再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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今回でテスト回終了。




42.ダメ人間が多数派だと疲労感が凄い

 

 

 

 よくよく考えれば喜多さんとは文化祭の出し物のために出掛けるというだけで、別に後藤さん達に聞かれても何も気にする必要がない事に今更気付いた。

 何で俺は咄嗟に口を塞ぎに行ったんだろう。……まあいっか、それこそ気にする必要ないな。

 

 ある程度現場も落ち着きを取り戻し、再びテスト対策をしようという流れになったのはいいが。

 問題児二人の手がかかり過ぎる事を危惧した虹夏さんが、卵焼きを食べられた恨みを晴らすかのように店長に向かって言った。

 

 

「むぅ……優人くんからの差し入れを食べたんならお姉ちゃんも勉強教えるの手伝ってよ!」

 

「はぁ? 何で私が」

 

「食・べ・た・よ・ね?」

 

「……お、おう」

 

 天使のニジカエルも実の姉には容赦がないようだ。身内への遠慮のなさがめちゃくちゃ出ている。

 おっと、こっちはこっちで進めないとな。

 

 

「喜多さんも教えてほしいんだっけ」

 

「ええ、できればお願いできる?」

 

「じゃあさっそくだけど、まずは俺は何もしないからできるだけ後藤さんの勉強見てやってくれないか? 喜多さんの場合は平均点は取れてるし、後藤さんに教える時に喜多さん自身も復習とかできて基礎から見直す事も可能だから、上手くいけば二人にとっても良い刺激になると思う」

 

「なるほど……そういう事なら分かったわ! 後藤さんっ頑張りましょうね!」

 

「あっはい……」

 

 後藤さんは嫌でも今晩から俺の餌食になるんだ。今くらいは優しい喜多さんにアメをたんまり恵んでおいてもらおう。ムチは俺の役割なので全力で叩く。

 ここは喜多さんに任せて視線を虹夏さん達の方へ向けてみると、店長とPAさんがプリントと睨めっこしていた。

 

 

「……なんだこれ。お前分かる?」

 

「私高校すぐ辞めたんで勉強できません……」

 

 マジかこの人達……。

 

 

「ちょっと! お姉ちゃんは大学いってたじゃん! 何で分かんないの!?」

 

「大学なんて選ばなければバカでも入れんだよ」

 

 大人の言葉か? これが……。

 いや、まあ店長が入れたんならそういう大学も本当にあるのか? 調べた事ないからよく分からんけど。

 

 

「君先輩に頭の出来似なくて良かったね~!」

 

「お前表出ろ」

 

 そして当然のように店に入ってきて溶け込んでるきくり姐さん。いつの間に入ってきたんだ。

 というか何でここにいるんだよ。拠点はどうした拠点は。酔ってない時あるのかこの人。

 

 

「優人くん……」

 

「何でしょう」

 

「大の大人が三人も揃って高校レベルの問題を一問も解けないの、どう思う?」

 

 目の前にはうーんうーんと呻きながら問題を解こうとするも何も出てこない三人の大人がいた。

 見てくれは良いのにアホしかいない。音楽にステータスを全振りした結果がこれなんだろうか。まるで後藤さんだな。……後藤さんはコミュ力もないんだった。

 

 

「控えめに言って無様ですね」

 

「……あたし、絶対あんな大人にはならないようにするよ」

 

 そう語る虹夏さんの目には軽い軽蔑の念があった。天使も見放す下等生物と見做されてる。完全に反面教師だ。哀れよのう。

 けどその発言は今のとこ後藤さんとリョウさんにも当てはまりそうなんですけど大丈夫ですかね。問題児を二人も抱えてる結束バンドの未来や如何に! 

