再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
映画もうちょいだな〜。
別荘内の数ある部屋の中の一つ。
そこに俺はいた。
旅行とはいえ男一人女子四人という偏りの激しい割合の中、当然俺は女子達とは別の部屋で寝る事になっている。
バーベキューを終え、普段外で遊ばないインドア系男子の俺は夕方まで気絶してたらしいけど普段から早起きなおかげで睡魔は普通にあった。健康的だと思うだろ? ほとんどただの寝不足なんだぜ。
という事もあり一人で寝るには大きすぎる部屋とベッドで今日は就寝だ。
時間はまだ22時だが、後藤さん達も遊び疲れてスタミナ切れを起こしてたから今日は寝ようという事になったのである。そういや別れる前に喜多さんが何か言ってた気がするけど眠くてちゃんと聞いてなかったな。
まあいいや、エアコンが強めに効いてて少し肌寒く感じるところに薄い掛け布団で最高の気分のまま寝よう。
おやすみ世界。俺にしては夏の海なんて珍しくリア充っぽい一日を過ごせて楽しかったぜ。ほとんど気絶してたのはご愛嬌だ。
ほら、こんな事を何となく考えてる内にだんだん意識が遠のいて……、
「夜の部の時間よ優人君さあ起きて〜!!」
何か喜多さんの幻聴が聞こえるような気がするけど、もう夢かな。
「ほらっ、準備は済ませてあるんだから早く起きる! 先輩達も待ってるわよ!」
何だろう、夢にしては現実っぽいんだよなあ……今度こそ明晰夢か?
いやでもこのパターン、まさかとは思うがそのまさかだったりする……?
「あ、起きた? 起きたわよね?」
「……夜に女の子が男子一人の部屋に無断で入ってきた件についての説明をしていただいてもよろしいか」
「楽しい夜はこれからよ優人君! 今夜は寝かせないわ!!」
「全体的にセリフがアブなすぎる! 絶対端折ってるだろ!?」
「肝試しの準備できたから誘いに来たの! だから早くベッドから出てきて!」
「眠いからやだよ肝試しとか! そっちは昼間散々遊んだんでしょうがっ。夜更かしは美肌の天敵だしイソスタグラマーならとっとと早寝しなさい!」
「言ってる事がほぼ親なんだけど!? というかまだ22時よ!」
22時に寝るなら健康だろ。高校生でそんな早く寝るとか中々ないと思う。誇れよ。
つか全然布団から手離さねえなこの陽キャ……! 何で肝試しやろうとしてる側が白装束着てんだよ逆だろ普通。
「……まさか優人君……怖いの?」
「ハァッ!? こっ、こここここここここ怖くねえしぃ〜!? 的外れなこと言ってんじゃありませんことよ喜多の嬢!!」
「言ってる事が色々おかしくなってるけど……。そういえば優人君って秀華祭の時も遊園地のお化け屋敷の時も怖がってたわよね」
「ばっ……あれはいきなり脅かしてくるから一瞬ビクッてなるだけでじわじわ系なら全然マシですぅ〜怖くありません〜!」
「随分と必死に説明するわね。九割認めたようなものよそれ」
「ハッ!?」
誘導尋問かよずるいぞ! そんな子に育てた覚えはありません!
仕方ない、こうなったら味方を増やす作戦でいくしかねえ。
「……だ、だったら虹夏さんはどうなんだよっ。あの人も怖い系無理だったはずだろ。俺を連れ出したいならまず虹夏さんを連れてくる事だな!!」
これでどうだ。虹夏さんなら俺の頼もしい味方になってくれるはず……!
俺の問いに喜多さんは一瞬だけキョトンとしたような顔を浮かべ、すぐさま笑顔になった。その時点で嫌な予感しかしないんですが。
そして彼女は一旦部屋から出て行き、十秒もしない内に帰ってきた。
涙目の虹夏さんを連れて。
「伊地知先輩もやるって言ってるわ!」
「涙目じゃねえか」
「うぅ……でもいやだぁ……」
ちょっと女子ぃ〜、虹夏さん嫌がってるじゃ〜ん。
「けど先輩は優人君がいるならやるって言ってましたもんね」
「虹夏さん、どうしてそんな事を……」
「……優人くんならもし何かあっても咄嗟に盾になってくれるかな〜って……」
「それもう盾にする気満々ですやん」
さすがの天使も怖いものには天使力を発揮できないらしい。
自分の身を守るので精一杯だそうだ。何なら身代わり用意しようとしてるし。
「……ん? というか肝試しってどこですんの? いくらこの付近は貸し切ってるからってもう夜だし外は危ないから真面目に却下だぞ。多分その辺の木々は虫とかいっぱいいるし。ハチとかムカデとかカメムシとか」
「お化けに虫とか最悪の極みじゃん! 絶対やだ! 優人くんがあたしを抱き抱えて全身守ってくれないとやだ!!」
俺に死ねと?
