再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
今回で原作四巻終了〜。
ペキペキペチペチとアコギのスラップをリョウさんが奏でる。
最初に普通に弾くんじゃなくてスラップをする辺りがリョウさんっぽい。
「お、アコギのスラップかっこいいじゃん」
「BBQ奉行虹夏のテーマ」
「褒めたのに喧嘩売られたあたし?」
「まだかっこいいメロディーな方だから大目に見てあげましょう虹夏さん。テーマは意味不明だけど」
即興で弾くのは素直に凄いけどテーマはもうちょいどうにかならんかったのか。
俺と虹夏さんからのジト目を受けたリョウさんはそのままアコギを弾き続ける。さっきとは違ってヒィンヒィンと印象がガラリと変わった印象だ。
「なんか不気味なようなポップなような……って感じですね」
「郁代の肝試しsummer」
「テーマはそれでいいのか」
しかもちょっと分かるのが腹立つな。
ホラーみたいな雰囲気出しつつ結局ギャグオチみたいなとことか特に。
次にリョウさんが弾いたのはこう、なんか……あれ、表現しにくいな……強いて言うならオギャアギィギィ……タスケテ……って感じのメロディー。
自分でも何言ってるのか分かってないから安心して。でも確かにそう聞こえたんだ。ほんとだって。
「あっこの地獄の断末魔みたいのは……」
「恐怖ブリッジぼっちのテーマ」
「ああ、だからタスケテとか聞こえたのか。納得納得」
「やっぱりそう聞こえてたよね!? あたしの聞き間違いじゃなかったんだ普通に怖かったんだけど!? というかアコギから聞こえる音色の範疇超えてるよ!!」
言いながら虹夏さんはしっかりと俺の服をギュッと掴んでいる。それはもうめっちゃくちゃ強く。
小動物みたいにぴくぴくして可愛いね。俺に守ってほしいのかな? 構わないけど俺が守れるのはビッグバンくらいまでだよ?
再びぶり返してきた謎に恐怖に怯えかけてる虹夏さんを尻目に、リョウさんのアコギはジャンジャラジャン~と割と一般的な音色を奏で出した。
これまで虹夏さん喜多さん後藤さんと来れば、さすがに何となくでも想像はつく。
「一応聞きますけど、それは?」
「……ドスケベ変態優人のテーマ」
「事実が名前しかねえじゃねえか断固抗議させてもらうッ!!」
何でいきなり悪口言われてんの俺。到底看過できませんわこんなの。遺憾の意を述べさせてもらう。
ついでに何故かこの場にいる誰も否定してくれない件について追及してもよろしいか? 振り向いたら後藤さん思いっきり目逸らしてきたんだけど。泣いていい?
「オチはついた」
「俺の尊厳も落ちたけどな」
「上手いじゃん優人、やるね」
「嬉しくねえわ」
元凶がよぉ……!
「というか急に何なのさリョウ……いきなりアコギ弾いたかと思えば今日の振り返りみたいなの始めて」
「色々あったけど結果的にいい息抜きになったって事を伝えたかった。虹夏のおかげ」
「! ほっほんと!? それならまあ、良かったかなぁ」
「あと肝試しでたくさん盛り上げてくれた郁代も」
「え? 私何かしましたっけ?」
この子はただ純粋に陽キャ成分補充したかっただけだと思いますよ。
結束バンドにとってそれなりにプラスになりそうだったからまだいいけど。
「優人も……昼間以外は色々サポートに回ってくれて助かった」
「その昼間が気になるんですが……」
そこだけ一部分記憶抜けてんだよね。気付いたら気絶してて虹夏さんに膝枕されてたの普通に謎。いや最高だったけども。
「この泊まりのおかげで色々思いついた。新曲も書けそう」
「それはいいけどもっとガールズバンドらしいフレーズはないんかい」
ギーギーガギーと威嚇でもしてんのかってくらい変な音でアコギを弾いてるリョウさん。
何なの、中指の代わりに小指立ててんの。ガールズバンドクライなの。トゲナシトゲアリなの。
そんな時だった。
俺の隣に座ってる後藤さんが小さく手を挙げたのだ。
「あっあの〜、今の喜多ちゃんと虹夏ちゃんとゆうくんのテーマを合わせたら面白くなると思うんですけど、どうですか……? あっ割り込んですみません……」
あの後藤さんが珍しく作曲に対して提案をした。
ちょっとやだ、不意に成長見せてくるのやめてよ。優人さん感動で泣いちゃうじゃん。
