再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
59話のサブタイにはわざと寄せてます。
大きな話の区切りとしてね。
「ぽいずんさん……どうしてここに……?」
慌てて涙を拭いながら虹夏さんが言う。
しんみりとしていた空気は因縁の相手の来訪により良くも悪くも崩された。
喜多さん達も涙混じりの目をハンカチや服で拭いている。
俺はぽいずんさん……っていうのは言いにくいな、やみさんでいいかもう。俺はやみさんから目を離さずにハンカチを出し、さりげなく後藤さんに涙を拭けと差し出した。
のに一向にハンカチを取る気配がないので後藤さんを見たら、思いっきり俺の胸に顔を埋めながら俺の服で涙やら鼻水やらをご丁寧に拭いていやがった。
この野郎……涙はまだしも鼻水も一緒にちーんしやがって……シャツがカピカピになっちゃうでしょうが。
俺と後藤さんがささやかな攻防を繰り広げている中、あちらはあちらで話が進んでいるようだった。
「あ、あなた達の事だし今日は絶対来てると思ったから探してたのよ……その、どうしても言っておきたい事あったし……」
「言っておきたい事……?」
後藤さんを剥がして結束バンド方面に追いやってから鼻水でカピカピになった箇所を汗拭きシートで拭けばワンチャン良い匂いになるんじゃね作戦を一人で決行していると、視界の端に大きな動きがあった。
過去に一度やらかし発言をしているやみさんに対して虹夏さん達が警戒心から後ずさりでもしたのかと思ったけど違う。
いつかのハチャメチャなライブハウスの時に俺にも見せた行動。
つまりはやみさんが謝罪の意味を込めて頭を下げていたのだ。
「ごめんなさい」
やみさんの一連の行動と言動に目を丸くしたのは俺以外のみんな。
まさか因縁の彼女から謝罪の言葉が来ると思っていなかったんだろう。結束バンドはライブ審査で落ちたのにも関わらずだ。
「ギターヒーローさん以外お遊びって言ったことやその他全ての発言を撤回します。本当にすみませんでした」
「……へえ」
思わず小さく声が漏れた。
何だよ、ちゃんと言えたじゃねえか。聞けて良かった。これにはノクティス王子もニッコリだね。
ただあの時のライブハウスで俺とやみさんが会っていた事はみんなに話していないので、実情を知っている俺以外は挑発的な事を言ってきた彼女を見返すつもりだったのにライブ審査落ちちゃったからどうしようと思っていたらいきなり元凶が出てきて謝られた状態な訳である。
そりゃ混乱もするし何を言えばいいのか分からないのも頷ける。
えっとぉ……と虹夏さんが言葉を紡ごうにも上手く出てこないのをよそに、やみさんが再び口を開いた。
「あの日……あなた達のライブ審査の演奏を観て分かったの。ギターヒーローさんの居場所は他のどのバンドでもない、結束バンドじゃなきゃダメだって。ここ以外あり得ないんだって、私自身ライブを観てそう思った。本当に凄かった、目が離せなかった、惹き込まれた、楽しかった……」
この言葉に偽りはないと分かったのは、両手で自分の服をぎゅっと掴んでいる力の強さと彼女のギラギラと光る瞳がそうだと物語っていたから。
「だからあの時のライブ審査……私にとっては結束バンドが一番だった。……っていうのも言っておきたくて……うん……」
「ぽいずんさん……うぅ、追い打ちかけないでくださいよ~~~!」
「おいこらこのメンヘラすっとこどっこい地雷女うちの天使をよくも泣かしやがったなそこだけは許さねえぞこの野郎ッ!!」
「ええっ!? 予想外なとこから怒りの矛先向けられたんだけど!?」
良い雰囲気で終わると思ったら大間違いだからな。虹夏さん泣かすヤツは誰であろうと処す。処して処して処しまくる。
「優人君落ち着いて! さすがにここで怒り散らかすのはちょっとアレだから! 人の心を取り戻すのよ!」
「ヒトノ……ココロ……?」
「操られたモンスターみたいな返しね……」
おっといけね、虹夏さんの涙は俺を狂わすんだぜ。
とりあえず落ち着くと、自分のハンカチで涙を拭き取った虹夏さんが俺とやみさんを交互に見てきた。
「……えっと、というかお二人って……その、大丈夫なの……?」
