再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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そろそろ花粉が猛威を振るう時期。
何ならもう鼻と喉がダメージ負ってる。




114.頼れる大人というのは思った以上に貴重な存在

 

 

 

「改めまして私、ストレイビートでマネジメントしております司馬都と申します。本日はご足労頂きありがとうございます」

 

「あ、ど、どうも……」

 

「ところで清水さんはもう大丈夫なのでしょうか」

 

「扇風機のおかげで何とか一命を取り留めましたので大丈夫です」

 

「そうですか。それはよかったです」

 

 ええもうほんとに。

 真夏だっつってんのに冷房無しの室内はただの地獄すぎますて。スーツ着用してんならエアコンの修理ぐらい依頼しといた方が絶対良いと思う。それだけで社員のモチベ上がるんじゃないかな。

 

 

「あ、優人君の溶けた残骸まだそこにあったわ。適当にくっ付けとくわね」

 

「おう、サンキュー」

 

「相変わらず普通の人間のやり取りに思えない事してるわね……」

 

「んぁ? ってあれ、やみさん?」

 

「え!? ぽいずんさんが何でここに!?」

 

 まさかの言いたい事も普通に言ってくる系女子(?)、ぽいずん♡やみさんのご登場でみんな驚いていた。浮かれポンチ二人組を除いて。

 

 

「はい、お飲み物どうぞー」

 

「どうも。で、やみさんどうしたんですか? まさかライタークビになってここで働き始めたとか?」

 

「クビにはなってないわよ! ただライターだけで食べてくのは難しいってだけ!」

 

「つまり?」

 

「ちょうど人手が足りないので彼女にもバイトとして働いてもらう事にしたんです」

 

 人手足りないレーベル事務所って大丈夫なの。最近はどこの業界も人手不足で大変そうだ。世知辛いねぇ。

 というかこういうレーベルってバイトでも働けるんだな。正社員とかじゃないと無理だと思ってた。

 

 

「やみさんいくらレーベルだからって変なキャラ付けしたまま社員の人に絡んでませんか。そこんとこ気を付けなきゃ変なレッテル貼られますからね。変な」

 

「変なを強調すんな! さすがにもうああいう事はやめたわよ!」

 

「確かに……そういえばこの前も思いましたけど、ぽいずんさん最近落ち着きましたよね?」

 

「あ、あの時はライターで生き残るために色々キャラ付けの試行錯誤してたから……あと今はやみって呼んで!」

 

 そこは変わらないのね。佐藤さんとかじゃないんだ。

 

 

「あ、アルバイトを雇えるくらい余裕のある事務所……」

 

「間違いなくプラス要素だぜぼっち。このままあと三十個はいこう」

 

 おバカコンビはまだ浮かれポンチモードから帰って来てないらしい。

 さっきからちょくちょく会話は聞こえてくるけど一生後藤さんがストレイビートの良い所を言わされててリョウさん何も言ってないんだよな。さすがダーヤマ、他力本願の極みだぜ。

 

 ちょっとした小話もほどほどに、いよいよメインに取り掛かる。

 

 

「ではそろそろ本題に入らせてもらいます。まずレーベルと聞いてどんなイメージを持たれましたか?」

 

「えっとぉ……アルバム作らせてもらえたりとか……? うちのお姉ちゃんも昔レーベルに誘われた事あるんですけど、そういう事言われたって聞きました」

 

「それでミリオンセラー飛ばしちゃったりぃ!」

 

「あと別荘貸し切って曲作りとか」

 

「あっ毎月事務所から給料出て働かなくていい……?」

 

 どうやら虹夏さん以外のメンバーは大層幸せな脳内をしているらしい。

 ましてやミリオンセラーなんて最近全然聞かんぞ。それもサブスクが主流になったせいもあると思うけど。

 

 司馬さんはみんなのイメージを無表情のまま受け止めつつ、

 

 

「なるほど。ちなみに清水さんのイメージを聞かせてもらってもいいでしょうか」

 

「俺も虹夏さんと大体は一緒ですかね。一応軽く調べはしましたけど、今の音楽業界だと大手以外はそんなに甘くないってイメージは抱きました」

 

「その通りです。残念ながら今の音楽業界では余程の事でないとデビュー時にそのようなバックアップはできません。実はCD一枚出すのにも結構ハードルが高かったりします」

 

「「えっ」」

 

 何か隣の浮かれポンチ達から素っ頓狂な声が聞こえたけど今は気にしないでおく。

 

