再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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喜多さん回。
導入だけで長くなったから前編です。




43.来た、行くよ

 

 

 テスト返却が金曜日に終わった翌日、俺は金沢八景駅にいた。

 とある人物と待ち合わせをしているのである。ちなみに寝不足のままだ。

 

 ここ最近は後藤さんのテスト対策に付きっ切りで睡眠時間はおよそ三~四時間程度。それにバイトもしているとさすがに疲労も溜まってくる。

 後藤さんに勉強を教えるという事は、普通の人に教えるよりも時間がかかるのでそれだけこちらも体力と精神力を使うのだ。

 

 そんな疲労蓄積状態のまま平日をやり過ごし、テスト返却が金曜で終わって翌日はバイトも練習もない幸せな休日ライフとなる予定だったのだが。

 一通のロインで全ては崩れ去る。陽キャによる急なお誘いで土曜は昼まで寝るぞ~となってた体へ強制的にムチが入った。

 

 しかも文化祭の出し物のためという名目があり、自分から映えスポットを教えてくれと言った以上断るのは到底無理な話である。

 持ってくれよ俺の体……陽キャに対抗しうる体力はまだ戻ってないけど、来たからにはもう後戻りはできない。こうなったら最後まで付き合うしかないぞ。

 

 時刻は午前九時五十分。待ち合わせの時間は十時なので当たり前のように十分前行動だ。

 柵にもたれつつあくびを一つ。待ってる間ってのも体は正直なもんで、今も睡眠欲が俺を襲ってきている。子供の頃から早起きは得意と言っても、基本的にはロングスリーパーなんだよなあ。休日はめっちゃ寝る。

 

 後藤さんはそろそろふーちゃんか美智代さんに起こされてる頃合いかねぇ。

 一応ロインで今日は用事あるから夜までそっち行けないとは送っているが、返事がまだ来ないという事はまだ寝ている可能性が高い。後藤さんは今日もいつも通りずっとギター練習するんだろうな。予定ある訳ないし。

 

 ギターの練習で思い出したけど、そろそろ俺も自分のギターを買いに行かないと。いつまでも後藤さんに貸してもらうだけじゃ悪い。

 どこで買うのが良いとかあるのかなと、眠気を誤魔化すためにスマホで調べようとしたら遠くから声がした。

 

 

「清水く~ん!」

 

 前日グロッキー状態だった俺を容赦なく呼び出した張本人、我らが結束バンドの陽キャ代表喜多郁代選手が私服姿でやってきた。明るさだけなら既に金メダル級だ。

 検索結果が出たページのままスマホの電源ボタンを押してズボンのポッケに入れる。

 

 

「おいーっす」

 

「おいっすぅ!」

 

 うわぁっ眩しいッ! 

 てっきりおはようと返してくるものだと思ってたのにそのまま返してくるとかマジかこやつ。いつもは絶対言わなそうな事を言ってきた時のギャップで燃えそうになった。あとちょっと元気さ的にぺコリーヌぽかったとことか個人的にポイント高い。あとテンションも高いな。

 

 

「ごめんね、待った?」

 

「いや待ち合わせまであと十分くらいあるから全然大丈夫だぞ……ハッ!? い、いやっ? 今来たとこだけど……?」

 

「ふふっ、訂正が遅いわねっ。もしかしてそういう事言ってみたかったとか?」

 

「……男子高校生なら一度は言ってみたいセリフランキング上位に入ると思って……」

 

 もちろん俺調べである。くそう、絶好のシチュエーションなのにめちゃくちゃ素で返しちまったじゃねえか……。

 後藤さんとじゃ待ち合わせる事ないし言う機会とか絶対ないと思ってたから完全に油断してた。

 

 

「清水君ってそういう変なとこで謎な事したり言ったりするの後藤さんに似てるわよね」

 

「後藤さんと同類扱い……だと……!?」

 

「あら、ご不満?」

 

