再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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モンハンが楽しすぎて時間取られちゃう。




139.誰だって初めての場所にはワクワクと緊張がつきもの

 

 

 早いものでレコーディング当日になった。

 

 最初にスターリーに集まりそこから事務所まで行って司馬さん達にスタジオまでの道のりを案内してもらい、現在スタジオの前にいる。

 思ったより遠くなかったな。というか普通に下北だから近かった。おかげで直前にいやいやモードに入りかけた後藤さんも完全にダメになる前に連れてこられた。家を出る寸前までトイレに籠られた時はさすがに焦ったけど。

 

 

「ここがノックアウトレコーディングスタジオさんです」

 

「四日間お世話になるんだから失礼のないようにね」

 

「結束バンドと初対面時にアレだったやみさんがそれ言うのウケますね」

 

「ウケないわよシメるわよ」

 

 さあどうだ……? 

 

 

「「「あっ、はは……」」」

 

「(ねえちょっと全然滑ってるじゃない! アンタがこの子達の緊張ほぐすために一発ボケをかまそうってロインしてくるから二人で打ち合わせしたのにめちゃくちゃ変な空気になってんじゃないのよ! こちとら自虐も入れたネタなのにむしろちょっと自分は棚に上げてるヤなキャラになってない!? あたしの贖罪はいつまでやればいいの!?)」

 

「(自分の身を削るボケで和ませてみせると言ったのはやみさんでしょうがっ。やっぱり俺の突然清水優人の体が虹色に光って最終的にツチノコになるボケの方が良かったんじゃないですかね)」

 

「(アンタのはもう身を削るというより抉ってるから却下したのよ! 何でそう簡単に人間形態から変化できるのか不思議だわ!)」

 

 あなたも後藤さんと長くいればそのうちなれますよ。

 まあなりたいかなりたくないかで言えば誰もなりたくはないだろうけど。

 

 

「緊張もほぐれてきたところで、では行きましょうか。ところでその荷物は何ですか?」

 

 いやほぐれてないですよ司馬さん。むしろ俺とやみさんが赤っ恥かいただけで状況的には悪化してますよ司馬さん。

 俺とやみさんのボケは虚しくもなかった事にされ、司馬さんの視線は既に虹夏さんの手元に向いていた。

 

 

「えっと、ほんの気持ちです〜……」

 

 少し高級そうな袋から取り出したのはなんとお一つ三万円もするメロンであった。

 初のレコーディングスタジオという事もあってか結局ビビって手土産を用意した訳だ。もちろんメロン代はみんなで出し合った。リョウさんはツケ払いらしい。

 

 

「はあ、そうですか。とりあえず入りましょう。時間は限られているので」

 

 聞いておいて何ともまあ興味のない反応ですこと。

 司馬さんにとっては手土産のメロンよりレコーディングの方が大事なようだ。うん、仕事だから当たり前だね。

 

 建物の端にある狭い階段を上がるとすぐ右にレコーディングスタジオの名前が書かれた扉があった。

 

 

「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。エンジニアの方は若い女性ですし、優しい人なので」

 

「あ、女の人なんだ。それなら安心できるかもっ」

 

「いかついサングラスかけた男性とかじゃなくて良かったですね」

 

「……そっか、優人くんがいるんだった。違う意味で安心できなくなってきた」

 

「なして?」

 

 その違う意味というのを教えてもらってもいいですか。

 俺の心配をしてるのか相手の心配をしてるのかでだいぶ変わってきますよ。あ、表情的に後者だなこれ。

 

 

「とはいえ私は彼女のこと苦手ですが」

 

「「え」」

 

 虹夏さんと一緒に司馬さんを見る。

 この人が苦手と思うような人ってなんだ? 実はめちゃくちゃ不真面目で女性は女性でもチャラい系だったりすんのかな。いやでもエンジニアの手配自体は司馬さんがしたって言ってたし不真面目な人ではないはず……。

 

 考えてるうちに司馬さんが扉を開けると、部屋の中が見える前にさっそくスタジオの主が目の前に現れてきた。

 

 

「あっ、結束バンドさんですね! おはよーございます〜! 私エンジニアの上村です〜!」

 

 出てきたのは髪をツートンカラーに染めており、長さは首元辺りでくりんと跳ねさせているぐらいの短さ、首からチェーンを巻いていて『鬼怒川』と温泉マークがプリントされただぼだぼシャツのせいで手は全部隠れている。

 何というか、ひと目で普通ではなさそうな人っぽいオーラが出ていた。

 

 いや悪い意味ではないんだけど、経験上今まで出会ってきた女性が一癖二癖あるものだからつい変な警戒心がね……? 

