再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
二日前のはまじ神の配信で便所飯する喜多ちゃんを原作者が直々に描いてたの笑っちゃった。
他にもサッカーボールにされるぼっちちゃんとか萌え萌えキュンする山田とかも見れるのでみんなはまじあき先生のアーカイブ見た方が良い。
後半途中、この作品では初めての三人称視点(神視点)入れてます。
とある日。
俺は虹夏さんとスターリーへの帰路についていた。
「ごめんね~、買い出し付き合ってもらっちゃって。荷物が多かったり重かったりするとどうも一人じゃキツくてさぁ~」
「大丈夫ですよ。むしろこういう時こそ男の俺の出番な訳ですし。全然頼ってください」
虹夏さんの頼みならたとえ水の中火の中クソ野郎のトランクスの中だって行ってやりますよ。やっぱ最後のだけはなしで。
「助かるよぉー。やっぱスターリーにゃ優人くんが必要不可欠だねえ」
「……はぁ、やっぱ虹夏さんがいっちゃん天使。虹夏さんしか勝たん」
「えっ、いきなり何!?」
「ああいや、何かちゃんと会話できてるなって感じるの、虹夏さんだけなんで……」
まともな会話ができる喜びを俺は知った。
後藤さんはいつもアレだし、喜多さんは陽キャ用語多すぎてたまに着いていけないし、リョウさんは草食べてるし。まとも枠が虹夏さんしかいないの普通にやばいでしょ。大丈夫か結束バンド。
「虹夏さん、俺……虹夏さんにはいつもまとも枠でいてほしいです」
「そんなお願いされたの初めてなんだけど!?」
「一緒にあの変人達をツッコミましょう!」
「好きでやってる訳じゃないけどね!? しかも優人くんもたまにあたしに対してボケに回ってるから強く言えないよ!」
マジでか。いや、言われてみればそうだった。
なんか虹夏さんになら安心してボケに回っても大丈夫な気がして……。
他愛ない会話をしながらスターリーに戻る。
うん、よく考えればこれが普通なんだよな。他の人達が個性ありすぎて感覚麻痺しかけてた。天使に勝るものなし。
「え……何その髪型……」
天使のひっっっくい声がスターリー内に響いた。
虹夏さんの声が気になり俺も急いで階段を下りると。
「……は?」
なんか知らん人が三人いた。虹夏さんも呆然と立ち尽くしている。
髪色はそれぞれ一緒だがどうしても同一人物とは思えない。スーツ姿にマッシュヘアー、いわゆる男装っぽい感じには見えるがこいつらもしかして……。
「ばっバンドマンとしての成長を見た目で表現……だそうです……」
「おいバカに何バカな事を言わせてんだ」
「やっぱりリョウか……」
後藤さんは断れないし喜多さんもリョウさんの提案なら喜んで受け入れるのは目に見えている。
つまりバカトリオの完成であった。よくあったなそんな衣装。
「飲酒喫煙女遊び。そして髪型をキノコヘアー。それがバンドマン!」
「偏見しかないんですが」
「イメージがこてこてすぎる……」
バンドマン全員がキノコだと思うなよ。今更飲酒喫煙女遊びなんて古いわ。
少なくとも俺の尊敬してるバンドのボーカルは毎日10キロ走って喫煙一切しないし飲酒も年に三回程度、カフェイン摂取も断って基本グルテンフリーで常に喉に気を遣ってるようなすげえバンドマンなんだからな! 今時体と喉ぶっ壊してするロックなんて意味がねえんだようぇーい!
