再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
今年最後の投稿。
そして来週は年始なので投稿ないです。
よって次回は二週間後になる予定。
太陽照りつける夏空の下。
清々しいほど気持ちの良い晴れた天気とは裏腹に、迷惑極まりない太陽光が容赦なく肌に直撃し直に熱を浴びせてくる今日この頃。
わたくし清水優人は両手が塞がったまま虹夏さんと出会い頭にこんな会話をした。
「丸太みたいに担がれてるのがぼっちちゃんなのは分かるけど、どうしてふたりちゃんもいるの?」
「ライブが怖いと言って全然トイレから出てこなかったんでピッキングで鍵開けてから連れてきました。ふーちゃんは途中まで一緒に行きたくて着いてきたって感じです。そうだよな~?」
「うんっ! お姉ちゃんが逃げないようにふたりも見張ってたんだよ!」
「ぼっちちゃん……」
「あっうっ、な、何か視線が……?」
前にみんなで頑張ろうと意気込んでいたというのに怯えて閉じこもる、これが後藤さんクオリティーだ。
俺が迎えに行った時にはもう既にトイレの住人になってた。もしもあのまま放置してたらトイレの神様になってたかもしれない。疫病神的な方面のやつで。
ひとまずふーちゃんを直樹さん達が乗る車に預けて俺達も移動する事にした……いところなのだが。
「あれ、リョウさんまだなんですか? 地元だからとっくに来てると思ってたんですけど」
「あのアホはさっき起きたから先に行っててだって。地元だからギリギリまで寝てられるとか思って大寝坊したんでしょ」
「山田ァ……」
強制的に連れてきたとはいえ観念してここにいる後藤さんの方がまだマシだと思っちゃうくらいクレイジーな事をしやがるなあの女。
「こんな時までマイペースなんだからまったく……しょうがない、あたし達だけでも先に新宿行こっか」
「うっす」
俺達は電車の改札へ向かう。目的地は虹夏さんが言った通り新宿駅だ。
そう、今日はとうとう『未確認ライオット』のライブ審査の日。審査員や客を入れての本格的な審査が行われる本番当日である。
電車に乗って移動中、冷房が効いてるんだか効いてないんだかよく分からない電車内で座りながら会話が始まる。
「まさかライブ審査開催場所が新宿フォルトだなんてね~。それでかは分かんないけどオープニングアクトはSICK HACKらしいよ。みんな聞いてた?」
「そうなんですか? というか廣井さんで大丈夫ですかね……逆にそっちの方が私は心配になりそうなんですけど」
「あっ私も初耳でした……」
「俺は毎日サイトのお知らせ見てたんで一応知ってました。何かやらかして急遽バンドの差し替えがないかヒヤヒヤでしたよ」
「そっちの心配なんだ……」
そりゃあ大事な審査なんだから万が一にもトラブルとかあってほしくないもの。
しかも一番トラブル起こしそうなのが知り合いな時点で余計怖い。にしてもライブをする場所が新宿フォルトなのは正直助かる。一度やった事のあるライブハウスだけに見知らぬ場所でやるよりも幾分か緊張も解れるかもしれないし。
話してるうちに新宿駅に到着。約十分程度といったところか。
それぞれ機材を担ぎホーム、階段、改札、出口に向かった。
で。
「ちょっと太陽にクレーム入れるんであいつの番号教えてください」
「恒星にクレーム入れようとする人初めて見たよ。あと暑いのは分かるけどやめなさい」
外に出ると一気に太陽光が攻撃を浴びせてきた。地面も焼かれてるように熱せられており、もれなく上下から熱の拷問サンド状態である。
快晴すぎるのも考え物と思ってしまうくらいには暑い。雨じゃなくていいからせめて曇りとかその辺にしてくれないかな。
虹夏さんに止められて仕方なく暑い中を歩き出す。
「それにしても機材持ったまま人混みの中歩いて行かなきゃなのがキツいです……」
「これが駆け出しバンドマンの宿命だよ喜多ちゃん……はぁ、でもそうだね~。夏休み入ったら車の免許とりに行こうかな……」
「そういや虹夏さん達はもう免許とれるんでしたね」
「まあね。これからの事を考えると自分達の機材車とかあった方がいいだろうし、早めにとっておく事に越した事はないから」
いいな~、俺も早く免許とりたい。
そしたら結束バンドのみんな乗せて移動できるのにぃ。とにかく冷房とか暖房とか自由に設定できるし快適なまま移動したい。
と、暑い日差しの中まだまだ遠い願望を抱きながら歩いていたらすぐ隣を車が通り過ぎていく。
なんかちょっと高そうな車だな~と思ってたら急にその車が減速した。そして俺達と並走するくらいゆっくり走行しだした。
もしかして最近の輩は歩行者にまで煽り運転をするようになったのかしら。
なんて思ってたら、後部座席の窓が開いた。どんなヤンキー面が顔を出すのか見ていると、フツーに超見覚えあるヤツだった。
「みんなおはよう」
親が病院経営してるセレブお嬢さま(笑)の山田が涼しげな顔をしたまま挨拶してきたのだ。
おうおう、良い度胸してんね~?
