再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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リアルが忙すぃ。



119.バーベキューとは得てして肉を奪い合う争いなり

 

 

「……な、ナタデココ!?」

 

「あ、優人くん起きた?」

 

「え、あ?」

 

 目が覚めたら目の前に虹夏さんがいた。あれ、ここって別荘の中? 

 何でこんなとこで寝てたんだ俺。確か砂風呂みたいに埋められてたとこまでは覚えてるんだけど……ダメだ、何故かその後が全然思い出せない。砂に埋められてた最中に熱中症にでもなったのかな。

 

 ……ん? いやいやちょっと待て清水優人。それよりも今のこの状況の把握が先だ。

 俺は何故か気を失ってた、それは確定事項。詳細は思い出せないけど別荘の中で寝てたって事は揺るぎない事実だろう。しかし問題はそこではない。むしろ眼前にある。

 

 目を開けたら虹夏さんがいた。眼前に。

 そこでまず疑問に思うべきだった。どうして寝てたはずの俺のすぐ真上に虹夏さんの顔があるんだろうと。

 

 

「……あのぅ〜、に、虹夏しゃん?」

 

「どしたの? 寝起きだからまだ呂律回ってないよ?」

 

「何故わたくしめはあなた様に膝枕をされているのでせうか?」

 

「ぼっちちゃんもやってたからあたしもいいかなーって」

 

 なるほど、夢だなこれ。どうもおかしいと思ったんだ。

 記憶がちぐはぐだし身に覚えのない膝枕なんてどう考えたって現実的じゃない。つまりこれは夢、ドリームである。

 

 ふむ……しかしそうなるとどうしたものか。夢の中で夢と気付くのは確か明晰夢だっけ。こんな体験初めてだから興奮よりも戸惑いが大きい。

 ……つうか夢って自分の願望や気になるものが現れる深層心理みたいなものとも言うよな? ちょっとやだ、俺ってば虹夏さんに膝枕されたいって心のどこかで思ってたって事? 何それ恥ずかしいやめて。

 

 いや、これが現実なら悶絶ものだが夢ならまあまだセーフか。ならば思う存分堪能させてもらおうじゃないのさ。自分の夢の中で自由に動けるという事は俺の思い通り意のままに世界を動かせるという事。

 つまりは誰の目にも憚られず心ゆくまで楽しめる。この膝枕だってそうだ。何だよ、明晰夢最高じゃないか!! 

 

 

「ふっ……俺はこの世界の王となったのか」

 

「ありゃ、もしかして殴られたせいでおかしくなっちゃったかな」

 

 とりあえず後で空を自由に飛んでみたりしよう。他にはもしも後藤さんがまともに育った世界線とかも見てみたいな。ハキハキ喋る後藤さんとか現実じゃ都市伝説レベルだし。

 おっと、夢の中とはいえいつまでも虹夏さんに膝枕をしてもらってるのも悪いな。いくら夢でも天使に不敬はいかん。精々少し甘える程度でいこうじゃないか。

 

 

「虹夏さん」

 

「ん? もう頬とか痛まない?」

 

「俺の事をお兄ちゃんって呼んでみてください」

 

「心が痛んじゃったかー」

 

 あら、おかしいな。素直に応えてくれないぞ。明晰夢だからって思い通りにとはならないのかな。

 一人っ子だから妹キャラのお兄ちゃん呼びに少し憧れてたんだけど。年上妹キャラのお兄ちゃん呼びとか死ぬから夢でしか言えないんだけど。リアルじゃ恥ずかしくて誰にも言えない小さな夢なんだけど。ふーちゃんに一回だけ頼んだら満面の笑みでゆーくんはゆーくんだよって断られて全てを諦めたんだけど。まさかここでも叶えられないのか……。

 

 いいやしかし諦めるのはまだ早い。夢ならば数打ちゃ当たる戦法でいつか言ってくれるはず……。

 俺は聞き出すんだ!! 虹夏さんからのお兄ちゃん呼びをッッッ!!!! 

 

 

「虹夏さん、一回だけでいいんでお兄ちゃ」

 

「伊地知せんぱーい、優人君目が覚めましたか〜? あっ、起きたのね、良かった。もうすぐ晩ご飯の時間だからそろそろバーベキューの準備しようってリョウ先輩と話してたとこなのよ〜」

 

「あ、うん、分かった〜。食材とか諸々冷蔵庫から持ってくから炭とか準備お願いねー」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 あれ? もしかして今って夢じゃなくて現実だったりする? 

