再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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昨夜のぼざろアニメ相変わらず神回だったなあ。
ぼっちちゃんの私服可愛すぎた。あわよくばツイスターゲームが見たかったなあ。ぼ喜多たまんねえ~。


そして今日何気に一番文字数長いけど許してくだせえ。




13.人の凍った心を溶かすのは人の温かい心だ

 

 

 つまり、だ。

 

 喜多さんは弾けもしないギターを弾けると嘘を付いて結束バンドに入り、本番が近くなって怖くなり逃げてしまったものの、ちゃんと謝罪がしたくて後藤さんにギターを教わろうとする。

 しかし後藤さんは今日バイトだったから教えるのは後日になったはずなのだが、お互い後藤さんと知り合いなのを知らずに話は進み……ああもうめんどくさっ。回想めっちゃめんどくさいなッ。

 

 とにかく何やかんやあって俺達は今スターリーの中にいるのであった。はい回想終了。

 

 

「で、何でこうなってんの。二人ほどポジションおかしくない?」

 

 現実逃避するために回想しようと思ったけど想像以上にめんどくさかったら向き合う事にした。

 ミーティングで使うテーブルとイスに腰掛け、五人で座ったのはいいのだが。

 

 俺の後ろ両サイドを固めてるヤツが二人いた。

 

 一人は後藤さん。いつも通り、平常運転、日常、背後霊、スタンダード、むしろこれで1セット、親よりも掴まれた裾、以上。

 もう一人は喜多さん。何があった、暴走運転、異常、珍行動、可愛い、親にも掴まれてない裾の部分、とりあえず何か書いとけ、以上。

 

 後藤さんはいつもだから良いとして、いや良くはないけど。喜多さんまで俺の服掴んで後ろにくっつくようにして座ってるのは正直謎である。

 両手に花と言えば聞こえはいいかもしれないが、実際は少し違う。これじゃ背中にスタンドだ。後ろから負のオーラしか感じられねえ。おい、陰陽コンビで左右から俺を挟むな。中和できんから。

 

 

「座ってまで後ろ来なくていいでしょうが。いい加減もっと前出ろって二人共。話しにくいだろ」

 

「それは、そうなんだけど……」

 

「こっ、ここは、私の席なので……」

 

 だから俺はイスじゃねえって。喜多さんもそろそろ元に戻ってくれ。日食進んでってるから。後藤さんのせいで陰キャ力が伝染ってる訳じゃないよね? 

 このままじゃ一向に話が進まないので何とか軌道を戻さないと。

 

 

「はぁ……もういいや。話を戻しましょう虹夏さん」

 

「うん、分かった。けど優人くんはそれ大丈夫なの?」

 

「スタンドが二人に増えたと思えば強くなったんじゃないかなって」

 

「ポジティブだねぇ」

 

 ここで素直に対応してくれる虹夏さん、やっぱ良い人だ。

 

 

「それにしても喜多ちゃんがギター弾けなかったとはね~。だから頑なに合わせの練習避けてたんだね」

 

「うぅ……はい……」

 

 申し訳なく思ってるのか喜多さんの俺の制服の裾を掴む力が少し強くなった。

 そして何故か後藤さんの掴む力も少し強くなってる。やめて、後藤さんに関してはちょっと引っ張ってるから、伸びちゃう伸びちゃう。

 

 

「突然音信不通になったから心配してた」

 

「先輩……!」

 

「死んだかと思って最近は毎日お線香あげてた」

 

「殺してんじゃねえか」

 

 この人たまにナチュラルに精神抉ってくる言い方するな。行動も発言も自由人だから、毎日この人と接してきた虹夏さんが聖人になっていくのも分かる気がする。

 暴走車を華麗匠にコントロールしているようだ。俺も後藤さんをもっとコントロールできるようにならないと。

 

 

「……あの、怒らないんですか?」

 

「気付かなかったあたし達にも問題あるし、それにあの日は何とかなったしね!」

 