 極めて遺憾である。遺憾砲撃つぞこの野郎。

 いや後藤さんの対処とか対応するために彼女を模倣するようにしてたから多少の自覚はあるけど……後藤さんがいないとこでそれが出てきてしまってはもう終わりだ。絶望しかねえ。

 

 うん、この話は終わりにしよう。

 

 

「今日は映えスポット探しに来たんだろ。とっとと本題の話をしようぜ」

 

「それもそうね」

 

「というか昨日はガス欠で了解しか送れなかったけど、ほんとに集合場所ここで良かったのか? 遠かったろ? 最終的に頼んだのはこっちなんだし言ってくれりゃそっち方面に行ったのに」

 

「元はといえば私が一緒に行こうって誘ったんだからそっちに合わせるのが普通でしょ。だから気にしないで?」

 

 おおう、普通に返された。これを素で言えるって喜多さんやっぱ良い子だなぁ。

 実際こちらとしてもありがたかったから助かる。

 

 

「それに今日の映えスポットはこの近くにあるから、集合場所は何も間違ってないのよ」

 

「え、そうなの?」

 

 金沢八景にそんな映えスポットとかあったっけ? 

 何も思い浮かばんけど、喜多さん俺に気を遣ってる訳じゃないよな? きくり姐さんと出会ったそこの琵琶島神社くらいしか出てこない。弁財天でも撮るのかな。

 

 

「今日の目的地はぁ……」

 

 何だか目をキラキラさせている。陽キャ特有の瞳だアレ。絶対弁財天のとこじゃないわこの表情。

 

 

「八景島のシーパラダイスよ!」

 

「……あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ね」

 

 そういやそんなのが近くにあったな。灯台下暗しってやつだ。

 地元民ほど案外地元の有名スポットに興味がなくて詳しくなく、そして知らない事が多い。ソースは俺。

 

 

「水族館とかイルカショーとかアトラクションとか、イソスタ映えとしては完璧だと思うの! 一度は行ってみたいって思ってたし、こんな絶好の映えスポットなんて中々ないわ! ぜひ行きましょ!」

 

「わ、分かった、分かったからそんなぐいぐい来ないで。俺が顔が良いヤツに弱いのを知ってて近づいてくるな! 余計断りづらくしてくるのやめろぉ!」

 

「はい、じゃあ確定ね!」

 

 自分の可愛さを自覚してて迫ってくるヤツは天敵認定で良いかなもう……。

 喜多さんのやつ、完全に味を占めやがったな。この先もしてくる可能性大だから対策を考えておかないと。

 

 行き先が決まって楽しみなのか、喜多さんは早々に俺の手を引っ張ってきた。

 

 

「早く行きましょ! 時間は有限なんだから!」

 

「ちょっ、写真撮りに行くだけなんだろ? ならそんなに慌てなくたって」

 

「最高の一枚を展示するんだから、普通に数枚撮っただけの写真なんて許されないの。可能な限り長居して良い写真をバンバン撮るわよ~!」

 

 この陽キャ、覚悟が決まりすぎてない? 一枚の写真のためにここまで本気出すってもうプロのカメラマン気質じゃん。

 一眼レフ持ってる俺より情熱度高いの凄いな。妥協を一切感じない。え、ただの文化祭の出し物だよねこれ。オーディションとかじゃないよね? 

