再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
GW明け辛すぎんよ〜。
結局後藤さんは渋谷で買った水着を一応持ってきていたらしく、喜多さんに着替えさせられていた。
そして当然その水着は俺も初見だった訳で。
「きゃ〜! やっぱりこっちの方が絶対可愛いわよ〜!」
「うっ……でもこっちは地味な気が……」
「で、優人くんはどこ見てんの」
「太陽です」
「ここ室内だけど」
俺レベルにもなると天井から太陽くらい透けて見えるんですよ。ほら、白眼的な何かでね。はい嘘ですごめんなさい。
さっきまであんなふざけた水着だったからと油断してた。そのせいで最初のインパクトが半端なかったのだ。
髪は喜多さんがやったのか両サイドを団子のように纏められ、肝心の水着は黒のビキニに所々フリルの付いたごく一般的な水着。……だと思っていたのだが、一部が明らかにおかしかった。
具体的には胸部、胸元の所にハートマークの穴が開いた超セクスィー仕様になっていたのだ。さすが渋谷、頭がおかしいぜ。
とまあこんな訳で俺は絶賛後藤さんを直視できない状況になっている。
何でこんな無駄に大胆な水着をと思ったが後藤さんの事だ。おそらく店員に話しかけられるのが嫌でろくに試着や確認もせず購入したんだろう。じゃなきゃ彼女がこんなの選ぶはずもないし。
そして俺はもう一つ油断していた。そう、後藤さんが常に特等席と称してそのポジションにいつも来る事を。
つまりは俺のすぐ背後にくっつく形で、後藤さんは水着姿のままいつも通りに密着してきたのだ。
「うぅ……地味な水着で恥ずかしい……」
マジかこいつ。そんなの着といてこれで地味だったら世の女性はどんな派手水着を着なきゃならんのだ。
あと何がどう地味だと思ってるんだろう。ツッコミのために詳しく聞きたいけど、多分聞いたらセクハラ扱いされて虹夏さん辺りに目玉潰される恐れがあるからやめておく。へっ、命拾いしたな俺。
「さ、さっきの水着の方がゆうくんも良かったよね……?」
「え? ……あ、あ〜、そうだなぁ。そっちのが面白さでは勝ってたかもなー……」
やべえ今の問いに対する正解が分かんねえよどう答えたら正解だったの。
「だ、だよね……ウケると思ったのに……」
まさかの正解だったようでござる。さすが後藤さんだ。こちらの想像をいとも簡単に斜め上へ行きやがる。
少なくとも男ウケが良さそうなのは今の方だと言うのはやめておく。彼女的にそれを言われても全然プラスにはならないしな。あとなんかムカつく。
「さあみんな着替えた事だし海に行こっか」
「ようやくですね! 待ってました〜!」
痺れを切らしたのかムードメーカー組が颯爽とスタートダッシュを切っていく。喜多さんは何やら空気を入れる前の浮き輪も何個か持ってったようだ。
これでも俺も含めてみんなまだ高校生だし、普段行かない海に来るとやはり内心テンション上がっていたのかもしれない。後ろの後藤さんと気だるげなリョウさんを除いて。……海に来といてこんなローテンションとかほんとに高校生かよ。と思ったけど俺もそんなだったわ。暑いの嫌い。
正直別荘内で涼しくのんびりしておくのも悪くないと思うが、俺だけそれをしてると必ずこの二人は俺だけズルいと言って外には出ないだろう。そもそもこの旅行はアンタらのための気分転換だというのを忘れないでほしい。
仕方ない、俺も我慢して行きますか。
と、その前に。
「後藤さんとリョウさんは先に喜多さん達のとこ行っててください。俺はパラソルやらビーチチェア持って準備しなきゃなんで」
「じゃあパソコンと適当に飲み物も持ってきといて」
「そんぐらい自分で持っていけや分かりました」
「怒りの本音が隠しきれてない」
