再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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原作五巻突入〜。



124.しなきゃいけない作業がある時ほど全く別の作業にモチベ湧く現象に名前を付けたい

 

 

 さて、時は一気に進み旅行から早一週間が経過した。

 日付は8月31日。時刻は朝の8時。

 

 本来なら日付的に今日が夏休み最終日なのだが、今日は金曜日。

 9月1日の明日は土曜日だから学校はない。つまり学生の俺達にとっては土日の二日間夏休みが延長されるという大変喜ばしいスケジュールになっているのだ。

 

 そんな最中、俺はいつも通り後藤さんの家にいる。……いいや、今回に限ってはいつも通りとは言えない。

 何故なら俺が後藤さんの家にやって来たのは一週間振りだからだ。驚いたか? 俺も驚いてる。

 

 そう、あの旅行から帰って来た日、後藤さんは新曲の編曲をやるからと言って部屋に籠った。

 というのも俺も後藤さんが初めての編曲をするから邪魔しないでおこうと一切の連絡を絶っていたからである。結束バンドにとって、後藤さんにとっての大事な一歩を素人に毛が生えた程度の俺が踏み入ってはいけないと判断した結果だ。

 

 何気に後藤さんと再会してから一週間も顔を合わせず連絡もしないなんてのは初めての事で、俺自身もこの期間少しそわそわしていた。

 ……ごめん嘘ついたわ。そもそも未確認ライオットやレーベルの事で夏休み中も忙しかった結束バンドは旅行終わりの流れでたまには長期休暇を入れようという事になり、バイトは入れずスタ練もなし、とりあえず31日までを期日に後藤さんの編曲が完成するまで各自自主練兼休んで良しになったのだ。

 

 そして空白の一週間の間に予定空いたからとさっそくアコギ買いに行ったり、ふーちゃんがこっちの家に遊びに来てとても癒されたり、久々にゲームやアニメ三昧の一日を過ごしたり、弾き語りの練習やこっそり自分も作曲や編曲などの仕方を調べたりと、とても充実した一週間を満喫していた訳です。

 まあその間も後藤さんの事が全然気にならなかった訳ではないが、俺は彼女のあの言葉を信じる事にしたのだ。

 

 部屋に籠る寸前、彼女が俺に言った言葉を。

 

 

『い、今の私なら絶対良いのができるから、待っててね、ゆうくん……』

 

 俺は感動した。特にそう言って後藤さんが親指を立てながら部屋の奥へ消えていく姿は涙無しには見られなかった。

 何だかんだ成長している幼馴染を見れるのは俺にとっても喜ばしい事だ。だから今回は後藤さんに全てを任せて俺は休日を普通に過ごしていた……

 

 ら、美智代さんから呼び出しを喰らった。今すぐ来て欲しいと。

 何でと問わずとも理由はすぐに察した。だって百パー後藤さん関連だもの。分かりきってるもの。まあ元々期日は今日だしスターリーで集まる事になってるから来るつもりではあったけど。

 

 そんな訳で俺は今後藤さんの家に来ており、彼女の部屋の前にいる。

 すぐ横にはラップに包まれたおにぎりのお皿を持ちながら心配そうにしている美智代さんと無邪気な笑顔でちょこんと座っているふーちゃんがいる。きょうもかわいいね。

 

 

「ゆう君……ひとりちゃん本当に大丈夫かしら……? もう部屋に籠って一週間になるのに何の音沙汰もないの……」

 

「何の音沙汰もない……? 食事や風呂などはどうしてるか知ってます?」

 

「それが食事も全然摂ってないのよ〜! お風呂は着替えとか出てるから多分私達が寝静まった夜中に入ってると思うんだけどぉ」

 

 栄養は摂取してないのに身体の清潔感だけは保とうとしてるのよく分かんねえな。

 しかし美智代さんの言葉通りなら後藤さんはこの一週間食事をしていないという事になる。

 

