再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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やべー女登場回。





21.酔っ払いの面倒を見るのは苦労する

 

 

 金沢八景駅からほんの少しだけ歩いた場所、琵琶島神社に俺と後藤さんはいた。

 すぐ近くには弁才天様像もある。お邪魔してまーす。

 

 さて、何故俺達がここにいるのかというとだ。

 無事オーディションも合格しライブをする事が決まった結束バンド。なら次にやる事は当然集客である。ただでさえ結成したばかりで知名度なんて皆無。

 

 とすると必然的に自分からチケットを売らなければならないのだが、そのノルマは五枚。

 家族や友人知人と普通ならそんなに苦労しないのではと思うところもあるだろう。しかしそこは我らが後藤ひとり。期待を裏切らず見事に売り捌く事なんて無理なのであった。

 

 辛うじて後藤家両親が買ってくれて二枚は何とかなったものの、後の三枚はどうするか。

 それで出た答えが地元で宣伝フライヤーのビラを配ってチケット買ってくれる人を探そう大作戦に出たのである。果たしてその結果は。

 

 

「……妖怪か?」

 

「け、結束バンドのみんなです……」

 

 そもそもコミュ症の彼女がビラ配りなんてできる訳がなかったのだった。

 しかもフライヤーに描かれてるこの、なに……アー写の時の結束バンドのメンバー? らしき怨霊達が描かれたビラなんて誰も取ってくれるはずもない。すげえ怖いし。十秒見つめてたら多分魂抜かれるか呪い殺される類の呪物だこれ。特級呪物認定しなきゃ。

 

 

「あうぅ……やっぱりもうゆうくんに買ってもらうしか……」

 

「それは最終手段って言ったろ。まずは最後まで粘ってみろって」

 

「だっ、だったらせめてビラ配りだけでも手伝」

 

「やだよ! こんな呪物配って受け取ってくれる人いる訳ねえだろ! もしいたとしたらとち狂った狂人かよっぽどの聖人くらいだっつの!」

 

 何なら配ってる最中に警察に職質される可能性大だ。今日私服だし。

 いきなりロインでチケット売るの手伝ってと言われ何をしでかすか分からないから着いてきたけど、正解だったようだ。この子一人なら今頃ヤバい勧誘だと思われて連行されててもおかしくない。まず一人でできる未来が見えないが。

 

 ビラだけは無駄に枚数作ってきてるの何なんだ。真面目な無能か。それとも呪いの手紙的なやつ? 

 神社だしワンチャン火を焚いて供養してもらうのが身のためかな、と思ってたらロインの通知音が鳴った。後藤さんも反応したという事は結束バンドのグループロインだろう。

 

 それぞれ二人でスマホを見てみる。

 

 

『お友達結構来てくれるみたいです~! よかった~~~♡☆彡』

 

『なんか売れた』

 

『ぼっちちゃんはどうかな? 今日の自主練来る? 新曲もみんなで合わせたいし! 優人くんも良かったら一緒に来てね~!』

 

 最後のこれ、絶対遠回しに後藤さんの様子を伝えろって言ってるじゃん。密かにチケットの売れ行き気にしてるじゃん。

 既読を付けてしまったがどうしたものか……。ごめん虹夏さん、多分今行っても後藤さん死んじゃうだけなのでスルーする事をお許しください。何としても売らせますんで。

 

 俺がここで返信しようとすると絶対阻止してくるだろうしなこのピンク。

 今もまた自分の世界に入って頭抱え込んでるし。

 

 

「だから美智代さんのご厚意に甘えとけば良かったのに。友達に売ってくれようとしてたんだろ? 何で見栄張ったんだよ」

 

「うっ、うぅ~……ふたりがいる手前強がっちゃって……」

 

「バカじゃねえの」

 

 張るような見栄もないのに強がるからそうなるんだ。

 

 

「こ、このままじゃクビに……クビになっちゃうぅ……!」

 

「どうした急に」

 

 いきなり頭抱えてヘドバンしだしたんだけど。

 目が若干イッている。うん、これは通常運転ですね。

 

 

「ああもう夏なんだから荒ぶるにしてももうちょっと静かに荒ぶれって! 見てるこっちが暑苦しいわ!」

 

 びくびく痙攣しだした後藤さんを何とか階段に座らせる。

 目の焦点は合ってないけど奇行続けられるよりかはマシだ。まさか暑さでおかしくなったとかじゃないよな? 確か向こうにコンビニあったはず。

 

 

「暑いしちょっと水分補給した方がいいな。そこのコンビニで飲み物買ってくるからじっとしてろよ。ここなら人もあんま来ないし大丈夫なはずだ」

 

「あっ、じゃあコーラで……」

 

「水分補給だっつってんのに炭酸買う訳ねえだろ。せめて他のジュースな」

 

「あっはい」

 

 そう言って俺はコンビニの方へ歩き出す。

 時刻はもう夕方に入ろうとしている。コンビニ近くまでやってくるとある事に気付いた。

 