とまあ現役バンドマンの彼女達に素人の自分がそんな事言えるはずもなく、俺は一人でうんうんと勝手に納得するしかなかったのでした。
そんな中キノコ達は仲良く三人で写真を撮っている。「はいキノコ~!」ってどんな合図だよと思いながら、アー写撮影の時に「ハイ、ヒール」とか言ってた自分を思い出したから口は閉じておく。同類じゃねえか。
「てかそれウィッグなのか。すげえな」
「でしょ? 結構ちゃんとしたものなのよねえ。一度はボーイッシュな感じにしてみたかったし試したかったの! どう、似合ってる?」
「え、うん。似合ってる似合ってる」
「反応が淡泊! もっとこう言う事があるでしょ!」
「え~だって女子の男装とか見ても男からしたらあぁ、そうですか……くらいしか言う事ないって~」
俺にそういう趣味趣向はありませんので。もっと女の子女の子してる方が好きでしてよ。
「優人をイジりたいならもっと寄せないとダメ。例えばにじり寄るとか」
「なるほど! さすがリョウ先輩!」
「ぎゃあっ! 顔面偏差値高いのを良い事に近寄ってくるな! うつる、キノコがうつるっ! あと何で地味に後藤さんまで来てんだよ!? 後ろから挟んでくんじゃねえ! 虹夏さんヘルプっ、ヘルプミー!」
「南無三」
虹夏さんんんんんんんんんんんんんんんんんッ!?
そこは天使が助けてくれるところなんじゃないですか!? 見捨てられたら俺の男としての尊厳が顔面高偏差値三人衆に奪われるんですけど!! 自分の顔に自信喪失しちゃうんだけどいいのか!?
数分後。俺はヤムチャ状態で死んでいた。
三方向から三バカに囲まれ俺は男としての自信を喪失。顔が良いヤツはこれだから困る。もうお婿にいけない……。
「満足した?」
「うん、虹夏には目が半分隠れてうざったい感じの斜め前髪枠が空いてるから」
「そんな枠いらんわ」
俺がキノコでも斜め前髪でもなくて良かった。偏見によって精神ダメージ受けるとこだったわ。
てか何で男の髪型に寄せるんだろう。普通に売れてるガールズバンドの髪型真似すればいいんじゃないのか。いや大体女子の髪型も一緒か(偏見)。
「あっあの……わ、私女遊び無理です……。私と遊んでくれる女の人がいません……」
知ってるけど改めて聞くと中々に悲しい発言だな。
「大丈夫。下北沢のビレパン前でギター背負って気怠そうにしとけば多分誰か寄ってくるから」
「偏見に満ちた情報教えない! 真面目にやるの!」
「でも成長って目に見えないし、判断基準ぼんやりしてるし」
「はっきりしてるよ! とにかくお姉ちゃんを納得させればいいんだから、練習あるのみ! ほーらみんなさっさと着替えて! 優人くんもすぐ立ち上がる。今日はシフト入ってないんだしいつも通りスタジオで練習見て意見とかあったら言ってね」
「あっはい」
虹夏さんに言われると素直に言う事聞いてしまう。これがリーダーの力……。
みんなウィッグを外して着替えに別室へ向かっていく。俺は先に買い物袋の中身を整理してからスタジオに行く予定だ。
それにしても成長、か。
虹夏さんはあまり悩んでるようには見えないし喜多さんはこの前の電話でおおよその答えは見付けたっぽいけど、他の二人はまだ見付けていないのだろうか。いや、リョウさんは大丈夫そうだな、何となく。
ならば残るは後藤さんだが、オーディションまでに聞くべきなのかどうかは、俺にも分からなかった。
────
オーディション前日。
この日も俺はシフトに入っておらずスタジオで結束バンドの練習を眺めていた。
ほぼ毎日練習は数時間ほどやり、日に日に演奏自体は良くはなっている。
ただ、やはり後藤さんは視線を合わせないがためにまだ突っ走ってしまう事があった。そんなすぐにコミュ症を治せるなら苦労などしていないか。
しかし、今日の後藤さんの演奏には他にも違和感を感じた。何だか雑念が入ってるような、他の事を考えて集中できていないようにも見える。
オーディションは明日だ。何か悩んでいる可能性があるなら、今日の内に何とかしなくてはいけない。
そう思っていたら、
「よし、今日はこの辺にしとこっか」
「え? もうですか?」
「うん、明日のオーディションに備えてゆっくり休んでねっ」
リーダーの判断で今日は終わりとなった。
駅へ向かう帰宅途中。
俺は先ほどの事を思い出しながら後藤さんに問いかけた。