「何がです?」
「いや、ほら……前にスターリーで色々あったから、さ……」
「……あー」
どう言おうか少し悩むも、何も上手い誤魔化し方が出てこない。
うーん……まあいっか。
「まああれですよ。俺も一つ大人になったって事で」
「……そうよね。一応でもみんなの前でケジメは付けておくべきよね……」
「……あれ、やみさん? 何を一人でぶつぶつ言って」
「いやね、あんたにもちゃんと謝っておきたくて……前は謝罪とかいらないって言ってくれたけど、それでもあんなに酷い事いっぱい言っちゃったし……私自身きちんと謝らないと気が済まないのよ」
「「「……………………前?」」」
「おおおおーーーっとやみさんオーケー分かった! あなたの誠意はもう優人さんにちゃあーんと伝わったから大丈夫です! だから余計なこと言わない内にそのお口をチャックしましょうねええええ~!」
「むぐぅ~~~っ!?」
さっきまでしんみり悔し涙を流していたお三方から何やら不穏な空気を察知したのでやみさんの口を塞ぐ。
虹夏さんと喜多さんはいつもの事だけど今回は後藤さんもかよ。何なのみんな、バンドは第二の家族だからって他の女性と会うのダメなルールとかはないじゃんよぉ! リョウさんだけだよこういう時毎回アホ面で突っ立ってくれてるのはっ。みんなも見習って。
「手で口なんか塞いじゃってさ……何か仲良くなってない?」
「ハハッそんな事はないさっ。ハハッ」
「何でミ〇キーボイス?」
とりあえず勢いで何とか誤魔化せた……と思う。
俺の行動にやみさんも何かを察したのかこれ以上は何も言わない事にしたようだ。それでいい、じゃないと俺の命がいくつあっても足りん。
ということで結束バンドと俺とやみさんの因縁はここに終結した。
元々やみさんを見返すためにと出場を決めた未確認ライオット。終わってみればたくさんの貴重な経験と出会いがあり、ライブ審査で落ちたものの俺達を大きく成長させるきっかけの一つにもなった。
そして結果的にファンも増え、見返すための相手も見事に結束バンドのファンになってくれたのだ。
試合には負けたが勝負には勝った、という表現が正しいかもしれない。
きっとこれを糧に結束バンドはもっと成長でき
「あっそうだ」
「何すかやみさん、今せっかく良い感じに締めようとしてたのに」
「どこがよ、何がよ。あんた今黙ってただけじゃない」
「そうだよ優人くん、締めるにはまだ短すぎるよ」
やみさんの言い分は正しいけど虹夏さんは何で時々メタい事普通に言ってくるの。怖いよ。
「で、どうしたんですかぽいずんさん?」
「そうそう、今日あなた達に会いたかったのにはもう一つ理由があってね」
喜多さんの問いに応えるようにやみさんは手招きをした。
するとステージ下の脇の方から人が出てきた。
真夏には暑そうなスーツを着ながら毛先にウェーブをかけたロングヘア―の女性。
しかしその表情は俺達が今まで出会ってきた大人の中で一番まともそうでビシッとした大人の風格があった。
というかぱっと見このフェスには不釣り合いな格好のようにも思えるが、真夏でスーツ姿、ステージ下の脇から登場、そしてやみさんの紹介という点からもしかしてフェスの関係者だったりするんだろうか。
いや、でもその前に……。
「今までで一番まともそうな大人のお姉さん」
「気持ちは分かるけど口に出さない。あと一応あたしもお姉さんだから」
あでで……耳引っ張らないで虹夏さん。なんかポケモンのタケシみたいな扱いになっちゃってるよ今。
ちなみに虹夏さんは歳的にお姉さんだけど妹だから妹枠でもある。これを巧みに扱い翻弄してくる虹夏さんがとても可愛いのでオススメだ。しかも無自覚でな。
話を戻そう。
「この人を紹介したかったからなの」
「どうも、ストレイビートというレーベルでマネジメントをしています、
お声も何だか落ち着いたお姉さん感のある美声で名乗る女性。今のところ個人的に理想のお姉さんって感じがして最高です。
じゃないじゃない、それよりも気になる事を言ってませんでしたかこの人?
「すとれいびぃと……?」
「レーベルだって?」
レーベルって……もしかしてあのレーベル?
