再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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未確認ライオット編もそろそろ終盤。




109.どうしようもない戦況をひっくり返せ

 

 

 

『全国の10代バンドからまだ見ぬ才能を発掘するこの未確認ライオット! 今年も3000を超えるバンドが応募してくれたぜ!』

 

 ステージ上でMCを務める男性のマイク音がフロアに響く。

 

 

『今日はその中からネット投票の上位30組が審査に進んでいるぞ! そしてこの東京会場からファイナルステージに進めるのは2組だけだ! 曲はもちろんオーディエンスの盛り上がりも審査の対象だぜ! 君達が次世代バンドの最初の目撃者になるんだ! 最後まで楽しんでいってくれよ!!』

 

 呼応するように観客の歓声が響き渡る。

 さすが満員になった新宿フォルトだ。演者でもない俺でもあれだけの歓声を聞くと腹に圧し掛かるようなプレッシャーが一気に押し寄せてきた。

 

 楽屋からモニターでフロアの様子を見ているが、観客の期待値もほぼMAX状態。というか超騒がしい。

 まさにいつでもぶち上がれるという訳だ。ああいう人達にはウォーミングアップとか必要ないらしい。

 

 

『じゃあオープニングアクトはこの新宿フォルトを拠点として活動している人気バンドがゲストだ! SICK HACKのみんな、会場を温めてくれー!!』

 

『うぇっぷ……あー、二日酔いなんでエチケット袋持ったまま歌わせてもらいまうっぷ……。吐いたらごめん、けどそれもロップ……』

 

 最後言えてねえじゃねえか。

 会場が新宿フォルトだからきくり姐さん達がゲストに選ばれたのは分かるけど、なんで大事な本番でやらかしそうになってんのあの人。

 

 いやあの酒カス姐さんがこの日のために禁酒する訳もないとは思ってたけども。

 それにしたって二日酔いするまで飲むか普通。……あ、きくり姐さんは普通じゃなかったわ。

 

 

「ファンとそうじゃない人で反応がはっきり分かれるバンドですね……」

 

「ファンの人達はむしろ吐くか吐かないかの瀬戸際を楽しんでるっぽいね」

 

「演奏見ろよ」

 

「さすが廣井さん、あれでこそロックバンドの真髄」

 

「頼むから反面教師にしてくれリョウさん」

 

「……」

 

 みんなでモニターを覗きつつそれぞれ感想を呟く。

 後藤さんだけはそれどころじゃなさそうで怯えてる子犬みたいにプルプル震えてるけど。

 

 きくり姐さんがあんなだから後ろでドラムを叩いてる志麻さんの顔がちょっと怖い。いやだいぶ怖い。

 あれ絶対終わったらシメられるやつじゃん。呑気に演奏してるイライザさんが逆に場違いまである。かわいい。

 

 結束バンドの番は5番目という事もあり、今のところは後藤さん以外そんなに緊張してないように見える。

 それよりもきくり姐さんの醜態の結末が気になるようだ。何故なら俺も気になるから。くそ、普通に演奏も歌も凄いのにそれだけじゃなくてリバースしそうな雰囲気出しつつも決して出さないという、絶妙なラインを攻めてるからこっちも目が離せない。

 

 きくり姐さんめ、まさかあれも観客が夢中になる手法として使ってる説出てきたか。実はちゃんと考えてるとかある? 

 ……と思ったけど多分それはないと志麻さんの表情で分かった。絶対素だねアレ。時々歌声詰まってる時あったし。

 

 そんなこんなでSICK HACKのオープニングアクトは色んな意味で目が離せないくらいのパフォーマンスを披露し、見事に観客の視線を釘付けにした。

 ついでに終わった後きくり姐さんは志麻さんにどこかへ連れて行かれた。説教だけで終わればいいけど。

 

 しかしそんな余所の心配をしている暇はすぐになくなった。

 オープニングアクトが終われば、始まるのはライブ審査の本番だ。

 

 つまり。

 のっけから人気を博しているバンドのお出ましだった。

 

 

『さあて、トップバッターはキュートでポップでロック! エレクトリック・ロックバンドのケモノリアだ! 新時代の幕開けを感じさせる音楽でこの会場を沸かしてくれるぜ!』

 

 キーボードボーカルを務めているのはさっき解散がどうのこうので騒いでいたお姉さんである。

 信玄のギャグがうんぬんかんぬん言っていた先程とはまるで別人のような立ち振る舞いでキーボードを演奏していた。

 