 

 ひとまずは部外者をどうにかするかね。

 

 

「そもそもきくり姐さんはここで何してんですか。開店前なのに普通に入ってくるのおかしいでしょ。あと平然と酒飲んでんじゃねえ」

 

「うぇ~そう硬い事言わないでよゆうきゅ~ん! 外で飲んでると通報されるからここに来たんだよ~ん!」

 

「うぎゃあ!? だからくっついてくんな! 何でアンタはいつもこっち来るんだよ!?」

 

「何だかんだ介抱してくれるゆうきゅんのとこに私は現れるんだよぉ~!」

 

 冗談じゃねえ! そこかしこに吐かれたら処理が面倒だからいつも酔い止めとか与えてるのが逆に仇になったのか!? 

 ダメ人間は付け上がらせるとすぐ調子に乗ってかまちょしてくるから厄介なんだっ。控え目に来るだけまだ後藤さんの方がマシってどういう事!? 

 

 

「自分の拠点あるでしょアンタ! そこ行けばいくらでも介抱してくれる人とかいるんじゃねえのか!?」

 

「基本的にみんな私を放置するんだよぉ~! 構ってくれるのも一人だけだしぃ……ここなら相手してくれる人いっぱいいるからつい来ちゃうんだよね~!」

 

「絶対酔ってるから面倒だと思われてるだけじゃんそれ! 俺達は今テスト勉強で忙しいんですって! だから相手できないし今日は大人しく家に帰りましょう帰れ!」

 

「テストぉ? そんなのカンニングすればいいじゃん? 中間テストくらい大丈夫っしょ! それか教師脅して解答盗めよ!」

 

「「最悪だよこの人!!」」

 

 大人が言っていい言葉じゃねえだろ。全面的に周囲に頼れる大人がいなさすぎる……。まともな人いないじゃん。大人ってもっとしっかりしてるものじゃないの? 

 それに解答盗めってどういう事なの。怪盗だけに解答盗むってか。やかましいわ! 

 

 

「んもう、分かってないな~。社会のしきたりに縛られないのがロックでしょ? 浅学だねぇ、もっとロック史を学びたまえ」

 

「カンニングってロックなんですか?」

 

「全ての真面目なロックアーティストに謝れ」

 

 何でもかんでもロックって言っときゃ許されると思ったら大間違いだぞ。

 

 

「いやそれがロックだ。お前達はまだ浅い」

 

「ロックですねえ……」

 

「教えられないからって逃げたな……」

 

「ダメ大人三銃士だ」

 

 俺に説教してくれたあの時の店長の頼もしさはどこにいったんだ。見る影もないんだが。

 あの三人には戦力外通告をして虹夏さんと共にリョウさんのとこへ戻る事にした。

 

 すると虹夏さんがテーブルに置かれたリョウさんのテスト用紙を手に取って、

 

 

「え!? ちょっとリョウ! 英語は毎日勉強してるって言ってたじゃん! 何でこんな点数なの!?」

 

 またもや三点であった。俺としては毎日英語勉強してるという事に驚きを隠せないんですけど。

 脳みそカラカラなのに勉強できてたのか? 

 

 

「自分でも分からない。毎日八時間も勉強してたのに……」

 

 八時間って……こんなのでも頑張ってたんだな……。

 

 

「うっ……ご、ごめん、リョ」

 

「睡眠学習として寝ながら毎日洋楽聴いてたのに」

 

「「もう留年しろ」」

 

 期待を裏切る事に定評あるリョウさん。今回もぶっちぎりに最悪な形で裏切ってくれたので遠慮はない。

 ほんとよくこれで進学校に入学できたな。どんだけ虹夏さんが苦労したのか分かってしまう。俺も後藤さんで同じような経験したし。

 

 

「英語喋れる。Queen Tool Nirvana」

 

「それ海外のバンド名でしょ! 優人くんリョウはもうダメだ!」

 

「知ってます」

 

 勉強面においてもうこの人は諦めよう。俺の手にも負えん。

 進学校のテスト対策なら虹夏さんに任せるほかないですわ。

 

 

「伊地知先輩……後藤さんも結構やばいんですよ……」

 