幽霊や虫は俺も専門外なんだって。ああいうのは両方後藤さんの得意分野だから俺もいつも任せてるもん。何で蜘蛛とか普通に手で触れんのあの子。勇者かよ。
「む、虫くらいなら私が何とかするよ……」
「うおっ、後藤さんいつの間に俺の背後を……!?」
「あっ、き、喜多ちゃんが虹夏ちゃんと一緒に部屋入ってった時から……」
こやつやっぱり気配消すの上手くなってんな。ステルス機能でも搭載してんのか。
よく見たら部屋のドアの方にはリョウさんがあくびをしながら立っていた。眠いのに結局みんな連れてこられてるのね。ご愁傷様です。
「ふふーん、大丈夫よ。虫は私も嫌だから外での肝試しはしません!」
「じゃあどこで?」
「私がさっき肝試しの準備できたって言ってたでしょ? そう、今の私達にはこのおっきい別荘があるじゃない!」
「……あーね」
「それにこの別荘一階だけでも部屋がたくさんあるじゃない? それで仕掛けをするついでに上に行ったら二階にもいっぱい部屋があったのよ」
「子供の頃に来たきりだけど、確か十部屋くらいあったような」
どんだけ広いんだよこの別荘。そんだけあったら絶対持て余すだろ。
「だから私設定を考えてきたんですよっ。今からこの家は『一家心中した家族の怨霊が渦巻いていて、一歩踏み入れれば必ず呪い殺される』という設定です」
「人ん家になんつー設定を……」
泊まらせてもらってる別荘に付けていい設定じゃねえよそれ。
それだともれなく山田家全員死んじゃってんじゃん。しかも現世に恨み持ちまくりじゃん。
「うーん……別荘内での肝試しかぁ……」
「子供だけで外泊なんて滅多にできないですし、リョウママが迎えに来るまで遊び倒しましょうよ〜! それにイソスタライブで配信して新規ファンの獲得も考えてるんです! ホラー系って一定層からの人気凄いんですよ! 特に今は夏休みですから人気も視聴者も書き入れ時です! やるなら今が絶好の機会なんですよ!」
「音楽で釣らなくていいのかなそこは」
「今の時代は多様性ですよ先輩。プライベートが見えない音楽でしか自分達を語れないミステリアスなバンドはもう昔の話です。今はSNSや動画配信で親しみや馴染みやすさを出していくのも立派な活動! これが集客力にも繋がる可能性だってあるんだから!」
ほう、中々良い事を言うじゃないか。
一理ある、というか百理くらいある。
「どう思う、優人くん?」
「結束バンドの人気に繋がる可能性が少しでもあるのなら大賛成です。まったく、そういう事ならそれを最初に言えよな喜多さん。ただの肝試しだったら普通に拒否ってたぞ」
「肝試しやりたい気持ちの方が勝ってたわ」
おい。俺の感心を返せコラ。
「優人くんならもっと反抗すると思ってたのに……」
「普通の肝試しだったら俺もそうしてましたよ。しかし結束バンドのためとなると話は別です。実際女子高生バンドならいっそこういうイベントは利用した方がいいんですよ。若者に見られやすいし言い方はちょっとアレですけど、誰かが怖がりながらする肝試しってのは確かに需要があります。それも女子高生なら尚更ね」
「それあたしのこと言ってる?」
「げふん」
いやほら、明言はしてないから虹夏さんだけに言ってる訳じゃないですよはっはっは。あくまで一般論としてね、一般論としてだから。
ついでに言うと俺にはめちゃんこ需要あるので後で虹夏さんの怖がる姿を個人的に保存しておきたいと思います。
「まあ結論を言うと肝試し企画でいっちょ結束バンドの新規ファンを獲得しようぜって事です。あとはたまにこういう配信をする事によって既存ファンの固定化と配信時の定着率を上げる算段ですね。バンド以外の活動も見せる事で親近感を湧いてもらえるので、やって損はないかと」
「……優人くんがそこまで言うなら……やるかぁ〜……」
「優人なら反対してそのまま寝られると思ったのに」
「人のベッドに入り込んできてそのまま寝ようとしてるアンタは何なんだ」
めちゃくちゃ自然に入ってくるからスルーしかけたわやめて。あとで寝る時リョウさんの匂いとか付いてたらどうすんの。
あと後藤さんも一緒に潜り込もうとすんな。ここはお前らの巣じゃねえんだぞ。
「フッ、悪いけど優人、この別荘は元々私の家の所有物。つまり私がどこで寝ようと私の自由なのだよ。お主に止められる権利などない」
「じゃあ後で一緒に寝ますか」
「「え」」
「そこで戸惑うくらいなら変に仕掛けてくんじゃねえ」
そして何で後藤さんも戸惑ってんだよ。今あなた関係ないでしょうよ。
何ならお前とは家の部屋で何度も昼寝とかしてんでしょうが。たまにふーちゃんも一緒に。
「リョウ先輩も寝ないで起きてください! みんなで行くんですからね!」
「じゃあとりあえず俺はカメラマンだから喜多さんのスマホ貸してくれ」
「……え、何で? 仕掛けた私が撮るのが普通でしょ?」
「いや結束バンドの企画なら喜多さんも出ないとダメだろ。まさかガールズバンドの配信に男の俺を出すつもりとか言うんじゃないだろうな?」
「……」
こいつ自分が楽しみたいからって大事な事忘れてたな?
