再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
あけおめことよろです。
この作品書いてる内にまさか二回も年を越すとは思いませんでした。
ぼっち犬とヨヨ犬に待てをしてようやく事なきを得た。
そこは素直に待つんだ、と思ったのは内緒だ。
そしてしばらくするとスタッフの人がやってきた。
「出演者のみなさん、今日の流れの説明と出演順決めをします!」
スタッフの話が始まる。
流れを簡単に説明するとこうだ。
まず順番決めを行い、リハでは逆リハと言っていわゆる出番ラストのバンドからリハを行うらしい。もちろん本番はトップバッターから順番通りに出演していく。
それで全バンドの演奏が終わった後に審査員や観客に投票をしてもらい、票数の多かった2組のバンドが決勝に進むとの事。ルールとしては至ってシンプルだ。
となるとここで問題となってくるのが出演順である。
俺達のいる東京会場には結束バンドを合わせて計7組のバンドがいる。しかしこういう観客のいる審査では曲や演奏だけでなく出演する順番も重要になってくるのだ。
理由は簡単。観客の飽きが来るから。
トップバッターや二番手、トリくらいならばまだ無条件で見られるかもしれないが、もし中途半端な順番なんて引いてしまえばそれだけで不利になるのは確定に近い。
そんなのお構いなしに惹き付けるほどの知名度と実力があるなら気にもしないけど、ネット審査突破時点での順位からするに結束バンドが中盤を引くと多分観客の興味を惹き付けるには難しいかもしれない。
単純に後の方になる程観客はだれてくるものなのだ。それもよく知らないバンドなら尚更。
審査対象にはオーディエンスの盛り上がりも含まれている。つまりそういう意味でも順番関係なく観客を盛り上がらせる力が必要となってくるだろう。
将来こういったフェスに参加する機会があったとしてその時には順番なんて気にしないくらい実力も上がってるかもしれないが、今はとにかく中途半端な順番は回避すべきだ。
そのためにも印象に残りやすいトリかトップバッター辺りを引くのが妥当。というか絶対条件。
出番が真ん中になるほど不利なのでそれ以外ならばまあまだ許せると思う。
各バンドの代表者が前に出る。出演順はくじで決めるらしい。
うちからは当然虹夏さんが前に出た。
「伊地知先輩、絶対トリ引いてくださいね! 絶対ですよ!」
「印象残りにくいから微妙な順番はやめてよ。トリかトップバッターを狙って」
「オンカラキリソワカビンコロビンコロジャンボウゲーアビボロビョーンブビデバビデブーッ……」
「何の呪文だそれ。手から黒紫の変なオーラ出てるけど」
「任せろーい! 何だか今日はいけそうな気がするよー!」
──
「何で5番なんか引いたんだろあたし……」
「夏終了」
「夏、終わらないで」
見事に中途半端な順番を引き当てた虹夏さんは四つん這いで落ち込んでいる。
よくよく思い返してみればみんながみんなフラグ建ててた気がする。ごめん虹夏さん、かくいう俺も心の中でフラグのお膳立てしすぎたみたい。これはフラグ一級建築士の称号を貰える日も近いかもしれない。
ちなみにトップバッターはケモノリアだ。ただでさえあの知名度と人気でありながらトップバッターだなんてさぞ客の印象に残るだろう。ずるい。
二番手はシデロス。ケモノリアで盛り上がった後にシデロスとか二連コンボみたいなもんじゃん。最初からクライマックスじゃん。いーじゃんずるいじゃん。
「だ、大丈夫ですよ伊地知先輩っ。きっとそこまで影響されませんって! むしろこの順番で私達がフロアを盛り上げたら印象に残ること間違いなしです!」
さすが陽キャリンピック日本代表喜多郁代選手。
こんな時のフォローも立ち直りやすい言葉選びで完璧なチョイスだ。その調子で自分が変な呪文唱えたから悪い番号引いちゃったんだと部屋の隅で落ち込んでる後藤さんにもフォロー入れてほしい。可能性は否定しきれないけど。変なオーラ出てたし。
「うぅ、そうかなぁ……」
「そうですそうです! ここは気を取り直してリハが始まる前に栄養補給といきましょう! ちょうどお昼時ですし何か食べましょうよ!」
「あ、そういう事ならお姉ちゃんが今日みんなの分のお弁当作ってくれたらしくてさ、それ持ってきたんだよね」
「へー、店長って料理するんですね! でしたらそれいただきましょうか!」
「いつもはあたしが家事担当だからお姉ちゃん料理できないと思うんだけど、何故か今日は作ってくれたんだよ。絶対勝つって意味で安直だけどカツ丼だって」
言いながら虹夏さんが人数分の重箱を出してそれぞれに渡す。もちろん俺にもくれた。
あと部屋の隅で座敷童になりかけてる後藤さんの首根っこを掴んで合流させる。わざわざ五人分のカツ丼を作るとは不器用なくせにご丁寧な人だ。
「おお~、普通に美味しそうですよっ」
