再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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下北のスパムバーガー食べたいけど住んでるとこが絶望すぎて絶望。
地元民、俺の分までいっぱい食べてきてくれよな!




22.好感度は時々リセットされる

 

 

「じゃーん! 私のマイベース、スーパーウルトラ酒吞童子EX! かっこいいでしょ!」

 

「あっはい、かっかっこいいです」

 

「名前長いな」

 

 結局後藤さん拉致事件を防ぐために全力で追いかけて居酒屋までこの女性のベースを取りに行き、元の場所……とまではいかないが近くの石ベンチに戻ってきた俺達。

 人の話を聞かない人種への対処法とかないのかよ。何言っても笑ったまんまだったぞ。赤ちゃんか。てか本当にバンドやってたのか……。

 

 酔っ払いの人はベースに頬ずりしながら、

 

 

「昨日のライブでも大活躍だったんだよ~。んで打ち上げで飲み過ぎてさ、気付いたら日昇ってるし全然知らないここに来てたんだけどねー!」

 

「バカかよ」

 

 さすがに飲みすぎですよそれ。

 

 

「ゆ、ゆうくん、多分言ってる事と思ってる事逆に言ってる……」

 

 しまった。つい本音の方が出てしまった。あまりにもやってる事が愚かすぎて頭の心配をしてしまう。

 見た目的にもまだ若い方なのにどうやったらそんな酒浸りになるんだろ。

 

 

「ぷっは~! やっぱこれだわぁ!」

 

「また飲んでんじゃねえか! やめろって言ったろ!?」

 

「私を止めるのはまだ早いぜ少年」

 

「決め台詞みたいに言っても全然かっこよくねえよ」

 

 パック型の安酒なんてどこから出してるんだ。あのポッケは四次元ポケットなのか? 

 

 

「お、お酒好きなんですか?」

 

「うん! だってお酒飲んだら全部忘れられるからさー! ほら、将来の不安とか? そういうのを全部お酒で流せば嫌な事も忘れられてお酒もどんどん進むじゃん? 私はこれを幸せスパイラルって呼んでるんだ! 真似していいよー!」

 

 そんなのが幸せでいいのか。いかん、何かこの人の事だんだん可哀想に見えてきた。

 何があったのか知らんけど厳しい現実に打ちひしがれて酒に逃げるようになってしまったのだろうか。バンドマンってやっぱり苦労が絶えないのかなあ。

 

 

「大丈夫。あなたの人生はまだ長いんですから、くそったれた現実の中でも好きなように生きるあなたの事を俺は応援してます。だから強く生きてください」

 

「あれれー? 何か急にしみず君優しくなったねー?」

 

 そうだ、この人にだって酒に逃げなきゃいけない理由があったに違いない。酔っ払いだからって邪険に扱わず、まずは悩みを聞いて少しでもこの人が酒を飲まなくてもいい生活を送れるようなアドバイスをすれば何か変わるかもしれない。

 

 俺は立ち上がって女性に近づき目線の高さを合わせた。できるだけ優しい笑みを浮かべる。

 

 

「もしよかったら悩みとか相談に乗りますよ。年下だから頼りにはならないかもしれませんが、愚痴でも何でも吐き出せば少しはスッキリするんじゃないですかね」

 

「んぁ~? 特に悩みはありましぇ~~~ん!」

 

「人の親切心を何だと思っ@bをうbヴぉのなdそいんヴぃんbnjscッッッ!?」

 

「げ、言語がおかしくなってるよゆうくん……!」

 

 どうやらこの人はただ酒が好きな狂人ベーシストなだけらしい。もうそれでいい。俺がそう思ったんだからそうなんだ。はい決定! 

 後藤さんに止められるくらい心が乱されるのはよくないぞ俺。もう少ししっかり気を持たないと。

 

 

「あ~まだピンとこないかぁ。まあ二人も大人になったら分かるよ~」

 

「分かりたくないんですけど……」

 

 誰が目の前の酔っ払いを見て分かりたいと思うんだよ。むしろもう二十歳になっても酒飲まないでおこうかと思うレベル。

 若者の酒離れの加速の原因って、実はこういう悪酔いしてる人を見て自分はこうならないでおこうって思ってる人が多い説ないか。いうてそんなないか。ないな、俺だけだ多分。

 

 

「ひいいいああああああああ!?」

 

 隣でいきなり後藤さんが発狂しだした。また何か想像したなこれ。

 