 

「……浴衣の人が多いな」

 

 目に映る人の七割くらいが浴衣を着ている。確か今日は祭りがあるんだっけ。

 一時は後藤さん陰キャ脱却大作戦で連れて行こうともしたが、人混みが無理で家を出る前から溶けていた記憶がある。溶けられると物理的に持てないから連れていけないんだよなあ。

 

 それもあってか俺も最近は祭りとは少し縁遠くなっている。

 だけど周囲が祭りムードだと行ってもないのに少し気分が高揚してくるのも不思議だ。浴衣のカップルとか女子同士で浴衣着てる人とか多い。正面からふらふらで酔っぱらっている女性ともすれ違った。酒臭え……もう飲んでんのかよ。

 

 うえぇと思いながらコンビニに入る。外とは違って涼しかった。

 ドリンクを売ってる場所へ向かう。ふむ、俺は当然ミルクティーだ。で、後藤さんは何にするかな……暑さで頭おかしくならないように無難にスポドリでも良いか。

 

 ペットボトルを二本手に取り、塩分取れそうな何かを買っていこうかと考えてたらロインが鳴った。

 また結束バンドの方かなと思ったら違う。後藤さんから個人の方で来た。追加で欲しいものでもあるのだろうか。

 

 

『すみません。追加でお水と酔い止め、あとしじみのお味噌汁とふかふかのベッド買ってきてください』

 

 何を言ってるんだろうこの子。とうとう暑さにやられたか? 

 というか酔い止めにしじみの味噌汁って、まるで酔っ払いの介抱でもするみたいだな。

 

 

「……しゃあねえな」

 

 店内にあるカゴにペットボトルを入れ、俺は他の商品を見に移動した。

 

 

 

 

 ビニール袋を片手にコンビニを出る。

 またロインの通知音が鳴った。まさか後藤さんまた追加してくるんじゃないだろうなと歩きながらスマホを出そうとすると、また通知音が鳴った。

 

 珍しくスタンプも送ってきたのかと思ったらまた通知音が鳴った。え、また? 

 いい加減何だとスマホを出してる間にもまた通知音が鳴る。普通に連投うるせえな! 

 

 

『優人くーん?』

 

『清水く~ん?』

 

「………………………………………………………………………………」

 

 トーク欄の画面にはそれぞれ虹夏、喜多と書かれた名前が一番上にあった。

 そして今も彼女達からロインが来続けている。交互に送ってきているからかトーク欄の一番上を二人が行ったり来たりしていた。しかも文字は全部『優人くーん?』と『清水く~ん?』と統一されている。

 

 俺はそっとスマホをサイレントモードにしてポッケに入れた。

 おそらく後藤さんは何しているか聞こうとしているんだろうが、既読スルーしただけでこんなに送ってくるのも普通に恐怖だ。俺を介すんじゃなくて直接後藤さんに送ってくれ頼むから。超怖いんだけど。こんなアニメみたいなヤンデレ風どっかで見た事あるぞ。

 

 この世には見ない方がいい事もあるのだ。

 どうしよう、今日もうロイン開けないよ。何が何でも後藤さんにチケット売ってもらわないと俺まで何かしらの被害を被るかもしれん。

 

 もういっそあの呪符ばら撒いて悪霊でもいいから買わそうと足早に後藤さんの元に戻っていくと、何やら話し声が聞こえてきた。

 あれ、誰かいんのか? の割に人気は少ないけど。

 

 弁財天像のあるとこまで戻ると、

 

 

「ああヤバイっ! 何か出てきそう! 私の中から込み上げてくる熱い何かがこの世界に解き放たれそう!! 出すかもう!? いっその事私でこの世界埋め尽くしちゃおうかなー!? うぇーいわーはっはっはっはーッ! おぷっ」

 

「あぁあぁぁっ……え、えっとあのっ、も、もうちょっとだけおち、おつち……落ち着いてくだひゃっ、わっあぁ……!?」

 

 地獄が繰り広げられていた。

 

 

 

 

「ぷっへぁ~肝臓に染みる~! いやぁ~助かったよー。本当にありがとねぇ。もう少しで私だけのマーライオンが出来上がるとこだったよ~!」

 

「いえ、まあ、はい」

 

 酔い止めを飲みしじみ汁を盛大に飲み干した女性が言う。

 危なかった。マジで危なかった。あと少し遅れてたら後藤さんのジャージがもんじゃまみれになっていたとこだ。

 

 

「うぁーきっちぃ~。頭ん中全部洗い流したい気分だわー」

 

 酔っ払いに絡まれるコミュ症陰キャという地獄絵図を目の当たりにした俺は、とにかく後藤さんをこの女性からひっぺがし酔い止めとしじみ汁を押し付けたのだ。というかこの人さっきすれ違った人じゃねえか。

 何とか事なきを得た俺達はようやく落ち着きを取り戻したっぽい女性をそっと見て立ち上がる。

 

 

