再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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サトシピカチュウ引退で放心状態になり執筆が遅れた。
申し訳ない。





31.夢は終わらない

 

 

 

 

 ライブ終了後、閉店作業時。

 

 

『今日はすいませんでした』

 

『一応呼ばれた理由は分かってるみたいだな』

 

 スタッフを含めたみんなが片付けている中、俺は店長に呼ばれて受付に移動していた。

 イスに座った店長の前に立ち頭を深く下げる。

 

 

『俺がしようとした事はあまりにも軽率な行いです。店長に止められてなければ全部台無しにしてしまってた。今日ここにいる全員に迷惑をかけてしまうとこでした……』

 

 一時の感情に身を任せて行動する事がどれだけ危険を伴うかよく理解した。

 あそこで変に反論しに行こうものならライブ自体中止になってた恐れもあるのだ。全てのバンドがオーデションに合格してようやくライブできるのに、俺の身勝手な行動でその機会を潰すとこだった。絶対にあってはならない事だ。

 

 

『そこまで分かってんならいいよ。とりあえず頭上げろ。高一にんな深々頭下げられちゃこっちの気分が悪ぃわ』

 

『でも』

 

『いいから。バイトなら大人しく店長の言う事聞け』

 

 言われて渋々顔を上げる。思ったよりも店長はいつもと変わらない表情をしていた。

 そのまま受付業務の整理をしながら、

 

 

『ぼっちちゃんから色々聞いたけどお前、昔はずっと家で家事やってたんだってな』

 

『? ええ、はい……』

 

 店長と二人で話せたのか後藤さん。大きな進歩だな。俺の個人情報漏らしまくってるけど。いや言われて困るような事はないけどさ。

 というか家事やってたってだけで今の話に関係あるのか? 

 

 

『友達とも校内以外では一切遊ばず基本ずっと家にいたと』

 

『そうですけど……』

 

『叱る事はあるけど誰にでも優しくてキレる事は滅多にない、と』

 

『いや、一応そう心がけてはいますけど、後者に関してはここ最近少し守れてないかも……です』

 

 そんな事まで教えてたのか後藤さんと思いながらも訂正を入れる。

 不甲斐ない所を見せてしまったばかりだからここは否定しておかないといけない。けどいったい何が聞きたいんだろう店長。

 

 てっきりめちゃくちゃ怒られるの覚悟してたのに、何やら少し考え事をしている素振りだ。

 話の理解がまったく進まない。二人きりになった意味は何なんだ? 

 

 そう思っていた矢先。

 

 

『あくまで私の考えだけど』

 

『? はい』

 

『お前の欠点はそこかもしれないな』

 

『……え?』

 

 そこ……って、どこだ? 

 

 

『普通小学生なんてよっぽどの事がない限りは放課後誰かと遊ぶもんだろ。習い事も然りだ。そこでお互いもっと親交深めたり距離感を計るもんなんだよ。こいつの場合はこのくらいの距離感がちょうど良いとか、あいつの場合はお互い気ぃ遣わずに話せるなとか、知らねえうちにそういうのを覚えるんだ』

 

『はあ……』

 

『特別仲が良いとかそういうのもいなかったんだろ?』

 

『そう、ですね』

 

 精々休み時間に遊んでた程度の友人ばかりだったと思う。

 まあ放課後遊べないのに休み時間一緒に遊んでくれていただけマシだったかもしれないが。気心許せるような友達や気を遣わず好き勝手言える友人がいなかったのは事実だ。

 

 

『そういうとこがお前の場合弱点になってる』

 

『えっと、それってどういう……』

 

『これまで仲の良い友達を作ってこなかったのに、今になってお前にはあいつらのような親身になれるヤツができた。学校でも外でも常に一緒にいる仲間を。しかもぼっちちゃんもあんなに頑張ってるのを間近で見てんだ』

 

 あくまで作業を続けながら、だ。

 店長は俺を見た。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ッ』

 

 芯の中心に何かが刺さるような感覚がした。

 

 

『誰かと深い繋がりを持ってこなかったお前が今繋がりを持つ事で、ただでさえ無駄に正義感が強く生真面目なお前があいつらをバカにされたら、そりゃあもうこの上なくムカつくに決まってる。なまじ精神が他のヤツらより大人びてるのもあるから余計許せなかったんだろうさ』

 

『……』

 