 風呂の際に軽食としてお菓子か何かを食べてるならまだしも、心配してる美智代さんがそういう変化に気付かないはずがないし、最悪水すらも飲んでない可能性が出てきた。

 後藤さんの事だ。編曲に集中しすぎている可能性もあるが、その逆の可能性も大いにある。何ならそっちの方が九割占めてそう。一応今日が期日だから本来ならもうできてるはずだけど……怪しさしかない。

 

 一週間前は信じてたけど、そういや別荘で調子乗ってたんだよなあのピンク……。

 初の編曲とみんなの前で豪語したから引き返せなくなったってオチまでは軽く読める。

 

 うん、大体理解した。

 

 

「美智代さん」

 

「?」

 

「覚悟の準備をしておいてください」

 

「何の覚悟なの!?」

 

「あとふーちゃん」

 

「なーにー?」

 

「下の階からお水とか栄養ドリンクをたくさん持ってきてくれるかな? お姉ちゃんに必要かもしれないんだ」

 

「わかったぁ!」

 

 よし、これで準備は完了だ。

 あとは突入するだけ。頼むからGウイルスだけは撒き散らしてくれてんなよ。

 

 

「行きますよ美智代さん。突撃ィー!」

 

「え、ええ! ひとりちゃーん! 生きてるかしら〜!」

 

 普通に襖を開けて後藤さんの部屋に入る。

 するとそこにいたのは……。

 

 

「きゃー! ひとりちゃんが即身仏になってるわ!!」

 

 後藤さんだったモノが座り込んで壁にもたれ掛かっていた。

 着ているジャージはそのまま、そしてその下は全て骸骨化していたのだ。何故かピンクの髪は生えたままなのが気になるけど。

 

 

「やっぱ死んでたか。これまた奇妙な死に方してんな」

 

「さすがゆう君、ひとりちゃんのこんな姿を見ても動じないのね……!?」

 

「慣れてるんで」

 

 いやほんとね。

 

 

「ゆーくーん! いっぱい持ってきたよ〜!」

 

「おっ、ナイスだふーちゃん。じゃあそれを後藤さんに飲ませて元に戻しましょう。栄養与えたらいつもの姿に戻るはずなんで」

 

「分かったわ! ひとりちゃんの穴という穴に栄養をぶち込むのよ〜!」

 

 美智代さんその言い方はちょっと良くないかな。なんか色々とまずい気がするから。

 あとふーちゃん骸骨の目の部分に思いっきり水のペットボトルぶっ刺してるけど一応それ君のお姉ちゃんだからね。もうちょっと優しく入れてあげて。

 

 程なくして。

 後藤さんが元の姿に戻った。

 

 

「……ハッ!? し、死ぬとこだった……あれ、なんか凄い濡れてる……」

 

「いや実際死んでたぞ」

 

「おかえりひとりちゃん〜!」

 

 水やら栄養ドリンクやらでぐっしょぐしょだけどだんだん後藤さんの身体に吸収されてるのか、濡れていたジャージも異常な速度で乾いていった。

 相変わらず一人だけ世界の理に反してるね。死の概念がないのかこの子。

 

 

「あれっ……!? ゆ、ゆうくんっ? な、なんでここに……!?」

 

「美智代さんからSOSを受けてな。やっぱ編曲が難航してたか」

 

「あっうっ……」

 

 テーブルには途中で作業が止まっているPC画面が映し出されている。

 どうやら編曲というのは一筋縄ではいかないらしい。まあ俺もこの期間で調べたりしてみたけど一人じゃよく分からなかった。つうか単純に難しいってのがいちばんの理由だろう。

 

 

「ありがとうねゆう君! ひとりちゃんが元に戻れたのはゆう君のおかげよ!」

 

「いえ、別に俺は何も」

 

「やっぱりひとりちゃんを任せられるのはゆう君だけね! もしもの時はひとりちゃんをよろしく頼むわ〜」

 

 なんか話が一気に飛躍してませんかね? 