「おぉ〜、じゃあ展開ガラッと変わる感じの曲とか良さそうだよね!」
「あ、それなら私もアイデア出したいです!」
後藤さんの案を皮切りにいきなり結束バンドの楽曲制作会議が始まった。
みんな口々に案を出し合ったり、それを参考にリョウさんが弾いたりなどしている。
音楽から離れるための旅行だったはず……というのはもはや野暮だろう。
むしろ毎日音楽に触れ続けていた分、今日一日音楽から遠ざかっただけでみんなリョウさんのように違和感を覚えていたんだと思う。こういう所はみんな生粋のバンドマン気質なのかもしれない。
「優人くんは何かアイデアある?」
「楽曲制作はサポート管轄外なんでノーコメントです」
「え〜別にそのくらいならいいと思うんだけどなー」
「裏方関係なら何でもやるんで勘弁してください。俺は結束バンドの純度100%の曲が聴きたいんで」
不純物が混ざるとノイズになっちゃうからね。俺はあくまで演者を輝かせるための舞台装置でいいのである。
彼女達が万全の状態でいられるためのサポートだからな。制作関係にはあまり関わらないようにしないと。
「虹夏、こういう時の優人は絶対折れないから諦めた方がいい」
「むぅ……まあそれもそうかぁ」
よく分かってんじゃんリョウさん。俺への理解度が高いのは高ポイントですぞ。
「だから代わりに時々ご飯奢ってくれるといい。演者の腹を満たすのもサポート役の勤め」
「却下に決まってんだろアホ。裏方でも何でもねえじゃねえか」
「何でもって言ったのに……」
「そゆことじゃねえよ」
なんにも分かってないじゃん山田。俺への理解度が低いのは超マイナスですぞ。
「……まだ話が長くなりそうなら軽い夜食くらいは作ってきますけど」
「「「「食べる」」」」
まさかの即答であった。
しかも全員。変なとこで結束するよねあなた達。肝試しする前までは疲れて寝る気満々だったのにすっかり目覚めてますやん。
まあいっか。
「んじゃあ適当に準備してきますわ。就寝前だからほんとに軽めですからね」
四人の返事を聞きながら部屋を出る。
何が残ってたっけな。バーベキューの具材は食べ尽くしたし……焼きおにぎり用の余ったご飯と明日の朝食分に買っておいた卵を何個か使ってたまご粥でもするか。消化にいいしエアコンの効いた部屋では適度に身体も温めてくれるからちょうど良いだろう。
数十分後くらいに人数分の夜食を持って部屋に戻ると、四人は今も楽しそうに曲の制作をしていた。
しかし先程とリョウさんが今弾いているメロディーに変化があると分かったのはすぐだ。大元は似ているが所々にアレンジが加えられている。順調っぽそうだな。
ひと通り聴き終わってから近づいて声をかける。
「ほい、みんなの分できましたよ。熱いから気をつけて食べてくださいね」
「待ってました〜! 肝試しで叫びすぎたせいかカロリー消費して小腹空いてたんだよね〜」
おいたわしや虹夏さん。最高だったぜ。
「優人おかわり」
「軽い夜食だっつってんのにおかわりある訳ないでしょうが」
つか食うの早すぎだろ。消化に良いもん選んだのに一気にかっ込んだら意味ねえじゃん。
「優しい味がするわ〜。ねっ、ひとりちゃん!」
「あっはい」
はふはふしながら食べる同級生組。単純に和む。
各々夜食を食べつつも話はすぐに曲へと戻った。
「ところで今さっきリョウが弾いたの結構面白いメロディーラインになったんじゃない?」
「うん、家でもう少し詰めたらいいの出来上がるかも」
「今までとはまた違った感じの曲になりそうで楽しみです!」
俺がいない間にも制作はちゃんと進んでいたらしい。
何気に作曲場面を見るのはレアかもしれないな。こういうのはいつもリョウさんだけに任せてたし、俺も勉強のつもりで見学でもさせてもらいますかね。
「あっあの! わ、私も虹夏ちゃん達のおかげで色々思いついたので……こっ今回の曲は私が全部編曲してみてもいいですか……? あっえと、だ、ダメならダメで全然いいんですけど……」
「もちろん良いですよねリョウさん。答えは聞いてない!」
「優人くんが我が子の成長に感動してる親みたいになってる!」
「よし、やってみろ」
「こっちはこっちで偉そうだな!」
うちの子が自分から頑張りたいって言ってんだからそれを尊重してあげるのが親心ってもんでしょうが!
