再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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今回は短め。
去年はこのくらいの文字数が平均だったんだけど、どんどん長くなってって感覚麻痺してるとこある。




104.ステージの上にいきなり立たされるのは誰だって怖い

 

 

 翌日。

 うちの教室では朝っぱらからさっそくきらきらきららしている喜多さんが教卓の前に立ち報告をしていた。

 

 

「という訳で改めてになるけど、みんなの協力のもと結束バンドは無事ネット審査を通過したわ~!」」

 

 結束バンドおめでと~と口々に言うクラスメイトからの賛辞をドヤ顔で受け止める喜多さんと、祝ってもらえてるのは嬉しいけどそれはそれとして注目を浴びるのはなんか怖い後藤さんが目を逸らしてポツンと横に立っている。

 あれが陽と陰の差か……。

 

 ちなみに喜多さんが改めてと言ったのは、昨日のうちにクラスのグループロインで報告したからだ。

 昨日のロインでも今の教室内の騒ぎもそうだが、相変わらず喜多さんの人望は計り知れない。気付いたら知らない人とも仲良くなってそうな勢いだ。

 

 

「清水は前に行かなくていいの?」

 

「なんで?」

 

 佐々木次子ことさっさんが俺の机に軽くもたれかかるような形で座って聞いてきた。

 

 

「いやだって清水も結束バンドの活動手伝ってるからさ。いいんかな~って」

 

「ああいうのは表舞台に立つ後藤さん達だけでいいんだよ。裏方がでしゃばってどうする」

 

「こういう時くらいはいいんじゃないの~。ネット投票の宣伝めっちゃ頑張ってくれてたって喜多が昨日ロインで言ってたよ。まあここ最近教室でも色んな生徒に声掛けて投票のお願いしてたのうちも見てたしね」

 

 そういや登校中に会った時、昨夜のロインでみんなからわざわざ個別でも来てたって言ってたな。

 後藤さんは誰からも来てないって落ち込んでたけど。

 

 

「それとこれとは別だっての。サポート役は大人しくこっち側で見守るに徹するのだよ」

 

 そう、僕は影だ……。

 

 

「ふ~ん」

 

「……なんだよ」

 

 あとついでに机からどいてくれませんかね。

 自分の机に現在進行形で女子が座ってるのってなんかこう、大変よろしくない感情を抱いてしまいそうなので。思春期の男子高校生を舐めないでいただきたい。オタクの想像力と妄想力は豊かなんですのよ。

 

 

「じゃあみんなの代わりにうちが清水を褒めてあげっか~」

 

「あん? 何言ってむぐぅっ」

 

「おつかれさん、褒美に飴ちゃんをやろう」

 

「いきなり飴を口に入れてくるやつがあるかっ……それにまだ審査は残ってるっつの。……まあ、さんきゅ」

 

 昨日の店長とPAさんといいさっさんといい、なんか調子狂うな……。

 

 

「ちょっとそこ何やってるのさっつー!? 今優人君にあーんしてたわよね!?」

 

「あうあうあ~……」

 

「あら、バレちった」

 

「バレたって何が?」

 

「うちの手から清水の口に飴を直接入れた事」

 

「いやいや、半ば強引だったしあんなのあーんイベントにすらカウントされ」

 

「喜多がでっかい声で言ったから男子達にもバレてるけどどうする~?」

 

「HRが始まるまで逃げるんだよォ!」

 

 

 それからというもの。

 男子達から逃げ延びたはいいが、結束バンドがネット審査を通過したのは学校中にすぐ知れ渡ったらしく、昼休みになるまでの授業中全ての担当先生から軽く触れられる程にまでなっていた。

 

 果てには噂が噂を呼び知らない間に結束バンドがロッキンジャポンに大トリで出るという事になってるらしい。

 三限目の先生が言ってた。普通に考えたら10代限定のバンドフェスなのにロッキンなんて出る訳がないと分かるはずなんだけどな。多分ちょっとアホだあの先生。

 