 そう言って虹夏さんは後藤さんを見る。ああ、確かに見方を変えればそうとも取れる。

 逆に言えば喜多さんがあの日逃げなければ、後藤さんは未だにずっとバンドも組めず一人のままだったのだ。

 

 喜多さんのした事は褒められるような事ではないが、そのおかげで後藤さんは今やりたい事ができている。

 偶然に偶然が重なった今の状況。神様の巡り合わせにも程がある。ある意味では運命とも言えるのか。

 

 

「で、でもっ、それじゃあ私の気が収まりません! 何か罪滅ぼしさせてください!」

 

 ん? 今何でもするって言った? 言ってないか。

 

 

「そんな事言われてもな~」

 

「じゃあ今日一日ライブハウスのバイト手伝ってくんない? 忙しくなりそうだから」

 

 会話に突然入ってきたのは店長だった。確かにバイトを手伝うというのは罪滅ぼしとしてちょうど良いかもしれないな。

 ……あれ、でも今店長何て言った? 虹夏さんに遅れるって言ったロインの返事には忙しくなさそうって来てたような。

 

 

「忙しくなりそう……?」

 

「っ……えへへ~」

 

 疑問に思って虹夏さんの方を見るとペロッと舌を出して誤魔化すように笑っていた。

 まさか遅れても俺に気を遣わせないために噓ついたのか……? て、天使じゃんこの人。聖人なんかじゃ位が低すぎる。天使だ。大天使だ。天使長だ。一生着いて行きます! 

 

 

「で、でもそれだけじゃあ……」

 

「じゃあちょっと恥ずかしい衣装でも着てもらおう」

 

 その話詳しく。喜多さんに恥ずかしい衣装って何着せるつもりなんですか店長。けしからん、露出は控え目じゃないと許しませんよ。

 喜多さんは清楚系陽キャなんだから、むしろ肌を隠した方がこう、良い感じになると個人的には思ってます。いたっ、ちょ、後藤さんっ、裾掴んだまま小突かないで。何で俺が興味津々なのバレたんだよ後ろにいて表情見えないだろ。

 

 

 数分後。

 着替えてきた喜多さんは俺達の所へ戻ってきた。

 

 ライブハウスには似つかわしくない白いフリルカチューシャ、バイトだからか本来奉仕活動をメインとしているフリルの付いたエプロンドレス、現代社会において世間で俗に言うメイド服を喜多さんは着ている。

 秋葉原とかにいそうなミニスカメイドではなく、ロングスカートで露出を極力減らしている健全なメイドだ。

 

 無言で店長に親指を立てると視線を逸らされた。その視線は後藤さんに向けられている。えっ、まさか店長後藤さんにメイド服着せたいの? 無礼しか働かないよ? 

 店長、後藤さんの事気に入ってたりすんのかな。はははいやそんなまさか。

 

 

「喜多ちゃん手際良いね~」

 

 虹夏さんの声で意識が喜多さんに戻った。

 床掃除も丁寧にやっていて見栄えも良い。テキパキ動くから働いているこちらの仕事量まで減りそうな勢いだ。おっと、さすがにそれはいかん。

 

 

「惰眠を貪る時間までできてしまった」

 

「時給から引いとくな」

 

「んな事言ってないで俺達も仕事しますよリョウさん」

 

 忙しくなりそうって言ってたの聞いてなかったのかこの人。立って寝るとか器用すぎる。これが変人ベーシスト……。

 

 

「テーブルとイス片してきます」

 

「あいよ」

 

 重い物は基本俺が運ぶ事になっている。これもある種の筋トレになるからちょうど良い。

 テーブル二つを運び終わるまでフロアと倉庫を二往復。特に大変でもないが、その往復してる最中に後藤さんがゴミ箱入ってギター弾いてるし魂は抜けてるし、喜多さんはPAさんにくんかくんかされてたしでこの短時間の間に何があった。

 