 

「うひょー! ひとりちゃんってもしかしてヤバイ子~?」

 

「気にしないでください。ただの発作なんで」

 

「あ、あぁうぅぅう……ゆう、くん……や、やしなっ……わた、私を……やしな……」

 

「どしたのひとりちゃん?」

 

「ヤシの木になりたいそうです」

 

 縋りつくように俺のところに来られても困る。呪怨の人みたいになってんぞ。

 

 

「ひとりちゃんシラフでこれなら酔ったらもっとやばそうだねえ」

 

「……」

 

 ちょっと想像してみる。……あ、ダメだ。社会不適合者になってストロング虚無と病結(びょうけつ)飲んでるイメージしか出てこない。

 ある意味普段奇行してる元気がある分、酒飲むようになったらそれすらできなくなる可能性がある。後藤さんと酒は相性悪いような気がしてきた。

 

 

「飲めるようになったとしても変に酔うまで飲ませませんよ。この子が酒飲む時は見張っておかないとどうなるか分かったもんじゃないし」

 

「あーあ、私にも止めてくれる人がいたらなぁー!」

 

 アンタさっき止めても飲んでたじゃねえか。この人の中には多分ブレーキがなくて常にアクセル全開だから俺でも着いていけない。

 

 

「あ、そういや君達ここで何してたの? ひとりちゃんギター持ってるし練習の帰りだったとか?」

 

 言われて思い出した。

 

 

「そうだよ酔っ払いのせいで忘れてた! 後藤さんっ、早くノルマのチケット売らないと間に合わないぞ! 花火大会で人がたくさんいる今日がチャンスなんだ。もうあの呪符でも配って地縛霊でも悪霊でもそこら辺の人に憑りつかせて買ってもらおう!」

 

「あっうっ」

 

「しみず君も時々えげつない事言うねー」

 

 手段を選んでる場合じゃないのよこっちは。早くノルマ達成してクリア報告しないと次スターリー行った時何が待ち受けてるか想像もしたくない。

 怖くて今もスマホ見れねえし。足元からずるずると恐怖が這い上がって来てる気分なんだけど。下手なホラー映画より怖い。やっぱ幽霊とかお化けよりも一番怖いのは生きてる人間なんだよなあ。しみお。

 

 

「どれどれ、いっちょお姉さんに話してみんさい! 先輩バンドマンとして何か協力できるかもしれないよ~!」

 

「なっ」

 

 この人に助けを乞う……? バンドマンではあるけどこのどうしようもない酔っ払い女に……? 

 良いのかそれで? むしろ失敗しないか? いやでも今の後藤さんのままじゃいつまでたってもチケットが売れないのは事実。

 

 最悪俺と両親で三枚買う事もできるが、あくまでそれは切り札だ。

 可能ならあとは後藤さんだけの力で売ってもらいたいと思っているけど……うーん、仕方ない……のかぁ……。

 

 

「……苦渋の決断だ。藁にも縋らねえと終わらないもんな。後藤さん、この人に話を聞いてもら」

 

「じ、実はかくかくしかじかで……」

 

「なるほどぉ、まるまるうまうまなんだね~!」

 

 もう言っちゃってるぅ~~~~! 

 

 

「ひとりちゃんは悲劇の少女だったわけかぁ……しみず君も優しいねえ手伝ってあげるなんて。チケット売るの大変だよね……私も最初の頃は凄い苦しんだな~」

 

 最初の頃はって、じゃあこの人のバンドはもうそれなりに人気があってチケットも普通に売れてるって事なのか? 

 え、マジで。実は酔ってなかったら普通に凄い人なのかこの人って。

 

 

「よぉし、命の恩人のために私がひと肌脱いであげようっ」

 

 そう言って、目の前の女性はいきなり上着を脱ぎキャミソールワンピースだけになった。

 は? 

 

 

「ちょ、ばっ、いきなり何して──うぉわっ!?」

 

「ゆ、ゆゆゆゆうくんはみみみ、みちゃっ見ちゃダメっ……!」

 

 上着を拾おうとしたら突然後藤さんから両目を覆われた。

 いやてか、力強くない? ねえ、手に力入れ過ぎだって! それじゃ俺の目が刳り抜かれるっ、めり込んでるからぁ!? というか何か後頭部に柔らかいモノが当たってるような気がするけどその前に俺の目がぁ、目がぁ!? 

