再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
アニメ8話が神回すぎてこれでまだ中盤なの?って感じ。
最終回辺りのライブとかどうなってしまうんだろうってね。
ぼっちちゃんのヒーローっぷりが発揮されててヒーロー好きとしては大変惚れ直しました。
外に出て少し走った場所。
下北線路街の空き地にあるキッチンカーエリアに俺達はやってきていた。
「つまりオーディション受けて合格したらライブに出られるって事?」
「そうです。店長は実力があの時のままなら出せないって言っただけで、絶対に出さないって言ってる訳じゃありません。今の結束バンドの実力をオーディションで披露して認めさせたらライブにもちゃんと出演できるんです」
「なら最初からそう言えばいいのに。お姉ちゃんの意地悪」
「店長がそういう人だって事も虹夏さんは知ってるんでしょ?」
「……まあ、うん」
ほら、やっぱ仲良し姉妹だ。何だかんだお互いの事をよく知っている分、ああやって遠慮なくモノを言えるんだろう。
普段結束バンドのリーダーとしてしっかりしてる虹夏さんだから、店長と話している時は妹感マシマシのわがままって感じでギャップがある。見ていてとてもほっこりするのだ。俺も弟か妹欲しかったなあ。
「それでぼっちちゃんは何でそんなに顔真っ青なの? 今にも死にそうになってるけど」
「ああ。ここまで走ってきたんですけど、途中で後藤さんがリタイアしたからおぶってきたんです。気付いたらゾンビになりそうになってたんで危うく犠牲者を出すところでした」
「ぼっちちゃん体力なさすぎる……」
走って一分もしない内に気配察知範囲の十メートルから消えたので振り返ると、案の定一人だけゾンビ映画みたいになってたからな。
おんぶして来たは良いけど、さすがに俺も疲れた。最近は筋トレとかのおかげで体力も筋力も多少付いてきたけど、さすがに人一人背負って走るのはまだキツい。しかももう夏だし暑すぎる。
後藤さんを背負ったまま説明してたから一旦彼女を土管に降ろす。まだゼェハァゼェハァ言ってる。黒ひげかな?
俺もようやくおも……背負うモノがなくなって体が楽になる。ふぅ、気分はまるで亀の甲羅を背負って修行してた悟空だ。今時このネタ伝わる人いたら普通に凄いと思う。
「はい、清水君っ。後藤さんおんぶしたまま走って疲れたでしょ。ミルクティーで良かった? 確か好きだったよね?」
「ん、おう、サンキュ。お代返すよ。いくらだった?」
「もう、別にこのくらいはいいわよ」
「女子に奢られるのって何か気が引けるんだって。あと個人的に負けた気になるから好かん」
「ふふっ、何それ」
お代を渡して喜多さんから貰ったミルクティーを飲む。うん、熱くなった体に冷たくて甘いミルクティーが染みわたっていく。
一気に生き返るような気分だ。やっぱこれだよこれ。ミルクティーしか勝たん。
「……てか喜多さん何で俺がミルクティー好きなの知ってんの」
「え? だって昼休み終わりとか放課後に後藤さんとギター練習してる時よく飲んでるの見てたから」
「……そっすか」
え、ナニコレ。ちょっと恥ずかしいんですが。そんな見られてたの俺。というかそんな飲んでたの俺。
人が何飲んでるかとか普通そんな見ないでしょ。酒場の店員か。いつものって言ったら何も言わずよく飲んでるお酒をちゃんと出してくれるアレなのか。
陽キャの喜多さんの事だ。このくらいは普通の事なんだろう。それで友人とかにファミレス行った時「あれ好きだったよね? いつもので良かった?」とか簡単に言えちゃうキラキラ陽キャなんだ。
喜多さんを前にすると別にそんな陰キャでもない俺まで自分は陰キャかって思うほど眩しくなる。眩しすぎてこっちが陰の者になってしまう。
おっといけない。このままだと後藤さん化するとこだった。
いや後藤さんで思い出した。まだゾンビのままじゃんこの子。早く水分補給させなければ
「ほら後藤さん。ミルクティー飲んで元に戻れ。甘い物は染みるぞ。生き返るぞ」
ストローを後藤さんの口元に近づけたらちびちびと飲み始めた。
おお、微かにだけど顔色が戻っていく。いいぞ、そのまま戻れ。いっそいつもより健康的な肌ヤケしろ。白すぎてちょっと心配になるくらいだし。
と、何だか視線を感じた。
その方向を見ると喜多さんが俺をじっと見ている。
「……」
「えっと、どうかした?」
