再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
水着回はどこからが水着回なんだろう。
水着を着ればもう水着回? それとも水着を着て海や川で遊べば水着回?
拝啓、皆々様。
本日はいかがお過ごしでしょうか?
今宵も空はすこぶる機嫌がよろしいようで雲一つない青空が空一面に広がっています。おかげさまでクソ暑い太陽を防いでくれる遮蔽物がなくて困っているところです。
それに何とも不思議な事に上を見れば青、下を見ても青が一面に広がっているのです。まるで上下を鏡に写しているかのようですね。ええ、海です。しょっぺえ水の溜まり場です。
しかし真夏のシーズン、夏休みでもあり本当なら人で埋め尽くされるであろうビーチには何故か人っ子一人いません。
不思議ですね。誰もいない白い砂浜の先には海が地平線の彼方まで伸びているだけです。ええ、プライベートビーチですね。すげえやリョウさん家。
さて、そんな訳でわたくし清水優人と結束バンドのみんなでやってきました気分転換の一泊旅行。
今回は病院経営をしている山田家のご厚意で別荘と食材の用意をしてもらい、ここに来るまでの移動もなんとリョウさんのお母さんが車で送ってくれたのである。とてもありがたいけど何故お金持ちキャラが日常系によくいるのか何となく分かった気がする。イベント起こすのに便利すぎるのだわ。
「来たぞ別荘〜!!」
「イエーイ!」
さっそくムードメーカー達が雄叫びを上げている。テリトリーを誇示してるのかな。多分違う。
「うっ……夏の日差しと陽キャの波動で動悸が……ゆうくんガード……」
さっそく人を盾にしだした陰キャがくたびれている。テリトリー誇示が効いてるのかな。多分そう。
「バカみたいに暑いけど潮風は気持ちいい」
「じゃあ俺は暑いんで別荘で涼んできます」
「待てい優人。一応ここは私の別荘でもあるんだから私の許可なしに入る事は許さん。というかずるい」
「残念ですがリョウママから別荘の鍵を預かったのは俺です。つまり俺は保護者枠兼一時的なここの最大権力者って訳でさぁ。ふはははっ、今の俺はアンタより一つ格が上の人間なんだよォ!」
「ぐぬぬ……!」
リョウママから何故か満面の笑みで鍵を渡された時はさすがに疑問に思ったけどね。
『リョウちゃんをよろしくね〜』って言われたからすぐに俺が保護者枠ねって理解した。あと純粋にリョウさんに鍵渡したらどっかで無くしそうだし。
「優人くん何だかテンション上がってますね」
「暑いから海じゃなくて別荘見てテンション上がってるっぽいね。それか暑さでやられたか」
きらきら組からなんか言われてるような気がするけどまあいい。今は一刻も早く別荘の冷房を堪能したい気分なのだ。
やっぱ涼しい室内が一番だってはっきり分かんだね。
「でも暑いのは同感かも……。どうせ夜バーベキューするし今日はそれまでだらだらしとく?」
「賛成で」
「えー! 海行きましょうよ! あの健康的な景色を前にして泳ぎたくならないんですか!? もうすぐそこに映えの楽園は広がってるんですよ!」
「陽の光を浴びて陽キャにバフがかかってる……」
こういう時の喜多さんって勢いで押してくるからこっちの言い分全然通らないんだよなあ。
しかしこちらには虹夏さんがいる。どちらかと言うとインドア系の虹夏さんなら持ち前のリーダーシップであのきらさん……じゃない喜多さんを言いくるめてくれるはず。にじかしゃんがんばえ〜。
「ん〜……まあせっかくだし海行ってみる?」
「え」
「いやほら、最初のうちに喜多ちゃんのバフ取り除いとかないと室内でずっとわがまま言うかもだし……。この前だって女子高生感が足りないってなってみんなで下北ぶらりしたでしょ? またあんな感じになっちゃうよ」
「……あー」
確かにそれは少し面倒かもしれない。主にそれで一番ダメージ喰らうのが後藤さんというのも含めてややこしい事になるのは必然だろう。
うーん……まあ、仕方ないか。
「……分かりました。こうなったらみんなで海行きますか」
そして観念して承諾した途端、喜多さんの行動はとても早かった。
「やったー! ずっと服の下に水着着てたから息苦しかったのよ! ようやく解放されるわー!」
「きゃあー!? ちょっと何いきなり脱ぎ出してんの喜多さん!? まさか優人さんを社会的に殺すつもりですか!? ヘンタイさんなんですか!?」
「小学生か! って優人くんの方が女子っぽい恥じらい方してるのも何なの!?」
周囲に人がいないとはいえさすがに突然衣服をパージする喜多さんはどうかしてると思います。しかも今の一瞬で髪型もおさげっぽくなってるし。イリュージョンかな?