「よし後藤さん、俺にできる事があれば何でもしてやるからな。生活面でのサポートは全部やってやるから遠慮なく言ってくれていいぞ」
「あっうん、えへへ……」
「そして過保護モードになってるしぼっちちゃんもお世話される気満々だ!」
ここで少しは自信を付けさせれば精神面での成長をもっと期待できるかもしれないじゃん。こんな超低確率激レアイベントをみすみす逃す手はないぜ。
良いぞ、この調子だ後藤さん。ここで一気に進化しちゃいなさい。成熟期と完全体を超えて究極体までワープ進化しちゃいなさい!
「ひとりちゃんのアレンジ、私楽しみにしてるわね!」
「あっえっ……へへへ、任せてください……この私の手にかかれば結束バンドイチの曲になりますよ……うへ、うへへ」
「後で苦しむに五千円」
「私一万」
「三万はいける」
「十万で」
「優人くん一番信じてないじゃん!?」
調子乗ったら確変入っても一瞬でガタ落ちするの確定なんでこの子。
超低確率激レアイベントは入ったとしても超高確率で調子乗って自分から真っ逆さまに退化してくんですよ。ウケるよね。ウケないか。
そんなこんなでこの後もやいやいしながら制作は進んでいった。
俺はと言えばみんなの話し合いやリョウさんが弾くアコギを聴きながら見ていただけだが、やっぱり見慣れた景色は安心するもんだなと再確認した。
見ているだけで飽きないというか、何だか無性に心地よい感じがする。
場所は違えどいつもと同じメンバーが揃えばそれだけでここは自分の居場所だと思えるような、そんな感覚。アコギの音色がまた気持ちいい。うん、嫌いじゃない。
夜も更けてきた頃、さすがにそろそろ寝ようという事になり片付けをしてから部屋へ戻ることとなった。
「あとは俺が全部片しとくんで、みんなは先に寝ててください」
「え、でも悪いよそれは」
「俺は昼間意識失って寝てたようなものなんでまだ平気なんですよ。俺とは違って虹夏さん達は結構遊んで疲れてるでしょ? それに楽曲制作の手伝いはできないから、せめてこんくらいはさせてください」
「うっ、そう言われると一気に睡魔が……ふわぁ……」
言われて急に実感が出てきたのか軽いあくびを抑えきれない虹夏さん。ちくしょう、写真に収めたかったぜ……。
少し残念な気持ちになりつつも顔には出さず俺は椅子を端へと移動させていく。
「ほら、夜更かしは乙女の天敵ってやつですよ。俺の事は気にしないで行ってください」
「うぅ〜ん……じゃあお言葉に甘えちゃおっかな。優人くん、ありがとね」
「せめてお椀くらいは私が持っていっておくわね」
「サンキュー喜多さん。水に浸けておいてくれれば俺が後で洗うから」
「そのくらい私が洗っておくわよ?」
「大丈夫だよ。こういう事ぐらいは俺にやらせてくれ。それよりちゃんと寝るんだぞ。この前みたいに深夜まで雑談しないようにな」
「善処するわ」
そこは断言しろよ。
「後藤さんも、おやすみ」
「あっお、おやすみ……」
素直でよろしい。
っと、そうだ。
「リョウさん」
「なに?」
虹夏さん達が出ていった後、アコギを元の位置に戻していたリョウさんに声をかける。
「片付けが大方終わったらそのギター、俺も少しだけ弾いてみていいですか? ちょっとアコギに興味あって」
実は動画などで何回も見た事はあるが後藤さんも俺もアコギは持ってないので気になっていたのだ。
何なら弾き語りはアコギだけのイメージがある。路上ライブとかで見てるとかっこいいんだよなあれ。
「……うん、いいよ」
「ほんとですか? ありがとうございますっ」
「優人なら絶対壊したりしないって信用できるから」
普通すぐ壊すような事はしないと思うんですが。
閣下くらいじゃないのすぐ楽器振り回して潰すの。
「50万くらいするから一応気をつけて」
「…………」
そういやさっきリョウママがそんなこと言ってましたね。
やっぱやめとこうかな……。
「優人」
「はい?」
「弾き語りできるようになったらいつか私にも聴かせてね」
「……善処します」
それはそれはリョウさんにしては優しい笑みで言って去って行った。
いつかそんな機会も来るのだろうかと、未来の自分が上達している事を切に願うしかない。ファイトだ未来の俺。
肝試しで使った仕掛けや洗い物も終わらせ再びピアノのある部屋へ戻り、アコギを手に取った。
変に傷とか付かないよう極力丁寧に扱おう。弁償への恐怖よりアコギへの興味が勝ってしまった俺もある意味ではバンドマンの血が騒いだのかもしれない。いやバンドマンですらないけどね。
「っ」
軽く弾いてみる。
いつも使っているギターとはやはり音も違う。エレキギターは電気を通して音を出すが、アコースティックギターは楽器本体から音を出すため、弾き語りをするなら機材がいらない分アコギ一本あればそれで済むらしい。
