再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
年内最後の更新っす。
とあるカフェにて。
「バンドってめっちゃお金かかるじゃないですか!! 先輩達お金持ちなんですか!?」
珍しくポジティブ体育会系の後輩が嘆いていた。
そうだよね、普通そうなるよね。俺は昔からの貯金とかバイトでそれなりに余裕があるけど、普通の女子高生の金銭感覚としては多分この中だと猫々が一番まともかもしれない。
「まあリョウとぼっちちゃんはお金持ちの部類に入るかも……? 優人くんは小さい時からお小遣い貯金してたからそれもあるらしいしね」
「そゆこと」
「んで、あたしは家がライブハウスだからイージーモードではある」
「家がライブハウスは強すぎですよ!」
それはそう。
あと喜多さんはリョウさんからギター貸してもらってるから自分で買った訳じゃないというね。病院経営者の娘、ライブハウスが家の人、広告収入が割とある人、ギター貸してもらってる人。こう考えたら結束バンドのメンバーちょっと特殊すぎるな……。
「安心しろ猫々、お前の金銭感覚は間違ってないからな。俺としてはようやく猫々の普通の女子高生っぽいとこを知れて嬉しいぞ」
「それ褒められてるんですか!?」
何を言う。癖強メンツしかいない中で普通と言われるのは最上級の褒め言葉でしょうが。
ちなみに私達は普通の女子高生じゃないの? みたいな視線を送ってくる虹夏さん達はスルーで。天使は普通じゃないし陽キャは普通よりも上位だよ。
「うぅ……数年分のお小遣いを前借りすれば何とかいける……? でもちゃんと続けられるか分からないのに……?」
高校生にとっちゃ普通に大金の出費だ。これだけ迷うのも当然といえば当然である。
それにしてもお小遣いって数年分前借りとかできんの? できたとしても数年分お小遣いなしはバイトやってないとキツくね? いや今バイトしてるから大丈夫っちゃ大丈夫なのかな?
「(リョウさんにギター借りるとかは? あの人部屋にコレクションできるくらいギターとかベースあるらしいじゃないですか)」
「(うーん……あのリョウが大山さんに貸すとは思えないんだよね〜。ただでさえ今日逃げてるし)」
確かに。あの人苦手なタイプとは基本的に接点作りたくなさそうだしなぁ。
最終手段としてはバイトでお金が貯まるまでは俺のギターを貸すくらい、か。元気を擬人化させたような子だけどさすがに借り物であれば乱暴に扱う事もないと思うし、むしろ体育会系だからこそ先輩からの借り物は大事に使いそうな気もする。
それにこんな真剣に悩むという事は、それだけギターやバンドを始めたい気持ちが強いからだろう。
フェスでライブを見た日からそれなりに時間も経っているから、ちゃんと考えていっときの感情ではなく本気でやりたいと思ってる何よりの証拠でもある。
うん、今日一日探して良さそうなのがなかったら貸してあげよう。後藤さんとの練習は……まあアコギでも多少はやれるだろう。
「……すいません、ウチやっぱり2980円のギターで我慢します……」
「えっ」
「いや、それはさすがにやめといた方がいいんじゃないか? 何なら俺の」
「そうだよ! あれでギター始めるのは相当厳しいと思うよ!」
あの虹夏さん、俺の話まだ途中だったんですが……。
「でもお金ないし、使ってみたら意外と良いかもしれない可能性もありますから!」
実際その可能性もゼロとは言えない。だがあくまで一割くらいの可能性での話だ。残りは当然マイナス面で埋め尽くされている。
であればやはりちゃんとした物を探した方が今後のためにもなりやすい。
それに何より、この子は結束バンドとしての後藤さんの演奏を見てギターを始めたいと思ってくれた。
こんな好機を逃していいはずがない。
「やっぱりダメよ! 本当に気に入るギターが見つかるまで根気よく探すべきだわ!」
「だな。俺も付き合うよ。もっとちゃんと探せばマシなのも見つかるはずだ」
「スポーツマンならこんな逆境に負けないの! 諦めたらそこで試合終了よ!」
「映え先輩……優人先輩……!」