「今日の練習中、何か他の事考えてたろ」
「えっ、な、何でそれを……」
「こちとらほぼ毎日のように顔見てんだ。前髪で目が隠れてたってそれくらいは分かる」
そうやって理解しようとしてきたんだから。
「で、何を考えてたんだ」
「あっえっと……私、今何のためにバンドをやって」
「ぼっちちゃーん! 優人くーん!」
後藤さんが言いかけていたところで背後から声がして立ち止まる。急な事だからか後藤さんはちょっとビビっていた。
振り返らずとも分かるが、声の主は虹夏さんだ。
「ごめんごめん! ちょっと話したい事があってさ~」
それでわざわざ走ってきたのか。ご苦労様です。というかロインか通話じゃダメだったのか。
あ、後藤さん電話出ないんだった。
「話す事があるなら俺は先に行っときましょうか?」
「あっ、優人くんにも話しておきたいんだよね」
「俺にも?」
後藤さんはともかく俺にもって何だろう。バイトの事かな。
ちなみに後藤さんは俺が先に行っとこうかと言った時点で、俺がどこか行かないようにがっちり服を掴んでいる。元から逃がすつもりはなかったのねあなた。
「うん、あっちょうど良いや。二人共何が良い?」
虹夏さんは横にあった自販機を見て俺達に聞いてくる。話をするなら何か飲みながらの方が良いと考えたのかもしれない。
気が利くと言えば気が利くが、そこを虹夏さんにさせるのは違う気がする。そっと財布を出しながら自販機に近づく。
「俺が出しますよ。ほら、虹夏さん好きなの選んでください」
「えっ? あっ! 優人くんずるい! あたしが止めたんだからそこはあたしがお金出すとこでしょ!」
「そうしてくると思ったから先手を打たせてもらいました。もうお金入れちゃったんで、どうぞ」
「……じゃあ、レモネードで」
「はいよ。後藤さんはコーラで良いよな」
「あっう、うん……」
俺はミルクティーを買って三人に飲み物が渡ったのを確認してから虹夏さんに振った。
「で、話というのは?」
「うん。あのね……もし、あたしに付き合わせちゃったりしてたらごめん」
「「え?」」
急な謝罪に後藤さんと声が被った。
話したいって、謝る事だったのか?
「ほら、ぼっちちゃんが結束バンド入ってくれたのってその場の成り行きだったでしょ? ぼっちちゃんあの時ずっとバンドやりたかったって言ってたけど、そういえばあたし……ぼっちちゃんがどんなバンドしたいとか、何のためにバンドしてるとか聞いた事なかったなーって」
ちやほやされたいからですって言える雰囲気じゃないのは後藤さんも分かっているようだ。
何故ならめっちゃ服掴んでくるから。
「それに優人くんに至ってはぼっちちゃんの付き添いだからって色々してもらったりバイトまでしてくれてさ、この前は優人くんを辞めさせないために勢いで支えてよなんて言ったけど、よく考えれば我ながら無責任でもあったなって。なのに優人くんは嫌な顔せず今もずっと結束バンドのために手伝ってくれてるじゃん? それって何でなんだろう。何のためにしてるんだろうって思っちゃってね」
「……」
結束バンドのリーダー、まとめ役。
そんな風にこっちが思っていても、彼女だってまだ高校二年生の女の子に変わりはない。だから自分のした言動や行動に絶対の自信を持つ事だってできない。後から思い返して後悔する事もあれば反省する事だってあるのだろう。
「人によって何かを始めたりやろうとする理由って、それぞれじゃん? 手段ややり方なんてたくさんあるし、それこそ夢なんてみんな持ってるだろうからさ」
少なくともバンドをしている人達はそういう目標がある事くらいは知っている。
それは虹夏さんやリョウさんも例外ではない。詳しい事はまだ分からないけれど。ならば俺のやりたい事とは何なのだろうという疑問が同時に出てきた。
結束バンドの成長を見ていきたい。彼女達を支えたい。というのはやりたい事とはまた別な気がする。
バイトを始めた直後、リョウさんにも俺のやりたい事が見つかれば良いなって言われたが、結局まだ何も見つかっていない。結束バンドのためにとかではなく、俺自身のやりたい事、その答えはまだ不明のままだ。
みんながバンドとして力をつけていく中。
本当に前に進めていないのは、もしかしたら俺だけなんじゃないかと、頭によぎった。