「……ううん、そういうのは何とも思わないんだって感じただけ」
え、何怖い。さっきまで陽キャだったじゃん。何でちょっと冷めた目になってんの。情緒が不安定なの。
後藤さんに慣れ過ぎてキラキラ陽キャの感情を汲み取る力が弱まってきてるな俺。だってこんな顔見た事ないもの。
「ってああ! このやろっ、よそ見してる間に俺のミルクティー全部一気飲みしやがったな!? まだ8割くらい残ってたはずなのに!」
「あっ、凄く美味しかったです……」
こいつ、人のを全部飲み干しておきながら何とも思ってやがらねえ……だと……。
まあ、すっかり元通りに戻ったからいいか。またおんぶするのはダルいし。
「うーん、じゃあ結局オーディションまで頑張るだけか~」
「これまでとやる事は変わらないって事ですね!」
「あっうん、そうだねー……」
ノリノリな喜多さんに対して虹夏さんは少し難色を示した顔をしている。
何となく察しは付くけど面と向かっては言えない事なのだろう。俺だって言えないし。
「この二人が一番不安なんだけどって顔してる」
「ちょ、ばっ、せっかく虹夏さんが言葉にしなかったのに何でそういう事平気で言うんですかアンタは!? 心臓に毛でも生えてんのか!?」
「最近優人が私に対して遠慮なくなってきてる。それと同じ」
「ちげえわ! ツッコミと無遠慮の差だわ!」
リョウさんと同類にされるのだけは御免だ。いや外見と音楽の才能は認めるけど、こう……中身が色々おかしいんだよなこの人。
「とりあえず二人のパートはオケ流しとくからアテフリの練習だけしっかりしてくるように」
「「はい!」」
「ダーメ、エアバンドじゃないんだよ! どれだけへたっぴでも頑張れば熱意は伝わるから!」
「虹夏さん、それトドメになってます」
「え?」
見事に虹夏さんの口撃にやられた二人はダメージを受けていた。
後藤さんは土管の中にずるずると入っている。ちょうど良い棲み処を見付けてしまったか……。
土管の中でぶつぶつ自虐して虹夏さんを困らせている後藤さんを尻目に、俺は隣で意味深に黙ってる喜多さんが気になった。
「喜多さん、どうかしたか? それとも虹夏さんに言われた事を気にしてる?」
「あっ違うの。いや、違わないのもあるんだけどそれ以上に、というか……」
何だか煮え切らない反応だな。やっぱり初心者だからか気にしてしまうのか。
と思っていたら、
「あの、清水君」
「ん?」
「今日なんだけど、夜……で、電話、してもいい?」
「え、別に良いけど、ここじゃ話せない内容なのか?」
「そういう訳でもないんだけど、ちょっと気になる事があって……」
ここで詳しくは聞けない事なのかね。
わざわざ俺にだけ言ってくるって事は同性の後藤さん達じゃ乗れない相談の可能性もある。どれだけ力になれるか分からないけど、俺でもできるような助力なら手伝ってやりたい。
「……ああ、分かった。じゃあできる時にロイン送るよ」
「うん、お願いね」
「ちょっと優人くん! ぼっちちゃんここから出すの手伝って~!」
「ああはいはい」
喜多さんと夜の約束をし、虹夏さんに言われるがまま後藤さんを土管の中から引きずり出す。
夜の約束って響きはちょっとアレだな。イケナイ感じに聞こえる訂正しよう。夜の密会とか。……もっとダメになったわ。
何とかネガティブ後藤を元の精神状態に戻し俺達はキッチンカーエリアを後にする。
「だーいじょうぶだーいじょうぶ! リズム隊が上手ければ何とかなるよ!」
「そっそうでしょうか……」
会話はさっきの続きまで戻っていた。
「うんっ、リョウ並に演奏できる事を求めてる訳じゃないと思うし。多分、熱量とか……バンドとしての成長? とか求めてるんじゃないかな」
「成長……」
バンドとしての成長、か。
傍から見てる意見としては確実にバンドとしても成長してると思う。後藤さんもまだまだ完璧じゃないが、前回よりも幾分か合わせる事はできてるようにだって感じる。
喜多さんだってギターを始めて間もないのに毎日後藤さんから教わってるし、家でも一人で練習しているらしい。自分だけまだまだという自覚を持っている分、少しでも早く追いつこうと奮闘中なのだ。
リョウさんと虹夏さんについては今の段階じゃ何も心配はいらないだろう。バンド全体のクオリティーはどうあれ、二人の実力はオーディションくらいなら合格域を余裕で超している。