 素人目で見ていてもトップバッターからあれだけフロアを盛り上がらせている実力は本物だと分かってしまう。

 モニター越しでも観客達が手を上げジャンプしている様子が見える。マジで最初からクライマックスじゃねえか……。やっぱり順番って大事なんだなと今更ながら痛感した。

 

 そして数曲終わった後、盛大な拍手に見送られながらケモノリアが退場してしばらくすると、二番手のバンドがステージに登場する。

 端の方にいたMCが言う。

 

 

『熱気に溢れるフロアをさらに熱くしてくれるのはこのバンドぉ! かわいい顔で凶暴な音を鳴らすガールズバンド、シデロスだあ!! このギャップが見る人の心を余計に沸騰させるぜー!!』

 

 言い終わると共にシデロスの曲が始まった。ヨヨさんのギターが空間全体に響き渡っていく。

 音の圧が変わる。それだけでケモノリアが作っていた空気を一変させ自分達の空気に変えてしまった。

 

 ある意味ケモノリアとジャンルが違うからこそ、そのギャップも含め観客の意識は一瞬でシデロス一色に染まる。

 実力もさることながら、魅せ方も自分達だけを見ろと言っているような、まさに傲岸不遜にも思えるのに誰もシデロスから目が離せなくなっているのがモニター越しに分かる。

 

 分かっていた事だと覚悟していたのに、いざこの光景を目にすると臆してしまう自分がいた。

 やはりシデロスのレベルは頭一つ抜けていると。ジャンルの壁とか、好みの問題とか、そういうのを全部吹っ飛ばす勢いで全てを呑み込む存在感が彼女達にはある。

 

 

「何か……すっごく盛り上がってますね……」

 

「完全に場の空気持ってかれた」

 

 扉の向こうから聞こえてくる観客の声を聞いて喜多さん達も緊張が移ってきたらしい。

 まあ無理もないか。いきなりツートップがあんなレベルのライブをしたんだから。既にちょっとしたフェスみたいになってんだもんあれ。逆に三番手のバンドの人達が一番緊張するでしょ。

 

 

「人人人人人人人人人人……」

 

 違ったわ。一番緊張してる子すぐ近くにいたわ。何なら身内だったわ。

 後藤さん人の字書いて物理的に食ってやがる。どうやってんのそれ。忍法・超獣偽画なの。

 

 ……不思議だ、後藤さん見てたらいつの間にか俺の中の緊張どっか行っちゃった。

 自分より怖がってる人がいたら逆に冷静になるアレと似たようなものかもしれない。そういやハッセ達も極度に緊張してるヨヨさん見てたら緊張しないって言ってたな。それと同じか。やっぱ似た者同士じゃんあの二人。

 

 

「あっトイレ行ってきまふ……」

 

「あ、うん。……ちょっと待って優人くんぼっちちゃん止めて」

 

「ほいさ」

 

「えっ」

 

 虹夏さんの命により後藤さんの腕を掴む。

 理由は俺も何となく……じゃなくて確信を持ってるから素直に従った。

 

 

「ぼっちちゃんの事だからトイレに籠城してそのまま出てこない可能性あるからね。もしそうなったら女子トイレだし優人くんに助太刀頼めないから今の内に誓約させとかないと」

 

「最悪警備員さん呼びましょうね」

 

 こういう時の後藤さんほんと信用ねえな。

 いやまあ大体自業自得なんだけどさ。

 

 後藤さんを虹夏さんと喜多さんに預け、一応俺もトイレの前まで着いていこうとした時。

 

 

「あー! 結束バンドちゃんと優人ちゃん良い所にいたわ!」

 

「ん、銀さん?」

 

 銀さんに声を掛けられたのでそちらに顔を向けた。

 すると、そこには銀さんの他にもう一人女性がいた。それはある意味結束バンドにとって因縁のある相手だった。

 

 

「この方は今日取材で入ってる記者さんなんだけど~!」

 

「あ、ぽいずんさん」

 

 思いもよらず出くわしたといった顔をしているのはツーサイドアップの毒舌ライター、皆さんご存知ぽいずん♡やみさんだ。

 あ、やべみたいな顔してる。多分あちらもこっちと会うのは想定外だったのかもしれない。

 

 

「結束バンドちゃんの事をね、と~っても褒めもごごごごぉ!?」

 

「何でも縛れて便利ですよねって話してたんですよね! ね!? そうですよね!?」

 