 言われてみて納得する。結束バンドの四人は、おそらく俺の人生の中でも一番濃い時間を過ごしている人達だ。

 休み時間に遊んでいた友人達を蔑ろにする訳じゃないが、それしか記憶になかった俺にはもう、今の彼女達と一緒に過ごすこの時間がとても大事なものになっている。

 

 それほどまでに、俺は結束バンドの事を気付かないうちに大きな存在として認識していたのかもしれない。

 バカな真似をしてしまうほどに。

 

 

『あいつらが大事だからムカつく事くらいは私だって否定しねーよ。実際こっちも妹がバカにされたようなもんなんだ。何も思わない訳じゃねえ』

 

『……はい』

 

()()()()()()()()()()()()()()()。私は店長で、お前はバイト。このライブハウスで働いてる以上、そこにゃあ多少なりとも責任ってのが出てくる。まずはそれを再認識しろ』

 

『はい』

 

 自分の妹に変な事を言われても店長は表に出さないで迷わず俺を止めてきた。対して俺は口頭注意と称してバカみたいに反論しに行こうとしてしまった。

 意識の違いと精神力の強さ。俺にはそのどちらも足りていなかったんだ。

 

 

『普段がまともなだけに、あいつらの事になると変にアクセル掛かっちまうのがお前の弱さであり悪い癖だ。必要以上に入れ込み過ぎると視野が狭くなるのもどうにかしねえと。簡単に言っちまえば心の問題だな』

 

 ひとまず受付での作業を終えたのか、書類を適当に整え棚に置いた店長は、

 

 

『で、それ自体は簡単に解決できる』

 

『え?』

 

 まさかの言葉があった。

 作業を終えた事で少し体を伸ばしながら壁に背中を預けた店長が言う。

 

 

『いちいち自分で考えろとかめんどくせー事は言わんぞ私は。こういうのは手っ取り早く言ってやった方がサッと解決できるし相手も変に悩む時間が減って済むからな』

 

 さすがにそこまでぶっちゃけるのはどうなんだとツッコミたい心を押さえる。

 既に俺の試練は始まっているのかもしれない。

 

 

『要はお前があいつらの事を全面的に信じてやりゃいいんだよ』

 

『…………ん?』

 

 ちょっと理解するのに時間がかかってしまった。

 結束バンドの事を信じる? 

 

 

『いや、でも店長、それに関しちゃ俺はあの人達を信じてますけど……』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

『…………………………………………………………………………』

 

 何も、言えなかった。

 ただ、そうだとしか思えなかった。

 

 

『本当に結束バンドを信じてんならドーンと構えてりゃいいんだよ。言いたいヤツには言わせとけ。どうせどんなに良いライブをしても毒吐いてくるヤツはこの先絶対出てくるぞ。千人中千人が満足する曲もライブもねえんだ。見えないどこかで歌詞が気に食わんとかセトリ微妙だったとか匿名なのを良い事に好き勝手すんだよ。んなのにいちいち噛みつく訳にもいかねえだろ』

 

 ごもっともとしか言いようがない。

 

 

『全部が全部称賛されるなんてあり得ないと思え。賛否両論がちょうど良いと思っときゃメンタルは然う然うやられねえ。まあこれに関してはお前よりもあいつらの問題だけどな』

 

 とりあえず、と彼女は俺に指を差してきた。

 

 

『あいつらなら大丈夫。何か言われても実力で黙らせればいい。凄さを知ってるのは自分だけでいい。良さを分からないヤツは可哀想だ。バカだ。カスだ。ピ──野郎だってな。とにかく何でもいい。他のヤツらがどうであれ、あいつらなら音楽で魅せられるとか何も心配いらないってちゃんと思えてたら、例え何言われてても気にならねえよ』

 

 さっきのライブを思い出してみる。

 結束バンドの事を言われても店長は動じていなかった。いいや、ムカついてはいるんだろうけど表に出さずただじっとライブを観ていた。

 

 まさに、そう思っていたからなんじゃないのかと思う。腹は立っても結束バンドなら大丈夫だと信じていたんだ。

 ただ後半の発言はどうかと思うが。放送禁止用語はやめていただきたい。

 

 実際、結束バンドは後半盛り返している。後藤さんをきっかけにみんなも観客も巻き込んでライブを楽しんでいたのは事実だ。

 そういう意味では、俺は彼女達を心の底から信じ切れていなかったのかもしれない。

 

 