 

「ここ数年で音楽業界の仕組みも大きく変わりました。CDを出したとしても昔のようにみんなが手に取ってくれる訳でもありません。しかし、今だからこそできる売り方もあります」

 

 そう言うと司馬さんは一枚の資料を俺達に差し出してきた。

 手に取ると同時に彼女はそれに書かれている内容を話しだす。

 

 

「まずは結束バンドのみなさんにこちらの予算で数曲作っていただいて、それを弊社がサブスクや動画サイトで順次配信していきます。そしてその売上や再生数が多ければ、今度はCDのミニアルバムを製作したいと考えています」

 

「な、なるほど……?」

 

「つまりお試しでそちらが制作費を出してくれた上で、結果が良ければミニアルバムも作ってくれるって事ですか?」

 

「要約するとそういう事です。今回は専属実演家契約という形式になりますね」

 

 ふむ、聞き慣れない単語が出てきたけどシンプルに考えると単純にアーティストとレコード会社が普通にする契約みたいなもんか。

 これで上手くいけば多少なりとも歌唱印税が入ってくる訳ね。

 

 

「プロモーションについてもこちらにお任せいただければと。ネット発の音楽ユニット『クリムトの夜』も弊社所属のアーティストなんですよ」

 

「クリムトの夜!? 私最近よく聴いてるわ!」

 

「喜多さん知ってるって事は人気なのか?」

 

「優人君知らないの? 最近深夜アニメのタイアップやって知名度が上がった人気ユニットよ! 深夜アニメだから優人君も知ってると思ってたのに」

 

「マジか。OPは基本飛ばさない主義だけと主題歌アーティストのとこを見落としてたか単純に見てないアニメだったとか? いやけどミーハーの喜多さんでも知ってるくらいに人気になったって事はアニメも人気なはず。とすれば俺が知らないはずないよな……やっぱ見落としてたのかも。多分曲聴けば分かると思う」

 

「アニメに対する自信凄いわね……」

 

 毎期アニメは大体網羅してるからね。気になったアニメはとりあえず三話まで見るのが俺流だぜ。

 

 

「ねえ、ひとりちゃんは知っ……もう何も耳に入ってなさそうね……」

 

「もももしもしさっき買ったベース返品できますか……?」

 

「あっタッタグ……タグさえ元通りにすれば返品できるはず……あ、あれ? も、戻らないぃ……」

 

 欲に呑まれしバカ共は後戻りできないとこまで来てたようだ。

 南無三。

 

 我らが大人のお姉さんである司馬さんは金の亡者など気にも留めずに説明を続ける。

 

 

「それと曲に制作費が出る事以外は今までの活動と特に変わりありません。みなさんのやりやすいようにやってください」

 

「結局ノルマに追われる金欠バンドマンのままって事ですね~……道のりは長いわ……」

 

「虹夏さん、どう思います」

 

「そうだねぇ……今のところ思ってたより全然悪い話じゃないかもとは思ってるよ。あたし達個人でやれる事にはどうしても限界があるし、お試しだとしても制作費を出してくれるのはありがたいもん」

 

 それは俺も同意見だ。ただでさえノルマや機材車を買うために貯金して常に金欠状態の現状で、制作費だけでもレーベル側が負担してくれるのは助かる。

 こちらとしてもデメリットはほとんどない。やれるだけの事をやってみる価値は十分にあるだろう。

 

 

「じゃあこの話受けてみま」

 

「ところで後藤さんはギターヒーローという別名義でも音楽活動をされてるようですね」

 

 言いかけて止まる。

 それに反応したのは虹夏さんと後藤さんも同様だった。

 

 

「……どうしてその事を? 司馬さんには話した覚えありませんでしたけど」

 

「いえ、この前のフェスの時にみなさんが大声で喋ってらしたので、気になって調べてみたらこちらのアカウントが出てきまして」

 

「……」

 

 そういえばやみさんが結束バンドに謝罪した時司馬さんも近くにいたんだったわ。

 思いっきりギターヒーローさんの居場所がどうとか話してたな……。そりゃ知られても仕方ない……けど。

 

 近くで突っ立ってるやみさんを軽く睨むと慌てたように地雷系の服装の人は目を泳がせていた。

 ……まあ、やみさん自体もあの時は純粋に反省しての事だし咎める理由もない、か。なら問題はここからだ。

 

 