「(いいか、ささっと挨拶だけしてここから立ち去るぞ。酔っ払いの相手なんぞロクな事にならん。そういうのは父親だけで間に合ってるんだっつうの)」

 

「(うっうん)」

 

「じゃ、じゃあ俺達はこれで」

 

「君達名前何てゆーの?」

 

「「……」」

 

 逃亡ミッション、失敗。

 少し落ち着いたせいである程度の理性を取り戻したか。むしろこっちの方が厄介かもしれない。

 

 

「……清水優人です」

 

「ごっ後藤ひとりです……」

 

「そっかー! お酒はほどほどにしないとね~。って言ったそばから飲んじゃうんだけど! がはは!」

 

「おい今どっからその安酒出したアンタ!? せっかくこっちが酔い止めくれてやったのに意味なくなるだろ!? 飲みすぎも大概にしろって!」

 

「なーっはっはっは! 迎い酒ってねー! 鬼ころならいっぱいあるよーうぇうぇうぇーい!」

 

「んがぁああああああッ!! 何言ってもこれだから酔っ払いは嫌なんだよクソがあああああああああーッ!!」

 

「ゆっ、ゆうくん落ち着いて……ゆうくんまで変になったら私はどうすれば……!?」

 

 口から火が出そうになってたところを後藤さんにしがみ付かれて冷静になる。

 酔っ払いには良い思い出がない。基本尊敬しているが、父親が酔って帰って来た時のうざったらしさはもう半端じゃなかった。そこだけはどうにかしてほしくて何度も言ったけど、結局酔ってしまえば全部パーなのだ。

 

 床に吐き散らかすわ絡んでくるわ臭えわ風呂でシャワー流したまま寝るわでどれだけ苦労したか。

 それから俺は酔っ払いが苦手になり、自分は二十歳になって酒を飲むとしても一杯だけで我慢しようと心に誓った。そんで目の前にいるこの女性。相当に厄介なタイプの酔っ払いだ。今すぐ逃げ出したい。

 

 

「あ、しみず君達も飲む? 安酒だけど中々いけるよ~?」

 

「飲むかぁッ!! こっちは未成年だぞ見て分かんねえのかこの野郎ッ!?」

 

「わーっひゃっひゃっひゃ! しみず君怒ってらぁ! おんもしれぇ~!!」

 

「ガルルルルルルルゥッ!!」

 

「ちょ、ゆ、ゆうくんっ、ダメ……か、顔が……顔が般若になりかけてるから……!?」

 

 こ、この野郎……人の顔見て鬼ころ片手に腹抱えて笑ってやがる……。

 

 

「後藤さん、コンビニでありったけの酔い止め買ってあいつの口にぶち込むぞ。この酔っ払いの酔いを覚まして三時間くらい説教しねえと気が済まねえ。それかもういっそ警察に突き出すか……?」

 

「お、怒りすぎて礼儀正しいゆうくんの口調がどっかいった……!?」

 

「あーギターだ~。どっちか弾くのぉ?? いいじゃん、私もインディーズだけどバンドやってんだー!」

 

 聞いてもいねえ事をよくもまあぺらぺらと。……って、え、バンドやってる? こんな酔っ払いが? 

 そ、そんなバカな……バンドの闇か? バンドの闇がこの人を酒沼の権化にさせたのか? 

 

 

「くそっ、同じバンドマンでも後藤さんの教育に悪すぎるっ。お手本にしちゃいけないナンバーワンのヤツだこれ!」

 

「お、じゃあひとりちゃんがギター弾くのかー。私ベースやってるんだよー! お酒とベースは私の命より大事なものだから毎日肌身離さず持ってるの。すごいでしょー!」

 

「聞いちゃいねえ!? あん……? つうかならそのベースはどこにあん……ですか!? 言ってる事本当なんでしょうねえ!?」

 

「…………居酒屋に置きっぱなしだぁ」

 

 マジかこの人。

 マジかこいつ。

 

 

「ぅおっしゃーいんじゃ取りに行くよひとりちゃーん!」

 

「命が……軽い……」

 

「んなぁ!? おい待ちやがれ後藤さん拉致って行くんじゃねえええええええええええッ!?」

 

 片手でひらひら連れて行かれる後藤さんは体重を感じさせなかった。

 こんな時に人間じゃないとこが仇になるとは……。とにかく追いかけないとアレの面倒を彼女が見るのは命がいくつあっても足りやしない。

 

 

 これだから酔っ払いってやつはもうッ!! 

 

 

 





原作者公認クズベーシスト2人目が出てきた事により、優人の苦労は増えるばかりであった。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:ワサビ1号さん

☆9:カマンベールたうよりさん、ラムネ123さん、タイプ・ネプチューンさん、ホタテ土器さん、よしよしjさん、Sakuyaさんさんさん

☆8:モケモケピロロさん

本当にありがとうございます!
みんなの反応が毎回楽しみになってるよー!高評価とかお気に入り感想よろしくねー!


結構覗くからここすきとかもいっぱいしてくれよなー!!
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