再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
皆様の声援あっての作品です。
承認欲求がなけりゃ二次小説とか書かないってハハッ!
幼馴染の後藤ひとりという少女と再会してから分かった事がいくつかある。
一つは見た通り性格や雰囲気は暗いまま、常に俯いて前髪で目元が隠れ表情が捉えづらい。二つ目はご両親から聞いたけど友達と呼べる人がいないという事。今まで家に連れてきた事もなければ、学校での話で誰かと喋った事もなく家で好んで話そうともしないそうだ。
三つ目は中学一年の時からギターを始めて毎日六時間も練習してたらめちゃくちゃ上手くなっていた事。再会した昨日、突然ギターを持ってきて何も言わないまま披露してくれた。素人から見ても凄かった。
拍手したら静かにうぇへっへへへ……と笑っていたから嬉しかったんだろうと思う。
それを見て俺がギターの凄さよりも思った印象はこうだった。
この子、もしかしなくても重症だと。
何かこう、何だろう。見事に持ち前のポテンシャルを全て木っ端微塵にするほど自信のなさと虚無感で形作られているような人間かもしれない。
そして再会した翌日、今日も後藤家にお邪魔している俺は後藤さんの目の前にいる。
ひとりちゃんと呼ぼうとした事もあったが、一度後藤さんと言ってしまえばもう後戻りはできなかったのだ。既に修正できないところまで己の思春期は走り去ってしまった。
「後藤さん、今日も晩ご飯こっちでご馳走になる事になってごめんな。母さんも一人の時よくここで一緒に食べてたから突然止めるのも慣れないらしくてさ、徐々に回数減らしてこっちに来ないようにするから」
「ッ……あっ、いえ、私はその……全然、大丈夫なんで……お、お気になさらず……」
お邪魔になる時の常套句を言っただけでこの反応である。というか何で敬語なんだろう。同い年だし小さい頃はそれなりに話してた方だと思うんだけど。
しかも後藤さんと呼ぶ度に一ミリずつ俯いて元からない覇気が余計なくなっていくのも気になる。もはや後藤さんと連呼したら首が真下に向くんじゃないかと検証したくなるくらいだ。
ちなみにここはリビングではなく、二階の部屋。つまりは後藤さんの自室になる訳なのだが。
うーん、思った以上に何もないな。女の子の部屋ってもっとピンクでオシャレでふわふわした空間だと思っていたけど違うのか。ギターとか隅に立てられてたりしてるだけで他に特徴的な物はない。
強いて言えば音楽系の本とかがあるくらいか。どうしよう、本当に何もない。ゲーム機すらないなんて普段何してるんだろう。……あ、ギター弾いてるのか。
それにしたってもうちょっと何かあっても良いと思うのは俺が野暮なだけなのだろうか。床は畳で襖を見るに和室みたいなのもあるせいか、余計空気が重く感じる。何だこれ、霊圧か覇王色の覇気か何かか?
こんな感じで俺は特に喋らず室内を見渡している。元から誰かいてもさほど沈黙を気にしない性格だから全然良いんだけど、そういや後藤さんがいるんだったと視線を目の前に戻したらなんか正座でもじもじしていた。
トイレか? なんて野暮な事は言うつもりはない。そもそも違う理由でもじもじしてるんだろう。
おそらくというか確実にこの子、誰かといたら沈黙の時間が気まずくなるタイプの子だ。
何か必死に話題を探しても、結局は自分から話が振れずに空振りすらさせてくれないドツボにハマる系である。
昨日の今日で後藤さんの事を大分理解できたと思う。
小声で「ぁ、ぅ……ぇと、う、ぁぁ……」と口にしている辺り、彼女なりの努力が垣間見える。そんな優しさを見せられたら返すしかないだろう。
「そうだ。後藤さんって受験どこ受けるか決まってんの? 俺はまだ戻ってきたばっかだから決めてなくてさ、参考にもしたいし良いとこあったらいくつか教えてくれると助かるんだけど」
「あっ、えと……その、わっ、私もまだ……ちゃんと決めてなくて……」
「ありゃ、そうなのか。まあ受験自体はまだだし焦らなくてもいいか。この辺なら大体行けるだろうし」
実際、家の近くの高校なら普通に受かる自信があるくらいには余裕がある。
家事や炊事があるから勉強する時間がないなんて言い訳を自分で作りたくなかったからだ。やれる事はする。そうして成功すれば万々歳だし、もし失敗しても経験値になるしこれからの糧になる。
だから何事もまずはやってみてダメならダメできっぱり諦めたらいい。
そんな精神でやってきたから大体の事はできるようになっていた。完全とまではいかなくてもだ。