「はい、先日のライブを観て気になったのでお話できたらと思ったのですが、よろしいでしょうか」
「え……」
虹夏さんと何故か俺にも名刺を渡してきたので一応会釈をしながら受け取る。
……名刺は特に普通、か。別に疑っている訳ではないが、過去に池袋のライブハウスでブッキングの誘いを受けた時はちょっとした詐欺に遭ったようなものだったので少しばかり警戒してしまう。
やみさんの紹介だから大丈夫だとは思うけど……いややみさんだからこそ大丈夫なのか? という気持ちもちょっとある。
……いや、失礼な憶測はやめておこう。改心した彼女の気持ちは本物だって事くらいはもう知ってるし、今のやみさんなら信用もしていいと思える。
そして、ようやく意味を理解したのか彼女達(後藤さんとリョウさん以外)が一斉に声をあげた。
「「レーベル~~~~~~!?」」
「ちょっと声でかいわよ!」
「あの、まだお話が……」
やみさんの制止も空しく虹夏さん達は己の世界に入っていく。
「みんなっ、レーベルだよレーベル!」
「レーベルってあのレーベルですよね!」
「敵を倒すと経験値が貰えて強くなるやつ」
「それはレベル」
「旧約聖書の神話に出てくるやつ」
「それはバベル」
「遊城十代の精神的パートナーのヤツ」
「それはユベル」
「アメコミの出版企業のやつ」
「それはマーベル」
「気持ち的にナイトやってたけどSAO第一層のボスにやられたヤツ」
「それはディアベルはん……っていつまで続けんですかそのボケ」
多分リョウさんも顔には出てないけどテンション上がってるやつだこれ。
無駄に口回ってるし。
しかしライブ審査には落ちたのにレーベルから声がかかるとは……音楽業界って分からないもんだな。
未確認ライオットでは勝敗という形はあったけれど、絶対的に向いてないとか技術が足りていなくてもバンドは続けられるし、その過程で見てくれる人も増えていく。基本的にバンド活動とは他者よりも自分達との戦いだ。
今回のフェスだって優勝できなかったから才能がないと落ち込む必要なんてどこにもない。活動を続けていけば突然どこかで道が拓かれる事もある。
結束バンドに関してはそれがライブ審査の時ではなく、今日がその日だったという事かもしれない。
まあ、とにかく、彼女達の悔し涙の理由がプラスに変わったのなら俺はそれでいい。
犠牲になったのは俺のカピカピTシャツだけだ。被害は最小限だぜ。
「……話の続きをしたかったのですが、すっかり蚊帳の外ですね」
「まあ、嬉しい気持ちは分かりますからね。今はそっとしといてもいいんじゃないですか」
「こっちにいると落ち着くなあ」
「何大人の仲間入りしようとしてんのよ。あんたはあっち側でしょうが」
「まだ決まった訳じゃないですけどレーベルから声かかって喜ぶのはバンドメンバーの権利ですよ。むしろ俺は喜ぶ彼女達を微笑ましく見守る立場です」
ほほえま~って感じでね。
「いつか必ずロック
「Nステにも出れますかね!?」
「ギャフントダウンTVにも出れちゃったり!?」
「おぉ、冠番組も遠くないですね!」
「めっちゃ話決まったっぽい雰囲気の会話してるけど」
「……未来は明るいなー」
「遠い目してんじゃないわよ」
こういう時って目先の事より将来の妄想に思いを馳せる事多いよね。
「……というかあんたあたしにタメ口使ってなかったっけ。しかもいきなりやみさんって呼んできてるし」
「前に言ったでしょ。ちゃんと尊敬する人には敬語を使うって」
「え……?」
「この前の記事もそうですけど、今日彼女達を見付けてくれてありがとうございます、やみさん。おかげで後藤さん達も元気を取り戻しました」
「……う、うん。なんか急に素直に言われると調子狂うわね……」
今日やみさんと司馬さんが結束バンドを見付けてなかったら今も雰囲気はお通夜状態だったかもしれない。
そう考えるとレーベルから声がかかるなんて、最上級のイベントに他ならない。どん底から一気に天井まで突き抜けていくほどのサプライズ。一個人の俺には到底成し得ない事だ。
これだけでもやみさん達には感謝しかない。
まったく、俺はこんなにもありがたがってるってのに、当の本人達は今ももう少し遊んで帰ろうとか花火買ってこようとか話していて完全に舞い上がっている様子だ。夏の暑さは健在なのに結構元気ですね君ら。
あれよあれよという間にコンビニで花火を調達し、陽キャ特有のてきぱき動作で花火の準備を終わらせた喜多さんがみんなに花火を配る。
まだ完全に夜でもなくオレンジ色の夕日が世界を染め上げていく中、後藤さん達はそれぞれ花火を楽しんでいた。司馬さんほったらかしにされてるのに保護者モードになってくれてますけど大丈夫ですかね。
「……仲の良いバンドですね」
ふと花火を楽しむ結束バンドを見て微笑む司馬さん。
視線の先には青春を体現したような景色が広がっている。