「ってオイ! 何で寝坊したリョウの方が優雅にしてんの! ずるっ!」
「許せねえよなあ!?」
「そんな事を言っても結局は先に着いた方が正義なのだよ諸君。という事で遅刻しないでね」
「「待てコラ山田ァ!!」」
せめて乗せろやあ!!
俺達の叫び声もむなしくリョウさんを乗せた車は去っていった。山田家両親め、またあのアホ娘を甘やかしたな? これだから親バカは……。
新宿フォルト前到着。
無事に着いたはいいものの虹夏さん達は暑さによって既にグロッキー状態である。一応後藤さんと喜多さんのギターは俺が前後に装備して持ってるからマシなはずなんだけど、それでも暑さには敵わないらしい。何なら俺も暑くて普通に嫌な気分だ。早く涼しいとこ行きたい。
で、目の前に座っているダーヤマがいた。
「遅い。暑い中待たせないでほしい」
「……」
「優人くん待って、気持ちは分かるけどアレでも一応は結束バンドに欠かせないベースだから! ここで一人退場は洒落にならないよ! 終わってからならいくらでも罰していいから今だけは落ち着いて~!」
天使に助けられたなこの野郎。今日このままタダで帰られると思うなよ。一時間は説教してやる。
今はとにかく冷房の効いた室内に行くのが最優先。みんな満場一致で新宿フォルトに入る事にした。
「ふわぁ~涼しい~……」
「生き返るわね~」
「あっはい」
何だか少し久しぶりに感じつつ、新宿フォルトの中を見渡す。
慌ただしそうに駆け回るスタッフの人達や既に他のバンドの人達もいるようだ。みんなとSICK HACKのライブを見に来た時とシデロスのサポートをしてた時のライブとはまた違う雰囲気があった。
適当に見ていると見覚えのある姿が見えたので声をかける。
何だか慌てているようにも見えるけど、どの業界でも挨拶は大事なのだ。
「おはようございます。久しぶりです銀さん。つうか忙しそうですね」
「あらあら~優人ちゃんも結束バンドちゃんも久しぶりね~!」
ペットボトルの水を三本ほど抱えながら足を止めてくれたのは新宿フォルトの店長、銀さんである。
「ごめんね~今ちょっとバタバタしてて~っ。また後でゆっくりお話しましょ~!」
「開催場所の店長さんなんだから今日は大変ですよねぇ。お姉ちゃんがよろしくって言ってましたっ。今日は結束バンド共々よろしくお願いします!」
「よろしくね~! それじゃああたしは行くからみんなも準備しててちょうだい。あと優人ちゃんは近くのスタッフに声かければ関係者用の名札貰えるからそれに名前書いて付けておいてね!」
「あ、はい、分かりました」
手際良いな銀さん。さすが店長やってるだけの事はありますわ。
そして少しだけ虹夏さん達から離れて近くのスタッフに声をかけると、言われた通り名札を貰い自分の名前を書いてから首に提げる。これで楽屋にいたりしても不審に思われないか。
スタッフの人にペンを返して軽く礼を述べてから虹夏さん達の元へ戻る。
すると、彼女達が全然違う方を見ている事に気付いた。みんなして床を見てる……? 緊張で俯いてる訳でもない、か。
とりあえず駆け寄っていく。戻ると同時に自然とみんなと同じように俺も床を見た。
なんかいた。
「水買ってきたわよっ、ほら飲んでさっさと生き返って~!」
「業務外で足引っ張られてる!!」
床におにころのパックを撒き散らしながら倒れてるのは我らがきくり姐さんである。
こう見てると人間ってほんと学ばない生き物なんだなとつくづく思い知らされるよね。他のスタッフみんな準備で忙しくしてんのに堂々と床で寝転がってるのマジで狂気だと思う。ほら、周りのバンドマンちょっと引いてるよ。
「~~~けっ……みん……おは……っ……~~~っ!」
「酒やけのせいで何言ってるか分かんないし!」
口をぱくぱくしながら何かを言ってるようだが、かすれ声すぎてあまり聞き取れん。
「大事なライブの日に何でこんなお酒飲んでるんですかこの人!」
「何で運営さんはこんな人をゲストにしたの!?」
「さすが廣井さん。当日にこそ酒を飲みまくるなんて、これでこそロック」
「~~~! っ~~~!」
