再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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リアルが忙しすぎるぅ~。




110.正直ロックフェスはちょうどいい気温の時にやってほしい

 

 

 太陽が憎い。

 遥か頭上から俺達を見下ろさんばかりに直射日光を叩きつけてくるあの太陽が憎い。少しは遠慮してほしい。

 

 

 8月某日。

 学生の特権、夏休み真っ只中の俺達はとある場所に来ていた。

 

 

「来たぞー! 未確認ライオットファイナルステージ!」

 

 さっそく第一声を放ったのは虹夏さんだ。

 元気で可愛らしい声が外に響き渡るも、誰一人文句など言ってこない。

 

 それもそのはず、ここは虹夏さんも言った通り未確認ライオットのファイナルステージが行われるフェス会場だから。

 今日に限っては騒音も歓声もむしろ大歓迎な雰囲気まである。みんなフェスという楽しい雰囲気に吞み込まれているのだろう。こういう場所ではある種の一体感というか、この会場だけに特別な小世界が作られたような感覚にまで陥る。

 

 今日ここに来る人達はみんなバンドを見に来ているのだ。

 それぞれ好きなバンドを応援しに来たり、どのバンドが勝つのか興味があったり、まだ世間に知られていないバンド(原石)を見に来たりと、様々な目的があって来場してくるだろう。

 

 きっと観客の熱は歓声や密集でとてつもない事になると思う。

 そう、クソ暑苦しいほどに。

 

 

「太陽が憎い」

 

「優人くんもうそれ47回目だよ。電車の中でも言ってたでしょ」

 

「伊地知先輩数えてたんですね」

 

 だって暑いんだもん。入道雲とかはその辺にあるけど太陽の周りには一切雲ないんだよ? あいつあの太陽野郎ここぞとばかりに気合い入れて太陽光ビーム出してきて何なの。

 もうちょっとしたサウナだよこれ。蒸されるよ、焼かれるよ。人間の丸焼きが上手に焼けました~♪ とかなっちゃうよ。

 

 

「でも色々と対策はしてきてるんでしょ? ほら、出発前に暑さ対策のアイテムいっぱい持ってきたって言ってたじゃん」

 

「熱中症になったら大変ですからね。このクソ暑い中を少しでもマシにするためならどんな努力も惜しまないのが俺です」

 

「だから一人だけちょっとした大荷物になってるのか……。ところで何持ってきたの? クーラーボックスとかもあるけど」

 

 ちょうどいいので場所取り用にレジャーシートを敷いてから荷物を置き、暑さ対策用アイテムを出していく。

 

 

「えーっと、水分と塩分補給のためのスポドリ、クエン酸タブレット、ネッククーラー、冷却スプレー、冷風が出る携帯扇風機、何か叩くだけで急速冷却されるパック。クーラーボックスにはネックリング、氷水で冷やしてるタオルに濡らして振るだけで冷たくなる冷却タオル、と……大体そんなもんですかね」

 

「うわっ、ガチじゃん」

 

 何でちょっと引いてんの。熱中症舐めんなよ。

 

 

「よくこんなに揃えたね」

 

「家にある対策グッズ総動員してきました。まあ半分は主に夏でもジャージ姿のバカが熱中症にならないよう用意してきたんですけど」

 

「出た優人くんの過保護精神っ」

 

「うっ……」

 

 せめて夏くらいは半袖で過ごせばいいのにと毎年言ってるのだが、家の中以外では必ずピンクジャージしか着ないのが後藤さんだ。

 多分あのジャージに憑りつかれてると思う。いったいあのピンクジャージの何が彼女をそこまで執着させているんだろう。謎は深まるばかりである。

 

 

「みんなも暑かったら勝手に使ってくださいね。あと水分は喉が渇く前に飲んでおく事。一人二本ずつ用意してるからこまめに補給してください。熱中症の他に脱水症状にも陥るのが真夏の怖いとこですんで」

 

「じゃあお言葉に甘えてスポーツドリンク貰うわね!」

 

「私はネッククーラーと冷却タオル、携帯扇風機も貰う」

 

「リョウ一人で使いすぎだってば! 普通ここは分け合うとこでしょ!」

 

「ああ、タオルも扇風機も人数分持ってきてるんで大丈夫ですよ。そのために大きいリュック持ってきたんだし」

 

「……じゃあ、使わせてもらいます……。え、優人くんまさかそのリュックの中全部対策グッズなの……?」

 

「俺用のと俺の予備分二つに家族の分を全て持ってきたから大体は五つずつ揃ってますぜ」

 

 ちょうど五人分あるからアイテムの取り合いとかなる心配もない。

 リョウさんが欲張ってめっちゃグッズ持ってくのも想定してた故の対策でもある。対策グッズ、だけにね! 