 俺が動いている間虹夏さんと喜多さんだけがまともに働いている。リョウさんは後藤さんの魂を見送っていた。死者出てるけど。

 ここのバイトは大丈夫なのか。いつか店長にぶん殴られてもおかしくなさそう。

 

 

「ふぅ……あとはリハ中の機材運びか」

 

 専門的な事はまだ他の人がしてくれるから俺は単純に荷物運びや受付、ドリンクスタッフなどを任されている。

 結構面白いんだよなここのバイト。普通の飲食店じゃ経験できなさそうな事ばかりだし、何より色んなバンドのライブを見れるのが楽しい。

 

 次何か手伝えそうな事を探しているとドリンクコーナーの方から声が聞こえた。

 

 

「きゃあああああ!!」

 

 喜多さんの叫び声……? さっき虹夏さんが後藤さんにドリンク教えてあげてって言ってたけど、また何かやらかしたんだろうか? 

 後藤さんの対処を喜多さんがするにはまだ早すぎる。ここは後藤ひとり専門プロフェッショナルの俺が助太刀に入らねば。

 

 そう思ってドリンクコーナーの方へ行くと、まず視界に入ったのが後藤さんの左手。

 コーヒーを入れていたのか、カップとコーヒーが床に撒かれていた。そして何より、後藤さんの左手の甲が赤くなっていたのだ。瞬時に何が起こったのかを理解する。

 

 

「なっ」

 

 咄嗟にだった。

 心配してる喜多さんの後ろから顔面崩壊している後藤さんの手首を掴んで引っ張る。

 

 

「何してんだ馬鹿野郎ッ!! さっさと手を冷やせッ!!」

 

 急いで水道の蛇口を捻り彼女の手の甲へと当てる。火傷の場合は確か10分以上水に当てないといけなかったはずだ。

 幸いすぐに手を引いたのか見た感じ酷くはなってないようだが、ただでさえ肌が白い後藤さんの手は軽い火傷程度でも目立つほど赤くなっている。水ぶくれになるような火傷じゃない事が不幸中の幸いか。

 

 

「ひぅっ……!? あっ……うぅ、ご、ごめんなさい……」

 

「…………え?」

 

 普段よりも小さくてか細い声がした。

 見ると後藤さんは俯きながら涙は流してないものの、まるで怯えてるように体を震わせている。

 

 ……しまった。やってしまった。

 そう思った時に喜多さんから声を掛けられた。

 

 

「し、清水君っ。私ハンカチ持ってるから包帯替わりに巻いてあげれないかしらっ?」

 

 それで正気に戻る事ができた。

 冷静になれ。衝動のままに声を荒げたら後藤さんがこうなってしまうのは当たり前だろうが。静かに深呼吸をする。

 

 

「……悪い。もうちょい水で冷ましてから喜多さんが巻いてやってくれ。圧迫しすぎないように頼む」

 

「う、うんっ」

 

「それと後藤さん」

 

「はっ、はい……」

 

「いきなり怒鳴っちまってごめんな。急な事で頭に血が上ってた。けど、ギタリストなら手に怪我するのだけは極力避けるよう気を付けてくれ。バンド組み始めたばかりなのに練習できなくなるのは嫌だろ?」

 

「うっ……ごめんなさい……」

 

 反省してるならそれでいい。大事に至らなくて良かった。

 普段はツッコミとか説教で怒る事はあるけど、後藤さんの事になるとついカッとなってしまう事がたまにある。いつだって誰にでも優しい人でありたいがモットーなだけに、まだまだ俺も反省点ばかりだ。

 

 

「で、何でこんな事になったんだ?」

 

「えと……名誉挽回しようとしたんだけど、見られてたら緊張しちゃって……」

 

 こ、こいつ……緊張しただけでこうなるヤツがどこにいるってんだ。……いたわ目の前に。

 俺の心配をこうも簡単に無様にできるのはこの世界の中でも後藤さんくらいだろう。もっと怒った方が良かっただろうかとさえ思えてくる。

 

 溜め息一つ吐いて、受付の方にいる虹夏さんに声を掛ける。

 

