再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
年末に近づくにつれて忙しくなるのきちぃ~。
更新頻度遅くなるぅ~。
「よし、それじゃ今日の練習終わり~!」
「お疲れ様です~」
休日の午後三時半。
スターリーのスタジオで練習終了の声がかかる。
各々楽器を片付け帰宅準備をしている中、俺は今日の練習を振り返っていた。
次の審査はいよいよ人前で演奏をするライブ審査だ。そのために結束バンドは毎日のように練習に励んでいる。
俺もバイトをしながら店長に許可を貰った日は見学に行き、客観的な視点から意見を述べたりしている訳だ。
だからこそみんなが日々成長している事も知っている。
「あっ伊地知先輩、前にいいカフェ見つけたんですけどこの後……」
「そういえばリョウ! 明日は貸した漫画絶対持ってきてよ! 売ったらタダじゃすまないからね!」
「うっす、じゃ」
ネット審査の順位は28位とギリギリだから油断なんて一切できない。
少なくとも結束バンドより上にいるバンドが27組もいて、30位までのバンドだって投票も僅差だろうし実力で考えたら結束バンドより上の可能性も全然あり得る訳で。こうなってくるといよいよ対策なんて練習を積み重ねるしかないのである。
「あの、伊地知先輩……カフェで」
「あ、ぼっちちゃんばいばい! ちゃんと優人くんの後ろに着いていくんだよ。はぐれちゃダメだからねっ」
「あっはい……では……」
演奏する曲の音を一つ一つクオリティーを上げていく。言うだけなら簡単に思えるかもしれないが、実際にやってみると何をどうすればクオリティーが上がっているのか案外分からなかったりするのだ。
正確に演奏するのが正解か、弾き方にコツがあるのか。しかもそういうのに限って聴き手の好みや感性によって捉え方が違っており、考えれば考える程思考の泥沼に陥ってしまう危険もある。
結局彼女達自身が最高だと思える演奏ができればそれが一番の正解か。
「あ、ごめん喜多ちゃん何か言った?」
「女子高生感が足りない……」
「え?」
つまりやる事もやれる事も何一つ変わらない。
このまま当日まで練習を繰り返すしかないって事だ。
「毎日学校練習バイトの繰り返し! たまには女子高生ぽい事もしましょうよ~! きらきらきららしたくないですか!? 私はしたい!」
「きらきらきららって何?」
「触れてはならない世界」
「輝かしいワードからは考えられないくらい闇深そうな答え来た!?」
……何かさっきから騒がしいな。いや騒がしいのはいつもか。後藤さんだけ話に入れず俺の背後霊と化してる。ああ、帰るの待ってたのね。
それにしても人が考え事してる時に何をわちゃわちゃやっとるんだこの人達は。
「何の話ですか?」
「なんか喜多ちゃんがいきなり女子高生ぽい事したいとか言って駄々こねだしたんだよ」
「じゃあ男子高校生の俺は無関係ですね。後藤さん、今日は俺先に帰るから喜多さんのわがままに付き合ってやれ」
『女子高生ぽい事』というワードから察するに、おそらく俺がそこにいても変に浮いて悪目立ちしそうな予感しかしない。
多分内装ピンクだらけで女の子感増し増しの雑貨屋とかカラフルで謎のオシャンティーな店とかに行く気だろう。何で女の子って派手なカラーの店とかに行きたがるんだろうね。
ともあれそんな場違いなところに行くなら俺はさっさと退散するが吉。
女子は女子だけでキャッキャウフフな旅路に出るがいいさ。シミーズワゴンはクールに去るぜ……。
と、スタジオを先に出ようとしたら両手をガシッと強く掴まれた。
思わず振り返る。犯人は二人いた。
「「ダメ」」
喜多さんと後藤さんがそれぞれ笑顔と焦り顔で俺を見ている。
引き止めてきた理由は多分それぞれ違うって事くらいは察した。というか喜多さんの絶対逃がさないと言わんばかりの笑顔がむしろ怖い。
「優人君も来るのよ」
「え、でも女子高生ぽい事なら俺が行く必要ないんじゃ」
「来るのよ」
「……はい、お供させていただきます……」
きらきらきららに飢えた陽キャ女子高生の眼差しは簡単に人を殺せるね。
間近で覇王色の覇気を浴びせられた気分だ。よく意識を保てたな俺。
「でも喜多ちゃんさ、この前みんなで遊園地行ったじゃん」
「あれは実質現実逃避じゃないですか! たまには練習終わりにみんなで意味もない街歩きとかしたいんですよ! ねっ、ひとりちゃん!」
「えっいや、あっはい!」
イエスマンは今日も相変わらず健在だったようだ。
「夢に向かって頑張るためには人並みの青春も犠牲にしなきゃいけないんですか!? この一瞬はプライスレスはなんですよ! そうでしょひとりちゃん!」
「えっいや、あっはい!」
「もはや脊髄反射の領域だな」