 

 

「……凄い、優人くんが持ってきたアイテムのおかげで暑いのも結構マシになった」

 

「今って冷風を起こしてくれる携帯扇風機もあるのね~。私も買おうかしら、友達とどこか行く時とかに便利そうだわ!」

 

「これなら始まるまで寝転びながらでもゲームできる」

 

「あっ、タオル冷たい……」

 

 思ったより気に入ってくれたようで何より何より。

 バカみたいに暑い外だが、未確認ライオットが外でやる以上そのルールに従うしかない。であれば大事なのは暑さに嘆くのではなく、いかに対策をしてこの猛暑を少しでも快適にするかを考える必要がある。

 

 暑いのが嫌いな俺と夏でもジャージオンリーピンクが外でくたばらないようにするには、これくらい熱中症対策グッズがないとダメなのだ。

 いやもうほんと体中の毛穴から汗出てきてんじゃねってなるくらい暑い。

 

 

「でもこの後どうする~? 開始の12時まではまだ時間もあるよね」

 

「だったらどこかご飯食べに行きません? フェスならではのご飯食べたいです!」

 

「お、いいね~。じゃあ不要な荷物だけ置いといてフェス飯食べに行こっか!」

 

「あれ、でもそれだともしもの場合誰かに荷物盗られちゃったりしません?」

 

「フードコートのテーブルに場所取りとしてハンカチとか置いておくのと一緒だよ。周りには()()()()()()()()し、そういうのが抑止力になる。それにわざわざこんなとこで盗みをするようなヤツはいないさ」

 

 多分……というのは伏せておく。

 俺達がレジャーシートを敷いたのはステージから割と後方の辺り。ここなら迷惑になりにくいし、目的のバンドが出て前に行ったとしてあまりの熱気と圧迫感で体調が崩れそうになった時、救護室でお世話になる程ではないぐらいならこっちに避難してくればいい。

 

 俺達と同じような考えを持つ観客も結構いるため、既に周囲にはレジャーシートを敷いて各々適当に過ごしてる観客もいる。

 実際不要な荷物だけ置いて誰もいないシートもいくつかあるが、誰も不審な行動をしそうな者はいない。当たり前だ。別に大金が手に入る訳でもないのにこんなとこで盗みをして警察のお世話になるのはただのバカだからだ。

 

 ふとステージの方を見る。今もスタッフ達が細かな最終チェックや準備作業をしていた。

 それを俺は観客席の方から眺めるだけ。

 

 

 そう、結束バンドはライブ審査において……ファイナルステージに進む事は叶わなかった。

 あくまで審査という形で進めなかったという風になっているが、他のバンドと比べられた時点でそれはもう当人達にとって『勝敗』と何ら変わらない。

 

 つまり結束バンドは敗北した。

 上位2組の枠を掴み取れなかった。

 

 結局勝ち上がったのはシデロスとケモノリア。

 最初から人気や知名度があり期待されていた2組が実力通りファイナルステージに立つ事となった。

 

 言ってしまえば順当。新宿フォルトのフロアで観客が言っていたようにシデロスとケモノリアの出来レースみたいな結果。

 結束バンドのライブが始まった時はあれだけ自信に満ち溢れていたのも、目の前で結果が発表された時には砂嵐のように全てが散っていった。

 

 なのに不思議とその場では俺を含めみんな泣き叫ぶ事も悔しがる事もなく、ただただ事実を受け入れその場を離れた……はずだ。

 若干記憶が曖昧なのはあれだけ未確認ライオットに時間を捧げ費やして張り詰めていたものが一気に消失したからなのか、単純に緊張感からの解放なのか、ライブが終わった後の虚無感のせいなのかは分からない。