 

「虹夏さん、心配しかないんでリハの機材運びまで後藤さんの代わりに俺が喜多さんにドリンク教えても良いですか?」

 

「いいよー。それと優人くんあんま大きい声出すとこっちもビックリするから程々にね~!」

 

「あ、それはもうマジですいません」

 

 やっぱ聞こえてたのね。室内は音楽も掛かってないから余計俺の声が響いてしまう。

 気を付けないとな。

 

 そんな俺の後ろでは床にぶち撒かれたコーヒーを拭いている後藤さんと喜多さんがこんな会話をしていた。

 

 

「後藤さんって何でバンド始めようと思ったの?」

 

「あっ……世界平和、世界平和を伝えたくて……」

 

「意識高いのねえ」

 

 噓である。この女、誰かに声を掛けられたくてちやほやされたくてバンドをやっている。不純の塊である。

 まあバンド始める人なんて大体そういう理由だろうから何とも思わないけど(偏見)

 

 

「さて、喜多さん、トラブルもあったけどバイト再開しようか。他のドリンクも教えるよ。後藤さんも一応教え方を学ぶつもりで見ててくれ」

 

「は、はい……」

 

「はーい!」

 

 陰陽コンビでこうも返事の仕方が変わるのか。人間の性格って不思議だ。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 17時を過ぎてライブハウスも開場。

 お客さんに頼まれたドリンクを笑顔で渡しまくる喜多さんと、一瞬だけ目を合わせて即座にドリンクを渡し次に移る後藤さん。

 

 後者はちょっとアレだけど回転率は速い。前者は言わずもがなといった感じで愛想の良い物腰で効率良く回している。

 何かあれだ。光と闇が両方備わり最強に見える。ように感じる。

 

 ちなみに俺は時々サポートしつつアルコール類の提供をしていた。

 忙しなく動いていると時間の経過も早いもので、いつの間にかライブも始まっていた。そうなるとドリンク提供も落ち着きを見せ、こちらも時間の余裕ができる。その間に俺と後藤さんが幼馴染で、いつも喜多さんに知り合いと言って話してる子が後藤さんだという事も簡潔に伝えておいた。

 

 みんながライブに集中している時。後藤さんが口を開いた。

 

 

「あっ、あの、もしかして喜多さんが言ってた憧れの先輩って……」

 

「う、うん……リョウ先輩なの……」

 

 まあそんな気はしてた。外で遭遇した時も真っ先にリョウさんに土下座してたし。何でもするとか私をめちゃくちゃにしてとか言い出した時は肝を冷やした。

 公共の場で、しかも俺の隣で土下座しながら言うものだから、下手したら俺が言わしたり俺に言ってるのかと周囲に勘違いされそうになったからだ。ほんとやばかった。あの時ばかりは俺もフリーザになってる後藤さんの後ろに隠れるしかなかった。

 

 

「私は後藤さんと違って不純なんだけど、先輩の路上ライブを見て一目惚れしたの」

 

 リョウさん他でバンドしてたのか。それは初耳だ。

 

 

「ちょっと浮世離れしてる雰囲気とか、ユニセックスな見た目とか、もう何もかもキャーって感じで!」

 

「「キャー?」」

 

 後藤さんとハモッた。君もそこ気になるって事は俺がおかしい訳ではないのか。

 

 

「そして何より楽器が様になってて……!」

 

「あっ、それは分かります。わ、私が持つと、どうしても楽器に持たされてる感が」

 

「そう! 楽器が本体みたいになっちゃう! あれ何なのかしらねー?」

 

 楽器が本体って何なんだろう。新八の眼鏡みたいなもんか? 95%が眼鏡で3%が水分、残りの2%がゴミだっけか。どこ行ったよぱっつぁん要素。

 後藤さんに当てはめてみたらどうなるだろう。95%がギター、3%がピンクジャージ、んで残りの2%が菌だな。感染の恐れあるし。後藤さん要素はちゃんと菌で確保してあるから良し。

