再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
花粉と口内炎だけは世界で一番許せないと想ってる。
レコーディング二週目当日。
失敗を喫した先週から一週間が経過した。
結局土日は虹夏さんの不調で一曲しか完成しておらず、ドラム以外の楽器隊で他の曲もできるとこまでは録った。
しかしそこまでだ。肝心のドラムがなければ完成とは程遠い。
そこで俺が先週店長に助け舟を出してほしいと言った結果、あの店長から今週平日の五日間は各自家での自主練と平日のバイトがなくなってしまったのだ。
店長とはロインでちょくちょくやり取りをしていたからおおよその進捗というか虹夏さんがどうなっているかを聞いていたが、どうやら今日には間に合いそうだという連絡がつい先日来た。
やっぱり店長にお願いして正解だったようだ。ああ見えて実はシスコンだからこういう時はほんと頼りになる。
が。
「ねえ、伊地知先輩まだ来ないんだけど優人君何か聞いてない? いつもは一番乗りなのに……」
「いや、俺のロインにも連絡は来てないな。後藤さんは?」
「あっき、来てない……」
そう、集合時間間近になっても虹夏さんが来ていないのである。
あのリョウさんまでもういるのにだ。店長め、間に合うとか言っておいて実はまだ間に合ってないとかじゃないだろうな。あの人に限ってそれはないと思うけど。
「先週調子悪かったし、まだ引きずってるのかしら……大丈夫だといいんだけど」
「多分その辺の心配はいらないと思うぞ。店長が手を入れてくれてるからな」
「そういえば先週電話してたの店長さんだったのね。どんな手を使ったの?」
「俺も後から聞いたんだけど、確か店長の」
「遅れてごめん!」
話してる途中で突然ドアが開かれた。
見慣れた金髪サイドテールを揺らした我らが虹夏さんのお出ましだ。
「伊地知先輩!」
「おはようございます虹夏さん。どうですか、調子は」
「……うん、伊地知虹夏、完全復活だよ!」
よし、いつもの明るくて可愛い天使が帰ってきたな。
やはり虹夏さんの笑顔は素晴らしい。虹夏さんの笑顔は今はまだガンには効かないがそのうち効くようになるから。
「いや〜遅刻しそうで焦ったよ〜」
「確かにギリギリでしたけど、準備に手間取ったりしてたんですか?」
「ちょっとね〜」
走ってきたからかまだ少し息を切らしてるな。
集合時間には間に合ってるしちょっと休憩入れた方がよさそうか。
「上村さんすいません、少しだけ虹夏さん休憩させてあげてもいいですか? 急いで来たみたいなんで」
「全然いいですよ〜。レコーディングまでまだ時間はあるので、こっちで都ちゃん達と今日の流れ軽く話しとくからゆっくりしててね〜」
「え、あたしは大丈夫だよっ。ライブよりかはマシだし」
「何言ってんですか。これはライブじゃなくてレコーディングなんですよ。万全の状態でやらないと意味ないでしょうが」
「うっ、確かに……」
張り切っているのは誠に良いことだが、それで事を急いてもプラスにはならない。
だからしっかり休憩を挟んでからレコーディングに挑めばいい。
「伊地知先輩大丈夫なんですかね? テンションは戻ってるけど」
「大丈夫、あれを見な。やる気のあまり髪が三段巻きのドレッドヘアになってる。あれは虹夏のやる気が天元突破した時に見られる貴重な光景」
「そうなんですか!? ちなみに前はどんな時にあのドレッドになってたんです?」
「知らん。私も今初めて見たから」
「適当なこと言ってるだけじゃないですか!!」
おぉ、リョウさんの言葉で気付いたけどマジでドレッドになってんじゃん。
まさかこれでちょっと遅れてたんじゃ……いやそれもいいか。可愛いは正義だもの。何しても許されるもの。
「虹夏さん、これタオルと水です」
「ありがと。ふぅ……」
一旦レコーディング前の休憩という事で五分程度の自由時間となった。
後藤さんと喜多さんはレコーディングまでにギターの練習、リョウさんも自分のベースを触ってリラックスしている。
俺はソファに腰掛けている虹夏さんにタオルと水を渡し、隣に座る。
何故わざわざ隣に座ったのか、理由はとても簡単。ここしか空いてないからだ。あと単純にレコーディング中はここが俺の定位置みたいになってるから。
すると。
「……よっと」
「んぇ?」
なんと、虹夏さんが俺の肩にもたれ掛かってきたのだ。
おいおいおい、さすがにちょっとビックリするんですが……。
「あの……何をしておいでで?」
「ん〜? 優人くんが言ってくれたんじゃん。肩でも貸しますよって」
いや言ったけども。それ先週の話では?