それとアコギはエレキと違って弦が硬く、コードを鳴らすだけでもエレキ以上に力が求められるのだとか。弾いてみてそれを今実感した。
故に難易度もエレキより高く、初心者には難しい。だからこそ面白いと思った。
「これは……練習のしがいがありそうだ」
この時点で俺は決めた。
近い内にアコギを買う。別に披露したい人がいるとかそんなんじゃない。ただ、これは俺に向いてると思った。
アコギは機材を必要とせず、一本あるだけで成立する。
つまり、一人で楽しむ俺にとってはとても好都合なアイテムなのだ。
「……やっぱ勝手が違うといつもよりやりづらいな」
少々苦戦しながらいつも後藤さん家で練習しているメロディーを奏でる。
この若干の上手くいかなさが歯痒くてつい笑みが零れる。自分自身ギターを始めてまだ一年経っていない初心者だ。辞めない限り伸び代はまだまだある。
未知の経験は成長の兆しだ。気付きや発見があればそれだけ上達への道は切り開かれる。
スマホで色々調べたり動画を見て試行錯誤している時間が楽しくて、つい時間を忘れてしまう。
だから気付かなかった。
ドアが開いた事に。
「ゆ、ゆうくん、やっぱりここにいたんだ」
「うおぅっ!? ご、後藤さん!?」
「ゔぇぅあっ!?」
いきなり声をかけられた事でめっちゃ驚く俺、その驚いた声にめっちゃ驚く後藤さんという地獄が今完成した。心臓止まるかと思った。
二人して呼吸を整えながら視線を合わせる。
「何で戻ってきたんだ?」
「えっと……私だけちょっと寝付けなくて、と、トイレに行ったついでにゆうくんが何してるか気になって……まだここにいるのかなって思って来てみたらいた……みたいな」
「部屋じゃなくて一直線にここ来たのか?」
「あっ、だってゆうくん……リョウさんがアコギ弾いてるの見て気になってそうだったから……」
「……」
はっず。え、俺そんな羨ましそうな感じで見てたの?
普通にバレてて恥ずかしいんですが。よく見てたな後藤さん……いや後藤さんだからか。
「え、えっと……アコギ、弾いてるの……?」
「あ、ああ、リョウさんに許可貰ってな。ほら、前から少しずつ弾き語りの練習してるだろ? それで気になってたんだ」
「あっ、そ、そうだよね。弾き語りといえばアコギだもんね……」
「そ。けどやっぱいつものギターと比べて弦硬いし慣れないと難しいな」
後藤さんが椅子を持ってきて正面に座った。
どうやらしばらくここに居座るつもりらしい。
「寝ないのか?」
「あっうっ、さ、さっきも言ったけどちょっと寝付けなくて……」
そういえばそんなことも言ってたか。
俺のこと探してたっぽいし眠くなるまで話し相手になってもらおうかと思ってたのかな。
「今何時だっけ」
「えっと……0時過ぎ、くらい」
「え、マジ? もう三十分くらい経ってたのかっ?」
「そ、それだけ夢中になってたんじゃないかな?」
確か23時半ぐらいから始めたけど全然気付かなかった。
思ったより集中してたんだな俺。もしかしたらゾーン入ってたかもしれない。絶対入ってない。
うーん、まだ眠くはないし、後藤さんも寝付けないならちょうどいいか。
「ならせっかくだしいつもみたいにギター教えてくれよ。アコギの練習も後々必要になってくるからさ」
「っ! う、うんっ、任せて……!」
こうして夜は更けていく。
俺と後藤さん以外が寝静まった夜、二人きりの声とギターの音だけが室内に響く。
見慣れた景色。無性の心地良さ。
場所は違えどいつもと同じ二人が揃えばそれだけでここは自分の居場所だと思えるような、そんな感覚。
家とは違ってここは別荘だけど、この時間はまるで家でいつも練習している空間と変わらない。
不思議と、だ。
今の俺はこんな時間が一番心地良いと思っていた。
──
翌日。
「あれ、二人共どうしたの? 寝不足?」
「「……そんな感じです……」」
さすがに夜中の三時まではやりすぎたな……。
清水とぼっちの二人きり空間をどうしても書きたかっただけの回。
次回から原作五巻突入。
せめてスターリーにあの新入り達が入るくらいまでは続けたい。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10. 溝桜さん、きっちーさん、A_FGr000さん
☆9. クライン・クラウンさん、クモラセスコスココビッチさん、タスマニアさん、イキョウさん、完全無欠のボトル野郎さん、ザラメ雪さん
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