「私はさ、目標っていうか夢があるから。だからつい熱くなりすぎるっていうか……ぼっちちゃん達に無理させちゃってたりするかなーとか」
「そっそんな無理なんて、全然ないです……!」
「右に同じです」
「そう? なら良かったっ」
いや、今は俺の事はどうでもいい。最優先はオーディションだ。
「に、虹夏ちゃんのバンドやる理由は、売れて武道館ライブですよね……?」
「ま、バンドマンの目指す道としては王道ですもんね」
「うーん……本当の夢はその先にあるんだけど……」
「え?」
本当の夢? 虹夏さんにとって武道館は通過点に過ぎないという事なのか。
ただ、虹夏さんがそれ以上教えてくれる事はなかった。
彼女は口元に人差し指を当て、
「でも、まだぼっちちゃん達には秘密だよっ! じゃ、明日よろしくねー!」
そのまま帰って行った。
虹夏さんにはしっかりした目標がある。だからあんなにも真っ直ぐに進んでいけるのかもしれない。
何のためにか。
「何のためにバンドやってんのか、だったか」
「え?」
「さっき後藤さんもそう言いかけてただろ。虹夏さん、それを見抜いてた。やっぱみんなの事ちゃんと見てんだな」
「そう、だね……」
後藤さんが軽く俯く。
虹夏さんの事を聞いて何を思ったのかは分からない。それで答えが出るほど簡単なものじゃないとも思う。
「何だっていいんじゃないか?」
「……え?」
「バンドをやる理由、何がしたいのか、やりたいのか、何のためにやっているのか。そもそも成長とは何なのか。そんなもんすぐ答えが出るようなら悩んでなんかいねえだろ」
「うっ……」
俺自身、やりたい事を見付けていない時点で後藤さんと一緒かそれ以下なのだ。
だが後藤さんには今結束バンドがある。自分の居場所があって、そこでやりたい事ができている。明確な理由なんてなくたっていい。
「最初みたいに人気が出てちやほやされたいからってのも理由ではある。だけど、それだけじゃなくなったからそうやって悩んでるんだろ?」
「う、うん……」
「ならやるべき事は決まってる」
ある意味答えなんてどこにでも転がっていて、どこにも落ちていないのだ。
結局はその本人次第。見付けるも見落とすも気持ちの強さで変わってくる。しかし不器用な彼女にはどちらも難しいというのなら、自分が多少の助力をしたって良いと思う。
「うじうじ悩んでないで思う存分ギター搔き鳴らせばいいんだよ」
「……で、でもっ、そんなんで、良いのかな……」
「少なくとも、俺はギターを弾いてる時の後藤さんが一番
「らし、い?」
「ああ。そんでそれこそが結束バンドとして、バンドをやってる理由に繋がるんじゃねえかな。まああくまで俺個人の意見だからどう受け止めるかは後藤さんの自由だ」
理由なんてまだなくたっていい。
ないならこれから作ればいいし、見つかるかもしれないのだから。
後藤さんはまた俯いた。夜だからか上手く表情が見えない。何かを考えているんだろう。
数十秒くらい経過した頃、彼女は顔を上げた。
「……ゆっゆうくん、私の……結束バンドの演奏を見てて……」
「しっかり焼き付けとくよ。もしそれでもダメそうなら俺がどうにかしてやるから、好きにやってこい」
「うんっ」
街灯が照らす彼女の表情が瞳に映る。
ああ、これなら心配なさそうだ。
────
オーディション当日。
スターリー内では着々と準備が進んでいた。
静寂の中、たまに楽器のセッティングをする音だけが響く。
準備中、最初に口を開いたのはスターリーの店長、伊地知星歌だ。
「清水。お前結束バンドを手伝うとか協力者になったとか言ってたな」
「ええ、そうですけど」
イスに座っている星歌に対し隣で立っている少年、清水優人は問いに答えた。
「マネージャーとかでもないんだろ。何だその曖昧なポジションは。まあ売れてもないのにマネージャーになる意味はもっとないけどさ。そんなんで良いのか?」
「えっと、何が言いたいんですか?」
「だから、あいつらはバンドとしてこれからも大きくなるつもりだろ。それでもし本当に売れて人気になって大きくなったら、お前はどうするんだって聞いてんの。マネージャー志望とかあんの?」
「いえ、特には」
「……はあ?」
低い声が返ってきた。
実際、優人にマネージャー志望はない。それどころかなったとしても彼女達のマネージャーになれる確証もないのだ。マネージャーだけなら他にごまんといるし、実力も経験もない自分には厳しいと考えている。