肯定しながらも俺の服を掴む手が震えてるのはせめてもの抵抗だろう。
体は全力で街ブラに拒否反応起こしてらっしゃるけど。
「え~でも疲れてるし……」
「やだやだっ街歩きしましょうよ~! 私のイソスタ最近全然更新できてないんですよ~! え~んっ、いいねが~! いいねが欲しいぃ~!」
「それが本音かい!」
陽キャの禁断症状ってとこかな。
後藤さんとはまた違う承認欲求モンスターがここにいた。床にゴロゴロ転がりながら本格的に子供みたいな駄々のこね方をし始めたぞこやつ。
「ん~……どうする優人くん。このままだと喜多ちゃんスーパーでお菓子買ってもらえるまでごねる子供みたいになっちゃうけど。というかもうなってるけど」
「まあ練習するにもモチベを保つ事は大事ですからねえ。俺もわがまま姫の圧に負けてお供するって言っちまったし、適当に下北でもぶらつきますか」
そう言った瞬間、喜多さんが勢いよくガバッと飛び起きた。
こいつ……真似は真似でもお菓子を買ってもらえると分かった途端嘘のように泣き止んで笑顔になるクソガキタイプの方だったか……!
「ライブ審査に向けて結束力を高めるためにも遊びは必要ですよ! ねっひとりちゃん!」
「えっいや、あっはい!」
「NPCかおのれは」
同じ事しか言えなくなってんじゃん。
いやこれ思考放棄か?
「下北詳しそうだし案内役はリョウ先輩でお願いします!」
「何で私が」
「リョウに案内役は向いてないと思うけど」
「右に同じく」
「ぬぅ……それはそれでムカつく。今に見ておれ。私の完璧な下北街歩きスケジュールを作ってやる」
だってアンタ基本的に自分の行きたいとこしか行かないじゃん。
俺がギター買った日も途中まで自分の行きたい店ばっか行ってたし。
「リョウ先輩っ、私ハンドメイドアクセとかレトロな雑貨屋さんに行きたいんですけど、おすすめのショップあったら連れていってほしいです! あとは映えそうで美味しいカフェとか!」
「分かった」
「どう見る優人くん」
「何も分かってないに一票」
数十秒後、リョウさんがスマホのスケジュール帳アプリに書いた今日の予定を見せてきた。
そこには。
16時~19時まで全部古着屋、内30分だけどこかで休憩と書かれていた。
「じゃあこれで」
「リクエストガン無視!?」
「ほら、やっぱり何も分かってないじゃん」
「これがリョウクオリティーだよ喜多ちゃん」
クオリティーとは。
──
ということで外に出てきた。
「リョウ散歩」
「in下北沢~!」
結束バンドwithわたくし清水優人、街ブラロケの始まりである。
「下北沢は音楽、演劇、アート、サブカルチャーの発信地。店も個人経営がほとんどだから自分好みの店に出会えると思う。他にも下北は若者の街、古着屋の街、ファッションの街とか色々呼ばれてるくらいには結構有名」
「確かに若者は多いですけど、渋谷とかとはまた違ったタイプの人達ですよね」
おお、思ったよりちゃんと説明できてるなこの人。
wikiとか見てカンニングしてんじゃねと思ってたけどそういう事もしてないし、下北に住んでるという事もあってかやはり地元には詳しいのかな。そういやいつもこの付近で古着屋漁ってるって言ってたからそれもあるか。
「有名バンドを輩出したライブハウスもたくさんあるし、バンドマンにとっても憧れの街と言われてる」
「サブカル好きなら一度は住んでみたい街かもねぇ」
まあこうして話を聞いてると下北は魅力的な街だなとは思う。
経営してる店だってリョウさんが言ったように個人のものも多いから見て回るだけでも外観に個性があって飽きない。将来こういうとこに住んでみたいという気持ちも何となく分かるな~。
「ってぼっちちゃんはいい加減慣れなよ! 一年以上来てるでしょ! なんでまた優人くんの後ろに引っ付いてるのさ!?」
「あっいつもライブハウスと駅の間を往復してるだけなので……初めて通るとこはちょっと……」
「という理由なのを察してるから俺は好きにさせてます」
「理解者が過ぎる……!」
へへっ褒めても何も出ねえやい。
少し歩いたとこにあるカフェにやってきた。
もちろん喜多さんのリクエストである。リョウさんの古着屋オンリーツアーは無事みんなに却下されたらしい。それで若干落ち込んでたので後で一軒くらいは見に行くと言ったからとりあえずの機嫌は戻った。
各々注文をしてケーキと飲み物が人数分来る。
「ところでちゃっかり全員頼んでますけど、リョウさんお金あるんです?」
「……優人様」
「おう、何だ。言ってみろ」
「身体で支払わせていただきます……」
「ぶっ!? ちょ、ちょっとリョウ! こんなところで何言ってんの!? 他にも人いるんだからやめなさい!」
「きゃー! ひとりちゃんが急にガタガタ震えだしたわ!?」
