再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
結束バンドの新EPが良すぎる件。
なんかやべーのが二人入ってきたから一旦トイレ掃除という名目で男子トイレへ直行した。
と言っても開店前で客は当然おらず、スタッフも男子が俺しかいない時点でトイレはとっても綺麗だったとさ。トイレットペーパーもきちんと三角折りにされていてやる事がねえ。
何なら点検もすぐに終わったので俺は自分の用を足してから手洗い場の前で立ち尽くしている。
店長の事だし開店前のトイレ掃除なんて五分で終わるの分かってるよなぁ。変に長居しても後から問い詰められそうだ。
つうか単純にあの場に後藤さんとリョウさんを残してきたのが不安でしかない。ヤツらは混ぜるな危険ではなく混ぜても危険だから何しでかすか分かったもんじゃない。
……素直に戻ろう。この中だとまともな部類の人間は俺しかいないんだもんな……。
そんな訳でトイレを出た。
瞬間。
「……えっとぉ、どした?」
男子トイレの真ん前で後藤さんが出待ちしておられた。
君、男子が俺しかいないからってそこで待つのはどうなん?
「あっうっ、その……あ、あの二人に仕事教えないと、なんだけど……ゆうくんにも手伝ってほしいというか……いっそ全部教えてあげてくれないかなって……」
丸投げしようとしてんじゃねえか。
「リョウさんは?」
「て、店長が仕事教えさせようとしてきた時にい、いきなり盲腸だからトイレ行ってくるって言ってそのまま出てこない……」
「120%仮病だろそれ」
混ぜても危険じゃなかった。そもそもこいつら自分から混ざろうともしないタイプの人達だったわ。
山田はとりあえず虹夏さんにチクって今度叱ってもらおう。後藤さんは……まあイエスマンだから受けるしかなかったってとこか。逃げずに俺のとこへ来ただけマシだな。
癖強新人の二人は後藤さんの後ろでニコニコしながら待機している。
まあ今更個性爆発した女の子が一人や二人増えたところでそんな変わらないか。
「じゃあ俺も手伝うから二人で教えてやろうぜ。少しはコミュニケーションとっとけば後藤さんも今後やりやすいはずだしな」
「あっうん……」
全部俺がやってくれると思ってたのか返事は若干暗めだった。
一応お前のためでもあるんだから露骨に顔に出すんじゃありません。
「んじゃあさっそく仕事教えてくけど、掃除は確かもうやってくれてたんだよな」
「はい! 部活の習慣でやっちゃってました!」
「うん、ありがとな。できれば今後は一人で全部やらずに誰かと一緒にやってくれると負担も軽くなるから、それでよろしく頼むよ」
「はい! 般若先輩!!」
「よし、まずは般若先輩呼びを改める事から始めようか」
まさか普通にまた呼んでくるとか思わなくて一瞬スルーしかけたわ。
「おもしれーじゃん般若先輩。狂犬のお前にピッタリじゃねえか」
「次そんなこと言ったら店長の事シスコンヤンキー少女趣味って言いふらしますよ」
「よし、般若先輩呼びは今後禁止だ、いいな」
「はい! 次からは狂犬先輩って呼びますね!!」
「一ミリも改善されてねえじゃねえか!!」
営業中に般若先輩だの狂犬先輩だの呼ばれた日にはもれなく客から不審な目で見られる事間違いなしだからね?
「上でも下でもいいから普通に呼んでくれ……。じゃねえと俺の胃が持たん」
「じゃあ優人先輩で!!」
「………………お、おう、それで良し」
なんか……後輩からの先輩呼びっていいっすね……へへっ。
いきなり下の名前だったのは多分あれだ。ガチガチの体育会系だからだろう。距離の詰め方エグいもん。
「え〜じゃあ気を取り直して次に大山さん達にやってもらうのは〜……って、大山さん? 何? 何でそんな見てくんの?」
ドリンクの説明に行こうと思ったら大山さんがなんかめっちゃこっち見てくる。
笑顔のまま凝視してくんの普通にちょっと怖いんだけど。陽キャの圧が凄え……。
「後輩なんでウチの事は猫々って呼んでください!!」
「……はい?」
「後輩なんでウチの事は猫々って呼んでください!!」
「別にどっちで」
「後輩なんでウチの事は猫々」
「オーケーオーケー分かったから一旦声のボリュームを抑えようか猫々さんや! 俺の背後にピッタリ張り付いてる後藤さんが溶けすぎて俺と一体化しようとしてきてるから!」
優人とひとりでゆとりってか。やかましいわ。
「(みんなどんどんゆうくんに下の名前で呼ばれていってるのに私って……)」
なんか後ろでめっちゃぼそぼそ言ってない? 呪詛じゃないよね?