「おま、じゃあこれからどうすんだよ」
「結束バンドが成長していくのを近くで見守る。支えるって言ったんで、そうしていくだけかと思います」
「いや、だからその後の事をだな……」
「店長の言いたい事は分かってますよ。結束バンドが成功した先に俺の居場所がないかもって心配してくれてるんですよね」
「なっ……や、それは」
あからさまに目を逸らす星歌に苦笑いしつつ、少年は断言した。
「別に良いんですよ。結束バンドが成長しきって大きくなった先に、俺の居場所なんてなくても」
「……は?」
準備を進めていく彼女達に目をやりながら、
「協力するって言った時は俺を養ってやるとか冗談で言ってくれた事はありますけど、彼女達がデビューするような事があってどこかに所属する事があれば、俺は喜んで去ります」
「それで納得できんの?」
「はい。俺の役目は結束バンドを支えて手伝う事だけです。その後の事は、もっと詳しい人達に任せればいい。将来の事は、そうですね……まあ成績自体は良いんでどうにかします。あ、最悪ここで働かせてもらうのもありですね」
「ここを滑り止め扱いすんな。……お前、やりたい事とかないの?」
軽くドラムを叩く音が響く。
最終チェックもそろそろ終わる頃合いだ。
「俺もよく考えたんですけど、今はただ結束バンドを見守りたいって事だけですかねえ。それ以外には特に何も」
「かぁー、若者ってのは今を生きてるモンだな。お前、将来苦労するタイプだわ。何の確証もねえのにあいつらの近くにいて、あいつらが成功したら自分はお役御免ってか?」
「まあそうなりますね。俺はただ結束バンドのみんなが幸せになればそれで満足なんで」
「うーわぁ……お前ってもしかして結構ヤバいヤツ? 自分を勘定に入れないとか、普通そんな考えにならんだろ」
「これでもまとも枠で通ってるんですけど……」
店長とPAがうんうんと頷き合っているのがどうも気に入らない。
何勝手に納得し合ってるんだと言いたいところだが、多分ここで何を言っても主張が通る気がしないので仕方なく黙る。
「ほら、もう始まんぞ」
「はい」
遠回しに会話の打ち切りを渡され、完全な沈黙がスターリー内を支配した。
時間だ。
「結束バンドです! よろしくお願いします!」
リーダーの虹夏も緊張しているのか、ほんの少し上ずった声だとすぐに分かった。
「……じゃあ、『ギターと孤独と蒼い惑星』って曲、やります!」
意識を結束バンドの方へ切り替える。今日の主役は彼女達だ。
昨夜の少女を見た身としてはあまり心配はしていないが、それでもこちらが強張ってしまう気持ちも多少あった。
僅かに握り込んだ手が震える。
オーディション。ある意味、今日結束バンドが新たなスタートラインに立つ日だ。
まずはここを超えなければライブができない。
ステージに立つ四人が見合って頷き合う。緊張で少し強張っているようにも見えるが、ここまで来ればもう後戻りはできない。全員が前を向く。
そこが合図だった。
ハイハットがリズムを刻んだ瞬間、静寂だったスターリーを音の暴力が支配した。
(ッ……!)
スタジオ練習で何度も見て聴いているはずなのに、まるで初めて聴いたような衝撃が少年の体中に走る。
昨日と今日で劇的な変化は見られない。だけど確実に、イントロだけでもう違うと分かる。
伊地知虹夏のドラムがリズムを作り。
山田リョウのベースがペースの基盤となり。
後藤ひとりのリードギターが場を沸かす一陣となり。
喜多郁代のボーカルが曲全体の顔となる。
絶対に誰一人欠けてはできない結束バンドの旋律だけが奏でられていく。
気付けば勝手に体がリズムを刻んでいた。
そして、清水優人は見た。
サビに入る直前、ピンク色の少女の瞳に変化があったのだ。
前髪でほとんど隠れ、本当なら見分ける事すら難しい些細な変化。
それをずっと見てきた少年だけが、ここであの少女が何かをするという前兆を感じ取れた。
どこかで何かが決意に変わる音がした。
同時に、後藤ひとりが床を足で強く踏み込む。いつもスタジオや家で彼女のギターを聴いていたからだろうか。素人のはずなのに彼女のギターの音色がよりいっそう明確なものになった感じたのだ。
(すげえ……すげえ……!)