 喜多さんが半分涙目でテスト用紙を手に持ってきた。もちろん後藤さんのだ。

 後藤さんのいるテーブルを見るとテスト用紙が全部広げられている。ああ、やっぱ全部見られたのね。戒めとして見直しとけと言ったから何となく予想はしてたけど。

 

 

「ちゃんと全問解いてるのに全部間違ってるんです……」

 

「リョウと違って必死に解いた形跡あるのが余計辛い……」

 

「奇跡的に点数取れたのがさっきの三点のやつだけだからなあ」

 

 喜多さんに見せていたテスト用紙は唯一点数が付いてるアレだけである。

 つまりそれ以外は全部0点。これが後藤さんのフルパワーだ。うん、全くもってなっさけねえや。

 

 

「優人くん勉強教えてあげなかったの?」

 

「いつもは教えてるんですけどね。高校入ってから一回くらいは自分の力だけでやってみって言った結果がこれです。なっ?」

 

「あっはい……へへっ……」

 

 毎回教えてるから勉強のやり方とか少しくらい覚えて自分でどうにかできるかなぁって、そんな希望を託し返却されたテスト用紙を見せられた時の俺は膝から崩れ落ちた。

 ああ、この子本当に容姿とギター以外はダメなんだなと再認識したのだ。

 

 

「虹夏さん、簡単な掛け算の問題でも出してみてください。ほらいくぞ後藤さん」

 

「えっ? あっえっ」

 

「分かった。ぼっちちゃん、241×10は?」

 

「あっえっえっと……その……」

 

 桁数多いと見せかけて実はめちゃくちゃ簡単な計算問題だぞ。虹夏さんの優しさが滲み出てるんだから頑張って解くんだ後藤さん! 

 0増やせば良いだけだぞ早く気付け。とまあ、淡い期待は早々に捨てておく。それで出来てたら期間中毎日俺が付きっきりで教える必要もないのだから。

 

 早く解かなければ、という焦りが彼女の計算能力と判断を奪っているんだろう。普通の会話すら少し時間を要するのに、不得意な問題を出されたら余計慌ててこうなるに決まっている。

 後藤さんには悪いが、これは虹夏さん達に彼女が如何にして成績が悪いか分かってもらうための儀式だ。

 

 

「にっ、24100、です……!」

 

「後藤さん……」

 

「ぼっちちゃん……」

 

 焦って桁一つ多くなっちゃったかぁ。プリントに計算式を書ければまだしも、脳内計算じゃやはり無理難題だったか。

 

 

「後藤さん、『鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス』という句を詠んだのは誰?」

 

「あっその……えっとぉ……と、豊臣秀吉……」

 

「誤答さん……」

 

「誤っちちゃん……」

 

「……えっ、あっなっ、何か今字が違ったようなっ……?」

 

 小学生レベルも無理かぁ。

 ほんとこの先社会でやっていけるのかこの子は。むしろ社会に出しちゃダメな気がしてきたまである。

 

 

「という訳で、素で頭悪いのが後藤さんです」

 

「優人くんどうやっていつも勉強教えてるの……」

 

「とにかく範囲内のテストに出そうで覚えやすいとこを集中的に覚えさせてます。数学もぎりぎり解ける問題だけを頭に入れさせて、何とか赤点回避させるのが精いっぱいですね。後藤さんもやる気はあるので毎回必死に頑張ってはいるんですよ」

 

「そうなの?」

 

「あっテスト前はゆうくんがいない時も、一応ちゃんと自分だけでも勉強してるんですけど……」

 

「ノートもこんなに綺麗にとってあるのにね……」

 

 喜多さんが見ているノートには、後藤さんの字でびっしりと授業でやった内容が写されている。

 そう、ちゃんと隅々まで細かく綺麗にだ。努力自体は彼女もやっている。頑張ろうという意識はこれまでだって何度も見てきた。

 

 ただ、それが全部報われないんだ。

 どれだけ必死に頑張っても勉強ができない。どうしようもないほど嫌という訳でも面倒だと思っている訳でもない。

 