 なんか何もかも思い通りになってないんだが。いやでもそんな、ははっ、これが現実な訳、

 

 

「じゃあ優人くんも起きた事だし晩ご飯の準備しよっか。都合よく記憶も一部消えてるみたいだしね」

 

「……え、嘘、これほんとに現実なの? 俺の思い描いた理想郷じゃないの?」

 

「何言ってんの?」

 

「じゃあさっきの俺の発言取り消せてないって事じゃん! 勘違いで自爆した愚かな人民じゃねえか!! 虹夏さんちょっと俺の事ぶん殴って明日まで起きないようにしてください! 虹夏さんの腕力なら余裕でしょ!」

 

「ほんとに何言ってんの!? 殴らないよ!? それに余裕でも何でもないから!!」

 

「こうなったら壁に頭打ちつけて自ら気絶するしかねえ……。黒歴史を覚えてるくらいならいっそ頭蓋骨粉砕した方がまだマシだあ!!」

 

「本格的におかしくなってる!? ちょっと優人くん落ち着いて! そのくらいの黒歴史ならまだ可愛い方だから! 一番身近なぼっちちゃんの事ちゃんと見てから黒歴史とは何かを考えるべきだよ!」

 

 ……言われてみれば後藤さんの黒歴史の比べれば俺のはまだ軽傷レベル、か? 

 あとどさくさに紛れて虹夏さん後藤さんの事刺したような気がするのは気のせいかな。多分気のせいじゃない。

 

 まだなんか少しモヤモヤするが、ここは下には下がいると考えて落ち着こう。

 自暴自棄になりかけて虹夏さんから超密着されながら全力阻止されてる事についてはあまり触れないでおく。これはこれで大問題だな。

 

 

「落ち着いた?」

 

「はい。これから乱心した時は後藤さんの事を思い出すようにします」

 

「それを聞かされてるあたしの心が複雑だよ」

 

 外を見れば既に陽は落ちようとしていた。

 あれだけ青かった海も今では一面オレンジ色に染まっている。この景色を見ながら涼しい別荘内で普通に料理するのはダメですかね。ダメですよね。おそらく喜多さん辺りから猛抗議喰らいそう。

 

 

「……よし、んじゃあたし達も準備しよっか」

 

「うぃっす。冷蔵庫の食材全部持ってっていいんですっけ?」

 

「うん、リョウママが全部用意してくれたからおやつとかデザート以外はあるだけ持ってっちゃって〜」

 

「分かりました。うわっ、この肉全部高いやつじゃねえか……」

 

 海鮮類も軒並み良いものばかりだしお金持ちって凄え。

 何であんな裕福育ちなのに常に借金まみれなんだあのベーシスト。

 

 

「あたしジュース類持ってくから、野菜とかも任せていいかな? ……お、おにい、ちゃん……」

 

「我が生涯にいっぺんの悔いなしッ!!」

 

「あって!? あたし達まだ叶えなきゃいけない事たくさんあるからっ!」

 

「それより虹夏さん、録音したいんでもう一回だけ言ってもらっていいですか? できれば恥じらいを入れつつおねだりする感じで」

 

「するかあ! こういう時調子乗るのほんとぼっちちゃんと似てるな!」

 

 一瞬喜べばいいのかどうか迷ったけどほぼ確で怒られてますねこれ。

 

 

 ──

 

 

 何やかんやありつつもバーベキューが開始された。

 俺が食材を適当に投入して焼き上がったのをみんなが食べるシステムだ。

 

 ちなみに準備はほとんど俺と虹夏さんと喜多さんでやった。後藤さんとリョウさんはただ突っ立ってただけだった。うん、知ってた。

 

 

「あ、そうだ。リョウさん、後でリョウさんママに食材用意してくれたお礼言っといてもらえますか?」

 

「あ、う、うん……」

 

「?」

 

 そういえばさっきからリョウさんと一回も目が合わないな。虹夏さん達とは普通に話してるのに俺が話しかけると露骨に目を逸らしてくるし、会話の返事も今みたいに曖昧な感じだ。

 バーベキューの準備全然手伝ってなかったから少し気が引けてるのか? いや後藤さんじゃあるまいしリョウさんに限ってそれはないか。理由が分からん。

 

 

「なあ後藤さん、俺さっきからリョウさんに避けられがちな気がするんだけど、何か知ってる?」

 

「えっあっ、ごめんなさい……わ、私も分かんない、かな〜……?」

 

「そっかぁ。周囲をよく見てる後藤さんが分からないなら虹夏さん達に聞いても無理っぽいな」

 

「あぅ……」

 

 本人に直接聞くのもありだけど、あの様子だと教えてくれそうにもない。

 余計な詮索は悪手、か。まああの人の事だからその内元通りになるだろ。個人的にそろそろ借金返さないとやばいかな……とか思っていたならまだ納得できる。つかはよ返せ。

 