不調の虹夏さんを気遣ってというか軽い冗談混じりで言ったのをまさかここに来て実行してくるあなたもあなたですよ。気持ちだけ貰っとくって言ってたじゃん。
あと周囲から謎の視線とオーラが漂ってきてるのは何なんでしょう。
確定で後藤さんと喜多さんなんだけど、あの子ら随分仲良くなったのね。息が合ってるようで何よりです。ちなみに近くには上村さん達もいるからちょいとハズい。
「だめ?」
「レコーディングそっちのけで一生貸しますよ」
「そっちのけにしてんじゃないわよおバカ」
「あでっ」
やみさんから紙の束ツッコミをお見舞いされた。
ツッコミがなければそのまま虹夏さんを恋人のように抱き寄せて「それはさすがに気持ち悪いかな」って言われるとこまで行きそうだったぜ。危ねえ、ナイス俺の自制心。ついでにやみさん。
「……もう大丈夫のようね」
「っ、はい! 遅れた分はフルスロットルで取り返しますっ」
「ふんっ……まあ、期待してるから」
「ツインテールって何でツンデレ多いんですかね」
「ああ、大槻さんとかね〜」
「うるっさいわよ!」
ここでキレてくるのもツンデレあるある。いわゆる照れ隠しというやつだろう。やみさんも随分丸くなったもので。
まあこうして絡んで来たのもやみさんなりの激励なんだろう。
「さて、それじゃあそろそろレコーディング始めていきましょうか〜」
上村さんからの掛け声で全員がスタジオに集合する。
残された時間は今日と明日の二日間。五曲録り終えないといけない中、いまだに一曲しかできていないのはハッキリ言って厳しいのが現状だ。
しかしそれは先週みたいに不調のままだった場合の話である。
隣を見てみる。虹夏さんの表情は先週と全然違っていた。あれだけ落ち込んでいた彼女はもうどこにもおらず、今はやる気に満ちた顔をしている。
「みなさん今週もよろしくお願いします。頑張って四曲録りきりましょう! ではまずドラムさんからいってみましょうか。言葉は……もういらなそうだね〜」
「はい!」
「うん、良い返事だっ。それじゃいっちょいってみよう〜!」
「虹夏さん、ファイトです」
「うん、見てて!」
ほほーん、マジで見違えるくらい変わってるなぁ。ニカッとした笑顔が俺の心にどストライクです。
店長のテコ入れは大成功だったって訳か。
虹夏さんがレコーディングブースに移動して準備が完了する。
そして。
「っ……! へえ〜」
「……何よ、ほんとに良くなってんじゃない」
思わず笑みがこぼれた。
先週は俺でも分かるくらい調子が悪かったにも関わらず、今の虹夏さんはいつも通りというか、むしろ普段以上に調子が良いように見える。
それはまるで練習風景じゃなくてライブを見ているかのような感覚。
いつも後ろからみんなを支えて引っ張っているあの虹夏さんを見ているようだ。
「優人君、そろそろ教えてもらえる? 伊地知先輩が元に戻った方法」
「ああ、そういや途中で終わってたか」
「あっわ、私も知りたい……店長さんに何かお願いしてるとこまでは聞いてたから……」
いつの間にか左右に座っている喜多さんと後藤さんに気付いてスペースを作る。
見ててと言われたから視線は虹夏さんに向けたまま、
「俺の頼み自体はシンプルに虹夏さんの不調をどうにかしてくれって言っただけだよ。何をしたかは店長からロインで教えてもらったんだけどさ」
「うん」
「なんか店長がバンド組んでた頃のドラム担当だった人がいて、その人が元々小さい時の虹夏さんに頼まれてドラムを教えたらしいんだ。いわば師匠みたいな人なのかな。それで虹夏さんの悩みをその人が聞いて見事に解決策を教えたって事らしい」
「……詳細がよく分からないんだけど」
「店長が言うには虹夏さんはクリックってのを気にしすぎてどうにも演奏が固くなってたんだと。だから師匠的な人がクリックなんか気にしないで好き勝手やればいいって言ったらしいぞ。あとはノリとグルーヴ」
「そこはロック魂なのね……」
「ロインで聞いててもドラムの専門用語は俺もよく分かんねえし、何よりドラマーの悩みはドラマーに聞くのが一番ってこったな」
一応他にもドラマーの志麻さんや長谷川さんにも頼もうと思ったけど、そこは我らが頼れる姉御の店長に一任させてもらった。
結果は大成功。誠に素晴らしい働きをしてくれた店長にはまた後藤さんの秘蔵写真でもあげようかね。
「けど普段通りの先輩が帰ってきてくれてよかったわ〜」
「ああ」
喜多さんの言葉に頷く。楽しそうにドラムを叩いている虹夏さんを見ていると心の底からそう思った。