一応男子がいるんだからそういうのはもうちょっと配慮していただきたい。バフかかりすぎてバーサーカーになったのかと思った。
「ふふん、どーお優人君私の水着っ」
「え、あ、うん、よろしいんじゃないかと思います」
「何でそんな微妙な反応なの!?」
「だって女子の水着の褒め方とかよく分かんねえんだもん! ギャルゲーだと好感度のプラマイ振れ幅が大きすぎるしましてや現実なんて下手な事言えるか! 『似合ってるよ』『どこが?』とか細かい事聞いてきたり『可愛いね』『変な目で見ないで』とか言われるに決まってるじゃん! 怖い!」
「優人くん変なとここじらせてるからなぁ」
「友達と遊ぶ機会なくてゲームばかりやってた弊害がここに来てるのね」
ちょっとめんどくさい友達の相手してる時の雰囲気出すのやめて。
どっか適当に遊びに行くだけならまだしも水着イベントはお互いの格好的にも気を遣うんだから仕方ないじゃない。こちとら男子一人なのよ。むしろそっちが気を遣って。
「大丈夫よ優人君、あなたには何を言われても好感度が下がる事なんてないんだから。ほら、ひとりちゃんともお家で慣らしてきたんでしょ? 感想を聞かせてちょうだい?」
「男子高校生的にビキニ系って全体的に目のやり場に困るなあって」
「…………」
「けどまあ似合っいでっ、ちょ、喜多さん? あだっ、ゆ、指二本で脇腹何度も突いてくるのはぐえっもはやただの攻撃になってませんことぶぇあっ!?」
無言で攻撃されるって事は多分選択肢ミスりましたね俺。
だってもう脇腹つんつんなんて可愛い擬音聞こえてこないもん。ズドムズドムって聞こえてくるもん。
「じゃあとりあえずあたし達も着替えよっか。ほら優人くんさっさと鍵開けて」
「は、はい……」
助け舟を出してくれた虹夏さんに内心感謝しながら逃げるように別荘の鍵を開けて各々荷物を置く。
とりあえず全体的に冷房をつけて部屋チェックを軽く済ませてから全員着替える事になったのだが……。
当然男子の俺は着替えなんてすぐに終わり部屋を出る。男の水着など全裸になって海パン履くだけで終わりなのよ。一応上に薄いパーカー羽織ってるけど。
部屋を出れば着替えに時間のかかる女子達はまだおらず、先に衣服の下に水着を着てきていた小学生思考の喜多さんが水着のまま映え写真を撮ろうと別荘内で良いポジションを探していた。暇持て余してんなぁ。
「あ、優人君早いのね」
「男子は基本履くだけだからな。こういう時はすぐ準備終わるし便利なんだよ」
「めちゃくちゃ視線合わせてくるわね」
「むしろ一点集中してた方が変な疑いかけられないかなって」
露骨に目を逸らすのでもなく目を泳がす訳でもなく、常に相手の目を見ていれば逆にやらしいとか不審な目で見られないかもしれない。
ほら、女子って男子からの視線に敏感だって言うし、自分がどこを見てるかも言われないだけで勘付かれてる確率の方が断然高いらしいしね。
「……別に優人君に他意はないなんて分かりきってるから気にしないわよ?」
「信用してくれてるのは嬉しいけど多少は気にした方がいいんじゃないかそれ……」
「だって優人君だもの♪」
何それ逆に怖い。
「というかひとりちゃんと家で水着観賞会したんじゃないの?」
「言い方。や、一応見たけどさ……」
「どうだったの? 一緒に買いに行ったはしたけど何買ったかまでは見てないのよね私」
「渋谷だからか今どきかは知らんけどあの辺りの流行りファッションって結構奇抜なんだなって」
「ちょっと不安になってきたわ……。でも私が店内見た限りだと変な水着は売ってなかったはずだけど」
俺だって女子の生水着とか小中学生ん時のスク水しか見た事なかったし、大体はアニメとかそういうのでしか見てないからリアルの流行りはよく分かってないのだ。
ああいうのが実は今どきのものなのかと思って不思議に感じたけど、まあ喜多さんと買いに行ったんなら間違いではないかと指摘はしなかったがまさかね。
そんな話をしていると部屋の方からドアが開く音がした。
誰かが着替え終わったんだろうと視線を向けると、我らが天使のご降臨であった。
「お〜っ、伊地知先輩の水着ハイウエストデザインで可愛いですね!」
「夏休み食べすぎちゃったから体型隠しだけどねぇ……で、優人くんは何してるの」
「あまりの眩しさに失明しないようにってのとご礼拝のために土下座しております故、気にしないでください」
「ああ、いつもの病気ね」
「ちょっと優人君私の時と反応違いすぎないかしら!?」
人間と天使を比べるなど不敬ですわよ喜多さん。
「同じ人間扱いされるだけマシだと思いなよ喜多ちゃん。そっちの方が土俵は同じなんだから」