『ま、常にあいつらの良し悪しを見てるからこそ不安になっちまう事もあるだろうさ。けどな、それも全部含めて信じてやるのがお前の役目であり、あいつらを支えてやるって事なんじゃないの?』

 

『そう、ですね』

 

 自分の心の弱さを認める。でもってそれを改善しつつ、彼女達を信じ抜く。

 そうすればきっと、もうあんなヘマはしない。結束バンドだけじゃなく、俺も成長していかないと何の意味もないから。

 

 軽く頬杖を付き俺の方を見ていた店長が言う。

 

 

『結束バンドを支えたいならまずお前自身が成長しろ。あいつらの事を本気で思ってるならな』

 

『……はい』

 

 まるで俺の心を見透かしているように的確な事を言ってくる。

 この人は俺達の事をよく見てくれている。故にこういった事も遠慮なく言ってくれるんだろう。それがとてもありがたいと思うと同時に、もうこんな迷惑はかけないようにしようと強く思った。

 

 

『まあ、私は私でむしろ安心したけどな』

 

『? 何をですか?』

 

『お前も感情的になってあんな事すんのかって事。無駄に精神が大人びててどうなんだって思ってたからな。良いじゃねえか。感情的にカッとなって行動できんのは子供の内だけだからな。お前にも子供らしい一面があったって事だ』

 

『それは褒められていいんですかね……』

 

『少なくとも私がお前の立場だったら迷わず殴りに行ってたぞ』

 

 いや一番ダメだろそれ。

 

 

『昔は殴り合いなんて普通だったからな。お前の年頃の時もバンド仲間とよく揉めて殴り合ってたもんだ』

 

『……めっちゃロックしてますね。というか店長、バンドやってたんですか?』

 

『……あー、まあな。飽きたから辞めたけど』

 

『飽きたって……何で?』

 

『別にいいだろ。……方向性の違いとかそんなんだよ』

 

 おー、バンドでよく聞く話のやつだ。

 本当にそんな事あるんだな。最後少し含みのある感じだったのが気になるけど。じゃあどうしてライブハウスの店長やってるんだろうと聞くのは野暮か。

 

 

『とにかくだ。優人、理由は何だっていい。あいつらのためになる事を一番に考えろ。そうすりゃお前はもう絶対に間違えねえよ』

 

『……はい!』

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「へ~、そんな話してたんだ」

 

「ええ」

 

 街灯と店の中から漏れる明かりだけが俺達を微かに照らす。

 店長との事を話すと、虹夏さんは「そっか」とだけ小さく呟いた。

 

 

「ありがとね。あたし達のために怒ろうとしてくれて」

 

「そんな事言われるような筋合い、俺にはないですよ。結果的に店長が止めてくれたから何とかなったけど、俺は虹夏さん達のライブを壊すとこだったんだから」

 

「うん、だから次そんな事しようとしたらめちゃくちゃ怒るよ! あんな事言われたってライブに最初からいてくれるだけありがたいんだからね!」

 

「……き、肝に銘じておきます」

 

 そりゃそうだ。自分のライブを台無しにされるとこだったんだから怒るのは当然。

 俺に何か言う資格はどこにもない。あと普通に虹夏さんに怒られるのが怖い。

 

 

「……でもそっか。優人くん、そんなにあたし達の事大切に想ってくれてたんだね」

 

 プンプンしていた表情を治め、虹夏さんは空を見上げた。

 店長にあれだけ言われたのだからもう言う事はないという、彼女なりの気遣いだろうか。

 

 

「当然ですよ。今の結束バンドは俺にとって掛け替えのない存在です。本当に、気付いたら俺自身みんなに惹かれてたんですよね。頑張っている姿や楽しそうにしているのを見てると、全力で応援したくなってくる。それに虹夏さん達は後藤さんをバンドに入れてくれた恩人でもありますしね。本当に感謝しかないですよ」

 

「ぼっちちゃんに関してはあたしから頼み込んだんだけどね~」

 

「それでもですよ。俺達にとっては充分奇跡だった」

 

 あの出会いがなかったら、きっと俺も後藤さんもいまだに家で変な作戦会議ばかりしていただろう。

 後藤さんの世界を変えてくれたのは、間違いなくこの人だ。

 

 

「嬉しい事言ってくれるねぇ」

 

「本音なんで」

 

「真っ直ぐだね~。あ、そういやさ、悩み相談とか言ったけど結局お姉ちゃんにほとんど解決されたんなら、何に悩んでたの?」

 

 ああ、その事か。

 

 