 

 

「私とひとりちゃんで今からここで路上ライブをするよぉ! って何してんの二人とも?」

 

「「……え?」」

 

 じたばたしてたせいで割かし男女にあるまじき態勢になってた事に気付く。細かく言えば後藤さんに後ろからがっちりホールドされてる状態だ。

 うん、あの……ちょっと、あんまり見ないでいただけると助かります。

 

 

 

「ほら、ビラもあるし路上ライブで客呼んでチケット買ってもらうのが一番良いって!」

 

 程なくして落ち着き俺達はお姉さんの話を聞いているのだが、

 

 

「あれ、確かそういうのって許可貰わないといけないんじゃあ……?」

 

「だーいじょうぶだいじょぶ! 今日はここら辺でお祭りあるっぽくて人も多いしそんなバレないっしょ!」

 

 これがロックかぁ、便利だなぁ~。

 

 

「あっ、でもアンプとか路上ライブの機材何もないかぁ」

 

「じゃ、じゃあ残念ですが別の機会に……」

 

「ちょっとメンバーに持ってきてもらうねー!」

 

 そう言ってお姉さんはバッキバキに割れたスマホをこちらに見せて電話をかけていた。

 何というか、画面割れてるのらしい感あるな……。

 

 にしても、路上ライブか。確かにライブのチケットを売るなら宣伝にもなるし集客にも繋がる可能性は大きい。

 後藤さんだけなら絶対に無理だけど、この人がいるなら路上ライブも案外ありかもしれないな。

 

 こちらとしてもチケットを売れる手段があるなら最大限利用させてもらう。どの道今のままだと売れる可能性はゼロなんだし。

 酔っ払いであってもやはり先輩バンドマン。やり方はちゃんと分かっているらしい。

 

 

「じゃあちょっと近くまで機材取ってくるわー! すぐ戻ってくるから君達はここで軽く準備しててね~!」

 

「分かりました。後藤さん、俺はコンビニでペンと紙買ってくるから機材の用意しとくんだぞ」

 

「えっいやっあっ」

 

 後藤さんの返事を待たずにコンビニへダッシュで向かう。

 多少強引じゃないとやろうとしないからな後藤さんは。このくらいがちょうどいい。

 

 

 

 

 コンビニから戻って即席の宣伝用の貼り紙を作り、お姉さんはキャリーケースの中からアンプや機材諸々を出して手際よく準備を進めて宣伝までしてくれている。

 そして本来一番動かないといけない後藤さんは、

 

 

「わ、わぁ~楽しみだな~……」

 

「おうコラさっさと戻ってこいピンク娘」

 

 観客に紛ればバレないといつから錯覚していた? 

 むしろ真夏にジャージフル装備の時点で目立ってしかないからね。俺から逃げられると思わないように。

 

 酔っ払いお姉さんのおかげで何人かはもうライブが始まるのを待ってくれている。

 早めに準備終わらせないと。

 

 

「え? 外でギター弾いた事ない?」

 

「は、はい……どうしても、その……」

 

 ふと、そんな会話が聞こえた。

 

 

「そんなに怖いなら目瞑って弾くとか? なーんて、人見知りなんだよね~分かるよぉ」

 

「確かいつも暗い押入れで弾いてるからそれでも弾けるよな?」

 

「あっうん、それなら何とか……」

 

 それが結構凄い事をこの子は自覚してるんだろうか。毎日六時間ギターの練習してるだけの事はある。

 しかし、そこでお姉さんの声が割って入ってきた。

 

 

「でも一応言っとくけど」

 

 何だか、雰囲気がさっきまでとは違ったように見える。

 

 

「今目の前にいる人達は君の闘う相手じゃないからね」

 

 へらへらと笑っていた顔ではなかった。

 まるで本質を見抜くように、だ。ベースの音を確認しながら彼女は言った。

 

 

「敵を見誤るなよ」

 

「え……?」

 

 不覚にもだった。俺はこの酔っ払いの女性に対してこう思っていた。

 か、かっけええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!! 

 

 何今の、普段おちゃらけたキャラがふとした時に見せるイケメンシーンみたいなの何なの!? 

 糸目の奴が開眼した時みたいな興奮なんだけど。一気にギャップ見せてくんなよ酔っ払いでしょうがあなたは! 突然すぎてちょっとときめいちゃったじゃん! 