 やばい、このまま部屋に長居されると変な方向に行きそうだからさっさと退散してもらおう。

 

 

「はいはい、分かりましたから美智代さん達はもう下に行っててくださいね〜。これから作業も佳境に入るんでね〜」

 

 多分佳境。ワンチャン佳境じゃない。いやツーチャン佳境じゃない。

 美智代さんとふーちゃんを部屋から出した後、俺は後藤さんの方へ振り返る。彼女は正座していた。多分あんなに豪語してたのに完成してないから怒られると思っているのだろう。

 

 ため息一つ。

 

 

「はぁ……進捗の方は?」

 

「あぅ……えっと、は、八割、くらい……?」

 

「嘘ならほんとに説教するけどいい?」

 

「……ご、五割くらい、です……」

 

 マジで嘘なんかい。

 けど一応半分くらいはできてたのか。三割なら絶望的だったけどこれならまだ何とかなるかな? 

 

 

「今日が期日でこの後スターリーに集まるって事は分かってるよな?」

 

「う、うん……」

 

「それで五割、と」

 

「うっ……」

 

 本人もヤバいってのは重々承知なようだ。

 今日は編曲の出来を確かめるってだけだから集合時間は夕方辺り。時間にはまだ猶予がある。朝のうちに呼び出されたのが幸いだったか。

 

 

「分かった。とりあえず行きの二時間を計算に入れても夕方までまだ時間はある。最悪完成とまではいかなくても仕上げられるとこまではやってこうぜ」

 

「え……ゆ、ゆうくん、怒らないの……?」

 

「それで作業が進むなら全然怒るけどそうでもないだろ? まあ俺も最初から側で見張っておけば良かったかなとは何回か考えたし、そういうとこも何とかしてサポートすんのが俺の役割だからな。何かできる訳でもないけど力になれそうな事があったら何でも言ってくれ」

 

「う、うん……ありがと……頑張ってみるっ」

 

 何とかやる気は戻ったみたいだ。素直にPC画面へ向き直って作業に戻り出した。

 それではまず編曲というのはどういうものかというのをおさらいしておく。

 

 初心者や何も分かってない人によくありがちなのは編曲と作曲の違いについてらしい。どうも違いが分からない人に簡単に例えるならこうだ。

 料理や作業中か何かの時に既存曲でもなく適当な鼻歌を口ずさむ人は少なくないと思う。現に俺もたまにやってたからきっといるはずだ。いるよね? 

 

 少し大雑把かもしれないがそういう0から1を生み出す作業が作曲と思ってくれたらいい。

 そして編曲はそのメロディーにコードをつけたりアレンジして色んな楽器の音色を考えたり、完成形を想像しながら試行錯誤して1を10にしていく作業、と言えば分かりやすいかもしれない。

 

 もちろん楽譜も書いたりするからそれぞれの楽器の知識もある程度必要ではあるが、演奏できる必要はない。

 現に後藤さんはギターしか弾けないけどベースやドラムのパートを五割でも仕上げているのはそういう事だ。まあだからこそオリジナルを作るとなるとめちゃくちゃ大変なんだろうが。

 

 その他にもデータで作り上げた楽譜を元に実際に演奏して音源を作っていくのがレコーディングだ。

 さらにそこから話し合いなどで新しいアイデアとか出し合ったりすると作業もまた増えていく。たった一曲、されど一曲。この一曲を作るだけでもどれだけ苦労するかなんて素人には計り知れないものだろう。

 

 そう考えるとやっぱリョウさんって凄えなって。金の事以外なら素直に尊敬でき……できるかな……や、そんなできないな……基本性格もがめついんだもんあの人……。

 うん、リョウさんには音楽活動だけひたすら頑張っていただこう。

 

 

「ゆ、ゆうくん」

 

「ん?」

 