 本当に、本当に勉強しても無意味なほどに身に付かないのだ。

 

 

「(クラスに一人はいる子だ……。必死に勉強してるのに要領が悪い子……)」

 

 虹夏さんの小さな声が隣の俺には聞こえた。確かに、要領は悪いな。

 板書なら誰でもできるし、書かれた内容を頭に入れつつ理解してなきゃ意味がない。ただ写すだけで問題が解ける訳もないのだ。そしておそらく、後藤さんはノートを写すのに必死で内容は一切頭に入ってないタイプだろう。

 

 いくら本人が頑張っていても要領が悪けりゃ結果に繋がらない。

 だからほっとけないんだよなあ。

 

 今回も骨が折れそうだと思っていたら、虹夏さんが後ろから後藤さんを優しく抱き締め始めた。

 ぼ、母性を感じる……。何だか凄く母性を感じるぞ……!! 

 

 

「ぼっちちゃん……もしもの時はあたしが養うからね……」

 

「えっあっ、ありがとうございます……?」

 

 ママだぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!! 

 おっといかんいかん。心の中は冷静でいないと年上お姉さんの母性を求めてしまう。

 

 後藤さんのあまりのダメダメさにとうとう虹夏さんも庇護欲を発動させてしまったようだ。

 そして放っておけないのは俺も同じである。

 

 

「虹夏さんが一緒なら心強い。これから一緒に後藤さんを養っていきましょう」

 

「あたし達ならぼっちちゃんがどれだけダメでも面倒見ていけるねっ」

 

「ついでに私の面倒も見て」

 

「ちょおっとぉ!? ずる……じゃなくてわ、私も見ます! 見ますからぁ!」

 

 これが喜多さんが言ってた第二の家族……? 

 なるほど、バンドの枠組みを超えて俺達は新しい家族になるのか……。こういう形も悪くないな、介護者一人増えたような気するけど。

 

 

「ぐおぇえぁっ!?」

 

「全員ボケに回ったらツッコミ役いなくなんだろうが。戻ってこいアホ優人。あとお前に虹夏はまだやらん」

 

 ちょ、急に襟引っ張られたら首思いっきり絞まるんですがぁ!? 

 ぎ、ギブギブっ、ギブアップ! は、離してっ、はなっ……おい離せこのシスコン野郎ぉ! 

 

 

「何か失礼な事考えなかったか?」

 

「何も考えてませんすみません産まれてきてごめんなさい」

 

 全力土下座である。命より惜しいものはないのだ。

 てか最近俺の心の中読んでくる人多くない? 別に顔に出てないよね? なして? 

 

 店長の介入により後藤さんを養う問題の云々は先送りになった。養うのはまた俺だけに戻ってしまったか……。

 話は本題に戻り、テスト勉強へシフトする。

 

 

「諦めないで頑張りましょう! 後藤さんはどこが苦手かしら?」

 

「えっ……それが分からないです……」

 

「後藤さん学年変わっても先輩なんて呼ばなくていいからね……。清水君、私にはどうやら後藤さんに教えるなんて荷が重かったようだわ……」

 

「喜多ちゃん秒で諦めた!?」

 

 本題に戻ったら戻ったでこれだ。誠にカオス。

 喜多さんでも無理なら、やっぱ俺が教えるしかないか。まあどうせ夜もやるし一緒だろ。アメも貰えないままムチに移行するが悪く思うな後藤さん。これも全部お前のためだ。

 

 

「ふふ、ふふふふ……」

 

「喜多さん?」

 

 今まで聞いた事ないような笑い声が喜多さんからした。

 何このちょっと不安に駆られる声は……。どうしたんだろう、まさか喜多さん壊れた? 