全体的に見ればまだまだ上手いとは言えないかもしれない。一人で突っ走る傾向はまだ続いており、必死でドラムとベースが合わせないと違和感を感じてしまうような演奏なのかもしれない。
でも、だけど。
彼女達の演奏は、間違いなく一人の少年の心を掴んでいた。
音の振動でペットボトルが小刻みに揺れ、重低音な音圧が腹をより一層跳ねさせる。
気付かぬ内に一歩前に出ていた。もっと近くで見たいと。思い切り彼女達を応援したいと。そう思わせてくれるような演奏。
もはや、自分の心臓の音でさえうるさいと少年は感じた。
確信はない。確証もない。だけど、今日は結束バンドが世界に産声を上げた日になる。可能性は無限に広がっている。
彼女達は、結束バンドは。
何かになれると、清水優人は確信した。
────
演奏が終わる。
余韻が残る中、俺だけが手を叩いて拍手をしていた。勝手にしていたのだ。どれだけ叩いて手が痛くなっても止める事はない。俺のこれが、彼女達は合格なんだと示すかのように。
ありがとうございましたと各々が言って頭を下げる。
俺はもう自分でもびっくりするくらいパァッとした笑顔で店長を見た。合格以外あり得ないよな。これで不合格な訳ないよなと、そういう雰囲気にさせて少しでも確率を上げるためにだ。
そして店長は少し考える素振りを見せてから、
「良いんじゃない」
「それみろ合か」
「って言いたいところだが」
……は?
「ドラム、肩に力入れすぎ。ギター二人、下向きすぎ。ベースは自分の世界に入りすぎ。……でも、まあお前らがどういうバンドかは分かったけどね」
蓋を開けてみればダメ出しの応酬があった。
いやいや、そんな、噓だろ?
「なっ、ちょっと待ってくださいよ店長! むしろこれだけの期間でよく頑張った方でしょ!? 喜多さんなんかギター初めて二~三ヶ月くらいでギターボーカルやってんですよ!? それに後藤さんだって段ボールの中に入らずにあそこまでやったってのに……」
「あん? 急に何言ってんだお前」
「あれか! 分かったぞ! どうせまたツンデレ発動してんだろ!? 素直に合格って言えないからちょっと下げてから実は合格でしたーとかそういう事なんでしょ!! 俺には分かるからな! 伊達にアニメいっぱい見てねえからばふぅッ!?」
「うるっせえなお前少し黙ってろ!」
脳天チョップを予備動作なしでされた。
「ったく……よく聞けっての。どういうバンドか分かったってこっちは言ったんだぞ。ここ喜ぶところだから」
「「「「え?」」」」
「多分合格って言いたいんだと思いますよ」
「だからそう言ってんだろ……合格っ」
それを聞いた瞬間俺は勢い良く立ち上がる。
「分かるかあッ!! てかやっぱりツンデレじゃねえかアンタ俺の言った通りの展開じゃん最初から合格って言えばいいでべふぁッ!?」
「いちいちうるせえちなみにお前はあいつらに入れ込みすぎだバカッ!!」
今度は脳天拳骨をいただいた。
俺の脳細胞はこの二発でどれだけ死んだだろうか。さよなら俺の細胞ちゃん達。生まれ変わっても元気でな。
「やったー! 合格ですって!」
「は、はいっ」
倒れたままステージの方を見ると喜多さんは後藤さんに抱き付いて喜んでいた。ああ、これが俗にいうてぇてぇってやつですか。凄く良い景色ですね。
こんなの見れるなんて俺も生きてぇてぇ良かった。使い方あってるっけこれ。
喜び合ってる後藤さん達を見ているのは虹夏さんとリョウさん。何やら後藤さんの方を見てコソコソ話しているように見えるけど、まさかな。
そろそろ脳細胞ちゃん達も復活してきた頃かなと思ってたら、その時は突然やってきた。
「ッ、き、喜多さんすみません……!」
口元を押さえたまま後藤さんがステージ脇まで移動したかと思えば。
