再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
最終回です。
数時間後。
「よしっ、全曲録り終わった! 一曲試しにラフMIXしちゃうね〜! 皆さんはできるまで自由にしてもらってていいですよ〜」
「はい」
以前までの不調はどこへやら、まさかの数時間で全ての曲を録り終えた。
これが結束バンドの真の力よ。本気さえ出せりゃ余裕だったんだからね!
上村さんに言われた通りMIXが出来上がるまでひとまず自由時間。
なので俺達はブースを出て事務所の方で待つ事にした。専門の仕事はプロに任せるため邪魔しないようにってのと、せっかくだからラフでもMIXされた曲を聴くのは後のお楽しみにしておきたかったからである。
「MIXって時間かかりますかね? この間にご飯でも食べに行きます?」
「うーん、一曲だしそんな時間はかからないと思うけど」
「この後事務所が打ち上げしてくれるでしょ」
「リョウさんそのソースどこっすか」
「私達の記念すべきアルバム第一号だから当然お祝いされるのが筋ってもんよ。JOJO苑がいい」
「ただの希望的観測じゃねえか」
そして度し難いほどに欲深え。
ただでさえ予算カツカツなのに打ち上げできるような余裕があのオンボロ事務所にあるとは思えないんだが。
「わ、私はから揚げがいい……」
「小声で主張してくるようになったのは毛ほどの成長だけど何故俺だけに聞こえる声量で言う? つかそれ先週も食べたよな?」
ベストカラアゲニストでも狙ってんのかこやつは。
先週ハンバーグ作ってあげたじゃん。何なら君の好物結構ローテーションで美智代さん出してくれるよね。から揚げとハンバーグが食卓に並ぶ回数多すぎるもの。ふーちゃんが不健康な体になっちゃったらどうすんだ。
そんな特に身にもならない話ばかりしていると。
ブースの扉を開けて司馬さんが声をかけてきた。
「完成しましたよ」
「あ、はい。思ってたより早かったですね」
「……」
「虹夏さん?」
「……え? う、うん、そうだねっ」
この様子だと、実はどうなってるか気になってたパターンのやつか。
まあ演奏者側からしたら曲の仕上がりが気になるのは当然だろう。先週まで不調だった虹夏さんなら尚更だ。まさに期待と不安が半々といったところかな。
「だーいじょうぶですよ。虹夏さん含めてみんなの演奏は良かったし、上村さんが更に上手く調理してくれてますって。どーんと構えていきましょ」
「……うんっ」
みんなが集まる。ブースの中を少しの緊張感が支配していた。
いよいよだ。
「じゃあ流しまーす!」
そして。
上村さんの合図と共に曲が流れ出した。
「っ」
突然ビリビリッと痺れるような感覚が全身を疾った。いつものように好きなアーティストの曲を聴くのとは違う。
彼女達が一から作り出した曲が、練習で何度も見て聴き慣れてきたはずの曲が、まるで初めて聴いた時のような衝撃を感じさせるほどに変わっていたのだ。
……同じ曲のはずなのにプロがMIXするだけでこうも印象が変わるのか。
悔しいけど今までスターリーのスタジオで録音していた時の音源は何だったのかと思ってしまうほどだ。一気に世界観が変わる。
気付けば曲は既に終わりを迎えていた。
「……てな感じです。どうですか?」
「……す、すごーい!」
上村さんの言葉にいち早く反応したのはそわそわ気味の虹夏さんだった。
それに続くように、
「あっかっこいいです……」
「ほんとよね! まるでプロみたい!」
「一応プロだけどね」
「俺も聴いた瞬間電気が走ったみたいになりました。いやマジで凄いですね……」
「印税がっぽがぽ間違いなし」
一人だけ欲に真っしぐらなヤツがいるな。
「エンジニアさんってやっぱり凄いんですね!」
「私の歌声も何だか綺麗になってる気がしました! まるで音の魔法使いみたいです!」
ムードメーカー組はもうなんか目がキラキラしてる。
俗に言うしいたけ目だ。どっかに食蜂操祈いたりする?