 

 

「あのーカシオレください」

 

「はいっ、少々お待ちください! 清水君、カシオレお願いできる?」

 

「了解」

 

 どれだけ喋っててもすぐ仕事モードに戻れるのはさすがだな。このまま普通にスターリーでバイトしてくれたら助かりそうなんだけど。

 カシオレをお客さんに渡して会話に戻る。

 

 喜多さんの視線はライブをしているバンドの方へ向けられていた。

 

 

「演奏聴いてからリョウ先輩の活動をずっと追ってたんだけど、前のバンド突然抜けちゃってね」

 

「へ、へえ……」

 

「……」

 

 まあ、この辺はリョウさんの事情だ。俺達がここで詳しく聞いても意味ないだろうし、喜多さんも分からないだろう。

 間違いなく何かあったとは思うが、詮索はしない。そもそも俺はただのバイトで関係ないしな。

 

 

「その後結束バンドのメンバー募集を知って、思わずやりたいって言っちゃったんだ」

 

 いや行動力よ。

 

 

「だってバンドって第二の家族って感じしない?」

 

「家族?」

 

「うん、本当の家族以上に一緒にいて、みんなで同じ夢を追って、友達とか恋人とか超越した不思議な存在だと思うのよね」

 

 その家族、音楽性の違いで結構解散したりするって聞いたんですが言わない方が良いですかね。何ならリョウさんその家族一度抜けてしまってません? 

 なんて言える雰囲気でもないので黙っておく。

 

 

「部活とか何もしてこなかったし、そういうの憧れてたんだ」

 

 なるほど、最初は先輩のために嘘ついてバンド入って逃げたやべー陽キャだと思ったけど、喜多さんには喜多さんなりの憧れや純粋な気持ちもあった訳だ。

 そういう気持ちがあるなら謝罪してもう一度バンド入れてもらえば良いと思うんだけど、そこはどう考えてるんだろうか。

 

 

「そう、私は結束バンドに入って先輩の娘になりたかったのよ! 友達より深く……密に!!」

 

 前言撤回。やべー女だった。

 正体現したね。噓ついてバンド入るとこから薄々感じてはいたが、この子も大概ぶっ飛んだ発想をお持ちのようだ。急に変化球投げられた気分。もはやデッドボールだよ。

 

 

「まあ、だからこそ……バンドにはもう入らないけどね」

 

「……え?」

 

「……」

 

 ここで、俺の知らない何かを彼女達はどこかで挟んでいたのだろう。

 後藤さんの反応を見るに、もしかしたら喜多さんをバンドに誘っていたのかもしれない。そう考えると教室の前に後藤さんがいた事もギターを教える事になってたのも納得がいく。

 

 

「一度逃げ出した私みたいな無責任な人間は、ダメよ。バンドなんてしちゃ」

 

 自分なりに責任を感じて、ケジメをつけるために結束バンドには入らない。

 喜多さんはそう言っている。それが何だか、メンバーじゃない俺の胸中すらも強く刺激した。

 

 

「あっ、ごめんね暗い話して! もうこの話は終わりにしましょ! そうだ、私ちょっと切らしてるドリンクの補充取りに行ってくるね!」

 

 そう言って喜多さんは倉庫の方に行った。

 ライブで騒がしいはずなのに、俺と後藤さんの空間だけは閉ざされた空間のように沈黙しかなかった。

 

 このままで良いのかと、内なる自分がずっと問いかけてきている。結束バンドのメンバーでもない俺が余計な事をしていいのかと、今にも動き出しそうな体にブレーキを掛けている。

 残っている時間は少ない。きっかけを探すなら、今しかないのだ。

 

 隣には、喜多さんの気持ちを理解している少女がいる。

 であれば、迷いは振り切ろう。

 

 

「後藤さん」

 

「は、はい」

 

「このままで良いと思うか?」

 