そんな時だ。後藤さんがいつものように服の裾を控えめに掴みながらも、こちらの顔を真っ直ぐと見つめながら、
「じゃ、じゃあどうしてゆうくん、ちょっと悔しそうな顔してるの……?」
「っ……」
「え?」
後藤さんからのまさかの指摘に狼狽えてしまい、すぐに言葉が出てこなかった。反射で視線も虹夏さんから後藤さんに向けることになる。
……さすが臆病すぎて人の顔を窺う事に関してはピカイチの才能を誇るなこの子は。というより顔に出てしまっていた俺が一番情けないか。
「……バレたか。……虹夏さんの調子が戻ったのは素直に嬉しいよ」
「うん……」
「そのために店長に助けを求めたのも正解だと思ってるし、実際あれが最適解だったんだと思う。あの時はあれ以外に選択肢は思いつかなかったからな」
ドラムの知識がない以上ドラマー特有の悩みを解決できそうなのは同じドラマーか、悩みを持っている本人と近しい関係且つ遠慮のない言葉を言える人じゃないとダメだと感じた。
だから虹夏さんの姉である店長に真っ先に頼った。
そう、何も間違ってない。考えうる限りの最善を尽くした結果が今の満足そうに演奏している虹夏さんなのだから、これは誇るべき結果なんだろう。
でも、だけど。
「……それでも、心のどこかで俺が何とかしてあげたかったって思っちまうんだよな」
「ゆうくん……」
「分かってる。結局今の俺にできる事なんて限られてるし、だから誰かに頼る事は決して間違ってないんだって事もさ。結束バンドのためならどんな手段でも使うつもりだ。……それを全部踏まえた上で、烏滸がましい事を考えちまうんだよ。やっぱもっと色んな知識をつけるべきだよなぁって」
結束バンドの力になりたい。
できれば自分が尽くせそうな事は全部したい。いつの間にかそんな気持ちが芽生えてしまうくらいにはもう、俺が彼女達へ向ける気持ちは大きくなっているんだと自覚した。
自分だけの力じゃ解決できない。それが悔しいと思えるほどに。
「ほんとに烏滸がましいわね」
「え?」
意外な方向から返答がやってきた。
やみさんだ。虹夏さんの方をずっと眺めながら彼女はこちらに向けて言葉を放ってくる。
「カウンセラーじゃないんだし子供のアンタが一人でできるサポートなんてたかが知れてんの。そうやって自分で全てをどうにかしたいなんて独りよがりな考え、結束バンドの事をちゃんと想ってるなら捨てなさい。話は聞こえてたけど、アンタがあの店長に頼ってあの子がいつもの調子に戻った。アンタが助けを求めなければ今みたいに上手くいってなかったかもしれない。けど実際にあの子はアンタの頼みがきっかけで今も笑顔で演奏できてる。なら
「ちょっとやみさんっ」
「最後まで聞きなさい。……だから、まあ、あれよ……。まだ子供なんだから変に気負わずアンタが先週したみたいに今は大人に任せとけって言ってるの。大きな差はないけどこちとらアンタ達より少しは長く生きてる人生の先輩なんだからね。そういうのは大人になってから迷いなさい。少なくとも子供の内は助けがほしいなら迷わず周りの誰か頼れる大人か仲間にでも言うこと。……アンタの人望ならきっとみんな助けになってくれるから」
「やみさん……」
驚いた。まさかやみさんから叱咤激励を貰うなんて思ってもいなかったからだ。
……だけど何となくしっくりきた気がする。悔しい気持ちはまだあるけれど、結束バンドを思うなら子供の内はまだまだ大人を頼れとやみさんは言っている。
今はまだ知識の溜め期間だと思えと。もっと色々勉強して十分な大人になってから結束バンドを支えられるようになれと、そういう事だろう。
それにしても何だかむず痒い。あのやみさんに諭される日が来るなんてな〜……。
「やみさんツンデレすぎますって」
「うっさい。恩は大人になって結束バンドを武道館まで連れてってから返しなさい」
「佐藤さんアルバイトなのでそれまで雇われているか分からないですけどね」
「んなぁ!?」
「はーい、ドラムさんオッケーで〜す。良いテイクだったよ〜」
そういやこの人バイトだったな。司馬さんも俺達の話に全然動じないでレコーディングだけ見てると思ってたらちゃんと話は聞いていたらしい。
しかし、うん……そうだな。今は虹夏さんの笑顔が見れてるから良しとしよう。
「優人君、私達と一緒にこれからも成長していきましょうね!」
「ああ。俺ももっと頑張らなきゃな」
「う、売れて武道館ライブ……果てには国立競技場でライブもやっていずれは世界に……うへへ……」
「後藤さんは……うん、なんかむしろそのままでもいけそうな気がしてきた」
いや無理か?