「いや〜高校生は反応が素直でいいね〜。よ〜し、そんな褒めてくれるならこんなオプションもつけちゃうぞ〜! もっと凄くしちゃおうかな〜!」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
「え、でもオプションって別料金かかるんじゃ? 予算内に収まるんですか?」
「ちゃんと請求も上乗せしちゃうぞ〜!」
「やめなさい」
みんなの頼れる司馬さんからちゃんとストップが入った。
上村さん結構ちゃっかりしてんな……。というか抜かりがねえ。
「でもいい曲になってて本当に良かったわ〜……」
「え、喜多ちゃん不安だったの?」
「まあ……精一杯歌ってはいましたけど、やっぱりずっと緊張の中でやってたんで……これでひと安心ってとこですかねぇ」
「私もまだ実力不足の部分があったから反省」
おお、出てくる出てくる。
やはりみんな言葉には出さなくても緊張と不安の気持ちは持ってるんだな。虹夏さんが顕著に出過ぎてただけで。
「あっ私もレコーディングでかっこいい見せ場がなかったので、映画ではカットだろうなって落ち込んでました……」
「ぼっちちゃんだけ不安の気持ちが明後日の方向向いてんだけど……」
「いつもだから気にしなくていいですよ」
言ってしまえばこの中で後藤さんだけがいつも通りだったって事か。
肝据わってんだかそうじゃないんだかよく分かんねえな。いやちょっと方向性ズレてたから上手くいったけど、後藤さんが虹夏さんと同じ気持ちになってたら多分シャレになってなかったと思うから結果的に良し。ズレててくれてありがとう。
「色んなバンドのレコーディングに立ち会ってきた私から言わせてもらうと、レコーディングってのは大抵どんなバンドでもこんなもんでね、必ずと言っていいほど毎回反省点が出るの」
「え、そうなんですか?」
「うん。でも実はそれが正解なんだ〜。だって満足しちゃったらそこでバンドの成長が止まっちゃうでしょ? つまり現状の力を出し切って次への課題も見えた今回のレコーディングは大成功って事〜!」
なるほど、完璧を嫌悪するマユリ様の理論と似たようなものか。
飽くなき探究心や研究努力こそが何かを目指す者にとっての究極の成長材料だもんな。
「皆さん、今回感じたことは次のレコーディングで活かせるようにしてくださいね」
「次〜? でも売れなかったらもう出せないんでしょ〜? 面白い子達だからこれからもお仕事はしたいと思ってるけどさ〜」
「うっ、そ、そうですね……売れるように尽力します……!」
「あんた達死ぬ気で頑張るのよ!」
「「は、はい!」」
売れなきゃ次のチャンスはやってこない、か。
「あんたもサポート役なら私達とは違うやり方で宣伝なり何なり力入れなさいよ!」
「もちろんそのつもりですよ。俺にやれる事なら何だってしてやります」
そろそろマーケティングとかも勉強しといた方が良さそうかな。
まずはSNSの宣伝は当然としてサブスクや動画サイトでの売上、あるいは再生回数を多く獲得するためには……だな。
CDなら恵恋奈が勝手にめちゃくちゃ積んで買ってくれそうなんだけどサブスク積めないからな〜……いや、あの子なら普通に動作サイトで連続再生しそうだな。
あとはクラスのヤツらにも再生させまくろう。一人一日最低でも百回再生させれば良い感じになるだろ。
他は家に帰ってからでも考えるか。
「じゃあレコーディングはこれで終了〜。お疲れ様でした! 完成音源はあとで送りますね〜!」
「ありがとうございましたー!」
これにてレコーディングは無事終了。
前半はどうなるかと思ったけど、最後には虹夏さんも成長できた事だし万々歳で終われた。
ひとまずは安心だ。
で、この後はバイトも練習もないから帰るだけだったのだが。
「それじゃ打ち上げに行きましょー!」
喜多さんが元気に声を上げた。
その話生きてたんだ。というかそもそもレコーディング終わりって打ち上げあるもんなの? しかも事務所持ちで。
と、そんな疑問を持ちながら司馬さんを見てみたら、
「そんな予算はありませんが」
「えっ」
「レコーディングの予算で今は精一杯でしたので。私達の事はお気になさらず、皆さんは打ち上げに行ってもらって構いませんよ」
でぇすよねー。
やっぱそんなこったろうとは思ってた。打ち上げ代とかあんなの余裕あるとこでしか出してくれないっしょ普通。だんだんストレイビートの実情が分かってきたけど、大丈夫かこの事務所。
「……あ、じゃあ近くのファミレスでも行く?」
「奢ってもらえると思ってたから五円しかない」
「リョウさんまだ今月分の借金返してもらってないんですけど」
「……優人は私から全財産の五円すら奪おうっていうの?」
「何で俺がちょっと悪いヤツみたいな感じで言ってんだこら」
ぶつよ?
