再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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水着回はまだお預けじゃい。




116.旅行前に色々決める時が一番楽しい

 

「最近リョウ先輩の様子がおかしいわ……」

 

「リョウさんがおかしいのはいつもの事だぞ喜多さん」

 

 夏休みのバイト中、喜多さんがいかにも不安そうに語り出した。

 大丈夫かな、暑さで頭やられたのかな? 

 

 

「そうじゃなくって! あれを見てちょうだい優人君!」

 

「ライブ楽しんでくださいねっ☆」

 

 喜多さんの指差す方を見ると、受付の方でいつものように接客をしているリョウさんがいた。

 ただし、普段見た事もないようなほどめちゃんこ笑顔で。

 

 

「うん、あれは異常だな。とうとう毒草でも食べちまったか」

 

「やっぱりそうなるわよね!? 変なモノ食べちゃったとかよね!? じゃないとあの先輩が笑顔で接客するなんてあり得ないもの!」

 

 ナチュラルに同意してくる辺り喜多さんもやはり天然鬼畜なとこあると思う。

 というか接客なのに普段から無表情で受付してるリョウさんの方がおかしい事に気付いた方がいい。ライブハウスだからそれも許されるって言われたらそこで終わりだけど。

 

 

「と、冗談はここまでにしておいて」

 

「優人君冗談だったの!?」

 

「虹夏さんはどう思います?」

 

「人生でここまでのタスクを積んだことないから壊れたっぽいね。あんな女の子してる笑顔のリョウは初めて見たよ。多分明日雪降るね」

 

 真夏で雪とかいよいよ地球が終わっちまうよそれ。

 にしても大方予想通りだった。ここ最近バイトスタ練車校新曲作りの連続だからリョウさんのキャパが完全にオーバーしてる。あの人の容量は多分TBもない。良くてMBだ。いつの時代だよ。

 

 

「普段からあんだけ愛想良かったら愛嬌も出てくるんだけどね〜」

 

「それには同意ですね。可愛い笑顔のリョウさんはギャップしかないですし俺得なんでもうしばらくあのままで良いかもなぁ」

 

「早く元に戻そう」

 

「早く元に戻しましょう」

 

 どうやら虹夏さん達はちゃんとリョウさんの心配もしているようだ。あの笑顔を写真に収めたいと思ってた自分が恥ずかしいぜ。

 

 

「けど今はまだバイト中だからまずは閉店まで頑張ろうっ。みんないつも通りお願いね!」

 

「分かりました!」

 

「はい」

 

「あっはい」

 

 とても正しい事を仰った虹夏さんの合図でそれぞれ持ち場に向かう。

 とは言っても今日は俺達全員キッチンでドリンク担当だから一緒にいるんだけどね。四人だと少し狭いが、今日出演するバンドはそれなりに人気があり客も結構いるのでスムーズに受け渡しを行う必要があるため、珍しく四人体制の配置になったのである。

 

 

「今日は多そうだな……。後藤さん、忙しくなるかもしれないから笑顔は大事だけど今日はそれよりもできる限りスムーズに受け渡しするよう心掛けてな」

 

「う、うん……が、頑張るねっ……」

 

「? おう」

 

 なんか後藤さんがふにゃふにゃした下手っぴスマイルを向けてきた件。

 笑顔の練習か何かなのかな。できればそれを俺にではなく客に向けてほしいんだけど。まあいいか、少なからず引かれるようなドン引きスマイルじゃなくなっただけでも大きな成長だ。優人さん嬉しい。

 

 

 ──

 

 

 その後は忙しくはありつつも何とか問題なく仕事をこなし、閉店時間になった。

 これで家に帰れるぞい……という訳でもなく、むしろここからが本番だ。

 

 

「あ、頭がこれ以上働かない……パンクしそう……」

 

「リョウ先輩が今にも死にそうだわ……!」

 

 テーブルに突っ伏しながらぐったりしてるグロッキーダーヤマが出来上がっていた。

 ぐでたまならぬぐでやまである。ぐでやまだでもいいな。どうでもいいか。

 

 

「来年リリースする新曲も書いてはいるんだけど中々いいメロディーが浮かばなくて……ぼっちとも色々考えてるんだけど難航中」

 