あくまで俺のギターを貸すというのはいっときだけの救済措置であり最終手段だ。
猫々が自分の求めるギターを見つける事ができればそれが最善なのは言うまでもない。後輩のために一肌脱ぐのも先輩の務めだしな。
「じゃあまずはネットで気になるギターの最安値をチェック! 手に入れるまで今日は私もとことん付き合うわよ〜!」
「中古でも状態が良いのを探すならハードオプがオススメだな。この際ジャンク品でも安くてデザインが気に入ったならそれを買うのも手だ。最悪修理はリョウさんに任せるから」
「え、リョウがやってくれるとは思えないんだけど……大丈夫?」
「大丈夫です。俺の飯で釣るんで」
「そういや優人くんの料理ってリョウ特攻入ってたね……」
ばちこり胃袋掴んでるから任せてください。
──
そして夕方になり。
「先輩達ありがとうございます!! まさか五千円でこんなギターが買えるなんて!」
見事猫々は自分のギターを手に入れる事ができた。主にネットで調べ尽くした俺と喜多さんの尽力で。
今はちょうど良い時間帯という事もあって夕食のために餃子が有名な店に来ている。
「良かったわね〜、そんな良いやつがジャンク品で買えるなんてさすがハードオプだわ! ギターもリョウ先輩が直してくれるらしいし、結果オーライね!」
「無口先輩良い人!」
「綺麗に優人くんのご飯に釣られてたね」
「ちょろいもんですよ」
リョウさんに今度飯作って持って行くのを条件にって言ったら『はいよろこんで』って言われた。どっちのけんとかな。
餃子を一口頬張る。美味し。餃子手作りしてリョウさんに持ってくのもありだな。
「いや〜けどさ? 何でまた栃木まで来たんだろうね?」
「求めていたギターが栃木にあったからじゃないですか?」
「優人くん、あたしは今ちょっとした皮肉を言ってるんだよ」
「虹夏さんからの皮肉なら喜んで受け止めますよ」
「そゆことじゃねえ」
じゃあどういうことなんだ……。
虹夏さんが言っていたが、俺達は今栃木まで来ている。そう、まさかの県外だ。東京の外に行くとは思ってなかったけど、むしろまだ栃木で済んで良かった説はあるかもしれない。
「あたしが言いたいのはっ、このギターはオクで出品されてたんだから直接取りに来るんじゃなくて発送待ってれば良かったんじゃないかなって言いたいの!」
「今日ゲットしなきゃダメだったんですよ! 猫々ちゃんには一秒でも早く楽しいギターライフのスタートを切ってほしくて! 楽器は最初が肝心なんですから!」
「最初に多弦ベース買ってつまづいてた人が言うと説得力あるな」
「優人君?」
「何でもないですはい」
そんな訳で栃木といえば餃子っしょの流れからみんなで餃子をつついてるという訳だ。
一応今日は栃木にいて餃子食べるから晩飯いらないって後藤さんにロイン送ったら『なっなんでっ……まさかあ、逢引き!?』って来たから『そうだよ』って送っといた。さすがの後藤さんも餃子には合挽き肉が使われてる事くらいは知ってたようだ。誤字が気になったけど。
「とりあえず写真撮りましょ! 記念すべきギタリストの誕生を祝って一枚! はい、せーの!」
「っと」
「あ、優人先輩が撮る瞬間逃げました!」
「器用に自分の食器とかも避けてるね」
「もぉ〜別にこのくらいは写ってもいいじゃないっ」
「女子なら男の影とか匂わせは一番避けるべきだろうが。どうせイソスタに投稿するやつだろそれ」
「そうだけど?」
「油断大敵だなマジで……もうちょっと危機感持った方がいいぞそれ……」
結束バンドのためと俺の命のためにもう少し配慮してほしい。八割くらい俺の命のために。
「じゃあ投稿しないからもう一枚撮っていい?」
「虹夏さん誓約書の紙あります?」
「ないよー」
「私の信用度低すぎないかしら!?」
君映えのためなら割とリスク厭わないとこあるからね。
けど投稿用のはもう撮ってたしそこまで言うなら大丈夫か。
「……どこかに載せようもんなら説教だからな」
「優人君のツンデレ、私は嫌いじゃないわよ」
やかましい。ツンデレはくぎゅうボイスキャラが一番なんだからね!