「悩みというか、これから結束バンドのために俺がどう動こうかなって思ってたんです。信じるってのは俺の心の問題じゃないですか。でもそれだけじゃなくて行動でも表していきたいなって、そうすれば俺ももっと成長できるんじゃないかって思ってただけです。まあ俺が勝手にそうしたいだけなんですけどね」

 

「……何だか優人くんらしいね」

 

「そうですか?」

 

「そうだよ~。お姉ちゃんが生真面目って言う理由が分かるもん。……でも、あたし達の事を思ってそうしようとしてくれてるんだもんね」

 

 基本的に俺は俺のために動いている。自分の見たい景色のために。誠に勝手な理由だ。

 ただそれが結果的に結束バンドのためになるならそれでいいし、それがいい。みんなの笑顔を見られればそれだけでいいのだ。

 

 

「だったらさ」

 

 虹夏さんが俺の方に向く。

 髪色も相まってか、街灯から照らされる彼女はいつもより輝いているように見えた。

 

 

「あたし達と一緒に成長していこうよ」

 

 彼女の手が、こちらに差し伸べられた。

 

 

「優人くんの弱いとこも、あたし達の弱いとこも全部支え合ってさ。みんなで一緒に強くなっちゃえばいいんだよ! そうしたらあたし達はもっと大きくなれる。凄いバンドになれる確信も見付けたし、みんながいれば怖くなんかないよ。ねっ!」

 

 思わず笑みが零れてしまった。

 ただでさえ眩しい虹夏さんの照らされた笑顔には、あまりにも心惹かれるものがあったからだ。

 

 差し出された手に自分の手を乗せる。

 まるでエスコートされる紳士と淑女のようだ。性別的に立場が逆なのがあれだけど。

 

 

「はい。俺で良ければ、そうさせてください」

 

「相変わらずこういうとこはお堅いね~優人くんは」

 

「今の俺にそういうチクチク言葉は禁句ですよ。へこむんで」

 

「あははっ、ごめんごめん!」

 

 何だかおかしくなり二人で軽く笑い合う。

 ああ、こういうのもまた青春って感じがして良いな。小学校中学校では味わえなかった感覚を今取り戻しているような感じだ。

 

 

 そんな話をしていると、また店の引き戸が開いた。

 

 

「あれ、ぼっちちゃんだ」

 

「どうした、後藤さんも涼みに来たのか?」

 

 見慣れたピンクの子がやってきた。

 

 

「あっえと、二人共遅かったのでちょっと気になって……ああいやすっ、涼みに来ました……」

 

 訂正おっそいな。

 そそくさと俺の隣までやってきて勝手にふぅと落ち着いている後藤さん。相変わらず俺の隣か後ろが棲み処になっているらしい。

 

 

「ぼっちちゃんも来たなら、ついでに話しちゃおっかな。優人くんもいるし大丈夫だよね」

 

「? えっと、虹夏さん? どうかしたんで」

 

「あのねっ」

 

 俺の言葉を遮るように、虹夏さんはそのまま紡いだ。

 

 

「今日の演奏見て気付いたんだけど、ぼっちちゃんがギターヒーロー……なんでしょ?」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………。

 たっぷり数秒間の沈黙が続いた。俺も、後藤さんも。な、なななななななななな……何ですとぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!? 

 

 

「あっあの、ち、ちが、ちがちがちちちち、ちがっ!」

 

「ば、バカ野郎おおおおおお落ち着けってっ……。ま、まままずはそこら辺でタイムマシンを探してだなっ!」

 

「二人共慌てすぎだって。そんなんじゃ認めてるようなもんだよ。それに、あのキレのあるストロークを聴いたら分かったよ~。よく見たらギターも部屋の背景も一緒だったしね」

 

「「カッ……!?」」

 

 二人して動きが止まる。そういや虹夏さん後藤さんの部屋来てたじゃん。ちくしょう、俺とまったく同じバレ方しちまってるじゃねえか。

 今思えば虹夏さんギターヒーローのファンでチャンネルも登録してるって言ってたもんなあ。そりゃバレるか……。

 

 もはや逃げ場はない。

 俺も秘密にするの協力するって約束したのにさっそくバレたんですが、どうしよう。もう無理じゃん。そうなってしまったからには、もう言うしかないだろう。

 

 

「後藤さん、これ以上は無理だ。虹夏さんには正直に話そう」

 