「あっ私も月末だからお金があんまり……」
「あれ、そうだっけ? 先月の動画の収益まだ残ってなかったか?」
「えっと……あれはゆうくんと私の共有財産だから勝手に使っちゃダメかなって……」
「色々と誤解を招きかねない発言をするのはやめようか。あと絶対意味分かって言ってないだろそれ」
「?」
うん、この顔は完全に分かってないね。
一応後藤さん個人の名義だけど、動画制作に俺も関わってるからって収益を分けようと言われて拒否したのに、いつの間にか後藤家夫妻も加わってきてゴリ押しされたのが先月辺りである。
もちろん俺は一切使うつもりはないが、後藤さんは二人のものと思っているらしい。
紛らわしいこと言いやがって。共有財産は夫婦に当てはまる言い方なのを理解してないのか。してないよな、だって
そして何故か聞かれたらまずいと思っている虹夏さんと喜多さんの方をおそるおそる見ると、
「リョウの今月分の給料は全部優人くんに借金返済として返すように」
「そ、そんなご無体な……」
「あたし達に隠れてお金借りてるのが悪いんだよ」
「伊地知先輩、全額はさすがに可哀想なんで一割だけでも残しておいてあげましょうよ〜」
「郁代〜……」
「喜多ちゃんはリョウに甘いんだって。よく考えてみてよ、全然お金を返さないリョウにもし優人くんが詰めたらこいつ何すると思う? 最悪自分から身体で返そうとするよ」
「………………リョウ先輩すみません、ちゃんと全額返しましょう」
「郁代!?」
なんか向こうで説教始まってるから聞こえてないっぽい。
ふう、命拾いしたぜ。……いや、何故か大人達から謎の視線を感じる……?
「……何か?」
「いえ別に……男女関係のいざこざで解散とかにはならないよう気を付けてくださいね」
「はっはっは、あり得ないですって。万が一そういう可能性があってもリョウさんの借金問題くらいですよ」
「台風の目ってこうやって広がっていくのね……」
やみさんが変な例えしてるけどどういう事だろう。
借金してる本人は気楽だけどそれに振り回されてる俺達は大変だー的なことかな。
「そんなに何か食べたいなら机の上にあるお茶請けの飴食べていいよ〜」
予算のない子供達に優しい優しい上村さんからお慈悲があった。
レコーディングの打ち上げが飴玉一個か。何もないよりかはマシだと思っておこう。
説教も終了し、みんなで仲良く飴玉ちゅぱちゅぱタイムが始まった。
「……帰ろっか」
一瞬で終わった。
──
スターリーで虹夏さん達と別れ、俺と後藤さんはいつも通り長い時間をかけて地元の金沢八景駅へと到着。
さすがに一年以上もこの往復を続けていると体も慣れてくるものだ。さすがにずっとこの往復はキツいので将来的には下北付近に引っ越したいとは思ってるけど。
後藤さんと二人で帰路につく。
電車で帰ってる間に空はすっかり真っ暗になっていた。
いつもの帰り道。
だけど今日はレコーディングが無事に終了したというちょっとした達成感を抱えながら。
「レコーディング、ちゃんと終わって良かったな」
「う、うん……」
これでまた結束バンドは新しい一歩を踏み出した。間違いなく前進という形で。
もちろんミニアルバムの売れ行きによって今後の活動も変わってくるとは思うが、その時はその時だ。後藤さんが結束バンドに入った時を思えば、まさかレーベルと契約するなんて思ってもみなかったんだから。
「たっただ、映画化される時のことを考えたらレコーディングの時にもっとクールに弾けば良かったかなって思ってるけど……」
「急に何言ってんの」
寝転んで弾いてた時点でもうクールさは行方不明になってたよ。むしろ滑稽の極みだったよ。
どうやら彼女自身はバンドを組んだあの日から既に売れてドキュメンタリー映画をするとこまで想像していたらしい。授業中にテロリストが侵入してきた時のシミュレーションを脳内でしている学生並の見事な妄想力だ。そういうのは中学生で卒業しなさい。
……いや、案外ただの妄想でもないかもしれない、か。
「確かに将来結束バンドのドキュメンタリー映画が撮られる事も100%ない訳ではないかもなぁ」
「え?」