 

 

「そうよ……そもそもバンドマンに学歴なんて必要かしら? 必要ないわよね! よしっ、私もリョウ先輩と後藤さんと一緒に学校辞めます! 清水君も一緒に辞めましょう!」

 

「喜多ちゃん正気に戻って!?」

 

 喜多さん壊れた。時々出てくる喜多さんのロック魂が見事に爆発しておられるわ。

 噓吐いてバンド入って逃げたり私をめちゃくちゃにしてとか言ったり、一緒に学校辞めるとか言ったりと、やっぱ喜多さんも相当なロック魂を持ってるな。完全にやけくそになってる。

 

 

「そうだよぉ。ぜーんぜん必要ない! 現に勉強できなくても生活できてるし!」

 

「そうそう学校なんて辞めましょ。毎日が夏休みですよ」

 

「ダメ大人達は黙ってて!」

 

「まともなのが俺と虹夏さん、喜多さんは……あっち側に行こうとしてるな……」

 

 このライブハウス、ダメ人間のが多いってマジ? 

 大人が軒並みあっち側なのどうかしてるでしょ。何で俺達より人生経験長くて教育受けてきたはずの大人達が社会を舐め腐った発言ばかりするんだよ。教えはどうなってんだ教えは! 

 

 

「それにしてもこんなぼっちちゃんにいつも勉強教えてあげてるって、優人くん本当に成績良いんだね?」

 

「まあ悪くはないですけど、上の下ってとこですかね。これでも元々成績は平均くらいだったんですよ」

 

「あ、そうなんだ?」

 

 いよいよ後藤さんにモールス信号で答えを教えようとしてる喜多さんにツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、言葉を続ける。

 

 

「はい。後藤さんと一緒の高校に行くために秀華高を見つけて必死に勉強しました。俺の成績じゃ既に合格ラインにはいってたんですけど、後藤さんを合格させるために、後藤さんでも解けるように分かりやすく教えてやれるよう模索してたら、いつの間にか成績も良くなってたって感じです。ある意味後藤さんのおかげですね」

 

「け、献身的すぎる……」

 

 これに関しちゃそう言われても仕方ない。結果的には後藤さんも合格できたし俺も成績上がってるしでWINWINだから問題は何もないけど。

 このくらいしないと補習なり留年なりしかねないので、ただでさえ少ない睡眠時間を毎回削りながら勉強見てる俺はもっと褒められても良いと思う。

 

 

「あたしもリョウと進級したいし、優人くんみたいに頑張らないとなぁ」

 

「や、あの人はダメの方向性が違うからもっと違うアプローチの方がいいと思うんですけど……。変に教えてばっかだと付け上がってきますよ多分」

 

「だろうねえ。まあ見ててよっ。リョウのやる気を出させる方法くらいあたしも知ってるし!」

 

 ちょっと小悪魔っぽい笑みを浮かべてリョウさんの方に向かっていく虹夏さん。

 悪魔のような天使の笑顔ってまさにこの事か。うん、ありですね。大いにあり。

 

 

「リョウはちゃんとやってんの?」

 

「ん、何も分からん。だから虹夏もモールス信号覚えて私に教えて」

 

 他力本願一直線だなあの人。後藤さんでもまだ自分で頑張ろうとしてるってのに……。

 

 

「店長はあれ、どう見ます?」

 

「あん? あー……まあ留年して虹夏と離れて一番困るのはリョウだし、何とかなんだろ」

 

 リョウさんが一番困る? 

 てっきり虹夏さんがリョウさんと離れたくないものだと思ってたけど、違うのか? 