「喜多さんの、事だよね……。わ、私も、ダメだと思う。だって、喜多さん……ハンカチ巻いてくれた時の、あの指……」

 

「そうか」

 

 何かを知っているかのような口振りで後藤さんは呟く。

 取っ掛かりは見つかった。それさえあれば、お節介焼きの出番だ。

 

 

「お前が感じた事を全部話せ。あのままじゃ喜多さんは結束バンドに戻ってこない。俺のいないとこでどんな会話をしたのか、埋まっていない溝をここで埋めていくぞ」

 

 今日の彼女の働きを見ていていくつか感じ取った事がある。

 喜多さんはまだ、結束バンドに未練が残ってるはずだ。そうじゃないとわざわざギターなんて教わろうとしない。上手くなってから謝ろうだなんて思わない。

 

 そして聞いた。

 後藤さんの証言で分かったのは、きっと喜多さんはまだ未練が残っている。その証拠に彼女の指先はギターの練習のせいか皮が硬くなっていたと。一人だけで密かに練習していたのかもしれないと。

 

 まったく、リョウさんがいるからだとか、バンドに憧れていたからとか、そんな事を俺達に話した時点で本心なんて隠せてねえじゃねえか。

 教室で話していた時、彼女は時々俺を優しい人だと言っていた。誰かのためにそこまでできる俺の事を優しい人だと。

 

 だったら、今こそ行動しないと意味がない。

 

 

「ケジメをつけて勝手に納得して自分にはバンドをする資格がないなんて、無責任だからって未練たらたらのまま自分の心に嘘ついて、それでも諦めきれずに練習までしてんのに逃げ出したからって理由で諦めようとしてんなら。それに俺達が気付かないでのうのうと憧れの世界から逃れると思ってんなら」

 

 彼女を結束バンドに戻すために、宣言する。

 

 

「まずはその幻想をぶち殺す!!」

 

 ライブの爆音と客の喧騒が入り乱れる中、俺は叫ぶ。

 そして、隣の後藤さんは言った。

 

 

「……あっえっ、と……ゆう、くん? それって、どういう……?」

 

「あっ、いや何でもありません気にしないでください忘れてくださいお願いします」

 

 頬の紅潮が止まらない。多分俺の顔は今リンゴかトマト並だ。

 やだ、ちょっとめっちゃ恥ずかしいんですけど。アニメのネタ伝わらないだけでこんな恥ずかしいの? 死にたくなってきた。俺もバイト辞めていい? 

 

 名言なんてノリで言ってみるもんじゃないと酷く痛感した。セリフによっちゃ大怪我だ。後藤さんの火傷より酷い。心が複雑骨折してる。

 変に勢いで言うのはやめよう。慎ましく生きよう。

 

 どうもライブを見てると謎テンションになってしまう。こうして、俺は学校ではなくライブハウスで黒歴史を生んだ。

 と、勝手にライブのせいにして俺は終了間際まで死んだ魚の目をしていたのだった。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 ライブも終わってみんなが帰り支度をしてる時。

 

 

「じゃあお疲れ。今日はもう帰っていいよ」

 

 店長のお許しにそれぞれ「お疲れ様でしたー」と答え、先に帰宅しようとしたのは秀華高の制服に着替え直した喜多さんだった。

 

 

「今日はありがとうございました。バンド活動頑張ってください。陰ながら応援してますっ。それでは……」

 

 言って、階段を上がろうとしている喜多さん。

 当然、待ったをかける。

 

 

「喜多さんを止めろ、後藤さん!!」

 

「え!? あっ、えっと、はい! き、喜多さんっ……ちょ、まっ、まっちょ……帰らな……ぶぶぅ……!」

 

 慌てて喜多さんを止めに行った後藤さんが転んだ。あれだけ怪我には気を付けろと言ったばかりなのに。あと喜多さんはマッチョじゃないと思うぞ。

 

 

「後藤さん!? 大丈夫!?」

 

 何か予定と違うが結果的に喜多さんを止められたから続行だ。

 俺は呆然と後藤さんを心配そうに見つめてる虹夏さんとリョウさんの背中を押した。

 