 

 しかし、帰りの電車で後藤さんと一言も会話をしなかった事だけは鮮明に覚えている。

 あの日から今日まで、負けた事に対して多少みんなで話した事もあったがどれも残念だったねとか、良い思い出にはなったとか、もっと頑張らないとだとか、プラスに捉えつつ今まで通りライブをしていこうという方針になっていた。

 

 多分、みんな色んな思いを内に抱えているんだと思う。

 その上で今だけは気持ちに蓋をして、見ない振りをしてここにいる。自分達が立ちたかった未確認ライオットを最後まで見届けようとしている。

 

 だから俺は、それに付き合う事にした。

 みんなが本格的に向き合うまでは、俺からは何も言わないと決めた。そしてみんなが向き合った時は、その時は俺にできる事をすればいい。

 

 それまではいつも通り日常を謳歌するだけの話だ。

 

 

「ちょっと優人くんってば! 聞いてるの!?」

 

「あっはい聞いてますよ」

 

「それ絶対聞いてない時の反応じゃん!」

 

「聞いてますって。ご飯食べに行くって話なのにリョウさんがダラけてここに残るってごねてるんでしょ?」

 

「あれ!? ほんとにちゃんと聞いてたやつだ!? なんかごめん!」

 

 あまり俺を舐めないでほしい。さっきから寝転んだまま一ミリも動こうとしないリョウさんを見れば大体の状況は把握できる。

 

 

「俺が話つけてみますか?」

 

「じゃあお願いしていい?」

 

「ふっ、私は開始時間までここでゲームして待ってるんだ。梃子でも動かんぞ」

 

「リョウさんお金は?」

 

「ない!」

 

「じゃあ俺が奢るんで昼飯食べに行きましょう」

 

「行く!」

 

「虹夏さん獲物釣れました」

 

「たった四文字で即答したなこの金欠ベーシスト……」

 

 となれば必然的に後藤さんも一緒に来る事になる訳で。というか既に俺の後ろにいたわ。

 周りの陽キャが怖くて仕方ないらしい。うん、まあ水鉄砲とかドッジボールで遊んでる陽キャいるし気持ちは何となく分かる。一応今日って音楽フェスだよね? ここ海じゃないよね? 

 

 

 荷物を置いて移動。

 いわゆるフェス飯とやらを求め俺達は腹を満たしに周辺を回る事にした。

 

 するとさっそく喜多さんが何か見つけたようで。

 

 

「あ! ケバブ! ロックフェスといったらやっぱお肉ですよ! あれ食べましょう!」

 

「ロックフェスといえばやっぱお肉なんですか?」

 

「あたしもフェス飯食べた事ないからよく分かんないや。まあでもこの暑さと後々人混みにまみれると思ったらお肉でスタミナ付けとくのもありなんじゃない?」

 

 肉にそんな即効性あったっけ。肉食ったらすぐ回復するルフィじゃないんだから。

 とはいっても別段拒否する理由も特にないのでケバブを買う事に。

 

 したのだが……いざ行ってみると見知った顔が店内にいた。

 

 

「何やってんすかきくり姐さん」

 

「あっいらっしゃいませぇ……元気だね君ら……」

 

 店員元気なさすぎじゃない? 

 

 

「うぅ……銀ちゃんにお酒飲めるよって言われてここに来たらいきなりバイトしろって騙されたんだよぉ~……!」

 

「ゲストに呼ばれたイベントで最後にこんな扱い……」

 

「ちなみにきくり姐さん、今借金どのくらいなんですか?」

 

「……てへっ☆」

 

「自業自得ですね。さっさと買って離れましょう」

 

「ベーシストってみんなこんななのかな……」

 

 そうじゃないと願いたいばかりだね。

 シデロスの幽々さんは……うん、何も言うまい。

 

 お酒を飲めていないからか酔いがほぼ抜けているきくり姐さんの作ったケバブを受け取り退散。

 去る時に背後から何か助けを求めるような声が聞こえたが、あれは多分気のせいだ。思う存分労働に励んでもらって借金返済頑張ってもらおう。

 

 少し離れたところでケバブを食べる事に。

 炎天下という事もあり食欲が少しアレだが、こういう時こそ食べておかないとなので一口ガブリと頬張ってみる。

 