「だってさ、なんだかんだ認知度も上がってきてるし、気付けばノルマも普通に達成できるようになってるだろ? しかも未確認ライオットじゃ二次審査までいって、優勝はできなかったけど運良く司馬さんに見つけてもらってレーベル契約までいったんだ」
当然ここに来るまで決して簡単な道のりではなかった。
最初は虹夏さんから半ば強制的にヘルプのバンドに呼ばれ、何故か完熟マンゴーのダンボールを被ったまま演奏したのが事の始まりだった。
そこから流れで結束バンドに入り、ボーカル探しのため説得の末に喜多さんが加入した。
初ライブでは台風に襲われてただでさえアウェーの中トップバッターとして演奏し、途中はどうなるかと思ったが後藤さんの機転で何とか巻き返す事ができた。
文化祭では色々あった。本番中に後藤さんのギターの弦が切れるトラブルが発生するも、喜多さんが成長を見せアドリブをしつつ後藤さんもボトルネック奏法で土壇場を乗り切った。最終的には後藤さんがMCの途中でダイブしたせいで大事件となったが。
ギターが壊れた後藤さんのためにみんなで新しいギターを見に行ったりもした。
やみさんがスターリーに来た時は大変だった。
ギターヒーローの正体をバラされたり現状の痛い所を突かれもしたが、結果的には結束バンドと俺自身の問題と向き合うきっかけにもなった。
そこから未確認ライオットへの出場を決めて活動にも本格的に力を入れ始めた。
新曲のMVを撮ったり、路上ライブをしたり、宣伝にも工夫を凝らし、喜多さんのボーカルとしての成長やリョウさんのスランプをどうにかするために奮闘だってした。色んなアーティストが集められた違うライブハウスで経験を積んだりもして何とか一次審査を突破したが、二次のライブ審査ではシデロス達に敗北してしまった。
しかしフェスの時に和解したやみさんが司馬さんを連れてきた事によって結束バンドの活動はまた大きく変化する。
レーベル契約を結び新曲をいくつか作る事になった結束バンドはまずリフレッシュのためにちょっとした夏旅行をしたり、結局そこでも音楽の話をして後藤さんが初の作詞に挑戦したいと提案してきたりもした。
そして今回、紆余曲折ありながらもレコーディングは無事成功を収めた。
時間の流れにして約一年半。
期間だけ見れば長くないように思うが、本当に色々あったと思う。
その過程のほぼ全てを近くで見てきたからこそ言える。
自信を持って胸を張って。
「ちゃんと進んでるよ、前に」
「……」
全部が全部上手くいくとは限らない。
当然未来なんて誰にも分からなくて、予想もできない。あくまで想像が限界だろう。
それでもいつか後藤さんの言っている事が本当になればいいなって思えるくらいには、可能性を見出せた。
結束バンドなら行ける気がする。行けるとこまでではなく、行きたいとこまで。
「まあ、まずはちゃんと売れて軌道に乗らなきゃ何も分かんないけどさ」
「うん……大丈夫、売れて中退して高層マンションに住むとこまでは想像できてる……!」
「せめて卒業は一緒にしようか?」
高層マンションに住めたとして家事炊事は誰がするんだろうと思ったところで思考を止める。
こいつの事だ。多分ふわっとしたイメージでしか物を言ってないんだろう。おそらく家事全般は俺がする羽目になると思う。いや別に慣れてるからいいけどさ。
思えば後藤さんと再会する前の生活と比べてみれば、あまりにも濃すぎる時間が経過していた。友達と遊ぶ事もなく家に帰って家事炊事をするだけの学校生活がもはや懐かしいとさえ思えるほどに。
そしてこんなに楽しい時間を過ごせているのも、自分のやりたい事を見つけられたのも、支えたいと思える人達に出会えたのも、そのきっかけの中心にはいつも後藤さんがいた。
後藤さんの人生はあの時大きく変わった。
しかし同時に、俺の人生もあの時から大きく変わったのだ。
後藤さんがいなかったら多分何も変わっていなかっただろうと思う。
極端かもしれないけど、俺が充実した日々を送れているのはこの子の存在が大きいのだろう。少なくとも毎日が退屈しない程には。
「……あっ、か、完成音源楽しみだね……」
「ん? ああ、そうだな」
後藤さんなりに会話が途切れないよう気を利かせたのかな?