 そんなこんなで昼休み。

 いつも通り俺と後藤さんと喜多さんにさっさんの四人で弁当を食べ、片付けが終わったと同時に俺は瞬時に教室を飛び出した。

 

 理由は簡単。

 喜多さん達に気を遣って昼食中は手を出してこなかったバカ共が俺が食べ終わった瞬間に殺意をむき出しにしてきたからだ。律儀に食べ終わるまで手を出してこなかったのは最低限の理性をヤツらなりに保っていられたからだろう。

 

 しかし食べ終わってしまえば遠慮はいらない訳で、クラスの男子全員対俺で食後の運動という名の鬼ごっこが始まったのであった。

 ちなみに補足しておくと捕まったら死ぬ系のやつだ。今日もうちのクラスはどうでもいい事に全力を出せるくらい平和らしい。

 

 

「私達のクラスの男子って何でああも無駄に元気なのかしらね~」

 

「さあ? まあ原因はうちにあるし清水にはあとでジュースでも奢ってあげようかな~」

 

「火に油注いでどうするのよ……」

 

 

 ──

 

 

 何とかバカ共を全員鎮圧した俺が教室へ戻ったら喜多さんはニコニコで後藤さんは今にも死にそうな顔をしていた。

 この数十分で何があったんだよ。

 

 

「えっと、何で後藤さん口から泡吹きそうになってんの?」

 

「あ、おかえり優人君。実はさっき校長室に呼ばれてね、校長先生にも結束バンドの事を褒められたのよ。それで放課後に臨時の全校集会開くからってみんなの前で一曲演奏お願いされたの。そういえば他の男子はどうしたの?」

 

「そういや投票で学校全体巻き込んだから当然校長先生にも噂は伝わってるか。なるほどね、みんなの前で演奏しなきゃだから後藤さんこんな事になってんのね。男子共なら全員どっかで寝込んでんじゃね」

 

「最近優人君の強さが異常なくらい上がってるわね……」

 

 何かあると大体ここのバカ達と殺り合うからね。他の誰かが少しでもリア充イベント匂わすとすぐ獣になるヤツしかいないし。

 しかも八割くらい俺が狙われるから、嫌でも生き残るために逃げたり殴り合ったりしてると体が頑丈になって自然と力も身についてきたりするのだ。なんと不名誉な理由なんだろう。

 

 

「ゆ、ゆうくんどうしよう……今から体調不良で早退してもいいかな……」

 

「そうなると後藤さん一人だけ今日のスターリー早入りになって店長(大人)達と一緒になるけどいいのか?」

 

「どっちを選んでも私は死ぬんだぁ……」

 

 それ聞いたら泣くぞ店長。

 

 

「まあ文化祭でも一回やってるし、フェスまで通ったらどのみちもっとたくさんの人の前でライブやる事になるんだ。そう思えば全校生徒の前で演奏するくらいまだ楽な方だって」

 

「い、陰キャは人数の多さが問題なんじゃなくて人がいっぱいいるって認識しただけでもうダメなの……」

 

「後藤さんにとっちゃ一回一回が常に命取りなんだったなそういえば……」

 

 表情を見てるとマジでライブの度に命削ってそう感が凄い。

 寿命とか縮んでないだろうなこいつ。

 

 

「にしても集会で一曲やるったってドラムとベースはどうするんだよ? アンプもないだろ。軽音部から借りたりすんの?」

 

「……ハッ!? た、確かにアンプないし虹夏ちゃん達もいないから演奏できないな~、なんて……」

 

「そこは気合いよ! 私達のギターだけでもみんなを楽しませてあげましょひとりちゃん!」

 

「死ぬんだぁ……」

 

 どうやら生き残る事は諦めたらしい。

 南無。

 

 

 ──

 

 

 放課後になった。

 喜多さんから聞いた通り、臨時で全校集会があると担任に言われみんな揃って体育館へ。

 