おっといけないいけない。気持ちを抑え込むよりも先に口から出てしまったか。
「あっ、わ、私も手伝おうかな〜なんて……」
「手伝いを言い訳に陽キャから逃げるんじゃありません。俺は大丈夫だから海行ってきな。他に人もいないからまだマシだろ?」
「うっ……わ、分かった……」
足取り重そうに後藤さんが外へ行く。その後ろ姿はまるで逮捕された犯罪者みたいなトボトボ具合であった。とことん太陽と相性悪いな。
まあ俺もさっさと荷物持って準備しますかな。
……そういや後藤さんって泳げるようになってたっけ。確か小学生の頃は全然ダメだったような記憶がある。
再会してから聞くような事でもなかったからそこら辺は把握できてないんだよな。多分十割方泳げないんだろうけど。
「……これもサポートの内か」
早めに行ってやろう。
その後は何事もなく砂浜にパラソルなどを設置してチェアと休憩用にレジャーシートを敷きおおよその準備は完了した。
にしても暑い。何もしてなくても暑いのに色々やってたせいで余計に暑い。一応濡れてもいいパーカーを着てはいるけど普通に脱ぎたいくらいだ。何なら入るつもりなかったけど海入りたい気分。これが夏の海効果か……。
「設置ご苦労。パソコンとジュースもちゃんと持ってきたの偉い。褒めて遣わす優人」
「ずっと待ってたなこの野郎」
すぐさま日陰のチェアに寝転びパソコン起動、ジュースを片手に動画配信サイトを開き始めたリョウさん。
海に何しに来たんだこいつ。これ部屋でやってる事と何一つ変わらんだろ絶対。
「ぼっちもいるよ」
「うおっ、後藤さんいつの間に!?」
気付けば後藤さんがシートの上に座っていた。
最近俺の後藤センサーを掻い潜ってくるから気配察知できない時あるんだよな……。見つけたい時に見つけられないので普通に厄介である。
「何してんの後藤さん」
「お、泳げないから……」
「……あー、ね」
やっぱりか。どうやら俺の勘は当たっていたらしい。マジでギター以外はてんで成長してないなこの子。何ならできるんだ。昼寝?
しかしせっかくの海。どうせなら後藤さんにも楽しんでほしいというのが俺の気持ちだ。じゃなきゃ何のために気分転換旅行しに来たのか分かんないし。
「じゃあ後藤さん、俺と一緒にボートでも乗ってみるか。後藤さんは座ってるだけでいいからさ」
「っ! の、乗ってみたい……!」
「了解」
もっと臆するかと思ったけど意外に積極的なのは他人と接する必要がないからだろう。
ボートなら泳ぐ必要もないし波もさざなみ程度。深い所には行くつもりもないから溺れる心配もないだろ。
そして。
「がぼばばぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
「……」
溺れた。それはもう見事に頭から落ちてターミネーターのように沈んでいった。
まさかさざなみ程度の揺れでボートから落下する人がいるとは思わなかったわ。一応浅瀬だから足着くはずなんですけどね。人は4〜5センチからでも溺れるというのは本当だったか。これから水場近くにいる後藤さんの事は今まで以上に見張っておかないと。
とりあえず後藤さんを救助して一旦砂浜へ。この子には海以外で幸せになっていただこう。
泳ぎを教えるにしてもあんなんじゃ多分数時間程度でどうにかなる問題ではないと思う。今日のメインは遊びと気分転換だからそういうのはまた今度だ。……機会があればね。
ついでに哀れすぎて後藤さんの水着姿も普通に見れるようになったからプラスと考えておこう。ほんと他に人がいなくてよかった。
さて他のみんなは……と思ったところで何やらゼェハァと荒い息遣いが聞こえてきた。溺れてた後藤さんが息を整えてるのかと思ったけど違うらしい。彼女は彼女で口から魚やカニを吐き出してる。どういう状況?