「もしかしたら本当にこれで結束バンドが有名になったりしてな」
「そ、その時はちゃんと恩返しを含めてゆうくんを養うから……!」
なんでこう何かと俺を養う方向性で固まってんだろう結束バンドの皆様方は。
「……つうか恩返しって何?」
「えっあっえっと……ぜ、絶対めんどくさかったはずなのにこんな私を見捨てないでいつも一緒にいてくれて、そのおかげで結束バンドでもやってこられたし楽しかったから……だ、だから結束バンドが爆売れした暁には今度は私がゆうくんに恩返しで楽をしてもらおうって……あぅっ」
「アホか」
バカな事を言う全身ピンクジャージにはデコピンの刑だ。
まったく、何を言うかと思えば恩返しだと? ふざけた事を言いやがる。
「俺が恩を売るためにお前と一緒にいたとでも思ってんのか。だとしたら見当違いも甚しいぞ。後藤さんと一緒にいるのもこれまで結束バンドのサポートをしてきたのも、全部俺がやりたいと本気で思ったからやってんだ。勝手に恩なんか感じてんじゃねえよ」
「うぅ……」
「それになぁ……って、え、大丈夫? そんなに痛かったか? 力入れたつもりは全然ないんだけど……」
「心が痛い……DV……」
「だからふわっとしたニュアンスだけで言うなっての。……ところで略さずに言うと何になる?」
「……ど、ドンキーヴィクトリー……?」
「……バンドだけじゃなく勉強も頑張ろうな」
やっぱ俺がちゃんと見てなきゃダメだこの子。
ギター以外マジで何もできないままなのは正直危ない。せめて人として最低限の知識と教養は染み込ませないと。
「えと……それでゆうくん、さっきはなんて言おうとしてたの……?」
「あん? ……あー、まあ、あれだ。とにかく恩返しとかそういうのはどうだっていい。それでももし何か返したいと思っててもそのままバンド活動してくれてるだけで大丈夫だよ」
「え?」
「どうせこれから何十年もずっと一緒にいるんだし、こっちも勝手に貰ってるからな」
「……?」
きょとんとした困惑顔でこちらを見つめるピンクの子。
こういうとこはアホで助かる。変に察しが良くてもこちらが恥ずかしくなるだけだ。
「はい、この話はおしまい。さあ、とっとと家に帰ろうぜ。健全な男子高校生のお腹は既に空腹で堪りませんことよー」
「あ、う、うんっ……か、から揚げ食べたいっ」
「今日はレコーディングの打ち上げも兼ねてるからな。美智代さんと母さんにはもうリクエストしてあるよ。多分パーティー並に用意されてんじゃねえかな」
「うへへ……」
他愛ない話をしながら二人で歩く。
多分、こういう事がこれから先もずっと続いていくんだと思う。
けどそれでいい。それがいい。
こうしてたいと自然に思える事は幸せな事だから。
結束バンドの活動は続き、俺はそれをできる限りサポートしていく。
時には虹夏さんとバカ共にツッコミを入れ、喜多さんの陽キャパワーに振り回されて、リョウさんにお金をせがまられながらも楽しい日々を送るのだろう。
何より、隣の彼女は一番世話が焼けるので暇はしない。
手間がかかる子ほど何とやらだ。
あの日から大きく変わり始めた俺の人生。
その第一歩は再会したら引きこもり寸前だった幼馴染の面倒を見る事からだった。
そしてそれはおそらく、今後も続いていく。
きっと数十年経っても変わらずに。
「そういや来週後藤さん追試だったよな。バイト来れないんじゃね?」
「…………アッ」
「ちょおいっ!? こんなとこで溶けだすのは勘弁してくれませんかねぇ!? しかもよりによって液体タイプかよ! 一番持って帰るの面倒なやつじゃん!!」
……いや、少しは変わってほしいかもしれない。
おしまい。
はい、前書きにあった通り終わりです。
まあ区切りにしてはちょうど良いかなと。やはりこの二人から始まったのなら終わりもこの二人で締めないとと思い、結末はこんな感じになりました。
基本コメディーだし最終回だけど日常っぽく終わらしたいな〜でも最終回だし一応特別な感じでも締めたいな〜という気持ちを最後に込めてやりましたよええ。
いやー思ったより長く続いたな〜という印象。これも応援してくれた読者の皆様方のおかげですね。
何より驚きなのは書き始めた当初から思ったより反響が凄かったのと、続けていく内に素敵なファンアートを頂いたりX(旧Twitter)ではマシュマロで幼メンの三次創作小説が送られてきたり、気付けば海外の方からも応援を頂いたりと、小説外でもありがたい事が多かったです。感想でみんなと戯れるのも楽しかったよ。
最終回だから盛大に高評価くださいオナシャス
みんなの高評価が俺を救う。
では、最後に高評価を入れてくださった
☆10. 空山 零句さん、BAKAさん
☆9. CURURUさん、yf6さん、若鶏の唐揚げさん、四式15センチ自走砲さん、ザラメ雪さん、鷹ヒーローさん
最後まで感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
さて、これからは一次創作、つまりオリジナル小説に力を入れたいのでおそらくもうハーメルンで書く事はないかもしれませんが、もし何かの気紛れか息抜きがしたいと思ったら短編なり番外編なり、もしくは別の原作で妄想を膨らませながらワンチャン戻ってくる事もあるかもしれません。その時はまたよろしくお願いします。
約二年半、本当にありがとうございました!
では今回はここで終わりにしたいと思います。
ご縁があればまたどこか別サイトでも皆様と出会える事を願いつつ。
この辺りで幕を閉じさせていただきます。