 

「優人くん?」

 

「いきなりで悪いんですけど二人共、後藤さんのサポート……お願いしていいですか?」

 

 俺の辿り着いた結論は、後藤さんを始めとした虹夏さん、リョウさんによる喜多さんの説得。

 どこまでもバンドメンバーですらない俺がでしゃばったところで、きっと喜多さんには響かない。

 

 だから。

 

 

「ここは、ここだけは……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 託す。

 この人達なら大丈夫だろうと、そう信じて。

 

 何の説明もしていないのに、俺の願いに虹夏さんとリョウさんは微笑んでくれた。

 そして。

 

 

「「任せて」」

 

 二人が後藤さんの方へと歩いていく。

 これでいい。あとは見守っているだけで充分だ。

 

 

「清水君……後藤さんも……まさか、まだ私の事を……。ごめんね、私、さっき言った通り結束バンドには入れないわ。ギター弾けないし、一度逃げ出した人間だし……」

 

 ライブ中にも聞いた言葉。あるいは自分を偽るための言い訳。

 見え透いた嘘の虚を突き本心を聞き出す事さえできればどうとでもなる。

 

 今のお前ならできるはずだ。

 後藤さん。

 

 

「あっあっ……わ、私もライブ前に逃げ出してゴミ箱に隠れて……あ、あと」

 

「ぼっちちゃん、起こすよ。大丈夫、ゆっくりでいいからね」

 

 転んで倒れたまま話そうとしている彼女を虹夏さんとリョウさんがゆっくり起こしていく。

 結束バンドが揃う。残ったピースは一つだけだ。

 

 

「きっ、喜多さんの左手……! 指の先の皮が硬くて……そ、それはっ」

 

「かなりギターの練習をしてないとならない」

 

「っ」

 

 リョウさんの言葉に俯きながらも強く頷く後藤さん。

 自分もギターをしていて、不注意ではあったけどあの局面で火傷をしなかったら決して気付けなかった分岐点。

 

 喜多さんの嘘が瓦解していく音がした。

 後藤さんが続けて、

 

 

「ほ、本当は喜多さんもバンド続けたかったんじゃないんですか……? も、もしかしたら楽器を弾くのは人より苦手なのかもしれないですけど……ど、努力の才能は人一倍あるから、大丈夫です……!」

 

「そうだよ! 喜多ちゃんもっ、これから結束バンドを一緒に盛り上げてほしいな!」

 

 虹夏さんも入る。

 

 

「何で、私にそんな……」

 

「ええ? だって喜多ちゃんが逃げ出してなかったらぼっちちゃんとも会えてなかったよ。優人くんともね!」

 

 言いたかった事を虹夏さんが代弁してくれている。そこで俺の名前は呼ばなくて良いと思うけど。

 

 

「あたしもずっとバンドやりたかったからさ、引け目感じちゃうのも、憧れちゃうのも気持ち分かるんだよね」

 

「わ、私もです!!」

 

 後藤さん、ボリューム抑えて。割かしうるさかったよ今。空気ぶち壊すとこだったよ。

 

 

「あっ、ごめんなさい思ってたより声出ちゃって……」

 

「あはは……リョウも喜多ちゃんが戻ってくれたら助かるよね!」

 

「スタジオ代もノルマも四分割」

 

「素直な言い方しなよ!」

 

「先輩分のノルマ……貢ぎたい……!」

 

「爛れた関係が爆誕しそうなんだけど……」

 

 リョウさん、空気ぶち壊す天才なのか……? 後藤さんよりも率先してぶち壊しにいったぞ。

 しかしその雰囲気は一瞬だけで、喜多さんの顔はまた暗くなる。

 

 

「で、でも私……ギター弾けないし……」

 

 ああ、そんな事か。なら心配はいらなさそうだ。

 

 

「大丈夫! ぼっちちゃんが先生してくれるよ!」

 