「登録者数もそこそこいますし動画の再生数も100万回超えがちらほら……普通に凄いですね。演奏してみた系の動画がネット上にたくさんあるのは知っていますが、ここまでの再生数を誇っているのはそうそう見かけません。宣伝に使わない手はないので使っても問題ないですか?」

 

「えっ」

 

 やっぱりそう来るよな……。

 

 

「あっあの、それってやっぱり、公表しないとダメですか……?」

 

「こちらも慈善事業じゃないので売上やダウンロード数に良い影響を与えられる手段は全部使っていきたいのですが」

 

「あっ……」

 

 司馬さんの言っている事自体は尤もだ。レーベル側の人だから仕事としても利益に繋がる手段であれば利用するに越したことはない。

 その方が必ず注目度は上がるし確実に売上も上がるかもしれない。最高の一歩を踏み出すには十分すぎるほどの宣伝文句になる。

 

 ……しかし、それをギターヒーロー自身が望んでいなかったら何の意味もない。ましてや結束バンド全員の力とは言えないような売り出し方で売れたとしても後藤さんやみんなが納得できるはずがない。

 だからみんな未確認ライオットで少しずつでも成長するために努力してきたんだから。

 

 プロの世界だからそんな世迷言は通用しない。甘ったれた事を言うなと思われるのも分かっている。

 きっと今プロになりテレビでも活躍しているようなアーティスト達も、最初はこんな苦汁を飲まされているのかもしれない。

 

 アーティストの思いと会社側の方針が必ずしも合致する訳じゃないのだ。レーベルと契約して一緒に進んでいくのなら、必ずどこかでこういう問題にぶち当たるのは予想していた。

 ただそれが最初の最初、今になっただけ。

 

 つまり、こちらにとっての踏ん張りどころだ。

 

 

「その話ちょっと待っ」

 

「それって逆効果だと思いますよ~」

 

 俺の声を遮るように被せてきたのは結束バンドの誰でもない、まさかのやみさんだった。

 

 

「まだ結束バンドの後藤ひとりとギターヒーローは同等の力じゃないですし、最初に実は彼女がギターヒーローだった~みたいな売り出し方をしても確実に信じてはもらえないと思います」

 

「あなたどっちの味方なんですか……?」

 

「あたしは未来ある若者の味方なんで~! どうしてもそっちに肩入れしちゃうっていうか~!」

 

「いつ辞めてもらってもいいんですよ」

 

「容赦ないパワハラ!?」

 

 うん、何か大人同士でバチバチしあってるけど、ここは素直にやみさんには感謝しておこう。

 正直やみさんから擁護されるとは思ってなかったから驚いたけど。彼女のおかげで会話に割り込む隙ができたし、ここは遠慮なく口を挟ませてもらう。

 

 

「失礼ですけど司馬さん、俺もやみさんの言う通りだと思ってます」

 

「……清水さんもですか」

 

「はい。確かにギターヒーローとしての後藤さんの実力は相当ですが、結束バンドとしての後藤さんの実力はまだその域に達していませんし安定しているとも言えません。あくまで成長途中の段階なんです。なので今変にギターヒーローと銘打ったとしても、それが期待以下だった場合むしろ反感を買ってしまうリスクの方が高いかと」

 

「うっ……」

 

 チクチク言葉にダメージを受けてるところ悪いが堪えてくれ後藤さん。これも後藤さん、ひいては結束バンドのためなんだ。

 

 

「それにギターヒーローの正体を明かすにしても、後藤さんの実力がライブに追いついた時の方がきっと盛り上がりますよ」

 

「……理由を聞いても?」

 

「ヒーローって最初は正体を隠すのが王道じゃないですか。そんで最後に正体を明かした時こそ一気にみんなのテンションが上がるってもんです。熱い王道展開が嫌いな人なんて早々いませんよ」

 

「ふむ、そういうものでしょうか? すいません、私はそういったものに疎くて……」

 

 まあこういうのは大体男が好きなものだからね。司馬さんに刺さるとはあまり思ってない。

 今大事なのは結束バンドのやり方を司馬さんに納得してもらう事さえできればそれでいいのだから。

 

 司馬さんは顎に手をやり少し考える素振りをしてから、再び腕を組み直した。

 

 

「しかし……そうですね。確かにライブでまだ安定した演奏ができないのではマイナス要素の方が大きいかもです」

 

「そうですよぉ。メリットも少ないし今は絶対その時じゃないと思います。ギターヒーローファンのあたしが言うんだから間違いない!」

 