「旅行中の別荘で女子四人の中に男一人なんて事が配信で知れ渡ってみろ。たちまち噂が拡散されて顔も知らねえ今後関わる事も一切ないようなヤツらに好き勝手言われておもちゃにされた挙句大炎上不可避だ。そんで最後には恨みを持った熱狂的ファンに俺が刺されて殺されるまでがワンセット」
「最後のはさすがに誇張なんじゃあ……」
「今どきのSNS舐めんな。特定班だったり家に突撃したり無駄な行動力だけは持ってるヤツなんて思ってるよりゴロゴロいるんだからな。という事で俺は無言カメラマンに徹するから。可能な限り反射でも映らないようにするし、俺のことは最悪レーベル関係の人かサポートメンバーの女子って事で紹介しといてくれ」
「うーん、優人君が映れないのは残念だけど了解。肝試しだから別荘内は基本暗くしてあるし大丈夫だと思うわ」
「なら問題なさそうだな」
喜多さんが仕掛けたって事は多分仕掛け自体も大したものじゃないと思う。
キャリーケースの大きさ的に大それた物は持ってきてないはずだ。白装束だけは本当に必要なのか分からんけど。あれ下にちゃんと服着てるんだよな?
「ちょっと待って。優人くんがカメラマンだとしたらあたしはいったい誰を盾にすればいいの!?」
「虹夏さんの勇姿を収めるのは任せてください!」
「いつの間にかそっち側にいってるし!!」
「大丈夫ですよ。仕掛けを知ってる喜多さんとか物怖じしないリョウさんとかむしろ幽霊より影薄い後藤さんがいるんですから。選り取り見取りじゃないですか」
「最後のぼっちちゃんに関してはプラス要素になってなくない?」
ほれ、そこに三人のバンドマンがいるじゃろう。その中から好きな子を一人選ぶがよい。
草を食べるタイプの山田、熱いくらい眩しい陽キャタイプの喜多、常に水底のように暗い顔をしてるタイプの後藤。ちなみに俺なら迷わずピカチュウ探す。
「ええい! こうなったらその時のあたしに身を委ねる! さっさと行って終わらせればその分早く寝られるんだしもう行こう早く行こうそうしよう!」
虹夏さんがやけになってしまった。かわいい。
俺も重い身体を起こす。完全にスリープモードに入ってたからか体のダルさがまだ若干残っていた。
あくびを一つ。
やる気満々で笑顔の喜多さん、嫌々ながら歩く虹夏さん、早く寝たくて仕方ないリョウさん、ただみんなに着いてくだけの後藤さん。
四者四葉の面々を見ながら最後尾を俺が歩く。
気分転換のために来たこの旅行。
海水浴にバーベキューまでしたのにも関わらず、どうやら俺達の旅行一日目はまだまだ終わらないようだ。
みんな清水に気を許しすぎだと思う。
まあ今更か。それとも彼が人畜無害だと思われてるか。
では、今回高評価入れてくださった
☆10. 黒神 零さん、ヨッシーwさん、旋風士さん、幕張魂さん、vongolaさん
☆9. 星空ゆう@最弱ったら最弱さん、せてつ さん、イキョウさん、ssを読む程度の能力さん、完全無欠のボトル野郎さん
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