もはや自然にカメラを構えている自分がいた。
一枚撮る。見ると花火の煙も相まってジャケ写に使えそうなくらい幻想的な一枚だった。
ぽろりと口に出た。
「ええ、それが彼女達の強さですよ」
本当、一人一人の個性が奇跡みたいなバランスで成り立っているバンドだとつくづく思う。
「……さすがに盗撮は止めといた方がいいと思うわよ……」
「洒落にならない言い掛かりはよしてくれ威力業務妨害さん」
雰囲気台無し上等でやみさんと軽い取っ組み合いになった。
──
結局司馬さんとの話は後日レーベルの事務所でする事にして今日は解散となった。
虹夏さん達とも別れ、今は金沢八景駅から後藤さんと自分達の家まで歩いている最中である。
ライブ終わった直後は悔し涙と鼻水を流していたのに、レーベルからのスカウトで今はもうすっかり浮かれポンチモードだ。
電車の中でも普通に会話してたのにいきなりうへへ……とか妄想の世界に浸る瞬間が125回あった。
何ともまあ浮き沈みの激しい子だ。……それは元からか。元からだったな。
「れ、レーベルだよゆうくんっ、私達もこれで夢の印税生活……将来安泰……!」
「気が早すぎるし夢見がすげえ。事が上手く進みすぎだろそのルート」
こんな感じでさっきから無駄に将来が明るくなると信じ切ってる脳内ハッピーセットのアホピンクが出来上がっているのだ。
嬉しいのは分かるが、期待のしすぎも後から思ってたのと違ってたら反動でダメージ大きいぞ、とは言わない。浮かれポンチには多少のショック療法も必要なのである。
「は、早くお母さん達にも知らせたいねっ……」
「……そうだな」
それは本当にそう。審査に落ちた時は俺達以上に悲しんでたし、嬉しいお知らせならば早く伝えて喜ばせてあげたい。
多分明日の晩ご飯は強制的にご馳走とケーキになると思う。主にから揚げ増し増しで。
「あっ、そ、そういえば……」
「ん?」
「ゆうくんはその、レーベルの話を聞きに行く時……一緒に来てくれるの……?」
至極真っ当な質問だった。
「あー、どうだろうな。普通に考えたら結束バンドは後藤さん達の四人だけだし、サポート役っつっても多分事情を知らないあちら側からすれば俺は金魚のフンか部外者扱いだからな。下手したら追い出される可能性もゼロじゃないから多分行かない方が俺の身のためにな……うん、分かった。要検討するからマジの涙目はやめてくれ。こればっかりはどっちの方がいいか俺も分かんねえんだって! 一応行く確率高いってのだけは言っておくからっ」
一応名刺貰ったから結束バンドの関係者扱いとして認識はされてるのかなと勝手に思い込む事にする。
その辺の立ち位置が曖昧だから後藤さんもわざわざ『来るの?』ではなく『来てくれるの?』と質問してきたんだろう。念のため後日虹夏さんにも確認してみよう。
確定ではないが着いていく確率が高いと知った後藤さんはまたもご機嫌になった。
珍しく、本当に珍しく俺からではなく後藤さんから話を振ってきたり独り言のように語り出すのだ。
「こ、これでまた、私達は夢に一歩近づいたんだよねっ」
「ああ、そうだな」
「虹夏ちゃんの夢にも近づいて……結束バンドはまた大きくなれるんだ……」
「上手くいけばファンも一気に増えるかもな」
「……これ以上の規模で人前には出たくないかも……ああ……胃が……五臓六腑が人前に出る事に拒絶感を表してる……!」
「直前までの威勢はどこいった」
相変わらず感情の高低差が激しすぎて風邪引きそうなレベル。
しかし今日に限っては後藤さんの口は止まらない。彼女の声が小さくとも話し続ける姿はとても新鮮で見ていて飽きないのだ。
そして、そんな後藤さんの心なしか楽し気な話を聞きながら一緒に歩いて帰るこの時間が。
俺はどうしようもなく心地良いと感じた。
こうして、俺達の『未確認ライオット』は幕を閉じた。
審査には落ちたが、可能性を見出してくれた人に拾い上げられる形で。
今回で『未確認ライオット編』終わり!
意外と長かった……?
よくもまあここまで書き切ったなと自分を褒めてやりたい。好きで書いてる以上褒める事は何もないけれど!
次回からは何編なんだろう……と思いつつ、別にそんな拘る必要もないかという事で、普通に新しい話に入ると思います。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:ACT1601さん、匂坂さん、A_FGr000さん、ゆー@災難者さん
☆9:通りすがりのななしさん、サクサクチューリップさん、リュティさん、aaaaaiiiさん、タスマニアさん、イキョウさん、Sundenさん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん
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