 喜多さんと後藤さんの名前が呼ばれ二人は前に出ていく。

 後藤さん歩いてる時右手と右足同時に出てるけど大丈夫かよ。大丈夫な訳ないだろ(自問自答)。

 

 

「あれ、清水は呼ばれないんだ?」

 

 出席番号順の男女別で並んでおり、俺の斜め後ろにいたさっさんが不思議そうに聞いてくる。

 

 

「あくまで結束バンドはあの二人だからな。さっきも言ったろ、俺は裏方なんだよ。目立つポジションにいるべきじゃない」

 

「ふ~ん、そんなもんかぁ」

 

 あともし呼ばれたとしても行くつもりなかったけどね。

 何というか、さっきから俺の嫌な予感センサーが警鐘を鳴らし始めてるのだ。二人だけで演奏、後藤さんの緊張具合、ぶっつけ本番という三つの不安要素が莫大すぎて平和に終わる未来が見えないんよ。

 

 マイクを通して先生の声が体育館に響き渡る。

 

 

《え~結束バンドのお二人、ロッキンジャポン出演おめでとうございます》

 

「……………………………………はい?」

 

 あれれ、俺の聞き間違いかな? 

 なんか今ロッキンジャポンとかまったくの無関係なフェスの名前が聞こえたような……。ああ、未確認ライオットと言い間違えたのか。そうかそうか、そうだよな! 先生だって言い間違える時くらいあるよな~あっはっは! 

 

 

「……さっさん、あの先生今なんて言った?」

 

「ロッキンジャポンって言ったね……ぷくくっ」

 

 よし、この集会がロクな終わり方しないのがたった今確定したわ。尾ひれ付いた噂の方が出回ってるって何だよ。

 先生が何か言ってるが俺の耳には上手く入ってこない。俺の視線の先には口から泡を吹きながらピースしてる後藤蟹がいた。人間辞めて逃げようとしてんなあいつ。

 

 

《では全校生徒に向けて何か一言どうぞ!》

 

 先生から喜多さんにマイクが渡される。

 そうだ、まだここで喜多さんが訂正すれば誤解は解ける。頼むぞ喜多さん……。

 

 

《あ~今日はみんな集まってくれてありがと~。えっと、それでちょっと訂正なんですけど、私達はロッキンジャポンじゃなくて……》

 

「アキレス腱ドロスのサインよろしく~!!」

 

「ロックの申し子!!」

 

「いよっ! 無形文化財!!」

 

「将来の人間国宝!!」

 

《~~~っ、この夏はひたち海浜公園で会いましょうね~!! 今年の夏は結束バンドがステージの上から日本中を熱くします!》

 

「「「「うおおお~~~!!」」」」

 

【悲報】誤解を解こうとした喜多さん、ノリに抗えずロッキンジャポンへの出演を表明する陽キャの鑑になってしまう。

 

 

「喜多やってんね~」

 

「もはや陽キャの弱点だろあの習性」

 

 ほぼ同調圧力じゃねえか。

 おそらく喜多さんも生徒の大半もネタと分かっててやってるんだろうが、わざわざ臨時で全校集会を開いた先生方は多分分かってない。

 

 生徒達が流した噂に誇張された尾ひれが付いており、教師陣には誇張された噂が広まったんだろう。

 だからロッキンジャポンなんて普通に考えたら分かるような嘘にも気付いていないのだ。いや気付けよ教師。何ならちょっとくらい調べとけよ。事前調査は常識でしょうが。

 

 

「こっからどうなると思う?」

 

「地獄でも始まるんじゃねえの」

 

 結局アンプも借りてないしギター二本だけでどこまでやれるかは知らんけど、後藤さんが蟹になってるのを見てるとフラグがビンビンに立ってるのがよく分かる。

 あいつ絶対何かやらかすぞ。ほらもう喜多さんにアイコンタクトされたと思った矢先にギター逆さまに持ち出したし。

 

 

「助け舟出さなくてもいいん?」

 

「手遅れですねぇ」

 