「oh.」
ダム決壊である。あるいはマーライオン後藤の誕生だった。
見事にリバースしておられる現役女子高生なんて見たくなかったが、それが幼馴染だなんて世も末だ。
「大丈夫後藤さん!? 清水君早く来て!」
「あーはいはい。慣れない事して緊張が解けて一気に胃酸が逆流してきたんだな~」
早々に立ち上がり後処理に向かう。
ステージ上で吐くなんて相当ロックしてんなあ後藤さん。やっぱバンドはこうでなくちゃ。
後ろでは虹夏さん達が改めて喜び合っている。
それでいい。今は合格した事を素直に喜ぶべきだ。紛れもなく自分達の実力で切り開いたものなんだから。
「みんなで写真撮りましょう!」
「あっわ、私は床の掃除を……」
「ここは俺がやっとくから行ってこい」
「でっでも……」
「いいから。かっこよかったぜ、今日の後藤さん」
「っ」
素直な気持ちを伝える。何事においても演者や創作者には応援や感想が一番の力になるからな。
「じゃあ俺はバケツに水入れてくるから」
言ってステージ上から下りてドリンクコーナーに向かう。
バケツを持って水道水を入れてると、店長がやってきた。
「清水、お前将来はどうあれとりあえずはずっとあいつらの側にいるんだろ」
オーディションが始まる前に話してた事か。
「ええ、そのつもりです」
「そうか。……じゃあ」
俺に背を向けて、店長は言った。
「虹夏達の事、ちゃんと見とけよ。優人」
「っ……はい!」
思わず言葉に力が入る。
何だか、認められたような気がした。
「え、どした。何があった。さっきまで喜びムードだったじゃん。何でいきなりスタンドモードになってんの」
バケツに水を入れステージ上に戻ったらいきなり後藤さんが半泣き状態で後ろに来た。
一喜一憂の頻度が半端じゃないなこの子。
「ゆっゆうくん……ま、守ってぇ……」
「何から? 社会から?」
写真撮ってたんじゃねえのかよ。どうしてそうなった。
聞いても彼女はビクビク震えているだけだから何も分からない。また自分の世界に入って厳しい現実でも幻視していたのかもしれない。
さっきまであんなかっこよかったのになあ。
ともんじゃ(表現緩和)の処理をしていると、虹夏さんの元気な声が耳に入ってきた。
「じゃあチケットノルマ1500円を二十枚だから、一人五枚ずつで!」
今度こそ後藤さんが背後霊へと進化した。
いや昇華した。
清水優人のキャラ掘り下げも少し入れつつ結束バンド成長させていく方向で書きました。
片鱗はたまに出てましたが、基本的に相手が幸せなら自分はどうなっても良いと考えてるような、マンガとかに影響受けてヒーローに憧れてる異常者系男子です。
だからあんなにぼっちちゃんに対しても面倒見が良かったり。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:アステライオスさん、Fragさん、三日月王我主さん、x_shigure_さん、
☆9:コロすけさん、神木圭介さん、月の丘さん、春はるさん、伝説の超三毛猫さん、するめ太郎さん、Red manさん、よしよしjさん、煎茶555さん、もちゃもちゃの玉ねぎさん
☆8:キクスイさん、冬基さん、コイキングさん、とっちゃさん
本当にありがとうございます!
もうすぐ投票数500とお気に入り3000に届くのでまだ高評価してないよーとかお気に入りしてなかった人がいたらよろしく頼み申す~!!力をくれ~!
感想は200超えたよ!ありがとう。もっとくれたっていいんだからね!
原作でもアニメ最新話でも思ったけど、スターリーに来た時きくり姐さんがぼっちちゃんを「ひとりちゃん」じゃなくて「ぼっちちゃん」呼びに変化してたのは何でなんだろ。
店長と知り合いだし誰かに教えてもらったとか?