「じゃあえれの事はえれって呼んでください〜!」
「せめて恵恋奈さんにさせて!? そっちの呼び方だとマジで推しっぽい感じになっちゃうから! 俺の推しは生涯結束バンドなんで!」
「…………へへっ」
何でこの子ら年下なのにこんなぐいぐい来れんの。普通女の子の後輩って男子の先輩とか少し怖がるくらいなんじゃないの。
この子らが癖強なだけ? それとも俺が舐められてる?
「あいつ絶対また虹夏達になんか問い詰められんぞ」
「もはや恒例行事ですね〜」
「あ〜めんどくせ。家で小言聞かされるのこっちなんだよなあ」
大人組がなんか言ってるけど新人達が元気すぎて聞き取れん。普通に仕事の話してるって解釈でおけ? こっち睨まれてるけど。
俺と同化しようとしていた後藤さんを分離させてから咳払いを一つ。
「じゃあ次はドリンクの説明するから」
「「はーい!」」
ドリンクカウンターまで移動。
後藤さんはドラクエの移動時のようにピッタリ俺の後ろを着いてきている。何なら大山さんと日向さんもニコニコしながらそれに続く感じになってるせいで後藤さんの気がずっと休まらない状態である。陰の者には眩しすぎるな。
「基本はシンプルで、お客さんからドリンクチケットを受け取ったら注文通りにドリンクを入れて渡すだけ。お酒の場合も同じだけど、ビールだけは泡の入れ方みたいなのもあって少しコツとかいるかな。慣れない内は俺が入れるのを見たりして感覚掴んでいけばいいから、分からなかったりしたら気軽に聞いてくれればいいよ。な、後藤さん」
「あっうん……はい……」
「「はい!」」
うむ、良い返事だ。
何もない時はやかましいが仕事を覚えようとメモしたりするとこを見るとちゃんと真面目な所もあるようだ。聞き分けのいい後輩は嫌いじゃないぞ。
「……うーん」
「どうかしたか、ひな……恵恋奈さん?」
「恵恋奈でいいですよ〜」
ハードル高くしないで。
「えれ思ったんですけどぉ、何だかメニューモブいですよね? キャラクタードリンクとかないんですか〜?」
「モッ、キャッ……?」
言ってる意味分かんなくて後藤さんが鳴き声みたいな声出してんじゃん。
てかライブハウスのメニュー見てモブいって言う人初めて見た。メニューがモブいって何? 俺でも分からん。キャラクタードリンクなら分かるけど。
「その人をイメージしたドリンクの事です〜」
「例えば髪の色が青い人だったらドリンクの色もブルーハワイみたいに青くしたりするって感じのやつだよ。しかしアニメのコラボカフェだとそういうのは王道だけど、ライブハウスでキャラクタードリンクってのはあんま聞いた事ないな」
「ならえれに任せてください! 推してくれる人のためにひと肌脱ぎますよ〜!」
「え、別にいいけど……」
経験者ならまだしも未経験の新人に任せる事なんて一つもないんだわ。
という意味を込めた制止も虚しく恵恋奈さ……恵恋奈はコップを手に取ってからどのメニューの手順にもないドリンクの入れ方を披露しだした。活き活きしすぎて止めようにも止められねえ。
そのまま彼女は何故か手際良くドリンクを混ぜたり何かを入れながら俺達の前に差し出してきた。
「はい、試しにひとりさんをイメージしたドリンクを作ってみました! 題して『ひとりのあっあっ目が泳いじゃういちごオレ』です!」
いちごオレと名付けてる通り見た目はピンクだが、中になんか変なモノが入ってるように見えるのは気のせいか?