「……うん。あっあの、そう、です。……で、でもわざと隠してたんじゃなくて……今の私なんて、まだ全然ヒーローなんかじゃないし、この性格を直してから話したかったんです……。と、特に、虹夏ちゃんには……。や、やっぱり私なんかがギターヒーローだって知って……しょ、ショックでしたか……」

 

 これは前に俺も聞いたから分かる。

 ただ、元々ファンの虹夏さんが聞いたらどう思うかまでは、分からない。

 

 

「虹夏さん、後藤さんの言ってる事は本当です。もっとギターヒーローとしての力が出せるようになったら自分で言いたいって彼女は言ってて、みんなに失望されたくなかったからなんです。それだけは分かってやってください」

 

「優人くん」

 

「……はい?」

 

「あたしの事も、ちゃんと信じてくれてるんだよね?」

 

「そ、それはもちろん」

 

「だったらあたしがそれを知ったところでショックなんか受けないって、そう思ってくれないとあたしそっちにショック受けちゃうかもな~?」

 

 絶句だった。

 俺はまたヘマをやらかすとこだったのか……? 

 

 

「あ、いや……すいませんっ。そういう訳じゃ……」

 

「あははっ、ごめんねぇ。ちょっと意地悪だったかも。大丈夫、むしろあたしはぼっちちゃんがギターヒーローで良かったと思ったよ」

 

「「え?」」

 

 虹夏さんの言葉に二人で顔を見合わせる。

 

 

「あのさっ、あたし本当の夢があるって前に言ったよね?」

 

「あっはい」

 

「あたし小さい頃に母親が亡くなって、父親はいつも家にいないしお姉ちゃんだけが家族だったんだ」

 

 初耳だった。そりゃそうだ。

 普通言えるような事じゃないんだから。

 

 

「あの頃のお姉ちゃんはバンドばかりにかまけてて相手してくれなくてね、そのせいであたしはバンド嫌いだったんだけど、母親が亡くなってから寂しがるあたしをライブハウスに連れてってくれるようになったの。あの頃のあたしには全部がキラキラして見えて、凄く幸せな空間で……そんなあたしを見てたから、お姉ちゃんはバンドを辞めてライブハウスを始めたんだ」

 

 そんな事、店長は一言も言ってなかった。

 飽きたから、方向性が違うからと言ってたのに、真相はまったく違っていた。

 

 

「スターリーはね、お姉ちゃんがあたしのために作ってくれた場所なんだよ。お姉ちゃんは絶対そんな事言わないけどね」

 

 たった一人の妹のために、大好きなバンドを辞めてライブハウスを作る事にした。

 妹の大切な場所となるように、自分の夢を犠牲にしてでも居場所を作ろうと奮起した姉がいた。

 

 ああ、何て世界一妹思いの姉なんだろう。何て優しくて切ない話なんだろう。

 あのライブハウスにそんな想いが込められていたなんて知らなかった。虹夏さんにとってスターリーは本当に大切な居場所なんだ。

 

 

「だからあたしの本当の夢はね……お姉ちゃんの分まで人気のあるバンドになる事。スターリーをもっと有名にする事!」

 

 オーディション前、自販機で話していた本当の夢はこれだった。

 武道館でライブとかでもなく、むしろそれに比べると小さな夢かもしれない。だけど、それを立派に掲げる彼女が、俺にはとても大きく見えた。

 

 

「でもバンド始めてみたら、あたしの夢なんて無謀なんじゃないかって思う時もあって、今日だってみんな自信なくしちゃったし……。でも、とんでもなくやばい状況をいつも壊してくれたのが、ぼっちちゃんだったよねっ」

 

 それを聞いてハッとした。

 公園で俺達を見付けた時を思い出す。あの時だってもうライブの日で、当日になって欠員になったギターの代役を見付けるために虹夏さんは必死に走っていたんだろう。

 

 ギターの代役なんて見付ける可能性自体低いものに懸けるしかなくて、不安の中を奔走していたはずだ。そんな中後藤さんを見付けた。

 オーディションの時も、今日のライブも後藤さんはみんなを引っ張る形で演奏しライブを成功させてみせた。

 

 そうだ、紛れもなく後藤さんは。

 

 

「今日のぼっちちゃん、あたしには本当にヒーローに見えたよ!」

 

 本当のギターヒーローとしてみんなを救っていた。

 

 

「リョウは今度こそこのバンドで自分達の音楽をやる事。喜多ちゃんはみんなで何かをする事に憧れてる。みんなバンドに大事な想いを託してるんだ。優人くんはどうかな?」

 