「先輩の表情が菩薩になりかけてるわ……神聖扱いされすぎるのも考え物なのね……」
次に出てきたのはリョウさんだった。
「きゃ〜! リョウ先輩のシースルー水着大人っぽくて綺麗〜! 腹筋割れててスタイルも最高です!」
「一番自堕落なくせにスタイルだけは良いの解せない……」
「草ばっか食べてるからむしろ痩せ気味説とかないですかね」
「あれ、リョウは普通に見ても平気なんだ?」
「無駄に現実離れというかモデル体型の人っていっそアートな芸術品っぽいから大丈夫です。少年誌でよく水着モデルが表紙とかあるじゃないですか。あれと似たようなのかもしれません」
「あたしには優人くんの基準がもう分からないよ……」
「無駄にって言ったの聞こえてるからな優人」
おっと失言失言。
ふむ、しかし改めて喜多さん達の全体像を見ると定番のフリルビキニ、ハイウエスト、シースルーとそれぞれ個性の異なる水着で実際見栄えは良いと思う。
漫画やアニメで培った知識しかない俺でも何となくこれらが流行なんだなと分かるくらいだ。これがクラスの男子共にバレた暁には確実に俺は殺される。あいつら今頃クソ暑い中部活やってんだろうなあ。愉悦愉悦!
で、だ。
お三方の水着を見たからこそ思う。俺の中のコナン君があれれ〜おかしいぞ〜と何度も遠回しの疑問をぶつけてくる。
はてさて。
俺が見た後藤さんの水着は本当に流行りの物だったのかと。
「ひとりちゃんもそろそろ着替え終わったかしら?」
「まさかスク水とかじゃないよね?」
「渋谷の108で買ったんで流行の水着なはずですよ! 優人君の発言聞いた後だと少し自信なくなってきますけど……」
「……優人くん、一応聞いても?」
「率直に言わせてもらいますと虹夏さん達の方が目の保養になるのは確かかと」
「ぼっちちゃんのせいで大抵の女子に免疫ついてるあの優人くんがそんなこと言うなんて……!」
あのって何だあのって。
「ひとりちゃんの素材はそれ相応のモノじゃないと悪くならないはずなんだけど……」
「思い出せ喜多さん。ライブTシャツのデザイン作る時に後藤さんがデザインした厨二満載のアレを」
「そういえばひとりちゃん自身が自分の良さを全部潰すセンスの持ち主だったわ……」
悲しい事件だったね……。
ここまで来るとさすがの俺も察した。
おそらく後藤さんの水着チョイスはミスっていると。
三人のを見ても奇抜と思えるものはどこにもなく、ちゃんと人気がありそうなデザインだと男目線でも何となく分かる。だから家で見たアレは多分そのどれもから外れているのだと確信した。
やはりあの時点で指摘すべきだったかもしれないと今更ながら後悔している。俺も流行くらいは調べておくべきだったかなあと思い始めてるくらいだ。
つまり無知は罪である。今から出てくるのは果たして水着女子と言っていいのか疑問さえ出てきてしまう。そう、彼女に……後藤さんに世間の常識は通用しないのだ。
「あっ着替え終わりました……!」
そして、一番最後に彼女は出てきた。
それは背中に小さな天使の羽みたいなのが付いていた。
それは胸部の辺りに謎のぐるぐる線が書いてあった。
それはパンツ部分にスズメバチのような黒い縞々模様があった。
それは多分一応は水着と言っていいものか迷うものでもあった。
それはむしろ昔のテレビにあったようなコントに使いそうなふざけたデザインにも見えた。
つまりは謎の妖精的なナニかがドアから出てきたのだ。
最初に反応したのは当然一緒に買いに行ったはずの喜多さんだった。
「絶対そんなの売ってなかったわよ!!」
「……優人くん、何か言う事は?」
「もっと早く止めておくべきでした」
「あっえっ……!?」
これからは後藤さんのために女子物の流行も調べておこうと密かに思う俺なのであった。
実際ぼっちのあの謎水着はどういうタイプなんだろうね。
ビキニじゃないのは分かるけどセパレートと言っていいのかも分からんし、タンキニは上下分かれてるっぽいしなあ。調べてみてもよく分からなかったぜ。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10. ユラリアさん、ポンジュ~スさん、vongolaさん、ふるさびさん、雪音久遠さん、天魔89さん、完全無欠のボトル野郎さん
☆9. チャピオさん、禍人さん、yoshi10203040さん、イキョウさん、seminさん、タスマニアさん、ザラメ雪さん
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