 

 もうされるがままに引っ張られる俺は空を一瞥した。

 ああ、体力持つかなぁ……。

 

 

 

 券売機で乗車券を買い、シーサイドラインの電車に乗って八景島駅を目指す俺達。

 その電車内。

 

 

「……座らないの?」

 

「電車の揺れって何か眠たくならね?」

 

「睡魔が来てるのね……」

 

 ご名答。例え八景島まで七分程度しかないと言っても油断する事なかれ。

 この清水優人、眠ろうと思えば割とどこでも眠れるのである。せっかく眠気が薄くなってきたのに心地良い揺れを堪能してしまったらまた眠気が襲ってきてしまう。そんな事は許されないのだ。

 

 

「もしかして今日誘ったの、悪かったかしら……?」

 

「それは気にすんな。全部後藤さんの勉強に付き合ってた俺の責任だし。このツケは全部後藤さんに払わせるから」

 

「後藤さん何をさせられるのかしら……」

 

 まあいつもよりギター練習多く見てもらうとかそんなんになるかもしれん。それか文化祭ライブはもう素直に頑張らせるとか。

 

 

「そういえば清水君ってシーパラダイスには行った事ないの? 一応地元よね? さっき言った時もリアクション薄かったし」

 

「ないな。小三から中三の途中までここにいなかったし。昔は俺達ってどこか出掛ける時は基本後藤さんとこも一緒だったんだよ。でもあの性格だから遠出とかは一切なし。中三で戻ってきてからもそういうのはなかったかな」

 

「へえ~、ほんとに家族ぐるみで仲が良いのねぇ」

 

「俺達っつうか母親同士が仲良すぎて、気付いたら俺も後藤さん家に入り浸ってたって感じ。中三の時は引っ込み思案が悪化してたからいつも俺の後ろで背後霊になってたくらいだぞ。とまあそんなとこで、シーパラなんて常に人がキャッキャしてる場所に行けるはずもねえのよ」

 

「ことごとく後藤さんとは無縁の場所なのね……」

 

 無縁も無縁。けど後藤さん自体は行ってみたいというちょっとした願望を持ってるのよね。行ったら溶けるのに。

 まるで猫が好きで触りたいのに猫アレルギーのせいで近づけない人みたいだ。陰キャは陽キャの行動に憧れはするものの、実際同じ事をしたらわなわなしてしまう生き物なのです。

 

 実は今日後藤さんを連れて来ようと思ったけど踏み止まって正解だった。喜多さんだけならワンチャン行けると思っていたが、行き先が分からない以上後藤さんにとってリスクが大きすぎる。

 そして案の定シーパラとかいう後藤さん殺しのチョイスだもんな。そうだよ、一番気を付けなくちゃいけなかったのは喜多さんだった。この子自体が陽の化身だもの。

 

 

「けど、何でまたシーパラだったんだ? いや、他に良いとこあるかは分からんけどさ」

 

「う~ん、清水君達って秀華高に通ってるけど凄く遠いじゃない? 実際県外から通ってるのって清水君達くらいだし、そうなると展示物として横浜は新鮮味に満ちてるの。みんな基本下北の近くだし遠くても県外には行かないから、イソスタ映えを狙うならシーパラかなって。それに、水族館は定番だしね!」

 

「なるほどなぁ」

 

 ちゃんと考えてるんだな喜多さんって。さすが夏休み全部予定で埋まってた人は違うぜ。

 ゆらゆらと揺られながら、着実に電車は目的地へと近づいていく。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 八景島駅に着くとせっかくだしマリンゲートから行きたいという陽キャ姫のわがままをさっそく頂き、少し遠回りしてからようやく着いた。

 喜多さんはマリンゲートからもう既にキャーキャー喚きながら写真を撮っていてテンションが高い。

 

 横浜・八景島シーパラダイス。

 割かし近くに住みながらも来たのは初という事もあり、あまり表には出してないが俺も内心ちょっとテンション上がってたりする。

 

 だって海の生き物とか普段生で見る機会とかなくない? 深海生物もいるみたいだし、そりゃ男としてロマンを求めてしまうのも無理はないっしょ。

 しかし、だがしかし、今回はあくまで映える写真を撮るのが目的。俺も浮かれたおバカさんではない。最優先の目的を完遂しつつ適度に観賞させてもらうとしよう。

 

 

「よ~し、今日は水族館満喫するわよ~!」

 

「いや違う違う。思いっきり目的履き違えてるから。写真撮りに来たんでしょうが俺達は」

 