「……ぇ、え!?」

 

「……いいの?」

 

 不意に聞かれて戸惑ってるな後藤さん。いきなり振られるとは思ってなかったんだろう。陰キャはアドリブに弱いものな。

 彼女はこっちに振り向いて困惑しながらアイコンタクトをしてきた。だから軽く首を縦に振る。

 

 迷う必要はないだろうと。

 

 

「はい!」

 

 珍しく、後藤さんははっきりと返事した。

 変わってきたな、彼女も。

 

 そして、だ。

 偽りの噓が溶けた少女の顔は、まるでようやく呪縛から解き放たれたかのように目尻に雫を溜めていた。

 

 微かな逡巡。それは喜びを受け入れていいのか本当に入っていいのかという葛藤。

 だが最後の殻を破ったのは、紛れもない喜多さんの言葉自身であった。

 

 

「……ありがとう。私、頑張る……結束バンドのギターとして……」

 

 この言葉をもってして、結束バンドは四人。

 正式な形として元に戻った。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 帰り道。

 後藤さんといつも通りの道を歩いている。

 

 

「まさか喜多さんギターじゃなくて多弦ベース買ってたとはな……。そりゃ上手くならん訳だ」

 

「う、うん」

 

 あの後、真っ先に俺を引っ張って帰ろうとした後藤さんがみんなから褒められ承認欲求モンスターになったり、喜多さんがギターだと思って買い練習していたのが、実は6本の多弦ベースで前借りしていたお小遣いとお年玉が~と魂抜けてたりひと騒ぎがあった。

 

 まあ終わり良ければ全て良しだ。

 ギターボーカルも増え、結束バンドはここからが本当のスタートとなる。

 

 

「それにしても」

 

「……?」

 

 後藤さんを見る。

 彼女があんなに頑張って話して喜多さんの心を上手く掴めたのは、間違いなく彼女自身の功績だ。

 

 友達もいなくて、ずっと一人で、バンドも組めなくて、それが今はどうだろう。

 バイトを始めてまだ一回とはいえライブもしている。仲間も増えた。

 

 何となくの確信があった。

 後藤さんはこれからもっと成長できる。結束バンドとなら、彼女は自分のやりたい事ができるんじゃないかと。

 

 

「今日は活躍だったな」

 

「そ、そうかな……へへ……」

 

「ほら」

 

「……え?」

 

 左の掌を後藤さんに向ける。

 ポカンとしていてまるで意味が分かっていないような彼女。無理もない。おそらく誰ともこういう事をしたことがなかったんだろうから。

 

 だから、分かるように言ってやろう。

 

 

「ハイタッチだよ」

 

「ハイ……? あっ、う、うんっ」

 

 ようやく理解したのか、後藤さんの小さな右手がこちらに向けられた。

 後藤さんは頑張った。今日は素直に称えてもいいだろう。

 

 

 

 パチンッと、夜の街中に小さな音が鳴り響いた。

 

 

 





アニメのモチベのままに書いたらこうなってた。
後悔はしてねえ。

主人公がまともだなんて誰が言った?
周囲がアレすぎるだけで、オリ主も時たま変な方向にぶっ壊れるんですよね。まあキャラ立ちって事で。


投票数がもうすぐ400人いくので、我こそは高評価入れてやろうじゃねえかって人お願いしまーす!
それだけで一人の人間の承認欲求がどんどん満たされていくよー!!

※明日はまた更新できないかもしれない!


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:アタシよ!!!⤴️⤴️⤴️(裏声)さん、陸奥九十九さん、YADANAKAさん、zuさん

☆9:Al1ceさん、koikoi0319さん、tanuuさん、YUKKUYさん、おちょさん、hide02165さん、sigure4539さん、タスマニアさん、煎茶555さん、とめぃとさん、古代の呪いさん、Sakuyaさんさんさん、もちこめさん、秋刀魚さん、拓摩さん


本当にありがとうございます!
みんなのおかげで書き続けられるから!!
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