 だって司馬さんも直前になって苦手な人とか言い出すから、またなんか癖強系の人なのかなって思っちゃうのは仕方ないじゃん。

 

 

「あっおはようございます!」

 

「おぉ、若い子は元気があっていいね〜。……あ、君が結束バンドさんのサポートをしてる清水くんだよね? 話は都ちゃんから聞いてるから遠慮しないでいてくれて大丈夫だよ〜!」

 

「どうもです。……って、都ちゃん?」

 

 あまりにも聞き慣れない単語が出てきて一瞬固まりかけたが、すぐに視線は司馬さんの方へ向いた。

 都なんて名前、ここにいるメンバーの中では司馬さんしかいないからだ。

 

 

「そうそうっ、都ちゃんも久しぶり〜! 今日も可愛いね〜」

 

「その呼び方はやめてくださいと前にも言いましたよね」

 

「え〜つれないな〜。でもその仏頂面がまたいいんだよね〜」

 

「だから貴方嫌いなんですよ!」

 

 いきなり上村さんが口説き始めたし珍しく司馬さんが口調荒めになっておられる。

 なるほど、司馬さんが上村さんの事を苦手と言ってた意味がだんだん分かってきたぞ。真面目系キャラが馴れ馴れしいキャラに絡まれて疎ましく思うやつと一緒だ。陰キャと陽キャとまではいかないが、それに似たような関係なのかな。

 

 ということは今のところ上村さんはコミュ力高いだけで警戒するような人でもなさそうだ。

 何よりあんな会話をしながらも上村さんをエンジニアに手配したという事は司馬さんが彼女の能力を認めている証拠にもなるし、きっと良い人なんだろう。

 

 

「さて、都ちゃんとの再会もここまでにして、まずは打ち合わせも兼ねてチルりましょうか〜」

 

「チル……?」

 

「くつろぐとかまったりするって意味よひとりちゃん」

 

「あっなるほど……?」

 

 後藤さんは若者言葉を覚えた! しかし使う機会がないから意味もあまりないようだった! 

 

 

「そこのイスに座ってもらっていいですよ〜」

 

「はい。……あっあの、良かったらなんですけどこれ貰ってください。お世話になるのでメロン持ってきたんです!」

 

「え〜もしかして手土産ってやつですか? 仕事だから別に大丈夫なんだけど〜……なんかちょっと良いやつっぽいし、せっかくだから頂いちゃおうかな〜」

 

 と言いつつ目がキラキラしてる辺り普通に喜んでるな。

 

 

「でもどうせならみんなで食べちゃいましょうか。最初は打ち合わせなんで食べながらでも大丈夫ですしね」

 

「え、いいんですか?」

 

「もちろんっ。そんな気張らないでいいですよぉ。レコーディングはバンドもエンジニアも一蓮托生、みんなで頑張らないと〜!」

 

「よしきた」

 

 露骨に喜ぶな山田。

 にしても上村さん、喋り方も優しいし物腰も柔らかい。虹夏さん達が抱いていた先入観を良い意味で壊してくれたから、虹夏さん達の表情も先程とは違って自然と綻んでいる。

 

 ……上手いなこの人。

 どうすれば相手が緊張しづらくなるのか、リラックスできるかを考えながら雰囲気を作ってる。ここが自分のホームだと認識してるからこそ自分のペースに相手を落とし込んでくれるんだ。

 

 レコーディングエンジニアとは基本依頼者がいて成り立つものでもある。

 それは演者がいてこそであり、そこには様々な出会いがある。バンド初心者からベテランはもちろん、最近ではネットでの歌ってみたや披露宴で使いたいからと個人的な依頼をしてくる一般の人もいるらしい。

 

 ともすれば当然緊張して上手く歌えない人や緊張で普段のような演奏ができない人もいる。

 レコーディングスタジオという限られた時間の中で本人共々納得のいく仕上がりにするには、何も本番で良い演奏をするだけではない。

 

 こういうちょっとした打ち合わせの中でプロのエンジニアと話すのは、初めての人ならば多少なりとも緊張や不安を抱いて当たり前だ。

 そこでエンジニアの彼女自身がああいう優しい雰囲気でいてくれたり話してくれるのは、演者にとっては少しでも緊張をほぐす材料として十分すぎるくらいだろう。しかもそれを自然体でこなしているのは長年の経験故か上村さん自身が元々持っていた才能か、どちらにしてもありがたい存在だ。

 