 

 

「ゆ、ゆうくん……て、敵ってどういう事、なんだろ……?」

 

 ちょっとテンション上がってたら後藤さんに聞かれた。

 まだちゃんと意味を理解できてないのか。俺には何となく分かったけど。何と言うべきか、直接言っても意味がないよな。

 

 

「うーん、目を瞑るのも下ばっか見るのも悪くないけど、たまには前を見るか耳を傾けるのもいいんじゃないか?」

 

「えっそれって、どういう……?」

 

「まだ客を見るのが怖いってのは分かる。そう簡単に克服できるものじゃないって事も理解してる。だからもし目を開けようと思えたらでいい。俺を見ろ。他が怖くても俺なら大丈夫だろ?」

 

「……う、うん」

 

 彼女は軽く縦に頷いた。

 

 

「よし、ならそれでいい。俺も観客側で見てるから、好きにやってみな」

 

 それだけ言って俺は階段を下りる。

 演奏者と観客との境界線だ。

 

 最終チェックも終わったのか、酔っ払いの人が手を挙げた。

 

 

「それじゃ始めますねー! 曲はこの子のバンド、結束バンドのオリジナル曲でーす!! ほら、弾くよ」

 

 大きな声を上げる事で立ち止まってる人達以外にも注目を集める手法。

 あの人路上ライブも慣れてるのか? 

 

 数秒間の沈黙。

 そして。

 

 二人だけの演奏が始まった。

 

 

「マジかよ……」

 

 始まった直後、後藤さんが目を瞑って演奏している事にはすぐ気付いた。それはまだいい。想定通りだし演奏に支障は出ていない。

 ただ俺が最初に驚いたのは、ベースのお姉さんの方だった。

 

『あのバンド』。結束バンドの新曲であり、まだステージで披露すらしていないまさしく俺達しか知らない曲。

 なのにあの人、何の迷いもなく弾いてないか……? 即興だぞあれ。何であんな自信に満ちたままできるんだよ。アドリブであそこまで弾けるものなのか? 

 

 まったく違和感を感じない。むしろ後藤さんのペースに合わせて演奏を支えてるんだ。

 最近バンドや楽器について勉強したり店長やPAさんに教えてもらってるから余計分かる。あの人、おそらく只者じゃない。凄い人なんだ。

 

 ただの酔っ払いだと思っていた女性は、想像を遥かに超えた実力者だった。

 ……だが、俺は知っている。実力者があの人だけじゃないという事を。

 

 開けろ。目を開けるんだ。今お前を見てる人達は敵なんかじゃない。本当の敵が誰かなんてお前自身が一番分かってるはずだろ。

 そんな時だった。

 

 

「がんばれ~!」

 

 近くで後藤さんを応援する声があった。

 見ると祭りに来ているのか、浴衣を着ている女性組の一人だった。

 

 

「ちょっとあんた、何言ってんの?」

 

「なんかギターの人、不安そうだったからつい……」

 

 それを聞いて俯いていた後藤さんの顔がハッと上がる。多分、俺だけじゃどうしようもなかったかもしれない。

 結局は後藤さんの意思任せで彼女が目を開けるきっかけにはなれなかったかもしれない。

 

 だけど、きっかけはここに広がっていた。

 そうだよ、今ここにいる人達は後藤さんの演奏が聴きたくて立ち止まってくれてる人達なんだ。敵なんか初めからいない。むしろその逆、後藤さんを応援してくれている人しかいないんだ。自分自身に勝て、壁をぶち破る時は今だぞ。

 

 そして、そして、そして。

 彼女の目が開いた。

 

 俺でも分かるくらい演奏の安定度が増す。同時に周囲の視線が一気に後藤さんへ集中した。

 彼女は目を開いても基本的には下を向いて演奏している。手元に集中する事でギターに没頭するためだ。

 

 だがここで俺は気付いた。

 

 

「……ん?」

 

 演奏は安定している。お姉さんがペースを合わせてくれているから違和感も感じない。

 だけどなぁーんかおかしい。俯きがちで他の客は気付いていないが、俺には分かった。

 

 あのピンク……片目しか開けてねえ……。

 普段から後藤さんの目を見てるから気付けた。恐ろしく分かりにくい開眼、俺でなきゃ見逃しちゃうね。けどまあ、自分から殻を破った事は素直に評価してやるか。

 