 せっかく節度を弁えようと己の欲望に蓋をした俺の覚悟どうしてくれんの。

 そっちから蓋開けられたらどうしようもないじゃん。

 

 

「何を言ってるの清水君! 写真を撮るなんて大前提の話よ! せっかくこんな所まで来たんだから楽しまないと損よ!」

 

「うん、まあ、気持ちは凄く分かるというか、俺もどちらかというとちょっと楽しみたくなってきたのはあるけどさ。まずは映えそうなスポットを探しに行こう、な?」

 

 歩いてたのもあってか今のところ眠気は吹っ飛んでいる。

 休日だから当然周囲には人がたくさんいて、それは家族だったりカップルだったり友人だったりラジバンダリ。

 

 とにかくこういう場所はみんな誰かしらと来ている事が多い。やはり後藤さん誘わなくて正解だったな。

 ただ陽キャというよりかは家族やカップルばかりで元々うるさいかと思っていたが、割とそんな事もない。個人的に適度な賑やかさでむしろ落ち着くレベルだ。水族館だからか? 

 

 

「ならいっぱい写真撮っていっぱい楽しみましょ! お金払う分は堪能しないとね!」

 

 陽キャ強ぇ~~~~。いかん、もれなく陽キャバフがかかっている。知ってるよ、こうなると止められないんだよな喜多さんって。俺は江の島で学んだんだ。

 しかし言っている事は尤もである。せっかくお金を払うならその分ちゃんと見て回りたいと思うのは当然の事。高校生のお金はものすごく貴重なのだ。

 

 それに今日は喜多さんに映え写真の撮り方を教えてもらう訳だし、大人しく彼女に従うのが吉だろう。

 という訳で俺もどうせなら楽しめ精神にシフトチェンジしていこうと思う。

 

 

「……それもそうだな。こんなとこ中々来れねえし、色々見て回るか。よし、じゃあさっそくチケット買いに行こうぜ」

 

「ええ!」

 

 二人でチケット売り場へ向かう。

 大人と高校生はワンデーパスで5100円という、何ともまあそれなりの値段をしていらっしゃった。

 

 まあ四つの水族館とアトラクションが全部堪能できると考えれば妥当? むしろお得? よく分からん。

 つうか俺は大丈夫だけど喜多さんは金銭的に大丈夫なのか。バイト代は全部ノルマ代に消えてるし、夏休みは友達とずっと遊んでたらしいけど小遣いとか足りるの? 

 

 と思ってたら普通に払ってた。そりゃまあここに来るのを提案してきたのは彼女だし払えない訳ないか。

 どこぞの山田とは大違いだな。山田はもっと反省して。映えスポット写真撮るためだけに5100円を普通に払っちゃう女子高生も中々凄いけど。

 

 チケットを持って入場口へ向かう最中。

 既に感じてはいたが、仄かに潮の香りと潮風がそよぐ。江の島の時とは違って今は東京湾が目の前にあり、以前より海を近くで感じる。

 

 あーこれこれ。じわじわとテンション上がってくるのがよく分かる。

 やっぱ非日常感あるとこに来ると楽しくなってきちゃう。面白くなってきたぁー! 

 

 

 

「よっしゃ、喜多さん行くよぉー!!」

 

「今私の名前イジッたわよね?」

 

 

 






こんな感じの独自解釈でオリジナルを本編に絡ませていく事もあります。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:蒼也さん、あおなななさん、れぃさん

☆9:kioriさん、ほうでん亭ポン太さん、ささみふらいさん、1048さん、うみづかさん、ハジメの一歩さん、灰色扇子さん、プロヴィデンス吉村さん

☆8:ソメイヨシノさん

本当にありがとうございます!
投票数800目前なので、しゃあねえここは俺が入れてやるかってくぁわっこい~~人は高評価入れてってね!
感想もお気に入りでも可!!
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