 

 

「まったくもうっ、このままじゃリョウは留年しちゃうんだよ? 一緒に進級したくないの? あたしとリョウの仲ってその程度だったの?」

 

「何かめんどくさい彼女みたいな事言ってますけど」

 

「実際あれが効果抜群だったりするんだよ」

 

「え?」

 

 あれが? 確かに虹夏さんにあんな事言われたら俺でも東大目指し兼ねないけど。というか絶対目指すけど。

 常に無気力系女子のリョウさんにあんな感情論が効くの? すると虹夏さんがこっそりこちらにウインクしてきた。可愛い、じゃなくてこれがやる気を出させる方法って事ね。

 

 店長の言葉も気になりつつ見ていると、

 

 

「帰る」

 

「……え? かえっ……あ、リョウ、今のは別に怒った訳じゃなくて」

 

 まさかのリョウさんご帰宅宣言であった。

 そしてちょっと焦ってる虹夏さん。思ってた反応と違って少し戸惑っている様子だ。え、大丈夫なのあれ。

 

 

「店長、あれ大丈夫なんですか?」

 

「まあ見てろ。すぐ手の平返すぞ」

 

 言われるまま行く末を見守る。

 

 

「家の机じゃないとまったく頭に入らないから勉強しに帰る」

 

「はよ帰れ!!」

 

「な?」

 

「な? じゃないよ今日何しに来たんだよあの人」

 

 ここでテスト勉強する気なかったんじゃん。俺の卵焼き食っただけじゃねえかよこんちくしょう。

 半ば追い出されるようにして帰ってったリョウさん。さて、こちらもこちらで本腰入れてかないとな。

 

 パキポキと指の骨を鳴らしながら、未だにモールス信号を会得しようとしている悪あがきガールへ近づく。

 というか喜多さんクラス違うから教えられねえだろ。

 

 

「よぉし、いいな後藤さん。家帰るまでにここでいっちょ突き出し(アミューズ)、あるいは前菜(オードブル)といこうか?」

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

「清水君が今まで以上に悪魔みたいな笑顔になってるわ!?」

 

 こっちとしても後藤さんだけ赤点回避できませんでしたじゃバンド活動もできんのでね。

 悪いが手加減はせんぞ。なーに、地獄はテスト期間が終了すれば終わるんだ。それまでの辛抱よ。

 

 

「喜多さんは虹夏さんに教えてもらってくれ。俺は後藤さんに集中させてもらう」

 

「え、ええ……分かったわ……」

 

「ゆ、ゆうくん……で、できればお手柔らかにぃ……」

 

「そうしてほしけりゃもっと勉強頑張ろうな?」

 

 今日この日。

 スターリーにて後藤さんの悲鳴が絶える事はなかったという。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 数日後。

 テスト期間も終了し、無事全員赤点回避という喜ばしい結果となった。

 

 リョウさんは進学校なのにほぼ満点という驚異の点数を叩きだし、後藤さんは全教科三十点という奇跡の点数を叩きだした。

 これで遠慮なく文化祭ライブに向けて準備が進められる(後藤さんは逃げようとしていたが)というものだ。

 

 俺はというといつも通りテスト結果は上々。代わりに後藤さんに付きっ切りで毎回睡眠不足に陥っている事だけを除けば文句なしである。

 そんなテスト期間も終わって家に帰った金曜日の夜の事だった。ようやく休日が翌日に迫り、さすがに眠くて後藤さんの家にも寄らずベッドに倒れ込んだ時。

 

 こんなロインが来たのだ。

 

 

『ねえ清水君、明日はバイトも練習もないじゃない? 天気予報見たら土曜は晴れって言ってたの。だから明日にでも文化祭のための映えスポットを探しに行きましょう! という事で明日は十時に金沢八景駅に集合ね!』

 

「……日程変更は、無理か……」

 

 

 

 どうやら、俺の睡眠不足はまだ続くらしい。

 

 

 

 






次回は喜多ちゃんオリジナル回になるかな。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:vongolaさん、クロエ(モブ)さん

☆9:sevenstarさん、三毛猫クロスケさん、ブレイボさん、アルトαさん、タスマニアさん、救空さん、ツキニさん、完全無欠のボトル野郎さん、回復してさん、ジェチュポスポリタさん、らんどーるむーさん

☆8:豆腐の角に頭ぶつけて死んだ人さん

本当にありがとうございます!
高評価お気に入り感想ここすきドシドシ待ってるぜぃ!
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