俺がツッコミを入れる前に何故か虹夏さん達が大騒ぎし始めた。後藤さんに至ってはバイブモードになってイスと一緒に震えてる。
一応店内なので周りのお客様の迷惑になる事は控えてほしいですねまったく。
リョウさんにはとりあえずケーキと飲み物代は俺が出す事にして次の給料日で返してもらう事にした。
返さなかった場合は店長に告発して一発KOである。文字通りの意味でな。
何とか場も収まりようやくケーキを食べようとすると、
「あ、ちょっと影入っちゃった! 優人君少しどいて!」
陽キャモードに入った喜多さんがケーキを色んな角度から連写しながら言ってきた。
なんで普通に食べようとしてる俺が排他されなきゃならんのよ……。これがきらきら成分を補充した本気の喜多さんか。
こんなのもうきらきらきららじゃなくて喜多喜多喜多多だよ。
「優人君今なにか失礼なこと考えなかった?」
「HAHAHA、そんな訳ないだろう。存分に写真を撮りたまえよ喜多多ん」
「喜多多ん?」
「噛みまみた」
怖いからナチュラルに思考読んでこないでほしい。
「あぅ……ゆ、ゆうくん、フォークとナイフってどっちで持つの……?」
「ステーキでも食う気かオメーは。ナイフはいらんから普通にフォークで食べなさい」
「早く古着屋行きたいからさっさと食べよう」
「もうっさっきからオシャレな雰囲気が台無しになってるじゃなーい!」
「諦めな喜多ちゃん、これが結束バンドクオリティーだよ」
クオリティーとは。
次にやってきたのはリョウさんの強い、それはもう懇願と言っても過言ではないくらい強い要望で古着屋に来た。
「はえ~古着屋ってこんな感じなのか」
入ってみるとあら不思議。普通の服屋とはまた違った雰囲気の店内と売られている古着のレパートリーが多種多様すぎてちょっとした別世界を思わせた。
マジで色んなデザインの服売ってんだな。こういうのって仕入する店主の趣味とかも若干入ってそう。
「私古着って上手く着こなせる自信ないんですよね」
「あー分かる。こういうのってセンス問われるもんね」
「え、そうなんですか? 二人なら何着ても似合いそうですけど」
「「……」」
何で黙ってこちらを見てくるんでしょうか。
一応褒めたよね俺。何もバカにしてないよね。もしかした変な地雷踏んだとか?
しばしのジト目を俺に向けた後、虹夏さんが咳払いを一つしてから、
「……えっとね、例えば一着一着はオシャレだけど、それにかまけて抜け感を出そうとしたら小汚い感じになっちゃう事があるんだよ古着って」
「ですです。普通のお店で売ってるのとは結構違うから合わせるのも難しいのよね~」
ふ~ん、そういうものか。
言われてみると俺も私服は基本無地とかシンプルなデザインのものばかり着てるから、ここに売ってる服で合わせるとなると何を選べばいいのかさっぱり分からん。
でもまあこういうのは最初に冒険するんじゃなくて無難に一着合いそうなものを買えば大体安牌でしょ。
無理に全身コーデにしようとするから失敗するんだって何かの雑誌で見た気がする。
「全身古着でコーデする必要はない。新品の中に一着アクセントで入れるだけでも良い感じになる」
ここで古着ソムリエール、リョウさんのテイスティングが始まった。
「今日の虹夏と郁代は下無地だし何でも合わせやすそう。虹夏はこれ、郁代はこれ着てみて」
「おお~、じゃあお言葉に甘えて試着してみよっか!」
「はい!」
さすがリョウさん、二人に合いそうな服を即座に選んで渡すとは中々の技量をお持ちのようで。
ところで後藤さんは何してるんだろう。さっきからずっと一人で服見て回ってるけど。
この店今のところ人少ないし店員さんも話しかけてこないタイプの物静かな店だから居心地は悪くなさそうだな。
なら多少放っておいても大丈夫か。たまにはあの子に自由に店内を見て回るという行動力を身に付けさせるのも大事だ。
「優人はこれね」
「え、俺も?」
リョウさんが渡してきたのはベージュの柄シャツだった。
「当たり前じゃん。それに男子をコーデできる貴重な機会を逃したくない」
「本性表したな」
「でも優人に合いそうな服を選んだのは確かだから」
……確かに柄シャツは着たことなかったしちょっと気にはなってたけども。
いや、ここは古着ソムリエールを信じよう。
「……じゃあちょっと試着してみます」
「うん、ぼっちはどうする」
「適当に泳がしといてください。多分自分で何か見繕うと思うんで」
「りょうかい。リョウだけに」
「やかましいわ」
吐き捨ててから試着室に入る。
しかし着替えるといっても俺のは上着を脱いでまた羽織るだけなので試着自体は数秒で終わる。何なら試着室に入らなくてもいいくらいなのだが、そこはまあ、ほら……そういう流れだったから、ね?