散々な言われようである。一人のバカを除いて。
しかしほんと何言ってるか分かんないな。仕方ない。
「銀さん、ちょっと水貸してください」
「? いいけど……どうするの?」
「こういうのは無理矢理飲ませないと意味ないんですよ。そうらっ!」
「がぼぼびぼぶばばばばべばぼぼぼぉ!?」
「凄い荒療治ね……」
「優人くん酔っ払いには容赦ないから……」
水をいくらか飲ませると少し回復したのか、きくり姐さんが自分で喉を確かめるようにうめき声みたいなのを出していた。
そんなので確認できんの。
「で、無駄に飲みすぎた理由は?」
「……まだ未来のある失敗してもやり直しがきく若者達を見てると飲まずにはいられなくなってぇ……うぅ、やり直したい……」
「銀さん、これ運営側の人選ミスでは?」
「言わないでちょうだい……」
リョウさんがきくり姐さんを見てロックだとか言ってたけど、これ見て運営の人がSICK HACKをゲストに選んだなら運営も運営で大概変な方向にぶっ飛んでる方のロックだと思う。
よし、反面教師にしよう。
「……わ、私も将来あんな風にお酒に逃げるような大人になるんだろうな……」
「そうならんように俺が一生監視してやるから安心しろ」
「あっうん……」
なんか後藤さんにお酒飲ませたらマジで危ない気がする。
こういう子に限って酔うと理性崩壊してめちゃくちゃになるタイプだとマンガで見た事あるし。
「にしても普段のライブでは見ないような人もちらほらいるね」
「主催のお偉いさんとかレーベルの人とかいるからいつもより堅苦しい空気になってるわよね~。でもそれも経験。結果がどうなろうともこれから活動を続けていくならこういった機会は増えていくわ。だからあまり意識せずやっちゃいなさいね」
確かに周りにはスーツを着たおっちゃん系の人がそれなりにいた。
威厳とも貫録ともまた違うけど、ライブハウスにはあまり似つかわしくないスーツ姿というのは、逆にその違和感を存在感として表しているようにも見える。
言ってしまえばそれに呑まれて演奏にブレが出たら終わり。どんな人の前であってもいつも通りのクオリティーでライブができるか問われる審査でもあるのかもしれない。
うちの後藤さんは大丈夫かなぁ……。
「ちなみにあたしも審査員の一人。身内だからってもちろん贔屓はしないわよ」
宣告があった。
どのバンドに対しても平等に価値を評価する立場からの。
「だって、そんな事しなくても結束バンドは客を魅了できるものを持ってると思うからね」
「……はい!」
ただ、友人としての激励はしてくれたらしい。
あの後、銀さんはそのままきくり姐さんを引きずっていき、今までコメディー色の雰囲気だった俺達は本来の空気感にまで一気に引き戻された。
喧騒とまではいかず、だけどスタッフ達や他のバンドグループの会話からは緊張感も漂っていて静寂とも言えない。
冷房が涼しいというより、空気がピリついていて寒気がしそうな感覚に近いか。
さすがに本気で上を目指しているバンドがこんなにいると、普段のライブよりも圧迫感を感じてしまう。
「うーん、あたし達はどうしよっか? もう控え室行っとく?」
「じゃあ先行っててください。俺はみんなの分の水買ってきますね」
「あ、じゃあお金渡すね」
「いいですよ別に。こういう時くらい俺に出させてください。今日に関してはこれくらいしか力になれないんで」
「うっ……じゃあ、甘えさせてもらおうかな」
「喜んで」
後藤さんを喜多さんに預けて水を買いに行く。
その途中にとあるバンドを見かけた。確か、ケモノリアだ。
今回のライブ審査で本命はシデロスとケモノリアと言われているくらい、他を圧倒する実力の持ち主達。
正直ネットの反応を見ていてもこの東京会場からはシデロスとケモノリアが勝ち進むと断定されるほど別格のバンドだ。結束バンドが超えるべき壁の一つ。
藝大生というのもあってみんな才能ありそう感凄いけど、実際実力もあるのだから恐ろしい。
個人的には年上お姉さんって感じの見た目の人が多くて美人だなって思います。
……というかあの人達何か言い合ってない?