 

「……うん、男子高校生が好きな味って感じだな」

 

「つまり美味しいって事じゃん」

 

 てへっ☆

 俺も健全な男子高校生、多少料理ができるからと言って栄養管理が完璧な訳ではない。そういうのとはまた別物だ。何が言いたいのかというとお肉サイコーって事。

 

 

「おいし~! フェスで食べるご飯って何だかいつもより美味しく感じますよね!」

 

「お祭りの屋台とかもあるあるだよね~! 家で作った方が安いのについつい買っちゃうとことか!」

 

「クラスの男子が言ってましたけどきゅうりの一本漬けとかって無駄に高いらしいですね。確か200円だとか300円だとか。なのに暑い外でさっぱりした物を食うのが最高だからってつい買ってしまうって聞きました」

 

「ほんと不思議効果だよね~」

 

「友達と行くと結構食べちゃいますもんね~」

 

 お祭り肯定派のお二人はどうやらフェス飯とやらをお気に召したらしい。

 フェス特有の謎の高揚効果と相まってきらきらしておられる。

 

 対して。

 

 

「味が……濃い……」

 

「ぼそぼそする……」

 

「場の空気で美味しく感じるマジックがフェス嫌い達には効いてませんね……」

 

「まあ実際ちゃんと味わってみると微妙かなって思うところはあるあるだねぇ」

 

 お祭り否定派の二人は微妙らしい。何なら虹夏さんもちょっと便乗してる。君達一応そのケバブきくり姐さんが作ったやつだからね? 

 あとリョウさんは奢ってもらっておいてその言い草はなんだこの野郎。この前店長の作ったカツ丼絶賛してたじゃねえか。あれか、フェスだからデバフ入ってんのか。

 

 

「優人の料理の方が美味い」

 

「……へへっ」

 

「優人くん乗せられてるよ。危険察知したリョウがご機嫌取りのために言った言葉に乗せられてるよ」

 

 へへっ! 

 

 

「この後どうします? もうちょっと出店とか見て回りますか?」

 

「そうだね。せっかくだし色々見て回ろっか」

 

「後藤さん、味の濃いもの以外なら何食べれる?」

 

「あっハンバーグとかカレーとか……」

 

「モノによっちゃ濃いじゃねえか」

 

 この子に関しては結局好みの問題じゃん。

 

 

 その後は適当にぶらつき気になった食べ物があれば買うというのを繰り返していた。

 とは言いつつもみんなやはり暑さにやられてるのか主食のようなメインはあまり買わず、冷たいそばや軽く食べられるポテトにかき氷とかアイスなどを中心に堪能した。唯一後藤さんはから揚げを一人で食ってたけど。

 

 かくいう俺もカップに盛られた三段アイスをつつきながらみんなでテーブルを囲っていた時、アナウンスが聞こえてきた。

 

 

『まもなく未確認ライオットの最終ステージが始まります。観覧される方は~』

 

「うぇ、もう始まる時間だっけ!?」

 

「待ち時間長いのとかあったから忘れてたわ!」

 

「え、俺のアイスまだ三つ残ってんだけどどうしたら」

 

「全部口に突っ込んで! ほら早く食べて戻らないと!」

 

「いやさすがにアイス三つ全部は口内死にま」

 

「リョウ!」

 

「よいやっさ」

 

「むごばぁっ!?」

 

「許せ優人。虹夏の命令だから」

 

 く、口がぁ……口の中が南極大陸にぃ……ッ!? 

 

 

「伊地知先輩! 優人君が口からペンギンみたいな魂出して死んでます!」

 

「引きずってきて!」

 

「分かりました!」

 

「優人、南無三」

 

 男子高校生に対する扱いか? 

 これが……。

 

 

 





フェスじゃないけど一度だけ夏の富士急で野外ライブ行った事あるけど暑すぎて死ぬかと思った。
けどめちゃ楽しかった。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:vongolaさん、Rodríguezさん

☆9:藤沢大典さん、ぜろぶんさん、ザラメ雪さん、タスマニアさん、龍紋夏月さん、モチモチこしあんさん、完全無欠のボトル野郎さん、イキョウさん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
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