で、本命の正体は。
「ハァ……ハァ……! も、持ってきすぎたかしら……」
大量の浮き輪を膨らませている最中の喜多さんであった。
踏むタイプの空気入れを必死にせこせこと踏みながら、同時に他の浮き輪を口で加えて空気を入れてるらしい。そりゃ疲れるに決まってるわ。
「大丈夫か喜多さん」
「ゆ、優人君……ふひゅー……」
「別に全部膨らます必要はないんじゃないか? 酸欠になっちまうぞ」
「ひ、人もいないしこんな絶好の撮影チャンス滅多にないんだから今こそ撮り時なの……!」
喜多さんも後藤さん程ではないにしろ承認欲求高めよね。人がいないプライベートビーチというレア感は分かるけどそこまでするかね。いやしてるか。
浮き輪もサメ型とかでかい貝殻やアヒルなど色々ある。一個一個が無駄に大きいなおい。海入った後みたいなレベルでめちゃくちゃ汗かいてんじゃん。陽キャも大変だなぁ。
しゃーない、見ちまったが最後。ここは俺も手伝ってやろうじゃありませんか。
「そんなにあったら大変だろうし俺も手伝うよ。その途中のやつ貸してくれ。喜多さんは空気入れ使ってくれてていいから」
「……え? 待っ、それ私がくt」
近くにあったアヒル型の浮き輪を取り空気栓を摘みながら口に咥えて空気を入れていく。
……これ肺活量めっちゃいるな。この大きさだとちょっとしたトレーニングレベルだろ。一人でこんな重労働やろうとしてたのか喜多さん。自業自得だけど体張りすぎじゃない?
「……ふぃー、結構疲れんな。ムキになって限界までやったらマジで酸欠なりそう。ああでも喜多さんはボーカルだし肺活量には自信ある方か……ってさっきから黙ってるけどどした? 疲れたか? それならあとは俺が全部やるから休憩してていいぞ?」
「……だ、大丈夫っ……早く終わらせましょ……?」
「お、おう?」
何だ、早く撮りたいから黙って集中してたのね。
じゃあ俺もっと急がなきゃじゃん。任せろ、多少の酸欠くらいならものともしないぜ俺は。みんなが有意義な時間を過ごすためならこの清水優人、身を捨てる覚悟で体を酷使しましょうぞ!
「ゼェ……ハァ……ぉぶ……き、気持ち悪ぃ、死ぬぅ……」
「だ、大丈夫ゆうくん……?」
結果見事に体中の酸素を吐き切って死にかけてます清水優人です。
やっぱ見栄張るんじゃなかった……空気吐きすぎて胃袋の中の昼飯がそのまま出てくるかと思った……。さすがにプライベートビーチで吐くのは気が引けるので全力で我慢だ。みんなは大きな浮き輪に空気を入れる時は必ず空気入れを使おうね。
そんな俺は只今後藤さんに膝枕をされて看病してもらってる最中である。
疲労困憊になるまで遊んだ訳でもないのに準備段階でこうなるとは俺も思ってなかったよ。喜多さんはもっとはんせいs
「よーし、ビーナス誕生よ〜!」
巨大な貝殻の浮き輪に乗って自撮りしまくっていた。
……満喫してんのならそれでいいか。
「ま、まだくらくらする……?」
「ん〜、ちょっとぼーっとするくらいだからそろそろ大丈夫だと思う」
多分この暑さも含めて体力多めに持ってかれたんだろう。
もう別荘戻っちゃダメかなー。
「な、何だったら私が人工呼吸するから……!」
「せんでいい」
いきなり突拍子もない事を言い出すのは心臓に悪いからやめてくれ。そもそも意識あるのに人口呼吸すんのもおかしいから。
うん、心の中でツッコミが出てくるくらいには回復してきたか。俺の看病を海で遊ばなくていい口実に使っている後藤さんを早く虹夏さんに渡さなければ。
「あれ、二人ともそんなとこで何してんのー? 優人くんぼっちちゃんに膝枕されてんじゃん」
「あっ、えと……ゆうくんが喜多ちゃんの浮き輪に空気入れるの手伝ってて、それを全部口で空気入れてたら疲れたらしくて……そ、それで私が人工呼吸しようとしてるとこです……!」
「…………優人くん?」
「あの、一応俺って今弱ってる状態なんで少し手心といいますか手加減といいますか……というか普通に考えて後藤さんの発言の方に疑問持ちましょ? いつもの意味不明発言ってくらい虹夏さんも分かるでしょうよっ。ちょ、ねえ待って。何でじりじり近寄ってくんの? 何で天使の微笑みのまま一歩一歩来るの? ご、後藤さんっ、後藤さんヘルプ! 多分あれダメなやつだ。俺が動けない事をいい事に何かしらしてくる時の顔だから!」
「えっあっ」
「どうせ動けないんなら、動けないなりに海を楽しもっか♪」
「あっ」
どこからか出してきたスコップを片手に虹夏さんは俺に向けていつもの天使スマイルを見せてきた。
「でーきた!」
「ゆうくん……」
ものの数分で俺は首から下を砂で埋められた。
ドラムやってるだけあって虹夏さんのスコップ捌きは高速で、砂の重さなんて一ミリも気にした様子なく作業をこなした訳だ。これが砂風呂か〜。
「みんなで何やってるんですか〜!」
ちぃっ、こんな時に喜多さんまで参戦とか絶対めんどい事になるやつじゃん!