なので俺は後藤さんの小さな努力を否定しない。
どんなに全てを台無しにしてしまうネガティブ思考を持っている彼女でも、前に進もうともがいている手を絶対に離さない。
「あ、ご、ごめんなさい……。せっかく聞いてくれたのに、ちゃんと答えられなくて……」
「ん? 別に大丈夫だよそんなん。つうか後藤さんも俺に対してあんま気ぃ遣わなくて良いからな。数年離れてたとはいえ幼馴染なんだしさ。昔と一緒……とまではいかなくても、普通に仲良くしようぜ」
「……は、はい……」
良かった。もしこれで急に男子とか無理ですとか拒絶されたらどうしようかと思った。
陰キャオーラがプンプンしていても彼女だって思春期の女の子だ。突然同い年の男子が部屋に来てこんな事を言ってきたら戸惑う事だってある。むしろよく部屋に入れてくれたな。
「後藤さんはさ」
「は、はい」
「あー……」
自分から話しかけておいて一瞬の逡巡があった。
久々に会った程度の自分が踏み込んでいいものかと思いつつ、聞いておかなければならないと思った事。
「友達とか、作んないの?」
「ひぅうぁッ……!? あ、ぁぁあ……ぁばあばば……」
やっべミスったか。予想以上にダメージがでかいのか正座のまま横に倒れてスマホのバイブ通知みたいに揺れ続けている。人間業じゃねえ。
「ああ悪い! 変な事聞いちまったな! もう聞かないから大丈夫だぞ~。だから落ち着いてバイブ通知オフにしとこう。さすがに初見でこれ見たらどうしていいか分かんねえし!」
触れても良いのか分からないまま肩を揺さぶると、正気に戻ったのか後藤さんはマナーモードから通常に戻った。
そして体育座りをし始めた。どうしよう、殻に籠ってる訳じゃないよなこれ。警戒されてる訳じゃないよねこれ。
ダメだ。後藤さんというか、こういう極限までに自分を卑下している人と話した事ないからどう接すればいいかまるで分からん。
もういっそ後藤さんを新しい人種として丁重に扱う気持ちでいくしかない。もっと彼女について理解を深めないと。
「……ぁ、あのっ」
と、彼女から声があった。
小さく、それでも必死に絞り出した声。
「わ、私……こんなだから、友達とかひ、一人もいなくて……居場所もネットさえあればいいと思ってたんです……」
ネットが居場所という事に少し引っかかりを覚えたが言葉を呑む。
今は聞く事に集中するべきだと感じた。
「さ、最初はギターとか始めたらっ、声とか掛けられるかも、とか勘違いしたりして……必死に毎日練習してたら気付けば中三になってたし……」
なるほど、ギターを始めた理由はそこにあったのか。
まあ、始める理由なんて人それぞれで、大体は純粋に好きだという気持ちがあってもどこかではちやほやされたいという願望が密かに渦巻いているものだ。下心がない人間なんてそうそういないのだから。
「学校にバンドグッズとかCD持って行ったり、曲のリクエストでデスメタとか送ったりもしたんですけど……ずっと他力本願で、誰からも話しかけてもらえなくて……黒歴史しか残してないから、本当はもう高校は誰も自分を知らないとこに行こうかなって……」
「そうか」
今ので後藤さんの事がまた少し分かった気がする。
何というか、不器用なのだ。不器用で努力の方向性がズレていて、それでも実直に頑張ろうとして空回っている。やっている事がプラスになる事もなくむしろ全部マイナスに行っているという奇跡みたいな方向音痴っぷりだ。
そして、彼女がこんな性格になった原因は俺にもあるかもしれないと思った。
幼稚園の頃でも小学生の頃でも、俺がもっと外で彼女とちゃんと遊んだり接していたりすればこうはならなかったかもしれない。
たらればでしかないが、幼馴染で元から静かな子だって分かっていたのにいつも後藤さんを一人にしていたのは自分じゃないか。
男子と遊ぶ事を優先して、一番近くにいたはずの彼女を無意識に遠ざけていたのは紛れもない自分自身だ。俺が一緒にいれば少なからずもう少し明るい子になっていた可能性だってあったのに。
所詮は幼稚園の頃、小学低学年の頃だから、自分の欲のままに生きていた時だから仕方ないと言えばそうかもしれないけれど、結果として彼女がこうなっている一因には間違いなく俺も入っている。
ならば、その責任を負うのも俺の役目だろう。
「後藤さん」
「は、はいっ……」
「後藤さんは自分をそうやって卑下してるけどさ、俺からすりゃそんなに卑屈になる事もないんじゃねえかなって思うんだ」
「……え?」
まずは彼女に少しでも自信を持ってもらうためにちゃんと言葉を紡ぐ。