「ミニアルバムはあくまで通過点。印税生活への第一歩」
「やっと話に入ってきたかと思えばお金の話かよアンタは」
「作曲担当として虹夏の演奏を見てただけ。問題はない」
「……なんかすんませんでした」
レコーディング中は基本虹夏さんと上村さんの二人でコミュニケーションとってるから演奏以外はつい話に集中してしまっていた。
これは完全にこちらが悪い。いやレコーディングしてない人は別に休憩がてら話しててもいいって上村さん先週言ってくれてたけど。なんか何となく罪悪感が出てきちゃう。
するとレコーディングが終わった虹夏さんが戻ってきた。
「ふぅ……」
「虹夏さんお疲れ様です。凄く良かったですよ」
「へへーん、でしょ? 優人くんのおかげでもあるからね!」
「俺の?」
「そっ。お姉ちゃんに頼んでくれたの優人くんなんでしょ。お姉ちゃんから聞いたよ」
あの金髪ヤンキー……バラしやがったな。
「おかげでバッチリ元通りっ。まだ少し実力不足なとこはあるけど、自分でも良い感じに出し切れたと思う!」
「見てて伝わってきましたよ。楽しそうに演奏してるからこっちまでライブ見てる感覚でした」
「たは〜、そう言われるとちょっと照れちゃうね〜」
何この天使かわいい。
「うんうん、ドラムさんほんと良くなってるよ〜。これならあと四曲も余裕で間に合いそうだね〜」
「あっあのっ」
「ん〜どうしました〜?」
虹夏さんの照れ顔天使スマイルに脳を破壊されていると、おもむろに後藤さんが口を開いた。
しかも俺や結束バンドにじゃなく上村さんに向かって。
「わ、私の他の曲のレコーディング……もう一回やってもいいですか……? その……虹夏ちゃんの演奏を見てたら、私ももっとできるかもって思って……」
「お〜いいねいいね〜。そういうの好きだよ私〜! よっし、じゃあ今日はこの調子でじゃんじゃんやっていきましょ〜!」
後藤さんが……あの後藤さんがやる気になっている……だと……!?
虹夏さんに感化されて積極的になってんじゃん……何この気持ち……。これが成長を見守る親の心……? うちの子があんなに立派になっちゃって……これは誰かに共有しないとダメだっ。特に後藤さん推しの人には!!
「……急に何よこっち見て……」
「やみさん見なよ……オレの後藤さんを……あんな自分からいく後藤さん普段絶対見る事ないからちゃんと見た方がいいよ」
「本当に何なのよ! オーラが完全に親目線なんだけど!? 高校生でしていい貫禄!?」
「「オレのって何優人
「おっと、何この展開全然意味分かんないんだけど? 何で気付いたら俺が追い詰められてんの?」
「ほんと愉快だね〜この子達は」
「……褒め言葉として受け取っておきます」
数分後。
「で、やる気になってもあの子の演奏スタイルは寝転んだままなんだね……」
「やみさん見なよ……うちの後藤さんを……やっぱ特に何も変わってなかったよ」
「見りゃ分かるわよ」
4月の初め。
特に嘘をつく事もなくただ色んなアニメやソシャゲのエイプリルフールを楽しむだけの日だった。
あ、次回幼メン最終回です。
嘘じゃないよ。
では、今回新たに高評価を入れてくださった
☆10. 翁月 多々良さん、aーがさん、川男さん、カクリツさん、小説を漁る人さん
☆9. 晴 輝さん、ザラメ雪さん、翔雨さん、イキョウさん、完全無欠のボトル野郎さん
いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
これを言うのも次で最後かぁ。どうせ最後ならまだ高評価してなかった人はしてってくれるとありがたいです。
最終回は納得できる形で投稿したいので、いつもの火曜には間に合わない可能性あるとだけ言っておきます。
ですが再来週のどこかには必ず出します。
こんなこと言ってますけど多分いつも通り普通に終わるだけなんで過度な期待はしないでくだせえ。