リョウさんは……いつの間にか一人で海に行ってやがる……まあ元々あの人に助けを求めるのは厳しいか。
「優人くんで砂遊び!」
優人くん“と”じゃないんですねそこ。あ、はい何でもありません。
「優人君何かしたの?」
「俺が何かした前提で質問してくるのおかしくない? ちなみに原因は後藤さんの失言だからな! 俺は悪くねえ!」
「そうなのひとりちゃん?」
「えっあっ……」
ちくしょうこういう時に限ってどもるんだからこの子はもうっ。いや通常運転だったわ。
「ええい、俺が説明すr」
「喜多ちゃん、かくかくしかじかなんだよ」
「なるほど、優人君の有罪ですね!」
かくかくしかじかで伝わるのもおかしいし何がどう伝わったのか俺が全面的に悪い事になってる件について。
大体こうなると二人の気が済むまで俺がお仕置きされるという定番の流れだ。わざわざ旅行まで来てお仕置きなんて俺も嫌だ。
かくなる上は逃げる一択。
こんな砂程度、いつものように人間辞める勢いでいけば脱出できるのだよぉ」!!
「ふんぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「なっ、優人くんが何か凄まじい力で砂から出ようとしてる……!?」
「かつてない程の抵抗力だわ……!」
「なんの、これしきぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
体中の血管がはち切れそうなくらい力を入れ、徐々に固められていた砂が解れていく。
いける、いけるぞ……!
「……あれ、なんかリョウ先輩全力でこっち来てません?」
「ゆ、優人ぉっ! さ、サメ、サメがいt」
「ふんぬらばぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
ざっばぁぁぁっ! と、勢いよく立ち上がる。
よし、脱出成功! あとは夜まで逃げるだk…………ん?
「……何だ? 何か手に触れて、る……?」
自分が砂の中から脱出する事に全力を注ぎすぎて周囲への注意力が散漫していたのが原因だったと思う。
目の前にはリョウさんがいた。しかも驚きと恥ずかしさでどうにかなりそうな顔をしながら。
「……」
そう、勢いよく飛び出した手の先に何かが触れていたのだ。
変に手の中に収まりが良くて、何だか……。
「やわらk」
「ふんッッッ!!」
「ぶぁがばっ!?」
結論に至る前に、そこで俺の記憶は途切れた。
水着回だから一回くらいラキスケやっとくか〜って思ったら被害者はダーヤマでした。
普段照れない人の照れは良いもの。
多分ラキスケイベントは今回が最初で最後です。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10. 黒乃輝さん、A_FGr000さん
☆9. タスマニアさん、ザラメ雪さん、イキョウさん
いつも感想高評価お気に入りに登録ここすきthank you!
そういやマシュマロで貰った各キャラの相互好感度なるものを活動報告に書きたいなって思ったりしてます。
出来次第あとがきで報告しますね。