「あれ、ほんとだ。いただきます……ちょっと見た目焦げ付いてるけど味も普通に美味しい……。あのお姉ちゃんの料理なのに何で?」
まあ俺が教えたからなんですけどね。
とある日に店長からカツ丼のレシピと作り方を教えてくれと言われ、それだけだと何だか失敗しそうな予感がしたから昨夜ビデオ通話で話しながら教えたのだ。
揚げ具合とか味付けとか細かく見るにはビデオ通話が一番都合が良かったのだが、あの人カメラワーク下手すぎて間接的に虹夏さんの家の中を結構覗いてしまったせいで謎の罪悪感があった。
ライブ関係以外だとポンコツになるのなんなん。
ただ俺が映像越しで見ててももたついてたりグダグダなとこがあったから俺の想像してた味よりかは少し劣っている。油跳ねに怯えてカツを中々取り出せなかったのと、大さじ一杯分だった醤油を勢い余って計量スプーンから溢れさせたのが原因かな。と言っても誤差レベルだが。
しかしまあ、こういうのはあれだ。大事なのは味より愛情である。あの店長にしては頑張った方だし花丸をあげましょう。
虹夏さんも言ってたけど普通に美味しいレベルにはなってるから結果的に良しだ。
味付けも俺個人の感覚的に少ししょっぱい以外は教えた通りになってるので十分に合格点。
「はぐふぐもぐっ……美味い! シェフを呼べ!」
「ここは高級レストランじゃないよ」
リョウさんも目を輝かせてよう食べておる。
「……? あれ、何かこのカツ丼、ゆうくんが前に作ってくれたのと味付けが似てるような……?」
後藤さんも俺の味付けをよう覚えておる。
さすが食い意地張ってるだけの事はありますね。
そんなこんなで店長のカツ丼弁当はみんな見事に完食。虹夏さんが今度また家で作らせてみようとか言ってたけど、うん……頑張れ店長。今度は記憶だけを頼りに作るんだぞ。
腹を満たした後はリハの時間がやってきた。
結束バンドは7組中5番目だから、逆リハだと順番が回ってくるのが早い。
音出しや音量チェック、歌い出しが主なので基本的に余程のトラブルがない限りはスムーズに進んでいく。
「では次、結束バンドさんお願いしまーす」
「あ、はーい!」
結束バンドが呼ばれたところで俺も控え室からフロアに移動する。
これでも一応は彼女達の関係者なんだから俺もリハくらいはちゃんと確認しておきたいのだ。
とはいえ結束バンドのリハも思ったより滞りなく終わった。虹夏さんとリョウさんのリズム隊も調子が良く、喜多さんの歌もここ最近だとトップレベルに良いと言える。
思ったよりというのはアレだ。後藤さんが武者震いを装ってめちゃくちゃ緊張から来る体の振動のせいでまるで高速ピッキングをしている風になったからだ。
何ならほぼ事故だけどリハから無駄に謎クオリティーの高速ピッキングをした
さすが後藤さん、既に良い意味でも悪い意味でも爪痕残してますわね。いいぞ、これでこそロッカーだ。
「……」
そして、虹夏さん達に自分はもう少しリハを見ていくと言ってフロアに残った俺は現在他のバンドのリハを見ている。
どのバンドも上位30組に選ばれただけあって、リハなのに実力があると一発で分かるほどだ。
しかし、やはり本命は桁違いだった。
シデロスとケモノリア。
逆リハという大物の2組が最後まで残っていたのがむしろその印象を強くしたのかもしれない。
まるで直前までのバンドが前座と言わんばかりの迫力。でもって本番では序盤から、いいや序盤こそがクライマックスと言わんばかりの演奏力と表現力。
リハでこれかよ……と素直に思ってしまった。
現状だけで言えばレベル、格が違う。
メタルバンドのシデロスとエレクトリックバンドのケモノリア。
ジャンルこそ違うが、だからこそ両者の立ち位置が絶対的なものとして君臨している。いわゆる個の世界観を完璧に確立していた。
実力者ほどリハーサルから本気度が違うと言うが、これは存外間違いでもなさそうだ。
……ただ、それで結束バンドが負けるかと聞かれれば、答えはノーである。
だって演る前から力の差は分かりきっているんだから。
その上で結束バンドは下剋上を狙っている。そう、ライブ審査と言っても観客にだって好みはあるはずだ。メタルバンドとエレクトリックバンドと比べれば、結束バンドはオーソドックスなロックと言える。
つまりは好みの偏りがある固定層の一点狙いよりも幅広い客層を狙って確実に票を貰いに行くスタイルに近いか。
審査員は好みより実力を重視するらしいけど、観客の票なら結束バンドにだってワンチャンある……と思いたい。
全てのバンドのリハが終わり控え室に戻る。
ちなみにシデロスのリハ終わりの退場間際、ヨヨさんがこちらに向かってドヤ顔していたのはきっと気のせいだ。
「清水戻りました~」
「ねえ優人君っ、さっき表見たらお客さんたくさん並んでたわよ! 多分今まで一番多いんじゃないかしら!」
「そっか。やっぱ色んなバンドが集まるライブ審査となると人も集まってくるよなぁ」
後藤さんまた変な事にならないといいけど。