「……俺はバンドメンバーじゃないですからね。夢はこれからゆっくり探していきますよ」

 

「そっか。そういやぼっちちゃんが今何のためにバンドしてるか結局聞いてなかったよね?」

 

「わっ私は……」

 

 虹夏さんに問われ、後藤さんは少し考えてから顔を上げた。

 しっかりと、虹夏さんを見つめてだ。

 

 

「ギタリストとして、みんなの大切な結束バンドを最高のバンドにしたいです……!」

 

 自然と俺の口角が上がっていた。

 

 

「……あっ、それで全員で人気バンドになって、売れて学校中退したい……」

 

 そして口角が下がった。

 

 

「いやその場合後藤さんのために一緒に受験した俺どうすりゃいいんだよ。いや一緒に中退すればいいか?」

 

「あはは、二人共何か重いな~! でも託された!」

 

 託されていいんですかそれ。

 割とやばい夢ですけど。

 

 ふと、虹夏さんが店の前まで移動した。

 店の明かりが虹夏さんを照らす。

 

 

「あたし確信したんだ! ぼっちちゃんがいれば夢を叶えられるって」

 

「え……?」

 

「だからこれからもたくさん見せてね!」

 

 満面の、百点満点の笑顔で虹夏さんは言った。

 

 

「ぼっちちゃんのロック……ぼっちざろっくを!」

 

「…………はい!」

 

 今日一番の、後藤さんの笑顔があった。

 ぼっちざろっくか。何か良いな、それ。凄え気に入ったかもしれない。

 

 不思議と俺まで笑っていた。

 この人達と一緒に成長していけるなら、どこまでだって着いていこう。

 

 

「だいぶ涼んだし、そろそろ中に戻りますか」

 

「そうだねっ」

 

「後藤さん、行くぞ」

 

「あ、うん……」

 

 三人で店内へ戻る。

 後藤さんは真っ先にトイレに向かって行った。ここに来る前に先に行ってなかったのか……。

 

 まあちょうどいいや。

 

 

「虹夏さん」

 

「ん、どしたの?」

 

 靴を脱ぎながら声をかける。

 これから言う事は虹夏さんの話を聞いてあった心境の変化だ。

 

 

「俺のやりたい事。夢とはまた違うけど、増えました」

 

「お、どんなのどんなの?」

 

 興味津々に聞いてくる彼女を目を真っ直ぐ見る。

 

 

「結束バンドを支える。それは大前提として、虹夏さんの夢も手伝いたくなっちゃいました」

 

「え?」

 

「スターリーを有名にする事とか、結束バンドを人気にするとか、微力ながら全力で支えさせてもらいます」

 

 あんな話を聞いて何も思わないという方が無理な話だ。

 少なくとも、俺にはとても響いたのだから。

 

 

「俺なんかにできる事なんて限られてますけど。ツンデレな店長のためにも、虹夏さんの夢を一緒に叶えていきましょう」

 

「っ……うんっ、ありがと!」

 

 この人には、やっぱり笑顔が似合うな。

 二人でみんなのところへ戻る。確かな絆を確認して。

 

 

 

 テーブルに戻ると、何故か喜多さんはしくしくしながら丸まって「私は喜多喜多」とか言ってるしリョウさんはそれを面白がっていた。

 この短時間で何があった?? 

 

 

 





オリ主達の成長はゆっくりと、しかし確実に。
店長割と大人してるとこもあるから動かしやすいよねって。

虹夏ちゃんのあのセリフは原作寄りにしてみたけどどうでしょう。
アニメ何回も見直して何回も涙腺崩壊しそうになった。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:かろんくろさん、アーマードウイングさん、おにおん01さん、たんぺんたさん

☆9:亀助さん、tttttttさん、ウルトラエックスさん、甘酒さん、先行者(小)さん、アオトハルカさん、マグネットさん、シーホース教のシンジャーさん、フィルマさん、Nasu@さん、コイキングさん、高村恭司さん、ヒツジん28号さん、神楽 式さん、六色ダイスさん、よしよしjさん、炎髪さん、まふさん、煎茶555さん

☆8:ちるださん

本当にありがとうございます!!
このままいけば総合評価15000も見えそうになってきて震えてる。いけるのか?まさかいけるのか……?みんな……!



予告映像メイドぼっちちゃん頑なに移さなくて草なんだ。
秘密兵器か?
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