「まあそうぱっぱメロディーや歌詞が思いつく訳でもないですもんねえ。そこはまだ時間もあるし慌てる事もないですよ」

 

「今まで音楽とバイトだけだったのに車校も入ってきて、家でも五時間は学科の勉強で拘束されるし頭と手足が二つ分くらい足りない……」

 

「仮に二つ分あっても容量MBのリョウさんにはキツイんじゃないですかね」

 

「そんなこと言う悪い優人には私の親に言いつける罰を与えるよ」

 

「超絶親バカの山田ファミリーにそんな事告げ口されたら確実に秘密の地下人体実験室に送られるからやめてッ!!」

 

 いつから恐ろしい脅し文句を覚えやがったんだこのベーシスト……。

 

 

「ん〜、でもこのままって訳にもいかないよねぇ。リョウもぼっちちゃんも曲作り頑張ってくれてる事には変わりないんだし……結束バンドのメンバーなんだからあたし達がフォローしてあげないと」

 

 まあ、それはそうか。

 これでも二人はバンドには欠かせない作詞作曲担当。曲がないとバンド活動なんて到底できない。なので創作ができない俺達がこういう時にどれだけ後藤さんとリョウさんをフォローできるかが鍵だ。

 

 

「優人君、何か良い案ないかしら?」

 

「こういう時に一番手っ取り早いのは気分転換とかかなあ。夏休みだしどっか出掛けるとか。後藤さんでも行けそうな場所って条件が付くけど」

 

「あっうっ……」

 

「そこはまあ優人くんがいれば大丈夫でしょ」

 

 メンバーでフォローし合うって話はどこにいったんですかね。

 サポートはサポートでも後藤さん専属サポートじゃないんだぞ俺は。……いやプライベートはいつも専属サポートしてるようなもんか。

 

 

「ん〜……あっ、そうだ! だったらみんなで一泊旅行しようよ! こういう時は一旦いつもの場所から離れて違う環境で気分転換が一番だって!」

 

 ……ん? 一泊??? 

 

 

「ちょっとあの、虹k」

 

「ほら、司馬さんも言ってたじゃん! 十代ならではの事をたくさんしろって。どうせならみんなで夏休みらしい事しようよ! お姉ちゃんにはバイト休めるよう頼んでみるからさ!」

 

「楽しそうですね! 私は賛成です! ひとりちゃんもいいわよね!」

 

「えっいやっあっはい!」

 

 何だか話が勝手に進み出した。このままでは多数決で問答無用に可決されかねない。

 だってよく考えてもみろ。こういった時の女子の言う夏休みの一泊旅行と言えば大抵夏合宿と称して海だとか山だとか言いだすんだ。

 

 適当な観光地巡りならまだしも、海と山となった場合男一人の俺の肩身の狭さが基準値を大きく超えてしまう。

 だってあれだぞ。海とか山の川とか行ったら必然的に水着回になるパターンのやつだもの。部活系アニメでは定番中のド定番、テコ入れ上等視聴者歓喜のサービスイベントだもの。

 

 そんなとこに俺も一緒に行けば下手すると視線泳ぎまくりで不審者の出来上がりか冤罪紛いのセクハラ認定で社会的死が待ってるに違いない……。

 俺はまだ平凡な高校生活を送っていたいんだ! 

 

 

「けどどこ行くんですか? 私達機材車代貯めてるので余裕ないですけど」

 

「うっ、確かに……」

 

 これだぁ!! ナイスアシスト喜多さん! 愛してるぜ!! 

 

 

「ハッ……!? 何だか今ラブコメの波動を感知したような……?」

 

「いきなり何言ってんの喜多ちゃん」

 

「喜多さんの言う通りですよ虹夏さん。貯金しなければならない現状で一泊旅行は散財でしかありません。せめて日帰りで近場に遊びに行くのが限界かと」

 

「うーん……やっぱり厳しいかぁ……」

 

 よし、これで俺の平穏は守られ、

 

 

「そういえば海の近くに別荘持ってたはず。親に頼めば車も食費も喜んで出してくれると思う」

 

「それだぁー! そういやリョウの家お金持ちなの忘れてた!」

 

「俺の平穏がァァァああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

「ゆ、ゆうくんっ!?」

 

 悲しきかな。

 思えば部活系アニメに登場する人物の中には何故かお金持ちキャラが一人はいるという謎設定が存在するんだった。まさかリアルでこんな設定が被るなんて……。

 

 かくなる上は……! 