「それに私が以前のライブで心惹かれたのは後藤さんの演奏もそうですが結束バンド全体にです。個人だけを推す売り方は得策ではありませんね。何よりあなた方がやりたくないならやるべきではないでしょう。清水さんの言った事にも納得できました。最初にみなさんの方針を聞くべきでしたね、これは私の落ち度です。すみません」

 

「い、いえ、そんなっ!」

 

 やみさんが親指を立ててグッドサインをしてきた。

 小声でこれで今までの事はチャラにしてよねと言ってきてるけど、多分もうみんなとっくの昔に気にしてないと思うよ。

 

 

「まあ面倒見の良い家事炊事完璧イケメン彼氏だの学校一のモテ女だのこのいけ好かないキャラクターが大衆にウケるとは到底考えられないですしね。ちなみにこれ事実ですか?」

 

「あっ半分じじ」

 

「全て嘘です」

 

 このピン……今はクッチジャージだったか。何を平然と嘘つこうとしてんだ。

 俺の中のトランクスも全力否定してんじゃん。

 

 

 ややあって。

 司馬さんも結束バンドのやり方を尊重してくれているようだし虹夏さんも納得のいった様子で、

 

 

「あの、これからよろしくお願いします! あたし達結束バンドも精一杯やります!」

 

「っ、こちらこそありがとうございます!」

 

 これで正式に結束バンドはストレイビートと契約を結んだ。

 司馬さんの表情を見るに嬉しそうだったから多分この人普段仕事人間で表情筋固まってるだけなんだと思う。サウナ状態の室内なのに普通にスーツだし。

 

 

「司馬さんってバリキャリって感じするわ~! 見た目も性格もしっかりしてるし頼りにしてますね!」

 

「照れますね。まだ入社二年目ですが」

 

「え」

 

 マジかよ。てことは二十代前半? 

 こんなしっかりしてて? 

 

 

「こーみえてあたしの方が年上なのよ! この見た目で23歳とは思えないわよね!?」

 

 まさかのやみさんより一個年下だったでござる。

 というか俺の知ってる大人より大人してんだけど。まさかダメ大人三銃士が酷すぎて俺の中で大人のハードル下がってる……? 

 

 

「私はまだ年齢も経験も浅いです。ですが責任をもって結束バンドをサポートします」

 

「まあいざって時はあたしもいるし? 業界長いしコネもあるし? 頼れるお姉さんは多い方が安心でしょ?」

 

「その必要はありません。自分でやれますので」

 

「可愛げゼロかアンタ……」

 

「そういうやみさんはもう少し大人っぽくなった方がいいかもですね。見た目的に」

 

「何か言った?」

 

「いいえ別に」

 

 多分目が合ったらやばいタイプだ今。野生動物と同じ。

 

 

「まず一曲目のリリース時期は年明けを予定していますが、詳しいスケジュールは追って連絡します。受験もあり大変だとは思いますが10代の感性を大事にして経験を曲に詰め込んでください。これぞ結束バンドのキラーチューンというような曲、みなさんなら作れると私は思っています。期待してますね」

 

「はいっ、頑張ります!」

 

「そして清水さん」

 

「はい」

 

「私達はまだ制作費を出す事やレコーディング面での事務的なサポートくらいしか上手くできません。もちろんマネージャーも現段階では到底つきません。彼女達のメンタル面や身の回りについては特殊な立ち位置にいる清水さんにお任せしますね。レーベル側の私が言っていい事ではないかもしれませんが、結束バンドのサポート、よろしくお願いします」

 

「……はい」

 

 司馬さんからのお願いをしかと受け止める。

 俺の役割が断定した瞬間だった。

 

 

 そして隣からはこんな小声が聞こえた。

 

 

「(その前にノルマ代稼がないと……)」

 

 

 

 ……金銭面でのサポートはなしの方向でいこう。

 

 

 





ローソンのぼざろキャンペーン、ぼ喜多虹のクリアファイルは序盤に先んじて手に入れたけど、後日行ったらもう全部無くなってた件。
ダーヤマ店長姐さんどこ……。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:天魔89さん、ミル(*´∀`*)さん、Saーがさん、曇らせを貪り食らうバケモノさん、vongolaさん

☆9:ミルク寒天さん、タスマニアさん、イキョウさん、k_k0616さん、完全無欠のボトル野郎さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
ついに総合評価30000突破ァ!! 宴じゃ宴じゃ~!! みんなのおかげじゃ~!!
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