虹夏さんは全体を支えるリズム隊として後藤さん達が少しでもペースを合わせられるよう調整してくれる。リョウさんも虹夏さんに合わせ自分を主張しつつも、違和感を与えないレベルで目を合わせない後藤さんに向けて視線の代わりに音を聴かせてくれている。
そう考えると個人としての成長は各々しているのだが……バンドとしての成長を考えるならまた複雑になってくるな。
みんなが今何でバンドをやっているか、何がしたくてやっているのか、何のために始めたのか。実力もそうだが、おそらくこの辺りに答えがある気がする。
ただし、バンドをやっていない俺はそのどれにも当てはまらない。
結局答えを出せるのは結束バンドのみんなだけだ。
帰宅途中の間。
珍しく後藤さんは普通に隣を歩きながら黙ったままだった。
────
自室に戻り時計を確認する。
時間は夜の十時過ぎを指していた。
筋トレ後の晩ご飯も食べ終え風呂も入り、やる事と言えば結束バンドに関わると決めた時から日課にしている音楽についての勉強くらいだ。
と言ってもネットで音楽用語や演奏についてのサイトとか動画を見るだけだけど。多少なりとも詳しくなっておいて損はない。
しかし今日は他にやる事があったので、スマホのロインを開く。
「いつでもできるぞ、と。えっ?」
メッセージを送った瞬間に既読がついた。
なして? ロインの画面開くまでのラグすらなかったけど、もしかしてトーク画面ずっと開いて張り付いてた?
すると了解とか分かったとかそういう返信をしてくる事もなく着信音が鳴った。
相手はもちろん喜多さん。どうやら陽キャは相手からのメッセージは速攻で見る習慣でもあるのだろう。
通話ボタンをタップする。
第一声はあちらからだった。
『もしもし、清水君?』
「あっおう、こんばんは……」
何だか普段正面やら隣から聞き慣れている声が自分の耳元からするのは少し違和感を覚える。
このむず痒さはなんだ。電話ってこんなソワソワするもんだったっけ。
『こんばんは。ふふっ、どうしたの? 後藤さんみたいな言い方しちゃって』
「うるせっ……基本電話とかしないから慣れてないだけだ」
『後藤さんと電話とかしないの?』
「後藤さんが電話するとこ、想像できるか?」
『……できないわね』
あいつマジで電話出ないからな。ロインとかはすぐ返してくるのに電話したら一切出ない。で、切れた後に『すみません。ちょっとトイレに行ってて気付きませんでした』とか誰でも分かるような噓をつく。
それを中学生の時に何十回もされてどんだけトイレ行くねんという思いから電話をする事はなくなった。
色々心配で何十回も電話かけてたあの頃の俺もどうかと思うけど。もう二度と後藤さんに電話する事はないだろう。
代わりに今じゃ向こうから頻繁にロインしてくる事あるが。隣に住んでるんだから普通に家に呼べよと思う。
「そういう事。で、さっそくだけど本題に入るぞ。何か俺に聞きたい事があったんだよな? それとも相談?」
『あ、うん。聞きたい事、になるのかしら。後藤さんの事についてなんだけど』
何でそれを俺に聞く?
「後藤さんの事? それなら俺に聞くより本人に聞くのが一番手っ取り早いんじゃ」
『いつも一緒にいる清水君に聞きたかったのっ』
「分かった分かったって! それで、何が聞きたいんだ? 生態調査のレポートなら明日にでも貸せるけど」
『そうじゃないから! というかそんなものあるの!?』
あるぞ。一度虹夏さんに見せようとしたらいらないって言われて処分に困ってたやつだ。
俺の苦労を返してほしい。
『じゃなくてっ。聞きたいのは後藤さんのギターについてよ』
ああ、なるほど。
「というと?」
『今日伊地知先輩達に私と後藤さんのギターは下手って言われたじゃない? だけど、後藤さんのは私が前に学校で聴いた時に、素人の私でも上手いって思ってたのよ。もしかしたらまぐれだったのかもって思ったんだけど、どうしても気になっちゃって』
「それで後藤さんをよく知る俺に真相を確かめようとした訳か」
『ええ、そうなの。まぐれでギター上手く弾けるなんて事あるのかしら?』
喜多さんの疑問はもっともだ。
最初に後藤さんの腕前を聴いた喜多さんなら、後藤さんが上手いって思うのは当然の事。彼女の実力は一人の時に発揮されるものだからである。
別に隠す事でもないだろう。というか後藤さんから聞いてなかったんだな。
一緒に放課後練習してる時とかに言ってるものだと思ってた。
「まぐれじゃないよ。後藤さんは間違いなくギターが上手い。それもめちゃくちゃにな」