《あっじゃあモノボケを! 相撲の審判が持ってるやつ! はっけよぉーいのこったぁ!》

 

《だからなんでギター持ってやる事がそれなの!? もっと他にあるでしょ!?》

 

「後藤やばー」

 

「俺の幼馴染やばー」

 

 ギターを軍配に見立ててモノボケをした後藤さん。

 なんで普段は声小さいのにこういう時だけ無駄に声張れるんだろう。その変な自信はどこから出てくるんだ。努力の方向性ミスってんぞ。

 

 そして案の定体育館の中は沈黙に包まれていた。

 何ならやばーと呟いた俺とさっさんが少し目立ったくらいだ。後藤さんめ、何つう領域展開してくれちゃってんの。

 

 

《……じゃあね、少々アクシデントはありましたがライブに事故はつきものです! 滑ったMCもある意味ライブっぽくて味わい深いですね~》

 

 事故扱いされてるやん。

 

 

《では一曲やりまーす!》

 

 

 そこから先どうなったかは想像に難くないと思う。

 喜多さん達の演奏は何とも微妙というか、空気感があまりにもアウェーになりすぎて全体的なレベルも下がっていたのだ。

 

 うん、多分過去最低レベルだったね。

 思わずうわぁって声出たもん。季節はもう春過ぎなのに気温が下がっていくのが分かった。冬かと思った。

 

 

「冷静に考えたらあの後藤さんがロッキンに出れる訳ないよな……」

 

「やっぱちょっと変な人だしな……」

 

「垂れ幕外しとくか……」

 

「よくあれで審査通ったな……」

 

 冷ややかな声も聞こえるが仕方ない。

 あれに関しては自業自得だ。さすがの俺もフォローできそうにないっす。

 

 

「喜多さん達演奏本気出せてないよなあれ」

 

「文化祭ん時はもっと凄かったもんな」

 

「あんなギャグやっちゃった後だとね」

 

「しかしギターを軍配に見立てるという発想は中々面白いと思いますぞ」

 

 うちのクラス男子達は割と理解ある方だったっぽい。

 一応後藤さんのこと知ってるしある程度理解できてるもんね君達。

 

 

「うわ~お、清水はどう思うあれ」

 

「あとで説教すべきか慰めるべきか迷ってるところ」

 

「アメとムチの塩梅は気を付けてやんなよ~」

 

 ……できっかなぁ。

 これ多分台風ライブの時より酷い有様なんだけど。

 

 

 ──

 

 

「それでぼっちちゃんと喜多ちゃん沈んでるんだ」

 

「私のマイナー曲演奏で会場の雰囲気をお通夜にしてやった時の気持ちがよく理解できたはず。……うっ」

 

「自分からトラウマ再燃させてどうする」

 

 説教するまでもなく落ち込んでたからこのままスターリーに二人を連れてきたけど持ち直せんのかなこれ。

 リョウさんは自分からトラウマ持ち出して勝手に自爆してるし。

 

 

「もぉ~みんな落ち込んでないで今日も練習するよ! 次はいよいよライブ審査なんだから!」

 

「みんなの冷たい目が私を刺してくる……」

 

「モノボケのクオリティーをもっと上げないと……」

 

「お通夜……お通夜……」

 

「優人くんどうしようみんな岩石みたいに重くなってるんだけど!!」

 

「俺はバイトでドリンクの補充しなくちゃなんで、すいませんがあとは頑張ってくださいママ」

 

「誰がママだぁ!」

 

 

 落ち込んでる二人をスターリーまで連れてきただけでも偉いと思うんですよ自分。

 という訳で虹夏さん、ファイトだよ! 

 

 

 

 





ぼっち、新たな黒歴史を生むの巻。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:iyonaさん、柊 カスミさん、あ さん

☆9:ABcD overjoyさん、blossomsさん、kusumotoさん、モチモチこしあんさん、マンボウ!さん、タスマニアさん、完全無欠のボトル野郎さん、rai1214さん、イキョウさん、白部屋さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!!
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