「ぽいずんさんいきなり何を!?」

 

 銀さんが何かを言おうとした途端、ぽいずんさんが銀さんが首から提げていた関係者用の名札の紐を絞めた。そう、首を絞める形で。

 どこで覚えたそんな技。俺の知り合いの女性みんなちょっと攻撃力高いのは何故なんだろうか。

 

 

「あーっ! あたし別のバンドの取材に行かなきゃな~! という事でこの辺で失礼します!」

 

「げぇほっ! ごほっ! あーんちょっと何なのよもーうひどーい!」

 

 銀さんむせてる時えらい男らしい声してますね。そこはどうでもいいか。

 気を取り直したように虹夏さんが声を掛けた。

 

 

「えっと……あの人がどうしたんですか?」

 

「あの子がばんらぼってサイトであなた達のこと書いてくれてたらしいのよ~! だから紹介しようかなって思ったのにぃ!」

 

「え、ぽいずんさんがあの記事を……? 優人くん、知ってた?」

 

「……まあ、何となく予想はしてましたけど、これでビンゴって感じですかね」

 

 虹夏さん達には悪いが嘘をつかせてもらった。俺は既に店長から記事の事を聞いてたので知っていたが、それならそれで何で黙ってたのか問い詰められそうだったのでここは保守させてもらう。

 高い攻撃力を持つ人から身を守るには物理的な防御力を上げるのではくいかに回避力を上げるかが大事なのだ。そう、当たらなければどうという事はないのである。

 

 

「あっ、あの、まだ時間あるからギリギリまで練習しませんか?」

 

 そして俺が保守的になっているのとは裏腹に、気持ちの変化がプラスに働いている幼馴染がいた。

 

 

「ぼっちちゃん……そうだね! やれるとこまでやろっか! 二人もそれでいい?」

 

「はい!」

 

「ん」

 

 あれだけ色々言ってきた人が自分達の記事を書いてくれていたという事実にやる気が上がったのだろう。

 しかし、俺が本当に驚いたのはここからだった。

 

 

「あっあと今日のMCなんですけど……」

 

 

 ──

 

 

 新宿フォルトのフロアでは、こんな声が聞こえていた。

 

 

「次のバンド何だっけ」

 

「結束なんとかとかいうの」

 

「知らね」

 

「ネット投票でギリギリだったバンドか~。まあここはなさそうだな」

 

「めちゃくちゃ上手いならともかく5番目ともなると聴く方もだれるしね。もうシデロスで決まりじゃん?」

 

「やっぱシデロスとケモノリアが抜きん出てるよなぁ」

 

「あの2組が最初に出てきちゃったらな~。可哀そうだけど今のところ残りは消化試合って感じするわ」

 

 フロアの端にいる俺の耳にはそんな声ばかりが入ってくる。

 シデロスとケモノリアの二強。ライブ審査が始まる前から囁かれていたり、実際審査が始まればそれを助長するかのようにレベルの違いを見せてきた2組の演奏を見れば誰だってそう思うのも自然だろう。

 

 直前までは俺もそう思わざるを得なかった。そう思ってしまうほどシデロス達のバンドは凄かった。

 しかし今は違う。

 

 この震えだって緊張や不安から来るものではなく、いわば武者震いに近い。

 結束バンドが周りにどう言われていようがあんなのは些末な事だと心が勝手に処理してくれる。湧き上がるような熱があるはずなのに、どこか気持ちはクリーンになっていた。

 

 

『さて次は下北沢発、そのバンド名はネタか本気か!? しかし絆の結びはピカイチか! 結束バンドぉ!!』

 

 MCの紹介が終わると共に結束バンドがステージに現れる。

 見覚えのあるファンから熱い拍手と声援、知らない観客からは礼儀としての拍手で出迎えられる。

 

 当然出だしはギターボーカルの喜多さんがマイクを握った。

 

 

『えーこんにちは! 下北沢から来ましたエゴサがまったく機能しないで有名の結束バンドです! よろしくお願いしまーす!』

 

 意外にもウケたようで、軽いジョークを交えつつ適度な掴みは得られたようだ。

 

 

『じゃあさっそく一曲目! ……の前に、リードギターの後藤から一言あるそうなんで聞いてください……ひとりちゃん』

 

『あっはい……』

 

「……」

 

 ここからが本番。

 俺の不安が一瞬で消えた理由の一つとして、後藤さんからの提案があった。

 