言わなくても伝わる、あれは少し嘘だ。言わなきゃ何も伝わらない。誤解なく気持ちを伝えたいならちゃんと言うべきだ。
「ギター始めた理由は何にしてもさ、実際今日までずっと長い時間続けて練習してきたんだろ? 友達はできなかったかもしれないけど、その分をたった一つのためだけに熱中できるってすげえじゃんか。そこまで続けられる人ってのも中々いないんだし、それも一種の、立派な才能だよ」
「……さい、のう?」
「ああ。グッズ持ってったり曲のリクエストとかだってそうだよ。結果としては全部塵カスになっちまったけどさ、他力本願だとしても友達作ろうと後藤さんなりに努力した事には変わりないんだ。何か思っててもうだうだ言って行動せずに何もしないヤツよりかは何倍も頑張ってる証拠だろ」
これは俺の本心だ。
後藤さんはやる事為す事裏目に出てしまうだけで何もやっていない訳ではない。何かをしているのだ。現状打破のために行動を起こせるのは立派な強さだ。まあ結果は出せていないんだけども。
最後に言いたい事を言う。
「それにさ」
これだけは絶対に伝えたいと思った。
「昨日のギター演奏してくれた後藤さん、すっげえ上手かったしかっこよかった」
「……っ!」
部活でもなく強制されてる訳でもないのに毎日一人で六時間も練習し続けられるのも俺からすれば充分凄い。
何より素人目の俺でさえもめちゃくちゃ上手いって思うほど後藤さんのギターから目を離せなかった。そうなるのにどれだけの努力があったのだろうと思う。
後藤さんは自分では思ってないだろうけど、実は頑張れる人なのだと俺は思っている。
「ライブとか行った事ないから分かんねえけど、何かこう、見ててワクワクしたんだよ。素直にすげえって思えるくらい惹かれたんだ。俺もバンドは聴く方だから動画サイトでたまに歌ってみたとかギター弾いてみたとか適当に見るんだけどさ、知らないかもだけどギターヒーローみたいでずっと目が離せなかったよ」
「~~~ッッッ!??!?!??」
あれ、良い感じに褒めてたのにどうしよう。何かいきなり後藤さんが声にならない悲鳴出し始めたんだけど。
すげえ甲高い鳥の鳴き声みたいだ。仲間でも呼んでんのかな。もしかして褒めすぎたら逆にプレッシャー感じちゃうタイプだったか。だとしたら悪い事をした。
「ステイ! 後藤さんステイ! ホーム! あれ、ハウスだっけ? ハウス! ハウスハウス!」
どうにか落ち着かせようと冗談交じりでジミヘンの躾に言うような感じで言ってみたらそのまま後藤さんが襖の奥に入ろうとしたので必死に止めた。
ちなみに襖の中が少し見えたけど、色々置いてあって秘密基地感が凄いので少し気になるところだ。
話を戻す。
空気がもうめちゃくちゃなので結論だけを言わせてもらう。
「後藤さんさっき誰も自分を知らない学校に行きたいって言ってたよな」
「あ……はい」
「よし、決めた」
「……?」
ただのお節介で迷惑と思われるかもしれないけど、俺にだって原因があるなら何とかしないといけない。
決める時はちゃんと決めるのだ。
「俺も後藤さんと一緒の高校に行くよ」
「……ぇ……え゛ぇッ!?」
「どんなに遠くたって構わない。俺が一緒にいればとりあえずでも後藤さんは一人じゃなくなるだろ?」
「あ、え、で、でも……め、迷惑なん」
「あ、迷惑とかそういうのはナシな。俺が一緒に行きたくて提案したんだから変な気遣いとかは無用だぞ。それに一緒の高校なら勉強とかも大体は教えられるしな。せっかく久々に会ったんだし、またよろしくなっ」
これでお互い別の高校に行ったとして、会う度にコミュニケーション失敗して落ち込んでいる後藤さん見るのも何か嫌だし。
どうせなら一緒のとこ行って新しい友達探しの手伝いをするくらいはできるだろう。
よし、何だかやる気出てきた。
常日頃から家事とかやってたせいでやる事がないと妙にモチベーションを高く維持できないようになってるからどうにかしないと。父の面倒から後藤さんの面倒を見る事に変わっただけだけど、個人的には自分から提案したので後藤さんと一緒にいる方がやる気は出てる。
「ぅ……えと、その……」
と、後藤さんが何かを言おうとしていた。
表情は見えづらいけど、何となく笑っているようにも見える。少しはここの空気感も良くなったみたいだ。
「ま、またよろしくね……ゆ、優く」
「優く────ん!! 晩ご飯もうすぐできるから降りておいでってさ! あ、おねーちゃんもね!!」
ふたりちゃあああああああああああああんッ!! 今せっかく後藤さんが勇気出して何か言おうとしてたのにタイミング悪すぎないかなああああああああああああああああ!?
