ぼっちさんもセッション楽しかったっす」
帰るとなった途端わざわざみんな近寄ってきてくれる辺り、練習は厳しくてもシデロスのみんなは優しい人達なんだなと再認識する。
後藤さんがまだ若干慣れてないのが玉に瑕だけど。
「またね~! 今度はお茶菓子とか作って持ってくるよ~!」
それ俺らとまた偶然会わなきゃ成り立たないと思うんですが。
「今日は二つも凄いモノが見られて良かったですぅ。ぜひお二人を連れて事故物件に行ってみたいですね~」
「丁重にお断りさせていただくよ」
二つって何。人を数える時の言葉じゃないよねそれ。
「だから私も聞きたい事があるって言っ」
「あっうっ……で、ではっ……!」
「おわっとと、んじゃまたどっかで~」
後藤さんに引っ張られる形でシデロスのみんなに別れを告げる。
そういやヨヨさんの聞きたいことって何だったんだろ。まあいいか、本当に聞きたかったらどっかで連絡してくるかもしれないし。
人の多い夜の渋谷を二人で歩く。
今度は迷わないようにナビを見ながら。
一応はぐれないよう適当に俺の服を掴んだまま、後藤さんがぽつりと呟いた。
「ゆ、ゆうくん」
「ん?」
人混みに怖がっている様子ではない事はすぐに分かった。
声音から真剣さと少しの決意が垣間見える。
「私達も……もっと前に進まなきゃダメ、だよね」
「……そうだな」
「大槻さんの言葉を聞いて……まだまだ結束力も完成度も敵わないって思った……。結束バンドは今ネット審査で危ない状況だけど、そこだけに囚われてたらきっと次の一歩を踏み出すのに時間がかかっちゃうかもしれない……」
それは、中間結果が出た時に感じた事だ。
みんな落ち込んで練習にも少し支障が出ていた。実際俺もやれる事を全部したつもりであの順位だったから結構なダメージを負った訳だ。
ここがヨヨさん達との違い。
あの人達はどれだけ悔しくてもそこで踏みとどまらない。明日の自分が今の自分を超えるための努力を惜しまず、限りある時間をシデロスを大きくするために前へ進む強さを持っている。
今の自分にできる事を精一杯やっているのだ。
であれば。
「……俺達も順位が芳しくないからってくよくよしてらんねえよな」
「っ……う、うんっ。い、今の私達にできる事を全力でやりたい……!」
本当に、後藤さんが結束バンドのためにここまではっきり言えるようになった事が一番の成長だと思う。
自分の気持ちを出す事において苦手意識を持っていた彼女が、誰かのために頑張りたいと行動に出せるなんて中三の頃を思い出せば絶対あり得なかったのに。
何だか嬉しいような寂しいようなという感じだ。
これが子供の成長を感じる親の立場か……。
「い、一緒に頑張ろうね……!」
「……」
……ま、ヨヨさんや後藤さんの言葉に感化される俺もまだまだ子供なんだろうけど。
これも悪くない。
「ははっ、じゃあ家に帰ったら一緒に対策でも考えるかっ。今日はそっちに泊まりだな」
「う、うん……お母さんに軽い夜食でも作ってもらうねっ」
もう一週間しかないと考えるか、まだ一週間もあると捉えるか。
きっと、それだけで未来は少し変えられるのかもしれない。
「あっど、どうせなら虹夏ちゃん達にも集まってもらって一緒に考えるのもありなんじゃ……!?」
「集まる頃には深夜だっつのおバカ」
「あっ……」
ヨヨさんは真面目モードだったらかっこいいんだよ。
普段がツンデレなだけで。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:シーパラ聖地巡礼済みBさん、からわたさん、桜白狐さん、スルメ以下さん
☆9:ユナリギさん、ギンセツさん、鳩兎さん、よこやたさん、もきゅさん、イキョウさん、完全無欠のボトル野郎さん
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