まあ路上ライブとかでだいぶ場数も踏んでるし大丈夫か。……いやさっきまでの緊張ぶり見てると全然だいじょばないな。
というか気付かんうちに俺の背後に立ってるし。いつからそこいたんだ。控え室に戻って来た瞬間かおい。
「あ、そうだ!」
とりあえず逃げ出さないよう手首を掴んで隣に来させていると、何かを思い出したかのように虹夏さんが声を上げた。
「はいこれ! 前言ってたステッカー作ってきたよ! いっぱいあるからみんな貼ってね!」
「わぁ~! 可愛いですね! これみんなで楽器に貼りましょうよ! 一致団結感出ますよきっと!」
虹夏さんが出してきたのは結束バンドのロゴなどが主のステッカーだった。
ほほう、これは中々なクオリティーですな。グッズとしても売れそうで良い感じだ。会場来てるだろうけどあとで一号さん達にも近々グッズで売るかもとロインで教えてあげよう。
「あ、このキャラのステッカーも作ったんですね。何だっけ、えーと……」
「けつばんちゃんね。あたしはスネアに貼ったよ」
採用されたんだこいつ。マスコットキャラクターとして大丈夫なのかこのビジュアル。
せめて投げ銭貰って元気になった時の方を作ればよかったんじゃ……。
「はい、リョウも貼りなよ」
「そんな首吊りキャラクターみたいな変なのは貼りたくない。もっと他にマシなデザイン作れなかったの」
おい創作者。
「お前が作ったキャラだろあたしに責任転嫁すんな。さっさと貼れ」
「はい……」
虹夏さんの剛腕がリョウさんを片手で押さえつけておられる。
つよい。
あっちは虹夏さんに任せよう。
さて、後藤さんはと……。
「何してんの?」
「あっえっと、どこに貼ろうか迷ってて……」
ステッカーを両手に持ったままおろおろしていた。
「別にどこでもいいと思うけどな。じゃあほら、喜多さんとリョウさんはボディに貼ってるし後藤さんはヘッドに貼ったらどうよ」
「あっうん。じゃあ、そうしようかな……へへっ」
そう言って後藤さんはけつばんちゃんのステッカーをギターのヘッドに貼った。
あ、貼るのそっちなのね。ロゴの方じゃないんだ。首吊りの方だけど大丈夫そ? いや後藤さんが良いならいいんだけど。
「あとは、はい、優人くんも貼ってね」
「……え、俺もですか?」
「当然」
あの、真顔で言われましても……。
「えっと……確かに俺はサポート役ではありますけど、これを貼ると何かバンドメンバーっぽくなって個人的に違和感あるんですが……」
「え~そんな事まで気にするの?」
「優人君って時々細かすぎてめんどくさいわよね」
むしろ割と正常な方では?
あと喜多さんそれ何気にダメージ大きいから言わないで。俺でも致命傷だからね。いや致命傷はダメなんだわ。こういうのはきちんと境界線を引いておく事も大事なんだから!
「ん~……あっ、そういえば優人くんのスマホケースって手帳型だったよね?」
「ええ、そうですけど」
「ちょっと貸~して♪」
「はい……ハッ!?」
貸しての言い方があまりにも可愛すぎて気付いたら勝手に渡していた、だと!?
「は~いペタリ、と。ありがとっ、スマホ返すね!」
返された自分のスマホを見る。
裏側に思いっきりけつばんちゃんのステッカーが貼られていた。しかもサイズ的にちょうど良かったらしく良い感じに収まっている。貼るのロゴじゃなくてそっちなのね。
「これならただの結束バンドファンっぽくてまだいいでしょ?」
「……まあ、これくらいなら」
「へへーん、さすがあたし!」
「結束バンドにめんどくさい愛情抱えた優人君を納得させるなんて伊地知先輩ナイスです!」
「ねえ喜多さんってもしかして俺のこと嫌いだったりする?」
「次そんなこと言ったらぶっ飛ばすわ!」
「あっはいすいませんでした」
女の子が使う強い言葉って何故か男子とはまた違う威圧感持ってるよね。
何はともあれメンバーみんなステッカーを貼り終わった。
途中で後藤さんがボディにけつばんちゃんを貼りまくって集合体恐怖症の喜多さんを発狂させていたのは内緒だ。俺から見ても普通に気持ち悪かった。
メンバーそれぞれの楽器をステッカーが見えるように向かい合わせて写真を撮る。
SNSに投稿する用の写真だ。
トゥイッターとイソスタに投稿するため、喜多さんと同じ文章を考えてから投稿した。
写真と共に投稿文にはこう書かれている。
『ついにライブ審査です! メンバー一致団結! ファンのみなさん応援よろしく!』
と。
さあ、いよいよライブ審査の始まりだ。
今年も幼メンよろしくお願いいたしますえ~。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:ソンカイさん、将吾さん
☆9:来田 喜貴さん、人見知り(極)さん、敷島さんさん、タスマニアさん、イキョウさん、完全無欠のボトル野郎さん、ザラメ雪さん
いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!!
お年玉として高評価くれてもええんやで?