ともあれベージュの柄シャツを羽織って鏡を見る。
……うん、何だろう。自分で思うのは少し自意識過剰のように見えてしまうけど、こういうのも結構ありなんじゃないか俺?
今まで無地ばかりの服着てきたけど、今後は柄物を検討してみてもいいかもしれない。
そう思うくらいには気に入った。柄シャツだけどベージュという事もあり派手すぎず、かといって無地とは確実に異なるデザイン柄。ええやん……めっちゃええやん。
もうこれを買うのは確定事項として、割かし上機嫌のまま試着室のカーテンを開ける。
あくまで疑問を持っている体で聞いてみた。
「リョウさん、試着してみましたけどどうですかね?」
「うん、似合ってる。やはり私の目に狂いはなかった」
いやほんとさすがっす。五センチほど見直したっす。
「お、優人くんも試着してたの? どれどれ……おぉ、良いじゃん!」
「無地を着てない優人君って何だか新鮮ね~! ありだわ!」
「どもっす」
今をときめくきらきら女子の二人にそう言われるって事は悪くないらしい。
良かった、リョウさんを疑ってた訳じゃないけど俺の感性がおかしい訳じゃなかったんだな。ちょっと安心したわ。
安心しつつ虹夏さんと喜多さんの服装も見る。
「やっぱり虹夏さん達も似合ってますね」
「へへーん、ありがとっ」
「よし、じゃあ次はこれ着て。優人はこれね」
もう次の服を用意してやがるよ古着ソムリエール。
仕事早すぎんか。普段からバイトとかこれくらい積極的だったらいいのに。
その後、俺達は三十分くらい着せ替え人形にさせられた。
次から次へと服を持ってくるもんだから断る隙も与えられなかったのだ。まあ俺は新鮮な気持ちだったから結構楽しかったけど。何着か買っていこうかな。
「ふぅ、こんなもんかな」
「やっと解放された……」
「でもこれでトータル二千円って凄いですよね! 今日はみんな古着コーデのまま遊びましょうよ!」
その提案には大いに賛成である。
優人さんこの古着気に行っちゃったもんね。
「で、後藤さんはどこ行った?」
「ぼっちならあそこの試着室で着替えてる。そろそろ終わるんじゃない」
「ひとりちゃん着替え終わった~?」
「あっはい!」
さてさて、適当に泳がせていた魚は果たしてどうなったかねぇ。
一応リョウさんのワンポイントアドバイスも聞いてたし普通ならそんなに酷くなるとは思わないけど。
でも後藤さん普通の子じゃないしなあ。
と、試着室のカーテンが開けられた。
予想は当たった。
「うへへ……け、結構かっこよくできました……!」
「「「「……」」」」
「ど、どうですかね……?」
「よし、ちゃちゃっと会計済ませて次のとこ行きますか」
「「「異議なし」」」
「えっえっ?」
「後藤さんは早く着替えてその服達元の場所に直しておくんだぞ」
「えっ」
泳がせていた魚は合成獣キメラだったようだ。
まさかピンクジャージの方がマシだと思う日が来るとは思わなかったぜ。
今年はあと二話更新くらいが限界かね~。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:Saーがさん、幕張魂さん、vongolaさん
☆9:タスマニアさん、花畑に巣食う花のカースガノンさん、火斗レアさん、完全無欠のボトル野郎さん、イキョウさん
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