 

「おっと、野菜は焦げる前に皿に移動っと」

 

「あっ、その野菜私が食べる……」

 

「そりゃあ別にいいけど、後藤さんずっと野菜食べてないか? 今んとこ肉食べてるの見てないんだが」

 

「あっBBQポイントまだ貯まってないから……」

 

「なんだそりゃ……ああ、そういう事ね」

 

 おおかたバーベキューへの準備貢献度で自分のポイント低いから肉食べちゃダメとか謎の自分ルールでも設定してるんだろう。

 食べ物にがめついくせにこういうとこで遠慮してどうすんだ。真面目か。

 

 

「いいから肉食え肉。高級肉食べれる機会なんてそうそうないんだからな」

 

「あっ、でも……」

 

「そんなに気になるんなら俺の皿に乗せてる肉やるよ。網の上にあるやつじゃなくて俺のなら別に譲渡したって問題ないだろ?」

 

「そ、それだとゆうくんの分が……」

 

「実を言うとまだ寝起きだからそんなに食欲ないんだよ俺。しかも油物は特に。一応皿には乗せてるけど食べ切れるか分かんねえし俺は野菜中心に食べるからさ。代わりに遠慮せず食ってくれ」

 

「……うん、わ、分かった……!」

 

 言うや否やすぐに肉へ箸を伸ばす後藤さん。やっぱ食べたかったんすね。

 さあ、ああ言った手前俺は肉に手を出しづらくなったので惜しいけど大人しく野菜でも食べておきましょうかね。まったく、手のかかる幼馴染ですこと。

 

 他にみんなはちゃんと食べてるか見てみると。

 何やら虹夏さんがリョウさんに小声で話しかけている。時々ちらちらとこちらを見てきてるのは気のせいかな? 

 

 

「優人君」

 

「……ん? ああ悪い喜多さん、どうしむぐぁっ……?」

 

 振り向いた瞬間に口の中に何かを入れられた。これは……肉? 

 

 

「……もしかして聞いてた?」

 

「ええ♪」

 

 これまたそこいらの男子ならイチコロにしちゃいそうな笑みであった。

 さすが陽キャ女子、周囲への気配り上手は尋常じゃないらしい。さりげなくあーんされたせいで思わず俺でさえドキッとしてしまった。それにしても肉美味え。

 

 

「ひとりちゃんとリョウ先輩のための気分転換旅行って言っても、あなたもちゃんと楽しまなきゃ損よ優人君。ましてやさっきまで気を失ってたんだから」

 

「うっ、それについては面目ねえ……。何で寝てたか俺もよく覚えてないんだよなあ」

 

「(まあ覚えてたらもっと大変な事になってたかもだけど)」

 

「ちょっとリョウ! そのお肉裏返すのまだ早い!! せっかくのお高い肉なんだから適切なタイミングで最高な焼き加減にしないともったいないでしょ!!」

 

「バーベキュー奉行……」

 

 虹夏さんのボリュームが大きくて喜多さんの声が聞こえなかったや。

 というか虹夏さん何であんな奉行っぽくなってんの。

 

 

「よーし、バーベキューパーティーはまだまだこれからよ優人君! 私もカステラとかフランスパン焼いてくわね!」

 

「喜多ちゃんそれおやつとかデザート用でしょ! 闇鍋みたいにするつもりか!」

 

「こういうのはみんなが盛り上がる方が優先なんですよ先輩! 大事なのは味より撮れ高です!!」

 

「食べ物で遊ぶなあ! それで優人くんは何してんのさ!」

 

「調味料あるんでフランスパンはガーリックトーストみたいにしようかと。カステラは少量の牛乳を染み込ませながら砂糖を少しだけ塗して焼く事でフレンチトースト風カステラになんないかなって」

 

「本格的なアレンジ調理しようとしてる!?」

 

 せっかくなら美味しく頂きたいもんで、へへっ。

 

 

「優人、早く焼いて」

 

「元通りになったと思えばいきなり図々しいなアンタ……って遠っ」

 

 睨もうとしたら三メートルくらい離れてた。何で若干距離できてんだよ。心の距離近いのか遠いのかよく分かんねえな。

 

 

「後藤さんは……うん、肉全部食べてんな」

 

「ほぉ、ふぉいふぃふぁっふぁ(美味しかった)……」

 

 そだね。お肉いっぱい食べれて良かったね。

 

 

 こんな感じでまあ、バーベキューはいい感じに終える事ができた。

 と思う。

 

 

 





ほぼ全方位ラブコメ回……になったかもしれないしなってないかもしれない。
そこは各々の解釈に任せます。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10.遊技林さん

☆9. せてつさん、長奏さん、イキョウさん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
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