仕方なくパシャリと一枚撮られ、喜多さんはいつもの調子でイソスタに写真を投稿していた。
「更新〜っと」
「そんな感じで歌詞も書けばいいのに」
「え、こんなのただの日記なのに書ける訳ないじゃないですか!」
俺も自分のスマホで喜多さんのイソスタを見に行くと、普段通り謎のハッシュタグ祭りでさっき撮った写真があげられていた。
よし、ちゃんと俺がいない方の写真だな。
「別に歌詞に決まりなんてないじゃん。作詞する人がみんな難しいこと考えて劇的な毎日送ってるわけじゃないし、特にメッセージ性のない歌だっていいと思うよ。あたしはそういう歌詞も好き!」
「……優人君もそう思う?」
「え、俺? うーん……俺の好きなバンドとかは大体メッセージ性のある歌が多いからそういうのが好きってのもあるけど、それだけに固執する必要はないと思うぞ。たまにカップリングやらアルバムの曲でメッセージ性や共感性皆無なふざけた歌入れるような時もあるからな。結局は作詞側のやりたいようにやればいいんだよ」
後藤さんなんて世間への不満を言葉や単語を抽象的に変えて書いてるだけだしな。それこそ彼女は劇的な毎日とか全然送ってないし。バイトや練習がない休日は家に引きこもってギター弾いてるだけだもん。
何なら外出て友達と出かけたりしてる喜多さんの方が書ける事は多そうに思える。あくまで俺の客観的視点だけど。
「普段送ってる日常を少しポエムっぽくしたり、それこそ今の現状から連想できそうなワードを並べていくだけでも歌詞になってくんじゃねえかなって。真面目に考えすぎなんだよ喜多さんは。最初なんだしもっとフラットにいこうぜ」
「そうそう、それにぼっちちゃんとは正反対の喜多ちゃんだからこそ書けるものがあるとあたしは思ってるからね。プレッシャーをかけるつもりはないけどさ、今の喜多ちゃんらしさを出せばそれでいいんじゃないかな?」
「うぅ……せんぱぁい〜!」
少しは悩みの解消になったのか、喜多さんはそのまま虹夏さんに抱きついていた。うむ、眼福じゃ。
これでどんな歌詞が出来上がるのか俄然楽しみになってきたな。ある意味これまでの結束バンドとは方向性が全然違う曲ができそうだ。……確か最初は恋愛ソング書こうとしてたんだっけか。……後藤さんだけが心配だな。
「もぉ……しょうがないな〜。後輩のためだしここは先輩のあたしが奢ってあげよう!」
「マジすか! じゃあとりあえず焼き餃子五人前追加お願いします〜!!」
「え!? とりあえずって何!? 五人前でとりあえず!?」
なんか後藤さんの心配してる間に虹夏さんが破産の危機に陥ってるんですが。
育ち盛りとはいえ女の子がとりあえず生感覚で餃子五人前頼むもんなんですか? 俺でもそんな頼まないよ? もしかしていっぱい食べて身長伸ばそうとしてる? ふーん、可愛いとこあんじゃん。
「虹夏さん、こいつの分は俺が出すんで喜多さんのだけお願いします」
「え、い、いいの?」
「美味しそうにたくさん食べる子って結構好きなんすよ俺。こう、もっと餌付けたくなるというか」
「前半好感触なのに後半でペット感出てきちゃった」
──
そして後日。
「やっぱ何度見ても好きな奴とどっかに逃避行する歌にしか見えねえな」
「喜多さんがこんな恋愛してたなんて……絶対ろくでもない男ですよ」
「や、やっぱり……」
「あれ、けど喜多さんって誰とも付き合った経験ないって言ってなかったっけ?」
スターリーで喜多さんから送られてきた歌詞を店長達と見ていた。
『おかしいね 舌先から広がる君の味 とろけそうだバラエティ 僕のナカに収めるまで 帰らないよ下北 めんどくせえなザッピング 君と今は現実逃避 帰りたくないよ下北』。
と、こんな感じの歌詞が『一番の歌詞できたわ〜!』と後藤さんに送られてきたのだ。
やっぱ恋愛ソングを諦めきれなかったから書き上げてきたんだろうが、まさかの純愛というより少し重めのラブソング来ちゃった感が凄い。
恋愛経験ないはずだから空想で書いたと思うんだけど、喜多さんって結構ねっとり系の恋愛が好きなのかな……。女の子の好みはよく分からない。
「優人、お前サポート役ならちゃんと喜多を見張っとけよ。変な男出来でもしたらバンド活動に支障きたすからな」
「え、でも恋愛は個人の自由……いや、そっすね、変な男だけはダメですね。ええ、ちゃんと見張っときます」
「まあ清水君がいる限りは大丈夫でしょうけど〜」
「え、なんで?」
「それもそうか」
「大人組で勝手に納得しないでくんない?」
子供には理解できないってのかよ! もうちょっと教えてくれたっていいじゃん!
「おはようございます〜! ねえ、歌詞どうだったかしら?」
「「「あっ……」」」
「何でみんなひとりちゃん化!?」
みんな喜多さんの好みのタイプが思ったよりアレ系だから普段の陽キャ感と相まってどう接していいか分かんない感じになってんな。
しゃあない、ここは俺が斬り込み隊長してやっか。
「なあ喜多さん」
「なに?」
「喜多さんの好みのタイプってろくでもねえ男なの?」
「優人君ちょっとスタジオの方来てくれる? 一時間くらいみっちり説教よ」
「あれええええ!? ナンデ!?」
次回は来年、おそらく1月7日になると思われ。
原作通りだと虹夏さん家にお泊まり回かな?
あと最終回迎えるまでに目標だったお気に入り登録数がもう8000突破してました。
減る前に言っときます。ありがて〜!!減るな〜増えろ〜!!
では、今回新たに高評価を入れてくださった
☆10. 川男さん、ゆかりんとずんださん
☆9. BlackPantsさん、zero.1005さん、巨カスマンさん、クロカズ♪さん、イキョウさん、名も無き管理職さん、グルッペン閣下さん、完全無欠のボトル野郎さん、ザラメ雪さん、よこやたさん
いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
よいお年を!!