 

 

「虹夏さんっ、その一泊旅行に健全な現役高校生女子四人男子一人はさすがに不健全な匂いがするので俺は欠席させ」

 

「何を今更。あたし達は優人くんに期待も不安も抱いてないから一緒に来なさい。ちなみに拒否権はないよ」

 

「いやでも」

 

「リョウ」

 

「来ないと親に優人から抱きつかれたってあらぬ嘘を言う」

 

「喜んでご一緒させていただきます!!」

 

 きゃっほう美少女と海で水着イベント確定だぜこんちくしょうッッッ!!!! 

 天国と地獄という名の地雷原が入り混じる中でタップダンスしろって言ってるようなもんだぞこれ。生きて帰れるかなぁ……。

 

 

「海の別荘なんて俄然楽しみになってきたわ! ひとりちゃん、明日渋谷の108に水着買いに行きましょ! あそこなら可愛いのたくさん売ってるわ! ひとりちゃんの素材を光らせるわよ!」

 

「えっしぶっ……あっ嫌、はい!」

 

「映える浮き輪もたくさん持ってこなきゃ! 今から準備が忙しくなりそうだわ〜☆」

 

 凄いキラキラしていらっしゃる。どうやら東京イチの陽キャは映えが最優先であり男子なんて羽虫が如く気にも留めていないようだ。

 これはこれでありがたいかもしれない。変に気を遣われるよりもはやいっそいないモノとして扱われる方がこちらとしては気が楽だし。

 

 それにリョウさんはリョウさんだからいちいち男女のあれこれなんて考えてなさそう。だからこそ脅しでああいう事を言われると余計タチが悪いんだけど。

 虹夏さんは我らが天使でありママでもあるので多分直視さえしなければ眩しさで目が死ぬ事もないだろう。それに誰だって聖母によからぬ気持ちなんて抱かないもの。

 

 ……あれ? そう考えると一泊旅行も案外何とかなりそう? 

 そうだよ、よくよく考えなくてもこの偏食パーティー編成なんだ。よくあるラブコメ展開などあろうはずもない。もし似たような事が起きたとしても必ずどこかで破綻するに決まってるし。

 

 これで三人はクリア。クリアと言ったらクリア。

 で、後藤さんは……………………。

 

 

「…………後藤さん」

 

「あっな、何?」

 

「水着買ったら何度か先に家で見せてくんない? 早めに慣らしときたい」

 

「あ、う、うん……分かった……」

 

 よし、おそらく懸念点はだいぶ解消できたと思う。

 半分以上はただの推測だって? うるせえ、思い込みが時に平常心を保つ一番の安定剤になる時だってあるんだ。よおく覚えておきな。ちなみに自信の程は五分です。

 

 

「(あれが一番ヤバい発言だって理解してんのかな優人くん)」

 

「(それを普通に受け入れてるひとりちゃんも大概ですけどね。もし恋人同士だとしてもあんな会話しませんよ普通)」

 

「(……普通じゃないもんねあの二人)」

 

「(ですねぇ……)」

 

 何だか虹夏さんと喜多さん辺りから謎の侮蔑と諦観の視線を感じるのは気のせいかな。

 あれ、俺また何かやっちゃいました? 

 

 

「……あ、そういえばゆうくんは水着買いに行かないの?」

 

「俺は適当に通販で買うよ。男物は女子のとは違ってそんなバラエティー豊かでもないしな。それっぽい物でも選んで楽に済ませるわ」

 

「あっ、じゃ、じゃあ私もそっちにしようかな……」

 

「バカタレ。女子のは色々あんだから喜多さんとちゃんとした店で選んでこい。せっかくの海なんだからな」

 

「な、ならせめて着いてきてぇ……」

 

「おバカ。女子二人の水着の買い物に男子が着いてくなんてわざわざ白い目で見られに行くようなもんだぞ。というか個人的に敷居が高すぎる。俺にはオシャレな店じゃなくユニグロとかギーユーくらいがちょうど良いんだよ」

