再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
新章(?)開幕。
夏である。
そう、季節は忌々しい事にまだまだ夏真っ最中なのである。
しかし嬉しい事に俺達学生特権の夏休みもまだまだ続いていた。
今日も今日とて地元から約二時間かけて下北沢に移動し、真夏の太陽に照らされながらスターリーへとやってきた俺達。今日は何だかやけに太陽が眩しかった気がする。
早く秋になんねえかなと内心愚痴りつつ、いつも通り挨拶しながら涼しいライブハウスの中へ入ると、
「……いつからゾロになったんですかリョウさん」
「強いて言えば今日から」
金持ち(金無し)の山田がベース三刀流で仁王立ちしていたのだ。
さすがにお金なさすぎて家のコレクションベースを売る気にでもなったのかな。だったら早く借金返してくれないかな。
「違うよ優人くん、あれ全部ハイエンドベース。ローン組んで買ったらしい」
「ローン組む前に借金返せや」
「レーベル入るしよゆーよゆー。すぐ契約料貰って印税がっぽがっぽよ」
「あの人頭ん中ハッピーセットなんですかね」
「そうだよ」
そうだったのか。
「ところで何か今日の優人くん眩しくない? というかぼっちちゃんは? 一緒に来てるはずだよね?」
「ええ、後藤さんならいつも通り俺の後ろにいますよ、ほら」
「あっ!! おっ、おっはようございます!!!!」
「急にうるさっ! ってうわ、光ってたのぼっちちゃんだったの!? どうりで優人くんの背景が後光みたいになってると思ったら!」
「これが後藤さんならぬ後光さんってね」
「優人君そういうの今いいから」
喜多さんのドライな視線が痛い。今日の冷房きつくない?
それより後光さんマジで眩しいな。だから外歩いてる時も普段より太陽が眩しく感じたと錯覚してたのか。
「……え!? 伊地知先輩これ見てください! ひとりちゃんの着てる物……クッチのジャージにクロロハーツ全身ブランド成金コーデですよ!? ひとりちゃんいったいどうしたのこれ!?」
「あっへへ、動画の収益が貯まってて……バンド活動も進展したのでお父さんが自由に使っていいと言ってくれたから奮発しちゃいました……」
「優人君どうして止めなかったの!?」
「喜多さん、家は隣でも別々に住んでるから止められない事だってたくさんあるんだぜ」
「ごめんなさい私が間違ってたわ……」
分かってくれればそれでいいのよ。俺もまさか知らないうちに通販で注文してたなんて思わなかったもの。
今日迎えに行ったらいきなりドアが開いて出てきたのがコレだったんだぜ? 眩しさで失明するかと思った。
「こ、これからに備えてワンランク上の女コーデ意識してみたんですけどどうですかね……」
「服のオーラに負けてぼっちちゃんの顔がよく見えないんだけど……優人くん代わりに何か言ってあげて」
「せめてジャージ以外の服買えよ」
「問題そこなの!?」
実際あれは後藤さんが動画収益で稼いだお金だし、何に使うかは結局彼女の自由だから特に何も言えない。
まあもっと他に使い道はあったと思うが……あれだ。脳内ハッピーセットがもう一人いたと思えばいい。そう考える事で俺の思考は無駄な働きをせずに済む。……そのうち将来の事を考えてお金の使い道について話し合う事にしよう。
山田に関しては救いようがないので触らぬ神に祟りなし。
「はぁ……もういいや。みんな揃った事だし事務所行くよ。今日は話聞きに行くだけだからリョウもベース置いていってね」
「大切な我が子をこんな所に置いていけと言うのかっ」
「大切な我が子家にどんだけ置いてきてると思ってんの今更でしょ」
という事でリョウさんの無駄に高いベースは店長が預かってくれる事になった。
そしてみんなの準備も既に完了している……のだが。
「虹夏さん……最終確認ですけど、ほんとに俺も着いていって良いんですか?」
「も~、優人くんまだそんな事言ってんの?」
「や、だって俺はサポート役っつってもメンバーじゃない訳ですし、下手すりゃ門前払いされる可能性だってあるんですよ? そんなんされたらちょっと気まずいじゃないですか」
「気まずいだけで済むメンタルも中々だと思うけど……。ロインでも伝えたでしょ、絶対大丈夫だって。というかもし優人くんだけ追い返そうとしたら抗議してあげるから安心して!」
「虹夏さんのメンタルも相当じゃないすか。……まあ、分かりました」
リーダーがそう言うならとりあえず従おう。もし何かあった時は全力で謝るか逃げよう。
「そうと決まれば早く向かおう。ちなみに迎えは何。ヘリ? それともハイヤー? いやリムジンでも可」
「あっお迎えのマネージャーとかっているんですかね……へへっ」
「ここから徒歩三分だぞハッピーセット共」
頭ん中もう印税とか給料の事しか考えてねえのかこいつら。
高校生特有のこれさえ上手くいけば将来めっちゃ裕福な生活できるんじゃね的思考してる。大人の世界はそんな甘くないと思うぞ。主に転勤多かった父親の姿を見てたからそう思い込んでるだけかもしれないけど。