気のせいだと思うけど解散だーとか信玄がーとか言ってるように聞こえるけど。穏やかじゃないですねぇ。ここは触らぬ神に祟りなしで行こう。さて、水水っと。
「あっ」
「あっ」
水を買おうとしてたらばったり会った。
そう、シデロスのドラム担当ハッセとギター担当のふうさんに。
「ゆーさんじゃないっすか」
「ゆうと君もお水買いに来たの~?」
「おっす、まあそんなとこ。今日はライバル同士だけどよろしくな」
「よろしくっす」
どうせならという事で一緒に控え室へ戻る事に。
「じゃあもうヨヨさんと幽々さんも控え室にいんのか」
「そうっすよ。ヨヨコ先輩は今頃緊張と人見知り発症してスマホ見まくってんじゃないすかね」
「容易に想像できるな」
「幽々ちゃんは鉄分サプリ食べてるかも?」
「いつものだな」
相変わらず癖が強いぜシデロス。
結束バンドも負けてらんねえなあ! いやこっちも充分癖強か。
「そっちの方は活動順調なんすか?」
「どうだろうな。色々力入れてるけど結局ネット審査も28位でギリギリだったし、順調といえば順調……微妙といえば微妙ってとこかな?」
「けどここまで勝ち上がってきただけでも充分凄いよ~!」
「それは結束バンドの実力と応援してくれる人達のおかげだよ」
実際3000を超えるバンドの中から30組まで残ってる時点で相当凄いと思う。
あとはどこまでやれるかだ。いよいよ色んな人の前で演奏する今回がある意味一番の見せ所になるだろう。
そして強敵とも言えるシデロスとケモノリア。上位2組だけが最終審査に進めるという、今日の審査において最大最強のライバル。
この2組のどちらかに勝たないと結束バンドは上にいけない。ただでさえ高すぎる壁に分厚さまで付け加えたレベルの難易度。
そんなライバルのうちの1組のメンバーと仲良く話してるんだから正直言って今よく分からない状況だな。
こんな和みムードでいいの君達。さっきまで他のバンドみんな結構ピリピリしてたけど。これが強者の余裕ってやつ? いやでもあれか、そういやいつもヨヨさんが異常なくらい緊張してるから逆に自分達は冷静になれるんだっけ。ヨヨさん……。
適当な会話をしてる内に控え室に着く。
4本分ペットボトルを抱えてる俺を気遣ってハッセが扉を開けてくれた。
「ヨヨコ先輩~ゆーさんが来たっすよ~」
「あっ!」
ハッセの言葉に反応したヨヨさんがこちらを見る。
どうやら既に虹夏さん達と会って話している様子だったが、俺を見るとあからさまに顔がパァッと明るくなった……気がする。チワワだ、尻尾振ってるチワワがいるぞ!
「……ッ、フンッ!」
そして束の間、目つきの悪いツンデレチワワ姫はすぐさま目を逸らした。
「俺ヨヨさんに何かしたっけ?」
「オーラはチワワですけど性格はネコっすからねえ。いつもの照れ隠しじゃないすか?」
「納得」
「ちょっ、勝手に納得してんじゃないわよ!」
「まあそうキャンキャン吠えなさんなヨヨさん。落ち着いて、はいお手」
「……」
「本当にお手しようかちょっと迷ったっすねあれ」
「周りの目もあるから諦めた感じだね~」
「あっ、ワンッ……」
「代わりにぼっちちゃんがお手しだしたけど」
「さすが優人の忠実なぼっち犬」
「犬派なのね、あなたは犬派なのね優人君!」
「ごめんちょっと和ますつもりが収拾つかなくなった誰か助けて!」
「無理そうっす」
君達このあと大事な本番があるって分かってるよね?
今年は誕生日を祝ってもらったり幼メンの素敵なファンアートを頂いたりマシュマロで三次創作小説を送ってもらったりと、何かと嬉しい事が多かった一年になったなと思ってます。
いつまで書き続けるかは分かりませんが、来年もどうかわたくし共々幼メンをよろしくお願いいたします。
それでは皆さまよいお年を。
次回の更新については随時X(旧Twitter)で呟くと思います。多分。
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