 

 そもそも渋谷でお買い物とかいう時点で場違い感が凄い。

 ああいうとこってオシャレすぎてむしろオシャレに見えないようなカラフルカラーな人ばっかいるの何で? 蛍光色大好きなの? と思ってる俺は既にオシャンティー路線から脱落だ。多分根本的に向いてない。

 

 あと渋谷は後藤さんとの相性最悪だけど、喜多さんがいるなら安心して任せられる。

 陽キャの街は陽キャに一任するのが手っ取り早いのだ。俺が着いてったらおそらく後藤さんと二人して挙動不審になる自信がある。我ながら自分自身リア充耐性がないんだなと実感した。

 

 世の中のリア充達はいったいどこでキラキラワールドに順応したんだろう。

 住む世界が違いすぎる。爆発してほしい。

 

 流れでリア充に怨念を送っていると、店長に話をつけに行っていたらしい虹夏さんが戻ってきた。

 

 

「みんな〜、お姉ちゃん休みくれるってさ! これで心置きなく気分転換できるね!」

 

「一気に五人も休み空けて大丈夫だったんですか?」

 

「お姉ちゃんが言うには大人舐めんな、二日くらい本気出しゃ余裕でカバーできるっての。だって」

 

「いつもは本気出してないって言ってるようなもんじゃないですかねそれ」

 

「たはは、まあそれはあたし達がバンド活動で貯金しやすいようにいつもシフト多めに入れてくれてるってのもあるからね〜」

 

 感服しました。ダメ大人三銃士の中では一番まとも枠に近い店長、さすがっす。

 

 

「リョウどうする? あたし達も近場に買い物行っとく?」

 

「お金な……いや今回の件と一緒に親に言えばワンチャン全部出してくれるか……?」

 

「真っ先にそんな考えに行き着くのほんとクズ思考極まってるよ」

 

 それで100%の確率で快諾するのが山田ファミリーなんですけどね。

 いっそハイエンドベースのローン分も払ってもらえ。何ならその勢いで借金返せ。

 

 長いようで短い夏休みはまだ続く。

 バイトやバンド活動を頑張る彼女達のサポートをしているだけの日々に、一つのイベントが舞い降りてきた。

 

 テーブルに頬杖をつきながら周囲を見る。

 一泊旅行の事について楽しそうに話す彼女達(一人を除いて)を眺めながら、ボソッと独り言が自然と出てきた。

 

 

「……何事もなく平穏に終われればいいなぁ」

 

 

 

 楽しみなイベントに思いを馳せる事もなく、ただただ俺はいるかどうかも分からない神様に向かって毎回何かしでかす結束バンドが平和に旅行を終えられるよう願うのだった。

 ……フラグじゃないよね? 

 

 

 





次回はさすがに水着回となります。絶対。

おお……前回たくさんの人が高評価をくれたようで久々に調整平均が上がりましたわい……もっと上がれぇ。
誕プレありがてぇ、ありがてぇよぉ……。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10. ssを読む程度の能力さん、淵丸さん、iyonaさん、ハイドロ凡夫さん、カルマ0ー5さん、読み手のコットンさん、sanaiさん、Rodríguezさん。遊技林さん、Mr.アヒルマンさん、黒安さん、トラ缶さん、ナタラさん、ponkichiさん、kazusinさん、怒り喰らうウケツケジョーさん、スケルトンさん、川城 友さん、りんごソーダさん、アラチックさん、容量くださいさん、幕張魂さん、あやじさん、ハッスルワンさん、MS,Xさん、剣 雄輝さん、佐藤やぁさん、森近さん、タマヒシャクさん、まさかマッカーサーさん、星空ナインさん

☆9. アイエエエ!?さん、komabobさん、孝坊さん、k_k0616さん、DEN-KOUさん、タスマニアさん、徹夜3612さん、名も無き管理職さん、ルドルフ主任さん、イキョウさん、kuro46さん、ザラメ雪さん、A・takeさん、火斗レアさん、完全無欠のボトル野郎さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
おかげさまでエタらずに済んでますぜ。
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