「中に何入ってんの」
「いちごオレ、マグロの目玉、ヒアルロン酸のジュレ仕立てです〜! 我ながら完成度高くできました!」
「おい真ん中の具材明らかにおかしいだろ」
ただただグロいだけじゃねえか。
これあれだよ。地下でウイルスの研究してたらふとした拍子に容器が床に落ちてそのウイルスが室内に充満してしまって他のウイルスとも融合し謎のクリーチャーが産み出されてしまう時の最序盤のやつだよ。世に出しちゃいけない系の代物だよ。
「げぇっ……何だこれ、くっそまずいな……」
「いや店長が飲んでんのかよ。というかマグロの目玉とかどこで仕入れてきたんですか。誤発注にも程があんでしょう」
「うっ……ぷ、プロテインよりかはまあ、何とか……?」
「後輩だからって飲まなきゃいけないなんて事はないからな猫々さんや。ほら、良い子だから目玉なんてペッしなさい」
「キャラクタードリンクに美味しさしちゃダメですよ♡」
おい元凶なんてこと言いやがる。
少なくともアニメのコラボドリンクとかはそれなりに美味しかったりするんだからね! 無駄にめっちゃ高いけど。
「でもバンドとのコラボメニューは悪くないかもな。ちょっと考えてみるか」
「いやでも店長、毎日何組も来るバンドのコラボメニュー考えるとかバンドやメンバーの特色を踏まえながら連続で新作生み出すようなもんですよ。現実的に考えて難易度高すぎませんか?」
「そこを上手く考えるのが発案者だろ。それにうちもこういう限定メニューで客が増えれば万々歳だしな。つーわけで案出し頼むわ」
「りょ〜♡」
了解しちゃったよこの元天使。助けて現天使ニジカエル。俺じゃこの新人達を抑えられないかもしんないです。活きが良すぎる。
「こりゃまたとんでもねえのが入ってきたなぁ……。なあ後藤さん、大丈夫そうか?」
「(日向さんがバイト初日から店に貢献してる……わ、私でも後輩に勝てる要素を考えなきゃ……)」
どうやら大丈夫じゃなさそうだ。ずっと後ろで張り付いて離れないし。
なんか懐かしいなーこの感じ。俺達がバイト始めた頃もこんなんだったよなー。ふむ、そう考えると後藤さんも何気にちゃんと成長してるのよね。スターリーの中だと普通に離れてても今はもう大丈夫になってたもんな。今まさにリセットされてるけど。
「ほれ、後藤さんはギター上手いんだからそこが一番勝てる要素って事にしておこう」
「……えっあっ」
正直バイトの仕事内容で勝てる要素は皆無だからね。
話をずらしてあの二人より勝ってるとこを教えてやれば……。
「店長! ウチにも何か大役ください! 何でもやりますよ!」
「えー……じゃあもう開店近いから受付でもするか? なんか得意そうだし」
「任せてください! 声出しの練習しときます! へいらっしゃーせー!! ワンドリンク制でーす!!」
「……うん、まあうるせえけど元気のねえ受付よりかはマシって事にしとくか」
「(ウッ!? げ、元気のない受付って、絶対私の事だ……)」
あっ。
「も、もう後輩に勝てる要素が年上な事しかない……」
「もうっ、アホっ、バカっ、金髪女ヤンキー! バカ店長! もう少しでうちの子の機嫌が直りそうだったのに……! 何でよりによって元気ないとかピンポイントで止め刺してくるんだアンタは! 背中から剥がれる直前までいったのに定位置まで戻っちゃったじゃん!」
「なあ!? やっ、ちがっ、べ、別に私はぼっちちゃんの事を言った訳じゃなくてだな……!?」
「私は高二です……」
「? 知ってますよ! というか何で優人先輩の後ろにいるんですかー?」
「ほらもーっ、とうとう意味不明な学年マウントとり出したじゃんかー! しかも天然スルーされてるし! あーあ、店長の責任ですよー」
「私か!?」
どっからどう見てもそうでしょ。俺の努力を返してほしい。
普段はちょろいけど上げて落とされてからの後藤さんはちょっと機嫌直りにくいんだからね。経験則で知ってるんだから清水さんは。
「(な、なあ優人、どうしたらいいと思う? ここはもう素直にお前の力貸してくれっ)」
「(俺の力を無にしたのが店長なんですけどね。まあ簡単ですよ。後藤さんでもできそうな仕事を任せればプラスまではならなくともとりあえずゼロ地点までは戻ります、多分)」
「(お前もちょっと自信ないのかよ)」
「(だって後藤さんですもん)」
あの子を自在にコントロールできるならこれまで友達作ろう大作戦とか全て失敗するはずないじゃん。
精密機械より扱いには気をつけないといけないんだぞ。
「よ、よしっ、ぼっちちゃんには超大役の門番を任せる!」
「え……!? あっはい……」
「門番!? やっぱりバンドのライブハウスって治安悪いんですね……!」
「優人も門番任せたぞ。ぼっちちゃんに付いててくれ」
「いいんですか? まだ教えなきゃいけない事とかあるんじゃ?」
「そこは私がやっとく。他の業務は仮病でトイレ籠ってるバカリョウ引っ張り出してくるわ」
南無三ダーヤマ。骨だけは拾ってやる。
「え、えっと、行こ……ゆうくん……」
「ああ……ってどっから持ってきたその刺股」
「も、門番だから……ほ、ほら、やーって……」
ハチワレやちいかわでも泣きながら頑張って突撃していくのに何このいの一番に逃げそうな門番。
ぼっちとちいかわでぼっちいかわみたいなコラボグッズ出したら売れないかな。売れないな。余計にデバフかかりそう。
「優人先輩! 声出しできてるか見ててください!! らっしゃーせー! どのバンドを見に来られましたかー!!」
「…………ゆうくん、私も盲腸になったかも……」
「おい門番」
いきなり職務放棄すな。
猫々と恵恋奈、個性は強すぎるけど後輩としては普通に良い子のはずなので多分清水との相性は良いと思う。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10. Saーがさん
☆9. Tetramiさん、イキョウさん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん
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高評価くりぃ〜〜〜。