再びクソ暑い外へ。
近いとはいえ一応貰った名刺からスマホで調べてナビルートを見る。マジで近かった。
「ぼっち、三分圏内にでかい建物あったっけ?」
「……さ、さあ、どうでしたかね……。いつもゆうくんの後ろか隣に引っ付いてるのであんまり周り見てないです……」
後ろにいるおバカ達の会話を聞き流しながら虹夏さん達と前を歩く。
スマホで事務所の名前を調べたから出てくるのは当たり前なのだが、画面に映っているその名前をもう一度ちゃんと見てみる。
「ストレイビート、か」
「どんな事務所なのかしらね~」
無意識に口から零れた言葉に反応したのは喜多さんだった。
「楽しみねっ」
「ん~……まあ」
「あら、優人君はそうでもないの? そういえば伊地知先輩もあまり浮かれてないですよね?」
「いやぁ、あたしも楽しみは楽しみだよ? ただ、この前は悔しい思いをしてた直後にあれだったから深く考えずに喜んじゃってたけど、よく考えたらいまいちレーベルってよく分からないし話を聞かない事にはねぇ……」
「俺も同感です。さすがに前のライブハウスみたいに早とちりなんて事にはならないと思いますけど、こればっかりは直接会って話さないと分からないですもんね」
そもそもレーベルとは何なのか、事務所やレコード会社とどう違うのかなんて話にもなりそうだが、細かいとこまでは俺もちょっと調べただけで多くは分かっていない。
凄く簡単に言えば事務所はアーティストのマネジメント、レコード会社は音楽作品を販売する組織、そしてレーベルは音楽作品を制作するorさせる組織、みたいな感じだったと思う。
言わばレコード会社の下部組織のようなものか。そんで俺達はそのレーベル事務所に向かっているという訳だ。
果たしてどんな話をするのか、はたまた俺は入れてもらえるのか、主に後者が重要な部分ですね。
「そういえばどういう話をするのかまでは私達も知らないわね」
「大体はレーベル側の売り出し方とかお互いにメリットがあるような方向性とか、あとは契約の話とかじゃね。今のところ七割方は前向き検討だけどまだ完全に契約するとは決めてないからな」
「だねぇ。あたし達のやりたい事を尊重してくれるとこならいいんだけど、結構そうじゃないみたいな噂も聞くし」
「ええっ、そうなんですか? やっぱり音楽業界は甘くないのかしら……」
「それこそ売れるために音楽性を変えなくちゃいけなかったり、演奏レベルが低いからってメンバー一人だけ減らしてデビューさせるようなとこもあるって聞くぞ」
「……私ももっと頑張るわ……」
いや喜多さんの上達速度なら大丈夫だと思うけど。
というのも俺目線だからってのあるしプロを輩出する向こう側からするとまた見方や意見も違ってくるんだろうな。司馬さん自体は良い人っぽかったから心配はないと信じたい。
ここで何やら後ろの無駄遣いコンビがひそひそ話をしているのが聞こえた。
「……ぼっち、何かさっき優人達から完全に契約するとは決めてないとか聞こえたんだけど。これって気のせい?」
「あっい、いや……さすがにこの前大喜びしてたしそれはないんじゃないかなと……じゃなきゃ私達が買った高級品達が大変な事になります……」
「私達の手で何としても契約にこぎつけよう」
「あっは、はいっ……」
こっちが色々慎重になってるというのに何ともまあ気楽な会話をしてるおバカさん達である。
と、虹夏さんの足が止まった。
「あ、着いた。ここの二階だってさ!」
「「え」」
「わーお」
見上げればとても立派な建物……なんてのは幻想で、普通に……いや普通よりも結構ボロいレンガ調の雑居ビル(?)だった。
ネットにあった画像と完全に一致してる。お世辞にも小綺麗とすら言えない感じなのがもう何かアレだ。
さて、後藤さん達の反応でも拝んでやりますか。
「……い、いや、違う違う。虹夏に優人、そのナビ多分間違ってる。レーベルなんだしもうちょっとこう、ガラス張りの高層ビルとかにあるはずだって。そうに違いない、こんなボロいわけ……きっと何かの間違」
「みなさん来たようですね。お待ちしておりました」
三階建てオンボロ雑居ビルの階段から出てきたのは毛先ウェーブのスーツお姉さん、司馬さんだった。
これで確定したね。
「ほ、ほーん……? よく見たらレトロで趣のある建物じゃん。目立たないのにどことなく存在感を漂わせる雰囲気、こういう方が私は好みなんだぜ……」
「あっゆうくん見て……ハムスターいっぱいいるよっ。ペットの放し飼いもしてるなんて凄いとこだねここ……!」
「いいからそのドブネズミ離してあげなさい。普通に汚いしめちゃんこ威嚇されてるからね君。てかどうやって捕まえたんだ」
「この雑居ビルを褒められたのは初めてです。特殊な価値観をお持ちなんですね、さすがバンドマンとでもいうのでしょうか」
現実を受け入れられない脳内お花畑達は錯覚でも見ているらしい。思い込みの強さもここまで来るともはや狂気だな。