「えっと、今思い出したんだけど……最近ギターヒーローの動画あげれてないなぁ……って。だ、だから一曲だけ撮ってもいい、かな……?」

 

「その心は?」

 

「あっ、え、えぇっと……き、気分転換にもなる、し……あっちの活動も大事、だから……」

 

 これは多分あれだ。宿題とかやらなきゃいけない作業がある時に限って何故か出てくる他の事にたいしての謎モチベ上昇だ。

 ふといきなり掃除しようとか気分転換に漫画読んで一生止まらなくなり後で超後悔するパターンのやつ。この謎現象におそらく後藤さんは陥っている。

 

 しかも普段引き込みがちなのにこういう時だけは無駄にメンタル強くなって少し強めに出てくるタイプが彼女だ。非常に厄介である。

 ……けど、後藤さんの言い分も分からなくもない。

 

 最近はフェスにレーベルにと練習やバイトばかりでギターヒーローの活動があまりできていなかった。

 登録者数的に待ってるファンはたくさんいるだろうし、このまま待たせてしまうのも申し訳ない。後藤さん自身はアレでもギターヒーローの動画を待っている人は数十万人もいるんだ。

 

 むしろ変なモチベ発揮してる今のうちに動画をストックしておくのも悪くない気がする。

 俺もいるんだしちゃんと見ておけば慌てるような事にはならないはずだ。メイビー。

 

 

「……まあ根詰めすぎても逆効果だしな。一回切り替えてカバーでも弾いてみたら新しいアイデアとか出てくるかもしれねえし、そっちの作戦でいってみるか」

 

「き、機材の準備はできてるよ……!」

 

「準備早えなおい」

 

 ということで俺達は一旦気分を変えてみる作戦を決行した。

 これが吉と出るか凶と出るか。

 

 

 

 

「今何時だこの野郎」

 

「じ、13時……」

 

 もちろん大凶であった。

 

 

「ぬがぁぁぁああああああっ!! 動画五本くらいストックしたはいいけど時間喰いすぎたー!! ご丁寧に昼食も頂いて絶賛昼寝したい気分にまでなっちゃったよちくしょう!」

 

「あっえっと……布団敷く?」

 

「いらんわぁ!! その思考に陥ったらいよいよ終わりだからな!? アンタはさっさと作業に集中しなさい! こっからは俺含めてまともに休憩できると思うなよおッ!!」

 

 一緒に撮影とか編集してた手前強く言えないのが辛い。

 俺自身後藤さんのギター聴くのが好きなせいで裏目に出てしまった。おのれギターヒーロー許すまじ。

 

 さすがにヤバい。時間がヤバい。

 編曲自体俺では無難なアドバイス程度しか出来ないからマジで後藤さんに全てを懸けるしかない。頼むから今の気分転換で良い感じのインスピレーション湧いててくれよ……。

 

 

「とにかく今詰め込めそうなアイデアを全部入れるんだ。そこから必要ない部分を削ってったらそれなりに良い形になるはず。なるかな……? なるよね?」

 

「や、やってみる……!」

 

「その意気だぜ後藤さん。ギターヒーローの余力をここで使えば巻き返せるぞ!」

 

「そ、そうだよねっ……ぎ、ギターヒーローの私ならこれくらい……!」

 

 よし、いいぞ。程よいやる気程度なら彼女も暴走しない。

 暴走しないという事は変な事にはならずちゃんと編曲作業ができるという事だ。毎日六時間ギターの練習してた集中力を今ここで使えばきっと大丈夫のはず……!」

 

 

「へっへへへ……私は最強……!」

 

 

 あっやべ、フラグ立ったかもしんない。

 

 





後藤家による清水包囲網はほぼ完成されてたりする。
なお効果の有無は不明。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10. ただの紅茶好きさん、だいさむさん、かんかんさばさん、遊技林さん

☆9. nagara1208さん、yuusixya0154さん、コスプレさん、クリストミスさん、イキョウさん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
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