 今日のMCについて、最初に自分に話をさせてほしいという申し出が後藤さんから直々にあったのだ。

 最初はみんなが目を見開いた。もちろん俺も。普段なら絶対に緊張して目立つから言わないであろうあの後藤さんが、自分からMCをしたいと言ってきた。

 

 しかもライブ審査という重要なシーンでだ。多分後藤さんもぽいずんさんの記事を見て気持ちに変化があったんだろう。きっと結束バンドを勝たせたいという気持ちが自分の臆病な性格よりも勝った瞬間だった。

 だから、みんなも後藤さんの提案を快諾した。

 

 ステージの上で、臆病な彼女が声を出す。

 

 

『あっえっと……わた、私達がこのフェスに出ようと思ったのは、こっこの四人でバンドをする意味を聞かれた事がきっかけでした……』

 

「何の話?」

 

「声ちっさ」

 

「震えてんじゃん、がんばれー」

 

 うるせえ黙って聞きなさいうちの子がまだ喋ってる途中でしょうが。

 

 

『そっそれからたくさんライブや練習をして……色んな人に支えてもらいながらバンドとして力をつけてきました……。じ、自分達だけじゃどうにもできなかった事も、身近で応援してくれる人が頑張ってくれたから……私達もここまで諦めずに来られたんです……』

 

 いつの間にか全員が後藤さんを見ていた。

 誰一人として顔を下げている者はおらず、引っ込み思案で臆病なたった一人の少女から目が離せずにいた。

 

 

『だから』

 

 そして。

 

 

『だから、私達、結束バンドの結束力を……観てくださいっ!』

 

 後藤ひとりのギターの音が新宿フォルトを席巻した。

 

 

「ま、マジか……」

 

「これ……ほんとに高校生かよ……!」

 

「こんなバンドいたっけ!?」

 

「す、すげえ……一曲目から飛ばしてきてんな!」

 

 さっきまでファン以外誰も知らなかったはずの結束バンドが、瞬く間に広がっていくのを感じた。

 そう、これだ。これが俺が見たかったものだ。

 

 後藤さんのギターソロから始まり、虹夏さんとリョウさんのリズム隊が曲の始まりを告げ、喜多さんの力強くも透き通る歌声がフロアを瞬時に魅了する。

 誰もが興味のない状態から一気に視線を奪ってしまうこの瞬間がたまらない。

 

 ツートップが最初にあんなにもレベルが違う演奏を見せ、誰もが残りを消化試合と思ってしまうような場面を覆す唯一の方法。

 それが『ギターヒーロー』のソロから始まる圧倒的なギャップからの曲の始まりだ。

 

 かつての初ライブで客の視線を一気に奪ったのも、文化祭でピンチを乗り越え客の興味を瞬時に引いたのも、後藤さんのギターだった。

 結束バンドの転機となるライブの時に、必ずと言っていいほど活躍するのが後藤さんだ。

 

 いつも怯えて何もできないからこそ、自分から何かをするという思いに至った彼女が強い事は俺も結束バンドのみんなもよく知っている。

 そしてそういう時ほど、彼女は観客を含めライブの空間全体を包み込むほどの圧倒的存在感を解き放つ。

 

 一切興味がないならまだしも、一度でも微かに興味を持ってしまったが最後。

 その目はもう彼女達からは離すことができなくなっていく。

 

 シデロスとケモノリアの二強? 

 ふざけるな。こういうのはダークホースがいてこそ盛り上がるものだろうが。

 

 最初がクライマックスだなんて言わせない。

 そう、ここからが本番だ。

 

 

「見せてやれ」

 

 結束バンドがここで終わるようなタマじゃないってとこを。

 既に詰んだと思われた戦況を丸ごとひっくり返すような所業を。

 

 

 ──

 

 

 無事に7組全てのバンドのライブが終わった。

 審査員や観客の投票も済み、最後にMCがステージに立つ。

 

 

『では結果発表といくぜぇ! 未確認ライオットファイナルステージに進む栄えあるバンドは~!』

 

 

 そして。

 そして。

 そして。

 

 

 

 





多分ヨヨさんはステージに立つ直前とかに清水に話しかけようとするけど勇気出なかったとかある。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:花畑に巣食う花のカースガノンさん、steelwoolさん、たらやさん、tamomoさん

☆9:K.K.sさん、タスマニアさん、さんぱちさん、イキョウさん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!!
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