あと司馬さんも真面目に対応しなくていいから。あまり冗談通じない系の人なのかな。後藤さん達は今の状況が冗談であってほしいみたいだけど。
まあ俺も最初は警備員の一人か二人くらいはいるのかと思ってたけど、この様子だといなさそうだ。
おっと、司馬さんがいるなら今のうちに確認しておかないと。
「あー、その、司馬さん」
「はい、何でしょう」
「えっとぉ、一応確認しときたいんですけど……今日の話って俺も一緒にいていいんですかね? 俺自体は結束バンドのメンバーじゃないんですが……」
隣で虹夏さんがムムム……と黙っとけばワンチャンそのまま入れるかもしれないのに何でわざわざ聞くのかなという意味を含めた怪訝な顔で見てきているような視線を感じるが、これだけはちゃんと聞いておかなければならない。
そう、後から面倒事になるのは御免だからだ。どうなるにしても懸念点は最初に解消しておきたい。
しかし俺の質問に対して司馬さんはむしろ何故そのような事を聞くのかといった顔をしながら、
「もちろんです。清水さんは結束バンドにとって必要不可欠な人材だと伺っておりますので、どうぞ遠慮せず一緒にいらしてください」
「……は、はあ」
思ったよりも普通に歓迎されてるっぽくて逆に困ってしまった。
うん、まあとりあえずはこれで俺も一緒にいてもいいらしいので一安心、かな。……というか誰からそんな話を伺ってたんだろう。
「では、外も暑いのでこちらへどうぞ」
考えを巡らせる前に司馬さんに案内されたから二階へと上がる。
後ろで後藤さんとリョウさんがまだぶつぶつと微かな希望を捨てていないっぽい会話をしてるが、多分そろそろ限界だろ思う。
「まだだ、まだ希望はあるぞぼっち。大事なのは外見じゃねえ。中身だ……」
「は、はいっ……」
ドアを開け中に入る。
ふう、ようやく暑い外から涼しい室内に移れ……、
「狭い所で申し訳ありません。最近クーラーの効きも悪くて快適とは言いづらいですが、どうかご容赦を」
真夏にクーラーもまともに作動してないサウナ状態のレーベル事務所であった。
なるほどね、これはもしかして俺達試されてたりする? 大丈夫かストレイビート、そのうち潰されないかこの雑居ビル。
「さ、サウナも兼ねてるだなんて未来的な建物だなあ……。私的にはもうちょっと温度上げてもいいくらい……」
「あっ仕事中もサウナキメたいですからね……終わった後の水風呂……いや氷風呂が気持ちいいの何のっ」
嘘つけ。氷風呂で風邪引くようなヤツが強がってんじゃねえぞ。
そもそもサウナ行った事ないでしょうが。
「凄いポジティブな方達なんですね。高校生にしては中々のポテンシャルをお持ちのようで」
「ああならざるを得ない事情がありまして……放っておいて大丈夫です」
「彼も放っておいて大丈夫なんですか?」
「え? 彼って……って優人くん!? 何か溶けかけてない!?」
「暑さにめっぽう弱い優人君だものっ。せっかく涼しいとこに行けると油断してたらある意味外よりも蒸し暑い室内に連れてこられて限界が来たんだわ! ロウソクみたいに足から溶け始めてる!」
そう、俺は俺で絶賛溶けている真っ最中だ。階段を上っている途中から無言だったのもそのせい。
だって室内は涼しいと思うじゃん? 生き返ると思ったら追い打ちされるとは思ってなかった。ほら、お腹痛くてトイレに駆け込んでやっと用が足せると気持ちが緩んでたら全部使用中だった時の絶望感。あんな感じ。
「時々ぼっちちゃん達より世話のかかるサポーターだなあもうっ! 司馬さん扇風機ありますか!?」
「はい。さすがにそれがないとうちの社員もみんなダウンしてしまうので何台か常備してあります。二台ほど持ってきますね。……えぇと、どこにあったでしょうか……?」
「ぼっち、もっとプラス要素のある部分を見付けるんだ。じゃないと私達は取り返しのつかない事になるっ」
「あっはい! ええと……ひ、人が少なくて過ごしやすい!」
「プラスだ!」
「そんなこと言ってる場合ですか! ほら、ひとりちゃんもリョウ先輩も優人君の溶けた部分をかき集めるの手伝ってください!」
やはり結束バンドはどこに行っても結束バンドらしい。
こうもホームのように騒げるのはある意味長所と言っていいところなのか。アウェーとか基本ないのかもしれない。
まあ今こうなってる原因は俺なんですけどね☆
事務所入って速攻やらかす清水クオリティー。
ぼっち達とは別ベクトルでやべーヤツ。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:Macchan01さん、ドドドルドさん、るるのあさん
☆9:RubyStarさん、ぺとらさん、タスマニアさん、イキョウさん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん
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