んで振り返った時にはもういねえし、瞬足で下に降りてったし。何だあの子、後藤さんと違って動き回るの好きすぎないか。何だ、後藤さんから『動』を奪ったのか。正反対すぎだろ。
「(わ、私の方が先に優くんって言おうとしたのに……)」
そして後藤さんに関しては俯いてごにょごにょ呟いている。
小声すぎて何言ってるか全然分かんねえ……。何なの、特技は周波数の調整ですか。念仏とか呪詛じゃないよね。まあしゃあない。これ以上無理をさせるのも良くないしな。
「とりあえず晩飯できるならもう降りとくか」
「……あ、ゆっ、ゆ、く……!」
「ん? どした?」
部屋を出ようとしたら何か呼ばれたような気がした。
四つん這いになりながらこちらに手を伸ばそうとしていた後藤さんがいた。
「あ、その……お、おかえ、り……」
「……」
そういえば、そんなやり取りを後藤家のみなさんともしていたか。
だが彼女とはしていなかった。
精一杯頑張って微笑んでくれている気がしないでもない後藤さんに、俺も笑ってこう返した。
「おう、ただいま」
何てことないやり取りだけど。
ようやく俺はここに帰ってこれたような感じがした。
──────
そして年が過ぎ四月。
見事県外の高校に受かった俺と後藤さんは家の前に立っていた。
あれからの事をできるだけ手短にまとめるとこうなる。
卒業まで時間あるし一応中学でも今から友達できるように頑張ってみよう。
↓
そもそもクラス違うから全然サポートできなくて気付いたら後藤さんが自爆してた。
↓
色々作戦会議するも会議の内に気付いたら後藤さんの顔が溶けてスライム状になっていた。
↓
バンドメンバーを探そうとした時期もあったが、まず後藤さんが声をかけれないし俺はバンドメンバーですらないので声かけ事案でしかなく気付いたら後藤さんが霧状になって散っていた。
↓
気付いたら後藤さんがのっぺらぼうになっていた。
といった感じである。
基本的に気付いたらこうなってたのだ。
十月からおよそ六ヵ月間。
驚いた事に何の成果もあげられなかった。友達作りへの進撃は失敗に終わったのだ。
そして、唯一の成果というか失敗作というか、今までになかった関係性が出来上がったのである。
今から入学式に向かう俺のすぐ背後へピッタリと張り付くように立っているのがそう、後藤さんである。
何とした事か。まさかの悪化したのだった。
友達作りどころか、気付けば俺は金魚のフンを作り上げていたのか?
額に手を当ててため息一つ。
「どうしてこうなった」
とりあえず展開の軌道が乗りそうな3~4話までは書き進めます。
そこからは反応があり次第で……。
基本オリ主視点なのでこう見ると心の中でよく喋るくせにぼっちちゃんほんと喋んねえなって思ってます。
そしてそう簡単に変われないのが人間です。
ちなみにぼっちちゃんはオリ主が幼馴染だからこそまだ色々喋れる方になってる感じですね。
では、高評価をくださった
むらやんさん、やばばさん、まっちゃぷりんさん、Co2さん、いとしゅさん
本当にありがとうございます!
こういった反響があればあるほど頑張れます!
5話挿入歌が良すぎてヘビロテしてました。