 司馬さんが苦手だと言いながらも上村さんを手配した理由が分かった気がした。

 できる人は本番だけじゃなくこういう時に意識的でも無意識でも演者に気配りできる人の事を言うんだろうな。

 

 なら俺も少しだけでいいからそれに応えないと。

 

 

「じゃあキッチン少し借りていいですか? 俺がメロン切り分けますよ」

 

「え、そんな悪いですよ。そのくらいは私がやりますよぉ」

 

「いえ、こういう時のために俺がいるんで。すぐに終わると思いますけど切り分けてる間に雑談でも打ち合わせでもしててください」

 

「こうなった時の優人君は誰の言う事も聞かないので先にチルっときましょ!」

 

 おい喜多さん言い方。

 

 

「はあ……まあ、そういう事ならお願いしようかなぁ。ありがとうございますね、清水くん」

 

「はい」

 

 メロンを手に取りキッチンへ。

 といってもこのスタジオ、というか部屋か。後藤さん達がいる所とキッチンはものの一秒で辿り着くくらい近いので話し声などは普通に聞こえる。包丁でメロンを切り種を取り除いてから皿に乗せていく。

 

 何となくロビーを見渡して思うが、レコーディングスタジオというくらいだから当然防音対策はされているけど、全体的に古めの建物なのかなと思うくらいの雰囲気がしてならない。

 天井には普通に配管あるしソファは所々破れて中身が若干見えてたり、スタジオの扉も機材などを運ぶ際に擦ったりぶつけたであろう傷がたくさんあったり、何より防音対策として壁一面がコンクリートなのがより一層部屋全体の印象を深くしている感じがした。

 

 しかしこの雰囲気、嫌いじゃない。

 レストランやゲーセン、普段若者が集まるような場所では辿り着かない空間の中にいる。スターリーのスタジオともまた違う専門感が漂っていて堪らない。

 

 皿に乗せたメロンを持っていくと、上村さんは自分のポッケからいきなりかの有名な栄養食品を大量に取り出していた。

 

 

「ポケットには常に食料入れて栄養補給できるようにして〜下もパジャマだからすぐ寝れるようになってるんだよ〜。寝れなそうな時はエナジードリンクで無理矢理眠気吹っ飛ばすんだけどね〜」

 

「あっへへ……」

 

 一気に職業の過酷さが見えてきたんですが。

 よく見たら部屋の隅に大量のエナジードリンクが入ってるゴミ袋があった。なんかもうここに住んでてもおかしくなさそうだなこの人。しかし本人自体は辛そうにしてないのを見ると、好きでやってる仕事なんだろうなと思う。

 

 

「メロンどうぞ」

 

「お、ありがとね〜。じゃあ清水くんも来たしみんなで食べつつ軽い打ち合わせに入ろうかぁ」

 

「はいっ」

 

「……ん? あの、打ち合わせなら別に俺がいなくてもしてくれて良かったんですけど……」

 

「ん〜にゃ、全体の流れを確認するって話でもあるからお手伝いの君も把握しといて損はないでしょ? 一応キッチンにいても声は聞こえるかもしれないけど、こういうのはちゃんとお互い認識できる状態でチェックしておく事に越した事はないからさ」

 

「……なるほど。ありがとうございます」

 

 司馬さんとは違うタイプの仕事に真面目な人だな。

 メリハリがあるというか、スイッチのオンオフをしっかりしてる。

 

 

「んじゃあとりあえず流れとしてはセッティング完了したらまず指標となるガイドを全員で録って、そのあとにドラム、ベース、ギター、ボーカルの順に録っていきます。他の人はここで聞いててもロビーで休憩してても大丈夫なんで」

 

「「分かりましたっ」」

 

 人慣れしてる虹夏さんと喜多さんが返事をしてる中、後藤さんは今にも緊張で吐きそうな顔をしていた。

 上村さんの気遣いでもさすがに後藤さんの緊張をほぐすのは無理だったか。まあ分かってたけど。

 

 

「流れは大体こんなもんかな。では食べ終わったら各自セッティングからしちゃいましょうか〜」

 

 結束バンド初のレコーディングスタジオでの録音が始まろうとしていた。

 

 

「優人の分のメロンちょうだい」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

 

 

 

 

 





上村さんって今のところ大人の女性キャラの中ではまともな部類に入るよね。


では、今回新たに高評価を入れてくださった

☆10. あか山さん、プチプチプチプラさん、alcaralさん、BAKAさん

☆9. kimu kimuさん、イキョウさん、椎田 葉月さん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
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