 ギターとベースの余韻を残したまま演奏が終わる。

 途端に観客の拍手が連なっていった。人数にして約十一人。後藤さんの演奏のために立ち止まってくれた人達全員の称賛が満遍なく拍手として彼女に送られた。

 

 

「ひとりちゃん、良かったよー!」

 

「は、はい……。あっ、ゆ、ゆうくん……」

 

「ん。まあ、よく頑張ったな」

 

 片目しか開けてない事は黙っておいてあげよう。

 そう簡単に変われたら苦労していないものな。人前で演奏できただけ上出来だ。

 

 

「あの~」

 

「は、はい……!?」

 

 振り向いたら後藤さんの演奏を見てた浴衣の女性二人組だった。

 手には俺が書いた宣伝用の貼り紙を持っている。いつの間にかセロハンテープ剝がれてたか……。

 

 

「すいません。わざわざ拾っていただいて。ほら後藤さん、ライブ見てくれたんだからお礼言わねえと」

 

「あッ……あ、あり、ありゃり……あ、ありがとうございました……!」

 

「あ、いえいえ。このライブのチケット、買ってもいいですか?」

 

「二枚くださいっ」

 

 え……ま、マジか……マジでか!! 

 

 

「おい後藤さん、売れた……。チケット売れたぞ!? あっはははっ! 売れたんだよっ、後藤さん自身の力で! すげえじゃん!! やったなぁってうおっ」

 

 後ろに倒れそうになった後藤さんの体を慌てて支える。

 危ねえ、もう少しで後頭部強打してたぞ。いやこんなんで死ぬとは思えないけど。

 

 

「あー顔がルーレットになってる。ダメだこりゃ。えっと、代理ですいません。一枚1500円なんで、3000円でお願いします。ほら後藤さん、自分の手でチケット渡さねえと意味ないぞ」

 

「……ハッ! あっ、ああああの、ほ、本当にいいんですかっ。買っていただいて……」

 

「こら、買ってくれるのに失礼でしょうが」

 

「だ、だってぇ……」

 

 いや気持ちは分からんでもないが。

 

 

「初めて路上ライブ見たけど凄く良かったですっ」

 

「今度のライブも頑張ってくださいね!」

 

「……はい、頑張りますっ」

 

 今日、初めて後藤さん自身の力でチケットが売れた。

 ……良い顔してんじゃん。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 あの後、自転車のお巡りさんが通りがかって軽く注意されたが補導される事もなく片付けを始めた。

 補導されると思ってビビり散らかして顔のパーツ落とした後藤さんを直すのに苦労したが一応何とかなった。

 

 

「そういやチケットあと一枚残ってるんだよな」

 

「あっうっ、うん……」

 

「もう辺りは暗いしなぁ。しゃあない、二枚売れただけでも大したもんだ。最後の一枚は俺が」

 

「最後の一枚、私が買ってもいいかな」

 

「え?」

 

 何……だと……!? 

 

 

「チケット、それでノルマ達成でしょ?」

 

「い、いいんですか……!?」

 

「俺達としてはありがたい事ですけど……」

 

「もちろんっ。私、普段新宿拠点にしてるから近いし、このライブハウス知ってるしね!」

 

「後藤さん、ほら」

 

 後藤さんの背中を押す。

 こんな事ってあるんだなあ。

 

 

「あっ、ありがとうございます……」

 

「うんっ、鬼ころ五本分以上のライブ、期待してるよ!」

 

「は、はいっ」

 

 これで正真正銘、後藤さんはチケットノルマ五枚を売る事に成功した。

 しかも自分の力でだ。正直、全部売れるとは思ってなかった分俺も驚いている。彼女の力が認められたようで、俺が為した訳でもないのに自分の事のように嬉しい気持ちがあった。

 

 駅前までお姉さんを見送る事になった俺達は駅近くまでやってきた。

 

 

「そういえば聞いてませんでしたけど、お姉さんの名前って何ですか?」

 

「あれ、言ってなかったっけ? 廣井きくり、それが私の名前だよー!」

 

「きくり姐さん、今日はありがとうございましたーッ!」

 

「え? 何々どした急に~?」

 

「最初はこの酔っ払いがこの野郎って思ってたんですけど、あなたのベースを聴いたりチケット買ってくれたりで……後半のきくり姐さんの行動にはずっと助けられっぱなしでした! あと個人的にかっけえと思ったんで!!」

 

「えぇ? そんな~そうかなぁ? ありがとね~でへへ~!」

 

 いやだって酔っ払いなのを除けばこの人めっちゃ良い人だもん。

 きくり姐さん半端ないって。今日知り合っただけの後藤さんのためにわざわざ路上ライブ開いてくれてチケットまで買ってくれるもん。そんなんできひんやん普通。言ってやもう! 