『え、そうなの?』
「ああ。俺の主観にはなってしまうけど、単純な実力だけならリョウさんと同等かそれ以上だと思ってる」
『そんなに!? でも、じゃあ何で下手だって言われて……』
「ただ、喜多さんももう知っての通り、後藤さんは極度の人見知りと引っ込み思案の根暗陰キャコミュ症な性格してるだろ?」
『そ、そこまで言わなくても……』
「だからそのせいで演奏時は誰とも目を合わせられない。つまりアイコンタクトで呼吸を合わす事ができないんだ。一人で勝手に突っ走ったり顔を上げる事もしないから、リョウさんも虹夏さんもペースを乱されて全体的なライブのクオリティーが下がってしまう。どれだけソロが上手くてもチームになった途端ド下手になっちまうんだよ。これが後藤さん最大の欠点って訳」
最近はまだ聴けるレベルまでにはなってきたけど、それでもまだまだだ。
『……そういう事だったのね』
「ああ。実際喜多さんにギター教えてる時の後藤さんは何もおかしいとことかなかったろ? つまりそういう事」
『ええ、私でもちゃんと分かるように教えてくれるわ。それに応えられてるかどうかは分からないけど……』
「大丈夫だよ。たまに放課後練習見させてもらう度に思ってるけど、後藤さんの教え方が上手いのはもちろん、喜多さんも喜多さんでちゃんと努力して少しずつだけど確実に上達してる。素人の俺でさえ音の違いとかスムーズに弾けてるかどうか分かるくらいにはな」
後藤さんも喜多さんも、結束バンドのために上手くなろうと毎日努力している。足手まといにならないために、他のやりたい事さえ封じてバンドのために時間を費やしている。
それを知っているからこそ、それを伝えて安心させてやりたい。間違いなく成長してるんだぞと。
「喜多さんもまだ始めて期間も短いのにそんなに頑張ってんだ。後藤さんもだけど、ちゃんと二人は成長してるよ。俺が保証する」
微かな自信のなさを声音で感じた。多分、結束バンドの中で一番不安になっているのは喜多さんだ。
自分だけが完全な初心者で、ギターだけでなくバンドの要とされるボーカルも任されているのだから。圧し掛かるプレッシャーなんて俺なんかには計れない。
だから少しでも不安を取り除けるような言葉を投げかける。むしろそれしか俺にできる事はない。
であればできる事に全力を尽くすのみだ。
「結束バンドのギターボーカルを俺もみんなも信じてるから。だからオーディションの日まで突っ切ってやろうぜ」
『清水君……うん、私頑張る。バンドとしての成長を認めてもらうために、頑張って良かったって心から思いたいから!』
「いいねえ、その意気だ」
『だから、私達をちゃんと見ててね!』
「……ああ」
声に覇気が戻ったような気がした。これなら喜多さんは大丈夫そうだ。
後藤さんの事も説明したし、聞きたい事もこれで終わりだろう。
「じゃあ用件も済んだなら切るけど、いいよな?」
『えぇ~、せっかくなんだからもう少し話しましょうよ。男の子とちゃんと電話した事ないから貴重な時間だしっ』
「何でだよ。特に話す事ないだろ。……それに夜更かしは美容の敵とかなんかなかったっけ。良いのか花の女子高生がそれで」
『青春に夜更かしは付き物よ清水君っ☆』
「……さいですか……」
結局、俺は何故か喜多さんの長電話に深夜三時くらいまで付き合わされたのだった。
話を向こうから振ってきてくれて楽しかったからまだいいけど。
そして通話が終わったあと、ロインには後藤さんから『あの』『今大丈夫ですか?』『ゆ、ゆうくん?』『あっうっ』『私、また何か悪い事……?』『何しでかしたのか心当たりしかないけど、本当にすみませんでした』『明日からも普通に話してくれると嬉しいです』と連投が来ていた。
翌朝、後藤さんから腕を掴まれ教室まで離される事はなかったとさ。
チャンチャンッ!!
今日は更新できないと言ったな。
だけどアニメの余韻のまま書いてやったぜ。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:禍人さん、トナリーさん、雪鹸さん、雪城春さん、雑用アイルさん
☆9:かしこさ2626さん、くそたぬきさん、ドングリGAさん、ヨミタカさん
☆8:ピピロックさん
本当にありがとうございます!
みんな高評価とか感想お気に入り待ってるからなぁぁぁあああ!!
いまだに覚醒ぼっちちゃんが頭から離れない。