 

 

「じゃあ私の好感度が高い内に帰ろっかな~。ひとりちゃんもまた一緒にライブしようねえ。ばいばーい!」

 

「またっす!」

 

 後藤さんも頭を下げ一礼する。

 何だかんだ今日はきくり姐さんに助けられた一日だった。あの人がいなかったら今頃俺達はまだチケットを売れずに項垂れていたかもしれない。

 

 

「すげえ人だったな、きくり姐さん」

 

「ゆ、ゆうくん、お姉さんの評価がひっくり返ったね……」

 

「まあな。あの人のおかげでチケット捌けたし、何よりふとした時の言動のギャップが良か」

 

「しみずくぅ~ん!」

 

 歩き出そうかとしたところで、話の渦中にいた人がこちらに戻って来ていた。

 はやっ。

 

 

「え、どうしたんですか? 何か忘れ物でも」

 

「チケット買ったらお金無くなっちゃった~! 電車賃貸してぇ! ライブ行った時返すから~!」

 

「……」

 

 

 

 

「ゆ、ゆうくん……私が出しても良かったのに……」

 

「後藤さんが出す必要なんかねえよ。電車賃くらいなら尚更な」

 

 慌てて去っていく女性を見送りながら言う。

 

 

「やっぱ酔っ払いは総じてクズだな」

 

 気持ちを切り替える。空はもう真っ暗だ。

 そろそろ帰るかと思ってたら、パァンッ! と音がした。

 

 

「お、花火か」

 

 今日はみんなこれを見にここまで足を運んでるんだもんな。

 そりゃ人も多い訳だ。……後藤さんも今日は頑張った。路上ライブを成功させてチケットも売り捌いて、結果で言えば最高だと言えよう。

 

 ならば、何かご褒美くらいはあったっていいはずだ。

 少し考える。過去に比べると成長してるんだし、今なら何とかなるか? 

 

 

「後藤さん」

 

「?」

 

「今ならみんな花火見に行ってるだろうし、人が少ない事を祈りながら祭りの出店でも行ってみるか?」

 

「っ」

 

 その反応が良いのか悪いのか判断する前に、彼女から返事はすぐだった。

 

 

「う、うんっ……!」

 

 ま、そう言えるくらいには成長したって事か。

 

 

「じゃあ、美智代さん達にロインしときな。晩飯食って帰るって」

 

「わ、分かった」

 

「俺も母さんに言っとくかあ」

 

 と、いつも通りスマホを出してロインを開く。

 そう、俺は忘れていたのだ。路上ライブ成功とチケットが売れた事による気分の高揚で記憶から抜け落ちていたのだ。

 

 画面を見た俺は思わずスマホを落としそうになった。

 トーク欄。その上と下には奴らの名前があった。

 

 虹夏、喜多と。

 その件数およそ80。

 

 ただしメッセージは変わっていて、だけど二人共似たようなものだった。

 

 

『優人くん明日会うの楽しみにしてるねー!』

 

『清水君明日会えるの楽しみにしてるわね~!』

 

 口の端から血が垂れてきた。

 もう笑うしかない。女子のロインを無視したらどうなるか、俺は明日思い知らされるだろう。ハッピーエンドで終われると思ってたのになー! 

 

 

「後藤さん」

 

「な、なに?」

 

「最後の晩餐ってこんな感じなのかな……」

 

「え、えぇ……?」

 

 

 

 わりぃ、おれ死んだ。

 

 

 





所詮、クズはクズなのだ……。
けどあのギャップがたまらんとこある。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:ユキト❄️️さん、ジャガジャガさん

☆9:天神小さん、ひややっこ軍曹さん、煎茶555さん

本当にありがとうございます!
評価数500とお気に入り3000いったぁぁぁー!!こんなハイペースで小説伸びたの初めてかもしれない…。これも皆さんのおかげです。次は何を目標にしようかなあ。
感想とかここすきとかもっとくれよな!その分頑張るから!



予告画像の喜多ちゃんがぼっちちゃんに首輪とリード付けて写真撮ってるように幻視した同士おる?
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